説明

卓球ラバーのシートとスポンジの貼合わせ用水性接着剤及び卓球ラバーの製造方法

【課題】ITTFの規制をより完全にクリアするため、揮発性有機化合物を含まない卓球ラバーのシートとスポンジの貼合わせ用水性接着剤を提供する。
【解決手段】ポリウレタン樹脂水分散液からなることを特徴とする揮発性有機化合物を含まない卓球ラバーのシート2とスポンジ1の貼合わせ用水性接着剤である。さらにスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを配合した事を特徴とする。スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスのゲル分率は30%〜100%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物を含まない卓球ラバーのシートとスポンジを貼合わせる水性接着剤及びその水性接着剤を用いた卓球ラバーの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、卓球ラケットのラバーとブレードを接着する卓球ラバー用接着剤や卓球ラバーのシートとスポンジを貼合わせるための接着剤としては天然ゴムやクロロプレンゴムなどの合成ゴムをトルエン等の芳香族炭化水素系溶剤や、アセトン等のケトン系溶剤等の揮発性有機化合物(以下VOCと呼ぶことがある)に溶解したものが用いられてきた。
【0003】
特に、ラバーとブレードを接着する卓球ラバー用接着剤には、用いられているVOCの種類によって、弾みやボールに与える回転力、またコントロール性能など、卓球ラバーの性能を向上させるものがあり、トップ選手をはじめ世界中の卓球選手が愛用する卓球ラバー用接着剤にはVOCが含まれていた。
【0004】
しかし、VOCは人体に有害であるため、国際卓球連盟(以下ITTFと略すことがある)はオリンピック憲章21の「人類にとって有害または有毒とみなされる、環境を汚染するような製品は認められない」という主旨に鑑み、理事会において、2008年9月1日以降は人体に有害な接着剤の使用を禁止すると決定した。
【0005】
しかしながら、VOCの基準については、ITTFより正式な基準は示されていない。また、ルール上は、第2章4条7項(非特許文献1)に定義されている内容を2008年4月27日に決定したのみである。ただし、ITTFの目指すところは、「ラケット(ラバーを貼ってある状態になっているもの)から発散される有機溶剤をゼロにする」というものである。かかる規制を克服すべく、本出願人らはVOCを含まない水系の卓球ラバー用接着剤を開発した(特許文献1)。
【0006】
また、国際大会等においては、専用のラケット検査機によって選手のラケットが厳しく検査されるようになった。そしてラケット検査機での検査をクリアするために、選手はブレードとラバーの接着において、VOCを含まない水系の接着剤を使用するようになった。
【0007】
しかしながら、ラケットメーカーがラバー製造時に使用するシートとスポンジを貼り合わせる接着剤に含まれるVOCが、ラケット検査機に反応してしまうことがある。
【0008】
ITTFの意向では、上述したようにラケットから発散されるVOCの許容範囲ゼロを目指している。また、ルール第2.4.7によれば、「卓球ラバーは安定した物理的特性を持たねばならず、ラバーから発散される有機溶剤も抑えられなければならない」という見解を持っている。
【0009】
現状では、新しいラバーを使用する場合、包装材からラバーを取り出し、72時間以上空気に触れさせた後、ラケットに接着することによって、ラバーに残っているかもしれないVOCを除去できると考えられている。ただし、実際には試合前の選手の準備の問題もあり、全ての選手がこうした処理をできているとは限らず、根本的な解決策とはなっていない。
【0010】
また、VOCを含まない接着剤として、天然ゴムやクロロプレンゴムのラテックスが考えられるが、接着性や打球感が劣り好ましいものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007-2848573号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】ITTF Handbook 2008/2009, 2.04.07
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題はITTFの規制をより完全にクリアするため、VOCを実質的に含まない卓球ラバーのシートとスポンジの貼合わせ用水性接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、下記にかかるものである。
(1) ポリウレタン樹脂水分散液からなることを特徴とする揮発性有機化合物を含まない卓球ラバーのシートとスポンジの貼合わせ用水性接着剤。
(2) さらにスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを配合したことを特徴とする請求項1に記載の卓球ラバーのシートとスポンジの貼合わせ用水性接着剤。
(3) スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスのゲル分率が30〜100%であることを特徴とする2項に記載の卓球ラバーのシートとスポンジの貼合わせ用水性接着剤。
(4) 1〜3項のいずれか1項に記載の卓球ラバーのシートとスポンジの貼合わせ用水性接着剤をシート及び/又はスポンジに塗布し、シートとスポンジを貼り合わせて乾燥することを特徴とする卓球ラバーの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の卓球ラバーのシートとスポンジの貼合わせ用水性接着剤はVOCを実質的に含まないので、ITTFの規制をクリアすることができる。また、本発明の水性接着剤は従来のVOCを含む接着剤と同等の打球感を有する卓球ラバーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】卓球ラバーの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、卓球ラバーの模式断面図である。卓球ラバーは、図1に示したように、スポンジ1とシート2を貼り合わせたものである。図1は、ツブのあるシート面とスポンジを貼合わせたいわゆる裏ソフトラバーの模式断面図である。
