説明

十割そばの製造方法

【課題】手打ちでも簡単に十割そばを製造することができる十割そばの製造方法を提供する。
【解決手段】そば粉100%のソバ粉を、主そば粉とそば糊を作成する下粉に調整するそば粉調整工程と、沸騰した水に下粉を加えてそば糊を作成するそば糊作成工程と、そば糊を所定温度に冷却する冷却工程と、主そば粉にそば糊を加えて顆粒状になるまで混ぜ合わせる顆粒化工程と、顆粒状となった主そば粉を捏ねながら玉状にまとめる捏ね工程と、玉状に捏ね上げた生地をほぼ均一の薄さとなるよう延ばして麺生地を作成する延ばし工程と、得られた麺生地を所定の太さに切る切り工程と、切り工程で線状となった生そばを茹で上げる茹で工程とからなり、水ではまとまり難いそば粉100%のみを使用してそばを製作した場合でも、そば糊によりそば粉を容易にまとめることができるため、風味や食感に優れた十割そばが製麺機を使用せずに短時間で製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、そば粉のみを使用した十割そばの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、そば粉のみを使用して製造したそばは、十割そばやそば粉100%のそばとして、そばの愛好者に好んで食されているが、そばの実を製粉した際、一番最初にでてくるそば粉は一番粉と呼ばれて、本来水ではつながり難い性質を持っている。
このためそば粉のみでそばを製造する十割そばの製造に当っては、種々の工夫が必要であり、またその製造方法が多く提案されている。
例えば特許文献1に記載された十割そばの製造方では、α化度50〜100のα化そば粉と生そば粉を5:95〜100:0の割合で配合し、定法によりミキシングして麺生地とし、これを減圧条件下で麺帯とし、その後麺線としており、十割そばに拘わらず、良好な製麺性と、風味を損なうことなく十割そばの風味を得ることができる効果を有している。
【0003】
また特許文献2に記載のつなぎを使わずそば粉と水だけで製造されるそばの製造方法では、そば粉とそば粉の重量の約40%の水とを適宜攪拌した原材料を、押出成形型の製麺機のホッパー部分から投入し、製麺機のフランジ部分から押し出される麺を適宜長さに切断して形成された十割そば麺を、保湿性及び吸水性のある紙で包装し、包装したまま約1時間急速冷凍し、保冷剤を付加してマイナス20℃±2℃以下で食前まで保管するようにしたもので、茹でるだけの作業で十割そばを提供できる効果を有する。
【特許文献1】特開平10−23870号公報
【特許文献2】特開2003−144072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
小麦粉や山芋、卵等のつなぎを使わない十割そばは、そば粉の有する特性から手打ちでそばを製造する手打ちそばには不向きである。
このため従来では前記特許文献1,2等に記載されているように、そのほとんどが製麺機により製造されている。
しかし製麺機で製造された十割そばでは、手打ちの風味が得にくい問題がある。
【0005】
また大量にそばを製造して販売する製麺会社にあっては、生産効率からも製麺機による
そばの製造は欠かせないが、手打ちそばの十割そばを看板にしているそば店や、近年ブームとなっている家庭や趣味の同好会等でそばを打つような場合、製麺会社で使用しているような製麺機が使用できないことから、前記特許文献1,2に記載されたそばの製造方法を適用できない等の問題がある。
本発明はかかる問題を改善するためになされたもので、手打ちでも簡単に十割そばを製造することができる十割そばの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の十割そばの製造方法は、そば粉100%のソバ粉を、主そば粉とそば糊を作成する下粉に調整するそば粉調整工程と、沸騰した水に下粉を加えてそば糊を作成するそば糊作成工程と、そば糊を所定温度に冷却する冷却工程と、主そば粉にそば糊を加えて顆粒状になるまで混ぜ合わせる顆粒化工程と、顆粒状となった主そば粉を捏ねながら玉状にまとめる捏ね工程と、玉状に捏ね上げた生地をほぼ均一の薄さとなるよう延ばして麺生地を作成する延ばし工程と、得られた麺生地を所定の太さに切る切り工程と、切り工程で線状となった生そばを茹で上げる茹で工程とからなる。
【0007】
前記方法により、水ではまとまり難いそば粉100%のみを使用してそばを製作した場合でも、そば糊によりそば粉を容易にまとめることができるため、風味や食感に優れた十割そばが製麺機を使用せずに短時間で製造することができるようになる。
【0008】
本発明の十割そばの製造方法は、顆粒化工程と捏ね工程、延ばし工程及び切り工程を手打ちで行うようにしたものである。
