説明

半導体用導電性樹脂ペースト

【構成】 銀粉、ビスフェノールF及び潜在性アミン化合物、常温で液状で加水分解性塩素含有率が500ppm以下であるエポキシ樹脂、エポキシ基を有するポリブタジエン化合物を主成分とし全組成物中に銀粉50〜90重量%、エポキシ基を有するポリブタジエン化合物0.1〜7重量%を含む半導体用導電性樹脂ペースト。
【効果】 生産性が良好で接着性、耐湿性に優れ硬化物の弾性率が小さく応力緩和性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は銀粉、エポキシ樹脂、硬化剤および可撓性付与剤よりなる導電性樹脂ペーストで、IC、LSI等の半導体素子を金属フレーム等に接着する導電性樹脂ペーストに関するものである。
【0002】
【従来の技術】エレクトロニクス業界の最近の著しい発展により、トランジスター、IC、LSI、超LSIと進化してきており、これら半導体素子に於ける回路の集積度が急激に増大すると共に大量生産が可能となり、これらを用いた半導体製品の普及に伴って、その量産に於ける作業性の向上並びにコストダウンが重要な問題となってきた。従来は半導体素子を金属フレームなどの導体にAu−Si共晶法により接合し、次いでハーメチックシールによって封止して、半導体製品とするのが普通であった。しかし量産時の作業性、コストの面より、樹脂封止法が開発され、現在は、一般化されている。これに伴い、マウント工程に於けるAu−Si共晶法の改良としてハンダ材料や導電性樹脂ペースト即ちマウント用樹脂による方法が取り上げられるようになった。
【0003】しかし、ハンダ法では信頼性が低いこと、素子の電極の汚染を起こし易いこと等が欠点とされ、高熱伝導性を要するパワートランジスター、パワーICの素子に使用が限られている。これに対しマウント用樹脂はハンダ法に較べ、作業性に於いても信頼性等に於いても優れており、その需要が急激に増大している。
【0004】更に近年、IC等の集積度の高密度化により、チップが大型化してきており、一方従来用いられてきたリードフレームである42合金フレームが高価なことより、コストダウンの目的から銅フレームが用いられるようになってきた。ここでIC等のチップの大きさが約4〜5mm角より大きくなると、IC等の組立工程での加熱により、マウント法としてAu−Si共晶法を用いると、チップの熱膨張率と銅フレームの熱膨張率との差からチップのクラックや反りによる特性不良が問題となってきている。
【0005】即ちこれは、チップの材料であるシリコン等の熱膨張率が3×10-6/℃であるのに対し、42合金フレームでは8×10-6/℃であるが、銅フレームでは20×10-6/℃と大きくなる為である。これに対し、マウント法としてマウント用樹脂を用いることが考えられるが、従来のエポキシ樹脂系ペーストでは、熱硬化性樹脂で三次元硬化する為、弾性率が大きく、チップと銅フレームとの歪を吸収するに至らなかった。一方、線状高分子タイプのポリイミド樹脂系では、エポキシ樹脂に較べ弾性率が小さく、チップの反りは改良される。しかし、ポリイミド樹脂をマウント用樹脂として用いるには、作業性の点からN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等の多量の極性溶剤に溶解して、粘度を低くしなければならない。この時の溶剤量は、マウント樹脂中の30重量%以上にもなり、チップと金属フレームとの接着に用いた場合、硬化加熱時の溶剤の抜け跡として硬化物中にボイドが生成し、接着強度低下、電気伝導及び熱伝導不良の原因となり、信頼性面から好ましくない。
【0006】また可撓性付与剤であるエポキシ基を有するポリブタジエン化合物を添加して、硬化物の弾性率を小さくすることはすでに知られている(特開昭63−161015号公報)。しかしエポキシ基を有するポリブタジエン化合物は粘度が高く、これを添加した配合物の粘度は高くなる欠点があり、配合物の生産性を低下させ、かつ接着性、耐湿性が悪いので、用いるポリブタジエン化合物の添加量には限界があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の導電性ペーストは、配合物の生産性が良好で、接着性、耐湿性に優れ、硬化物の弾性率が小さく、チップと銅フレームとの熱膨張率の差による歪を吸収し応力緩和に優れて、可撓性付与剤の粘度への影響をなくした導電性樹脂ペーストを提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は(A)銀粉、(B)ビスフェノールF及び潜在性アミン化合物、(C)常温で液状で加水分解性塩素含有率が500ppm以下であるエポキシ樹脂及び(D)エポキシ基を有するポリブタジエン化合物を必須成分とし、全組成物中に銀粉(A)を50〜90重量%、エポキシ基を有するポリブタジエン化合物(D)を0.1〜7重量%含有する半導体用導電性樹脂ペーストである。
