説明

医療用縫合具

【課題】作業性及び操作性を大幅に向上させた医療用縫合具を提供する。
【解決手段】縫合具100は、ループ送り戻し機構30及び縫合糸送り機構40によって、操作部10の動きを時間差を設けてループ形成部80及び縫合糸1に伝達し、ループ82がループ導入用針60の先端から送り出されてから、縫合糸1を縫合糸導入用針70の先端から送り出すものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃や膀胱等の臓器の内臓壁を体外から腹壁等の体表側に保持する縫合糸を、内臓内に導入したり、内臓内から引き抜いたりする際に用いられる医療用縫合具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高齢や疾病により自力で口から食べ物を摂取する機能が低下した人(以下、患者と記す。)に対して、瘻孔カテーテルを用いて流動食や栄養剤等を供給する経腸栄養投与が行われている。たとえば、経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG;Percutaneous Endoscopic Gastrostomy)を用いる場合においては、患者の腹壁と内臓壁(胃壁)とを貫通する貫通孔(たとえば胃瘻などの瘻孔)を造設し、この貫通孔に瘻孔カテーテルを装着し、瘻孔カテーテルを通じて患者に流動食等を供給する。
【0003】
貫通孔を造設する際、貫通孔を容易に形成するため、通常、動きやすい内臓壁と腹壁とを縫合糸を用いて経皮的に縫合固定する。そして、内臓壁と腹壁とを縫合固定するために使用する医療用縫合具も様々なものが提案されている。
【0004】
そのようなものとして、「ケース体内に、縫合糸挿入用穿刺針20の基端より内部に挿入された縫合糸を先端方向へ順次送り出す送出機構と、縫合糸把持用穿刺針30の内部に収納されたスタイレットの環状部材を縫合糸把持用穿刺針30の先端より突出させる突出機構を収納した」医療用器具が開示されている(たとえば、特許文献1、2参照)。この医療用器具は、生体内における結紮を、術者1名のみ、あるいは術者と補助者の2名でも効率良く安全に行なうことができるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−213763号公報(たとえば、図5や図6)
【特許文献2】特開2009−213764号公報(たとえば、図5や図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載されているような医療用器具においては、術者が縫合糸を医療用器具内に挿入しなければならず、術者の手間が増加することになっていた。また、縫合糸の挿入に関わる作業が煩雑になることが多く、作業性の低いものになっていた。さらに、特許文献1、2に記載されているような医療用器具においては、縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針を腹壁から胃内に穿刺後、環状部材を環状に形成するためにスタイレットを押し込む操作、縫合糸を胃内に挿入するために操作ローラーを回す操作、及び、環状部材で縫合糸を把持するために解除ボタンを押す操作が必要になり、操作性が低いものとなっていた。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、作業性及び操作性を大幅に向上させた医療用縫合具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る医療用縫合具は、ハウジングと、ハウジングの先端側に設けられたループ導入用針と、ループ導入用針から所定の距離を隔ててほぼ平行にハウジングの先端側に設けられ、縫合糸が収容される縫合糸導入用針と、先端にループが形成され、ループ導入用針の内部に移動可能に挿入されているループ形成部と、ハウジング内に設けられ、ループ形成部を移動させるループ送り戻し機構と、ハウジング内に設けられ、縫合糸を送り出す縫合糸送り機構と、ハウジング内に又はハウジングから突出するように設けられ、ループ送り戻し機構及び縫合糸送り機構を動作させる操作部と、を備え、操作部の先端側への動きを、まずループ送り戻し機構に伝達し、ループがループ導入用針の先端から送り出され始めてから、操作部の先端側への動きを、縫合糸送り機構に伝達し、縫合糸を縫合糸導入用針の先端から送り出すものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る医療用縫合具によれば、操作部の押し引き操作だけで、縫合糸を内臓内に導入したり、内臓内から引き抜いたりできるので、術者の操作負担を大幅に軽減でき、作業性が著しく向上することになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係る医療用縫合具の構成例の一つを示す概略外観図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る医療用縫合具の外観構成を示す概略斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る医療用縫合具の内部構成例の一つを示す概略内部構成図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る医療用縫合具の操作手順を簡略的に示した概略断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る医療用縫合具の操作手順を簡略的に示した概略断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る医療用縫合具の操作手順を簡略的に示した概略断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る医療用縫合具の作用を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る医療用縫合具(以下、単に縫合具100と称する)の構成例の一つを示す概略外観図である。図2は、縫合具100の外観構成を示す概略斜視図である。図3は、縫合具100の内部構成例の一つを示す概略内部構成図である。図1〜図3に基づいて、縫合具100の構成及び動作について説明する。縫合具100は、瘻孔カテーテルを挿入する瘻孔形成を容易にするために、胃や膀胱等の臓器の内臓壁を、体外から腹壁側に吊り上げて保持する縫合糸を内臓内に導入する際に用いられるものである。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。
【0012】
[縫合具100の全体構成]
縫合具100は、外観的には、ハウジング50と、術者が操作を行なう操作部10と、ハウジング50の先端側に設けられたループ導入用針60と、ループ導入用針60から所定の距離を隔ててほぼ平行にハウジング50の先端側に設けられた縫合糸導入用針70と、を備えている。また、縫合具100は、ハウジング50内に、操作部10の動きに連動して動作するループ送り戻し機構30と、操作部10の動きに連動して動作する縫合糸送り機構40と、を備えている。さらに、縫合具100は、ループ導入用針60の内部に、移動可能に挿入されているループ形成部80を備えている。
【0013】
なお、図1〜図3では、縫合糸送り機構40によって縫合糸導入用針70の先端(刃先)から送り出す縫合糸1を併せて図示している。また、先端側とは患者に挿入される側(患者側)を称しており、基端側とは術者に操作される側(操作側)を称している。また、以下の説明において、先端側を前方向、基端側を後方向と称する場合があるものとする。さらに、縫合糸1は、複数回分の長さを有している。
【0014】
(縫合糸1)
縫合糸1は、縫合具100を構成するものではないが、臓器固定具として機能するものであるので簡単に説明しておく。縫合糸1は、生体内に挿通させたときに生体組織に沿って撓ることができる程度の柔軟性と、臓器を吊り上げ可能な程度の引っ張り強度とを有する材料(たとえば、ナイロン糸等)で構成するとよい。また、縫合糸1は、患者に取り付けあるいは取り外す際に切断される。このため、縫合糸1は、ハサミ等の医療現場に備えられている道具で切断可能な材料及び径寸法で構成するのが好ましい。また、縫合糸1が縫合糸導入用針70の先端まで挿入された状態で縫合具100を患者に穿刺する。
【0015】
(ハウジング50)
ハウジング50は、中空状であって、前後方向が長手方向となるような略直方体形状に構成されている。このハウジング50は、ループ送り戻し機構30と縫合糸送り機構40を格納するものである。ループ送り戻し機構30及び縫合糸送り機構40は、ハウジング50内でほぼ平行に並ぶように格納され、ハウジング50内で前後方向に移動可能になっている。このハウジング50は、縫合具100の全体をユニット化するものであり、術者が操作する際に実際に握る部分にもなる。なお、ハウジング50は、略直方体形状でなくてもよく、外観形状を特に限定するものではない。また、ハウジング50を骨組のみの構成としてもよい。つまり、ハウジング50は、以下に説明する他の構成を機能させることができるような構成であればよい。
