説明

医療装置用の抗感染性潤滑剤およびその調製方法

抗菌剤およびそれを溶解させ、相互混和性を達成し、概して均一な生成物を生成するための種々の溶媒を含む潤滑性抗菌性コーティング材料を提供する。前記コーティングは、潤滑性剤とそれを溶解させるための溶媒をさらに含み、所望の表面に適用されて、カテーテル関連血流感染症を引き起こすことが知られている病原菌を死滅させるかまたはその増殖を阻害するのに適当な抗菌性および潤滑性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、潤滑性(lubricious)抗菌性コーティング材料に関するものである。詳細には、本発明は、材料の構成成分の相互混和性を達成する種々の溶媒を含有する、シリコーン油を基材とする抗菌性コーティング材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医学および保健医療の分野において、患者の皮膚は、種々の方法においておよび種々の理由で穿刺される場合がある。一例において、患者の皮膚は、鋭い物体、例えば、メスを用いて外科的な要因で切られる。別の例においては、カニューレまたは静脈内(「IV」)カテーテルが、患者の皮膚を通して内部空間、例えば、患者の脈管構造に強制的に挿入される。この例において、カニューレまたはIVカテーテルは、流体(例えば、生理食塩水、薬物および/または完全非経口的栄養)を患者に注入するため、患者から流体(例えば、血液)を採取するため、および/または患者の血管系の種々のパラメータをモニターするために使用できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、患者の皮膚を穿刺する場合には、患者の感染の可能性が増加する。実際に、毎年、米国だけでも何十万人もの患者が、IVカテーテルまたは別のIVアクセス装置(access device)、例えば、皮下注射針を通してまたはそれが理由で患者に伝達された病原菌によって引き起こされる何らかの形態の血流感染症を発症すると推定される。これらのカテーテル関連血流感染症を引き起こす細菌性病原菌の多くは、通常の皮膚生着菌または患者の皮膚上に存在するフローラであり、カテーテル挿入部位を通して患者の体内に入ると考えられることが多い。
【0004】
多くの場合、これらのカテーテル関連血流感染症は、患者の疾病、場合によっては死亡を引き起こす。さらに、一部の感染症は、抗生物質に対して耐性を示す細菌株(例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(「MRSA」)およびバンコマイシン耐性腸球菌(Enterococci)(「VRE」))によって引き起こされるので、このような感染症は治療が難しい可能性があり、有病率はますます増加すると考えられる。加えて、血流感染症を有する患者は追加の薬物治療を必要とする可能性があるので、カテーテル関連血流感染症は医療費の増加を伴い得る。
【0005】
病院、外来患者、在宅医療およびその他の保健医療環境における血流感染症(すなわち、カテーテル関連感染症)を制限しようと、多くの人々が医療装置および設備に種々の抗菌性コーティングを適用することを試みている。抗菌性コーティングは、血流感染症と通常関連する病原菌の成長(growth)またはコロニー形成を防止するためのバリアとして提供される。しかし、このような抗菌性コーティングに欠点がないわけではない。例えば、コーティング材料内の抗菌剤の多くは水溶性であり、したがって、患者に関連する流体との接触中に医療装置から容易に洗い落とされる。さらに、最も有効な抗菌剤のいくつかは、乾燥時にねばねばしたまたは粘着性の残渣を残し、その結果、医療装置と患者の間に潤滑性界面を必要とする処置のための医療装置を操作することが困難となる。
【0006】
よって、医療装置の表面をコーティングするかまたは他の方法で処理して感染症を防止するために使用される技術は現在存在するが、依然として課題が残っている。それゆえに、現在の技術を増強するかまたはさらには他の技術と置き換えることは、当技術分野における改善となるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願は、血管内装置に適用されて広範囲の病原菌を死滅させるかまたはその成長を防止することができる潤滑性抗菌性コーティング材料に関する。一部の実施形態において、抗菌性コーティング材料は、種々の病原菌を死滅させるかまたはその成長を阻害するように選択された1種または複数の抗菌剤を含む。抗菌剤は一般に、水および炭素原子数2以下の低級アルコールのうち少なくとも1種に可溶性である。それゆえに、コーティング材料は、抗菌剤を溶解させるための溶媒をコーティング材料内にさらに含む。
