説明

医薬性ガス投与装置

【課題】医薬性ガスの無駄な消費を削減し、安全や環境への配慮も可能な医薬性ガス投与装置を提供する。
【解決手段】人工呼吸器2の呼吸ラインを流れるガスに医薬性ガスを導入する医薬性ガス投与装置であって、上記医薬性ガスの導入を、人工呼吸器2における人工呼吸の呼気相と吸気相の入れ替わりに連動させて間歇的に行うことにより、人工呼吸の吸気相に合わせた医薬性ガスの導入が可能となり、従来無駄に排出されていた医薬性ガスを節減して医薬性ガスの消費量を大幅に削減し、治療環境に排出する医薬性ガス量を大幅に減らし、医療関係者の健康被害や地球温暖化等の環境破壊を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体や動物の治療を目的として、医薬性ガスを人体に投与するための医薬性ガス投与装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体や動物に生理作用を及ぼすガスが、医薬性ガスとして臨床医療で使用されることがある。このような医薬性ガスとして、例えば、以下に示すようなガスについて臨床での使用が期待されている(下記の非特許文献1〜6等参照)。
【0003】
一酸化窒素は、血管拡張作用を有し、新生児の肺高血圧による低酸素症の改善を目的として世界各国で既に医薬品として認可され、臨床での使用が期待されている。
ヘリウムは、喘息患者の狭窄した気管支へ酸素を送り込む際の呼吸補助作用等を期待されており、海外では既に臨床にて使用され、日本では実用化へ向けて研究が進められている。
キセノンは、ドイツでは麻酔薬として承認されており、日本では脳血流分布の診断薬として承認されている。
一酸化炭素は、一酸化窒素と同様に、血管の弛緩(拡張)に関与しているグアニルシクラーゼを活性化させるという研究結果があり、実用化へ向けた研究が行われている。
二酸化炭素は、高山病や麻酔時における覚醒作用、手術後の肺拡張不全の予防作用などに効果があり、医薬品として承認されている。さらに、早産児において、人工換気を結果的に短縮する効果も期待され、実用化に向けた研究が行われている。
【0004】
このように、既に実用化されているもの以外にもさまざまなガスについて医薬用としての研究開発が盛んに行われており、それらの臨床使用は、今後ますます拡大していくことが期待されている。
【0005】
医薬性ガスは、気体として取り扱えるため、患者には呼吸を介して体内に導入することが行われるが、これらのガスは、患者の肺内で常に有効な濃度域を維持し、容態に合わせて濃度を変更する必要がある。加えて、患者の呼吸にあわせて持続的に投与するために大量のガスが必要となる。したがって、臨床での使用においては、あらかじめ一定の濃度に調整した医薬性ガスをボンベ等から濃度調整なしで直接投与することは困難である。
【0006】
このため、有効濃度よりも高めに調整した医薬性ガスをボンベ等に高圧にて充填して供給源として用い、人工呼吸器から供給されるガスに対して流量調節して添加し、希釈することにより、患者に有効濃度の医薬性ガスを呼吸させる方法が効率的かつ現実的である。すなわち、医薬性ガスの使用にあたっては、人工呼吸器等と連動する精密なガスの濃度あるいは流量制御機構を用いた投与方法が妥当であるとされている。
【0007】
このような方法を用いて実用化に至った従来技術の例として、特許文献1に示される酸化窒素送出装置があげられる。この装置は、人工呼吸器を併用し、人工呼吸器から吐出される呼吸回路における吸気流量に応じ、既知濃度の医薬性ガスの必要流量を制御して患者回路に導入し、患者に対して一定濃度で投与することを達成する装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−194705号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】廣瀬悦子,新生児呼吸療法モニタリングフォーラム予稿集,(2007)
【非特許文献2】ガスメディキーナ2006,株式会社ガスレビュー,p.27−30,(2007)
【非特許文献3】G.S.Marks,et al.,Trends Pharmacol Sci,12,p.185−188,(1991)