【0016】
また、ハウジング50の先端側には、ループ導入用針60と縫合糸導入用針70とが所定の距離を隔ててほぼ平行となるように取り付けられている。たとえば、図3に示すように、ハウジング50の先端側に支持部(支持部52、支持部53)を設け、この支持部にループ導入用針60及び縫合糸導入用針70の基端部を挿入し、ループ導入用針60及び縫合糸導入用針70を着脱自在に支持するとよい。支持部は、たとえば合成樹脂等の材料を直方体に成形するとよい。なお、支持部がハウジング50の先端側に突出するようになっていてもよい。
【0017】
なお、ループ導入用針60及び縫合糸導入用針70の基端部を予め支持部材で支持しておき、その支持部材をハウジング50の先端側に着脱自在に取り付けるようにしてもよい。また、ループ導入用針60及び縫合糸導入用針70をハウジング50に予め固定していてもよい。さらに、ループ導入用針60及び縫合糸導入用針70は、ハウジング50の最先端に取り付けられている必要はなく、ハウジング50の先端側に取り付けられていればよい。つまり、ループ導入用針60及び縫合糸導入用針70の基端側が、ハウジング50の内部に延びるようになっていてもよい。
【0018】
ハウジング50の先端側内壁面(以下、単に内壁面54と称する)は、ループ送り戻し機構30を構成するループ送り戻し部31の先端(後述する先端部31a)、及び、縫合糸送り機構40を構成する第2中空部材42の先端が当接、つまり突き当たるようになっている。ループ送り戻し機構30を構成するループ送り戻し部31の先端、及び、縫合糸送り機構40を構成する第2中空部材42は、ハウジング50の内壁面54に突き当たると、それ以上の前方向へ移動しなくなる。
【0019】
また、ハウジング50の内壁側面の一部には、ストッパー51a及びストッパー51bが形成されている。ストッパー51a、ストッパー51bは、ハウジング50の内壁側面の一部をハウジング50の内部に向けて突出させたり、ハウジング50の内壁面の一部に段差を設けたりして形成するとよい。ストッパー51a、ストッパー51bは、第2中空部材42に固定されている移動規制部材47の前後方向への移動を規制する機能を有している。ただし、第2中空部材42の先端が、ハウジング50の内壁面54に当接したり、第3中空部材43の内壁の一部に当接したり、移動規制部材47が第3中空部材43の基端に当接したりすることで、第2中空部材42の前方向の移動を規制する場合には、ストッパー51aは必須のものではない。
【0020】
同様に、第2中空部材42の基端が第1中空部材41の外壁に当接したり、第2中空部材42の先端が第3中空部材43の基端(内側)に当接したりすることで、第2中空部材42の後方向の移動を規制する場合には、ストッパー51bは必須なものではない。また、第2中空部材42の先端を第3中空部材43の基端(内側)に当接させる場合には、第2中空部材42の先端を径方向外側に向かって突出させ、第3中空部材43の基端を径方向内側に向かって突出させ、これらを係止させることで第2中空部材42の後方向の移動を規制すればよい。なお、ストッパー51aが本発明の第1ストッパーに相当し、ストッパー51bが本発明の第2ストッパーに相当する。
【0021】
また、ハウジング50の側面には、操作部10が前後方向に移動可能なガイド穴55がハウジング50の長手方向に沿って形成されている。このガイド穴55は、ハウジング50の側面を貫通し、所定の長さで形成される。なお、ハウジング50の構成材料を特に限定するものではなく、たとえばポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、塩化ビニル、ポリカーボネート等の合成樹脂を利用して構成すればよい。なお、ハウジング50の先端外壁には、径方向外側につば状に突出するつば部56が設けられている。このつば部56は、穿刺操作を補助するためのものである。
【0022】
ハウジング50には、ループ導入用針60及び縫合糸導入用針70が貫通された平板部21を前後方向に移動させる支持棒20が設けられている。この平板部21を、ループ導入用針60及び縫合糸導入用針70の穿刺時に先端側に移動させることで、ループ導入用針60と縫合糸導入用針70との距離の変化を抑制するものである。このような平板部21を設けることで、ループ導入用針60と縫合糸導入用針70とが撓み、それらの距離が大幅に変化してしまうことを防止することができる。また、平板部21は支持棒20を介してループ導入用針60及び縫合糸導入用針70に対して前後方向に移動可能になっているので、平板部21が穿刺作業を邪魔することにもならない。
【0023】
平板部21の平面形状を特に限定するものではないが、たとえば矩形状、円形状、多角形状にするとよい。また、平板部21の先端側面(患者側の面)は、患者の皮膚に刺激を与えないように平坦にしておくとよい。このような平板部21を設ける場合、ループ導入用針60及び縫合糸導入用針70と平行に延びる支持棒20の先端を平板部21に固定するようにしておくとよい。支持棒20を設けておくことで、平板部21の移動の安定性が向上するとともに、平板部21からループ導入用針60及び縫合糸導入用針70に伝達されてしまう力を低減できる。
【0024】
(操作部10)
操作部10は、縫合具100を使用して臓器固定具を内臓内に導入する際に術者が操作を実行するものである。また、操作部10は、術者から加えられた力をループ送り戻し機構30及び縫合糸送り機構40に伝達するものである。操作部10は、ループ送り戻し機構30を構成する第1弾性部材32の基端部32aとループ送り戻し部31の基端部31bとの間に設置される。操作部10の一部は、ハウジング50内に、又はハウジング50の側面の一部から突出するようにハウジング50のガイド穴55に設けられている。また、操作部10は、ガイド穴55に沿って前後方向に移動可能になっている。なお、図1〜図3では、操作部10の一部がガイド穴55から突出するように形成されている状態を例に示している。
【0025】
なお、操作部10の構成材料を特に限定するものではなく、ハウジング50と同様の合成樹脂で構成してもよく、ハウジング50とは異なる構成材料で構成してもよい。また、操作部10の形状を特に限定するものではなく、術者の操作を受け付け、術者の操作をループ送り戻し機構30及び縫合糸送り機構40に伝達可能な形状であればよい。また、操作部10を前後にまっすぐ移動させるためのガイド(たとえば、図3に示すような溝22)をハウジング50内に形成しておくとよい。
【0026】
図1〜図3では、進行方向に対して直交する方向にハウジング50の側面から外側に向かって突出させた形状の操作部10を例に示している。このような形状とすることにより、術者の指が引っかかり易くなり、操作性が向上することになる。ただし、操作部10の形状を図1〜図3に示すような形状に限定するものではなく、たとえば操作部10の基端を後向きに延設させ、ハウジング50の基端側から突出させたロッドを設け、このロッドを操作部10としてハウジング50の内部に出し入れ可能にしてもよい。ロッドの基端部にボタンなどを設け、操作性を向上させるとよい。また、操作部10をハウジング50内に設けた場合は、ガイド穴55を通して指を入れ、操作部10を操作すればよい。
【0027】
(ループ送り戻し機構30)
ループ送り戻し機構30は、ループ導入用針60の内部に移動可能に挿入されているループ形成部80を、操作部10の動きに連動し、ループ導入用針60の先端側に送ったり、ハウジング50の内部に戻したりするものである。ループ送り戻し機構30は、ループ送り戻し部31と、第1弾性部材32と、で構成されている。なお、第1弾性部材32は本発明の弾性部材に相当する。
【0028】
ループ送り戻し部31は、先端部31aと、基端部31bと、側壁部31cと、第1当接部33と、収容部34とで構成され、操作部10の動きに応じてハウジング50内を前後方向に移動可能になっている。なお、ループ送り戻し部31は、内部に第1弾性部材32が設置できるような収容部34が形成され、前後方向に移動可能になっていればよく、たとえば中空の円柱部材(円筒部材)や角柱部材(角筒部材)等で構成することができる。また、ループ送り戻し部31の側壁部31cにスリット(または切れ目)を形成し、収容部34と外部とが連通するようになっていてもよい。図3では、縫合糸送り機構40側を解放したループ送り戻し部31を例に示している。
【0029】
