説明

医薬

【課題】 オキソリン化合物についての生理的特性を解明し、その新規かつ有用な用途開発を目的としてなされた医薬を提供する。
【解決手段】 一般式
【化1】


(R1は炭化水素基、炭化水素オキシ基、ヘテロアリール基、フェロセニル基、シリル基、置換シリル基又はアリールセレノ基、R2及びR3は水素原子又は炭化水素基、R4及びR5は炭化水素基又は炭化水素オキシ基、nは0又は1)
で表わされるオキソリン化合物を有効成分として含有する医薬とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキソリン化合物を有効成分として含有する医薬、特に癌細胞増殖抑制のために用いる医薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オキソリン化合物のうち、リン酸エステル、亜リン酸エステルは、以前からよく知られた化合物であり、金属錯化合物の配位子やリン含有生理活性物質、例えばリン脂質誘導体の合成原料として用いられ、その特定構造の誘導体も多数知られている。
【0003】
例えば、炭素数3以上のアルキル基又はその置換体をもつリン酸又は亜リン酸エステル(特許文献1参照)、2‐フェニルエテニルベンジル基をもつリン酸エステル(特許文献2参照)、ブチロイルオキシ基又は4‐フェニルブチロイルオキシ基をもつリン酸エステル(特許文献3参照)などが知られている。
【0004】
また、エチレン性二重結合をもつオキソリン化合物としても、例えばフェニル(1‐オクテン‐1‐イル)ホスフィン酸メンチルのような光学活性ホスフィン酸エステル(特許文献4参照)、リン原子上にキラル性をもつ光学的に活性なアルケニルフォスフィン酸エステル及びその製造方法(特許文献5参照)などがこれまでに提案されている。
【0005】
そのほか、用途を特定したオキソリン化合物の発明として、一般式
【化1】

(式中のRは水素原子又はアルキル基、Arはアリール基、Xは連結基)
で表わされるホスフィンオキシド基で置換された芳香族化合物を用いた発光素子(特許文献6参照)、ポリイソプレニルモノホスフェート化合物を活性成分とした制癌剤(特許文献7参照)などが知られている。
【0006】
しかしながら、これらのオキソリン化合物について、その生理的特性についての研究はほとんど行われていないため、実用的な用途は見出されていなかった。
【0007】
【特許文献1】特開昭59−42394号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開昭61−85395号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特表2001−514665号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献4】特開2002−265479号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献5】米国特許出願公開第01/64362号明細書(特許請求の範囲その他)
【特許文献6】特開2004−95221号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献7】特開昭60−67424号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情のもとで、オキソリン化合物についての生理的特性を解明し、その新規かつ有用な用途開発を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、各種オキソリン化合物の生理的活性について種々試験した結果、特定の化学構造をもつオキソリン化合物が癌細胞増殖抑制作用を示すことを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、一般式
【化2】

(式中のR1は炭化水素基、炭化水素オキシ基、ヘテロアリール基、フェロセニル基、シリル基、置換シリル基又はアリールセレノ基、R2及びR3は水素原子又は炭化水素基、R4及びR5は炭化水素基又は炭化水素オキシ基、nは0又は1である)
で表わされるオキソリン化合物を有効成分として含有する医薬を提供するものである。
【0011】
本発明医薬の有効成分としては、前記一般式(I)で示されるオキソリン化合物であるが、この一般式中のR1〜R5の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基のいずれでもよい。
【0012】
この脂肪族炭化水素基は、飽和又は不飽和、直鎖状又は枝分れ状のいずれでもよいが、炭素数1〜18、好ましくは1〜10、特に1〜4のアルキル基、炭素数2〜18、好ましくは2〜10、特に2〜4のアルケニル基が好適である。
【0013】
このようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n‐プロピル基、イソプロピル基、n‐ブチル基、sec‐ブチル基、t‐ブチル基、n‐ペンチル基、n‐ヘキシル基、2‐メチルペンチル基、n‐デシル基などがあり、アルケニル基としては、例えば、エテニル基、1‐プロペニル基、2‐プロペニル基、1‐ブテニル基、2‐ブテニル基、3‐ペンテニル基などがある。
【0014】
また、脂環族炭化水素基は、炭素数3〜18、好ましくは5〜10であり、これは単環状又は多環状のいずれでもよく、また構造中に不飽和結合を含んでいてもよい。このようなものとしては、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、シクロヘキセニル基、シクロオクチニル基、シクロドデシル基、ビシクロドデシル基などがある。
【0015】
芳香族炭化水素基は、炭素数6〜18、好ましくは6〜14、特に6〜10の単環状、多環状のアリール基及び炭素数7〜18、好ましくは7〜14、特に7〜10のアラルキル基が含まれる。
【0016】
このようなアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基が、アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、ベンジルフェニル基、フェニルベンジル基、ナフチルメチル基などを挙げることができる。
【0017】
また、前記一般式(I)中のR14及びR5における炭化水素オキシ基の例としては、前記した炭化水素基に酸素原子が結合したものを挙げることができるが、特に好ましいものとして、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基のようなアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基のようなアリールオキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、ナフチルメトキシ基などのアラルキルオキシ基を挙げることができる。
【0018】
これらの炭化水素基又は炭化水素オキシ基は、炭素原子にそれと結合し得る生理活性に対し悪影響を与えない不活性な置換基、例えば、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、アミノ基、置換アミノ基、例えばメチルアミノ基、ジメチルアミノ基など、アルコキシ基例えばメトキシ基、エトキシ基など、アルコキシカルボニル基例えばメトキシカルボニル基などを有していてもよい。
【0019】
次にR1の中のヘテロアリール基は、ヘテロ原子を含む芳香族性を有する複素環基を意味し、このようなものとしては、例えばフラニル基、テニル基、ピロリル基、ピリジル基、チアゾリル基、イミダゾリル基、キノリル基、ピペリジル基、モルホニル基、ピラニル基などがある。
【0020】
また、シリル基は、SiH3基のみであるその中の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、アリール基で置換された置換シリル基、例えばトリメチルシリル基であってもよい。
【0021】
次に、アリールセレノ基としては、セレン原子にアリール基が結合した置換基であり、例えばフェニルセレノ基、トリルセレノ基、キシリルセレノ基、ナフチルセレノ基などを挙げることができる。
【0022】
前記一般式(I)において、nが1の場合は、一般式
【化3】