【非特許文献4】Gonzalo Mariani,et al.,PEDIATRICS Vol.104 No.5,p.1082−1088,(1999)
【非特許文献5】救急・集中治療,岡本和文編,株式会社総合医学社,Vol.17,No.11・12,P.1252,(2005)
【非特許文献6】人工呼吸療法 改訂第3版,沼田克雄監修,秀潤社,P.42,(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、患者へ投与された医薬性ガスを患者体内へ有効に導入できるタイミングは、患者の吸気時(吸気相)であり、それ以外(呼気相)では、医薬性ガスは患者体内に導入されることがない。したがって、上記特許文献1の装置では、回路ガスの流量に基づいて医薬性ガスの投与量制御を行っているため、人工呼吸器から供給される回路ガスが流動している限り、呼気相にもかかわらず医薬性ガスを投与し続けることとなり、呼気相に投与された医薬性ガスは、患者の体内に導入されることなく無駄に排気されてしまう。しかも、一般的に、人工呼吸療法における吸気相と呼気相の時間比率(I:E比)は1:2であり(上記非特許文献5参照)、呼気に費やす時間は吸気の2倍となることから、この間のガス浪費は無視できない。
【0011】
このように、上記特許文献1の装置では、医薬性ガスの消費量は、実際の必要量よりも遥かに多く、患者体内に導入されることなく無駄に排出されてしまうガスも多いのが実情である。さらに、医薬性ガスとして使用されるガスの種類によっては、人体が必要としている量を超えた場合に人体に毒性をもたらしたり、環境に悪影響を及ぼしたりする可能性もあり、治療にかかわる医療関係者の健康被害や地球温暖化等の環境破壊につながるおそれも懸念される。
【0012】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、医薬性ガスの無駄な消費を削減し、安全や環境への配慮も可能な医薬性ガス投与装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の医薬性ガス投与装置は、人工呼吸手段の呼吸ラインを流れるガスに医薬性ガスを導入する医薬性ガス投与装置であって、
上記医薬性ガスの導入を、人工呼吸手段における人工呼吸の呼気相と吸気相の入れ替わりに連動させて間歇的に行うことを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記医薬性ガスの導入を、人工呼吸手段における人工呼吸の呼気相と吸気相の入れ替わりに連動させて間歇的に行うため、人工呼吸の吸気相に合わせた医薬性ガスの導入が可能となり、従来無駄に排出されていた医薬性ガスを節減して医薬性ガスの消費量を大幅に削減することができる。また、治療環境に排出する医薬性ガス量を大幅に減らし、医療関係者の健康被害や地球温暖化等の環境破壊を防止できる。さらに、医薬性ガスの消費量の抑制により、医療費の削減や医薬性ガスボンベの交換頻度の減少に伴う医療従事者の労力の低減にも貢献することができる。
【0015】
本発明において、上記医薬性ガスの導入のタイミングを、人工呼吸手段の呼吸ラインにおける流量変化をトリガとして制御する場合には、医薬性ガスの導入タイミングを人工呼吸の吸気相に確実に合わせることが可能となり、医薬性ガスの無駄な消費を削減し、健康被害や環境破壊を防止できる。さらに、医薬性ガスの消費量の抑制により、医療費の削減や医薬性ガスボンベの交換頻度の減少に伴う医療従事者の労力の低減にも貢献することができる。
【0016】
本発明において、上記医薬性ガスの導入のタイミングを、人工呼吸手段の呼吸ラインにおける圧力変化をトリガとして制御する場合には、医薬性ガスの導入タイミングを人工呼吸の吸気相に確実に合わせることが可能となり、医薬性ガスの無駄な消費を削減し、健康被害や環境破壊を防止できる。さらに、医薬性ガスの消費量の抑制により、医療費の削減や医薬性ガスボンベの交換頻度の減少に伴う医療従事者の労力の低減にも貢献することができる。
【0017】