先端部31aは、ループ送り戻し部31の先端側部分を構成しており、ループ形成部80の基端側固定部83が固定される。この先端部31aは、ループ送り戻し部31の前方向への移動を規制するものである。つまり、先端部31aが、ハウジング50の内壁面54に突き当たると、ループ送り戻し部31はそれ以上前方向へ移動できなくなる。基端部31bは、ループ送り戻し部31の基端側部分を構成しており、その収容部34側に操作部10が設置される。この基端部31bは、ループ送り戻し部31の後方向への移動を規制するものである。つまり、基端部31bが、ハウジング50の基端側内壁面(以下、単に内壁面57aと称する)に突き当たると、ループ送り戻し部31はそれ以上後方向へ移動できなくなる。なお、ループ送り戻し機構30側と、縫合糸送り機構40側とで基端側内壁面の位置が異なるため、縫合糸送り機構40側の基端側内壁面を内壁面57bと称するものとする。
【0030】
側壁部31cは、先端部31aと基端部31bとを接続し、ハウジング50内の内壁側面に摺動可能に当接している。ただし、側壁部31cが収容部34の全体を覆っている必要はなく、スリット(または切れ目)を形成し、収容部34と外部とが連通するようになっていてもよい。
【0031】
第1当接部33は、基端面が縫合糸送り機構40を構成する縫合糸送り部45に形成されている第2当接部45aの先端面と当接し、縫合糸送り部45を後方向へ移動させるものである。この第1当接部33は、たとえばループ送り戻し部31の縫合糸送り機構40側に位置する側壁部31cの一部から突出するような突起形状に形成するとよい。なお、第1当接部33を突起形状に限定するものではなく、後方向への力を縫合糸送り部45に伝達できるような形状であればよい。
【0032】
収容部34は、ループ送り戻し部31の先端部31a、基端部31b、側壁部31cで囲まれた空間であり、第1弾性部材32が伸縮自在に収容されるものである。
【0033】
第1弾性部材32は、弾性力を有し、前後方向に伸縮する部材(たとえば、バネ(コイルバネ、空気バネなど)やゴム等)で構成されている。この第1弾性部材32は、ループ導入用針60に収容されているループ82の摩擦力以上の力が加えられた圧縮状態で収容部34に収容されている。つまり、第1弾性部材32は、収容部34に収容された状態において、ループ82の摩擦力以上の力が加えられなければ変形しないようになっている。よって、第1弾性部材32が収容部34に収容されたままの状態、つまり操作部10が第1弾性部材32と基端部31bとの間に位置している状態でループ送り戻し部31の前後方向の移動が可能になっている。
【0034】
なお、ループ送り戻し部31を前後にまっすぐ移動させるためのガイド(たとえば、ループ送り戻し部31が嵌るような溝)をハウジング50内に形成しておくとよい。
【0035】
(縫合糸送り機構40)
縫合糸送り機構40は、縫合糸導入用針70の内部に移動可能に挿入されている縫合糸(図1〜図3に示す縫合糸1)を、操作部10の動きに連動し、縫合糸導入用針70の先端(刃先)から送り出すものである。縫合糸送り機構40は、第1中空部材41と、第2中空部材42と、第3中空部材43と、縫合糸締結部材44と、縫合糸送り部45と、第2弾性部材46と、移動規制部材47と、で構成されている。
【0036】
第1中空部材41は、中空状に形成されており、ハウジング50の基端側に固定されている。第2中空部材42は、中空状に形成されており、操作部10の動きに応じてハウジング50内を前後方向に移動可能になっている。第3中空部材43は、中空状に形成されており、ハウジング50の先端側に固定されている。第1中空部材41、第2中空部材42、及び、第3中空部材43には、ハウジング50の外部から縫合糸1が挿通されるようになっている。特に、第3中空部材43は、縫合糸1のたわみを防止する手段としても機能する。ただし、第3中空部材43を設けず、縫合糸1をハウジング50内で露出させてもよい。
【0037】
第2中空部材42は、内径が第1中空部材41の外径よりも大きく、外径が第3中空部材43の内径よりも小さくなっている。そして、第2中空部材42は、先端側が第3中空部材43の中空部に挿入された状態で前後方向に移動するようになっている。また、第2中空部材42は、位置に応じて基端側の中空部に第1中空部材41が挿入されるようになっている。さらに、第1中空部材41、第2中空部材42、及び、第3中空部材43の軸方向長さは、ハウジング50の大きさ、縫合糸導入用針70の先端から突出させたい縫合糸1の長さを考慮して決定されており、特に長さを限定するものではない。
【0038】
第2中空部材42の基端側外周には、移動規制部材47が固定されている。この移動規制部材47は、第2中空部材42の前後方向の移動を規制するものである。つまり、移動規制部材47がハウジング50の内壁側面に形成されているストッパー51a及びストッパー51bに当接する間で第2中空部材42が前後方向に移動することになる。なお、第2中空部材42の先端が内壁面54に突き当たる、又は移動規制部材47がストッパー51aに突き当たることで第2中空部材42の前方向の移動を規制し、移動規制部材47がストッパー51bに突き当たることで第2中空部材42の後方向の移動を形成するという場合を例に以下説明するものとする。
【0039】
ただし、第2中空部材42の先端側外周面が第3中空部材43の内壁の一部に当接することで、第2中空部材42の前方向の移動を規制する場合には、移動規制部材47は第2中空部材42の後方向の移動のみを規制することになる。また、第2中空部材42の基端側内周面が第1中空部材41の外壁に当接したり、第2中空部材42の先端が第3中空部材43の基端(内側)に当接したりすることで、第2中空部材42の後方向の移動を規制する場合には、移動規制部材47は第2中空部材42の前方向の移動のみを規制することになる。つまり、移動規制部材47は、必須なものではなく、第1中空部材41、第2中空部材42、第3中空部材43、ストッパー51a、ストッパー51bの構成により設置するかどうかを決定すればよい。
【0040】
また、第1中空部材41、第2中空部材42、及び、第3中空部材43は、内部に縫合糸1を挿通させるので、その内径を縫合糸1が挿通可能な程度にしておく。また、第1中空部材41及び第2中空部材42は、後述する縫合糸締結部材44に挿通可能になっている。したがって、第1中空部材41及び第2中空部材42の外径を縫合糸締結部材44の切れ目に挿通可能な程度にしておく必要がある。
【0041】
なお、第2中空部材42の前方向の移動を第3中空部材43の内壁の一部で停止させる場合には、第3中空部材43の内径が先端側に向かって縮径するようなテーパー形状にしたり、第3中空部材43の内腔に突起部などを形成したりしておけばよい。同様に、第2中空部材42の後方向の移動を第1中空部材41の外壁の一部で停止させる場合には、第1中空部材41の外径が基端に向かって拡径するようなテーパー形状にしたり、第1中空部材41の外周に突起部などを形成したりしておけばよい。また、第2中空部材42の後方向の移動を第2中空部材42の先端を第3中空部材43の基端(内側)で停止させる場合には、第2中空部材42の先端を径方向外側に向かって突出させ、第3中空部材43の基端を径方向内側に向かって突出させ、これらを係止可能に形成しておけばよい。
【0042】
なお、第1中空部材41の基端部をハウジング50の外部に突出させるようにしておくとよい。このようにしておけば、縫合糸1の挿入という操作の負担を軽減することが可能になる。ただし、図1〜図3に示すように、第1中空部材41の基端部をハウジング50の外部に突出させなくてもよい。第1中空部材41の基端側を漏斗状(壁面を基端に向かって徐々に拡径した形状)にしておくと、縫合糸1が挿入され易くなる。また、第1中空部材41をハウジング50の基端までの長さで構成し、第1中空部材41の基端に、内腔を有する漏斗状部材を取り付けるようにしてもよい。さらに、第1中空部材41、第2中空部材42、及び、第3中空部材43は、内部が中空状になっていればよく、たとえば中空の円柱部材(円筒部材)や角柱部材(角筒部材)等で構成することができる。また、第1中空部材41、第2中空部材42、及び、第3中空部材43の一部にスリット(または切れ目)を形成し、それらの中空部と外部とが連通するようになっていてもよい。
【0043】
さらに、第3中空部材43は、第2中空部材42の前後方向の移動をガイドする機能も有している。よって、第3中空部材43の軸方向長さは、縫合糸導入用針70の先端から送り出させたい縫合糸1の長さだけでなく、第2中空部材42の長さも考慮して決定するとよい。つまり、第3中空部材43の軸方向長さは、第2中空部材42が最も後方向に移動した状態においても、第2中空部材42の一部が第3中空部材43の中空部に位置する程度の長さに構成されている。
【0044】
