説明

単一ユニット操作におけるアデノウイルス感染細胞の濃縮および溶解

【課題】細胞を溶解するための新規な方法の提供。
【解決手段】細胞を細胞ペレットに濃縮するために有効な条件下に生物学的実在物を含有する細胞を連続的に遠心し、そして細胞を溶解するために有効な条件下にペレット化細胞を遠心機から収集容器の中に射出することを含んでなり、細胞溶解を達成するために有効な追加の工程を実施しない、細胞内生物学的実在物 (例えば、生物、例えば、ウイルス、特にアデノウイルス;オルガネラ、または生物学的分子) を調製する方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ウイルス (例えば、アデノウイルス) または他の細胞内生物を調製する方法に関する。
【発明の概要】
【0002】
本発明は、例えば、細胞内生物学的実在物 (例えば、生物、例えば、ウイルスまたはウイルス粒子、特にアデノウイルス;オルガネラ;または生物学的分子) を調製する方法に関し、この方法は前記生物学的実在物を含有する細胞を連続的に遠心し、こうして細胞を細胞ペレットに遠心し、引き続いて遠心機から射出した後、細胞は十分に溶解されて、生物学的実在物の高い収量 (入力材料の細胞当たり) の調製を可能とする。遠心機から細胞ペレットを射出した後、細胞溶解を達成するために有効な追加の工程 (例えば、凍結−融解工程または微量流動化 (microfluidization)) を実施しない。好ましい態様において、こうして調製される生物は高度の生活能力および/または感染性を保持し;そしてオルガネラまたは生物学的分子のような実在物は実質的に無傷でありおよび/または生物学的に活性である。
【図面の簡単な説明】
【0003】
【図1】第1図は、連続的遠心機を使用する試験手順の概略的図解である。
【発明を実施するための形態】
【0004】
この方法の1つの利点は、この方法が単一のプロセス工程において細胞を濃縮しかつ溶解し、これにより細胞からの細胞内 (例えば、細胞下) 生物学的実在物の単離を簡素化し、そのコストを低下させることである。この方法の他の利点は、生物学的に活性な細胞内物質の収量が他の方法を使用するよりも高いことである。この方法の他の利点は、この方法が細胞のおだやかな溶解を可能とし、こうして細胞内生物学的実在物、例えば、ウイルスは溶解手順の間に実質的に無傷におよび/または生存可能に止まることである。
【0005】
本発明の1つの態様は、細胞内生物を含有する宿主細胞から前記生物を調製する方法であり、この方法は細胞を細胞ペレットに濃縮するために有効な条件下に細胞を連続的に遠心し、そして細胞を溶解するために有効な条件下に、ペレット化細胞を遠心機から収集容器の中に射出することを含んでなり、細胞溶解を達成するために有効な追加の工程を実施しない。他の態様は、細胞内生物を含有する宿主細胞から前記生物を調製する方法であり、この方法は細胞を細胞ペレットに濃縮するために有効な条件下に細胞を連続的に遠心し、そして細胞を溶解するために有効な条件下に、ペレット化細胞を遠心機から収集容器の中に射出することを含んでなる。
【0006】
他の態様は、「射出物」(射出された細胞) 中の細胞が実質的に溶解されておりそして/またはほとんど溶解されおり;細胞の少なくとも50%、好ましくは少なくとも90%が溶解されており;細胞が射出されるとき、細胞が溶解され;細胞内生物がウイルスであり;ウイルスがアデノウイルスであり;アデノウイルスが遺伝子治療に適当な組換えアデノウイルスであり;アデノウイルス粒子または非染性アデノウイルスの収量/細胞が、前記アデノウイルスを含有する細胞を凍結−融解手順により溶解するとき得ることができるものよりも高い、例えば、アデノウイルス粒子の収量/細胞が約1.2〜約1.6倍高い、または感染性アデノウイルスの収量/細胞が約1.5〜約1.9倍高い;細胞が動物細胞、好ましくは哺乳動物細胞または昆虫細胞であり;注入されている細胞が約6,500〜10,000 g、好ましくは約7,000〜9,000 gの相対遠心力下にあり;前記遠心力が約7,000または8,000 gであり;断面の面積が50〜500 mm2である長方形の1または2以上の射出口を通してペレット化細胞を射出し;細胞をウェストファリア・セントリフージ (Westfalia Centrifuge) CSA−1またはCSC−6中で遠心し;または射出時に細胞に加わる力が細胞を実質的に溶解するために有効である;前述の方法である。
【0007】
他の態様は、連続的遠心によりウイルスを含有する細胞から細胞内ウイルスを解放する方法において、細胞溶解を達成するために有効な追加の工程を実施しないで、射出された細胞ペレットからウイルスを直接収集することを含んでなる改良である。
他の態様は、細胞を連続的に遠心して細胞ペレットを形成し、そしてペレット化細胞を収集容器の中に射出することから成り、ここで収集された細胞が細胞溶解物の形態である、細胞溶解物を調製する方法である。
【0008】
他の態様は、細胞を細胞ペレットに濃縮するために有効な条件下に細胞を連続的に遠心し、そしてペレット化細胞を遠心機から収集容器の中に射出することをを含んでなり、ここで細胞は細胞溶解物の形態であり、細胞溶解を達成するために有効な追加の工程を実施しない、細胞溶解物を調製する方法である。
他の態様は、前述の方法のいずれかにより調製された生物 (例えば、ウイルス、特にアデノウイルス) である。
【0009】
他の態様は、オルガネラまたは生物学的分子を含んでなる細胞を細胞ペレットに濃縮するために有効な条件下に細胞を連続的に遠心し;ペレット化細胞を遠心機から収集容器の中に射出し、ここで「射出物」(射出された細胞) 中の細胞が実質的に溶解されており;細胞溶解を達成するために有効な追加の工程を実施せず;そしてオルガネラまたは生物学的分子を射出物から収集することを含んでなる、オルガネラまたは生物学的分子を調製する方法である。
【0010】
本発明の方法において、問題の生物学的実在物 (例えば、生物、オルガネラまたは生物学的分子) を含んでなる細胞培養物を連続的遠心機を通して供給する。典型的には、濃縮された「細胞ペレット」(これは、もちろん、無傷の細胞に加えて、細胞または細胞破片の一部分を含んでなることができる) は遠心機の容器 (例えば、ボウル) の中に収集されるが、使用済み培地は第1出口を通して第1の収集容器の中に連続的に解放される。前もって決定した時間間隔において、洗浄緩衝液 (任意の適当な洗浄緩衝液、例えば、PBS凍結緩衝液) の供給を開始して、遠心機容器の中に残留する上澄みを洗浄緩衝液と交換する。この交換後 (用いる場合)、洗浄緩衝液の供給を中断し、濃縮された細胞を遠心機容器から第2出口を通して第2収集容器の中に排出する。細胞が射出される体積に依存して、細胞濃度は供給物中の初期濃度よりも有意に大きい (例えば、約10倍〜約50倍、典型的には約30倍の濃度)。