本発明において、上記医薬性ガスの導入のタイミングを、人工呼吸手段における圧力変動手段および/または流量変動手段の動作をトリガとして制御する場合には、医薬性ガスの導入タイミングを人工呼吸の吸気相に確実に合わせることが可能となり、医薬性ガスの無駄な消費を削減し、健康被害や環境破壊を防止できる。さらに、医薬性ガスの消費量の抑制により、医療費の削減や医薬性ガスボンベの交換頻度の減少に伴う医療従事者の労力の低減にも貢献することができる。
【0018】
本発明において、人工呼吸手段の呼吸ラインにおける医薬性ガスの濃度を検知し、上記検知した濃度に基づいて、医薬性ガスを導入する際の医薬性ガスの濃度を制御する場合には、医薬性ガスの投与濃度を常に適切に制御し、適切な治療を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の医薬性ガス投与装置の一実施形態を示す構成図である。
【図2】実施例1の結果を示す線図である。
【図3】実施例2の結果を示す線図である。
【図4】比較例の結果を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0021】
図1は、本発明が適用される医薬性ガス投与装置1を示す図である。この医薬性ガス投与装置1は、人工呼吸手段として人工呼吸器2を使用し、上記人工呼吸器2の呼吸ライン3を流れるガスに医薬性ガスを導入し、上記呼吸ライン3に流れる回路ガスに対して所定濃度となるように医薬性ガスを混入し、上記呼吸ライン3に取り付けられたマスク7を介して患者4に対して人工呼吸をさせることにより医薬性ガスを患者4に投与するものである。なお、上記人工呼吸用の回路ガスとしては、例えば、酸素濃度を高めた空気、酸素、空気等を用いることができる。
【0022】
より詳しく説明すると、上記人工呼吸器2の呼吸ライン3は、この例では、人工呼吸器2からマスク7を介して患者4に吸気としての人工呼吸器から供給される回路ガスを送る吸気ライン12と、上記マスク7を介して患者4から人工呼吸器2に呼気としての回路ガスを送る呼気ライン11とを備えて構成されている。
【0023】
そして、この例では、上記吸気ライン12に、吸気ライン12を流れる人工呼吸器から供給される回路ガスに対して医薬性ガスを導入する導入アダプタ8が設けられている。上記導入アダプタ8は、人工呼吸器から供給される回路ガスに医薬性ガスが導入され混合されてから患者4の口元であるマスク7に到達するまでのタイムロスを軽減するため、この例では吸気ライン12のうちマスク7の直近に配置している。
【0024】
また、上記吸気ライン12には、吸気ライン12を流れる人工呼吸器から供給される回路ガスの流量と圧力の少なくともいずれかを検知する検知器9が設けられている。この例では、上記検知器9は、吸気ライン12を流れる人工呼吸器から供給される回路ガスの流量と圧力の双方を検知する。
【0025】
さらに、上記人工呼吸器2には、呼気ライン11の終端すなわち呼気ライン11と人工呼吸器2との接続部近傍に、呼気弁10が設けられている。上記人工呼吸器2は、上記呼気弁10の開閉操作もしくは開度調整操作を行うことにより、呼吸ライン3を流れる人工呼吸器から供給される回路ガスの圧力を間歇的に変動させる。
【0026】
すなわち、上記呼気弁10を閉じるもしくは開度を小さくすることにより、呼吸ライン3を流れる人工呼吸器から供給される回路ガスの圧力が高くなり、同時に流量は一時的に小さくなる。このときの圧力上昇により人工呼吸器から供給される回路ガスが患者4の肺内に強制的に導入され、吸気相が形成される。反対に、上記呼気弁10を開くもしくは開度を大きくすることにより、呼吸ライン3を流れる人工呼吸器から供給される回路ガスの圧力が低くなり、同時に流量は一時的に大きくなる。このときの圧力低下により人工呼吸器から供給される回路ガスが患者4の肺内から強制的に排出され、呼気相が形成される。
【0027】
このように、上記呼気弁10は、人工呼吸器2における圧力変動手段および流量変動手段として機能し、人工呼吸の呼気相と吸気相およびその入れ替わりを形成する手段として機能する。
【0028】
一方、本実施形態の医薬性ガス投与装置1は、この例では、医薬性ガスが充填された医薬性ガスボンベ5から圧力調整弁6を介して医薬性ガスの供給を受ける供給ライン23と、上記導入アダプタ8に連通して医薬性ガスを呼吸ライン3に導入するための導入ライン21とを備えている。
