説明

医薬品を移し替えるためのシステム及びデバイス

【課題】アダプタとアンプルとの接続並びにアダプタと貯留容器との接続を、ユーザ・フレンドリーな方式で行うことのできる、容器から液体医薬品を移し替えるためのシステム及びデバイスの提供。
【解決手段】貯留容器4から医薬品を移し替えるためのシステム1は、その内部に移動可能なピストン8が配設されているアンプル6と、アダプタ2とを備えている。アダプタ2は、長手軸心の延在方向に並設された貯留容器接続用コネクタ部とアンプル接続用コネクタ部とを有しており、該アンプル接続用コネクタ部は、前記アンプルを接続するためのコネクタ部である。前記アンプル接続用コネクタ部は少なくとも1つのロック機構を備えており、該少なくとも1つのロック機構は周壁部に弾性変形可能部を備えている。前記弾性変形可能部は前記周壁部の一部分であり、前記周壁部の周方向に延在しており、その両端が前記周壁部に接続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器から医薬品を移し替えるためのシステム及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品は、また特にそれが液体医薬品である場合には、例えば薬瓶などの容器の中に、数ミリリットル程度の内容量で収容されていることがしばしばある。医薬品の使用者は、必要に応じて、例えばその容器のシール部分にカニューレを突き刺して、その医薬品の所要量を注射器に充填するなどしている。
【0003】
カニューレを裸の状態で取扱わずに済むように、即ち、裸の状態のカニューレで身体を傷付けることがないように、容器と注射器との間にアダプタを装着するということが行われている。かかるアダプタの様々な具体例が、例えば米国特許第6,591,876号公報などに記載されている。同米国特許公報のアダプタは、第1容器に接続するための第1容器接続用コネクタ部と、第2容器に接続するための第2容器接続用コネクタ部と、それら2つのコネクタ部の間の中央構造部と、そのアダプタの内部に装備されたカニューレとを有しており、中央構造部は、不注意によってカニューレに触れてしまうことがないように、防護する機能を果たしている。第1容器接続用コネクタ部は、その周壁部に、スロットによって互いに分離された複数の突片部が形成されており、それら突片部が第1容器の一部分を囲繞するようにしてある。第2容器接続用コネクタ部は、その周壁部に、2つの開口が形成されており、それら2つの開口に、第2容器の先端部分に形成されている2つの側方突起がスナップ式に嵌合して連結されるようにしてある。同米国特許公報に記載されている具体例のうちには、アダプタがロック機構を備えているものがあり、アダプタと容器とを接続したならば、このロック機構によって、中央構造部を圧縮した状態に保持するようにしている。また、別の具体例として、中央構造部を圧縮した状態にすることを不要にしたものもある。そのような具体例では、中央構造部を剛体構造として、その中央構造部が、互いに反対側を向いた2つの把持面を備えているようにしている。
【0004】
かかるアダプタの具体的な適用例を挙げるならば、例えばインシュリンポンプのアンプルにインシュリンを充填する際などにこの種のアダプタが用いられ、そのような使い方をするインシュリンポンプとしては、例えばドイツに所在のRoche Diagnostics GmbH社の製品であるAccu-Chek(登録商標)インシュリンポンプなどがある。同製品のインシュリンポンプは、インシュリンを体内へ連続的に注入するためのポンプであり、その注入は、皮下に穿刺して留置したカニューレに接続した細いチューブを介して行われる。マイクロプロセッサが制御するモータが、スクリューロッドを介して、インシュリンが充填されているアンプルの中へピストンヘッドを押し込むようにしてあり、このピストンヘッドの駆動は、例えば3分間ごとに行われる。全てのインシュリンが注入されてアンプルが空になったならば、患者はその空になったアンプルを、予め自分で再充填しておいた別のアンプルに交換するか、或いは、充填した状態で販売されている別のアンプルに交換する。
【0005】
