説明

半導体ナノ粒子の製造方法、および半導体ナノ粒子

【課題】低毒性であり、且つより高い発光量子収率を有する半導体ナノ粒子の製造方法、並びに当該製造方法により得られる半導体ナノ粒子を実現する。
【解決手段】本発明の半導体ナノ粒子の製造方法は、亜鉛と周期表第11族元素と周期表第13族元素とを含む硫化物もしくは酸化物、又は周期表第11族元素と周期表第13族元素とを含む硫化物もしくは酸化物を、主成分とする第1化合物を合成する粒子合成工程と、粒子合成工程後に上記第1化合物を精製する精製工程と、精製した上記第1化合物を加熱する加熱処理工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ナノ粒子の製造方法、並びに当該製造方法により得られる半導体ナノ粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、CdS、CdSe、CdTe、PbS、PbSeなどの半導体ナノ粒子は、生化学分析用の蛍光タグ、照明やディスプレイ用等の蛍光材料としての開発が盛んに行われてきた。しかしながら、上記半導体ナノ粒子の中で、発光効率に優れているCdSeであっても、その発光量子収率は数十%にとどまり、他の半導体ナノ粒子では数%程度しかない。さらに、上記半導体ナノ粒子に含まれる重金属は、毒性が高く、製造および使用時に環境や生体を害する危険性があることから、発光量子収率が高く、毒性の低い半導体ナノ粒子が望まれてきた。
【0003】
かかる発光量子収率が高く、毒性の低い半導体ナノ粒子として、亜鉛、周期表第11族元素および周期表第13族元素を含む硫化物もしくは酸化物を主成分とするか、又は、周期表第11族元素および周期表第13族元素を含む硫化物もしくは酸化物を主成分とする新規低毒性半導体ナノ粒子が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記半導体ナノ粒子は、従来の半導体ナノ粒子のように化合物中にカドミウム、水銀、鉛等の毒性の高い重金属を含まないため、製造および使用時の安全性が高く、環境や生体を害する危険性が低い。また、常温で良好に発光し、構成原子数比率を変えるだけで種々の色を発光するように制御することが可能となるため、生体染色用の色素や光デバイスの材料等への応用が期待される。
【0005】
他にもいくつかの低毒性半導体ナノ粒子について報告されている。例えば、カルコパイライト構造を有する半導体ナノ粒子(例えば、特許文献2参照)、およびZnαAgβInSγ(α=0.1〜1、β=0.1〜1、γ=2〜4)化合物からなる半導体ナノ粒子(例えば、特許文献3参照)について報告されている。
【0006】
また、発光量子収率を向上させるため、特許文献2、3には、低毒性半導体ナノ粒子に対して被覆処理を行なうことが記載されている。
【特許文献1】国際公開第2007/026746号(2007年3月8日公開)
【特許文献2】特開2007−169605(2007年7月5日公開)
【特許文献3】特開2007−169525(2007年7月5日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の製造方法により合成した半導体ナノ粒子であっても、発光量子収率が不十分となる場合があった。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、低毒性であり、且つより高い発光量子収率を有する半導体ナノ粒子の製造方法、並びに当該製造方法により得られる半導体ナノ粒子を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために、さらに高い発光量子収率を有する半導体ナノ粒子の製造方法について、鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、上記特許文献2,3に記載の方法では、生産効率の観点から、半導体粒子を合成後、精製を行なわずに被覆処理を行っているため、発光量子収率の向上が制限されていると考え、半導体粒子を合成後、精製を行い、加熱処理を行なうことにより、高い発光量子収率を有する半導体ナノ粒子を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明に係る半導体ナノ粒子の製造方法は、上記課題を解決するために、室温で発光する半導体ナノ粒子の製造方法であり、亜鉛と周期表第11族元素と周期表第13族元素とを含む硫化物もしくは酸化物、又は周期表第11族元素と周期表第13族元素とを含む硫化物もしくは酸化物を、主成分とする第1化合物を合成する粒子合成工程と、粒子合成工程後に上記第1化合物を精製する精製工程と、精製した上記第1化合物を加熱する加熱処理工程とを含むことを特徴としている。
【0011】
上記方法によれば、第1化合物を精製した後に、第1化合物を加熱するため、不純物が少ない状態で半導体粒子の加熱処理が行われる。このため、加熱処理時に、粒子の欠陥の修復が不純物により阻害され難いと考えられ、より欠陥の少ない粒子を製造することができる。従って、上記方法によれば、低毒性であり、且つより高い発光量子収率を有する半導体ナノ粒子を製造することができるという効果を奏する。
【0012】
本発明に係る半導体ナノ粒子の製造方法では、上記粒子合成工程は、亜鉛塩と周期表第11族元素の塩と周期表第13族元素の塩と硫黄もしくは酸素を配位元素とする配位子とを混合する、又は周期表第11族元素の塩と周期表第13族元素の塩と硫黄もしくは酸素を配位元素とする配位子とを混合することにより錯体とする錯体形成工程と、錯体形成工程の後に、上記錯体を加熱する熱分解工程とを含むことが好ましい。
【0013】
上記方法によれば、より簡便に半導体ナノ粒子を製造することができる。
【0014】
本発明に係る半導体ナノ粒子の製造方法では、上記錯体形成工程では、亜鉛と周期表第11元素と周期表第13元素との原子数比率が(1−2x):x:x(但し、0<x<0.5)となるように混合する、又は周期表第11族元素と周期表第13族元素との原子数比率が1:1となるように混合することが好ましい。
【0015】
上記方法によれば、より簡便に半導体ナノ粒子を製造することができる。
【0016】
本発明に係る半導体ナノ粒子の製造方法では、上記粒子合成工程は、上記第1化合物の表面を脂溶性化合物によって修飾する修飾工程を更に含むことが好ましい。
【0017】
上記方法によれば、有機溶媒に均一に可溶化することができる。
【0018】
本発明に係る半導体ナノ粒子の製造方法では、上記精製工程は、蒸発、ろ過、再沈殿、および遠心分離からなる群から選択される少なくとも1種類以上の精製操作を行なう工程であることが好ましい。
【0019】
上記方法によれば、より効率的に不純物を除去することができるため、より高い発光量子収率を有する低毒性半導体ナノ粒子を製造することができる。
【0020】
本発明に係る半導体ナノ粒子の製造方法では、上記加熱処理工程は、上記精製工程後の第1化合物のみ、又は、当該第1化合物と、当該第1化合物と反応しない物質とのみからなる混合物を加熱する工程であることが好ましい。