【0011】
いかなる理論にも拘束されたくないが、細胞が細胞ペレットに遠心されるとき、細胞は実質的に無傷に止まることが提案される。すなわち、細胞の十分に小さい画分が遠心の間に溶解され、こうして有意な量の生物、オルガネラ、または生物学的分子が圧倒的に上澄みの中に解放され、使用済み培地とともに収集容器に行かないようにする。遠心条件を問題の細胞について日常的に最適化、遠心間の細胞溶解量を微小化する。例えば、典型的な遠心条件については実施例2および4を参照のこと。
【0012】
また、次いで濃縮された (ペレット化された) 細胞が射出口を通して遠心機から射出されるとき、細胞は力 (例えば、翦断力) を受け、こうして細胞は実質的に溶解されることが提案される。射出口を通して細胞を射出する、種々の射出手段が本発明において使用される。一般に、バリヤー (例えば、ゲート) を好都合な時間に除去して (例えば、リフトまたは置換して) 射出口を露出するとき、細胞は遠心力により射出口を通して遠心機の中から外に強制的に出される (または遠心機から排出される)。
【0013】
このようなバリヤーは種々のメカニズム、例えば、電子 (例えば、ソレノイド)、空気圧、磁気により、または機械的結合により操作することができる。好ましい態様において、ゲートは細胞と接触しない水を使用する液圧的に操作される駆動により開く。典型的には、上澄みは連続的にかつ別々に第1出口を通して第1収集容器に排出されるが、ペレットは第2出口を通して第2収集容器に排出される。しかしながら、上澄みおよびペレットの画分は、選択的に、同一出口を通して順次に収集することができる。
【0014】
「実質的に溶解」は、本明細書において、射出物において生物学的実在物 (例えば、生物、オルガネラ、または生物学的分子) の高い収率を可能とするために十分な有意の数の細胞が溶解されることを意味する。例えば、細胞の約85%、90%または95%より多くが溶解される。本明細書において、実質的に溶解した細胞は時には「射出物」と呼ぶ。射出物中の生物学的実在物は、それ以上の細胞溶解手順 (解放された細胞を破壊する手順)にかけないで、射出物中の望ましくない (例えば、汚染する) 物質から単離 (例えば、分離、精製) することができる。このような生物学的実在物を細胞下構成成分、例えば、細胞膜から分離する手順は考慮する細胞溶解手法ではなく、射出工程後に本発明の方法において許容される。
【0015】
本発明の方法に付す細胞は「ほとんど」溶解することができる、例えば、細胞の約50%より多くが溶解される、例えば、細胞の60%、75%、85%、90%または95%が溶解される。
【0016】
遠心機から射出される間に細胞が受ける力はいくつかの因子の関数であり、このような因子は、例えば、射出時に細胞に加えられるg力、1または2以上の射出口 (例えば、1または2以上のボウル出口) を横切る圧力低下、1または2以上の射出口付近の翦断力、および収集容器 (例えば、遠心機の外側チャンバー) に衝突する細胞の衝撃力を包含する。射出の間に細胞に加えられるg力は遠心機ボウルの半径およびそれが回転する回転/分 (rpm) の両方の関数である。
【0017】
好ましくは、細胞は約6,500〜10,000 g、より好ましくは約7,000〜9,000 g、最も好ましくは約7,000〜8,000 gの相対遠心力下に射出される。射出口を横切る圧力低下および細胞が射出口を通過するときの翦断力は、例えば、出口の寸法を包含する多数の因子の関数である。1つの態様において、細胞は複数の出口、例えば、約2〜20の出口、好ましくは約6〜10の出口を通して射出され、そして各出口は約50〜500 mm2、好ましくは約100〜300 mm2の断面の面積を有する。出口は細胞を実質的に溶解するために十分な力 (例えば、翦断力) を提供する、任意の形状を有し、好ましい態様において、出口は長方形の形状を有する。
【0018】
細胞ペレットを収集容器の中に射出し、生物学的実在物を射出物から収集した後、細胞内生物学的実在物 (例えば、アデノウイルス) の高い収量を得ることができるかぎり、任意の連続的遠心機、例えば、ディスクの積重ねまたは開口ボウル型遠心機を本発明の方法において使用することができる。このような遠心機の望ましい性質の例は、細胞が容器 (ボウル) に入るとき、または細胞が回転されて細胞ペレットになるとき、細胞が有意な力 (例えば、翦断力または遠心力) に暴露されないことである。好ましい態様において、遠心機は種々の慣用の低翦断力の入口形状を有する。例えば、遠心機はヒドロハーメチック (hydrohermetic) 供給システム (HHFS) を利用することができ、ここで生成物の流れ/供給流れは充填された容器中の生成物それ自体により加速される。
【0019】
適当な遠心機の例は次の通りである:HHFSを有するウェストファリア (Westfalia) 連続的CSA−1遠心機、これは0.6 Lのボウル容量、0.25 Lの沈降物保持体積、約300 L/時の最大流速容量、10,000 rpmの最大速度、および廃棄培地の調節可能な背圧を有する;HHFSを有するウェストファリア (Westfalia) 連続的CSA−6遠心機、これは1.8 Lのボウル容量、0.7 Lの沈降物保持体積、約300 L/時の最大流速容量、12,000 rpmの最大速度、および廃棄培地の調節可能な背圧を有する;Alfa−Laval BTPX 205連続的遠心機、これは1200 L/時の容量および9650 rpmの最大ボウル速度を有する。
【0020】
廃棄培地の背圧についての設定は実験的に最適化することができる。好ましい態様において、背圧は20〜30 psigであり、操作のターゲットは25 psigである。遠心機が、例えば、遠心の間に実質的に無傷に止まる細胞、および射出プロセスの間に起こる細胞溶解に関して、本明細書において論ずる代表的モデルと機能的に同等であるように、当業者は遠心機を容易に設計しおよび/または遠心機の特徴を容易に最適化することができる。
【0021】
細胞の実質的な溶解を可能とし、ならびに溶解手順の間に解放される細胞内生物学的実在物に対する損傷を微小化する条件を達成するように、遠心および射出の条件、および使用する遠心機の相対的パラメーターを慣用法により最適化することができる。細胞内生物学的実在物の収量を最適化するように変化できる遠心条件の例は、遠心速度および遠心間の温度、ならびに本明細書のどこかにおいて論ずる他のパラメーターである。