かかる事情から、患者自身が投薬操作に関与する医薬品のためのデバイスは、ユーザ・フレンドリーな方式で、容易に、そして、大きな力を加えることなく、操作し得るものであることが望まれている。
【特許文献1】米国特許第6,591,876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、アダプタとアンプルとの接続、並びに、アダプタと貯留容器との接続を、ユーザ・フレンドリーな方式で行うことのできる、容器から液体医薬品を移し替えるためのシステム及びデバイスを提供することにある。そして、かかる目的を達成するために、本明細書において開示するシステム及びデバイスの実施の形態においては、当該デバイスが少なくとも1つのロック機構を備えており、該少なくとも1つのロック機構が弾性変形可能部を備えているようにしている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
それゆえ1つの局面は、貯留容器から医薬品を移し替えるためのシステムに関するものである。このシステムは、その内部に移動可能なピストンが配設されているアンプルと、アダプタとを備えており、前記アダプタは、長手軸心の延在方向に並設された貯留容器接続用コネクタ部とアンプル接続用コネクタ部とを有しており、該アンプル接続用コネクタ部は、前記アンプルを接続するためのコネクタ部である。前記アンプル接続用コネクタ部は少なくとも1つのロック機構を備えており、該少なくとも1つのロック機構は周壁部に弾性変形可能部を備えている。該弾性変形可能部は前記周壁部の一部分であり、前記周壁部の周方向に延在しており、その両端が前記周壁部に接続している。
【0008】
またもう1つの局面は、貯留容器から医薬品を移し替えるシステムのためのアダプタに関するものである。このアダプタは、長手軸心の延在方向に並設された貯留容器接続用コネクタ部とアンプル接続用コネクタ部とを有しており、該アンプル接続用コネクタ部は、アンプルを接続するためのコネクタ部である。前記アンプル接続用コネクタ部は少なくとも1つのロック機構を備えており、該少なくとも1つのロック機構は周壁部に弾性変形可能部を備えており、該弾性変形可能部は前記周壁部の一部分であり、前記周壁部の周方向に延在しており、その両端が前記周壁部に接続している。
【0009】
本発明のその他の実施の形態、利点、新規な特性、及び用途については、図面に関連した以下の詳細な説明を通して明らかにして行く。尚、図面中、同一の構成要素ないし構成部分には同一の参照番号を付してある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に開示する本発明の様々な実施の形態は、投薬デバイスであるインシュリンポンプに本発明を適用した場合のものであるが、ただし本発明の範囲はそれら実施の形態のみに限定されるものではない。即ち、インシュリンポンプは、本発明の具体的な適用例のうちの1つであり、インシュリンポンプを用いるときには、その準備操作として、糖尿病に適用される医薬品であるインシュリンを、それを収容している容器から、投薬デバイスであるインシュリンポンプに装備される別の容器へ移し替えるということが行われる。また、その他の適用例を挙げるならば、例えば、成長異常に適用される成長ホルモン、腎臓障害や広範な赤血球減少症に適用されるエリスロポエチン(EPO)、それに、肝炎や癌に適用されるαインターフェロンなどの医薬品を投与するためにも用いられる。
【0011】
また、医療用途において容器から移し替える医薬品は多くの場合液体医薬品であるが、本発明は液体医薬品を移し替える用途のみに限定されず、本発明の様々な実施の形態のうちには、液体医薬品ではない医薬品を移し替えるという用途に用いるものもある。即ち、本発明は、様々な粘度の医薬品に対して広く一般的に適用されるものである(液体医薬品から、凍結乾燥粉末製剤を液体中に分散させた薬剤に至るまで適用可能である)。
【0012】
