説明

半透明のPCAセラミック、セラミック放電容器及び製造法

【課題】先行技術の欠点を回避し、半透明のPCAセラミック、セラミック放電容器及び製造法を提供する。
【解決手段】焼結された半透明のセラミック物品において、MgOの量を含有し、かつアルミニウム、酸素及び窒素を含有する粒界相を有する多結晶アルミナから構成されていることを特徴とする、焼結された半透明のセラミック物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半透明のPCAセラミック、セラミック放電容器及び製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
半透明の多結晶アルミナ(PCA)セラミックは、今日の高圧ナトリウム(HPS)ランプ及びセラミックメタルハライドランプの製造を実現した。これらの適用におけるアーク放電容器は、ランプ稼働時に発生する高温高圧に耐えうると同時に、封入材料による化学的な攻撃に対して抵抗性でなければならない。
【0003】
HPSランプでは放電容器は図2に示されているように管状であるが、一方、セラミックメタルハライドランプに関しては放電容器は円筒形状ないしほぼ球形状(張り出した形状)にわたることがある。これらの種類のアーク放電容器の例は、欧州特許出願第0587238号A1及び米国特許第5,936,351号にそれぞれ示されている。張り出した形の放電容器は図1に示されている。張り出した形でその端部が半球となっている形状は、より均一な温度分布をもたらし、それによりランプ封入物によるPCAの侵食が低減される。
【0004】
従来、多結晶アルミナ(PCA)を焼結させて半透明にさせる際の幾つかの重要な要素には、(1)高純度の粉末、(2)低濃度のMgO焼結助剤の使用、及び(3)H2含有雰囲気中での焼結が必要とされていた。刊行物には、空気、N2、He及びAr雰囲気を用いることはできないが、H2、O2又は真空によって半透明性の達成が可能となったことが報告されてきた。これは、閉じ込められたガス状種を表面に拡散させることのできる格子と粒界におけるガスの溶解性によるものであった。真空環境中で、又はPCA中で可溶性でありかつ迅速に拡散されるガス状雰囲気内で、焼結プロセスは動力学的に制限されておらず、かつ細孔を含まないミクロ構造が達成される。より後の研究によって、半透明のアルミナを、解離アンモニア(N225%−H275%)中で、また、CO雰囲気中であっても焼結させることができることが示された。アルミナの焼結は、2%という低い程度の水素を含有するN2−H2雰囲気中で報告された。コスト及び安全性の点のために、水素ガスを添加する必要性を排除し、窒素ガスのみを使用することが望ましいであろう。しかしながら、N2雰囲気単独では半透明のPCAを製造することは不可能であった。
【特許文献1】欧州特許出願第0587238号A1
【特許文献2】米国特許第5,936,351号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記の要求を満たすべく半透明のPCAセラミック、セラミック放電容器及び製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
炭素要素炉中の窒素ガス雰囲気内で多結晶アルミナを焼結し、半透明にすることができることが見出された。ここで用いられているように、半透明とは、約400nm〜約700nmの可視波長領域における少なくとも92%の全透過率を意味する。有利に、本発明による放電容器の全透過率は少なくとも95%である。
【0007】
炭素要素炉内における焼結結果は、W要素、Moシールド又はアルミナ管マッフル炉を用いた場合の焼結結果とは劇的に異なる。炭素要素炉中でN2中で焼結されたPCAのミクロ構造分析によって、粒界Al−O−N相の形成が示され、該相は閉じ込められた細孔からの窒素の輸送を促進すると考えられている。粒界Al−O−N相の形成は、窒素雰囲気と、炭素含有種、特に炭素炉構成部材から放出されるC、CO及びCO2の蒸気相との組合せから生じると考えられている。例えば、酸窒化アルミニウム(Al79N又はAl23275のいずれか)の形成は以下の反応により進行することができる:
7/2Al23+3/2C+1/2N2→Al79N+3/2CO
酸化アルミニウム焼結温度での炭素の部分圧は、約10-9atmと見積もることができる。有利に、炉雰囲気は炭素約1×10-12atm〜約1×10-7atmを含有すべきである。炉雰囲気はCO、CO2、H2、CH4及びC22の部分圧を含んでもよい。特に、焼結の間の前記ガスの部分圧は以下のように見積もられる:Pco10-3〜10-4atm;Pco210-6〜10-7atm;PH210-3atm;PCH410-10atm及びPC2H210-7atm。炭素要素炉中でPCAを焼結させるのが有利であるが、他の方法により、例えば黒鉛トレーを用いて、又は炭素の他の源を他の型の炉内に配置することにより、類似の焼結雰囲気を生じさせることができる。しかしながら、W及びMo構成部材を含有する炉中で雰囲気を制御することは比較的困難であり、なぜならば、前記金属は迅速にゲッターとして炭素を排除するためである。