【0022】
生物が調製手順後に実質的に無傷におよび/または、好ましくは、生存可能なおよび/または感染性形態に止まるために十分に頑丈であるかぎり、本発明の方法を使用して任意の型の細胞内生物を調製することができる。「実質的に無傷」は、本明細書において、所定の目的に対して有用であるために十分な物理的構造を有することを意味する。例えば、調製の間にその構造構成成分のいくらかを喪失するが、抗原活性を保持する生物は、例えば、ワクチンの調製源として使用することができる。本発明の方法の1つの利点は、他の方法よりも宿主当たり高い収量の生存可能のおよび/または感染性細胞内生物を可能とすることである。本発明の方法は、調製手順後に高度の生活可能性および/または感染性を保持する生物に対して特に適当である。
【0023】
生活可能性および/または感染性を測定する方法は日常的でありかつ普通である。アデノウイルスについて、例えば、CPE、終点希釈、またはプラーク形成アッセイを使用して感染性粒子を測定することができるか、あるいは、例えば、FITC標識化抗ペントン (コートタンパク質) 抗体と組み合わせて、FACSアッセイを使用することができる。例えば、下記の文献を参照のこと:Ayala他 (2000)、「アデノウイルス感染性を測定しかつ懸濁培養物の感染性を直接モニターするフローサイトメトリー法」、ACS National Meeting、March 2000、San Francisco。
【0024】
「高」度 (高い収量) の生活能力または感染性 (例えば、宿主細胞の出発量当たり) は、もちろん、相対的用語である。それは、その特定の生物の技術水準を考慮して、各型の生物について個々に決定することができる。例えば、実施例4参照。実施例4において、他の手順により調製するときよりも、本発明の方法により調製するとき、宿主細胞当たり実質的により高い収量 (ここで、約1.5〜1.9倍増加した回収) でアデノウイルスを得ることができることが例示されている。
【0025】
本発明の方法により調製される生物は病原性または非病原性であることができる。そのように調製することができる生物の型の例は、宿主細胞の中に残留することができ、かつ本発明による方法に従う調製後に無傷 (および/または、好ましくは、生存可能性および/または感染性) に止まる、種々の寄生生物、例えば、原生動物の任意のものであることができる。このような生物は当業者にとって明らかであり、そして、例えば、マラリア生物 (例えば、熱帯熱マラリア原虫 (Plasmodium falciparum)、マラリア、三日熱マラリア病原虫)、トリパノソーマ (Trypanosoma)、レイシュマニア (Leishmania)、オンコセルカ (Onchocerca)、シストソーマ (Scistosoma)、エントメバ (Entomoeba)、クリプトスポリジア (Cryptosporidia)、ギアルジア (Giardia)、トリコモナス (Trichomonas)、トキソプラズマ (Toxoplasma)、またはニューモシクチス (Pneumocyctis) を包含する。好ましい態様において、ウイルスは本発明の方法により調製される。
【0026】
種々のこのようなウイルスの任意のものを調製することができ、例えば、DNAまたはRNAウイルス、例えば、下記のファミリーの範囲内に入るものを包含する:パルボウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、B型肝炎様ウイルス、ピコルナウイルス、カルシウイルス、アストロウイルス、トガウイルス、フラヴィウイルス、コロノウイルス、パラミクソウイルス、ラボドウイルス、フィロウイルス、インフルエンザウイルス、アレナウイルス、ブニアウイルス、レオウイルス、レトロウイルスおよび当業者にとって明らかである他のウイルス。
【0027】
同定されてきている任意の血清型のアデノウイルス、例えば、トリまたは哺乳動物アデノウイルスは最も好ましい。最も好ましい態様において、遺伝子治療に適当な組換えウイルス、例えば、組換えアデノウイルスまたはアデノ関連ウイルスを使用する。種々のベクターが記載されてきており、遺伝子治療の用途に適当な、適当な遺伝子を欠失するアデノウイルスおよびアデノ関連ウイルス (例えば、E1遺伝子欠失アデノウイルス) を包含する。種々の遺伝子の任意のものは、例えば、マーカーまたは治療因子であることができ、そして適当な調節配列の制御下にのようなベクターの中にクローニングし、次いで、例えば、遺伝子治療の方法において患者の中に導入することができる。
【0028】
その中で発現することができる適当なベクターおよび遺伝子の選択、およびこのような構築物を作る方法およびin vitroまたはin vivo遺伝子治療法におけるそれらの使用は慣用されており、当業者によく知られている (例えば、下記文献を参照のこと、Sambrook J. 他 (1989) Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、New York)。本発明の方法において使用できる遺伝子は、例えば、ポリペプチド、例えば、酵素、ホルモン、サイトカイン、増殖因子およびその他をコードする遺伝子を包含する。また、マーカー遺伝子、例えば、lacZまたは緑色フルオレセントタンパク質を発現させることができる。
【0029】
本発明の方法により調製できる生物の他の型は、例えば、感染因子、例えば、プリオンを包含する。もちろん、ウイルスを包含する、前述の任意の生物の突然変異体または変異型、ならびにこのような生物の組換え、ハイブリッド、キメラおよびその他の形態を本発明の方法により調製することができる。本明細書において論ずるもの大部分はアデノウイルスの調製に関する。しかしながら、当業者は認識するように、適当な生物、オルガネラ、または生物学的分子を本明細書に記載する方法により調製することができる。
【0030】
宿主細胞の中に含有される細胞内生物は、種々の手順によりその宿主細胞の中に導入することができる。1つの態様において、生物は宿主細胞を感染し、増殖および/または複製するとき、宿主細胞を損傷する (例えば、宿主細胞を溶解するか、あるいはそうでなければ殺す)。このような場合において、当業者は収量を最大化するために、最適な感染条件、および細胞内生物を収集する最適時間を容易に決定することができる。実施例3において、哺乳動物細胞をアデノウイルスで感染する典型的な条件を例示する。
【0031】