【0008】
抗菌性コーティング材料のさらなる構成成分は、コーティングされる医療装置と患者との間の潤滑性界面を確実にするための潤滑性剤(lubricious agent)を含む。一部の実施形態において、潤滑性剤は、1種または複数のシリコーン油から選択される。シリコーン油は一般に、炭化水素、ケトン、ハロゲン化炭化水素および炭素原子数が少なくとも3の高級アルコールのうち少なくとも1種に可溶性である。それゆえに、コーティング材料は、潤滑性剤を溶解させるための溶媒をコーティング材料内にさらに含む。
【0009】
本発明の重要な特徴は、抗菌性コーティング材料の種々の構成成分の相互混和性である。よって、本発明の一部の実施形態において、相互に混和性の抗菌剤、抗菌溶媒、潤滑性剤および潤滑性剤の溶媒の種々の組合せを提供して、均一なコーティング材料を確実にする。一部の実施形態において、コーティング材料は、ポリエトキシル化界面活性剤をさらに含み、コーティングの種々の構成成分の混和性をさらに確実にする。他の実施形態においては、複数の溶媒を組み合わせて、相互に混和性で均一なコーティング材料を達成する。
【0010】
一部の実施形態においては、抗菌性コーティング材料を改質して、所望の表面への材料の適用を可能にするのに望ましい任意の適当な特性を有するようにする。例えば、一部の実施形態において、コーティング材料は、ディッピング(dipping)またははけ塗りによって医療装置の表面に適用される液体の形態で生成する。他の実施形態において、コーティング材料は、ゲル、クリーム、フォーム、エアゾールまたは望ましい稠度および粘度を有する別の流体のうち少なくとも1つとして生成する。
【0011】
本発明のコーティング材料は、任意の望ましい表面に適用できる。例えば、一部の実施形態において、コーティング材料は、血管内医療装置の外表面および内表面のうち少なくとも1つに直接適用する。他の実施形態においては、医療処置のための皮膚の穿刺または他の方法による皮膚の損傷の前に、コーティング材料を患者の皮膚に直接適用する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を十分に理解できるように、以下の説明は具体的な詳細について記載する。しかし、当業者ならば、これらの具体的な詳細を用いずとも、本発明を実施できることを理解し得るであろう。実際に、本発明は任意の適当な方法で改質でき、当業界で常用される任意の適当な化学物質、用具および技術と併用できる。よって、本発明の実施形態の以下のより詳細な説明は、範囲の限定を目的とするのではなく、現時点で好ましいいくつかの実施形態の単なる典型例である。加えて、以下の記載では保健医療環境における本発明の使用を主に取り上げるが、抗菌性材料は任意の適当な環境で使用できる。
【0013】
一般に、本発明は、血管内装置に適用されて広範囲の病原菌を死滅させるかまたはその成長を防止することができる潤滑性の抗菌性コーティング材料に関する。本明細書中で使用する「病原菌」という用語は、感染の可能性のある全ての微生物、例えば、細菌(例えば、波状菌(undulating bacteria)、グラム陰性細菌、グラム陽性細菌、好気性細菌、嫌気性菌、マイコバクテリア、スピロヘータ、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermis)、黄色ブドウ球菌、大腸菌(Escerchia coli)、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)、大便連鎖球菌(Streptococcus faecalis)、クレブシエラ属(Klebsiella)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)など)、真菌(例えば、カビの胞子、黒色麹菌(Aspergillus niger)、黄色麹菌(Aspergillus flavus)、クモノスカビ(Rhizopus nigricans)、クラドスポリウム・ヘルバリウム(Cladosporium herbarium)、エピデルモフィトン・フロッコーサム(Epidermophyton Floccosum)、毛瘡白癬菌(Trichophyton mentagrophytes)、ヒストプラスマ・カプスラーツム(Histoplasma capsulatum)など)、酵母(例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、鵞口瘡カンジダ(Candida albicans)など)、ウイルスまたは有害な可能性がある他の微生物を含むことができる。