【0021】
上記方法によれば、より簡便に、低コストで高い発光量子収率を有する低毒性半導体ナノ粒子を製造することができる。
【0022】
具体的には、上記方法では、半導体粒子と他の物質との反応を伴わないため、副生物の発生を抑制することができ、また多大な反応熱等も伴わないため温度制御が容易であり、被覆処理を行なう場合に比べて大量の粒子を処理することができる。このため、生産性が向上する。
【0023】
更には、異種物質による被覆を行なわないので、被覆効率や、被覆の厚さに影響されること無く、均一な発光特性を有する半導体ナノ粒子を得ることができる。また、処理前の粒子からの発光波長の変化が少なく、半導体粒子の発光波長の制御が容易となる。
【0024】
本発明に係る半導体ナノ粒子の製造方法では、上記加熱処理工程は、上記第1化合物に、周期表第12族の元素および周期表第16族の元素を含む化合物、又は周期表第12族の元素を含む化合物および周期表第16族の元素を含む化合物を加えて加熱することが好ましい。
【0025】
本発明に係る半導体ナノ粒子の製造方法では、上記加熱処理工程は、上記第1化合物に、周期表第12族の元素および周期表第16族の元素を含む化合物、又は周期表第12族の元素を含む化合物および周期表第16族の元素を含む化合物を加えて加熱し、周期表第12族の元素および周期表第16族の元素を含む被覆を形成する工程であることが好ましい。
【0026】
上記方法によれば、より効率よく粒子の欠陥を修復できるため、より高い発光量子収率を有する半導体ナノ粒子を製造することができるという更なる効果を奏する。
【0027】
本発明に係る半導体ナノ粒子の製造方法では、上記加熱処理工程での加熱温度は、室温より高く350℃以下であることが好ましい。
【0028】
上記方法により、半導体ナノ粒子の熱分解や凝集による粒子構造(サイズや結晶構造など)の変化を抑制して、効率良く加熱処理を行なうことができる。
【0029】
本発明に係る半導体ナノ粒子は、上記課題を解決するために、上記本発明に係る半導体ナノ粒子の製造方法の何れか1つにより得られることを特徴としている。
【0030】
上記構成によれば、上記本発明に係る半導体ナノ粒子の製造方法の何れか1つにより得られるため、より欠陥の少ない半導体粒子を提供することができる。従って、低毒性であり、且つより高い発光量子収率を有する半導体ナノ粒子を提供することができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る半導体ナノ粒子製造方法は、以上のように、精製工程の後に加熱処理工程を行なうため、不純物が少ない状態で半導体粒子の加熱処理が行なわれる。
【0032】
このため、低毒性であり、且つより高い発光量子収率を有する半導体ナノ粒子を製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下の通りである。
【0034】
尚、本明細書では、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを示し、「室温」とは15〜25℃の範囲を意味する。
【0035】
本実施の形態に係る半導体ナノ粒子の製造方法は、室温で発光する半導体ナノ粒子の製造方法であり、半導体ナノ粒子(第1化合物)を合成する粒子合成工程と、粒子合成工程後に上記第1化合物を精製する精製工程と、精製した上記第1化合物を加熱する加熱処理工程とを含む。
【0036】
これにより、より高い発光量子収率を有する半導体ナノ粒子を、より簡便な方法で製造することができる。
【0037】
本実施の形態に係る半導体ナノ粒子の製造方法に含まれる粒子合成工程および加熱処理工程は不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。上記不活性ガスとしては、特に限定されるものではないが、アルゴン、窒素などが挙げられる。
【0038】
以下、上記半導体ナノ粒子の製造方法に含まれる各工程について説明する。
【0039】
(I)粒子合成工程
粒子合成工程は、亜鉛と周期表第11族元素と周期表第13族元素とを含む硫化物もしくは酸化物、または周期表第11族元素と周期表第13族元素とを含む硫化物もしくは酸化物を、主成分とする第1化合物を合成する工程である。
【0040】
ここで、周期表第11元素としては、特に限定されるものではないが、例えばCu、Ag、またはAuが挙げられ、このうちCuまたはAgが好ましく、Agが特に好ましい。周期表第13族元素としては、特に限定されるものではないが、例えば、Al、Ga、In、Tlが挙げられ、このうちGa、Inが好ましく、Inが特に好ましい。
【0041】
上記粒子合成工程における上記第1化合物の合成は、例えば、国際公開第2007/026746号パンフレットに記載の従来公知の方法により行なうことができる。具体的には、亜鉛塩と周期表第11族元素の塩と周期表第13族元素の塩と硫黄もしくは酸素を配位元素とする配位子とを混合する、または周期表第11族元素の塩と周期表第13族元素の塩と硫黄もしくは酸素を配位元素とする配位子とを混合することにより錯体とする錯体形成工程と、錯体形成工程の後に、上記錯体を加熱する熱分解工程とを含む方法により上記粒子合成工程を実施することができる。
【0042】
また、上記粒子合成工程は、上記第1化合物の表面を脂溶性化合物によって修飾する修飾工程を更に含むことが好ましい。
【0043】
以下、上記各工程についてより具体的に説明する。
【0044】
(I−1)錯体形成工程
上記錯体形成工程は、亜鉛塩と周期表第11族元素の塩と周期表第13族元素の塩と硫黄もしくは酸素を配位元素とする配位子とを混合する、または周期表第11族元素の塩と周期表第13族元素の塩と硫黄もしくは酸素を配位元素とする配位子とを混合することにより錯体を形成する工程である。
【0045】
ここで、周期表第11、13族元素は、上記粒子合成工程で説明したものと同様である。
【0046】
上記亜鉛塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛などが挙げられ、このうち硝酸亜鉛が好ましい。
【0047】
上記周期表第11族元素の塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、硝酸銀、酢酸銀、硫酸銀、硝酸銅、酢酸銅、硫酸銅などが挙げられ、このうち硝酸銀が好ましい。
【0048】
上記周期表第13族元素の塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、硝酸インジウム(III)、酢酸インジウム(III)、硫酸インジウム(III)、硝酸ガリウム(III)、酢酸ガリウム(III)、硫酸ガリウム(III)などが挙げられ、このうち硝酸インジウム(III)が好ましい。
【0049】
硫黄を配位元素とする上記配位子としては、特に限定されるものではないが、例えば、1,2−ビス(トリフルオロメチル)エチレン−1,2−ジチオールなどのジチオール類;ジエチルジチオカルバミド酸塩;チオアセトアミドなどが挙げられ、このうちジエチルジチオカルバミド酸塩が好ましい。
