説明

半導体レーザ素子及びその作製方法

【課題】 Al酸化層による電流狭窄構造を有し、しかもしきい値電流が低く、量子効率が高い半導体レーザ素子を提供する。
【解決手段】 本半導体レーザ素子20は、端面発光型であって、n−InP基板21上に順次形成された、n−InPクラッド層22、SCH−MQW活性層23、下部p−InPクラッド層24、AlInAs層25、上部p−InPクラッド層26、及びp−GaInAsコンタクト層27からなる積層構造を備えている。積層構造のうち、n−InPクラッド層の上層部、活性層、下部p−InPクラッド層、AlInAs層、上部p−InPクラッド層、及びp−GaInAsコンタクト層は、ストライプ状リッジ33として形成されている。AlInAs層のリッジ側面部は、AlInAs層25中のAlが選択的に酸化されたAl酸化層28となっている。活性層の形成面では、活性層よりもバンドギャップ・エネルギーの大きい半導体層として、InP埋め込み層34が、中央領域の活性層の側縁からリッジ側面まで連続して設けられている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、Al酸化層による電流狭窄構造を有する半導体レーザ素子に関し、更に詳細には、低しきい値電流、高量子効率等のレーザ特性が良好で、製品歩留りを高くできる構成を備えた半導体レーザ素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】半導体レーザ素子では、Alを含む半導体層を発光領域の積層構造の一部として成膜し、Alを含む半導体層中のAlを選択的に酸化させてAl酸化層を形成し、そのAl酸化層を電流ブロッキング層、即ち電流狭窄構造として用いることが行われている。
【0003】ここで、図7を参照して、Al酸化層を電流ブロッキング層として用いた従来の半導体レーザ素子の構成を説明する。図7は従来の半導体レーザ素子の断面模式図である。従来の半導体レーザ素子15は、端面発光型の半導体レーザ素子であって、図7に示すように、厚さ約100μm のn−InP基板1と、n−InP基板1上に順次形成された、n−InPクラッド層2、SCH−MQW活性層3、第一のp−InPクラッド層4、p−AlInAs層5、第二のp−InPクラッド層6、及びp−GaInAsコンタクト層7からなる積層構造を備えている。積層構造のうち、第一のp−InPクラッド層4の上層部、p−AlInAs層5、第二のp−InPクラッド層6、及びp−GaInAsコンタクト層7は、幅が約10μmのストライプ状リッジ12として形成されている。また、p−AlInAs層5のリッジ側面部は、Alが選択的に酸化されたAl酸化層8となっている。
【0004】リッジ上部の窓13を除く領域上にSiNX 膜9が保護膜として形成されている。そして、p側電極10が、リッジ上部の窓13の領域を含めてSiNX 膜9上に、及びn側電極11がn−InP基板裏面にそれぞれ形成されている。
【0005】本半導体レーザ素子15では、Al酸化層8が電気的絶縁特性を有すると共に光学的にも屈折率が低下しているので、Al酸化膜8により電流及び光の閉じ込めを行うことができる優れた閉じ込め構造が形成されている。
【0006】次に、図8を参照して、従来の半導体レーザ素子15の作製方法を説明する。図8(a)から(c)は、それぞれ、従来の半導体レーザ素子15を作製する際の工程毎の基板断面を示す縦断面図である。先ず、MOCVD法により、n−InP基板1上に、順次、n−InPクラッド層2、SCH−MQW活性層3、第一のp−InPクラッド層4、p−AlInAs層5、第二のp−InPクラッド層6、及びp−GaInAsコンタクト層7を成膜して、図8(a)に示すように、積層構造を形成する。次に、SiO2膜からなるマスク14をコンタクト層7上に形成し、続いてマスク14を使って、コンタクト層7、第二のp−InPクラッド層6、及びp−AlInAs層5をエッチングして除去し、、更に、第一のp−InPクラッド層4をその途中までエッチングして除去し、図8(b)に示すように、幅10μmのストライプ状リッジ12を形成する。次に、マスク14を除去し、水蒸気中にて、約500℃の温度で150分間熱処理を施すことにより、p−AlInAs層5のAlをリッジ側面から選択的に酸化させ、図8(c)に示すように、Al酸化層8を形成する。