宿主細胞の感染に無傷の生物を使用する必要はない。例えば、天然に存在するまたは組換え核酸を、必要に応じてヘルパー生物またはヘルパー核酸の存在下に、この分野において慣用の認識されている方法に従い、細胞の中に導入する (例えば、それをトランスフェクトする) ことができる。適当なパッケージング細胞を使用することもできる。他の態様において、細胞内生物は実質的に細胞周期を通して宿主細胞の中に存在する、例えば、細胞内生物は休止状態、非代謝性、非増殖性または非複製性に止まるか、あるいは細胞内生物は宿主細胞の生活能力に悪影響を及ぼさない速度または方法で増殖および/または複製する。
【0032】
また、この方法は、このような生物を必ずしも含有しない細胞の細胞溶解物を調製するために、および/またはこのような溶解物の中に存在する細胞内 (例えば、細胞下) 生物学的実在物を調製するために有用である。「生物学的実在物」は、本明細書において、例えば、生物、例えば、前述の生物;細胞のオルガネラ (例えば、ミトコンドリアまたは葉緑体)、またはのようなオルガネラ内に定住する生物;または生物学的分子 (例えば、高分子、例えば、組換えまたは非組換えタンパク質 (例えば、サイトカインまたはケモカイン、レセプター、または転写因子)、核酸、およびその他、または小さい分子例えば、リガンド、ヌクレオシド、ヌクレオチド、またはオリゴヌクレオチド) を意味する。
【0033】
用語「生物学的分子」は、また、高分子構造物、例えば、レセプター;タンパク質、脂質、および/または核酸を含んでなる複合体;およびその他を包含する。本発明の方法の溶解手順は、異なる溶解手順を使用して得られたものに比較して、そのように得られた生物学的実在物のいっそう完全な構造物および/または増加した生物活性を可能とする。例えば、この方法により単離されるタンパク質複合体、核酸とタンパク質との複合体、レセプターの複合体、大きいDNA分子、またはクロマチン分子は、他の溶解手順を使用することによって調製されたときよりも、いっそう無傷に止まることができる。
【0034】
遠心機からの細胞射出後に、細胞溶解を達成するために有効な追加の工程を実施しないで、細胞内生物学的実在物を射出物から回収できるかぎり、細胞内生物学的実在物は宿主細胞の任意の区画 (例えば、核、細胞質、細胞のオルガネラ、または細胞内または細胞膜に関連して) 内に定住ことができる。前述したように、細胞下構成成分、例えば、細胞膜からこのような生物学的実在物を分離する手順は細胞溶解手順として考慮されず、本発明の方法において射出工程後に許容される。
【0035】
多数の型の細胞 (例えば、宿主細胞) を本発明において使用することができるが、これらの細胞は当業者にとって明らかであろう。好ましくは、細胞が遠心機から射出される前に実質的に溶解しないように、細胞は遠心プロセスの間に直面する力 (例えば、遠心力、翦断力) に耐えるために十分に頑丈であり、しかもこの方法の間に (例えば、射出工程の間に) 溶解するために十分に脆弱である。
【0036】
このような細胞は下記のものを包含する:動物細胞、例えば、昆虫細胞、両生類細胞、哺乳動物細胞 (例えば、サル、マウスまたはヒト細胞、例えば、HEK−293細胞)、およびその他;単細胞生物 (例えば、細菌、ウイルス型の酵母、およびその他)、特に射出時に溶解するために十分に脆弱であるか、あるいは脆弱であるように修飾された単細胞;植物細胞 (例えば、アラビドプシス (Arabidopsis))、特に射出時に溶解するために十分に脆弱であるか、あるいは脆弱であるように修飾された植物細胞;血球;または任意のこのような細胞の突然変異体または変異型。
【0037】
宿主細胞の好ましい型は、アデノウイルス、例えば、欠陥性アデノウイルスの複製を支持し、それらを高い力価に到達させる宿主細胞である。例えば、1つの態様において、ヘルパー遺伝子、例えば、アデノウイルスE1遺伝子、例えば、Adeno 5型を含有するパッケージング細胞系統を使用することができる。
【0038】
もちろん、「細胞ペレット」の一部分を形成する無傷ではない細胞の細胞下部分 (例えば、細胞のオルガネラ、または細胞膜の画分、細胞破片片、またはその他) に、遠心手順の間に細胞は無傷に止まることは不必要である。例えば、問題の生物学的実在物を結合させるか、あるいはそうでなければそれに関連させ、そしてその物質を遠心機から収集容器の中に射出した後、回収することができる。
追加の工程は、それらのすべてが慣例であり、細胞内生物学的実在物を調製する本発明の方法前または後に用いることができる。
【0039】
例えば、遠心すべき細胞培養物を、種々の手順により、少量または大量で (例えば、大きい体積の発酵槽反応器において) 調製することができる。細胞を感染させ、細胞を増殖させ (例えば、適当な培地を選択し、そして細胞密度、pH、酸素利用、温度、およびその他のような条件をモニターし) そして細胞を収集する (例えば、感染後に細胞を収集する最適時間を選択する) ための条件は慣用であり、容易に最適化される。アデノウイルスを増殖させる条件については、例えば、下記の文献を参照のこと:Schoofs他 (1998)、「遺伝子治療のための組換えアデノウイルスベクターを調製するための、高い収量の無血清、懸濁細胞培養プロセス」、Cytotechnology 28、81−89およびMonica他 (2000)、「オンラインおよびオフライン法によるアデノウイルスの感染のモニター」、Biotechnology Progress 16、866−871。
【0040】
遠心機内の生物学的実在物の収量を最適化するように選択された供給流速で、細胞を遠心機の中に導入する。すなわち、この速度は細胞の効率よいペレット化を可能とする (上澄み流中の細胞損失を微小化する) するために十分に低く、しかも効率よい処理量を提供するために十分に速い。例えば、CSA−1ウェストファリア・セントリフージ (Westfalia Centrifuge) を使用する典型的な手順において、供給速度は約1〜3 L/分であり、そしてボウル速度は約6〜12,000 rpm、好ましくは10,000 rpmである。
【0041】
遠心機から収集容器の中へ細胞を射出した後、細胞または細胞溶解物を「収集」する。細胞の収集は、単に収集容器中の細胞の粗製溶解物を収集すること、または、必要に応じて、射出物中の望ましくない汚染物質、例えば、細胞構成成分から生物学的実在物を単離 (例えば、精製、分離) するそれ以上の工程を実施することを意味する。アデノウイルスを精製する慣用手順の例は、細胞破片を除去しおよび/またはウイルスを濃縮するための遠心または拡張ベッド吸着クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換 (例えば、DEAE) クロマトグラフィー、超遠心、限外濾過、およびその他である。