【0029】
また、上記医薬性ガス投与装置1は、供給ライン23から導入ライン21に接続するガスライン24に、供給ライン23側から遮断弁16、逆止弁17、三方切換弁18、流量制御弁19、開閉弁20が設けられている。
【0030】
上記遮断弁16は、装置の停止時等に、供給ライン23からの医薬性ガスの供給を遮断するものである。上記逆止弁17は、ガスライン24を流れる医薬性ガスの逆流を防止する。上記三方切換弁18は、ガスライン24を流れる医薬性ガスをパージライン22へ切り換えてパージを可能としている。
【0031】
上記流量制御弁19は、ガスライン24を流れる医薬性ガスの流量を制御し、導入ライン21から呼吸ライン3に導入する医薬性ガスの流量すなわち導入量を制御することにより、マスク7に送り込む回路ガスに対する医薬性ガスの濃度を調整し、医薬性ガスの患者4への投与量を調整する。上記開閉弁20は、間歇的に開閉制御することにより、医薬性ガスを呼吸ライン3に導入する導入開始タイミングと導入時間を制御する。
【0032】
また、上記医薬性ガス投与装置1は、中央処理装置13を備えている。上記中央処理装置13は、後述するように、呼吸ライン3の圧力変化、呼吸ライン3の流量変化、呼気弁10の動作をトリガとして、開閉弁20の開弁を制御することにより、上記医薬性ガスの導入を、人工呼吸器2における人工呼吸の呼気相と吸気相の入れ替わりに連動させて間歇的に行うよう制御する。
【0033】
上記中央処理装置13は、上記検知器9で検知した呼吸ライン3を流れる回路ガスの圧力を受信し、上記呼吸ライン3(この例では吸気ライン12)における圧力変化をトリガとして開閉弁20の開弁制御を行い、上記医薬性ガスの導入の開始タイミングを制御することができる。すなわち、上述したように、人工呼吸の吸気相は呼吸ライン3を流れる回路ガスの圧力が相対的に高く、人工呼吸の呼気相は呼吸ライン3を流れる回路ガスの圧力が相対的に低くなるよう制御される。そこで、呼吸ライン3内の回路ガスの圧力を検知器9で検知し、低圧相から高圧相への圧力変化を検知し、この圧力変化をトリガとして開閉弁20を開いて医療用ガスの導入開始タイミングを制御することができる。
【0034】
また、上記中央処理装置13は、上記検知器9で検知した呼吸ライン3を流れる回路ガスの流量を受信し、上記呼吸ライン3(この例では吸気ライン12)における流量変化をトリガとして開閉弁20の開弁制御を行い、上記医薬性ガスの導入の開始タイミングを制御することができる。上述したように、人工呼吸の呼気相から吸気相への切り換わりのときは、呼吸ライン3を流れる回路ガスの流量が一時的に小さくなる。そこで、呼吸ライン3内の回路ガスの流量を検知器9で検知し、一時的に流量が小さくなる流量変化を検知し、この流量変化をトリガとして開閉弁20を開いて医療用ガスの導入開始タイミングを制御することができる。
【0035】
また、上記中央処理装置13は、上記呼気弁10(圧力変動手段および/または流量変動手段として機能する)の動作を受信し、上記呼気弁10の動作をトリガとして開閉弁20の開弁制御を行い、上記医薬性ガスの導入の開始タイミングを制御することができる。すなわち、上述したように、人工呼吸の呼気相と吸気相は、人工呼吸器において呼吸ライン3内の回路ガスの圧力変動および流量変動をつかさどる圧力変動手段および/または流量変動手段として機能する呼気弁10を開閉する動作により切り換えられる。そこで、上記呼気弁10を閉じるもしくは開度を小さくする動作を図示しない検知手段で検知し、呼気弁10における呼気相から吸気相への切り替え動作を検知し、この動作をトリガとして開閉弁20を開いて医療用ガスの導入開始タイミングを制御することができる。
【0036】
また、上記中央処理装置13は、開閉弁20の閉弁タイミングすなわち医療用ガスの導入停止タイミングを制御し、人工呼吸器における人工呼吸の呼気相と吸気相の入れ替わりに連動させて呼吸ライン3に医療用ガスを間歇的に導入する。
【0037】
開閉弁20の閉弁タイミングは、呼吸ライン3の高圧相から低圧相への圧力変化を検知し、この圧力変化をトリガとして開閉弁20を閉じて医療用ガスの導入停止タイミングを制御することができる。
