説明

印刷された古紙を原料とした古紙パルプの製造方法

【課題】家庭や事業所から廃棄・回収される新聞紙(古紙)を原料とした古紙パルプの製造工程において、脱インキ(脱墨)工程に、特別な界面活性剤や電気分解水を加え、回収率の優れた古新聞紙や印刷された古紙を原料とした古紙パルプの製造方法を得ようとすることにある。
【解決手段】古新聞紙等の印刷された古紙を原料とし、古紙パルプを得る製造工程において、古新聞紙や印刷された古紙を裁断して小片化し、これらの小片化した古新聞紙等の古紙に、微量の精製塩を加えた水を電気分解して得られたアルカリ性電解水を加え、高速攪拌して古新聞紙を繊維状にし、この繊維状の古新聞紙を、攪拌容器に投入し、適宜な量の液体の界面活性剤を加えた後、緩やかに攪拌しながら溶液表面に遊離されるインクを除去する工程であり、液体の界面活性剤が、直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、印刷された古紙を原料とした古紙パルプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、新聞は、社会の出来事をニュースとして伝えることが出来る重要な印刷物であり、日本の新聞発行部数は平成19年度で約5000万部/日であり、新聞用紙としての使用量は370万トン/年で、一世帯あたり、約70Kg/年を消費している。
【0003】
近年、資源環境を踏まえた環境に優しい紙を目指し、各製紙会社では新聞古紙のリサイクルと軽量化についての技術開発が行われている。また、古紙回収により集められた新聞紙は、古紙パルプとなり新聞用紙約60〜80%が配合されている。
【0004】
一方、新聞紙の軽量化も進み、現在では43g/m2 となっている。古紙パルプには、印刷インキを取り除かない黒い低品質の古紙パルプで、板紙や段ボールなどの原料として、また、印刷インキを取り除いた脱墨パルプ(海外では脱インキパルプ=Deinked pulp:DIP)と呼ばれ、印刷用紙やトイレットペーパーなど白さを要求される紙の原料となっている。
【0005】
また、依然としてインキ油を含有する再生された新聞用紙繊維から、浴室用・顔面用ティッシュ、ナプキンおよびペーパータオル等の原料となっている。例えば、特許文献1のように。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平10−506155号公報
【0007】
このように、リサイクルにより原木資源が節約されると同時に、廃棄物収集・処理の負担軽減、製造に関わる電力消費を抑えることができることなどから、省エネルギー化にも役立ち、また、紙は同じ用途でリサイクルされる方が結果として好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明の課題は、家庭や事業所から廃棄・回収される新聞紙(古紙)、印刷された紙等を原料とした古紙パルプの製造工程において、脱インキ(脱墨)工程に、特別な電解水や界面活性剤を使用することにより、回収率の優れた白色の古紙が得られる,古新聞紙等の印刷された古紙を原料とした古紙パルプの製造方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による課題を解決するための手段としては、古新聞紙や印刷された古紙を原料とした古紙パルプの製造工程において、微量の精製塩を加えた水を電気分解することにより得られるアルカリ性電解水を使用し、また、脱インキ(脱墨)工程に、液体の界面活性剤を添加して古新聞紙等の印刷された古紙を原料とした古紙パルプを得るものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によると、小片化した古新聞紙や印刷された古紙を攪拌・離解するために、塩を用いた電気分解で得られたアルカリ性電解水を用いて処理するため、発生したナトリウムは水酸化ナトリウムに変換されて使用され、残りの塩素は漂白剤としての効果を発現している。
そもそも、古紙の残着色、木材を原料としていることから、パルプ化による繊維の褐色の要因となっているリグニンあるいは変質したリグニンが存在することが大きく起因されているが、上述のような、塩を用いた電気分解で得られたアルカリ性電解水を用いて処理するため、繊維状に解されたパルプの強度の低下を防ぐと共に、強度が維持される等の効果を有する。
【0011】