【0042】
拡張ベッド吸着クロマトグラフィー (a. k. a. Fluidized Bed) は、タンパク質およびウイルスの精製において使用されている技術である。この技術は沈降したベッド高さの2倍の最小拡張にクロマトグラフィー樹脂を流動化することに基づく。樹脂ベッドを拡張することによって、この技術はいくつかの単位操作を1工程と組み合わせる。拡張ベッド吸着 (EBA) クロマトグラフィーは、生の収集物の中に存在する細胞破片を除去する遠心工程の必要性を排除する。さらに、この工程のためにクロマトグラフィー樹脂を使用すると、いずれかのプロセスのために初期精製および濃縮工程が提供される。
【0043】
ベッド拡張の程度を達成するために、流体はカラムの下部からカラムの上部へ一定直線速度で流れる。いったん粗製溶解物がカラムの上に負荷され、細胞破片のすべてが除去されると、慣用クロマトグラフィー技術おいて使用するように、カラムに下向きの流れを充填する。ターゲットのタンパク質またはウイルス生成物を標準的クロマトグラフィー法により溶離する。
【0044】
EBAの出発物質は連続的遠心機 (例えば、ウェストファリア (Westfalia) 遠心機)、微量流動化、または凍結−融解に由来する粗製収集物である。拡張モードでFractogel TMAEまたはStreamline QXL樹脂を含むカラム上に、収集物を負荷する。負荷前にカラムを平衡化緩衝液と平衡化し、負荷した後、カラムが安定な紫外線基線に到達するまで、プロセスを通じて拡張の程度を維持する。カラムの負荷が完結すると、流れを逆転し、カラムに下向きの流れを液圧的に充填する。カラムが適切に充填された後、樹脂ベッドを5カラム体積 (CV) の平衡化緩衝液で洗浄した後、溶離勾配を開始する。溶出液を収集し、AIEX−HPLC、RP−HPLC、Pico Green、QIA、およびスロットブトットにより分析する。列挙しない他のアッセイを実施することもできる。
【0045】
溶出液プールを、必要に応じてサイズ排除クロマトグラフィー (SEC) または限外濾過により、さらに処理する。限外濾過の場合において、カラム溶出液を緩衝液で1:100に希釈し、体積をほぼ300 mL (システムフラッシュを含む) に減少する。収集された濃縮物を2%スクロースと配合し、−70 ℃において凍結する。もう一度、試料を種々の分析のために採取して生成物の品質および純度を保証する。
【0046】
SECを使用する場合、適当なサイズのSEC細胞にTosohaas HW−65F樹脂を充填し、EBA工程からの溶出液の10%カラム体積をカラムに負荷する。ウイルスは排除体積で溶離し、画分を収集し、紫外線追跡に従いプールする。溶出液をプールし、2%スクロースと配合する。配合したプールを−70 ℃において凍結し、バイアリングのとき融解する。品質および純度を保証する種々の分析のために、プールした物質の試料を採取する。
【実施例】
【0047】
実施例1.連続的遠心機を使用する試験手順 (第1図参照)
細胞培養物 (感染したまたは非感染) を前もって決定した時間間隔で連続的遠心機 (例えば、ウェストファリア (Westfalia) CSA−1連続的遠心機) の遠心ボウルの中に供給し、その間に培地を連続的に排出する (第1図、工程1)。この間隔が完結した後、細胞培養物の供給を停止し、培地を緩衝液 (例えば、凍結緩衝液) と交換するための第2フラッシュラインを通して緩衝液をボウルの中に供給する。フラッシュを停止した後、ボウルの内容物 (緩衝液中の濃縮された細胞ペレット) を単離された操作水により遠心機から液圧的に射出する。次いで、細胞培養物の供給を再開し、収集が完結するまで、プロセスを続ける。
【0048】
試験手順において、濃縮された細胞培養物の一部分を追加の溶解工程に付して、例えば、追加の溶解手順が射出物中の細胞をさらに溶解するかどうかを決定する。1組の実験 (第1図、工程2) において、射出物をMicrofluidics HC−2000マイクロフラッダイザー (Microfluidizer) (これは空気圧増強ポンプを使用して、必要な圧力を一定速度で生成物の流れに供給する) 中で処理する。ポンプは相互作用チャンバー内の固定された形状寸法のマイクロチャンネルを通して生成物を推進させる。その結果、生成物、例えば、哺乳動物細胞の流れは高い速度に加速され、生成物流内で翦断速度をつくり、高い収量で細胞を崩壊させる。マイクロフラッダイザーにおいて処理した後、試料を低速遠心により清浄化し、上澄みを細胞内生物学的実在物の存在について検査することができる。
【0049】
他の組の実験 (第1図、工程3) において、射出物を凍結−融解手順に付し、ここで射出物を凍結および融解の3回の交互するサイクルに付す。凍結−融解手順後、試料を低速遠心により清浄化し、上澄みを細胞内生物学的実在物の存在について検査することができる。上記工程からの試料のアッセイの本明細書における説明において、例えば、実施例4の表1〜4において、種々の工程からの試料を次のように言及する:連続的に排出される培地は「廃棄した増殖培地」である;遠心機からの射出物は「射出物−濃縮細胞ペレット」である;凍結−融解手順に付し、低速遠心により清澄化された射出物の部分は「凍結−融解−最終処理上澄み」である;そしてマイクロフラッダイザー処理に付し、低速遠心により清澄化された射出物の部分は「マイクロフラッダイザー−最終処理上澄み」である。
【0050】
比較のため、細胞培養物の一部分を連続的遠心機ではなく、「対照」プロセスにより処理する (第1図、工程5)。細胞をバッチ式遠心に付してコンディショニングした培地から細胞ペレットを濃縮し、上澄みを除去し、典型的には約30×の体積減少を達成する体積で、小さい体積の緩衝液 (例えば、凍結緩衝液) で置換する。細胞を懸濁させ、凍結および融解の3回の交互するサイクルに付す。上記工程からの試料のアッセイの本明細書における説明において、例えば、実施例4の表1〜4において、種々の工程からの試料を次のように言及する:上澄み (濃縮後) は「廃棄した増殖培地」である;そして凍結−融解手順に付し、低速遠心により清浄化した再懸濁されたペレットは「凍結−融解−最終処理上澄み」である。
【0051】
試料をAIEX−HPLC分析用クロマトグラフィーにより総粒子計数について分析し、トリパンブルー染色により視的検査し、そしてコールター・マルチサイザー (Coulter Multisizer) により平均粒度について分析する。また、遠心機、マイクロフラッダイザーおよび対照流れからの最終粗製 (非精製) ウイルス上澄みを急速感染性アッセイ (QIA) により分析して、感染力価を測定する。QIAは感染性ウイルス力価を計算する慣用の細胞損傷作用アッセイをベースとする、比色アッセイである。