(式中のR1〜R5は前記と同じ意味をもつ)
で表わされるアルケニルホスフィンオキシドである。
【0023】
このような化合物としては、例えばR4及びR5がフェニル基、R2及びR3が水素原子で、R1がヘキシル基、シクロヘキセニル基、フェロセニル基のもの、R1が水素原子、R2、R3、R4及びR5がフェニル基のもの、R1及びR2が水素原子、R3がヘキシル基のものを挙げることができる。
【0024】
一方、nが0の場合は、一般式
【化4】

(式中のR1、R4及びR5は前記と同じ意味をもつ)
で表わされるホスフィナートである。
【0025】
このような化合物としては、例えば一般式(I)−bにおいて、R1がヘキシル基、R4がフェニル基、R5が2‐イソプロピル‐5‐メチルシクロヘキシルオキシ基である化合物、R1がシクロペンチル基、R4がフェニル基、R5が2‐イソプロピル‐5‐メチルシクロヘキシルオキシ基である化合物、R1がシクロヘキシル基、R4がフェニル基、R5が2‐イソプロピル‐5‐メチルシクロヘキシルオキシ基である化合物、R1がマンデル基、R4がフェニル基、R5が2‐イソプロピル‐5‐メチルシクロヘキシルオキシ基である化合物などを挙げることができる。
【0026】
これらのオキソリン化合物は、固形癌及びリンパ腫、特に皮膚癌、膀胱癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌などの癌細胞の増殖を抑制する作用を有し、癌の予防薬又は治療薬として用いることができる。
【0027】
本発明の化合物を医薬として用いる場合は、これを通常の製剤に際して使用されている賦形剤と混合し、注射液、経鼻投与剤、散剤、錠剤、糖衣錠、舌下錠、カプセル剤、トローチ剤、坐薬、クリーム剤、軟膏剤、皮膚適用ゲル剤、液剤などに製剤する。
【0028】
この際用いられる賦形剤としては、例えば生理塩水、水、ブドウ糖液、エタノール、ジメチルスルホキシドなどの液状賦形剤、乳糖、ブドウ糖、亜硫酸ナトリウム、リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、炭酸水素ナトリウム、カオリン、タルク、酸化亜鉛、デンプン、ゼラチン、ヨウ化カリウム、塩化ナトリウム、ホウ酸などの固体賦形剤を挙げることができる。
【0029】
前記一般式(I)のオキソリン化合物を医薬として投与する場合の投与量は、経口投与の場合、1日の投与量は、体重当り約0.001から50mg/kg、好ましくは0.01から30mg/kgが適当である。静脈投与される場合、1日の投与量は、体重当り約0.0001から50mg/kg、好ましくは、約0.001から10mg/kgが適当であり、これを1日1回乃至複数回に分けて投与するか、持続的に点滴投与することが好ましい。投与頻度、投与量、点滴投与時間などは、症状、年令、性別などを考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、癌細胞増殖抑制作用を有し、抗癌剤として好適な医薬が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明するが、これにより本発明はなんら限定されるものではない。
【0032】
実施例1〜11
表1に示す化合物について、ヒト白血病U937、ヒト結腸癌HT29、マウス筋繊維癌S180及びマウス正常線維芽細胞株NIH3T3細胞を用いて癌細胞増殖抑制効果を試験した。
【0033】
U937細胞は、10%ウシ胎児血清、グルタミン2mMを含むRPMI1640培地にて、105cells/mlになるよう細胞を調製し、96穴マイクロプレート(Falcon社製)に200μl/wellずつ播種し、37℃、5%CO2条件で培養した。翌日、エタノールで段階希釈した各被検化合物溶液2μlを添加し、培養を72時間行った。対照サンプルとして、被検化合物を加えない、エタノール2μl添加サンプルも作製した。同条件下で72時間培養を行い、CellTiterアッセイ(Promega社製)により細胞増殖活性を評価した。被検化合物溶液を加えていない対照群の細胞増殖量を100%としたときに各処理群の細胞増殖量の割合を求め、残存細胞量を対照の50%に抑制するのに必要な化合物濃度(IC50)値を算出した。
【0034】