【0008】
炭素炉構成部材のガス放出から期待される水素の部分圧10-3atmは、窒素−水素混合ガス雰囲気中で酸化アルミニウムを焼結し、半透明にするために必要であると予め知られている水素の部分圧よりも1オーダーよりも多く低い。有利に、PCA放電容器は、H2約0.2体積%未満を含有する窒素雰囲気中で焼結される。更に有利に、炉雰囲気は炭素約1×10-9atm及びCO約1×10-3atm〜約1×10-4atmを含有する。
【0009】
炉雰囲気を生じさせるために、比較的純粋な窒素ガス源が使用される。有利に、窒素ガス源は約0.005体積%以下の全不純物を含有すべきである。更に有利に、窒素ガスは窒素99.999体積%である超高純度等級である。焼結温度は約1800℃〜約2000℃の範囲内であってよく、焼結時間は約1時間〜約70時間の範囲であってよい。更に有利に、放電容器は約1850℃〜約1950℃で約4〜約50時間、最も有利に約1900℃で約10時間焼結される。
【0010】
図面の簡単な説明
図1は、先行技術の張り出した形の放電容器の断面図である。
【0011】
図2は、先行技術のHPS放電容器の断面図である。
【0012】
図3は、炭素要素炉中でN2下で焼結されたPCA管の研磨された断面図の後方散乱電子像である。
【0013】
図4は、図3の研磨された断面図の窒素マップである。暗い領域は窒素の存在を示す。
【0014】
発明の詳細な説明
本発明を、別の及び更なる課題、その利点及び性能と共により良く理解するために、図面に関連して採用される以下の開示及び付属の特許請求の範囲が参照される。
【0015】
図1は、慣用の張り出した形のアーク放電容器の断面図である。アーク放電容器21は、多結晶アルミナから構成されているセラミック体23を有する。セラミック体23は、アーク放電キャビティ25の範囲を決定しており、そして該放電キャビティ25から外側に反対の方向に延びる2つのキャピラリ27を有する。放電キャビティ壁の典型的な厚さは約0.8mmである。キャピラリは、その中に電極集合体(図示せず)を収容して封止するのに適しており、その電極集合体は、放電キャビティ内でアークを発生させ保持するために放電容器への電力供給用の導電路を提供する。
【0016】
図2は、HPSランプ用の慣用の放電容器の断面図である。放電容器50はPCAから構成された管状体53を有する。PCAから構成された環状プラグ60は管状体53の各末端で封止されており、それにより放電室51の範囲が決定される。環状プラグ内の隙間は電極集合体を収容するためのものであり、これは典型的にニオブフィードスルーから構成されており、該ニオブフィードスルーにタングステン電極が取り付けられている。ニオブフィードスルーは、ナトリウム/水銀アマルガム及びバッファーガスが放電室51に添加された後に隙間中に封止されたフリットである。
【0017】
高純度の微細な酸化アルミニウム(アルミナ)粉末から形成されたセラミック放電容器は、等方加圧法(isopressing)、押出成形法、スリップ注型法、ゲル注型法(gel casting)、又は射出成形法によって圧密化することができる。一般に、MgOドーパントは圧密化前にアルミナ粉末に添加される。放電容器用のセラミック生素地を製造する種々の方法の詳細は、例えば欧州特許第0650184号B1(スリップ注型法)、米国特許第6,399,528号(ゲル注型法)、国際特許出願番号WO2004/007397号A1(スリップ注型法)及び欧州特許出願番号EP1053983号A2(等方加圧法)に記載されている。
【0018】
本発明の焼結法により、粒界で第二の窒素含有相を有する半透明のPCAセラミックが製造される。該相は、アルミニウム、酸素及び窒素を含有し、かつ酸窒化アルミニウムであると考えられる。この第二の相は、閉じ込められた細孔からの窒素の拡散を促進すると考えられており、これにより、少なくとも2%の水素を添加する必要なくN2雰囲気中でPCAを焼結して半透明にすることができる。焼結法及び得られる半透明のPCAを以下の実施例においてより詳細に説明する。しかしながら、本発明は決してこのような特定の実施例に限定されるものではないと理解されるべきである。
【実施例】
【0019】