【0038】
また、開閉弁20の閉弁タイミングは、人工呼吸の吸気相から呼気相への切り換わりのときは、呼吸ライン3を流れる回路ガスの流量が一時的に大きくなる。そこで、呼吸ライン3内の回路ガスの流量を検知器9で検知し、一時的に流量が大きくなる流量変化を検知し、この流量変化をトリガとして開閉弁20を閉じて医療用ガスの導入停止タイミングを制御することができる。
【0039】
また、開閉弁20の閉弁タイミングは、上記呼気弁10(圧力変動手段および/または流量変動手段として機能する)の動作を受信し、上記呼気弁10の動作をトリガとして制御することができる。すなわち、上述したように、人工呼吸の呼気相と吸気相は、人工呼吸器において呼吸ライン3内の回路ガスの圧力変動および流量変動をつかさどる圧力変動手段および/または流量変動手段として機能する呼気弁10を開閉する動作により切り換えられる。そこで、上記呼気弁10を開くもしくは開度を大きくする動作を図示しない検知手段で検知し、呼気弁10における吸気相から呼気相への切り替え動作を検知し、この動作をトリガとして開閉弁20を閉じて医療用ガスの導入停止タイミングを制御することができる。
【0040】
ここで、開閉弁20の閉弁タイミングは、例えば、開閉弁20の開弁からの時間、呼吸ライン3の高圧相から低圧相への圧力変化を検知してからの時間、呼吸ライン3内の回路ガスの流量が一時的に大きくなる流量変化を検知してからの時間、呼気弁10を開くもしくは開度を大きくする動作を検知してからの時間を、図示しないタイマで計測し、所定時間の経過をトリガとして制御することもできる。
【0041】
ここで、上記開閉弁20の開弁制御および/または閉弁制御は、人工呼吸器の呼吸ラインにおける流量変化、圧力変化、呼気弁10の動作をトリガとして制御するが、流量変化、圧力変化、呼気弁10の動作を検知した後、図示しないタイマで計測した所定時間の経過後に実行してタイミングを補正することもできる。
【0042】
このとき、吸気相の前半に医薬性ガスの投与流量と医薬性ガスの回路内濃度が高くなるよう医療用ガスの導入停止タイミングを制御してもよい。すなわち、人工呼吸において吸気相の後半1/3程度の時間は、回路ガスは、患者4の体内の肺内空間には導入されるものの、上下気道から肺胞に至る手前までの空間内までしか到達せず、そのガスが血中に取り込まれるまでには至らず、人工呼吸には実質的に寄与しない。時間的にいえば、吸気相の前半2/3の有効なガス量を吸収するのに要する時間は、吸気相の前半1/3までといわれている。
【0043】
そこで、吸気相の前半(少なくとも前半2/3、好ましくは前半1/2、より好ましくは前半1/3)に医薬性ガスの投与流量と医薬性ガスの濃度が高くなるよう医療用ガスの導入停止タイミングを制御することにより、医薬性ガスの導入を実際に有効な人工呼吸に合わせることができ、医薬性ガスをより節減し、健康被害や環境破壊を確実に防止できる。このときの開閉弁20の閉弁タイミングは、例えば、上述したタイマによる時間制御を行うのが制御しやすくて好適である。
【0044】
この実施形態では、医薬性ガスは、供給源である医薬性ガスボンベ5から圧力調整弁6で減圧され、遮断弁16、逆止弁17および三方切換弁18を経由して流量制御弁19により所定流量に制御されて導入ライン21に導かれる。このとき、開閉弁20の開閉により、導入開始タイミングと導入停止タイミングが制御され、医薬性ガスは、導入アダプタ8を介して吸気ライン12に間歇的に導入され、導入アダプタ8内で回路ガスと混合されて所定濃度で患者4に投与される。
【0045】
さらに、上記医薬性ガス投与装置1は、例えば導入アダプタ8内に設けられた医薬性ガスの濃度を検知する図示しないセンサを用い、呼吸ライン3内の医薬性ガスの濃度を測定する濃度測定器14を備えている。また、上記医薬性ガス投与装置1は、呼吸ライン3内の回路ガスに対する医薬性ガスの濃度を設定入力する濃度入力部15を備えている。
【0046】
そして、上記図示しないセンサおよび濃度測定器14により、人工呼吸器2の呼吸ライン3における医薬性ガスの濃度を検知し、上記中央処理装置13は、上記検知した濃度に基づいて、医薬性ガスを導入する際の医薬性ガスの濃度を制御する。