【0050】
酸素を配位元素とする配位子としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトンなどのβ−ジケトン類;トロポロンなどが挙げられる。
【0051】
また、亜鉛塩と周期表第11族元素の塩と周期表第13族元素の塩と硫黄もしくは酸素を配位元素とする配位子とを混合するにあたり、亜鉛と周期表第11族元素と周期表第13族元素との原子数比(=モル比)が、(1−2x):x:x(但し、0<x≦0.5)となるように混合することが好ましい。
【0052】
xの値を適宜設定することにより、所望の色に発光する半導体ナノ粒子を製造することができる。なお、x=0.5のときには、亜鉛の原子数比率がゼロになるため、周期表第11族元素と周期表第13族元素との原子数比率が1:1となるように混合することを意味する。
【0053】
(I−2)錯体の加熱分解工程
上記加熱分解工程は、上記錯体形成工程で形成された錯体を加熱分解する工程である。錯体を加熱する条件としては、使用する原料が変われば変わることもあるため特には限定されないが、例えば、加熱温度は、通常100〜300℃の範囲で設定することが好ましく、150〜200℃の範囲で設定することがより好ましい。なお、このときの温度は、反応容器を加熱する加熱装置の設定温度である。
【0054】
また、反応時間も反応温度などによって好ましい範囲が変わるが、通常は数秒〜数時間の範囲で設定することが好ましく、1〜60分の範囲で設定することがより好ましい。
【0055】
(I−3)脂溶性化合物による修飾工程
上記修飾工程とは、粒子合成工程により合成した第1化合物の表面を脂溶性化合物によって修飾する工程である。
【0056】
上記脂溶性化合物は、第1化合物粒子の表面に結合可能なものであればよい。脂溶性化合物と第1化合物粒子との結合様式は、特に限定されるものではないが、例えば共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合、ファンデルワールス結合等の化学結合が挙げられる。
【0057】
かかる脂溶性化合物の具体例としては、例えば炭素数4〜20の炭化水素基を有する含窒素化合物、炭素数4〜20の炭化水素基を有する含硫黄化合物、炭素数4〜20の炭化水素基を有する含酸素化合物などが挙げられる。
【0058】
炭素数4〜20の炭化水素基としては、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などの飽和脂肪族炭化水素基;オレイル基などの不飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの芳香族炭化水素基などが挙げられ、このうち飽和脂肪族炭化水素基や不飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。含窒素化合物としてはアミン類やアミド類が挙げられ、含硫黄化合物としてはチオール類が挙げられ、含酸素化合物としては脂肪酸類などが挙げられる。
【0059】
このような脂溶性化合物のうち、炭素数4〜20の炭化水素基を有する含窒素化合物が好ましく、例えばn−ブチルアミン、イソブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミンなどのアルキルアミンや、オレイルアミンなどのアルケニルアミンが好ましい。
【0060】
脂溶性化合物による上記修飾工程は、上記錯体の加熱分解工程の後に熱分解物と脂溶性化合物とを共に加熱する工程を逐次行なうことにより実施してもよいし(逐次法)、上記錯体の加熱分解工程の際に、錯体と脂溶性化合物とを共に加熱することにより、錯体の熱分解とその熱分解物の脂溶性化合物での修飾反応とを同時に行なうことにより実施してもよい(同時法)。
【0061】
また、逐次法で錯体の熱分解物と脂溶性化合物とを共に加熱する条件としては、使用する原料が変われば変わることもあるため特には限定されないが、例えば、加熱温度は通常100〜300℃の範囲で設定することが好ましく、150〜200℃の範囲で設定することがより好ましい。この加熱温度が低いほど発光ピーク波長が短波長側にシフトする傾向が見られる。これは、低温ほど粒子成長が抑制され、より小さなナノ粒子が生成し、量子サイズ効果の発現度合いが高くなることが一因と考えられる。
【0062】
なお、このときの温度は、反応容器を加熱する加熱装置の設定温度である。また、加熱時間も加熱温度などによって好ましい範囲が変わるが、通常は数秒〜数時間の範囲で設定することが好ましく、1〜60分の範囲で設定することがより好ましい。この加熱時間が長いほど発光ピーク波長が長波長側にシフトする傾向が見られる。その原因は明らかではないが、加熱時間の増大により粒子成長が促進され、より大きなナノ粒子が生成し、量子サイズ効果の発現度合いが低下したことが一因と考えられる。
【0063】
(II)精製工程
上記精製工程は、上記粒子合成工程で形成された第1化合物を精製する工程である。
【0064】
上記第1化合物を精製する具体的な方法としては、合成後の第1化合物に含まれる不純物を除去することができれば特には限定されず従来公知の方法を採用することができる。例えば、蒸発、ろ過、再沈殿、および遠心分離からなる群から選択される少なくとも1種類以上の精製操作が挙げられ、ろ過、再沈殿、および遠心分離からなる群から選択される少なくとも1種類以上の精製操作がより好ましい。
【0065】
上記蒸発は、第1化合物を含む混合物から、不純物を蒸発させる操作であれば特に限定されない。
【0066】
上記ろ過は、第1化合物を含む液体をこして不純物を除去する操作であれば特に限定されず、メンブレンフィルターでろ過することが好ましい。
【0067】
上記再沈殿は、第1化合物が溶解した溶液に対して、第1化合物の溶解度が低い貧溶媒を加えて、第1化合物を沈殿させる操作であれば特には限定されない。再沈の際に加える貧溶媒としては、第1化合物が溶解している上記溶液よりも溶解度が低い溶媒であれば特には限定されないが、メタノール、アセトニトリルが好ましい。
【0068】
上記遠心分離は、遠心力を利用して第1化合物から不純物を除去する操作であれば特に限定されず、例えば、市販の遠心分離機を用いて行なうことができる。
【0069】
上記遠心分離の条件としては、特に限定されないが、回転数を4000rpmで5分間行なうことが好ましい。
【0070】
(III)加熱処理工程
上記加熱処理工程は、上記精製工程により精製された第1化合物に対して熱を加える工程である。
【0071】
上記加熱処理工程での加熱処理の条件としては、使用する物質が変われば変わることもあるため特には限定されないが、例えば、(AgIn)Zn(1−2x)S(0<x≦0.5)からなる物質を主成分とする第1化合物の場合、通常、室温より高く350℃以下の範囲で設定することが好ましく、100〜350℃の範囲がより好ましく、150〜250℃の範囲がさらに好ましく、180℃が最も好ましい。
【0072】
なお、このときの温度は、反応容器を加熱する加熱装置の設定温度である。また、加熱処理時間も加熱処理温度などによって好ましい範囲が変わるが、通常は数秒〜数時間の範囲で設定することが好ましく、1〜60分の範囲で設定することがより好ましい。