【0014】
本発明の好ましい適用は、血管内装置、例えば、静脈内カテーテルの外表面への抗菌性コーティング材料の直接適用である。一部の実施形態において、コーティング材料は、患者と直接接触する血管内装置のそれらの表面にのみ適用する。他の実施形態において、コーティング材料は、病原菌がコロニー形成しやすい血管内装置の全ての表面に適用する。よって、コーティングされた血管内装置を患者の皮膚を通して挿入する場合には、コーティング材料の抗菌性により、カテーテル関連血流感染症(CRBSI)をもたらす可能性があると考えられる病原菌が死滅するかまたはその成長が防止される。
【0015】
抗菌性コーティング材料は、抗感染性であると共に潤滑性であるコーティング材料を生成するように選択された種々の相互に混和性の構成成分を含む。一般に、患者のケアのために使用されるカテーテルは全て、種々の粘度のシリコーン油を用いて潤滑化される。シリコーン油は、炭素ではなくケイ素をベースとする比較的長く複雑な分子を形成する、炭素系有機化合物のケイ素類似体である。シリコーン油の鎖は、四価ケイ素原子が種々の他の種で置換されている交互のシロキサン原子から形成される。
【0016】
本発明の実施形態は、抗菌性材料内で潤滑性剤としての役割を果たすシリコーン油を含有する。本発明の実施形態によるシリコーン油は、それらの潤滑性および抗菌性コーティング材料内でのそれらの混和性のために選択される。さらに、シリコーン油は、水ならびに患者に関連する他の流体、例えば、血液、汗、体液および尿への溶解度が全般的に欠如しているために選択される。血管内装置の表面に適用すると、シリコーン油の構成成分により、コーティング材料は血管内装置の表面から容易に除去されないようになる。よって、シリコーン油は、コーティング材料と血管外装置との密着を確実にすることによってコーティングの抗菌性を保つ。本発明によって使用されるシリコーン油の非限定的な例としては、ジメチコン、トリフルオロプロピルメチルシロキサンおよびそれらの組合せが挙げられる。当業者ならば、他のシリコーン油が本発明の教示に従ってうまく使用され得ることを理解するであろう。
【0017】
本発明の重要な態様には、抗菌性コーティング材料の各構成成分が相互に混和性であって、概して均一なコーティング材料を生成することが必要である。それゆえに、コーティング材料は、混和により(miscibly)相溶性の種々の構成成分を含み、それには、混合されてコーティング材料を生成する種々の構成成分を相互に混和性の溶液中に溶解させる相溶性溶媒が含まれる。よって、一部の構成成分がシリコーン油に可溶性であって、他の構成成分がシリコーン油中に不溶性であり、その結果、追加の溶媒を必要とすることがある。加えて、一部の実施形態においては、コーティング材料内へのシリコーン油の溶解を可能にする溶媒が必要である。
【0018】
例えば、一部の実施形態において、抗菌性コーティング材料は、シリコーン油を混和により溶解することができる溶媒をさらに含む。望ましいシリコーン油溶媒は一般に、コーティング材料の他の構成成分と相溶性または混和性のものである。適当な溶媒としては、種々の炭化水素、ケトン、ハロゲン化炭化水素および炭素原子数が少なくとも3のアルコールを挙げることができる。本発明と適合する、本発明によるシリコーン油溶媒の非限定的な例としては、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテルおよびトランス−1,2−ジクロロエチレンならびにポリエトキシル化界面活性剤が挙げられる。一部の実施形態において、コーティング材料は単一のシリコーン油溶媒を含む。他の実施形態において、コーティング材料はシリコーン油溶媒の混合物を含む。
【0019】
抗菌性コーティング材料の重要な構成成分は、種々の病原菌を死滅させるかまたはその成長を防止するように選択された抗菌剤である。望ましい抗菌剤は一般に、病原性活性を阻害し且つコーティング材料の他の構成成分と混和結合する(miscibility combine)その能力に基づいて選択される。相溶性の、非常に有効な抗菌剤の非限定的な例としては、クロルヘキシジン二酢酸塩、クロルヘキシジングルコン酸塩、トリクロサン、塩化ベンザルコニウム、パラクロロメタキシレノール(PCMX)および細菌の成長を阻害することが知られている他の作用剤が挙げられる。