図1は、例えば液体医薬品などの医薬品を貯留容器4から移し替えるためのシステム1の、その1つの実施の形態を示した模式図である。システム1はアダプタ2とアンプル6とを備えており、アンプル6はその内部に移動可能なピストンが配設されている。尚、ここで使用している「貯留容器」及び「アンプル」という用語は、物質を収容するのに適した容器一般を指すものである。貯留容器4及びアンプル6は、例えばプラスチック、ガラス、金属などの剛性材料で製作された容器であってもよく、また、可撓性を有する材料や弾性変形可能な材料で製作された容器であってもよい。後者の例としては、プラスチックやその他の材料を薄膜状にしたフィルム材料で製作された容器などがある。
【0013】
貯留容器4からアンプル6への医薬品の移し替えはアダプタ2を介して行われる。医薬品の移し替えを行う際には、アンプル6及び貯留容器4をアダプタ2に接続する。それらを接続することにより、貯留容器4の内部とアンプル6の内部とが、中空針であるカニューレを介して連通した状態になる。この状態で、例えば患者が、アンプル6からピストン8を引出して行くと、医薬品がアンプル6の中へ流入する。こうして充填が完了したアンプル6を、例えばインシュリンポンプなどに装着する。尚、その際に、1つの実施の形態では更に、ピストン8からピストンロッドを取外して、アンプル6の内部には、このアンプル6を封止しているピストンヘッドだけを残すようにしている。ピストン8を、図5及び図6A〜図6Dに、更に詳細に図示した。
【0014】
図2は、アダプタ2の1つの実施の形態を示した側面図である。アダプタ2は、貯留容器接続用コネクタ部10と、中央構造部12と、アンプル接続用コネクタ部14とを備えている。貯留容器接続用コネクタ部10は、貯留容器4を接続するためのコネクタ部であり、その形状は中空の略々円筒形状である。貯留容器接続用コネクタ部10は、その周壁部の外周面に、周方向に間隔をあけて複数の窪み部16が形成されており、図示例ではそれら窪み部16の個数を3個としている。そして、周壁部の外周面に窪み部16が形成されていることによって、周壁部の内周面には図3及び図4に示したように膨出部が形成されている。
【0015】
図示した実施の形態では、中央構造部12は、貯留容器接続用コネクタ部10とアンプル接続用コネクタ部14とを接続する円筒形の部分を含んでいる。更に、中央構造部12には1つまたは複数のリブ部11を形成するようにしており、図示例では、かかるリブ部の個数を2個としている。それらリブ部11は、円筒形の部分の外側に形成されており、貯留容器接続用コネクタ部10とアンプル接続用コネクタ部14との間にあって径方向外方へ延展している。それらリブ部11のために、アダプタ2を把握すること及び/または把持することが容易となっている。また図示した実施の形態では、中央構造部12には、そのアンプル接続用コネクタ部14に近接した箇所に、互いに反対側に位置する2つの開口18が形成されており、それら開口18を通して、アンプル6の先端部分(例えば図5に示したようなルアーコネクタとして形成されている部分)を、例えば患者が視認できるようにし、もって、アンプル6の先端部分に空気が入っているのかそれとも医薬品が入っているのかを視認可能にしている。また、これによって、充填プロセスの終了間際に、患者がアンプル6内の不都合な気泡を公知の方法で排除することを容易にしている。
【0016】
アンプル接続用コネクタ部14は、アンプル6を接続するためのコネクタ部である。図示した実施の形態では、アンプル接続用コネクタ部14の形状は中空の略々円筒形状であり、その直径は中央構造部12から離れて外端へ近付くにつれて拡大している。このシステムがアンプルを接続した状態にあるときには、そのアンプルのルアーコネクタとして形成されている部分が、アンプル接続用コネクタ部14に嵌合している。図示した実施の形態においては更に、アンプル接続用コネクタ部14が2つのロック機構を備えており、それら2つのロック機構は、アンプル接続用コネクタ部14の周壁部の互いに反対側の箇所に設けられている。それらロック機構の各々は、2つのスロット22、24と、1つの弾性可能部20とを備えており、この弾性可能部20を以下、ウェブ部20という。2つのスロット22、24は夫々に開口を画成しており、それによって、弾性変形可能部20が弾性変形して径方向へ変位し得るようになっている。アンプル接続用コネクタ部14は、また特にそのロック機構は、図5に示したアンプル6の先端部分に適合する形状(例えばルアーコネクタの形状)に形成されている。