【0073】
上記加熱処理工程は、上記精製工程後の第1化合物のみ、又は、当該第1化合物と、当該第1化合物と反応しない物質とのみからなる混合物を加熱する工程(非被覆処理工程)であってもよいし、第1化合物にさらに被覆物質を加えて加熱し、第1化合物を被覆する工程(被覆処理工程)であってもよい。また、上記非被覆処理工程と被覆処理工程を組み合わせた工程であってもよい。具体的には、上記非被覆処理工程の後に上記被覆処理工程を行ってもよいし、上記被覆処理工程の後に上記非被覆処理工程を行ってもよい。
【0074】
(III−1)非被覆処理工程
上記第1化合物と反応しない物質としては、上記第1化合物と反応して共有結合を形成する物質以外であれば特には限定されないが、第1化合物を上記混合物中で均一に分散させる観点から、上記第1化合物の表面と親和性のある物質が好ましい。
【0075】
上記物質としては、例えば、第1化合物が脂溶性化合物で表面修飾されている場合には、上述した脂溶性化合物の少なくとも1種を用いることが好ましく、その表面修飾に使用した脂溶性化合物を用いることがより好ましい。
【0076】
(III−2)被覆処理工程
第1化合物の被覆に用いる物質としては、第1化合物の粒子表面を被覆できる物質であれば特に限定されないが、無機材料が好ましく、コアとする第1化合物(精製工程後の第1化合物)よりも価電子帯上端がより正側であり、伝導帯下端がより負側である半導体層を形成することができる物質、すなわちコアとする第1化合物のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有する半導体層を形成することができる物質がより好ましい。
【0077】
かかる半導体層としては、少なくとも周期表第12族の元素および周期表第16族の元素を含む化合物であることが好ましく、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTeであることがより好ましい。
【0078】
また、非被覆処理工程と同様に、被覆処理工程は、上述した「第1化合物と反応しない物質」存在下で行ってもよい。
【0079】
形成される被覆の厚さとしては、0nmより厚く50nm以下の厚さであることが好ましく、0nmより厚く1.0nm以下の厚さであることがより好ましく、0.5nm程度の厚さが特に好ましい。被覆の厚さが上記範囲内であれば、発光量子収率をより向上させることができる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0081】
〔光学特性の測定〕
本実施例において、クロロホルム溶液中の半導体ナノ粒子の吸収スペクトルおよび発光スペクトルの測定は、以下のようにして行なった。得られた半導体ナノ粒子はクロロホルム1.0cmに溶解させた。クロロホルム溶液の吸収スペクトルは、外可視分光光度計(Agilent 8453 アジレントテクノロジー製)を用いて測定した(光路長1mm、ブランクはクロロホルム)。
【0082】
さらに、この試料を1cmセルでの吸光度A(350nm)=0.1になるように希釈し、発光スペクトルを測定した。尚、発光スペクトルの測定には、倒立蛍光顕微鏡(IX71 オリンパス製)とマルチチャンネル分光器(PMA−12(C10027−02) 浜松ホトニクス製)とを組み合わせた測定系を用いた。
【0083】
〔発光量子収率の測定〕
発光量子収率は、常温での光吸収された光子数に対する発光により放出された光子数の比で表すことができる。発光量子収率の測定は、0.50mol・dm−3の硫酸で希釈した硫酸キニーネ(発光量子収率Φ=0.55)を用い、相対量子収率測定法により求めた。
【0084】
〔ZnSシェルの膜厚〕
形成されるZnSシェルの膜厚は、被覆処理に使用した、酢酸亜鉛二水和物およびチオアセトアミドの量、並びにオレイルアミン溶液2.0cmに含まれるナノ粒子数、粒子の平均粒子径から求めた。
【0085】
具体的には、ZnS被覆処理を行った半導体ナノ粒子が、図9に示すような、均一なanmのZnS被覆を有する(AgIn)Zn(1−2x)Sナノ粒子であると仮定して、ZnSの密度(4.097g/cm)を用いて、添加する前駆体(酢酸亜鉛二水和物及びチオアセトアミド)の量を求めた。
【0086】
例えば、x=0.2の場合、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた観察により、第1化合物であるナノ粒子の平均粒子径は4.1nmと求められた。また、ICP発光分析によって測定した溶液中の各金属原子数から、オレイルアミン溶液中のナノ粒子濃度は、1.2×1016個/cmとなり、この溶液2.0cmに含まれるナノ粒子数は、2.4×1016個と求められた。従って、例えば、酢酸亜鉛二水和物7.6mg、チオアセトアミド2.6mgを加えた場合、0.5nmの厚みのZnS被覆が形成されると計算される。
【0087】
〔比較例1:(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子(x=0.2)の合成〕
図1に示すフローチャートに従って、半導体ナノ粒子の合成を以下のように行った。尚、図1中では、(AgIn)Zn(1−2x)(SCN(C))錯体を(AgIn)Zn(1−2x)(SCNEt)錯体と表す。
【0088】
<工程1:(AgIn)0.2Zn0.6(SCN(C))錯体の調製>
0.050mol・dm−3のN,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム水溶液50cmに、硝酸銀と硝酸インジウム(III)三水和物と99.9%の硝酸亜鉛六水和物とを0.2:0.2:0.6のモル比で混合した水溶液(金属イオンの濃度0.025mol・dm−3)50cmを、室温で攪拌しながらゆっくり添加することにより、銀、インジウム、亜鉛を含むジエチルジチオカルバミド酸塩(以下、(AgIn)0.2Zn0.6(SCN(C))錯体と表記)の沈殿を得た。得られた錯体は、遠心分離で上澄みを除去し、水により洗浄を4回行なった。さらに得られた沈殿物をメタノールにより洗浄を2回行なった後に、遠心分離により沈殿物を単離し、デシケータ中で減圧乾燥して粉末とした。
【0089】
<工程2:(AgIn)0.2Zn0.6(SCN(C))錯体の熱分解によるオレイルアミン修飾(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子の調製>