【0009】本発明に用いる銀粉のハロゲンイオン、アルカリ金属イオン等のイオン性不純物の含量は好ましくは10ppm以下であることが望ましい。また粒径としてはフレーク状、樹枝状や球状等のものが用いられる。また比較的粗い銀粉と細かい銀粉とを混合して用いることもでき、形状についても各種のものを適宜混合してもよい。
【0010】また、本発明に用いる硬化剤としてのビスフェノールFは、エポキシ基と反応する水酸基を1分子に2個有するいわゆる2官能性硬化剤であるため、例えばフェノールノボラックのような多官能性硬化剤と比べ硬化物の架橋密度が低く、低弾性率である硬化物が得られ、導電性樹脂ペーストに用いると非常に応力緩和性に優れたペーストが得られる。
【0011】ビスフェノールFはエポキシ基と反応する水酸基の当量が大きいため、配合物の硬化物の物性を十分に発現するには多く配合する必要があり、その結果配合物の粘度が高くなる。従ってビスフェノールFが有する低弾性率の特性を最大限発揮し、かつ実用に供せられるペースト粘度にするにはビスフェノールFより当量の小さい潜在性アミン化合物を併用すると良い。これにより、配合物の粘度を低く押さえられ、また潜在性であるため保存性にも優れた実用に供せられるペーストを得ることができる。潜在性アミン化合物としては、アジピン酸ヒドラジド、ドデカン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ヒドラジド、P−オキシ安息香酸ジヒドラジド等のカルボン酸ヒドラジドやジシアンジアミドである。
【0012】本発明に用いる可撓性付与剤は、エポキシ基を有するポリブタジエン化合物である。一般にポリブタジエン化合物は弾性率が低く応力緩和性に優れているが、接着性や耐湿性が劣る。また粘度が高く配合物の生産性が悪くなり、得られるペーストの粘度も高くなる。接着性、耐湿性に優れたエポキシ樹脂にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物を添加することにより、弾性率の低い応力緩和性、接着性、耐湿性に優れたペーストが得られる。ポリブタジエン化合物中にエポキシ基を有していることが重要でエポキシ樹脂の硬化剤と反応しないと硬化時にエポキシ樹脂とポリブタジエン化合物の分離が発生し硬化物が均一にならない。
【0013】エポキシ基を有するポリブタジエン化合物は全組成物に対し0.1〜7重量%が好ましく0.1重量%未満だと応力緩和性が得られず、7重量%を越えると配合物の粘度が高くなり生産性が低下し、接着性、耐湿性も悪くなる。このため可撓性付与剤のみの添加で得られるペーストの弾性率には限界があり、粘度も高くなる傾向にある。
【0014】硬化剤をビスフェノールFと潜在性アミン化合物の使用に限定しエポキシ基を有するポリブタジエン化合物の添加と組み合わせることにより、従来の限界以上の低弾性率の応力緩和性に優れ、またビスフェノールFと潜在性アミン化合物の硬化剤は粘度が低いため、ポリブタジエン化合物の粘度への影響を無くした導電性ペーストを得ることができる。
【0015】本発明に用いるエポキシ樹脂は常温で液状のものであるのに限定しているが、常温で液状のものでないと銀粉との混練において溶剤を必要とする。溶剤は気泡発生の原因となり、硬化物の導電性を著しく低下させ使用できない。また、エポキシ樹脂に含まれる加水分解性塩素量を500ppm以下に限定しているが、このようなエポキシ樹脂を用いることにより導電ペーストから抽出(プレッシャクッカ)される塩素の量を大幅に低減することができる。抽出された塩素は半導体素子表面のアルミ配線腐食をひきおこす原因となるため、抽出量が少なければそれだけ信頼性が高くなる。
【0016】加水分解性塩素含有量の測定は以下のようにして行う。即ち、エポキシ樹脂0.5gをジオキサン30mlに完全に溶解させ、これにIN−KOH液(エタノール溶液)5mlを加え、30分間蒸沸還流する。これに80%アセトン水100ml加え、さらにConc.HNO3 2ml加えて、0.01N−AgNO3 水溶液で電位差滴定を行う。