高純度(純度99.97%)Al23粉末を有利に出発粉末として使用し、多結晶アルミナ放電容器を形成させる。形成法には、等方加圧法、押出成形法、射出成形法、ゲル注型法及びスリップ注型法が含まれていてよい。直管のためには等方加圧法又は押出成形法が有利である。更に複雑な形状のためには、射出成形法、ゲル注型法又はスリップ注型法を使用することができる。有利なアルミナ粉末はBaikowski社により製造されたCR30F及びCR6である。CR30Fはアルファ−Al23〜80%及びガンマ−Al23〜20%を含有するのに対して、CR6はアルファ−Al23100%である。晶子径は約0.05マイクロメートルであり、平均比表面積はCR30Fに関しては30m2/gであり、CR6に関しては6m2/gである。報告された平均粒径は、双方の型に関して約0.5マイクロメートルである。焼結助剤、例えばMgO、Y23及びZrO2は有利である。MgOはPCAを焼結させて半透明にするのに必要である。有利に、MgOの量は約100ppm〜約1000ppmである。アルミナ粉末は、アルミナ粉末を焼結助剤の前駆体の水溶液中に混合することにより焼結助剤でドープされてよい。素地を形成するために、粉末を適当なバインダー材料、例えばポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、メチルセルロース又はロウと組み合わせる。該素地の前焼成を空気中で850〜1350℃で1〜4時間行い、バインダーを除去する。種々のサイズ(ワット数)の放電容器及びそのキャピラリを製作した。
【0020】
焼結を炭素要素炉(Centorr Company, Model M10)中で超高純度(UHP)等級(99.999%)の流動窒素ガスの雰囲気下で行った。更に有利に、UHP等級の窒素ガスはCO又はCO2<1ppm、O2<2ppm、H2O<3ppm及び全炭化水素<0.5ppmを含有する。炉は、黒鉛要素及び炭素繊維遮断材を含む水平炉であった。前焼成したPCA部分を、セッター粉末を有するか又は有しないアルミナボート中に配置する。2種のセッター粉末を使用する:酸窒化アルミニウム及びアルミナ。炉内でのガス流量は約0.02m/sのガスの線速度に相当していた。約8〜16℃/分の速度での加熱により焼結温度(〜1800−1920℃)に達する。焼結温度での保持時間4〜40hである。
【0021】
酸窒化アルミニウムセッター粉末床は酸窒化アルミニウムの部分圧を生じさせるのに有利であるため、粒界酸窒化アルミニウム相が保持され、その後、該相は細孔の内部に閉じ込められた窒素の拡散を促進する。粉末床中に埋め込まれたPCA部分は、焼結されて、床内に埋め込まれなかったPCA部分よりも著しく高い透過率となった。酸窒化アルミニウム粉末床は、(1)酸窒化アルミニウム粉末、(2)炭素炉中での流動窒素中で徐々に酸窒化アルミニウム相を形成するアルミナ粉末、又は(3)後で反応して炭素炉中で酸窒化アルミニウムを形成する窒化アルミニウムとアルミナ粉末との混合物を使用することにより完成させることができる。
【0022】
焼結された部分の全透過率には、小型の白熱ランプ又は光ファイバ源を焼結された部分の内部に配置し、球体一面に亘って透過されかつ積算された拡散光の全量を測定することが必要である。測定のための波長範囲は約400nm〜約700nmであった。以下の表は、炭素要素、炭素繊維遮断炉中で流動N2中で焼結された種々のPCA部分の全透過率を示す。
【0023】
【表1】

【0024】
本発明による方法により焼結されたPCAのミクロ構造を、光学顕微鏡法及び走査型電子顕微鏡法(SEM)及びエネルギー分散型X線分析(EDXA)により検査した。焼結された際の表面上の結晶粒のモルホロジーは劈開工程と共に高度にエッチングされ、それにより粒径の測定が困難となる。表面のSEM/EDXAは、PCA中での窒素の存在を示しており、これは表面上の酸窒化アルミニウムの形成を示す。
【0025】
図3は、炭素要素炉中でN2下で焼結されたPCA管の研磨された断面図の後方散乱電子像である。図4は、電子マイクロプローブ分析による同一の研磨された断面図の窒素マップである。暗い領域は窒素の存在を示し、明確に、アルミナ粒界での窒素含有相の薄層の存在を示す。
【0026】
目下、本発明の好ましい実施態様であると考えられるものについて示し、記載してきたが、付属の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲を逸脱することなく多様な変更及び改良がなされてよいことは、当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】先行技術の張り出した形の放電容器の断面図。
【図2】先行技術のHPS放電容器の断面図。
【図3】炭素要素炉中でN2下で焼結されたPCA管の研磨された断面図の後方散乱電子像。
【図4】図3の研磨された断面図の窒素マップ。
【符号の説明】
【0028】