縫合糸締結部材44は、たとえば天然ゴムや合成ゴム、金属等で形成されており、前後方向に貫通する切れ目がたとえば中央部に形成されている。この縫合糸締結部材44は、第2中空部材42によって、前後方向に移動可能になっている。縫合糸締結部材44は、その切れ目で第1中空部材41、縫合糸1又は第2中空部材42を締め付け可能になっている。つまり、縫合糸締結部材44は、操作部10の動きに応じて変化する位置によって、第1中空部材41、縫合糸1又は第2中空部材42のいずれかを締め付けるようになっている。
【0045】
また、縫合糸締結部材44は、縫合糸送り部45に収容された状態で前後方向に移動される。そして、縫合糸送り部45の第2当接部45aがループ送り戻し部31の第1当接部33に突き当たるまで前方向への移動が可能であり、縫合糸送り部45の基端面がハウジング50の基端側の内壁面57bに突き当たるまで後方向への移動が可能である。縫合糸1は、縫合糸締結部材44に締結されることで送り出されることになる。したがって、縫合糸締結部材44が第1中空部材41から外れ、第2中空部材42を締結するまでの間、縫合糸1は、縫合糸締結部材44に締結され、送り出されることになる。
【0046】
縫合糸締結部材44は、たとえば天然ゴムや合成ゴム等の弾性体や、銅のような比較的柔らかな金属リングのようなもので構成するとよい。弾性体で縫合糸締結部材44を構成すれば、その弾性力を利用して縫合糸1を締め付けることができる。また、金属リングのようなもので縫合糸締結部材44を構成すれば、第1中空部材41から外れると同時に塑性変形して縫合糸1を締め付けることができる。また、縫合糸締結部材44に形成されている切れ目には、単なる切れ目の他に、スリット状や、縫合糸1の外径よりも小さい内径を有する孔等も含まれる。
【0047】
縫合糸送り部45は、第2当接部45aと、側壁延設部45bと、本体部45cと、装着部45dとで構成され、操作部10の動きに応じてハウジング50内を前後方向に移動可能になっている。なお、縫合糸送り部45は、内部に縫合糸締結部材44が装着されるような装着部45dが形成されていればよく、たとえば中空の円柱部材(円筒部材)や角柱部材(角筒部材)等で構成することができる。なお、縫合糸送り部45を前後にまっすぐ移動させるためのガイド(たとえば、縫合糸送り部45が嵌るような溝)をハウジング50内に形成しておくとよい。この際、形成したガイドが縫合糸送り部45の移動に対して摩擦抵抗を生じさせないようにしてあるとよい。
【0048】
第2当接部45aは、たとえば側壁延設部45bの先端部に設けられ、ループ送り戻し機構30側に向かって突出するような突起形状に形成されている。第2当接部45aは、基端面が前方向に移動した操作部10の先端面に当接し、操作部10からの動きが伝達されるようになっている。そして、第2当接部45aが前方向の力を受けて縫合糸送り部45が前方向に移動することになる。また、第2当接部45aの前方向の移動は、先端面がループ送り戻し部31に形成されている第1当接部33の基端面と当接することによって規制される。一方、第2当接部45aの後方向の移動は、先端面がループ送り戻し部31に形成されている第1当接部33の基端面に押されることによってなされ、縫合糸送り部45が後方向に移動することにもなる。ただし、縫合糸送り部45は、後述する第2弾性部材46の反発力によって自動的に後方向への移動が可能になっている。なお、第2当接部45aを突起形状に限定するものではなく、第1当接部33と操作部10に当接可能な形状であればよい。また、第2当接部45aの前後方向の移動は、操作部10の移動を案内する溝22で案内される。
【0049】
側壁延設部45bは、本体部45cの外壁の一部を先端側に向かって延設したものである。この側壁延設部45bは、ループ送り戻し機構30側に位置している。なお、側壁延設部45bの軸方向長さは、ハウジング50の大きさ、縫合糸導入用針70の先端から突出させたい縫合糸1の長さを考慮して決定されており、特に長さを限定するものではない。また、側壁延設部45bは、第2当接部45aに加わる力に耐えられる程度の強度があればよく、特に厚みを限定するものではない。
【0050】
本体部45cは、内部に装着部45dが形成され、装着部45dを介して縫合糸1が前後に挿通するような貫通孔が形成されている。この本体部45cは、ハウジング50内に前後方向に移動可能に設置されている。上述したように、縫合糸送り部45を前後にまっすぐ移動させるためのガイドがハウジング50内に形成されていれば、このガイドに本体部45cを設置すればよい。また、本体部45cの基端面がハウジング50の内壁面57bに当接するまで、縫合糸送り部45は後方向に移動される。
【0051】
装着部45dは、本体部45cに形成されており、縫合糸締結部材44が装着されるものである。縫合糸締結部材44は、装着部45dに装着されて動きが規制されている。なお、装着部45dは、縫合糸締結部材44が装着可能な大きさに形成されていればよく、特に大きさを限定するものではない。
【0052】
第2弾性部材46は、弾性力を有し、前後方向に伸縮する部材(たとえば、バネ(コイルバネ、空気バネなど)やゴム等)で構成されている。この第2弾性部材46は、内壁面54と第2中空部材42に固定されている移動規制部材47との間に設置され、内壁面54と移動規制部材47との間で伸縮するようになっている。そして、第2弾性部材46は、反発力を利用して移動規制部材47を押すことで縫合糸送り部45を後方向に移動させるようになっている。この第2弾性部材46をバネで構成する場合、第2弾性部材46は、第3中空部材43及び第2中空部材42の外周部を巻くようにして設置するとよい。
【0053】
(ループ導入用針60)
ループ導入用針60は、内腔を有し、その内腔にループ形成部80を前後方向に移動可能に収容するものである。ループ導入用針60は、ハウジング50に取り付けられた状態において、基端部がハウジング50内に開口し、ハウジング50の内部と連通するようになっている。このループ導入用針60は、その軸心がループ送り戻し機構30の軸心と一致するようにハウジング50の先端側に取り付けられる。このようにループ導入用針60をハウジング50に取り付ければ、ループ形成部80を直線的に送り戻すことが可能になる。このループ導入用針60は、たとえばステンレス等の金属で形成するとよい。
【0054】
また、ループ導入用針60は、皮膚への穿刺用の刃面を先端に有している。この刃面は、ループ導入用針60の軸心と斜めに交差する面で切断されて形成するとよい。ループ導入用針60の先端開口は、後述するループ形成部80のループ82が確実に縫合糸導入用針70の方向に延びるようにするために、縫合糸導入用針70に向かっているとよい。
【0055】
なお、ループ導入用針60は、皮膚への穿刺とループ形成部80の挿入ができればよく、形状を特に限定するものではない。たとえば、ループ導入用針60としては、外径が21〜17G(好ましくは20〜18G)程度、長さが70〜120mm(好ましくは80〜100mm)程度のものを利用するとよい。また、ループ導入用針60の先端には、把持した縫合糸1が切れないような面取り部を形成しておくとよい。さらに、支持部52の位置によって、ループ導入用針60の先端の位置(送り出された縫合糸1との相対的な位置)を調整できるようにしておくとよい。
【0056】
(縫合糸導入用針70)
縫合糸導入用針70は、内腔を有し、その内腔に縫合糸1を前後方向に移動可能に挿入されるものである。縫合糸導入用針70は、ハウジング50に取り付けられた状態において、基端部が第3中空部材43の中空部と連通するようになっている。この縫合糸導入用針70は、その軸心が縫合糸送り機構40の軸心と一致するようにハウジング50の先端側に取り付けられる。このように縫合糸導入用針70をハウジング50に取り付ければ、縫合糸1を直線的に送り出すことが可能になる。この縫合糸導入用針70は、たとえばステンレス等の金属で形成するとよい。なお、縫合糸導入用針70の基端部を第3中空部材43として機能させるようにしてもよい。
【0057】
また、縫合糸導入用針70は、皮膚への穿刺用の刃面を先端に有している。この刃面は、縫合糸導入用針70の軸心と斜めに交差する面で切断されて形成するとよい。縫合糸導入用針70の先端開口の向きは、特に限定するものではないが、ループ導入用針60の方向に向かっているとよい。
【0058】
なお、縫合糸導入用針70は、皮膚への穿刺と縫合糸1の挿入ができればよく、形状を特に限定するものではない。たとえば、縫合糸導入用針70としては、外径が21〜17G(好ましくは20〜18G)程度、長さが70〜120mm(好ましくは80〜100mm)程度のものを利用するとよい。また、支持部53の位置によって、ループ導入用針60の先端の位置(送り出されたループ82との相対的な位置)を調整できるようにしておくとよい。
【0059】