【0017】
別構成の実施の形態として、2つのスロット22、24を備える替わりに、ただ1つのスロットを備えた実施の形態とすることも可能である。このような実施の形態では、弾性変形可能部20とその1つのスロットとでロック機構を構成することになる。更に、このような実施の形態では、その弾性変形可能部20を、弾性変形して径方向へ変位し得るようなものとしておけばよい。
【0018】
図3は図2に示したアダプタ2の平面図であり、この平面図には、貯留容器接続用コネクタ部10と、中空針26即ちカニューレ26とが示されている。図示した実施の形態においては、貯留容器接続用コネクタ部10の周壁部の形状を、円形から逸脱した形状にしてある。別構成の実施の形態として、この周壁部の形状を、図3の形状とは異なった形状としてもよく、例えば円形の形状としてもよい。図3に示した円形から逸脱した形状は、例えば、元は円形の周壁部の3つの窪み部16の近傍領域をやや平坦化することによって得られる形状であり、この形状とするには、例えば、一旦は円形に成形した後に更に変形させるようにしてもよく、或いは、成形プロセスにおいて最初からこの形状に成形するようにしてもよい。図3に示したように、3つの窪み部16は、貯留容器接続用コネクタ部10の周壁部の外周面に、周方向に等間隔で形成されており、それらが形成されていることによって、貯留容器接続用コネクタ部10の周壁部の内周面には、それらに対応した複数の膨出部が形成されている。貯留容器接続用コネクタ部10の周壁部の形状を非円形としたことによって、直径が多少異なる貯留容器4でも、貯留容器接続用コネクタ部10に嵌合可能となっている。貯留容器4の直径が大きいほど、周壁部が変形して形状が真円にちかくなる。即ち、非円形の形状と真円の形状との間の形状差を利用して、周壁部が変形できるようにしてあり、そして、周壁部が変形することによって、貯留容器4の直径差を吸収するようにしている。また、内周面の複数の膨出部は、貯留容器4をアダプタ2に固定保持する機能を果たすものである。
【0019】
貯留容器接続用コネクタ部10には、その基端領域に、カニューレ26を囲繞するようにして円形の膨出部28が形成されている。この膨出部28の直径は、貯留容器の先端部分の口元の直径に応じた寸法にしてある。この膨出部28は、貯留容器の弾性隔膜(カニューレを穿刺する膜体)にめり込ませることができ、それによって、様々な貯留容器4の長手方向の寸法のばらつきを吸収可能にしている。
【0020】
これより図4及び図5を参照して、アダプタ2のロック機構の動作態様について開示して行く。図4に示したのはアダプタ2の斜視図であり、この図4には特に、3つのリブ部11のうちの1つのリブ部と、2つのロック機構のうちの一方のロック機構とが示されている。図5に示したのはアンプル6の内部に配設されているピストン8の模式図である。尚、図5では、アンプル6の全体のうちの先端部分だけが示されている。
【0021】
ウェブ部20は、周壁部の一部分であり、また細長い形状の部分であって、周壁部の周方向にスロット22、24と平行に延在しており、その両端が周壁部に接続している。ウェブ部20の両側縁部のうち、中央構造部12に面している側の側縁部はスロット22により画成されており、アンプル6に面している側の側縁部はスロット24により画成されている。図4に示したように、ウェブ部20の形状は、アンプル接続用コネクタ部14の内部へ膨出するように彎曲した形状とするとよい。1つの実施の形態では、アダプタ2の製作材料を、弾性変形可能なポリプロピレン(PP)としている。そして、それによってウェブ部20を、略々径方向に変位するように弾性変形可能にしている。
【0022】
1つの実施の形態では、アンプル6の先端部分の形状を、カラー部32を備えた(雄型の)ルアーコネクタ部30の形状と基本的に同一形状にしている。カラー部32は、ルアーコネクタ部30の長手軸心から略々垂直に延出している。カラー部32は、2つの円板部36、38から成り、それら円板部36、38は、ルアーコネクタ30の長手軸心の延在方向に互いに離隔して、4つの連結壁部34によって互いに接続されている。そして、この構成により、2つの円板部36、38の間に、4つの連結壁部によって互いに区画された4つの空間部40が画成されている。