【0018】
本発明の卓球ラバーのシートとスポンジの貼合わせ用水性接着剤は、ポリウレタン樹脂水分散液からなることを特徴とし、VOCを含まないものである。なお、本発明におけるVOCを含まないとは、実質的にVOCが含まれないことであり、ラケット検査機に反応しない濃度以下のことをいう。
【0019】
本発明のポリウレタン樹脂水分散液とは、ポリウレタン樹脂が水系媒体に分散または乳化したものである。
本発明に用いられるポリウレタン樹脂水分散液は、ポリウレタン樹脂が水系媒体に分散または乳化したものであればその製造方法は特に限定されないが、例えば、(1)ポリイソシアネート、ポリオールおよびカルボキシル基含有ポリオールを反応させて得られるカルボキシル基を含有するポリウレタンプレポリマーを三級アミン等により中和して水中に乳化分散させると同時に/または乳化分散させた後に、ポリアミン等の鎖伸長剤により高分子量化させて得られるポリウレタン樹脂水分散液、(2)ポリイソシアネートおよびポリオールを反応させて得られる末端イソシアネートプレポリマーを界面活性剤の存在下で水中に乳化分散させると同時に/または乳化分散させた後に、ポリアミン等の鎖伸長剤により高分子量化させて得られるポリウレタン樹脂水分散液、(3)前記(1)、(2)に記載のポリウレタンプレポリマーが有機溶剤存在下で合成され、乳化分散された後に必要に応じて有機溶剤を公知の方法で除去する方法によって得られるポリウレタン樹脂水分散液などを挙げることができる。
【0020】
前記ポリイソシアネートとしては、通常のポリウレタンの製造に従来から用いられているポリイソシアネートのいずれもが使用できるが、分子量500以下の脂環式ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートのうち1種または2種以上が好ましく使用される。これらの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネートなどを挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。また、ヘキサメチレンジイソシアネートの三量体などの3官能以上のポリイソシアネートを併用することもできる。
【0021】
前記ポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレン)グリコールなどのポリエーテルポリオール;ポリブチレンアジペートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンアジペート)ジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンセバケート)ジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリ(β−メチル−δ−バレロラクトン)ジオールなどのポリエステルポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンカーボネート)ジオールなどのポリカーボネートポリオール;ポリエステルポリカーボネートポリオール;ポリエチレンポリオール、ポリプロピレンポリオール、ポリイソブテンポリオール、ポリブタジエンポリオールおよびその水添物、ポリイソプレンポリオールおよびその水添物などのポリオレフィンポリオールなどの公知のポリオールを挙げることができ、ポリウレタン樹脂はこれらのポリオールの1種または2種以上を用いて形成させることができる。
【0022】
前記鎖伸長剤成分としては、通常のポリウレタンの製造に従来から用いられている鎖伸長剤のいずれもが使用できるが、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量300以下の低分子化合物を用いることが好ましい。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコールなどのジオール類;トリメチロールプロパン等のトリオール類;ペンタエリスリトール等のペンタオール類;ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコール、N−(2−アミノエチル)エタノールアミンなどのアミノアルコール類;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランなどのアルコキシシリル基含有アミン類などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。また、鎖伸長反応時に、2官能以上のポリアミン化合物とともに、n−ブチルアミン、4−アミノブタン酸、6−アミノヘキサン酸などのモノアミン化合物を併用してもよい。
【0023】
前記ポリウレタン樹脂は、水中に乳化分散または溶解するためにポリウレタン樹脂骨格中に中和されたカルボキシル基を有することが好ましい。ポリウレタン樹脂骨格中への中和されたカルボキシル基の導入は、ポリウレタン化反応において、カルボキシル基またはその塩を有し、且つ水酸基またはアミノ基等の活性水素原子を1個以上含有する化合物を併用し、必要に応じて三級アミン、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性物質で中和することにより達成される。このような化合物としては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸、などが挙げられる。さらに、上記の化合物を共重合して得られるポリエステルポリオールまたはポリエステルポリカーボネートポリオール等を用いることもできる。この中でも、2,2−ジメチロールプロピオン酸または2,2−ジメチロール酪酸を用いてポリウレタンプレポリマーを製造し、プレポリマー反応終了後またはプレポリマーを水中に乳化させる際に、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基性物質を添加してカルボン酸塩に変換する方法が好ましい。