【0052】
実施例2.非感染細胞を使用するウェストファリア (Westfalia) 連続的遠心機の試験
50リットルの反応器内の細胞培地+1%血清中で増殖した、非感染哺乳動物細胞を使用して、ウェストファリア (Westfalia) CSA−1連続的遠心機を試験する。反応器の使用体積は43 Lである。細胞を90%の生活能力で1×106細胞/mLの密度に増殖させる。この実験およびこれらの実施例に記載するすべての他の実験において、ウェストファリアへの供給速度は1.5 L/分であり、そしてボウルをほぼ9000 rpmで回転させる。
【0053】
溶解が供給流内ではなく、濃縮された細胞流内で起こるかどうかを決定するために、乳酸デヒドロゲナーゼ (LDH) (細胞が溶解するとき解放される安定な細胞質ゾル酵素) の濃度を、比色Cyto Tox 96非放射性アッセイ (Promega Corporation) により、すべての流れにおいて測定する。
【0054】
LDH陽性対照を96ウェルのプレート中で使用して、標準濃度曲線を構成する。培養物試料を1000 rpmにおいて15分間回転し、基底LDH濃度として培養物の上澄みを使用することによって、対照遠心を表す最小LDH濃度の試料を調製する。細胞培養物の3回の凍結−融解サイクルを通し、次いで1000 rpmにおいて15分間回転することによって、培地内から最大LDH濃度を表す、溶解した細胞のLDH濃度の試料を調製する。
視的血球計の計数および粒度分布を使用して、初期供給流、濃縮された細胞流 (「射出物」)、および廃棄上澄み流からの試料を分析する。粒度分布は、例えば、細胞破片の蓄積ならびに全細胞を反映し、したがって細胞溶解の開始である。
LDHアッセイの試料を20分の分離の間に5分の間隔で上澄み流から採取する。
【0055】
細胞の染色およびコールター・カウンターの結果
細胞培養物:0.84×106細胞/mL 94%生活能力
ウェストファリアの上澄み出口:生存可能な細胞の非存在、大きい破片
ウェストファリアで濃縮された細胞ペレット (約2.4 L) :多少の生存可能な細胞、大部分の細胞は溶解しているように見える
【0056】
染色の間におけるより多くの細胞破片の出現と一緒に、コールター・カウンターの測定はプロセシング間の粒度の減少を証明する。これは、射出物中の細胞が実質的に溶解されていることを証明する。
ウェストファリアからの上澄み出口流についての平均LDH濃度は、細胞培養物の対照上澄みからのバックグラウンド値よりもわずかに3.3%高いだけである。ボウルからの細胞ペレットの射出は細胞画分を溶解するが、細胞が遠心機チャンバーに入るとき、追加の溶解は起こらないように思われる。
必要に応じて、射出物の中に存在する (例えば、本明細書に定義するオルガネラまたは生物学的分子) をさらに単離する (例えば、精製工程に付す) ことができる。
【0057】
実施例3.感染した細胞の調製
一般に、治療用トランスジーンまたはマーカー (例えば、lacZ) トランスジーンを含有するアデノウイルスで、約15〜50感染性粒子/細胞の感染多重度において、細胞培地中の増殖した、哺乳動物細胞を約0.5×106細胞/mL〜約1×106細胞/mLの細胞密度において感染させる。感染後ほぼ48時間に、培養物を収集する。
【0058】
実施例4.感染した細胞を使用するウェストファリア (Westfalia) 連続的遠心機の試験
ウェストファリア連続的遠心機を利用して、アデノウイルス感染細胞の4つの追加の反応器調製物をプロセシングする。
【0059】
実験#1
パッケージング細胞系統として働くことができる細胞を、細胞培地+2%血清中で増殖させる。42 Lの使用体積においてトランスジーンを含有する組換えアデノウイルスで、細胞を感染させる。収集時において、細胞密度は0.56×106細胞/mL、66.1%の生活能力である。
【0060】
細胞染色、連続的遠心機粒度分布、AIEX−HPLCクロマトグラフィー、および感染性アッセイにより、種々の工程からの試料を検査する。
対照プロセスについての体積減少は28×であるが、ウェストファリアを使用するプロセシングはほぼ18×の体積減少を生ずる。
【0061】
染色を使用する視的検査
細胞培養物:0.56×106細胞/mL、66.1%の生活能力
対照上澄み:生存可能な細胞の非存在、多少の小さい破片
対照濃縮ペレット:12.5×106細胞/mL、約74%の生活能力、破片はほとんどない
対照溶解ペレット:生存可能な細胞の非存在、大きい細胞塊、計数困難
ウェストファリア 上澄み出口:上澄みから破片および生存可能な細胞は除去されている
ウェストファリア 濃縮細胞ペレット:1.8 Lにおいて約4×106細胞/mL、25%の生活能力、細胞の有意な崩壊、多数の破片
マイクロフラッダイザー 溶解した細胞の出口:0.17×106細胞/mL、5.9%の生活能力、ほとんど均一な小さいサイズの破片
コールター・カウンターを使用して、各単位操作において対照と大規模化プロセスとの間で平均粒度を比較する。
【0062】
ウイルスの回収
アニオン交換クロマトグラフィーを使用して全体のウイルス粒子を測定し、そしてQIAにより感染性粒子濃度を計算する。 (表1参照)。試料を対照プロセス (廃棄した増殖培地;最終処理上澄み) およびウェストファリア遠心プロセス (廃棄した増殖培地;凍結−融解手順後の射出物;およびマイクロフラッダイザーで処理後の射出物) から分析し、そしてアッセイの結果を表1に示す。これらの工程の各々、および表中の用語の要約について、実施例1を参照のこと。
【0063】
【表1】

【0064】
実験#2
実験#1におけるように細胞を細胞培養培地+5%血清中で増殖させる。細胞培養培地+5%血清 (42 Lの使用体積において) 中で、マーカー遺伝子を含有する組換えアデノウイルスで細胞を感染させる。収集時において、細胞密度は1.46×106細胞/mL、75%の生活能力である。
対照プロセスについての体積減少は28×であるが、ウェストファリアを使用するプロセシングはほぼ23×の体積減少を生ずる。
【0065】
染色を使用する視的検査:
細胞培養物:1.46×106細胞/mL、75%の生活能力
対照上澄み:多少の可視破片
対照濃縮ペレット:23.2×106細胞/mL、約72.4%の生活能力
対照溶解ペレット:14.4×106細胞/mL、可視細胞の非存在、大きい凝集物
ウェストファリア 上澄み出口:上澄みから破片および生存可能な細胞は除去されている