上述したように、ループ導入用針60及び縫合糸導入用針70は、互いに所定の距離だけ離れた状態で平行にハウジング50の先端側に支持される。そして、ループ導入用針60及び縫合糸導入用針70の間の距離は、縫合糸1が患者の腹壁と内臓壁とを固定する長さ(たとえば10〜30mm程度)に設定しておくとよい。ループ導入用針60及び縫合糸導入用針70の間の距離がこの範囲であれば、縫合糸1による患者の腹壁と内臓壁との固定も十分に行なえる。
【0060】
(ループ形成部80)
ループ形成部80は、ループ導入用針60の内部に前後方向に移動可能に挿入されている。ループ形成部80は、ループ送り戻し部31の先端部に固定された基端側固定部83と、先端に固定されたループ82と、ループ導入用針60の内径より小さい外径を有し、基端側固定部83とループ82とを接続する棒状軸部81と、で構成されている。ループ82は、弾性材料により形成されており、ループ導入用針60の先端から送り出された状態(外力が加わっていない状態)では、環状に復元し、ループ導入用針60の先端から送り出されていない状態では、ほぼ直線状に変化してループ導入用針60の内部に収納可能になっている。
【0061】
ループ82は、ループ導入用針60の先端から送り出された状態において、縫合糸導入用針70の先端から送り出される縫合糸1が、ループ82の内部を貫通するように縫合糸導入用針70の方向に延びるようになっている。たとえば、ループ82は、棒状軸部81の先端に所定の角度を有して固定し、ループ導入用針60の先端から送り出された状態において湾曲形状となるように形成するとよい。この湾曲形状は、たとえばループ82を側面視した状態において、湾曲している部分の頂点部分が前方向に突出しているような形状であるとよい。このような形状でループ82を形成すれば、縫合糸1を、より確実にループ82の内部に位置させることが可能になる。また、縫合糸導入用針70の延長上にループ82の中心がくると、縫合糸1がまっすぐ伸びたときに、縫合糸1をより確実にループ82内に位置させることができる。
【0062】
また、ループ82の先端形状を特に限定するものではないが、先端を中心とする略V字または略U字形状にしておき、縫合糸1を把持する部分(略V字、略U字状となっている部分)の距離を狭めるようにしておくとよい。こうしておけば、縫合糸導入用針70の先端から送り出された縫合糸1をより確実に把持することが可能になる。ループ82は、変形可能な部材で構成されていればよく、たとえばステンレス鋼線(バネ用高張力ステンレス鋼)、ピアノ線(ニッケルメッキあるいはクロムメッキが施されたピアノ線)、または超弾性合金線(チタンとニッケルの合金、銅と亜鉛の合金(あるいは、それにベリリウム、ケイ素、スズ、アルミニウム、ガリウム等を含めた合金)、ニッケルとアルミニウムの合金等)等で構成することができる。
【0063】
棒状軸部81は、金属(たとえばステンレス)や合成樹脂(たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、PTFE、ETFE等のフッ素樹脂)等を用いて構成することができる。この棒状軸部81は、スタイレット等を利用して構成することができる。また、基端側固定部83は、ループ送り戻し部31の先端部に固定されていればよく、固定の仕方を特に限定するものではない。たとえば、接着剤等を用いて固定してもよく、ループ送り戻し部31の先端部に切欠等を設け、その切欠に嵌め込むようにして固定してもよい。なお、ループ82を比較的剛性がある材料で構成する場合には、棒状軸部81とループ82とを同じ材質で構成してもよい。この場合、棒状軸部81とループ82とを、一体に構成してもよく、別体で構成してもよい。
【0064】
[縫合具100の動作]
縫合具100では、操作部10と、ループ送り戻し機構30及び縫合糸送り機構40とが連結していない。加えて、ループ送り戻し機構30と、縫合糸送り機構40とも連結していない。すなわち、操作部10と、ループ送り戻し機構30と、縫合糸送り機構40とは、互いに独立した構成となっている。ただし、縫合具100は、術者に過度な操作負担を要求することなく、簡便な操作で、ループ82の送り出しタイミングと、縫合糸1の送り出しタイミングとに時間差を設けることが可能になっており、縫合糸1を内臓壁と腹壁とを通した状態にすることを可能にしている。その仕組みについて、詳しく説明する。
【0065】
縫合具100の予備操作として、術者は、まず縫合糸1を縫合糸送り機構40の第1中空部材41に挿入する。このとき、術者は、縫合糸1が縫合糸導入用針70の先端から突出しない程度の長さで縫合糸導入用針70に縫合糸1を送り込む。縫合具100を内臓内へ穿刺した後、この状態で、操作部10を前方向に移動させると、操作部10の前方向の動きが、まずループ送り戻し機構30に伝達され、続いて縫合糸送り機構40に伝達される。なお、縫合糸1が予め縫合具100にセットされている状態のものを術者が使用してもよい。
【0066】
(ループ送り戻し機構30の動作)
操作部10が操作されていない初期状態(あるいは2回目以降の操作前の状態)において、ループ送り戻し機構30側では、ループ送り戻し部31の基端部31bがハウジング50の内壁面57aに当接した状態となっている。このとき、収容部34には、所定の力が加えられた圧縮状態の第1弾性部材32が収容されている。また、操作部10は、第1弾性部材32とループ送り戻し部31の基端部31bとに挟持されている。
【0067】
術者により操作部10が前方向に移動されると、その力が第1弾性部材32に伝達される。第1弾性部材32は、所定の力で圧縮されているので、第1弾性部材32の先端側でループ送り戻し部31の先端部31aが押されることになる。すなわち、操作部10、ループ送り戻し部31、第1弾性部材32が、それぞれの位置を保ったまま前方向に移動することになる。そうすると、ループ送り戻し部31の先端部31aに固定されているループ形成部80も前方向に移動し、ループ形成部80の先端に位置しているループ82が、ループ導入用針60の先端から飛び出し環状に開く。
【0068】
さらに、操作部10が前方向に移動されると、ループ送り戻し部31の先端部31aがハウジング50の内壁面54に突き当たることになる。この状態で、更に第1弾性部材32に加えられている力よりも大きな力が操作部10を介して第1弾性部材32に伝達されると、第1弾性部材32が更に圧縮されていくことになる。すなわち、ループ導入用針60の先端から送り出されたループ82を、開いたままの状態で保持することが可能になっている。このような構成とすることで、縫合糸1の送り出しタイミングをループ82の送り出しタイミングよりも遅らすことが可能となっている。つまり、操作部10の前方向へ移動を継続しつつ、ループ82の環状形状を維持できる。
【0069】
次に、操作部10の先端側への操作が解除されると、第1弾性部材32の圧縮力が解放され、ループ送り戻し部31が後方向への移動を開始する。つまり、操作部10は、ループ送り戻し部31の基端部31bに当接するまで第1弾性部材32の反発力で後方向に移動する。そして、術者により操作部10が更に後方向に移動されると、ループ送り戻し部31の基端部31bに当接した操作部10の後方向への力がループ送り戻し部31に伝達される。それによって、ループ送り戻し部31の基端部31bが後方向に押され、ループ送り戻し部31が後方向に移動することになる。
【0070】
なお、第1弾性部材32の他に、別のバネやゴム等の弾性体を設け、この弾性体の反発力を利用して操作部10を後方向へ移動させるようにしてもよい。このような弾性体を設けておけば、操作部10を後方向に移動する際の操作が簡便になり、術者の操作負担が更に軽減されることになる。つまり、後述する戻し操作を術者が実行しなくて済み、実質的にワンタッチ操作で縫合糸1を内臓壁と腹壁とを通した状態にできる。
【0071】
ループ送り戻し部31が後方向に移動すると、ループ82も後方向に移動を開始する。このとき、縫合糸導入用針70の先端から送り出された縫合糸1はループ82に貫通されている。したがって、ループ82が後方向に移動を開始するとループ82の環状形状が徐々に小さくなり、ループ82で縫合糸1が把持された状態になる。さらに、ループ82が後方向に移動すると、ループ導入用針60の先端で縫合糸1を把持した状態となる。
【0072】
(縫合糸送り機構40の動作)
操作部10が操作されていない初期状態(あるいは2回目以降の操作前の状態)において、縫合糸送り機構40側では、縫合糸締結部材44が第1中空部材41の上に乗り上げた状態、つまり第1中空部材41を締結した状態となっており、縫合糸1は、縫合糸締結部材44によって締結されておらず、移動可能なフリーの状態(縫合糸1が縫合糸締結部材44に締め付けられていない状態)となっている。
【0073】
術者により操作部10が前方向に移動されても、縫合糸送り機構40側ではすぐに動作を開始しない。更に、操作部10が前方向に移動され、第2当接部45aに当接することで、縫合糸送り部45が前方向の移動を開始する。つまり、操作部10の動きが第2当接部45aを介して縫合糸送り機構40側に伝達されることになる。