【0024】
前記有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素; アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類; テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類; 酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類; アセトニトリル等のニトリル類; ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類; クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン含有炭化水素、などが挙げられる。これらを単独または混合して使用することができる。なかでも、150℃以下の沸点を有する有機溶剤を使用することが好ましく、ポリウレタン樹脂に対する溶解性の高いアセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチルを使用することがより好ましい。
【0025】
前記ポリウレタン樹脂を製造する際には、必要に応じてウレタン化触媒を使用することができる。ウレタン化触媒としては、例えばトリエチルアミン、トリエチレンジアミン、及びN−メチルモルホリン等の含窒素化合物、酢酸カリウム、ステアリン酸亜鉛、及びオクチル酸錫等の金属塩、ジブチルチンジラウレート等の有機金属化合物などを使用することができる。
【0026】
また、前記ポリウレタン樹脂の水分散体を製造する際に使用可能な界面活性剤としては、特に限定しないが、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤等を使用することができるが、前記ポリウレタン樹脂が凝集することを防止する観点からアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤を使用することが好ましい。
前記アニオン性界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩等を使用することができる。
【0027】
前記ノニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、アセチレンジオール系界面活性剤等を使用することができる。
【0028】
また、本発明では、前記した界面活性剤の他に、フッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤や、一般に反応性乳化剤と称される重合性不飽和基を有する界面活性剤を使用することもできる。
【0029】
また、本発明では、本発明の効果を阻害しない範囲で、各種の分散安定剤を使用してもよい。前記分散安定剤としては、例えばポリビニルアルコール、繊維素エーテル、澱粉、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂等や、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ポリアミド樹脂、水溶性ポリウレタン樹脂、水溶性アクリル樹脂、等を単独で使用または2種以上併用して使用することができる。これらは、前記ポリウレタン樹脂の製造途中に添加し使用してもよく、反応終了後に混合してもよい。
【0030】
本発明の卓球ラバーのシートとスポンジの貼合わせ用水性接着剤において、上記のポリウレタン樹脂水分散液に加えて、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを併用することにより、接着性や打球感をさらに改善することができる。
スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスは、よく知られているように、芳香族ビニル系単量体と共役ジエン系単量体との共重合体からなるラテックスであり、本発明においては、そのような従来から公知の各種のスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスが適宜に用いられることとなる。
【0031】
そして、そのようなスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスとしては、代表的には、10〜70重量%の芳香族ビニル系単量体、10〜70重量%の共役ジエン系単量体、0.5〜10重量%のエチレン性不飽和カルボン酸系単量体、及びこれらと共重合可能なその他のビニル系単量体の0〜50重量%を乳化重合して得られるものを例示することが出来、更に、部分的に架橋せしめた重合体を含むラテックスも使用可能である。また、そのようなスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスの中でも、特に、ゲル分率が30〜100%程度のものが好適に採用され得るのであるが、勿論、このようなスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスに何等限定されるものではないことは言うまでもないところである。
【0032】