【0047】
すなわち、濃度測定器14は、呼吸ライン3内における回路ガス内の医薬性ガスの濃度を測定して中央処理装置13に送る。また、流量制御弁19は図示しない流量センサを備え、流量制御弁19を通過して呼吸ライン3内に導入される医薬性ガスの流量を検知して中央処理装置13に送る。また、検知器9は、呼吸ライン3内の回路ガスの流量を検知して中央処理装置13に送る。
【0048】
上記中央処理装置13は、まず、呼吸ライン3内へ医薬性ガスを所定流量導入し、その結果表れる回路内の医薬性ガス濃度を測定する。回路へ導入する医薬性ガスのボンベに充填された濃度を既知量c、医薬性ガスの流量を既知量q、人工呼吸器から供給される流量を未知量Qおよびその結果生じる回路内の医薬性ガス濃度を既知量Cとすると、それらの関係は一般にC=c・q/(Q+c・q)・・・(1)として表される。この関係から、中央処理装置13にて未知量である人工呼吸器から供給される回路流量をQ=c・q×(1−C)/C・・・(2)としてあらかじめ算出する。なお、人工呼吸器から供給される回路流量Qは吸気開始および呼気開始時に若干の変動があるものの、人工呼吸器の設定を変えない限り一連の呼吸動作を通してほぼ一定といえるので、一時的な定数として取り扱える。Qを定数と置くことで呼吸ライン3における人工呼吸器から供給される回路ガス内の医薬性ガス濃度Cが濃度入力部15で設定した値になるように、上記の関係および算出された回路流量Qより必要な医薬性ガス流量q=Q×C/(1−C)・c・・・(3)として算出、流量制御弁19の開度調整により制御できる。なお、人工呼吸器の設定変更により人工呼吸器から供給される回路流量Qが変化した場合には、その結果生じる回路内の医薬性ガス濃度Cの変化を検出することで、人工呼吸器から供給される回路流量変化を間接的に認識し、再度上記関係式(2)から回路流量Qを改めて算出、設定のうえ、新たな定数Qを用いた上記と同様のロジックで新たな必要な医薬性ガス流量qを導き流量制御を改める。また、人工呼吸器の設定回路流量Qは別途単独で測定され、回路流量計算値との比較、監視することにより、回路内の医薬性ガス濃度センサの劣化や回路からのガス漏れ等による大幅な乖離が生じた際の安全回路や警報等を作動させる。
【0049】
これにより、人工呼吸器2等のガス送出装置からの可変するガス流量に対し、医薬性ガスボンベ5からの医薬性ガスを所定濃度となるように流量制御しながら呼吸ライン3に導入することができる。
【0050】
この実施形態では、医薬性ガスの導入位置を、吸気ライン12におけるマスク7近傍としている。これにより、吸気流に対する医薬性ガスの添加タイミングの遅れを極力排除し、医薬性ガスの導入から患者4口元へ到達するまでのタイムロスを低減し、医療用ガスの正確な投与タイミングを達成して患者4に対する臨床的効果を損なわないようにできる。
【0051】
また、回路ガスの流量および圧力の検知器9を人工呼吸器2のガス供給口の近傍に配置している。これにより、呼吸ライン3の回路内でのガス流動の微小変化をすばやく検知し、精度のよいタイミングで医薬性ガスを投与することができる。また、上記検知器は、呼気ライン11の呼気弁10の近傍に配置することも可能であり、この場合も、呼吸ライン3の回路内でのガス流動の微小変化をすばやく検知し、精度のよいタイミングで医薬性ガスを投与することができる。
【0052】
図2は、上記医薬性ガス投与装置1により、医薬性ガスとしてCOを使用し、呼吸ライン3内の圧力変化をトリガとして医薬性ガスの投与を行った実施例1の結果を示す。
【0053】
下段グラフは、回路内(呼吸ライン3内)の流量および圧力の時間変化を示す線図である。吸気相では、圧力が相対的に呼気相よりも高くなり、呼気相では、圧力が相対的に吸気相よりも低くなっていることがわかる。また、呼気相から吸気相への切り換わりの際に、一時的に流量が低下し、吸気相から呼気相への切り換わりの際に、一時的に流量が上昇することがわかる。
【0054】