【0007】次に、リッジ上部の窓13を除く領域上にSiNX 膜9を保護膜として形成する。続いて、n−InP基板1の厚さが100μm程度の厚さになるように基板裏面を研磨し、p側電極10をリッジ上部の窓13の領域を含めてSiNX 膜9上に、及びn側電極11を基板裏面にそれぞれ形成する。これにより、図7に示す半導体レーザ素子15を作製することができる。
【0008】半導体レーザ素子の上述した作製方法は、閉じ込め構造の形成を除き、基本的には、通常のリッジ型の端面発光型半導体レーザ素子の作製方法と同じであるものの、次の利点を有する。即ち、上述した作製方法では、p−AlInAs層5を結晶成長させ、次いで酸化させる、一回の結晶成長及び酸化工程にて、閉じ込め構造を形成することができるので、p−半導体層とn−半導体層とを成膜して、リッジ構造を埋め込み、p−n接合分離により形成した通常の閉じ込め構造の形成方法に比べて、製造工程が簡単で、素子の歩留まり向上や低コスト化が期待できる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかし、Al酸化層による閉じ込め構造を有する上述した従来の半導体レーザ素子は、活性層を含むメサを埋め込むBH型構造を有する半導体レーザ素子に比べて、しきい値電流が高く、また量子効率が低いという問題があった。
【0010】そこで、本発明の目的は、Al酸化層による電流狭窄構造を有し、しかもしきい値電流が低く、量子効率が高い半導体レーザ素子を提供し、その作製方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者は、Al酸化層による閉じ込め構造を有する、上述の従来の端面発光型の半導体レーザ素子で、しきい値電流が高くなる原因を追求した結果、次のことが判った。すなわち、一般的なリッジ導波路型レーザを含めて、上述のようなリッジ構造を有する半導体レーザ素子では、図9に示すように、活性層3がリッジ幅全幅にわたり連続して延在しているものの、発光領域16は、閉じ込め層の電気的開口部18(p−AlInAs層5)から矢印のように広がって外側領域17に注入された領域、すなわち、活性層3の中央領域にのみある。そして、発光領域16の両脇にある外側領域17の半導体層の組成は発光領域と同じ組成であることから、当然のこととして、光吸収が外側領域17で発生し、光損失(α)が生じる。この光損失により、しきい値電流が高くなり、また量子効率が低下するということが判った。
【0012】そこで、本発明者は、活性層よりもバンドギャップ・エネルギーの大きい半導体層、即ち光吸収を行わない透明な半導体層で活性層3の発光領域16の外側領域17を構成することにした。そして、これにより、Al酸化層による閉じ込め構造を有し、しかも活性層脇で光吸収が生じない構成を備え、従来の作製方法と比べて作製工程を増やすことなく作製できる半導体レーザ素子を実現することにした。
【0013】上記目的を達成するために、上述の知見に基づいて、本発明に係る半導体レーザ素子は、活性層と、Alを含む半導体層のAlを選択的に酸化させてなるAl酸化層によって、活性層の少なくとも一方の側に形成された閉じ込め構造とを有し、ストライプ状リッジ形又はメサポスト形に形成された積層構造を半導体基板上に有する半導体レーザ素子において、活性層の形成面では、活性層よりもバンドギャップ・エネルギーの大きい半導体層が、形成面の中央領域に設けられた活性層の側縁からリッジ側面又はメサポスト側面まで活性層に連続して設けられていることを特徴としている。