【0020】
最も有効な抗菌剤は、水または低級アルコール、例えば、炭素原子数が2以下のアルコールに可溶性である。しかし、これらの抗菌剤は一般に、シリコーン油には可溶性でなく、その結果、一部の抗菌剤、例えば、クロルヘキシジン二酢酸塩およびトリクロサンはシリコーン油に溶解させるのが困難である。したがって、本発明の一部の実施形態においては、抗菌剤を混和により溶解することができる溶媒をコーティング材料内に組み入れるのが望ましい。相溶性の抗菌溶媒の非限定的な例としては、水ならびに低級アルコール、例えば、メタノールおよびエタノールが挙げられる。
【0021】
抗菌性コーティング材料は、血管内装置に適用可能な、相互に混和性の抗感染性コーティングを生成するのに必要な任意の適当な濃度の前記構成成分を含むことができる。ここで表1を参照すると、本発明の典型的な実施形態による種々の抗菌性コーティング材料の9種の配合物が示されている。
【0022】
【表1】

【0023】
一部の実施形態において、コーティング材料に添加するシリコーン油は高濃度であり、その結果、添加は比較的少量で済む。例えば、配合物1、2および4〜6はいずれも、高粘度で高濃度の12,500cStシリコーンを含み、その結果、シリコーン油に起因するのはコーティング材料の合計重量のわずか3%である。逆に、配合物3、8および9はそれぞれ、ジメチルシロキサンとトリフルオロプロピルメチルシロキサンシリコーン油との比較的低濃度の混合物を含有し、その結果、配合物の合計重量の約84%から90%がシリコーン油に起因する。最後に、配合物7は、高濃度の12,500cStシリコーン(3%)とシリコーン油の混合物(89.8%)とを共に含み、約93%の合計パーセント重量がシリコーン油に起因する。
【0024】
各配合物は、シリコーン油の可溶化を助ける少なくとも1種の溶媒を含む。一部の実施形態においては、複数のシリコーン油溶媒を配合物に添加する。例えば、配合物7は単一のハロゲン化炭化水素溶媒を含むが、配合物1〜3および5はいずれも2種のハロゲン化炭化水素溶媒を含有し、溶媒または溶媒の組合せはいずれも、それらの個々のシリコーン油を溶解させるように加えられる。同様に、配合物4および6はいずれも3種のハロゲン化炭化水素溶媒を含有する。一方、配合物8および9は、ハロゲン化炭化水素溶媒を含有せずに、ポリエトキシル化界面活性剤Cremophor EL(登録商標)を含有する。非ハロゲン化溶媒を含有する配合物、例えば、配合物8および9の場合には、少量のポリエトキシル化界面活性剤の添加により、コーティング材料内におけるシリコーン油の混和性が改善されることが判明した。したがって、本発明の一部の実施形態において、シリコーン油溶媒は、ハロゲン化炭化水素溶媒およびポリエトキシル化界面活性剤のうち少なくとも1種を含む必要がある。
【0025】
各配合物は、少なくとも1種の抗菌剤を含む。本発明による抗菌剤は、病原菌を死滅させるかまたは他の方法で病原菌の成長を妨げることができる任意の単一の化合物、化学物質、試薬、薬物、基質または溶液を含むことができる。さらに、本発明による抗菌剤は、病原菌を死滅させるかまたは他の方法でその成長を妨げることができる化合物、化学物質、試薬、薬物、基質または溶液の任意の組合せを含むことができる。本発明の種々の実施形態による通常の抗菌剤としては、クロルヘキシジン二酢酸塩、クロルヘキシジングルコン酸塩、トリクロサン、塩化ベンザルコニウム、パラクロロメタキシレノール(PCMX)および細菌の成長を阻害することが知られている他の作用剤が挙げられる。
【0026】
一部の実施形態において、抗菌剤は、特異的な病原菌または特異的なクラスの病原菌を阻害する抗菌剤の能力に基づいて選択される。例えば、配合物1から8はそれぞれ、クロルヘキシジン二酢酸塩を、コーティング材料の合計重量の約0.1%から7.5%の種々の濃度で含有する。クロルヘキシジン二酢酸塩は、グラム陽性菌およびグラム陰性菌をいずれも死滅させる化学的抗菌剤である。クロルヘキシジン二酢酸塩はまた、その静菌性のためによく使用される。したがって、配合物1から8は一般に、細菌成長の防止が望ましいそれらの用途のために生成する。対照的に、配合物9は、クロルヘキシジン二酢酸塩およびトリクロサン抗菌剤を共に含む。トリクロサンは、強力な広域スペクトル抗細菌剤および抗真菌剤である。よって、細菌性微生物を死滅させるだけでなく、配合物9は真菌性微生物に対しても有効であり、その結果、配合物9はより広範な抗菌性コーティング材料となる。