反応溶液の調製は、すべて窒素ガスを用いた窒素雰囲気下で行なった。上記工程1で得られた(AgIn)0.2Zn0.6(SCN(C))錯体の粉末50mgを試験管(内径16mm×全長180mm)に採取し、試験管内を窒素置換した。試験管をホットスターラー(HHE・19G・USIII KPI)にセットし、ミクロ攪拌子で攪拌しながら180℃で30分間加熱することにより錯体を熱処理した。なお、加熱時の温度は、試験管を覆うアルミブロックの温度を測定した。この工程により、(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子を生成した。その後、室温になるまで空冷し、アルキルアミンとしてオレイルアミン3.0cmを添加し、試験管内を窒素置換したあと、ホットスターラーで攪拌しながら180℃で3分間加熱することにより、(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子の表面をオレイルアミンで化学修飾した。その後、室温になるまで空冷し、オレイルアミン修飾(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子(懸濁液)を得た。
【0090】
<工程3:オレイルアミン修飾(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子の精製>
上記工程2で得られたオレイルアミン修飾(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子の懸濁液を遠心分離により上澄み溶液と沈殿とに分離した。上澄み溶液を注射器に移し、メンブレンフィルター(13HP 0.45μm、ADVANTEC製)でろ過し、ろ液2.0cmにメタノールを適量加えて上記ナノ粒子の沈殿を得た。この沈殿を遠心分離により回収し、(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子を得た。(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子のクロロホルム溶液は透明な黄緑色であった。得られた半導体ナノ粒子のクロロホルム溶液の吸収スペクトルおよび発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの結果を図2中(1)に、発光スペクトルの結果を図3中(1)に示す。(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子の発光ピーク波長は530nm付近であった。
【0091】
〔比較例2:(AgIn)0.5Sナノ粒子(x=0.5)の合成〕
x=0.5とし、硝酸銀と硝酸インジウム(III)三水和物と99.9%の硝酸亜鉛六水和物とを0.2:0.2:0.6のモル比で混合する代わりに、0.5:0.5:0のモル比で混合した以外は、比較例1に記載の手順と同様にして(AgIn)0.5Sナノ粒子を得た。(AgIn)0.5Sナノ粒子のクロロホルム溶液は透明な暗赤色であった。得られた半導体ナノ粒子のクロロホルム溶液の吸収スペクトルおよび発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの結果を図4中(1)に、発光スペクトルの結果を図5中(1)に示す。(AgIn)0.5Sナノ粒子の発光ピーク波長は780nm付近であった。
【0092】
〔比較例3:(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子(x=0.45)の合成〕
x=0.45とし、硝酸銀と硝酸インジウム(III)三水和物と99.9%の硝酸亜鉛六水和物とを0.2:0.2:0.6のモル比で混合する代わりに、0.45:0.45:0.1のモル比で混合した以外は、比較例1に記載の手順と同様にして(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子を得た。得られた半導体ナノ粒子のクロロホルム溶液の吸収スペクトルおよび発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの結果を図6中(1)に、発光スペクトルの結果を図7中(1)に示す。(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子の吸収スペクトルの吸収端波長は620nm付近であった。一方、発光ピーク波長は620nmであり、吸収端波長とよく一致した。
【0093】
《非被覆処理半導体ナノ粒子の合成》
〔実施例1:非被覆処理(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子(x=0.2)の合成〕
<工程1〜3>
比較例1に記載の手順と同様にして精製(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子(第1化合物)を得た。
【0094】
<工程4:(AgIn)Zn(1−2x)Sナノ粒子の非被覆処理>
図8中(I)に示すフローチャートに従って、上記第1化合物の非被覆処理を以下のように行った。反応溶液の調製は、すべて窒素ガスを用いた窒素雰囲気下で行なった。上記工程1〜3により得られた(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子をオレイルアミン2.0cmに再度溶解させた。これを試験管(内径16mm×全長180mm)に採取し、試験管内を窒素置換したあと、試験管をホットスターラーにセットし、ミクロ攪拌子で攪拌しながら180℃で30分間加熱することにより、上記ナノ粒子の非被覆処理を行なった。その後、室温になるまで空冷し、メタノールを加えてナノ粒子を沈殿させた。この沈殿を遠心分離により回収し、非被覆処理(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子を得た。非被覆処理(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子のクロロホルム溶液は透明な黄緑色であった。得られた非被覆処理半導体ナノ粒子のクロロホルム溶液の吸収スペクトルおよび発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの結果を図2中(2)に、発光スペクトルの結果を図3中(2)に示す。非被覆処理(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子の発光ピーク波長は530nm付近であり、加熱処理をしていない比較例1で作製した(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子の発光ピーク波長と一致した。
【0095】
〔実施例2:非被覆処理(AgIn)0.5Sナノ粒子(x=0.5)の合成〕
x=0.5とし、硝酸銀と硝酸インジウム(III)三水和物と99.9%の硝酸亜鉛六水和物とを0.2:0.2:0.6のモル比で混合する代わりに、0.5:0.5:0のモル比で混合した以外は、実施例1に記載の手順と同様にして非被覆処理(AgIn)0.5Sナノ粒子を得た。非被覆処理(AgIn)0.5Sナノ粒子のクロロホルム溶液は透明な暗赤色であった。得られた半導体ナノ粒子のクロロホルム溶液の吸収スペクトルおよび発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの結果を図4中(2)に、発光スペクトルの結果を図5中(2)に示す。非被覆処理(AgIn)0.5Sナノ粒子の発光ピーク波長は755nm付近であり、加熱処理をしていない比較例2で作製した(AgIn)0.5Sナノ粒子と比較してわずかに短波長側にシフトした。