【0014】本発明で、閉じ込め構造は、活性層のいずれの側、即ち活性層の半導体基板側又は半導体基板と反対側にあっても、また、その双方にあっても良い。活性層よりもバンドギャップ・エネルギーの大きい半導体層は、活性層よりバンドギャップ・エネルギーが大きく、かつ、半導体基板と格子整合する限りその種類を問わないが、好適には、バンドギャップ・エネルギーが活性層より少なくとも100meV以上の大きな半導体層、例えばクラッド層と同じ組成の半導体による埋め込み層にする。
【0015】本発明に係る半導体レーザ素子を作製する方法は、半導体基板上に、少なくとも、下部クラッド層、活性層、上部クラッド層、及び、Alを含む半導体層を結晶成長させて積層構造を形成する工程と、積層構造をストライプ状リッジ形又はメサポスト形に加工する工程と、熱処理を施して、Alを含む半導体層を酸化させ、Al酸化層を生成する工程と、活性層をリッジ側面又はメサポスト側面からエッチングして、中央領域に活性層を残すと共に、活性層の側縁からリッジ側面又はメサポスト側面まで活性層の膜厚と同じか又は幅広の溝を積層構造に形成する工程と、活性層よりもバンドギャップ・エネルギーの大きい半導体で溝を埋め込む工程とを備えていることを特徴としている。
【0016】本発明方法では、活性層のエッチングは、ウエットエッチング法、例えば硫酸系のエッチング液を使ってエッチングする。溝を埋め込む手法には制約はなく、通常のエピタキシャル成長法により溝を埋め込むことができるが、好適には、溝をバンドギャップ・エネルギーの大きい半導体で埋め込む工程では、マストランスポートにより溝を埋め込む。ここで、マストランスポートとは、P(リン)雰囲気下で熱処理を施すことにより、両側のクラッド層の結晶を溝内に移動されて溝を埋め込む手法を言う。
【0017】また、本発明に係る半導体レーザ素子を作製する方法では、熱処理を施すことにより、Alを含む半導体層を酸化させるとともに、同時に、マストランスポートにより、溝を埋め込むようにすることもできる。その際には、本発明に係る半導体レーザ素子を作製する方法は、半導体基板上に、少なくとも、下部クラッド層、活性層、上部クラッド層、及び、Alを含む半導体層を結晶成長させて積層構造を形成する工程と、積層構造をストライプ状リッジ形又はメサポスト形に加工する工程と、活性層をリッジ側面又はメサポスト側面からエッチングして、中央領域に活性層を残すと共に、活性層の側縁からリッジ側面又はメサポスト側面まで活性層の膜厚と同じか又は幅広の溝を積層構造に形成する工程と、熱処理を施して、Alを含む半導体層を酸化させAl酸化層を生成すると共に、マストランスポートにより活性層よりもバンドギャップ・エネルギーの大きい半導体で溝を埋め込む工程とを備えていることを特徴としている。
【0018】
【発明の実施の形態】以下に、実施形態例を挙げ、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を具体的かつ詳細に説明する。
実施形態例1本実施形態例は、n−InP基板上に形成された半導体レーザ素子に、本発明に係る半導体レーザ素子を適用した実施形態の一例であって、図1は本実施形態例の半導体レーザ素子の積層構造を示す断面図である。本実施形態例の半導体レーザ素子20は、端面発光型の半導体レーザ素子であって、図1に示すように、厚さ約100μm のn−InP基板21と、n−InP基板21上に順次形成された、n−InPクラッド層22、SCH−MQW活性層23、第一のp−InPクラッド層24、p−AlInAs層25、第二のp−InPクラッド層26、及びp−GaInAsコンタクト層27からなる積層構造を備えている。
【0019】積層構造のうち、n−InPクラッド層22の上層部、活性層23、第一のp−InPクラッド層24、p−AlInAs層25、第二のp−InPクラッド層26、及びp−GaInAsコンタクト層27は、幅が約10μmのストライプ状リッジ33として形成されている。また、p−AlInAs層25のリッジ側面部は、p−AlInAs層25中のAlが選択的に酸化されたAl酸化層28となっている。活性層23の形成面では、活性層23よりもバンドギャップ・エネルギーの大きい半導体層として、InP埋め込み層34が、中央領域の活性層23の側縁からリッジ側面まで連続して設けられている。