【0074】
縫合糸送り部45が前方向に移動すると、縫合糸締結部材44も併せて前方向に移動する。縫合糸締結部材44が所定の距離移動すると、第1中空部材41が縫合糸締結部材44から抜ける。そして、縫合糸締結部材44の切れ目に縫合糸1が挿通されている状態、つまり縫合糸締結部材44が縫合糸1を締め付けている状態になる。この状態では、縫合糸締結部材44の締め付け力が縫合糸1に到達し、縫合糸1は縫合糸締結部材44に把持されている。
【0075】
このとき、縫合糸締結部材44の先端には、第2中空部材42の基端が接触している。そして、操作部10の動きが縫合糸締結部材44を介して第2中空部材42に伝達され、縫合糸締結部材44によって押されることで第2中空部材42も前方向に移動することになる。なお、第2中空部材42の前方向の移動によって、第2弾性部材46は、移動規制部材47に押され、前方向に向かって圧縮されていく。
【0076】
縫合糸1は、縫合糸締結部材44に把持された状態になっているため、第2中空部材42の前方向の移動に併せて縫合糸導入用針70の先端から送り出される。すなわち、縫合糸1は、ループ導入用針60の先端からループ82が送り出されるタイミングよりも遅いタイミングで縫合糸導入用針70の先端から送り出される。したがって、ループ82の送り出しタイミングと、縫合糸1の送り出しタイミングとに時間差を設けることができ、容易にループ82内に縫合糸1が挿入された状態にできる。
【0077】
さらに、操作部10が前方向に移動されると、第2中空部材42の先端が内壁面54に突き当たる、又は移動規制部材47がストッパー51aに突き当たる。そうすると、第2中空部材42とともに縫合糸送り部45の前方向への移動が停止する。この状態で、更に第1弾性部材32に加えられている力よりも大きな力が操作部10を介して第1弾性部材32に伝達され、操作部10を更に前方向に移動させると、縫合糸送り部45が前方向に移動して第2中空部材42の基端側が縫合糸締結部材44に突き刺さることになる。そうすると、縫合糸締結部材44による縫合糸1への締め付けが解除され、縫合糸1がフリーの状態になる。つまり、縫合糸1が前方向に移動しない状態になる。なお、ここでは、移動規制部材47がストッパー51aに突き当たることで第2中空部材42の前方向の移動を規制した場合を例に説明するが、これに限定するものではないことは前述した通りである(段落[0019]参照)。
【0078】
次に、操作部10の先端側への操作が解除されると、第2弾性部材46の圧縮力が解放され、移動規制部材47がストッパー51bに突き当たる位置まで縫合糸送り部45が後方向へ移動する。ただし、縫合糸締結部材44には、第2中空部材42が突き刺さったままの状態である。なお、ここでは、移動規制部材47がストッパー51bに突き当たることで第2中空部材42の後方向の移動を規制したが、これに限定するものではないことは前述した通りである(段落[0020]参照)。
【0079】
移動規制部材47がストッパー51bに当接した状態で、更に操作部10が後方向に移動されると、ループ送り戻し部31の第1当接部33の基端面と縫合糸送り部45の第2当接部45aの先端面が当接し、操作部10の力がループ送り戻し部31を介して縫合糸送り部45に伝達されることになる。第2中空部材42はストッパー51bで移動が停止されているので、縫合糸送り部45だけが後方向へ移動することになる。そして、第2中空部材42が縫合糸締結部材44の切れ目から抜け、縫合糸締結部材44は、第1中空部材41を締め付けことになる。つまり、縫合糸締結部材44の締め付け力が第2中空部材42から第1中空部材41に加わることになり、初期状態に戻る。
【0080】
以上の一連の動作を経て、各部(操作部10、ループ送り戻し機構30、縫合糸送り機構40)は初期状態と同様の位置に戻るが、ループ82が縫合糸1を把持している状態となっている。この状態で、縫合具100のループ導入用針60及び縫合糸導入用針70を内臓内から腹壁側に抜いてくると、縫合糸1はフリーとなっているため、縫合糸1がスムーズに誘導され、内臓壁と腹壁とを略U字に通した状態になる。最後に、体外に引き出した縫合糸導入用針70の刃先又は他のカット手段(ハサミやカッター等)で縫合糸1をカットする。そうすると、縫合糸1は縫合糸導入用針70の先端まで挿入されている初期状態と同じとなるため、何度でも上記手順で内臓壁の固定ができることになる。なお、縫合糸1をカットした後、縫合糸1が縫合糸導入用針70の刃先よりも先端側に出ている場合は、縫合糸1を基端側に手で引っ張って初期状態と同じ状態にするとよい。
【0081】
(ループ82と縫合糸1の送り出しタイミング)
縫合具100によれば、先に操作部10の前方向への動きをループ82に伝達し、それから操作部10の前方向への動きを縫合糸1に伝達することを可能にしているので、縫合糸1の送り出しタイミングをループ82の送り出しタイミングよりも遅らすことが可能になっている。こうすることで、縫合糸1を確実にループ82の内部に挿入することができ、縫合糸1を確実に把持させることが可能になっている。
【0082】
具体的には、操作部10が先端側に動かされると、まずループ送り戻し機構30が動作を開始し、第1弾性部材32の弾性力を利用して先にループ82のみが送り出される。そして、ループ82が完全に送り出された状態、ループ82の環状形状を維持した状態で縫合糸1が送り出されるように、ループ送り戻し機構30側では第1弾性部材32のみに操作部10の動きを伝達し、ループ82の形状を維持できるようにしている。
【0083】
一方、縫合糸送り機構40は、ループ送り戻し機構30の動作よりも遅れて動作を開始する。移動開始直後、縫合糸送り機構40は、縫合糸締結部材44が第1中空部材41に乗り上げた状態を利用し、縫合糸1をフリーなままにしておく。次に、縫合糸送り機構40側は、縫合糸締結部材44が第1中空部材41から抜けて縫合糸1を締め付け、操作部10の動きを縫合糸1に伝達するようになっている。
【0084】
このようにして、縫合具100では、ループ82の送り出しタイミングと、縫合糸1の送り出しタイミングとに時間差を設けることが可能になっている。具体的には、縫合具100では、ループ82が先に送り出された状態で、縫合糸1を送り出すことができ、環状形状が形成されたループ82の内部に縫合糸1が容易に挿入されることになる。したがって、縫合具100によれば、ループ送り戻し部31、第1中空部材41及び第2中空部材42の長さ、並びに、ストッパー51a、ストッパー51bの位置を調整することによって、縫合糸1の送り出しタイミングとループ82の送り出しタイミングとを変更、修正することが可能になっている。
【0085】
[縫合具100の具体的な操作手順]
図4〜図6は、縫合具100の操作手順を簡略的に示した概略断面図である。図4〜図6に基づいて、縫合具100の具体的な操作手順について説明する。図4が縫合具100の穿刺操作を、図5が各部の前方向の移動操作(以下、押込操作(押込操作1(B1)〜押込操作3(B3))と称する)を、図6が各部の後方向の移動操作(以下、戻し操作(戻し操作1(C1)〜戻し操作3(C3))と称する)を、それぞれ示している。また、図5〜図6には、縫合糸1及びループ82の送り出し状況を抽出した図を併せて示している。
【0086】
(A)穿刺(縫合具100の初期状態時(2回目以降の操作前の状態時も含む)を表している)
まず、術者は、ループ形成部80のループ82がループ導入用針60の内部に収納され、縫合糸1が縫合糸導入用針70の内部に収納された状態の縫合具100を患者に穿刺する。このとき、縫合糸1は、縫合糸導入用針70の先端から突出しないように縫合糸導入用針70の内部に挿入されている。また、縫合糸締結部材44が第1中空部材41に乗り上げた状態であり、縫合糸1はフリー、つまり前方向に移動しない状態となっている。さらに、ループ送り戻し部31の基端部31bが内壁面57aに当接した状態となっている。
【0087】
(B1)押込操作1(ループ82の送り出し開始から縫合糸1送り出し開始まで)
術者によって操作部10に前方向の力が加えられると、第1弾性部材32を介してループ送り戻し部31が前方向への移動を開始する。ループ送り戻し部31が前後方向に移動すると、ループ形成部80も前後方向に移動する。ループ送り戻し部31は、先端部31aがハウジング50の内壁面54に突き当たるまで前方向の移動が可能になっている。ループ送り戻し部31の先端部31aがハウジング50の内壁面54に突き当たるまで前方向に移動すると、先端部31aに接続されているループ形成部80もループ導入用針60の内腔を先端側に移動し、ループ導入用針60の先端から送り出される。ループ82は、ループ導入用針60の先端から送り出されると、外力が加わっていない状態となり、環状に復元する。