また、電解水の中でもアルカリ性電解水と種々の界面活性剤を検討したが、前述のように、特に、液体の界面活性剤(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を共存させて処理することにより、新聞紙や他の印刷された紙に関わる古紙や印刷された紙の表面からの脱インク(脱墨)化が効率よく進み、目的とした白色の古紙が得られる等極めて有益なる効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の一実施例を示す説明図である。
【図2】この発明の一実施例を示す工程図である。
【図3】この発明と他との比較試験を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の好適な実施の形態について述べると、古新聞紙や印刷された古紙を原料とした古紙パルプの製造工程において、新聞紙等の古紙を小片化し、これらの小片化した古紙に、微量の精製塩を加えた水を電気分解することにより得られたアルカリ性電解水を加えて攪拌・離解する工程と、これら離解溶液を脱墨する工程と、前記攪拌・離解工程に使用する液体が、液体の界面活性剤と共存して使用することを特徴とする古新聞紙や印刷された古紙を原料とした古紙パルプの製造方法である。
【実施例】
【0014】
この発明の一実施例を実験に従って詳細に説明すると、古新聞紙をシュレッダー等により裁断して小片化する工程と、小片化された古新聞紙(1)をミキサー(2)に約20g〔新聞紙4面(縦54.5×81.2cm)に相当分〕を入れ、これにアルカリ性電解水(3)を1リットルを加え、高速攪拌して古新聞紙を繊維状にする工程と、この繊維状になった離解溶液を5リットルの攪拌槽(4)に移した後、液体の界面活性剤4ミリリットルを加えた後、緩やかに攪拌する工程と、溶液表面に遊離されるインクを、ガーゼで試作(縦・横40cm)したラガー(紐)を羽根型攪拌棒(5)に取り付けて、ゆっくり低速(60〜70回転/分)で回転させて浮遊してくるインクを除去する工程と、その際にラガーの汚れの様子を観察しながら、5回程度繰り返してラガーの取り替え洗浄する工程と、次に、脱インク化(脱墨)され、離解した繊維状の古紙パルプ(6)を得る工程と、これを脱水(ろ過)する工程と、ついで、集積した古紙パルプの水洗(5リットル×3回)を行う工程と、その後、乾燥し脱インク(脱墨)された古紙パルプを得る工程からなり、その結果、古紙12.2g(回収率60.1%)を得た。
【0015】
尚、前記記載のアルカリ性電解水に替わり、酸性電解水を用いる以外、全く同じ規模で操作を行ったが、この酸性電解水で処理した古紙パルプは、リグニンを効率よく除去することは出来ず、漂白効果に乏しく、しかも、酸の影響によりパルプの強度を弱めるなどの悪影響を及ぼし、全体的に淡く黒ずんだものであり、期待したほど白色化した古紙パルプは得られなかった。
【0016】
さらに、〔0014〕と〔0015〕に記載した電解水(アルカリ性水及び酸性水)の替わりに水道水を用いて、得た古紙パルプでは、白色度をあげるためには、使用する界面活性剤を2倍量(8ミリリットル)に増やす必要があり、同時に使用した界面活性剤除去のための水洗に多量の水を使用しなければならず、また、水洗回数が残存する酸の影響により増すごとにパルプ繊維の流出も増加し、古紙パルプとしての回収率(20〜40%)は低下した。
【0017】
このように、この発明は、電解水の中でもアルカリ性電解水と種々の界面活性剤を検討したが、特に液体の界面活性剤(直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を共存させて処理することにより、新聞紙や印刷された古紙に関わる古紙表面から脱インク(脱墨)化が効率よく進み、目的とした白色のパルプ繊維が得られた。
【0018】
白色度向上には脱インク(脱墨)され、離解されたパルプ繊維の中に付着しているインクを水洗の回数を増やすことにより対応できるが、古紙の回収率低下の要因にもなった。
【0019】
一方、普通水(水道水)を利用した古紙パルプでと白色度を上げるためには、使用する界面活性剤の添加量(0.0025%)を増やす必要があり、同時に使用した界面活性剤除去のための水洗に多量の水が必要となった。また、水洗回数が残存する酸の影響により増すごとにパルプ繊維の流出も増加し、古紙パルプとしての回収率(20〜40%)は低下した。
【0020】
以上のことから、本願の古新聞紙や印刷された古紙を原料とした古紙パルプの製造方法は、塩の電気分解によって得られたアルカリ性電解水を利用する方法がよく、高い白色度を要求しないトイレットペーパーなどに利用することが可能であり、リサイクル古紙パルプ資材として、回収できる処理方法を開発したものである。