【0096】
〔実施例3:非被覆処理(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子(x=0.45)の合成〕
x=0.45とし、硝酸銀と硝酸インジウム(III)三水和物と99.9%の硝酸亜鉛六水和物とを0.2:0.2:0.6のモル比で混合する代わりに、0.45:0.45:0.1のモル比で混合した以外は、実施例1に記載の手順と同様にして非被覆処理(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子を得た。得られた半導体ナノ粒子のクロロホルム溶液の吸収スペクトルおよび発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの結果を図6中(2)に、発光スペクトルの結果を図7中(2)に示す。加熱処理をしていない比較例3で作製した(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子と比較して、非被覆処理(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子の発光強度は大きく増加した。また、非被覆処理(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子の吸収スペクトルの吸収端波長は620nm付近であった。また、発光ピーク波長は620nmであり、吸収端波長とよく一致した。以上の結果は、加熱処理をしていない比較例3で作製した(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子の結果と一致した。
【0097】
《ZnS被覆半導体ナノ粒子の合成》
〔実施例4:0.5nmのZnS被覆を有する(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子(x=0.2)の合成〕
<工程1〜3>
比較例1に記載の手順と同様にして精製(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子(第1化合物)を得た。
【0098】
<工程5:(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子のZnS被覆処理>
図8中(II)に示すフローチャートに従って、上記第1化合物の被覆処理を以下のように行った。反応溶液の調製は、すべて窒素ガスを用いた窒素雰囲気下で行なった。上記工程1〜3により得られた(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子をオレイルアミン2.0cmに再度溶解させた(ナノ粒子濃度は、1.2×1016個/cm)。これを試験管(内径16mm×全長180mm)に採取し、0.5nmのZnS被覆を形成するのに必要な分量の酢酸亜鉛二水和物7.6mgとチオアセトアミド2.6mgとを加えた。試験管内を窒素置換したあと、試験管をホットスターラーにセットし、ミクロ攪拌子で攪拌しながら180℃で30分間加熱することにより、上記ナノ粒子の加熱処理を行なった。その後、室温になるまで空冷し、メタノールを加えてナノ粒子を沈殿させた。この沈殿を遠心分離により回収した。得られたナノ粒子は、0.5nmのZnS被覆を有すると推測された。得られたZnS被覆処理(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子のクロロホルム溶液の吸収スペクトルおよび発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの結果を図2中(3)に、発光スペクトルの結果を図3中(3)に示す。
【0099】
〔実施例5:1.0nmのZnS被覆を有する(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子(x=0.2)の合成〕
工程5で、0.5nmのZnS被覆を形成するのに必要な分量の酢酸亜鉛二水和物7.6mgとチオアセトアミド2.6mgとを加える代わりに、1.0nmのZnS被覆を形成するのに必要な分量の酢酸亜鉛二水和物19mgとチオアセトアミド6.5mgとを加えた以外は、実施例4に記載の手順と同様にしてナノ粒子を得た。得られたナノ粒子は、1.0nmのZnS被覆を有すると推測された。得られたZnS被覆処理(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子のクロロホルム溶液の吸収スペクトルおよび発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの結果を図2中(4)に、発光スペクトルの結果を図3中(4)に示す。
【0100】
〔実施例6:2.0nmのZnS被覆を有する(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子(x=0.2)の合成〕
工程5で、0.5nmのZnS被覆を形成するのに必要な分量の酢酸亜鉛二水和物7.6mgとチオアセトアミド2.6mgとを加える代わりに、2.0nmのZnS被覆を形成するのに必要な分量の酢酸亜鉛二水和物55mgとチオアセトアミド19mgとを加えた以外は、実施例4に記載の手順と同様にしてナノ粒子を得た。得られたナノ粒子は、2.0nmのZnS被覆を有すると推測された。得られたZnS被覆処理(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子のクロロホルム溶液の吸収スペクトルおよび発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの結果を図2中(5)に、発光スペクトルの結果を図3中(5)に示す。
【0101】
実施例4〜6で得られたZnS被覆処理(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子の溶液は、いずれも透明な黄緑色であった。発光スペクトルでは、加熱処理(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子と比較して、ZnS被覆処理(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子の全てで発光強度が増加した。また、いずれのZnS被覆処理(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子も発光ピーク波長が520nm付近と、加熱処理をしていない比較例1で作製した(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子および加熱処理(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子と比較してわずかに短波長側にシフトした。
【0102】