ウェストファリア 濃縮細胞ペレット:1.8 Lにおいて約3.2×106細胞/mL、細胞の有意な崩壊、多数の破片
マイクロフラッダイザー 溶解した細胞の出口:全細胞なし、破片の均一な分布
コールター・カウンターを使用して、各単位操作において対照と大規模化プロセスとの間で平均粒度を比較する。
【0066】
ウイルスの回収
アニオン交換クロマトグラフィーを使用して全体のウイルス粒子を測定し、そしてQIAにより感染性粒子濃度を計算する (表2参照)。試料をそれ以上のプロセシング前にウェストファリアからの濃縮された細胞ペレット流のサンプリングを添加して以前の実験におけるように、試料を試験する (「濃縮された細胞ペレット」)。
【0067】
【表2】

【0068】
実験#3
実験#1におけるように細胞を10 Lの種子反応器において無血清細胞培地中で潅流下に増殖させ、移し、48 Lの使用体積で感染させる。マーカー遺伝子を含有する組換えアデノウイルスで細胞を感染させる。収集時において、細胞密度は0.64×106細胞/mL、80.4%の生活能力である。
対照プロセスについての体積減少は20×であるが、ウェストファリアを使用するプロセシングはほぼ26×の体積減少を生ずる。
【0069】
染色を使用する視的検査:
細胞培養物:0.64×106細胞/mL、75%の生活能力
対照上澄み:0.01×106細胞/mL、破片の小さいビット
対照濃縮ペレット:12×106細胞/mL、約72.4%の生活能力
対照溶解ペレット:6.5×106細胞/mL、可視細胞の非存在
ウェストファリア 上澄み出口:上澄みから破片および細胞は除去されている
ウェストファリア 濃縮細胞ペレット:全細胞の非存在、多数の種々のサイズの破片、1.8 Lの体積
マイクロフラッダイザー 溶解した細胞の出口:全細胞なし、破片の均一な分布
コールター・カウンターを使用して、各単位操作において対照と大規模化プロセスとの間で平均粒度を比較する。
【0070】
ウイルスの回収
アニオン交換クロマトグラフィーを使用して全体のウイルス粒子を測定し、そしてQIAにより感染性粒子濃度を計算する (表3参照)。
【0071】
【表3】

【0072】
実験#4
実験#1におけるように細胞を10 Lの種子反応器において無血清細胞培地中で潅流下に増殖させ、移し、45Lの使用体積で感染させる。トランスジーンを含有する組換えアデノウイルスで細胞を感染させる。収集時において、細胞密度は0.45×106細胞/mL、74.2%の生活能力である。
対照プロセスについての体積減少は20×であるが、ウェストファリアを使用するプロセシングはほぼ24×の体積減少を生ずる。
【0073】
染色を使用する視的検査:
細胞培養物:0.45×106細胞/mL、74.2%の生活能力
対照上澄み:0.04×106細胞/mL、多くない破片
対照濃縮ペレット:8.4×106細胞/mL、約73.4%の生活能力
対照溶解ペレット:可視細胞の非存在;大きい破片および細胞凝集物
ウェストファリア上澄み出口:上澄みから破片および細胞は除去されている
ウェストファリア濃縮細胞ペレット:細胞の非存在、小さいサイズの破片;1.8 Lにおける多少大きい破片
マイクロフラッダイザー溶解した細胞の出口:均一な破片
コールター・カウンターを使用して、各単位操作において対照と大規模化プロセスとの間で平均粒度を比較する。
【0074】
ウイルスの回収
アニオン交換クロマトグラフィーを使用して全体のウイルス粒子を測定し、そしてQIAにより感染性粒子濃度を計算する (表4参照)。
【0075】
【表4】

【0076】
全体のおよび感染性ウイルス計数を検査すると、ウェストファリアから直接のウイルス濃度は他の手順からの濃度を満足するか、あるいはそれらの濃度を超えることが示される。また、収集実験からの結果は、この収集プロセスを使用して得られる価値の知れないほどの利点を明らかにする。ユニットから細胞ペレットを射出すると、細胞は有意に溶解され、しかもいずれかの廃棄流から分離される、生成物流中で溶解は実質的に完全に起こる。全体のおよび感染性ウイルスの数は、この溶解の間にアデノウイルス濃度が害されないことを証明する。
【0077】
ウェストファリア/マイクロフラッダイザー手順に対して比較した凍結−融解手順 (「対照手順」)の平均粒度のそれ以上の分析により、ウェストファリアプロセシングが細胞を溶解するばかりでなく、かつまたそれは凍結−融解 (対照) 手順よりもいっそう有効であることが示される。3サイクルの凍結−融解 (対照プロセス) の間に、細胞は溶解するように見えるが、粒度を分析すると、溶解の程度はウェストファリア手順で得られるよりも低いことが示される。
【0078】
これは視的観測により確認される。また、ウェストファリアの物質を大規模化プロセスにおいてマイクロフラッダイザーでさらにプロセシングすることによって、平均直径はほとんど減少しない。ウイルス粒子または感染ユニットの収量/細胞は、ウェストファリアから直接採取した射出物をそれ以上の「溶解」手順、例えば、3サイクルの凍結−融解またはマイクロフラッダイザーを使用する処理にかける場合、細胞溶解の程度は増加しない。
【0079】
表から理解できるように、バッチ式遠心および引き続く3サイクルの凍結−融解により得るときよりも、ウェストファリアにおいて遠心および射出による得るとき、アデノウイルス粒子の収量/細胞は約1.2〜約1.6倍の範囲でより大きい。感染性アデノウイルスの収量は約1.5〜約1.9倍でより高い。アデノウイルスと細胞との他の組み合わせにおいて、収量/細胞の増加をさらに高くすることができる。収量は慣用法、例えば、本明細書のどこかに記載されている方法により測定することができる。
【0080】
以上の説明から、当業者は本発明の本質的特性を容易に確認することができ、本発明の範囲および精神から逸脱しないで、種々の用途および条件に適合するように種々の変更および変化を行うことができる。
それ以上詳しく説明しないで、当業者は、上記説明を使用して、本発明をその完全な程度に利用ことができると考えられる。したがって、先行する好ましい特定の態様は単なる例証であり、いかなる方法においても開示の残部を限定するものと解釈すべきではない。
上に引用したすべての出願、特許および刊行物の全体の開示は引用することによって本明細書の一部とされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物細胞を細胞ペレットに濃縮するために有効な条件下に動物細胞を連続的に遠心し、そして
細胞を溶解するために有効な条件下に、ペレット化された細胞を収集容器の中に射出する、