【0020】リッジ上部の窓30を除く領域上にSiNX 膜29が保護膜として形成されている。そして、p側電極31が、リッジ上部の窓30の領域を含めてSiNX 膜29上に、及びn側電極32がn−InP基板21の裏面にそれぞれ形成されている。
【0021】図2及び図3を参照して、本実施形態例の半導体レーザ素子の作製方法を示す。図2(a)から(c)及び図3(d)、(e)は、それぞれ、本実施形態例の半導体レーザ素子を作製する際の工程毎の積層構造を示す基板断面図である。先ず、n−InP基板21上に、MOCVD法により、順次、n−InPクラッド層22、SCH−MQW活性層23、第一のp−InPクラッド層24、p−AlInAs層25、第二のp−InPクラッド層26、及び、p−GaInAsコンタクト層27を成膜して、図2(a)に示すように、積層構造を形成する。
【0022】次に、コンタクト層27上にSiO2膜を成膜し、パターニングしてストライプ状のマスク35を形成する。続いて、マスク35を使って、コンタクト層27、第二のp−InPクラッド層26、p−AlInAs層25、第一のp−InPクラッド層24、活性層23をエッチングして除去し、更にn−InPクラッド層22をその途中までをエッチングして除去し、図2(b)に示すように、幅Wが10μmのストライプ状リッジ33を形成する。
【0023】次に、水蒸気中にて約450℃から520℃の温度で150分間熱処理を施すことにより、図2(c)に示すように、p−AlInAs層25をリッジ33の側面から酸化させ、中央領域に幅Waのp−AlInAs層25を残留させつつ、その外側のAlInAs層のAlを選択に酸化してAl酸化層28を形成する。
【0024】次いで、硫酸系のエッチング液にて活性層23を側面からエッチングして、図3(d)に示すように、中央領域に幅Wl の活性層23を残すと共に、活性層23の側縁からリッジ側面まで活性層23の膜厚と同じ溝幅の溝36を形成する。
【0025】続いて、PH3 雰囲気中にて熱処理を積層構造に施すことにより、上下のInPクラッド層22、24からInP結晶のマストランスポートが起こり、図3R>3(e)に示すように、活性層23の両脇の溝36をInP埋め込み層34で埋め込む。そして、活性層23ではp−AlInAs層25の開口幅Waよりも電流が広がるので、活性層23の幅をWl 、p−AlInAs層25の開口幅をWaとしたとき、これを考慮して、Wl >Waとすることが望ましい。尚、電流の広がり量は、p−InPクラッド層24の厚さと電気抵抗率でほぼ決まる。
【0026】次に、図1に示すように、リッジ上部を除く領域にSiNx膜29を形成する。更に、n−InP基板21を100μm程度の厚さに研磨し、SiNx膜29上にp型電極31、n−InP基板21の裏面にn側電極32をそれぞれ形成する。これにより、図1に示す本実施形態例の半導体レーザ素子20を作製することができる。
【0027】本実施形態例の半導体レーザ素子では、活性層23の形成面では、活性層23からなる発光領域以外の部分が、バンドギャップ・エネルギーの大きい半導体層、即ちレーザ発振光に対して透明なInP層34で置き換えられているので、従来の半導体レーザ素子で問題となっていた光吸収が生じない。即ち、作製工程を複雑化することなしに、従来の半導体レーザ素子に比べて、しきい値電流が低く、量子効率の高い半導体レーザ素子を作製することができる。尚、本実施形態例では、マストランスポートの工程を独立して設けて行ったが、工程を簡略化するために、AlInAs層の酸化処理する際の熱処理と同時に行っても良い。この時には、活性層のエッチング、すなわち溝36の形成はリッジ33を形成した後に行う。そして、酸化工程では、前記基板上にフェイス・ツウ・フェイス(Face to Face)にして、他のInP基板をダミー基板として被せることにより、熱処理時に前記ダミー基板からpが抜けるので、p圧をかけることができ、マストランスポートを生じさせることができる。