【0027】
前述のように、本発明の一部の実施形態は、抗菌剤を混和により溶解させることができる溶媒をさらに含む。一般に、この抗菌溶媒は、抗菌剤を溶解させて、抗菌性コーティング材料内の構成成分が全て相互に混和性となるように選択される。抗菌溶媒は、水および炭素原子数が2以下の低級アルコールのうち少なくとも1種から選択される。表1の配合物はそれぞれ、コーティング材料の合計重量の約5.13%から30.0%の溶媒エタノールを含有する。エタノール溶媒の種々の濃度は、必要に応じて他の構成成分の濃度に基づいて相互混和性を達成するように選択した。
【0028】
一部の実施形態において、抗菌性コーティング材料は複数の型のアルコールを含む。このような実施形態において、コーティング材料は、任意の適当な数のアルコール、例えば、2、3、4種またはそれ以上のアルコールを含むことができる。加えて、抗菌溶媒は、アルコールの任意の適当な組合せを含むことができる。一例において、溶媒はメタノールおよびエタノールを含む。
【0029】
当業者ならば、抗菌性コーティング材料の構成成分の相互混和性が、種々の溶媒および溶媒の組合せの使用によって達成できることを理解するであろう。当業者ならば、いくつかの溶媒を組み入れて、コーティング材料の有効性を意図的に増加または減少させることが可能なことも理解するであろう。例えば、一部の実施形態においては、選択された溶媒、例えば、アルコールを比較的高濃度で組み入れて、病原菌の成長をさらに阻害できる。他の実施形態においては、選択された溶媒、例えば、アルコールをエモリエントまたはモイスチャライザーと組み合わせて、溶媒に関連する皮層刺激および乾燥状態を打ち消すことができる。
【0030】
前述のように、一部の実施形態において、抗菌溶媒は水を含む。このような実施形態において、水は、任意の適当な水溶液、例えば、希アルコールまたは水を含有する他の溶液で抗菌性コーティング材料に加えることができる。それにもかかわらず、一部の実施形態において、水は、精製水、例えば、米国薬局方(「USP」)の水または脱イオン水を含む。例えば、抗菌溶媒が水を含む場合には、コーティング材料は任意の適当な量の水を含み得る。実際に、一部の実施形態において、シリコーン油、シリコーン油溶媒、抗菌剤、アルコールおよび/または任意の他の適当な成分に加えて、コーティング材料の残りの部分は水からなる。一部の実施形態において、コーティング材料は、約1%から約99%の水を含む。
【0031】
一部の実施形態において、抗菌性コーティングは、少なくとも1種の追加の殺生物剤をさらに含む。このような実施形態において、追加の殺生物剤は、病原菌の増殖を止め、減少させまたは他の方法で妨害すると同時に、抗菌性コーティング材料が血管内装置の表面を衛生化および潤滑化し、ヒトの皮膚上への使用に適したものにすることを可能にする任意の適当な1種または複数の化学物質を含むことができる。適当な殺生物剤の一部の例としては、銀イオンおよび/または銅イオンならびにナノ粒子(例えば、チノサン(tinosan)クエン酸二水素銀)、スルファジアジン銀、イミダゾール、トリアゾール、アリルアミン、フェノール、ヘキサクロロフェン、抗生物質およびスルホンアミドが挙げられる。
【0032】
抗菌性コーティング材料が追加の殺生物剤を含む場合には、抗菌性コーティング材料は任意の適当な分量の殺生物剤を含むことができる。一例において、追加の殺生物剤はコーティング材料の合計重量の約0.01%から約10%を構成する。別の例において、殺生物剤はコーティング材料の約0.1重量%から約5重量%を構成する。さらに別の例において、追加の殺生物剤は抗菌性コーティング材料の約0.5重量%から約2重量%を構成する。
【0033】
前記成分に加えて、抗菌性コーティング材料は、抗菌性コーティング材料が表面を滑らかに衛生化し、皮膚への使用に適当であり且つ病原菌のコロニー形成を防止することを可能にする任意の適当な成分を任意の適当な濃度で含むことができる。このような任意選択の成分の一部の例として、増粘剤、中和剤、pH調整剤、金属塩、染料、香料および/または他の適当な化学物質を挙げることができる。
【0034】