〔実施例7:0.5nmのZnS被覆を有する(AgIn)0.5Sナノ粒子(x=0.5)の合成〕
<工程1〜3>
比較例2に記載の手順と同様にして精製(AgIn)0.5Sナノ粒子(第1化合物)を得た。
【0103】
<工程5:(AgIn)0.5Sナノ粒子のZnS被覆処理>
図8中(II)に示すフローチャートに従って、上記第1化合物の被覆処理を以下のように行った。反応溶液の調製は、すべて窒素ガスを用いた窒素雰囲気下で行なった。上記工程1〜3により得られた(AgIn)0.5Sナノ粒子をオレイルアミン2.0cmに再度溶解させた(ナノ粒子濃度は、6.9×1015個/cm)。これを試験管(内径16mm×全長180mm)に採取し、0.5nmのZnS被覆を形成するのに必要な分量の酢酸亜鉛二水和物4.8mgとチオアセトアミド1.7mgとを加えた。試験管内を窒素置換したあと、試験管をホットスターラーにセットし、ミクロ攪拌子で攪拌しながら180℃で30分間加熱することにより、上記ナノ粒子の加熱処理を行なった。その後、室温になるまで空冷し、メタノールを加えてナノ粒子を沈殿させた。この沈殿を遠心分離により回収した。得られたナノ粒子は、0.5nmのZnS被覆を有すると推測された。得られたZnS被覆処理(AgIn)0.5Sナノ粒子のクロロホルム溶液の吸収スペクトルおよび発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの結果を図4中(3)に、発光スペクトルの結果を図5中(3)に示す。
【0104】
〔実施例8:1.0nmのZnS被覆を有する(AgIn)0.5Sナノ粒子(x=0.5)の合成〕
工程5で、0.5nmのZnS被覆を形成するのに必要な分量の酢酸亜鉛二水和物4.8mgとチオアセトアミド1.7mgとを加える代わりに、1.0nmのZnS被覆を形成するのに必要な分量の酢酸亜鉛二水和物12mgとチオアセトアミド4.2mgとを加えた以外は、実施例7に記載の手順と同様にしてナノ粒子を得た。得られたナノ粒子は、1.0nmのZnS被覆を有すると推測された。得られたZnS被覆処理(AgIn)0.5Sナノ粒子のクロロホルム溶液の吸収スペクトルおよび発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの結果を図4中(4)に、発光スペクトルの結果を図5中(4)に示す。
【0105】
〔実施例9:2.0nmのZnS被覆を有する(AgIn)0.5Sナノ粒子(x=0.5)の合成〕
工程5で、0.5nmのZnS被覆を形成するのに必要な分量の酢酸亜鉛二水和物4.8mgとチオアセトアミド1.7mgとを加える代わりに、2.0nmのZnS被覆を形成するのに必要な分量の酢酸亜鉛二水和物34mgとチオアセトアミド12mgとを加えた以外は、実施例7に記載の手順と同様にしてナノ粒子を得た。得られたナノ粒子は、1.0nmのZnS被覆を有すると推測された。得られたZnS被覆処理(AgIn)0.5Sナノ粒子のクロロホルム溶液の吸収スペクトルおよび発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの結果を図4中(5)に、発光スペクトルの結果を図5中(5)に示す。
【0106】
実施例7〜9で得られたZnS被覆処理(AgIn)0.5Sナノ粒子の溶液は、いずれも透明な暗赤色であった。発光スペクトルでは、加熱処理(AgIn)0.5Sナノ粒子と比較して、ZnS被覆処理(AgIn)0.5Sナノ粒子の全てで発光強度が増加した。また、いずれのZnS被覆処理(AgIn)0.5Sナノ粒子も発光ピーク波長が730nm付近と、加熱処理をしていない比較例2で作製した(AgIn)0.5Sナノ粒子および加熱処理(AgIn)0.5Sナノ粒子と比較してわずかに短波長側にシフトした。これはx=0.2でも見られた傾向である。
【0107】
〔実施例10:0.5nmのZnS被覆を有する(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子(x=0.45)の合成〕
<工程1〜3>
比較例3に記載の手順と同様にして精製(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子(第1化合物)を得た。
【0108】
<工程5:(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子のZnS被覆処理>
図8中(II)に示すフローチャートに従って、上記第1化合物の被覆処理を以下のように行った。反応溶液の調製は、すべて窒素ガスを用いた窒素雰囲気下で行なった。上記工程1〜3により得られた(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子をオレイルアミン2.0cmに再度溶解させた(ナノ粒子濃度は、1.8×1016個/cm)。これを試験管(内径16mm×全長180mm)に採取し、0.5nmのZnS被覆を形成するのに必要な分量の酢酸亜鉛二水和物12mgとチオアセトアミド4.2mgとを加えた。試験管内を窒素置換したあと、試験管をホットスターラーにセットし、ミクロ攪拌子で攪拌しながら180℃で30分間加熱することにより、上記ナノ粒子の加熱処理を行なった。その後、室温になるまで空冷し、メタノール(を加えてナノ粒子を沈殿させた。この沈殿を遠心分離により回収した。得られたナノ粒子は、0.5nmのZnS被覆を有すると推測された。
【0109】
得られた半導体ナノ粒子のクロロホルム溶液の吸収スペクトルおよび発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの結果を図6中(3)に、発光スペクトルの結果を図7中(3)に示す。被覆処理(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子の発光強度は、加熱処理をしていない比較例3で作製した(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子と比較して、大きく増加したが、加熱処理(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子の発光強度とほぼ同じであった。被覆処理(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子の吸収スペクトルの吸収端波長は620nm付近であった。また、立ち上がり波長は620nm付近であり、吸収端波長とよく一致した。これらの結果は、加熱処理をしていない比較例3で作製したおよび加熱処理(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子の結果とほぼ同じであった。
【0110】
上記比較例1〜3および実施例1〜10により得られた半導体ナノ粒子の発光量子収率をまとめたグラフを図10に示す。
【0111】
尚、図10中、「未処理」とは、第1化合物精製後に加熱処理を行なっていないことを示し、「未処理半導体ナノ粒子」とは、比較例1〜3で合成された半導体ナノ粒子のことを示す。また、ZnS被覆膜厚が0nmのプロットは非被覆処理半導体ナノ粒子の発光量子収率を示す。