【0028】実施形態例2本実施形態例は、p−InP基板上に形成された半導体レーザ素子に、本発明に係る半導体レーザ素子を適用した実施形態の一例であって、図4は本実施形態例の半導体レーザ素子の積層構造を示す断面図である。本実施形態例の半導体レーザ素子40は、端面発光型の半導体レーザ素子であって、図1に示すように、厚さ約100μm のpーInP基板41と、pーInP基板41上に順次形成された、第一のp−InPクラッド層42、p−AlInAs層43、第二のp−InPクラッド層44、SCH−MQW活性層45、n−InPクラッド層46、及びn−GaInAsコンタクト層47からなる積層構造を備えている。
【0029】積層構造のうち、第一のp−InPクラッド層42の上層部、p−AlInAs層43、第二のp−InPクラッド層44、活性層45、n−InPクラッド層46、及びn−GaInAsコンタクト層47は、幅が約10μmのストライプ状リッジ53として形成されている。また、p−AlInAs層43のリッジ側面部は、p−AlInAs層43中のAlが選択的に酸化されたAl酸化層48となっている。活性層45の形成面では、活性層45よりもバンドギャップ・エネルギーの大きい半導体層として、InP埋め込み層54が、中央領域の活性層45の側縁からリッジ側面まで連続して設けられている。
【0030】リッジ上部の窓50を除く領域上にSiNX 膜49が保護膜として形成されている。そして、p側電極51がリッジ上部の窓50の領域を含めてSiNX 膜49上に、及びn側電極52がpーInP基板41の裏面にそれぞれ形成されている。
【0031】図5及び図6を参照して、本実施形態例の半導体レーザ素子の作製方法を示す。図5(a)から(c)及び図6(d)、(e)は、それぞれ、本実施形態例の半導体レーザ素子を作製する際の工程毎の積層構造を示す基板断面図である。先ず、pーInP基板41上に、MOCVD法により、順次、第一のp−InPクラッド層42、p−AlInAs層43、第二のp−InPクラッド層44、SCH−MQW活性層45、n−InPクラッド層46、及び、n−GaInAsコンタクト層47を成膜して、図5(a)に示すように、積層構造を形成する。
【0032】次に、コンタクト層47上にSiO2膜を成膜し、パターニングしてストライプ状のマスク55を形成する。続いて、マスク55を使って、コンタクト層47、n−InPクラッド層46、活性層45、第二のp−InPクラッド層44、p−AlInAs層43をエッチングして除去し、更に第一のp−InPクラッド層42をその途中までエッチングして除去し、図5(b)に示すように、幅Wが10μmのストライプ状リッジ53を形成する。
【0033】次に、水蒸気中にて約450℃から520℃の温度で150分間熱処理を施すことにより、図5(c)に示すように、p−AlInAs層43をリッジ53の側面から酸化させ、中央領域に幅Waのp−AlInAs層43を残留させつつ、その外側のAlInAs層のAlを選択に酸化してAl酸化層48を形成する。
【0034】次いで、硫酸系のエッチング液にて活性層45を側面からエッチングして、図6(d)に示すように、中央領域に幅Wl の活性層45を残すと共に、活性層45の側縁からリッジ側面まで活性層45の膜厚と同じ溝幅の溝56を形成する。
【0035】続いて、PH3 雰囲気中にて熱処理を積層構造に施すことにより、上下InPクラッド層44、46からInP結晶のマストランスポートが起こり、図6(e)に示すように、活性層45の両脇の溝56をInP埋め込み層54で埋め込む。そして、活性層45では、p−AlInAs層43の開口幅Waよりも電流が広がるので、活性層45の幅をWl 、p−AlInAs層43の開口幅をWaとしたとき、これを考慮して、Wl >Waとすることが望ましい。尚、電流の広がり量は、p−InPクラッド層44の厚さと抵抗率でほぼ決まる。