【0088】
縫合糸送り機構40は、ループ送り戻し機構30が動きを開始してもまだ動かない。縫合糸締結部材44が第1中空部材41に乗り上げている状態では、縫合糸1はフリーなままである。
【0089】
(B2)押込操作2(縫合糸1の送り出し開始から縫合糸1の送り出し完了まで)
そして、術者によって操作部10が更に前方向に移動させられると、ループ送り戻し機構30側では、ループ送り戻し部31が内壁面54に突き当たり、それ以上前方向に移動しなくなる。そうすると、操作部10の動きが第1弾性部材32のみに伝達され、第1弾性部材32がループ送り戻し部31の収容部34内で前方向に向かって圧縮される。したがって、ループ82の形状を維持した状態で第1弾性部材32だけが前方向に移動する。このとき、第1弾性部材32の作用によって、操作部10を介して術者の手元に徐々に荷重がかかっていくことになる。したがって、操作部10をスムーズに前方向に移動することが可能になる。
【0090】
一方、縫合糸送り機構40は、操作部10が縫合糸送り機構40の第2当接部45aに当接することで、前方向への動きを開始する。操作部10によって第2当接部45aが前方向に押されると、縫合糸送り部45が前方向に移動を開始する。縫合糸締結部材44は、縫合糸送り部45に装着されているため、縫合糸送り部45と一緒に第1中空部材41に沿って前方向に移動を開始する。なお、縫合糸送り部45の前方向の移動に伴い、第2弾性部材46は圧縮される。
【0091】
縫合糸送り機構40側では、縫合糸送り部45が前方向への移動を継続し、縫合糸締結部材44が第1中空部材41から外れて縫合糸1を締め付けるようになる。この状態で更に縫合糸締結部材44が前方向に移動すると、縫合糸締結部材44に締め付けられている縫合糸1も前方向への移動を開始し、縫合糸導入用針70の先端から縫合糸1が送り出され始める。そして、既に送り出されているループ82の内部に縫合糸1が貫通される。なお、このとき、第2中空部材42も、縫合糸締結部材44によって前方向に押され、前方向に移動している。
【0092】
その後、移動規制部材47がストッパー51aに突き当たるか、又は第2中空部材42の先端が内壁面54に突き当たるかするまで、縫合糸送り部45は前方向への移動を継続する。このとき、縫合糸導入用針70の先端から必要な長さ分の縫合糸1が送り出されていることになる。
【0093】
ループ送り戻し部31の先端部31aがハウジング50の内壁面54に突き当たると、ループ送り戻し部31の前方向への移動が規制されるが、操作部10が更に前方向に移動されることで、第1弾性部材32のみが前方向に移動することになる。ループ送り戻し部31は、それ以上、先端側に移動することなく、第1弾性部材32のみを先端側に圧縮可能になっている。こうすることで、ループ導入用針60の先端から送り出されたループ82の形状を維持するようにしている。
【0094】
(B3)押込操作3(送り出された縫合糸1への締め付け解除)
術者によって操作部10が更に前方向に移動させられると、第1弾性部材32の圧縮及び縫合糸送り部45の前方向の移動が継続される。ただし、第2中空部材42は、移動規制部材47がストッパー51aに突き当たるか、又は第2中空部材42の先端が内壁面54に突き当たるかしており、それ以上前方向には移動しなくなる。この状態で更に縫合糸送り部45が前方向に移動されると、第2中空部材42が縫合糸締結部材44に突き刺さることになる。そうすると、縫合糸1への締め付けが解除され、縫合糸1が再度フリーになる。つまり、縫合糸1が前方向に移動しなくなる。一方、ループ送り戻し機構30側では、ループ82の形状を維持した状態で第1弾性部材32だけが圧縮されている。したがって、ループ82の内部に縫合糸1が貫通された状態が維持される。
【0095】
(C1)戻し操作1(各部の後方向の移動開始)
術者により操作部10に加えられている先端側への力が解除されると、第1弾性部材32及び第2弾性部材46の圧縮状態が解除される。第1弾性部材32の圧縮状態が解除されると、操作部10が第1弾性部材32に押され、後方向に移動する。そして、操作部10が、ループ送り戻し部31の基端部31bに当接する。縫合糸締結部材44には第2中空部材42が突き刺さっているので、縫合糸締結部材44と一緒に第2中空部材42も後方向に移動される。それから、縫合糸締結部材44は、移動規制部材47がストッパー51bに突き当たることによって移動が規制される第2中空部材42と一緒に一旦後方向への移動が停止される。なお、図では、第2弾性部材46の圧縮状態の解放によって、縫合糸送り部45が後方向に移動されている場合を例に示しているが、以下に説明するように第2弾性部材46がなくても、縫合糸送り部45の後方向への移動は可能になっている。以下、第2弾性部材46が設置されていないものとして説明する。
【0096】
(C2)戻し操作2(ループ82の戻し開始)
更に術者により操作部10が後方向へ移動されると、操作部10が、ループ送り戻し部31の基端部31bを押し、ループ送り戻し部31が後方向への移動を開始する。ループ送り戻し部31が後方向に移動するに伴い、縫合糸1をループ導入用針60の先端に引き寄せるように、ループ82がループ導入用針60内に収容され始める。
【0097】
(C3)戻し操作3(縫合糸1の把持完了)
ループ送り戻し部31が移動されてしばらくすると、ループ送り戻し部31の第1当接部33が縫合糸送り部45の第2当接部45aと当接する。そうすると、ループ送り戻し部31の後方向への移動力が縫合糸送り部45に伝達され、縫合糸送り部45も併せて後方向に移動させられることになる。
【0098】
この状態から操作部10が後方向へ更に移動させられると、その力がループ送り戻し部31の第1当接部33を介して縫合糸送り部45に伝達され、縫合糸送り部45が更に後方向に移動する。そうすると、縫合糸締結部材44が、第2中空部材42から抜け、初期状態と同様に第1中空部材41に乗り上げた状態となる。縫合糸1はフリーなままである。つまり、縫合糸1は移動しない。一方、ループ送り戻し部31は、第1弾性部材32の力及び操作部10に加えられる後方向への力によって、縫合糸送り部45の後方向への移動が停止するまで後方向へ移動する。そして、縫合糸締結部材44が初期状態に戻る際に、一緒に初期状態に戻る。このとき、各部は初期状態と同様の位置に戻るが、ループ82が縫合糸1を把持している状態となっている。
【0099】
この状態で、縫合具100を抜去すると、縫合糸1はフリーとなっているため、縫合糸1がスムーズに誘導され、内臓壁と腹壁とを略U字に通した状態になる。つまり、術者は、押込操作(押込操作1〜3)、戻し操作3の操作だけで、縫合糸1を内臓壁と腹壁とを略U字に通した状態にできることになる。最後に、体外に引き出した縫合糸導入用針70の刃先又は他のカット手段で縫合糸1をカットすれば、縫合糸1の内臓内への導入及び引き出しにおける一連の操作が完了することになる。そうすると、縫合糸1は縫合糸導入用針70の先端まで挿入されている初期状態と同じとなるため、何度でも上記手順で内臓壁の固定ができることになる。なお、縫合糸1をカットした後、縫合糸1が縫合糸導入用針70の刃先よりも先端側に出ている場合は、縫合糸1を基端側に手で引っ張って初期状態と同じ状態にするとよい。
【0100】
[縫合具100を使用した臓器の固定手技]
図7は、縫合具100の作用を説明するための説明図である。図7に基づいて、縫合具100の作用を、縫合具100を使用した手技の流れに沿って説明する。ここでは、縫合具100を用いて、患者の腹壁101と内臓壁102(たとえば胃壁)との固定について説明する。
【0101】
まず、術者は、患者の口又は鼻から内臓内(たとえば胃内)に内視鏡を挿入する。その後、術者は、内臓内に十分に気体(たとえば二酸化炭素)を供給して、内臓を膨張させる。そうして、内臓壁102を腹壁101に密着させる。それから、ループ導入用針60及び縫合糸導入用針70で穿刺しようとする箇所を含め、皮膚103を消毒する。それから、内視鏡から放たれる光により内臓の位置を確認し、この部位に局所麻酔を行なう。
【0102】
続いて、ループ形成部80のループ82がループ導入用針60の内部に収納され、縫合糸1が縫合糸導入用針70の内部に収納された状態の縫合具100を用意する(図4で図示した状態)。このとき、縫合糸1は、縫合糸導入用針70の先端から突出しないように縫合糸導入用針70の内部に収納されている。そして、縫合具100のループ導入用針60及び縫合糸導入用針70を患者の腹壁101に穿刺し、内臓壁102から内臓内にループ導入用針60及び縫合糸導入用針70を突出させる(図7(a))。
【0103】