HT−29細胞は10%ウシ胎児血清、グルタミン2mMを含むMcCoy’s 5a培地にて、105cells/mlになるよう細胞を調製し、96穴マイクロプレート(Falcon社製)に100μl/wellずつ播種し、37℃、5%CO2条件で培養した。二日後、エタノールで段階希釈した各被検化合物溶液2μlを添加し、培養を72時間行った。対照サンプルとして、被検化合物を加えない、エタノール2μl添加サンプルも作製した。同条件下で培養を行い、CellTiterアッセイ(Promega社製)により細胞増殖活性を評価した。被検化合物溶液を加えていない対照群の細胞増殖量を100%としたときに各処理群の細胞増殖量の割合を求め、残存細胞量を対照の50%に抑制するのに必要な化合物濃度(IC50)値を算出した。被検化合物溶液を加えていない対照群のタンパク質量を100%としたときに各処理群の残存タンパク質量の割合を求め、残存細胞量を対照の50%に抑制するのに必要な化合物濃度(IC50)値を算出した。
【0035】
S180とNIH3T3細胞は10%ウシ胎児血清、グルタミン2mMを含むEagle’s MEMにて、105cells/mlになるよう細胞を調製し、96穴マイクロプレート(Falcon社製)に100μl/wellずつ播種し、37℃、5%CO2条件で培養した。翌日、エタノールで段階希釈した各被検化合物溶液2μlを添加し、培養を72時間行った。対照サンプルとして、被検化合物を加えない、エタノール2μl添加サンプルも作製した。同条件下で72時間培養を行い、CellTiterアッセイ(Promega)により細胞増殖活性を評価した。被検化合物溶液を加えていない対照群の細胞増殖量を100%としたときに各処理群の細胞増殖量の割合を求め、残存細胞量を対照の50%に抑制するのに必要な化合物濃度(IC50)値を算出した。被検化合物溶液を加えていない対照群のタンパク質量を100%としたときに各処理群の残存タンパク質量の割合を求め、残存細胞量を対照の50%に抑制するのに必要な化合物濃度(IC50)値を算出した。
【0036】
また、既存抗がん剤との比較実験として、シスプラチン(シグマ社製)を用いた。
これらの結果を表1に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例12〜16
表2に示す化合物について実施例1〜11と同様にして、ヒト白血病U937、ヒト結腸癌HT29、マウス筋繊維癌S180及びマウス正常線維芽細胞株NIH3T3細胞を用いて癌細胞増殖抑制効果を試験した。
その結果を表2に示す。なお、比較のためにシスプラチンを用いた場合の結果も併記した。
【0039】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、癌細胞増殖抑制作用を有し、抗癌剤として有用な医薬が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
【化1】

(式中のR1は炭化水素基、炭化水素オキシ基、ヘテロアリール基、フェロセニル基、シリル基、置換シリル基又はアリールセレノ基、R2及びR3は水素原子又は炭化水素基、R4及びR5は炭化水素基又は炭化水素オキシ基、nは0又は1である)
で表わされるオキソリン化合物を有効成分として含有する医薬。
【請求項2】
一般式
【化2】

(式中のR1は炭化水素基、炭化水素オキシ基、ヘテロアリール基、フェロセニル基、シリル基、置換シリル基又はアリールセレノ基、R2及びR3は水素原子又は炭化水素基、R4及びR5は炭化水素基又は炭化水素オキシ基である)
で表わされるオキソリン化合物を有効成分として含有する医薬。
【請求項3】
一般式
【化3】

(式中のR1は炭化水素基、炭化水素オキシ基、ヘテロアリール基、フェロセニル基、シリル基、置換シリル基又はアリールセレノ基、R4及びR5は炭化水素基又は炭化水素オキシ基である)
で表わされるオキソリン化合物を有効成分として含有する医薬。
【請求項4】
癌細胞増殖抑制剤である請求項1ないし3のいずれかに記載の医薬。
【請求項5】
癌細胞が固形癌細胞又はリンパ腫細胞である請求項4記載の医薬。
【請求項6】
癌細胞が皮膚癌、膀胱癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、膵臓癌、腎臓癌又は胃癌の細胞である請求項4又は5記載の医薬。

【公開番号】特開2007−70278(P2007−70278A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258186(P2005−258186)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、産業技術研究助成事業「ホスホロイル基の高分子骨格へ直接導入による有機材料の耐熱化」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】