【0017】本発明に用いるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラックとエピクロルヒドリンとの反応で得られるジグリシジルエーテルで常温で液状のもの、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンジオキシド、アリサイクリックジエポキシ−アジペイトのような脂環式エポキシ、更にはn−ブチルグリシジルエーテル、バーサティック酸グリシジルエステル、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエンジエポキシドのような通常エポキシ樹脂の希釈剤として用いられるものがある。
【0018】本発明の導電性樹脂ペースト中の銀粉末含有量は50〜90重量%で50重量%未満だと硬化物の導電性が著しく低下し、一方90重量%を越えるとペーストの粘度が高くなり過ぎて実質上使用できなくなってしまう。
【0019】
【実施例】以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。配合割合は重量%とする。
【0020】実施例1ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応により得られるジグリシジルエーテル(加水分解性塩素含有量300ppm、エポキシ当量180)の液状エポキシ樹脂(A)、ビスフェノールF及びイソフタル酸ヒドラジド、エポキシ基を有するポリブタジエン化合物(品名Poly bd R−45EPT:出光石油化学(株))とクレジルグリシジルエーテルとを表1に示す割合で均一分散液とし、更に粒径1〜50μmで平均粒径3μmのフレーク状銀粉を表1に示す割合で加え、三本ロールで混練し、均一なマウント用樹脂ペーストを得た。この樹脂ペーストを真空チャンバーにて2mmHgで30分間脱泡した後、各種の性能を評価した。評価結果を表1に示す。
【0021】実施例2,3表1に示す配合割合で実施例1と同様にして樹脂ペーストを得た。評価結果を表1に示す。
液状エポキシ樹脂(B):フェノールノボラックとエピクロルヒドリンの反応により得られるジグリシジルエーテル(加水分解性塩素含有量200ppm、エポキシ当量180)
【0022】比較例1〜6表1に示す配合割合で実施例1と同様にして樹脂ペーストを得た。評価結果を表1に示す。
液状エポキシ樹脂(C):ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応により得られるジグリシジルエーテル(加水分解性塩素含有量700ppm、エポキシ当量180)
フェノールノボラック:軟化点110℃、水酸基当量105
【0023】
【表1】


【0024】評価方法塩素量ペーストの硬化物を微粉砕して、蒸留水中で125℃,20時間処理し、抽出された塩素量を測定した。
チップ歪銅フレーム上に銀ペーストを塗布しシリコンチップ(サイズ:6×12×0.3mm)をマウントして200℃,1時間オーブン中で硬化した。これを表面粗さ計にてチップの両端を結ぶ線上から垂直にチップの反りの頂上までの高さを測定した。
【0025】接着強度銅フレーム上に銀ペーストをデスペンスし2mm角のシリコンチップを乗せ、200℃で1時間オーブン中で硬化させた後、350℃熱盤上で20秒放置後テンションゲージでチップをはじきチップが破壊した強度又は剥がれた強度を測定した。
E型粘度E型粘度計で温度25±1℃で回転速度2.5rpm、3度コーンを用いて測定した。
【0026】
【発明の効果】本発明の導電性樹脂ペーストは生産性が良好で接着性、耐湿性に優れ、硬化物の弾性率が小さく応力緩和性に優れ、銅、42合金等の金属フレーム、セラミック基板、ガラスエポキシ等の有機基板へのIC等の半導体素子の接着に用いることができ、特に銅フレームへの大型チップの接着に最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)銀粉、(B)ビスフェノールF及び潜在性アミン化合物、(C)常温で液状で加水分解性塩素含有率が500ppm以下であるエポキシ樹脂及び(D)エポキシ基を有するポリブタジエン化合物を必須成分とし、全組成物中に銀粉(A)を50〜90重量%、エポキシ基を有するポリブタジエン化合物(D)を0.1〜7重量%含有することを特徴とする半導体用導電性樹脂ペースト。

【公開番号】特開平5−120914
【公開日】平成5年(1993)5月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−284482
【出願日】平成3年(1991)10月30日
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)