【0112】
また、比較例1〜3および実施例1〜10で得られた半導体ナノ粒子の発光量子収率を表1に示す。尚、表1中、「未処理」とは、第1化合物精製後に加熱処理を行なっていないことを示す。
【0113】
【表1】

【0114】
図10および表1に示すように、いずれのxの値であっても、精製した第1化合物を加熱する加熱処理工程を行なうことにより発光量子収率が大幅に向上した。また、被覆膜厚が0.5nmまでは、発光量子収率が増加する傾向が見られた。本実施例の合成条件で得られた最も高い発光量子収率を示す(AgIn)Zn(1-2x)Sナノ粒子は、x=0.45でZnS被覆膜厚が0.5nmになるように被覆処理した粒子であり、発光量子収率は約52%であった。
【0115】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
以上のように、本発明により、従来品に比べて半導体ナノ粒子の発光量子収率が大幅に向上したことで、生体染色用の色素や新規発光デバイスなどへの応用が期待される。本発明は、例えば、医薬品もしくは医療分野、または発光デバイスを用いる分野などの各種産業に幅広く活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】第1化合物の合成工程、および精製工程を表す工程図である。
【図2】(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子(x=0.2)の吸収スペクトルを表すグラフである。
【図3】(AgIn)0.2Zn0.6Sナノ粒子(x=0.2)の発光スペクトルを表すグラフである。
【図4】AgInSナノ粒子(x=0.5)の吸収スペクトルを表すグラフである。
【図5】AgInSナノ粒子(x=0.5)の発光スペクトルを表すグラフである。
【図6】(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子(x=0.45)の吸収スペクトルを表すグラフである。
【図7】(AgIn)0.45Zn0.1Sナノ粒子(x=0.45)の発光スペクトルを表すグラフである。
【図8】(AgIn)Zn(1−2x)Sナノ粒子の非被覆処理工程(I)またはZnSでの被覆処理工程(II)を表す工程図である。
【図9】anmの厚さのZnS被覆を有する(AgIn)Zn(1−2x)Sナノ粒子を表す模式図である。davは、コアとなる(AgIn)Zn(1−2x)Sナノ粒子の粒子径を表す。
【図10】ZnS被覆(AgIn)Zn(1−2x)Sナノ粒子の発光量子収率とZnS被服膜厚との関係を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛と周期表第11族元素と周期表第13族元素とを含む硫化物もしくは酸化物、又は周期表第11族元素と周期表第13族元素とを含む硫化物もしくは酸化物を、主成分とする第1化合物を合成する粒子合成工程と、
上記第1化合物を精製する精製工程と、
精製した上記第1化合物を加熱する加熱処理工程と、
を含むことを特徴とする、室温で発光する半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
上記粒子合成工程は、
亜鉛塩と周期表第11族元素の塩と周期表第13族元素の塩と硫黄もしくは酸素を配位元素とする配位子とを混合する、又は周期表第11族元素の塩と周期表第13族元素の塩と硫黄もしくは酸素を配位元素とする配位子とを混合することにより錯体とする錯体形成工程と、
錯体形成工程の後に、上記錯体を加熱する熱分解工程と、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の室温で発光する半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
上記錯体形成工程では、
亜鉛と周期表第11元素と周期表第13元素との原子数比率が(1−2x):x:x(但し、0<x<0.5)となるように混合する、又は周期表第11族元素と周期表第13族元素との原子数比率が1:1となるように混合することを特徴とする、請求項2に記載の室温で発光する半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
上記粒子合成工程は、上記第1化合物の表面を脂溶性化合物によって修飾する修飾工程を更に含むことを特徴とする、請求項2又は3に記載の室温で発光する半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
上記精製工程は、蒸発、ろ過、再沈殿、および遠心分離からなる群から選択される少なくとも1種類以上の精製操作を行なう工程であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の室温で発光する半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
上記加熱処理工程は、上記精製工程後の第1化合物のみ、又は当該第1化合物と、当該第1化合物と反応しない物質とのみからなる混合物を加熱する工程であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の室温で発光する半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
上記加熱処理工程は、上記第1化合物に、周期表第12族の元素および周期表第16族の元素を含む化合物、又は周期表第12族の元素を含む化合物および周期表第16族の元素を含む化合物を加えて加熱することを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の室温で発光する半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
上記加熱処理工程は、上記第1化合物に、周期表第12族の元素および周期表第16族の元素を含む化合物、又は周期表第12族の元素を含む化合物および周期表第16族の元素を含む化合物を加えて加熱し、周期表第12族の元素および周期表第16族の元素を含む被覆を形成する工程であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の室温で発光する半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
上記加熱処理工程での加熱温度は、室温より高く350℃以下であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の室温で発光する半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の製造方法により得られることを特徴とする、室温で発光する半導体ナノ粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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