【0009】
前記方法により、そば糊を常温になるまで冷却してから、主そば粉に混ぜ合わせて手打ちそばを製造するようにしたことから、熱湯をつなぎに使用してそばを打つ必要がないため火傷の虞がない上、専門的な技術を必要としないことから、一般の人でも気軽にそばを打つことができるようになる。
【0010】
本発明の十割そばの製造方法は、全体のそば粉の重量をA、そば糊に使用する下粉の重量をC、そば糊に使用する水の量をB、そば粉の産地や状態、気温や湿度等に応じて調整する定数をa及びb、そば粉全体から下粉の重量Cを引いた主そば粉の重量をDとした場合に、
D=A×(a−b)/a(kg)
C=A×b/a(kg)
となるようそば粉の量を調整したものである。
【0011】
前記方法より、そば粉の産地や状態、そばを打つ際の気温や湿度等を考慮してそば粉を調整することにより、そば粉の産地や状態、気温や湿度等に影響されることなく、常に風味のよい十割そばを製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の十割そばの製造方法によれば、水ではまとまり難いそば粉100%のみを使用してそばを製作した場合でも、そば糊によりそば粉を容易にまとめることができるため、風味や食感に優れた十割そばが製麺機を使用せずに短時間で製造することができる。
またそば糊を常温になるまで冷却してから、主そば粉に混ぜ合わせて手打ちそばを製造することから、熱湯をつなぎに使用してそばを打つ必要がないため火傷の虞がない上、専門的な技術を必要としないことから、一般の人でも気軽にそばを打つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態を、図面を参照して詳述する。
手打ちにより十割そばを製造する工程は、図1のフローチャートで示すように、そば粉を調整する工程(ステップS1)と、そば粉の一部からそば糊を作成するそば糊作成工程(ステップS2)と、そば糊を常温まで自然冷却させるそば糊冷却工程(ステップS3)と、そば粉にそば糊を加えて顆粒状にする顆粒化工程(ステップS4)と、顆粒状となったそば粉を捏ねる捏ね工程(ステップS5)と、捏ねて玉状となった生地を延し棒を使用して薄く延ばして麺生地を作成する延し工程(ステップS6)と、薄く延ばした麺生地を所定の太さに切る切り工程(ステップS7)と、切り工程により線状となったそば麺を茹でる茹で工程(ステップS8)とからなる。
【0014】
まず手打ちにより十割そばを製造するに当って、そばの実を碾いたそば粉100%を用意する。
そば粉の量は特に限定しないが、手打ちに適した量のそば粉と水を用意する。
用意したそば粉全体の重量をA、つなぎに使用するそば糊を作成するのに、全体のそば粉Aから所定の割合で分離した下粉の重量をC、残りのそば粉を主そば粉とし、その重量をDとする。
いま例えば、全体のそば粉の重量Aを1kgとし、そのうち下粉Cを150g、水の量Bを450cc、定数aを200、定数bを30とすると、
D=A×(a−b)/a(kg)は850g
C=A×b/a(kg)は150g
となるように、それぞれの量を調整するが、定数a及びbはそば粉の産地や状態、気温や湿度等に応じて調整するものとする。
【0015】
次に図1に示すフローチャートのステップS1で、全体のそば粉Aからそば糊となる下粉を分離し、鍋等を使用して水Bを沸騰させ、水Bが沸騰したらとろ火にした状態で沸騰した水Bに下粉Cの全量を少しづつ加えて、ステップS2のそば糊作成行程で下粉Cによりそば糊Eを作成する。
このときダマができないように、水Bを沸騰させた鍋の中に下粉Cを少しずつ投入しながら掻き混ぜて、肌理の細かい糊状のそば糊Eができたら火を止めて、ステップS3のそば糊冷却工程へと移行する。
そば糊の冷却行程は、そば糊を鍋の中に放置して自然冷却させるか、鍋より他の容器へ取り出して自然冷却させるが、このときそば糊の水分が蒸発しないように蓋をしたり、ラッピングして水分の蒸発を抑制する。
【0016】
そば糊が常温になったら、ステップS4の顆粒化工程へ移行する。
適当な大きさの鉢内に主そば粉D全量をまず入れ、次に常温にまで冷めたそば糊Eを加えて、主そば粉Dにそば糊Eが均一に混ざるように掻き混ぜるが、このとき水分が不足気味で粉っぽいときには適量の水を加えて主そば粉Dを顆粒化しやすくし、水分が多過ぎて掻き混ぜにくいときには適量のそば粉を加えて顆粒化しやすくする。
鉢内で主そば粉Dとそば糊Eを掻き混ぜると、そば糊Eの水分が主そば粉Dに混じって主そば粉Dに湿気が加わるので、この状態で主そば粉Dが顆粒状になるまで掻き混ぜたら、顆粒化工程を終了する。