この状態を内視鏡で確認した後、術者は、操作部10を前方向に移動させる。そして、術者は、図5及び図6で示した一連の操作を実行し、縫合糸1を体外に露出させた状態にする(図7(b))。つまり、縫合糸1が、内臓壁102と腹壁101とを略U字に通した状態になる。最後に、術者は、体外に引き出した縫合糸1をカットし、縫合糸1の両端部を結紮する(図7(c))。この結紮により、内臓壁102と腹壁101とが固定される。
【0104】
さらに、その結紮部分と所定距離、たとえば20〜30mm程度離した位置にほぼ平行に、再び縫合具100を穿刺し、内臓壁102と腹壁101とを固定する。つまり、縫合糸1が臓器固定具として機能することで、内臓壁102と腹壁101とが固定され、瘻孔カテーテルを挿入する際に利用される瘻孔が容易に形成することができる。このとき、縫合糸1を複数回に備えた長さとしておけば、連続的に縫合具100を使用することが可能になる。
【0105】
[縫合具100の奏する効果]
縫合具100によれば、縫合糸1を縫合具100に毎回挿入する必要がなく、縫合糸1がなくなるまで何度でも臓器固定が可能になる。また、縫合具100によれば、操作部10の押し引き操作(押込操作(押込操作1〜3)、戻し操作(戻し操作1〜3))だけで、縫合糸1を内臓壁102と腹壁101とを略U字に通した状態にできる。具体的には、術者は、操作部10を前方向に移動させる操作、及び、操作部10を初期状態の位置に移動させる操作を実行するだけで縫合糸1を内臓壁102及び腹壁101に通した状態にできるので、術者に要求される手技が非常に簡便化できる。さらに、ループ82が環状に開いた状態になってから縫合糸1が送り出されるようになっているため、縫合糸1を確実にループ82の内部に挿入することができる。
【0106】
したがって、術者の操作負担を大幅に軽減でき、作業性が著しく向上することになる。また、手技自体を非常に簡便に実行することができるので、作業性だけでなく、操作性も著しく向上することになる。さらに、簡便な手技でありながらも、縫合糸1の把持を確実に実行できるため、何回も穿刺してしまうようなことを極力低減でき、術者の負担だけでなく、患者の負担の軽減にも寄与することができる。加えて、第1弾性部材32を備えているため、この第1弾性部材32の作用により、押込操作がスムーズに行なえ、より施術の際の安定性が向上する。
【0107】
なお、上記実施の形態では、縫合具100を繰り返し使用することを前提とした場合を例に説明したが、必ずしも縫合具100を繰り返し使用することはない。すなわち、1回の手技に対応するための長さを有する縫合糸1を挿入しておき、縫合具100を繰り返し使用しないようにしてもよい。
【符号の説明】
【0108】
1 縫合糸、10 操作部、20 支持棒、21 平板部、22 溝、30 ループ送り戻し機構、31 ループ送り戻し部、31a 先端部、31b 基端部、31c 側壁部、32 第1弾性部材、32a 基端部、33 第1当接部、34 収容部、40 縫合糸送り機構、41 第1中空部材、42 第2中空部材、43 第3中空部材、44 縫合糸締結部材、45 縫合糸送り部、45a 第2当接部、45b 側壁延設部、45c 本体部、45d 装着部、46 第2弾性部材、47 移動規制部材、50 ハウジング、51a ストッパー、51b ストッパー、52 支持部、53 支持部、54 先端側内壁面、55 ガイド穴、56 つば部、57a 基端側内壁面、57b 基端側内壁面、60 ループ導入用針、70 縫合糸導入用針、80 ループ形成部、81 棒状軸部、82 ループ、83 基端側固定部、100 縫合具、101 腹壁、102 内臓壁、103 皮膚。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングの先端側に設けられたループ導入用針と、
前記ループ導入用針から所定の距離を隔ててほぼ平行に前記ハウジングの先端側に設けられ、縫合糸が収容される縫合糸導入用針と、
先端にループが形成され、前記ループ導入用針の内部に移動可能に挿入されているループ形成部と、
前記ハウジング内に設けられ、前記ループ形成部を移動させるループ送り戻し機構と、
前記ハウジング内に設けられ、前記縫合糸を送り出す縫合糸送り機構と、
前記ハウジング内に又は前記ハウジングから突出するように設けられ、前記ループ送り戻し機構及び前記縫合糸送り機構を動作させる操作部と、を備え、
前記操作部の先端側への動きを、前記ループ送り戻し機構に伝達し、前記ループが前記ループ導入用針の先端から送り出され始めてから、
前記操作部の先端側への動きを、前記縫合糸送り機構に伝達し、前記縫合糸を前記縫合糸導入用針の先端から送り出す
ことを特徴とする医療用縫合具。
【請求項2】
前記ループ送り戻し機構及び前記縫合糸送り機構によって、前記縫合糸を前記縫合糸導入用針の先端から送り出した状態に維持したまま、前記ループを前記ループ導入用針内に収容することで、前記縫合糸を前記ループ導入用針の先端で把持する
ことを特徴とする請求項1に記載の医療用縫合具。
【請求項3】
前記ループ送り戻し機構は、
前記操作部の先端側への動きが伝達される弾性部材と、
前記弾性部材を介して移動し、前記ループ形成部を送り戻すループ送り戻し部と、を有し、
前記縫合糸送り機構は、
少なくとも前記ハウジングの基端側に固定され、内部に前記縫合糸が挿入される第1中空部材と、
前記操作部の先端側への動きが伝達される縫合糸送り部と、
前記第1中空部材が挿通可能な中空部を有し、前記縫合糸送り部を介して前記操作部の動きが伝達される第2中空部材と、
前記縫合糸送り部に装着され、前記縫合糸送り部の位置に応じて、前記第1中空部材、前記縫合糸、又は、前記第2中空部材を締め付ける縫合糸締結部材と、を有し、
前記ループ送り戻し機構では、
前記ループ送り戻し部が先端側に移動しなくなった後に、前記弾性部材のみに前記操作部の先端側への動きを伝達して前記弾性部材を圧縮することで前記ループの形状を維持し、
前記縫合糸送り機構では、
前記ループ送り戻し部が先端側に移動しなくなった後に、前記操作部の先端側への動きが伝達され、前記縫合糸送り部とともに先端側への移動を開始する前記縫合糸締結部材が、前記第2中空部材を押しながら前記第1中空部材から抜けて前記縫合糸を締め付け、既に送り出されている又は送り出され始めている前記ループの内部に挿入するように前記縫合糸を前記縫合糸導入用針の先端から送り出す
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の医療用縫合具。
【請求項4】
前記ループ送り戻し部に第1当接部を設け、
前記縫合糸送り部に、前記第1当接部と前記操作部に当接可能な第2当接部を設け、
前記ループ送り戻し部が先端側に移動しなくなり、前記弾性部材に前記操作部の先端側への動きを伝達するとき、前記操作部と前記第2当接部とが当接し、前記操作部の先端側への動きが前記縫合糸送り機構側に伝達される
ことを特徴とする請求項3に記載の医療用縫合具。
【請求項5】
前記縫合糸締結部材は、
前記第2中空部材を、前記第2中空部材の先端が前記ハウジングの先端側に突き当たるまで、又は、前記第2中空部材の移動を規制する移動規制部材が前記ハウジングの内壁面に形成された第1ストッパーに突き当たるまで移動させ、
前記第2中空部材が停止すると、前記第2中空部材に乗り上げて前記縫合糸の締め付けを解除する
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の医療用縫合具。
【請求項6】
前記操作部の先端側への操作が解除されると、
前記弾性部材の圧縮状態が解放されて前記操作部が基端側に移動を開始し、更に前記操作部が基端へ移動されることにより前記ループ送り戻し部も基端側に移動する
ことを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の医療用縫合具。
【請求項7】
前記ハウジングに前記弾性部材とは別の弾性体を設け、
この弾性体の反発力を利用して前記操作部を基端側に移動させる
ことを特徴とする請求項6に記載の医療用縫合具。
【請求項8】
前記ハウジングの側面の一部に前記移動規制部材が突き当たる第2ストッパーを設け、
前記移動規制部材が基端側へ移動して前記第2ストッパーに突き当たった後、前記縫合糸締結部材が前記第2中空部材から抜けて再度前記第1中空部材を締め付けることによって、前記縫合糸が締め付けられない状態を維持しつつ初期状態に戻し、連続使用可能とした
ことを特徴とする請求項3〜7のいずれか一項に記載の医療用縫合具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−31622(P2013−31622A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212904(P2011−212904)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000228888)日本コヴィディエン株式会社 (170)
【Fターム(参考)】