【0021】
尚、前記脱インク(脱墨)処理した初回の排水についてのリサイクル使用が可能であるか、否かについては、カチオン性高分子凝集剤を添加することにより凝集分離は可能となり、排水処理においても公害汚染を防止できるものである。
【0022】
そして、この発明に使用するアルカリ性電解水と、酸性電解水及び水道水を用いて脱墨促進作用の実験を行った。その方法は次の通りである。
1. 回収された古新聞紙等の印刷された古紙を小片(約5cm×5cm)に裁断し、その5gをづつをとる。
2. ミキサーにこれら裁断された上記の古紙を、500ミリリットルの酸性電解水、アルカリ性電解水、そして水道水を注いだ。
3. 使用した界面活性剤(直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)は、本条件下では、0.2ミリリットルを添加した。
4. ミキサーにて攪拌し、離解・脱墨した3種類の古紙パルプを得た。
5. 10リットル容器に水道水を5リットル入れ、得られた古紙パルプを洗浄した。 (汚れの程度を確認しながら3回繰り返し洗浄を行った。)
6. 100°Cの温風で10分間乾燥させた。
7. 得られたそれぞれの再生紙の白色度を色差計(Macbeth 社製 COLOR−EYE 2020)にて測定し白色度を検討し評価を行った。
その結果、図3に示した結果となった。
【0023】
この発明に使用するアルカリ性電解水を用いた場合は、白色度:63.73%、酸性電解水を用いた場合は、白色度:61.52%、そして水道水を用いた場合は、白色度:59.16%となった。
【0024】
これらの結果、
1. 白色度からアルカリ性電解水を用いて離解・脱墨工程を行ったものが、最も高い値を示し、ついで、酸性電解水、水道水の順であった。
2. アルカリ性電解水の白色度が最も高い値になった理由としては、脱墨されたカーボン粒子を含む油がアルカリ性側において添加した中性の界面活性剤のミセル生成における熱力学的パラメーターが大きく、ミセル形成と同時に吸着凝集が良好に生起されたものと考えられる。
3. 酸性電解水の白色度が水道水よりも高くなったのは、含有される次亜塩素酸の漂白作用と酸性側における添加した中性の界面活性剤のミセル生成が一部形成された影響によるものと考えられる。
4. 予備試験の結果、古紙パルプの洗浄には、経済的にも水道水を使用した方が望ましい。
5. 添加する界面活性剤は、0.2ミリリットル/リットル以上が必要であり、求める再生紙の白色度により添加量を増減することが確認できた。
【0025】
この試験により、電解水は界面活性剤との併用により脱墨を促進させる作用があることが確認できた。また、電解水を使用することにより脱墨工程における界面活性剤の使用を削減することが可能と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明の古新聞紙や印刷された古紙を原料とした古紙パルプの製造方法の技術を確立し、実施・販売することにより、産業上利用できるものである。
【符号の説明】
【0027】
1 小片化された古新聞紙
2 ミキサー
3 アルカリ性電解水
4 攪拌槽
5 羽根型攪拌棒
6 古紙パルプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
古新聞紙等の印刷された古紙を原料とし、古紙パルプを得る製造工程であって、印刷された古紙を裁断して小片化し、これらの小片化した古紙に、適宜な量の電解水を加え、高速攪拌して古紙を繊維状にする工程と、この繊維状の古紙を、攪拌容器に投入し、適宜な量の液体の界面活性剤である離解溶液を加えた後、緩やかに攪拌しながら該溶液表面に遊離されるインクを除去する工程と、これら離解溶液を脱インクする工程において使用する電解水が、微量の精製塩を加えた水を電気分解することにより得られたアルカリ性電解水であることを特徴とする等の印刷された古紙を原料とした古紙パルプの製造方法。
【請求項2】
液体の界面活性剤が、直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1記載の印刷された古紙を原料とした古紙パルプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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