抗菌性コーティング材料を改質して、所望の表面への材料の適用を可能にするのに望ましい任意の適当な特性を有するようにもできる。例えば、一部の実施形態において、コーティング材料は、ディッピングまたははけ塗りによって血管内装置の表面に適用される液体を構成する。他の実施形態において、コーティング材料は、ゲル、クリーム、フォーム、エアゾールまたは望ましい稠度/粘度を有する別の流体のうち少なくとも1つを構成する。
【0035】
抗菌性コーティング材料は、任意の適当な方法で使用できる。例えば、コーティング材料は、レセプタクル(receptacle)上におよび/またはレセプタクル中に配置して、レセプタクルからコーティング材料を分配するかまたは他の方法で使用して対象を清浄化してもよい。このような場合には、コーティング材料は、コーティング材料を目的通りに作用させながらコーティング材料と併用できる任意の構成成分、装置または特性を有する任意の適当なレセプタクル上におよび/またはレセプタクル中に配置できる。適当なレセプタクルの一部の例としては、吸収材料(例えば、タオレット、ガーゼ、スワブ、スワブスティック、スポンジ、流体供給リザーバーアプリケーター付きのスポンジ、布、繊維束など)、スプレーボトル、エアゾールディスペンサーまたは任意の他の適当な容器を挙げることができる。
【0036】
抗菌性コーティング材料を吸収材料上および/または吸収材料中に配置する場合には、抗菌性コーティング材料は、コーティング材料を吸収し、吸収材料が表面と接触する(例えば、表面を拭う)際にコーティング材料の一部を放出でき、しかもヒトの皮膚上への使用に適する任意の適当な物質を含むことができる。適当な物質の一部の例は、綿、紙、セルロース、羊毛、ポリエステル、ポリプロピレン、布、またはコーティングを表面に適用できる吸収性の物体を形成し得る別の材料を含むことができる。
【0037】
コーティング材料は、実質的に全ての表面に適用できる。一例において、コーティング材料は、皮膚に直接適用する(例えば、手を清潔化し、患者の皮膚の一部を穿刺前に清浄化し、患者の皮膚を穿刺後に清浄化およびケアするなどのために)。別の例において、コーティング材料は、非生物対象、例えば、医療機器、床、椅子、ドアハンドル、テーブル、コンピューターのキーボード、コンピューターのマウスなどに適用される。
【0038】
コーティング材料は、任意の適当な方法で表面をコーティングするのに使用できる。例えば、対象、例えば、医療機器(例えば、カテーテル、注射器、メスまたは保健医療環境で使用される別の対象)を、前記抗菌性材料でコーティングできる。この例において、コーティング材料は、任意の適当な方法で、例えば、拭うこと(例えば、吸収材料によって)、スプレーすること、浸すこと、霧化すること、浸漬すること、または他の方法でコーティング材料を対象に適用することによって対象に適用される。加えて、この例において、対象を抗菌性材料でコーティングすると、コーティング材料は、患者との接触によって容易には除去されない抗菌剤の潤滑性層を生成する。よって、抗病原性材料の層は、一定期間、対象上に残存し、その結果、病原菌の成長を防止し、対象のコーティング表面にコロニー形成する病原菌の量を減少させるように作用することができる。
【実施例】
【0039】
配合物3(前述の表1を参照)の抗菌効力を、以下のように阻害実験のゾーンによって試験した。抗菌性コーティング材料を、クロルヘキシジン二酢酸塩(0.49%)、トリクロサン(0.49%)、USPエタノール(13.85%)、ジメチルシロキサンおよびトリフルオロプロピルメチルシロキサン(84.09%)、ならびにポリエトキシル化界面活性剤Cremophor EL(登録商標)(1.09%)を混和により合することによって生成した。次いで、抗菌性コーティング材料を、Becton Dickenson(登録商標)Q−Syte(商標)カテーテル構成部分の外面に適用した。次に、コーティングしたカテーテル構成部分の第1のセットをUSP水中ですすいで、結合していないコーティング材料を全て除去し、コーティングしたカテーテル構成部分の第2のセットはすすがなかった。最後に、コーティングしなかったカテーテル構成部分の第3のセット(対照群)を、USP水中で別個にすすいだ。
【0040】
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌、大腸菌(Escherichia coli)および鵞口瘡カンジダ病原菌の三重反復試験試料を、アガロース成長培地(growth medium)上に載せた。各試料の1つに、すすいだコーティングカテーテル構成部分を入れ、各試料の1つに、すすがなかったコーティングカテーテル構成部分を入れ、各試料の1つに、コーティングしなかった対照カテーテル構成部分を入れた。次に、12個の試料を37℃で7日間インキュベートした。毎日、インキュベーターから試料を取り出し、阻害ゾーンを測定した。実験の結果を、以下の表2から4に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