なお、上記のスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスの製造に用いられる芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン等を挙げることが出来る一方、共役ジエン系単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−エチル−1,3−ブタジエン、及びクロロプレン等を挙げることが出来る。また、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体としては、例えば、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられ、更に、共重合可能なその他のビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類;アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類等を、例示することが出来る。
【0033】
スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスはゲル分率が30〜100%のものが好ましく、さらに40〜90%のものがより好ましい。ゲル分率とは、十分に乾燥させたスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスの硬化皮膜のアセトン中8時間浸漬した不溶分の硬化被膜に対する重量割合をスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスのゲル分率とした。
【0034】
ポリウレタン樹脂水分散液とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスの配合割合は、水性接着剤100重量%あたり、ポリウレタン樹脂水分散液:スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス=95:5〜5:95重量%、好ましくは80:20〜20:80重量%、更に好ましくは60:40〜40:60重量%の範囲で適宜選択すればよい。
【0035】
本発明の卓球ラバーのシートとスポンジの貼合わせ用水性接着剤において、スポンジに塗工する際に各種塗工方法に応じた粘度調整を行うことが好ましく、その粘度調整方法として増粘剤を使用することが好ましい。
【0036】
増粘剤としては、HEC(ヒドロキシエチルセルロース)、MC(メチルセルロース)、CMC(カルボキシメチルセルロース)等のセルロース誘導体、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸エステル、PVP(ポリビニルピロリドン)、あるいはウレタン系、ポリエーテル系等の会合型増粘剤等が挙げられる。
これらの増粘剤は単独であっても二種以上を併用してもよい。
【0037】
増粘剤は水性接着剤100重量部あたり、0.01〜10重量部用いればよい。
【0038】
その他アクリルエマルジョン、酢酸ビニルエマルジョンなどを接着性などに影響を与えない範囲で添加できる。
【0039】
本発明の卓球ラバーのシートとスポンジの貼合わせ用水性接着剤は、不揮発分が10〜70%、好ましくは30〜50%、粘度が20〜50000mPa・s、好ましくは100〜10000mPa・sのものを用いればよい。
【0040】
本発明の水性接着剤においてシートとスポンジを貼合わせる方法としては、ロールコーターにて約30cm角のスポンジに本発明の水性接着剤を3〜5グラム塗布し、その直後にシートを貼り合わせ、樹脂板などに挟んで12〜72時間減圧乾燥させるものとする。卓球ラバーには、シートのみの一枚ラバー、ツブのあるシート面とスポンジを貼り合わせた裏ソフトラバー、ツブのある面が打球面となるようにシートの平らな面とスポンジを貼り合わせた表ソフトラバーの3種類あるが、本発明の水性接着剤は、裏ソフトラバー及び表ソフトラバーの製造に用いることができる。裏ソフトラバーを製造するには、スポンジに本発明の水性接着剤を塗布しシートのツブのある面と貼り合わせればよく、表ソフトラバーを製造するには、スポンジに本発明の水性接着剤を塗布し、シートの平らな面と貼り合わせればよい。
【0041】
以下に実施例をもって、本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
製造例1
ポリウレタン樹脂水性分散液の製造方法
攪拌機、ジムロート冷却器、窒素導入管及び温度計を備えた4つ口フラスコに、分子量2,000のポリプロピレングリコール(三井化学(株)製、Diol-2000)100重量部を投入し、窒素気流下110℃にて脱水し、脱水後、60℃まで冷却を行った。その後、2,2−ジメチロールプロピオン酸1.6重量部、イソホロンジイソシアネート(ヒュルス社製、VESTANT IPDI)17.5重量部、アセトン70重量部を順次投入し、70〜90℃にてNCO%が1.22となるまで反応を行った。その後、40℃以下まで冷却し、トリエチルアミン1.2重量部を添加し中和を行いポリウレタンプレポリマー溶液を調製した。
【0043】
調製したポリウレタンプレポリマーを攪拌しながら、蒸留水281重量部を徐々に添加し、乳白色のポリウレタンプレポリマー水分散液を得た。その後、速やかに、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン(日本乳化剤(株)製、アミノアルコールEA)1.5重量部を滴下して、鎖伸長反応させた。なお、この伸長反応では、反応温度を30℃以下に調整した。次いで、室温で1時間攪拌を続けた後、減圧下40〜50℃にてアセトンを除去し、不揮発分30%、粘度50mPa・sのポリウレタン樹脂水分散液(A)を得た。
【0044】
製造例2
アクリルエマルジョンの製造方法
容器にイオン交換水50重量部、ドデシル硫酸ナトリウム5重量部、アクリル酸1.5重量部、アクリル酸2‐エチルヘキシル52重量部、メタクリル酸メチル46.5重量部、10%過硫酸アンモニウム水溶液2.0重量部を秤量・攪拌し、モノマー乳化液を調整した。撹拌機、ジムロート冷却器、窒素導入管及び温度計を備えた4つ口フラスコに、イオン交換水50重量部を仕込み、攪拌しながら内温を75℃に加温し、モノマー乳化液10重量部と10%過硫酸アンモニウム水溶液を0.5重量部添加した。同温で残りのモノマー乳化液を滴下し3時間重合反応を行った。内温を保ちながら1時間後重合反応を行った。後重合反応終了後、室温に冷却し25%アンモニア水溶液を3重量部加えて中和し、粘度200mPa・s、不揮発分50.7%のアクリルエマルジョン(B)を得た。