次にステップS5の捏ね工程では、顆粒状となった主そば粉Dを、鉢の中で両手を使用しながらよく動かして、大きな塊りとなるよう捏ねながらまとめるが、このとき生地を回転させながら端から中心側へよく練り込むようすることにより、手打ちとしての風味や食感
が得られるようになる。
【0017】
生地の表面が滑らかになり、つやがでたら捏ね工程を終了し、ステップS6の延し工程へ移行する。
延し工程では、玉状にまとめた生地を麺棒を使用して薄く延ばすが、まず予め用意したそば粉を打ち粉として生地に少量振りかけ、次に玉状の生地を手の平で上から押し潰すように加圧して大きな円盤状にする。
その後円盤状の生地に打ち粉をしながら、麺棒により生地を巻き取りながら麺棒を転がして生地をよく延ばすが、このとき手前側から奥側へ転がし、所謂四つ出しを行うことにより、生地全体を四角形に成形できるようになる。
生地の一端側から延ばしたら生地を180度回転させて、生地の反対側からも同じ延し作業を繰り返し、厚さが均一な四角形状の麺生地を完成させる。
【0018】
麺生地が完成したら、ステップS7の切り工程へと移行し、薄く延ばした麺生地を所定の太さに切るが、麺生地を切るに当っては、まず麺生地に十分な打ち粉をしながら麺生地を2つ折りし、さらに4つ折りにする。
次に駒板を麺生地の上に載せて駒板に沿って麺生地を所定の太さに切っていくが、切ったそばの太さは細いほど喉越しがよく、また太ければその分風味が増すので、食べる人の好みに合わせて切るそばの太さを自由に調整すればよい。
ステップS7の切り工程で所定の太さに切った線状のそばは、生そばとして保存することも可能となるが、そばを打った直後に茹で上げて食するのがより手打ちそばを美味しく頂くことができることから、ステップS8の茹で工程で生そばを茹で上げる。
【0019】
生そばを茹で上げるには、大き目の鍋に入れた水を沸騰させ、この湯に生そばを投入して茹で上げるが、麺の太さが細い場合は30秒位でよく、麺の太さに応じて茹で時間を調整する。
麺が茹で上がったら笊に取って流水に曝し、もみ洗いしながら滑りを洗い流すか、水を張ったボールのような容器に取って、もみ洗いしながら滑りを洗い流した後笊に取って水切りを行う。
以上のようにして茹で上げたそばは、そばが伸びないうちに食することにより、手打ちによる十割そばの風味や喉越しを楽しむことができるようになる。
【0020】
なお前記実施の形態では、手打ちによりそばを製造する方法について説明したが、製麺機を使用して前記ステップS4からステップS7までの工程を実行してもよく、製麺機を使用することにより、十割そばを効率よく生産できるようになる。
またそば粉の配合に使用した定数a,bは、そば粉の産地、そば粉の状態、気温や湿度等に応じて調整することにより、より美味しいそばを製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】十割そばの製造工程を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0022】
S1 そば粉調整工程
S2 そば糊作成工程
S3 そば糊冷却工程
S4 顆粒化工程
S5 捏ね工程
S6 延し工程
S7 切り工程
S8 茹で工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
そば粉100%のソバ粉を、主そば粉とそば糊を作成する下粉に調整するそば粉調整工程と、沸騰した水に前記下粉を加えてそば糊を作成するそば糊作成工程と、そば糊を所定温度に冷却する冷却工程と、前記主そば粉に前記そば糊を加えて顆粒状になるまで混ぜ合わせる顆粒化工程と、顆粒状となった主そば粉を捏ねながら玉状にまとめる捏ね工程と、玉状に捏ね上げた生地をほぼ均一の薄さとなるよう延ばして麺生地を作成する延ばし工程と、得られた麺生地を所定の太さに切る切り工程と、切り工程で線状となった生そばを茹で上げる茹で工程とを具備したことを特徴とする十割そばの製造方法。
【請求項2】
前記顆粒化工程と前記捏ね工程、前記延ばし工程及び前記切り工程を手打ちで行うことを特徴とする請求項1に記載の十割そばの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の十割そばの製造方法において、全体のそば粉の重量をA、そば糊に使用する下粉の重量をC、そば糊に使用する水の量をB、そば粉の産地や状態、気温や湿度等に応じて調整する定数をa及びb、そば粉全体から下粉の重量Cを引いた主そば粉の重量をDとした場合に、
D=A×(a−b)/a(kg)
C=A×b/a(kg)
となるようそば粉の量を調整したことを特徴とする十割そばの製造方法。

【図1】
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