【0036】次に、図4に示すように、リッジ上部を除く領域にSiNx膜49を形成する。更に、pーInP基板41を100μm程度の厚さに研磨し、SiNx膜49上にp型電極51、pーInP基板41の裏面にn側電極52をそれぞれ形成する。これにより、図4に示す本実施形態例の半導体レーザ素子40を作製することができる。
【0037】本実施形態例の半導体レーザ素子では、活性層45の形成面では、活性層45からなる発光領域以外の部分が、バンドギャップ・エネルギーの大きい半導体層、即ちレーザ発振光に対して透明なInP層54で置き換えられているので、従来の半導体レーザ素子で問題となっていた光吸収が生じない。即ち、作製工程を複雑化することなしに、従来の半導体レーザ素子に比べて、しきい値電流が低く、量子効率が高い半導体レーザ素子を実現することができる。尚、本実施形態例では、マストランスポートの工程を独立して設けて行ったが、工程を簡略化するために、酸化処理の熱処理と同時に行っても良い。この時には、活性層のエッチング、すなわち溝36の形成は、リッジ33を形成した後に行う。そして、酸化工程では、前記基板上にフェイス・ツウ・フェイス(Face to Face)にして、他のInP基板をダミー基板として被せることにより、熱処理時に前記ダミー基板からpが抜けるので、p圧をかけることができ、マストランスポートを生じさせることができる。
【0038】上述の実施形態例では、リッジを有する端面発光型半導体レーザ素子を例にして説明しているが、メサポストを有する面発光型半導体レーザ素子に適用する際には、リッジ形に加工することに代えて、メサポスト形に加工すれば良い。
【0039】
【発明の効果】本発明によれば、中央領域に設けられた活性層の側縁からリッジ側面又はメサポスト側面まで活性層に連続して、活性層よりもバンドギャップ・エネルギーの大きい半導体層を設けて、発光領域脇で光吸収が生じないようにすることにより、しきい値電流が低く、量子効率の高い半導体レーザ素子を実現している。また、本発明方法は、Al酸化層による閉じ込め構造を有し、しかもレーザ特性の良好な半導体レーザ素子を、作製工程を複雑化させることなしに、作製する方法を実現している。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態例1の半導体レーザ素子の積層構造を示す断面図である。
【図2】図2(a)から(c)は、それぞれ、実施形態例1の半導体レーザ素子を作製する際の工程毎の積層構造を示す基板断面図である。
【図3】図3(d)、(e)は、それぞれ、図2(c)に続いて、実施形態例1の半導体レーザ素子を作製する際の工程毎の積層構造を示す基板断面図である。
【図4】実施形態例2の半導体レーザ素子の積層構造を示す断面図である。
【図5】図5(a)から(c)は、それぞれ、実施形態例2の半導体レーザ素子を作製する際の工程毎の積層構造を示す基板断面図である。
【図6】図6(d)、(e)は、それぞれ、図5(c)に続いて、実施形態例1の半導体レーザ素子を作製する際の工程毎の積層構造を示す基板断面図である。
【図7】従来の面発光型半導体レーザ素子の積層構造を示す断面図である。
【図8】図8(a)から(c)は、それぞれ、従来の面発光型レーザ素子を作製する際の工程毎の積層構造を示す基板断面図である。
【図9】従来の端面発光型の半導体レーザ素子で、しきい値電流が高くなる原因を説明する図である。
【符号の説明】
1 n−InP基板
2 n−InPクラッド層
3 活性層
4 第一のp−InPクラッド層
5 AlInAs層
6 第二のp−InPクラッド層
7 p−GaInAsコンタクト層
8 Al酸化層
9 SiNX
10 p側電極
11 n側電極
12 リッジ
13 窓
14 マスク
15 従来のInP系の端面発光型半導体レーザ素子
20 実施形態例1の半導体レーザ素子
21 n−InP基板
22 n−InPクラッド層
23 SCH−MQW活性層
24 第一のp−InPクラッド層
25 p−AlInAs層
26 第二のp−InPクラッド層
27 p−GaInAsコンタクト層
28 Al酸化層
29 SiNX
30 窓
31 p側電極
32 n側電極