【0023】
アンプル6をアダプタ2に接続するには、アンプル6の先端部分をアンプル接続用コネクタ部14に押込み、アンプル6とアダプタ2とを互いに押し付け合うように力を加えるようにする。そうすることで先ず、カラー部32の円板部36によって、2つのウェブ部20が径方向外方へ押し広げられる。もしそのとき、互いに反対側に形成されている2つのウェブ部20の位置が、4つのうちの2つの空間部40の位置に揃っていたならば、それら2つのウェブ部20がそれら2つの空間部40に係合し、それらが係合したことは明確に認識される。一方、それら2つのウェブ部20の位置が、4つのうちの2つの接続壁部34の位置に揃っていた場合には、アンプル6及び/またはアダプタ2を軸心の回りに少々回転させて、2つのウェブ部20の位置を、4つのうちの2つの空間部40の位置に揃えるようにすれば、それらウェブ部20を係合させることができる。また、係合状態になるときに、カラー部32の円板部36がスロット22の中に嵌合するため、それによってウェブ部20が弾性変形した状態から元の状態に復帰して、接続状態を保持する機能を果たすようになる。
【0024】
アンプル6をアダプタ2から取外すには、患者はアンプル6とアダプタ2とを引き離す方向に引っ張ればよく、またその際に、アンプル6及び/またはアダプタ2を軸心の回りに回転させながら引っ張るようにするとよい。このように回転させると、接続壁部34によって、2つのウェブ部20が径方向外方へ押し広げられるため、より小さな力を加えるだけで、アンプル6とアダプタ2とを分離することができる。
【0025】
図6A及び図6Bに示したのはピストン8の模式図であり、このピストン8は、ピストンロッド46とピストンヘッド42とを備えている。また、図6Bはピストン8の縦断面図である。ピストンヘッド42は、ピストンロッド46の先端部分に螺合可能としたものであり、螺合されることによってピストンロッド46の先端部分に連結され、また、2本の封止リング44を備えている。それら封止リング44の各々は、ピストンヘッド42の外周に形成された夫々の溝に嵌装されている。ピストンロッド46の先端部分には、ネジ部52が形成されており、このネジ部52が、ピストンヘッド42の非貫通孔に螺合される。ネジ部52には雄ネジが形成されており、この雄ネジは非貫通孔の雌ネジに対応するものである。
【0026】
ピストンロッド46は、その後端部分に、人間工学的に優れた形状の摘み部48が形成されている。患者はこの摘み部48を摘むことによって、ピストン8を把持して引っ張ることができる。人間工学的に優れた形状の摘み部48は、ピストンロッド46のその他の部分と一体的に形成されている。この摘み部48の形状は、通常、患者がそれを2本の指(例えば親指と人指し指)で、または3本の指(例えば親指、人指し指、及び中指)で、無理なく自然に摘んで把持することができる形状とする。また特に、その形状は、患者が摘み部48を把持する際の接触面積が比較的大きくなるような形状とするのがよい。そうすれば、患者によっては摘み具合が悪いと感じたり、指先が痛いと感じたりすることさえある角張った部分を、可及的に排除した形状とすることができる。
【0027】
図6C及び図6Dは、ピストンヘッド42を取外してピストンロッド46だけを示した模式図である。ネジ部52には、長手軸心の延在方向に延展するすり割り部50が形成されており、このすり割り部50によって、ネジ部52が2つの部分に分割されている。それら2つの部分は可撓性を有しており、例えばピストンヘッド42を螺合させたときなどには、互いに近付く方向に弾性変形する。
【0028】
ネジ部52の外径寸法は、ピストンヘッド42の雌ネジの谷径寸法よりも、所定寸法だけ大きくしてある。すり割り部50によって分割されている2つの部分が可撓性を有しているために、この所定寸法の寸法差が吸収され、また更に、製造誤差も吸収されるようになっている。これら寸法差及び製造誤差の吸収は、ピストンヘッド42が、その雌ネジの螺条によって、ネジ部52の2つの部分を互いに近付けるように押圧することによって達成される。このとき、ネジ部52の2つの部分は、ピストンヘッド42の雌ネジの螺条に押し付けられており、そのためガタが全く存在しない連結状態が得られており、もって、ピストンロッド46とピストンヘッド42とが好適に一体化されている。このことは、特に、充填プロセスの終了間際の時点でアンプル6の内部に気泡が混入している場合に、患者が指先で弾くことによってそのアンプル6の容器壁に衝撃を加えて、その気泡を浮かび上がらせようとする際に、大きな利点となるものである。