表2は、完全にコーティングしたがすすがなかったカテーテル構成部分を含む病原菌試料の結果を示す。表2に示されるように、配合物9の抗菌性コーティング材料は、7日間にわたって黄色ブドウ球菌および大腸菌病原菌のかなりの阻害を示した。さらに、鵞口瘡カンジダは黄色ブドウ球菌および大腸菌よりわずかに少ない阻害を示したが、緑膿菌は配合物9に対してかなりの耐性を示した。
【0045】
表3は、すすいだコーティングカテーテル構成部分を含む病原菌試料の結果を示す。表3に示されるように、配合物9の抗菌性コーティング材料は、カテーテル構成部分の予洗にもかかわらず、7日間にわたって黄色ブドウ球菌病原菌および大腸菌病原菌のかなりの阻害を示した。この場合もやはり、緑膿菌病原菌および鵞口瘡カンジダ病原菌は、予洗後にコーティング材料に対してほとんどまたは全く阻害を示さなかった。これらの結果は、シリコーン油の構成成分によるコーティング材料の凝集性と、抗菌剤とコーティング材料の残存構成成分との相互混和性とを共に裏付けている。
【0046】
最後に、表4は、コーティングしなかったカテーテル構成部分または対照試料を含む病原菌試料の結果を示す。表4に示されるように、配合物9のコーティング材料を用いない場合には、試料はいずれも阻害を示さなかった。それゆえに、本発明の抗菌性コーティング材料は、血流感染症を通常引き起こす数種の病原菌の死滅またはその増殖の防止に非常に有効であることが立証された。
【0047】
本発明は、本明細書中に広範に記載し、以下の特許請求の範囲に記載するその構造、方法または他の本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具体化し得る。記載した実施形態および実施例はいずれも、あらゆる点で単なる例示にすぎず、制限的ではないとみなされるべきである。したがって、本発明の範囲は、前記説明ではなく、添付する特許請求の範囲によって示される。特許請求の範囲の均等の意味および範囲内に入る変更は全て、それらの範囲内に包含されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌剤と、
前記抗菌剤を溶解することができる第1の溶媒であって、水、炭素原子数が1のアルコール、および炭素原子数が2のアルコールからなる群から選択される第1の溶媒と、
潤滑性剤と、
前記潤滑性剤を溶解することができる第2の溶媒と
を含み、前記第1の溶媒と前記第2の溶媒は相互に混和性であることを特徴とする抗菌剤組成物。
【請求項2】
前記潤滑性剤がシリコーン油であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第2の溶媒が、炭化水素、ケトン、ハロゲン化炭化水素および炭素原子数が少なくとも3のアルコールのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記第2の溶媒がポリエトキシル化界面活性剤であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記抗菌剤が、クロルヘキシジン二酢酸塩、クロルヘキシジングルコン酸塩、トリクロサン、塩化ベンザルコニウムおよびパラクロロメタキシレノール(PCMX)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記シリコーン油が、ジメチルシロキサンおよびトリフルオロプロピルメチルシロキサンのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
前記第2の溶媒が、2種以上の炭化水素、ケトン、ハロゲン化炭化水素、炭素原子数が少なくとも3のアルコールおよびそれらの組合せを含むことを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項8】
抗菌剤組成物を製造するための方法であって、
抗菌剤を選択するステップと、
前記抗菌剤を溶解することができる第1の溶媒を選択するステップであって、前記第1の溶媒が水、炭素原子数が1のアルコール、および炭素原子数が2のアルコールからなる群から選択されるステップと、