上段グラフは、上記医薬性ガス投与装置1による呼吸ライン3への医薬性ガスの投与流量と、回路内(呼吸ライン3内)の医薬性ガス(CO)の濃度の時間変化を示す線図である。吸気相の前半において、医薬性ガスの投与流量と医薬性ガス(CO)の濃度が高くなり、設定値あるいは目標値に達していることがわかる。このように、この実施例1では、吸気相の前半に医薬性ガスの投与流量と医薬性ガスの濃度が設定値あるいは目標値に到達するよう制御している。なお、設定値あるいは目標値は、ここでの値は一例を示すものであり、治療方法等に依存して適宜設定することができる趣旨である。
【0055】
図3は、上記医薬性ガス投与装置1により、医薬性ガスとしてCOを使用し、呼吸ライン3内の流量変化をトリガとして医薬性ガスの投与を行った実施例2の結果を示す。
【0056】
下段グラフは、回路内(呼吸ライン3内)の流量および圧力の時間変化を示す線図であり、実施例1と同様である。
【0057】
上段グラフは、上記医薬性ガス投与装置1による呼吸ライン3への医薬性ガスの投与流量と、回路内(呼吸ライン3内)の医薬性ガス(CO)の濃度の時間変化を示す線図である。吸気相の前半において、医薬性ガスの投与流量と医薬性ガス(CO)の濃度が高くなり、設定値あるいは目標値に達していることがわかる。このように、この実施例2でも、吸気相の前半に医薬性ガスの投与流量と医薬性ガスの濃度が設定値あるいは目標値に到達するよう制御している。なお、設定値あるいは目標値を治療方法等に依存して適宜設定することができるのは実施例1と同様である。また、この実施例2では、呼気相においても医薬性ガスの投与流量と医薬性ガスの濃度が高くなる箇所が存在するが、吸気相から呼気相への切り換えの際の流量変化をノイズとして検知したものであり、制御系の最適化等により、当該ノイズを検知しないよう制御することは可能である。
【0058】
図4は、従来の医薬性ガス投与装置により、医薬性ガスとしてCOを使用して医薬性ガスの投与を行った比較例の結果を示す。
【0059】
下段グラフは、回路内(呼吸ライン3内)の流量および圧力の時間変化を示す線図であり、実施例1と同様である。
【0060】
上段グラフは、比較例による呼吸ライン3への医薬性ガスの投与流量と、回路内(呼吸ライン3内)の医薬性ガス(CO)の濃度の時間変化を示す線図である。医薬性ガスの投与流量と、回路内(呼吸ライン3内)の医薬性ガスの濃度は、吸気相と呼気相において差がなく、医薬性ガスが常に消費されていることがわかる。
【0061】
下記の表1は、上記実施例1と比較例による医薬性ガスの消費量を比較したものである。1吸気相あたりの医薬性ガス(CO)の投与量は、比較例が106.0ミリリットルであるのに対し、実施例1では8.3ミリリットルであり、医薬性ガスの削減量は97.7ミリリットル、削減率は92.2%であった。
【0062】
【表1】

【0063】
上記実施例1および2、比較例からわかるように、圧力トリガ方式、流量トリガ方式ともに、患者4の口元において、吸気開始にほぼ同期して医薬性ガスの投与が開始され、吸気相中で患者4の肺内に有効に医薬性ガスの取り込みが可能な期間に時間的な的を絞った投与を達成できた。特に、圧力トリガ方式では、圧力変動が安定しているため、トリガとする圧力変化を正確に捉え、トリガタイミングや投与時間の制御性も良好であった。
【0064】
以上のように、本実施形態の医薬性ガス投与装置1では、上記医薬性ガスの導入を、人工呼吸器2における人工呼吸の呼気相と吸気相の入れ替わりに連動させて間歇的に行うため、人工呼吸の吸気相に合わせた医薬性ガスの導入が可能となり、従来無駄に排出されていた医薬性ガスを節減して医薬性ガスの消費量を大幅に削減することができる。また、治療環境に排出する医薬性ガス量を大幅に減らし、医療関係者の健康被害や地球温暖化等の環境破壊を防止できる。さらに、医薬性ガスの消費量の抑制により、医療費の削減や医薬性ガスボンベの交換頻度の減少に伴う医療従事者の労力の低減にも貢献することができる。
【0065】
また、上記医薬性ガスの導入のタイミングを、人工呼吸器2の呼吸ライン3における流量変化をトリガとして制御する場合には、医薬性ガスの導入タイミングを人工呼吸の吸気相に確実に合わせることが可能となり、医薬性ガスの無駄な消費を削減し、健康被害や環境破壊を防止できる。さらに、医薬性ガスの消費量の抑制により、医療費の削減や医薬性ガスボンベの交換頻度の減少に伴う医療従事者の労力の低減にも貢献することができる。