【0029】
以上に説明した螺合による連結構造に関しては、更に、アンプル6の内部でピストンヘッド42を回転させるために必要とされるトルクよりも、ピストンヘッド42からピストンロッド46を取外す際に必要とされるトルクの方が小さくなるようにしてある。これによって、螺合していたピストンロッド46を回転させて取外す際に、ピストンヘッド42の共回りを発生させることなく、ピストンロッド46を取外せるようになっている。
【0030】
貯留容器4から医薬品を移し替えるためのシステム及びデバイスの実施の形態として、以上に説明した様々な実施の形態は、広く一般的に、医薬品の移し替えを容易に行えるようにするものである。また特に、以上に説明した実施の形態は、患者自身の手で空のアンプル6に医薬品を充填する場合に、その移し替えを容易に行えるようにすることのできるものとなっている。また、ロック機構を装備することに加えて、更に、アンプル6に複数の空間部を列設して形成することによって、アンプル6をアダプタ2に接続する際に、ウェブ部20が一度で空間部40に係合する確率を高めることができる。更に、アンプル6をアダプタ2から取外す際には、患者はアダプタ2及び/またはアンプル6を引っ張ればよく、その際に更に回転を加えるようにするとよい。それによって、弾性変形可能部であるウェブ部20をカラー部32から離脱させることができる。
【0031】
移し替えの操作を容易にしているその他の特徴としては、開口18を形成したこと、それにネジ部52にすり割り部を設けたことがある。アダプタ2に形成した開口18は、充填プロセスの終了間際の時点でアンプル6から不都合な気泡を除去することを容易にしている。即ち、患者は気泡を除去するためにアンプル6及び/またはピストンロッド46を指で弾くことがあるが、その際に、すり割り部を設けたネジ部52はピストンヘッド42にしっかりと連結しているため、ピストンロッド26が緩んでしまうということがない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】液体医薬品を移し替えるためのシステムの1つの実施の形態を示した模式図である。
【図2】アダプタの1つの実施の形態を示した側面図である。
【図3】図2に示したアダプタの平面図である。
【図4】図2に示したアダプタの斜視図である。
【図5】アンプルの中のピストンを示した模式図である。
【図6A】ピストンロッドとピストンヘッドとを備えたピストンを示した模式図である。
【図6B】ピストンロッドとピストンヘッドとを備えたピストンを示した模式図である。
【図6C】ピストンロッドを示した模式図である。
【図6D】ピストンロッドを示した模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留容器(4)から医薬品を移し替えるためのシステム(1)であって、その内部に移動可能なピストン(8)が配設されているアンプル(6)と、アダプタ(2)とを備えており、前記アダプタ(2)は、長手軸心の延在方向に並設された貯留容器接続用コネクタ部(10)とアンプル接続用コネクタ部(14)とを有しており、該アンプル接続用コネクタ部(14)は前記アンプル(6)を接続するためのコネクタ部であるシステム(1)において、
前記アンプル接続用コネクタ部(14)は少なくとも1つのロック機構を備えており、該少なくとも1つのロック機構は周壁部に弾性変形可能部(20)を備えており、該弾性変形可能部(20)は前記周壁部の一部分であり、前記周壁部の周方向に延在しており、その両端が前記周壁部に接続している、
ことを特徴とするシステム(1)。
【請求項2】