33 リッジ
34 InP埋め込み層
35 マスク
36 溝
40 実施形態例2の半導体レーザ素子
41 p−InP基板
42 第一のp−InPクラッド層
43 p−AlInAs層
44 第二のp−InPクラッド層
45 SCH−MQW活性層
46 n−InPクラッド層
47 n−GaInAsコンタクト層
48 Al酸化層
49 SiNX
50 窓
51 n側電極
52 p側電極
53 リッジ
54 InP埋め込み層
55 マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】 活性層と、Alを含む半導体層のAlを選択的に酸化させてなるAl酸化層によって、活性層の少なくとも一方の側に形成された閉じ込め構造とを有し、ストライプ状リッジ形又はメサポスト形に形成された積層構造を半導体基板上に有する半導体レーザ素子において、活性層の形成面では、活性層よりもバンドギャップ・エネルギーの大きい半導体層が、形成面の中央領域に設けられた活性層の側縁からリッジ側面又はメサポスト側面まで活性層に連続して設けられていることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項2】 形成面の中央領域に設けられた活性層の横断寸法は、閉じ込め構造の電気的開口部の横断寸法より大きいことを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】 活性層と、Alを含む半導体層のAlを選択的に酸化させてなるAl酸化層によって、活性層の少なくとも一方の側に形成された閉じ込め構造とを有し、ストライプ状リッジ形又はメサポスト形に形成された積層構造を半導体基板上に有する半導体レーザ素子の作製方法であって、半導体基板上に、少なくとも、下部クラッド層、活性層、上部クラッド層、及び、Alを含む半導体層を結晶成長させて積層構造を形成する工程と、積層構造をストライプ状リッジ形又はメサポスト形に加工する工程と、熱処理を施して、Alを含む半導体層を酸化させ、Al酸化層を生成する工程と、活性層をリッジ側面又はメサポスト側面からエッチングして、中央領域に活性層を残すと共に、活性層の側縁からリッジ側面又はメサポスト側面まで活性層の膜厚と同じか又は幅広の溝を積層構造に形成する工程と、活性層よりもバンドギャップ・エネルギーの大きい半導体で溝を埋め込む工程とを備えていることを特徴とする半導体レーザ素子の作製方法。
【請求項4】 バンドギャップ・エネルギーの大きい半導体で溝を埋め込む工程が、マストランスポートにより行うことを特徴とする請求項3に記載の半導体レーザ素子の作製方法。
【請求項5】 活性層と、Alを含む半導体層のAlを選択的に酸化させてなるAl酸化層によって、活性層の少なくとも一方の側に形成された閉じ込め構造とを有し、ストライプ状リッジ形又はメサポスト形に形成された積層構造を半導体基板上に有する半導体レーザ素子の作製方法であって、半導体基板上に、少なくとも、下部クラッド層、活性層、上部クラッド層、及び、Alを含む半導体層を結晶成長させて積層構造を形成する工程と、積層構造をストライプ状リッジ形又はメサポスト形に加工する工程と、活性層をリッジ側面又はメサポスト側面からエッチングして、中央領域に活性層を残すと共に、活性層の側縁からリッジ側面又はメサポスト側面まで活性層の膜厚と同じか又は幅広の溝を積層構造に形成する工程と、熱処理を施して、Alを含む半導体層を酸化させAl酸化層を生成すると共に、マストランスポートにより活性層よりもバンドギャップ・エネルギーの大きい半導体で溝を埋め込む工程とを備えていることを特徴とする半導体レーザ素子の作製方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図5】
image rotate


【図4】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【図8】
image rotate


【図9】
image rotate