前記抗菌剤を前記第1の溶媒に溶解させて、第1の混和性溶液を生成するステップと、
潤滑性剤を選択するステップと、
前記潤滑性剤を溶解することができる第2の溶媒を選択するステップと、
前記潤滑性剤を前記第2の溶媒に溶解させて、第2の混和性溶液を生成するステップと、
前記第1の混和性溶液と前記第2の混和性溶液とを均一に混合するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記潤滑性剤がシリコーン油であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の溶媒が、炭化水素、ケトン、ハロゲン化炭化水素および炭素原子数が少なくとも3のアルコールのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の溶媒がポリエトキシル化界面活性剤であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記抗菌剤が、クロルヘキシジン二酢酸塩、クロルヘキシジングルコン酸塩、トリクロサン、塩化ベンザルコニウムおよびパラクロロメタキシレノール(PCMX)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記シリコーン油が、ジメチルシロキサンおよびトリフルオロプロピルメチルシロキサンのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の溶媒が、2種以上の炭化水素、ケトン、ハロゲン化炭化水素、炭素原子数が少なくとも3のアルコールおよびそれらの組合せを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項15】
カテーテル関連血流感染症を防止するための血管内システムであって、
外表面を有する血管アクセス装置と、
前記外表面に適用された抗菌性コーティングであって、
抗菌剤と、
前記抗菌剤を溶解することができる第1の溶媒であって、水、C1アルコールおよびC2アルコールからなる群から選択される第1の溶媒と、
潤滑性剤と、
前記潤滑性剤を溶解することができる第2の溶媒と
を含み、前記第1の溶媒と第2の溶媒が相互に混和性である抗菌性コーティングと、
を含むことを特徴とするシステム。
【請求項16】
前記潤滑性剤がシリコーン油であることを特徴とする請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記血管アクセス装置が注射器をさらに含むことを特徴とする請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
前記第2の溶媒が、炭化水素、ケトン、ハロゲン化炭化水素および炭素原子数が少なくとも3のアルコールのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項15に記載のシステム。
【請求項19】
前記第2の溶媒がポリエトキシル化界面活性剤であることを特徴とする請求項15に記載のシステム。
【請求項20】
前記シリコーン油が、ジメチルシロキサンおよびトリフルオロプロピルメチルシロキサンのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項16に記載のシステム。

【公表番号】特表2013−505062(P2013−505062A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529769(P2012−529769)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/045616
【国際公開番号】WO2011/034675
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(595117091)ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー (539)
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
【住所又は居所原語表記】1 BECTON DRIVE, FRANKLIN LAKES, NEW JERSEY 07417−1880, UNITED STATES OF AMERICA
【Fターム(参考)】