前記アダプタ(2)は、前記貯留容器接続用コネクタ部(10)と前記アンプル接続用コネクタ部(14)との間の中央構造部(12)に、互いに反対側に位置する2つの開口(18)を備えており、該開口(18)を通して前記アンプル(6)の先端部分が視認可能とされていることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記アダプタ(2)は、前記貯留容器接続用コネクタ部(10)と前記アンプル接続用コネクタ部(14)との間の中央構造部(12)に、少なくとも1つのリブ部(11)を備えており、該リブ部(11)は、前記貯留容器接続用コネクタ部(10)と前記アンプル接続用コネクタ部(14)との間にあって径方向外方へ延展していることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項4】
前記アダプタ(2)は、前記貯留容器接続用コネクタ部(10)と前記アンプル接続用コネクタ部(14)との間の中央構造部(12)に、互いに反対側に位置する2つの開口(18)を備えており、該開口(18)を通して前記アンプル(6)の先端部分が視認可能とされており、更に、前記アダプタ(2)は、前記貯留容器接続用コネクタ部(10)と前記アンプル接続用コネクタ部(14)との間の前記中央構造部(12)に、少なくとも1つのリブ部(11)を備えており、該リブ部(11)は、前記貯留容器接続用コネクタ部(10)と前記アンプル接続用コネクタ部(14)との間にあって径方向外方へ延展していることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つのロック機構は、更に、1つのスロット(22、24)を備えており、前記弾性変形可能部(20)が該スロット(22、24)の中を該スロット(22、24)と平行に延在していることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載のシステム。
【請求項6】
前記少なくとも1つのロック機構は、更に、2つのスロット(22、24)を備えており、前記弾性変形可能部(20)が該スロット(22、24)の中を該スロット(22、24)と平行に延在していることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載のシステム。
【請求項7】
前記貯留容器接続用コネクタ部(10)が非円形の断面形状を有することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載のシステム。
【請求項8】
前記貯留容器接続用コネクタ部(10)が周壁部に少なくとも1つの窪み部(16)を有しており、該窪み部が形成されていることによって、該周壁部の内周面に膨出部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項記載のシステム。
【請求項9】
前記アンプル(6)がルアーコネクタ部(30)を備えており、該ルアーコネクタ部はカラー部(32)を有しており、該カラー部(32)は2つの円板部(36、38)から成り、それら円板部(36、38)は、長手軸心の延在方向に互いに離隔し、4つの連結壁部によって互いに接続されており、それによって、互いに区画された4つの空間部(40)が画成されており、それら空間部(40)は、前記弾性変形可能部(20)に対応した形状を有することを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項記載のシステム。
【請求項10】
前記ピストン(8)が人間工学的に優れた形状の摘み部(48)を備えていることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項記載のシステム。
【請求項11】
前記ピストン(8)がピストンロッド(46)とピストンヘッド(42)とを備えており、該ピストンヘッド(42)は、該ピストンロッド(46)に螺合可能であり、螺合されることで該ピストンロッド(46)に連結されることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項記載のシステム。
【請求項12】
前記ピストンロッド(46)がネジ部(52)を備えており、該ネジ部は前記ピストンヘッド(42)の非貫通孔に螺合されることを特徴とする請求項11記載のシステム。