【0066】
また、上記医薬性ガスの導入のタイミングを、人工呼吸器2の呼吸ライン3における圧力変化をトリガとして制御する場合には、医薬性ガスの導入タイミングを人工呼吸の吸気相に確実に合わせることが可能となり、医薬性ガスの無駄な消費を削減し、健康被害や環境破壊を防止できる。さらに、医薬性ガスの消費量の抑制により、医療費の削減や医薬性ガスボンベの交換頻度の減少に伴う医療従事者の労力の低減にも貢献することができる。
【0067】
また、上記医薬性ガスの導入のタイミングを、人工呼吸器2における呼気弁10の動作をトリガとして制御する場合には、医薬性ガスの導入タイミングを人工呼吸の吸気相に確実に合わせることが可能となり、医薬性ガスの無駄な消費を削減し、健康被害や環境破壊を防止できる。さらに、医薬性ガスの消費量の抑制により、医療費の削減や医薬性ガスボンベの交換頻度の減少に伴う医療従事者の労力の低減にも貢献することができる。
【0068】
また、人工呼吸器2の呼吸ライン3における医薬性ガスの濃度を検知し、上記検知した濃度に基づいて、医薬性ガスを導入する際の医薬性ガスの濃度を制御する場合には、医薬性ガスの投与濃度を常に適切に制御し、適切な治療を可能にする。
【0069】
なお、本発明に適用される医薬性ガスとしては、二酸化炭素、一酸化窒素をはじめ、例えば、ヘリウム、一酸化炭素等、医薬性を示すガスであれば、特に限定するものではなく、各種のガスを適用することができる趣旨である。
【0070】
また、上述した実施形態では、人工呼吸手段として人工呼吸器2を使用した例を説明したが、本発明を適用可能な人工呼吸手段としては、上述したような人工呼吸器2に限定するものではなく、例えば、バッグバルブマスクやジャクソンリース回路装置のように、バッグを手動で握りつぶして呼吸ラインから患者に人工呼吸用の回路ガスを供給する用手換気装置や、呼吸ラインとして吸気回路のみで患者に回路ガスを供給する単一呼吸回路の送気装置に等も本発明の人工呼吸手段として本発明を適用することができる趣旨である。
【符号の説明】
【0071】
1:医薬性ガス投与装置
2:人工呼吸器
3:呼吸ライン
4:患者
5:医薬性ガスボンベ
6:圧力調整弁
7:マスク
8:導入アダプタ
9:検知器
10:呼気弁
11:呼気ライン
12:吸気ライン
13:中央処理装置
14:濃度測定器
15:濃度入力部
16:遮断弁
17:逆止弁
18:三方切換弁
19:流量制御弁
20:開閉弁
21:導入ライン
22:パージライン
23:供給ライン
24:ガスライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工呼吸手段の呼吸ラインを流れるガスに医薬性ガスを導入する医薬性ガス投与装置であって、
上記医薬性ガスの導入を、人工呼吸手段における人工呼吸の呼気相と吸気相の入れ替わりに連動させて間歇的に行うことを特徴とする医薬性ガス投与装置。
【請求項2】
上記医薬性ガスの導入のタイミングを、人工呼吸手段の呼吸ラインにおける流量変化をトリガとして制御する請求項1記載の医薬性ガス投与装置。
【請求項3】
上記医薬性ガスの導入のタイミングを、人工呼吸手段の呼吸ラインにおける圧力変化をトリガとして制御する請求項1記載の医薬性ガス投与装置。
【請求項4】
上記医薬性ガスの導入のタイミングを、人工呼吸手段における圧力変動手段および/または流量変動手段の動作をトリガとして制御する請求項1記載の医薬性ガス投与装置。
【請求項5】
人工呼吸手段の呼吸ラインにおける医薬性ガスの濃度を検知し、上記検知した濃度に基づいて、医薬性ガスを導入する際の医薬性ガスの濃度を制御する請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬性ガス投与装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−220711(P2010−220711A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69434(P2009−69434)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)