ことを含んでなり、細胞溶解を達成するために有効な追加の工程を実施しない、ウイルスを含有する動物細胞からウイルスを解放する方法。
【請求項2】
射出された細胞が実質的に溶解されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
射出された細胞がほとんど溶解されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
細胞の90%より多くが溶解されている、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
細胞の50%より多くが溶解されている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
細胞を射出するとき、細胞が溶解する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ウイルスがアデノウイルスである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
アデノウイルスが遺伝子治療に適当な組換えアデノウイルスである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アデノウイルス粒子または非染性アデノウイルスの収量/細胞が、前記アデノウイルスを含有する細胞を凍結−融解手順により溶解するとき得ることができるそれよりも大きい,請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記アデノウイルスを含有する細胞を凍結−融解手順により溶解するとき得ることができるそれよりも、アデノウイルス粒子の収量/細胞が約1.2〜約1.6倍大きい、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アデノウイルスを含有する細胞を凍結−融解手順により溶解するとき得ることができるそれよりも、アデノウイルス粒子の収量/細胞が約1.5〜約1.9倍大きい、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞が哺乳動物細胞または昆虫細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記射出されている細胞が6500〜7500 gの相対遠心力下にある、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
遠心力が7000 gである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
断面の面積が50〜500 mm2である長方形の1または2以上の射出口を通してペレット化細胞を射出する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
断面の面積が50〜500 mm2である長方形の1または2以上の射出口を通してペレット化細胞を射出する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞をウェストファリア・セントリフージ (Westfalia Centrifuge) CSA−1またはCSC−6中で遠心する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
射出時に細胞に加わる力が細胞を実質的に溶解するために有効である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
連続的遠心によりウイルスを含有する細胞から細胞内ウイルスを解放する方法において、細胞溶解を達成するために有効な追加の工程を実施しないで、射出された細胞ペレットからウイルスを直接収集することを含んでなる改良。
【請求項20】
細胞を連続的に遠心して細胞ペレットを形成し、そして
ペレット化細胞を収集容器の中に射出する、
ことから成り、ここで収集された細胞は細胞溶解物の形態である、細胞溶解物を調製する方法。
【請求項21】
細胞を細胞ペレットに濃縮するために有効な条件下に細胞を連続的に遠心し、そして
ペレット化細胞を遠心機から収集容器の中に射出し、ここで収集された細胞は細胞溶解物の形態である、
ことを含んでなり、細胞溶解を達成するために有効な追加の工程を実施しない、細胞溶解物を調製する方法。
【請求項22】
請求項7に記載の方法により調製されたアデノウイルス。
【請求項23】
請求項17に記載の方法により調製されたアデノウイルス。
【請求項24】
細胞を細胞ペレットに濃縮するために有効な条件下に細胞を連続的に遠心し、そして
細胞を溶解するために有効な条件下に、ペレット化細胞を遠心機から収集容器の中に射出する、
ことを含んでなる、ウイルスを含有する動物細胞からウイルスを解放させる方法。
【請求項25】
前記射出された細胞が実質的に溶解している、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
細胞を細胞ペレットに濃縮するために有効な条件下に細胞を連続的に遠心し、そして
細胞を溶解するために有効な条件下に、ペレット化細胞を遠心機から収集容器の中に射出する、
ことから本質的に成る、ウイルスを含有する動物細胞からウイルスを解放させる方法。
【請求項27】
細胞を細胞ペレットに濃縮するために有効な条件下に細胞を連続的に遠心し、そして
細胞を溶解するために有効な条件下に、ペレット化細胞を遠心機から収集容器の中に射出する、
ことから本質的に成り、細胞溶解を達成するために有効な追加の工程を実施しない、細胞内生物、または細胞内オルガネラまたは生物学的分子を含有する細胞から前記生物、オルガネラまたは分子を調製する方法。
【請求項28】
注入された細胞を拡張ベッドクロマトグラフィーにかけることをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−189370(P2009−189370A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−116744(P2009−116744)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【分割の表示】特願2002−570700(P2002−570700)の分割
【原出願日】平成14年2月27日(2002.2.27)
【出願人】(300049958)バイエル・シエーリング・ファーマ アクチエンゲゼルシャフト (357)
【Fターム(参考)】