【請求項13】
前記ネジ部(52)には前記ピストン(8)の長手軸心の延在方向に延展するすり割り部(50)が形成されており、該すり割り部(50)によって前記ネジ部(52)が2つの部分に分割されていることを特徴とする請求項12記載のシステム。
【請求項14】
前記ネジ部(52)の外径寸法を前記非貫通孔の孔径寸法よりも所定寸法だけ大きくしてあることを特徴とする請求項13記載のシステム。
【請求項15】
貯留容器(4)から医薬品を移し替えるシステム(1)のためのアダプタ(2)であって、長手軸心の延在方向に並設された貯留容器接続用コネクタ部(10)とアンプル接続用コネクタ部(14)とを有しており、該アンプル接続用コネクタ部(14)はアンプル(6)を接続するためのコネクタ部であるアダプタ(2)において、
前記アンプル接続用コネクタ部(14)は少なくとも1つのロック機構を備えており、該少なくとも1つのロック機構は周壁部に弾性変形可能部(20)を備えており、該弾性変形可能部(20)は前記周壁部の一部分であり、前記周壁部の周方向に延在しており、その両端が前記周壁部に接続している、
ことを特徴とするアダプタ(2)。
【請求項16】
前記貯留容器接続用コネクタ部(10)と前記アンプル接続用コネクタ部(14)との間の中央構造部(12)に、互いに反対側に位置する2つの開口(18)が形成されており、該開口(18)を通して前記アンプル(6)の先端部分が視認可能とされていることを特徴とする請求項15記載のアダプタ(2)。
【請求項17】
前記貯留容器接続用コネクタ部(10)と前記アンプル接続用コネクタ部(14)との間の中央構造部(12)に、少なくとも1つのリブ部(11)が形成されており、該リブ部(11)は、前記貯留容器接続用コネクタ部(10)と前記アンプル接続用コネクタ部(14)との間にあって径方向外方へ延展していることを特徴とする請求項15記載のアダプタ(2)。
【請求項18】
前記貯留容器接続用コネクタ部(10)と前記アンプル接続用コネクタ部(14)との間の中央構造部(12)に、互いに反対側に位置する2つの開口(18)が形成されており、該開口(18)を通して前記アンプル(6)の先端部分が視認可能とされており、更に、前記貯留容器接続用コネクタ部(10)と前記アンプル接続用コネクタ部(14)との間の前記中央構造部(12)に、少なくとも1つのリブ部(11)が形成されており、該リブ部(11)は、前記貯留容器接続用コネクタ部(10)と前記アンプル接続用コネクタ部(14)との間にあって径方向外方へ延展していることを特徴とする請求項15記載のアダプタ(2)。
【請求項19】
前記少なくとも1つのロック機構は、更に、1つのスロット(22、24)を備えており、前記弾性変形可能部(20)が該スロット(22、24)の中を該スロット(22、24)と平行に延在していることを特徴とする請求項15乃至18の何れか1項記載のアダプタ。
【請求項20】
前記少なくとも1つのロック機構は、更に、2つのスロット(22、24)を備えており、前記弾性変形可能部(20)が該スロット(22、24)の中を該スロット(22、24)と平行に延在していることを特徴とする請求項15乃至18の何れか1項記載のアダプタ。
【請求項21】
前記貯留容器接続用コネクタ部(10)が非円形の断面形状を有することを特徴とする請求項15乃至16の何れか1項記載のアダプタ(2)。
【請求項22】
前記貯留容器接続用コネクタ部(10)が周壁部に少なくとも1つの窪み部(16)を有しており、該窪み部が形成されていることによって、該周壁部の内周面に膨出部が形成されていることを特徴とする請求項15乃至17の何れか1項記載のアダプタ(2)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【公開番号】特開2007−216008(P2007−216008A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−19066(P2007−19066)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】