【0045】
実施例1〜3
製造例1で調整したポリウレタン樹脂水分散液(A)とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名「L7850」、商品名「A7269」、旭化成ケミカルズ(株)製)を表1に示す割合にて配合し(表1に記載した配合量は重量部を示す)、増粘剤(ポリアクリル酸エステルエマルジョン、商品名「プライマルASE60」、ローム&ハース(株)製)を添加し30分間攪拌し水性接着剤を調製した。なお、「L7850」のゲル分率は34%、「A7269」のゲル分率は50%であった。
【0046】
比較例1
製造例2で調整したアクリルエマルジョン(B)100重量部にプライマルASE60を0.5重量部添加し30分撹拌してアクリルエマルジョン接着剤(B−1)を調整した。
【0047】
比較例2
クロロプレンラテックス100重量部(商品名「スカイプレンラテックスSL−360」、東ソー(株)製、不揮発分約52%)にウレタン会合型増粘剤(ポリウレタン系樹脂、商品名アデカノールUH−420、(株)ADEKA製)0.5重量部を添加し30分間撹拌しクロロプレンラテックス系接着剤(C-1)を調整した。
【0048】
比較例3
クロロプレンゴムにトルエン72%、メチルエチルケトン8.9%配合したクロロプレンゴム系溶剤型接着剤を調製した。
【0049】
スポンジの表面に実施例1〜3の水性接着剤、比較例1〜3の接着剤をロールコーターで塗布して、シートとスポンジを貼り合わせた。スポンジ及びシートは、硫黄を加硫した天然ゴムベースのものであり、株式会社タマスの卓球ラバー「ブライス」に使用されているスポンジとシートを用いた。
【0050】
その後、30℃微減圧の環境下で12時間さらに乾燥させ卓球ラバーの試験体を作成した。各評価は以下のように測定した。
<接着性>
評価
◎・・・引きはがそうとするとシートまたはスポンジが破壊。
○・・・引きはがそうとするとシートまたはスポンジが一部破壊。
×・・・接着せず。
【0051】
<打球感>
実施例及び比較例の接着剤を使用し貼り合せた卓球ラバーを用いてラケットを作成し、使用した際の打感の良さを評価した。
評価
◎・・・打感が良好。
○・・・打感が好ましい。
×・・・打感が好ましくない。
【0052】
<作業性>
接着剤をロールコーターにてスポンジに塗布した際の塗布性を作業性として評価した。
評価
○・・・良好に塗布できる。
×・・・塗布できない。
【0053】
実施例1〜3の水性接着剤の配合と、評価の結果を表1に示した。また、比較例1〜3の評価結果を表2に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
表1及び表2に示した結果から明らかなように、本発明の水性接着剤は、実質的にVOCを含まないにもかかわらず、接着性は良好であり、打球感は従来のVOCを含むクロロプレンゴム系溶剤型接着剤(比較例3)で製造した卓球ラバーと同程度かそれ以上のものであった。また、アクリルエマルジョン系接着剤(比較例1)やクロロプレンラテックス系接着剤(比較例2)で製造した卓球ラバーは接着性及び打球感に劣っていた。
【0057】
実施例1〜3の本発明の水性接着剤及び比較例3の従来のクロロプレンゴム系溶剤型接着剤により調製したラバーをラケット検査機(商品名「ENEZ」、WASSING社製)を用いてVOCの有無を判定した。その結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
ラケット検査機判定基準
OK・・・ラケット検査機が反応しない(VOC無し)。
NG・・・ラケット検査機が反応する(VOC有り)。
【0060】
表3に示した結果より明らかなように、本発明の水性接着剤で調製した卓球ラバーはラケット検査機に反応せず、実質的にVOCを含まないものと評価できた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の卓球ラバーのシートとスポンジの貼合わせ用水性接着剤は、VOCを実質的に含まないので、ITTFのVOC規制をクリアすることができるうえ、従来のVOCを含む接着剤の打球感を損ねることがない。
【符号の説明】
【0062】
1:スポンジ
2:シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂水分散液からなることを特徴とする揮発性有機化合物を含まない卓球ラバーのシートとスポンジの貼合わせ用水性接着剤。
【請求項2】
さらにスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを配合したことを特徴とする請求項1に記載の卓球ラバーのシートとスポンジの貼合わせ用水性接着剤。
【請求項3】
スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスのゲル分率が30〜100%であることを特徴とする請求項2に記載の卓球ラバーのシートとスポンジの貼合わせ用水性接着剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の卓球ラバーのシートとスポンジの貼合わせ用水性接着剤をシート及び/又はスポンジに塗布し、シートとスポンジを貼り合わせて乾燥することを特徴とする卓球ラバーの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−5111(P2011−5111A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153278(P2009−153278)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(390028222)株式会社タマス (7)
【出願人】(000108111)セメダイン株式会社 (92)