21 アーク放電容器、 23 セラミック体、 25 アーク放電キャビティ、 27 キャピラリ、 50 放電容器、 51 放電室、 53 管状体、 60 環状プラグ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結された半透明のセラミック物品において、MgOの量を含有し、かつアルミニウム、酸素及び窒素を含有する粒界相を有する多結晶アルミナから構成されていることを特徴とする、焼結された半透明のセラミック物品。
【請求項2】
粒界相が酸窒化アルミニウムである、請求項1記載のセラミック物品。
【請求項3】
多結晶アルミナ中のMgOの量が約100ppm〜約1000ppmである、請求項1記載のセラミック物品。
【請求項4】
セラミック放電容器において、MgOの量を含有し、かつアルミニウム、酸素及び窒素を含有する粒界相を有する半透明の多結晶アルミナから構成されたセラミック体を含有することを特徴とする、セラミック放電容器。
【請求項5】
粒界相が酸窒化アルミニウムである、請求項4記載のセラミック放電容器。
【請求項6】
多結晶アルミナ中のMgOの量が約100ppm〜約1000ppmである、請求項4記載のセラミック放電容器。
【請求項7】
放電容器が少なくとも95%の全透過率を有する、請求項4記載のセラミック放電容器。
【請求項8】
セラミック体を焼結させて半透明にするための方法において、以下の工程:
(a)MgOでドープされた酸化アルミニウムから構成されているセラミック体を、炭素源と約0.005体積%以下の全不純物レベルを有する窒素ガス源により形成された窒素雰囲気とを含む炉内中に配置する工程;
(b)セラミック体を約1800℃〜約2000℃の温度で焼結させ、焼結された半透明のセラミック体を形成させる工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
焼結の間の炉雰囲気が炭素約1×10-12atm〜約1×10-7atmを含有する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
焼結の間の炉雰囲気が水素約0.2体積%未満を含有する、請求項8記載の方法。
【請求項11】
焼結の間の炉雰囲気がCO約1×10-3atm〜約1×10-4atmを含有する、請求項9記載の方法。
【請求項12】
焼結の間の炉雰囲気が水素約0.2体積%未満を含有する、請求項9記載の方法。
【請求項13】
セラミック体を約1時間〜約70時間にわたり焼結させる、請求項8記載の方法。
【請求項14】
セラミック体を約1850℃〜約1950℃の温度で約4時間〜約50時間にわたり焼結させる、請求項8記載の方法。
【請求項15】
セラミック体を約1900℃で約10時間にわたり焼結させる、請求項8記載の方法。
【請求項16】
炉が炭素要素炉であり、炭素源が炉の1つ又は複数の構成部材である、請求項8記載の方法。
【請求項17】
焼結の間の炉雰囲気が炭素約1×10-12atm〜約1×10-7atmを含有する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
焼結の間の炉雰囲気が水素約0.2体積%未満を含有する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
セラミック体を約1850℃〜約1950℃の温度で約4時間〜約50時間にわたり焼結させる、請求項18記載の方法。
【請求項20】
セラミック体を焼結させて半透明にするための方法において、以下の工程:
(a)MgO約100ppm〜約1000ppmでドープされた酸化アルミニウムから構成されているセラミック体を、約0.005体積%以下の全不純物レベルを有する窒素ガス源により形成された窒素雰囲気を含有する炭素要素炉内に配置する工程;
(b)セラミック体を約1800℃〜約2000℃の温度で約1時間〜約70時間焼結させて焼結された半透明のセラミック体を形成させ、その際、焼結の間の炉雰囲気が炭素約1×10-12atm〜約1×10-7atm及び水素約0.2体積%未満を含有する工程
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−327933(P2006−327933A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−147049(P2006−147049)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(596104131)オスラム シルヴェニア インコーポレイテッド (72)
【氏名又は名称原語表記】OSRAM SYLVANIA Inc.
【住所又は居所原語表記】100 Endicott Street, Danvers, Massachusetts 01923, USA
【Fターム(参考)】