説明

印刷を内蔵したブラシ柄の製造方法

【課題】ブラシの柄を透明な熱可塑性樹脂で成形し、その中に印刷物を内蔵させて、外から印刷が透視できるようなブラシ柄を提供する。
【解決手段】一般に、ブラシ柄は植毛部と柄部とからなるところ、柄部を植毛孔の向く方向に垂直な平坦面で分割し、分割した柄部の1つと植毛部とからなる中間材を透明な熱可塑性合成樹脂の射出成形により作り、次いで分割面上に印刷を施し、その後分割面上に同じ熱可塑性樹脂を射出成形して一体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は印刷を内蔵したブラシ柄の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブラシ柄の表面に製造業者名、模様などを印刷することは、これまで行われて来た。しかし、表面に印刷しただけのものは、ブラシの使用中にすぐに剥がれてしまい印刷した効果が失われてしまう。
この欠点を改良するには、印刷したものをブラシ柄の中に埋め込むことが考えられる。ところが、ブラシ柄の中に印刷した物を埋め込むことはこれまでなされなかったし、またそのようなことは容易にできることではない。その理由は次のとおりである。
【0003】
合成樹脂を材料としてブラシ柄を工業的に能率よく作るには、射出成形法によって作らざるを得ない。射出成形法では、ブラシ柄の形をした型窩のある成形型を用い、型窩内に溶融された合成樹脂を圧入し、成形型では型窩内に充填された溶融樹脂を専ら冷却し、冷却された成形体を取り出してブラシ柄が製造される。従って、ブラシ柄の柄部に印刷された物を埋め込むには、柄部を成形する型窩内に印刷物を宙吊りに固定しておいて、型窩内に溶融樹脂を圧入しなければならない。
【0004】
他方、ドアミラーなどの製品のハウジング表面に意匠用のフィルム材を射出成形によって一体に作る方法が特開平11−34154号公報に記載されている。この方法は、射出成形型の一方の型にフィルム材を仮保持させるための仮保持機構を設けることとしている。
【0005】
ところが、ブラシ柄の射出成形型では、このような仮保持機構を設けることができない。なぜならば、仮保持機構を設ければ、得られた成形品は仮保持機構のあった場所に必ず凹凸を生じることとなるが、ブラシ柄の柄部ではそのような凹凸があると見苦しくなるからである。そのほか、ブラシ柄の柄部を成形する型窩の壁面には凹凸がないので、印刷物を宙吊りにできるような構造にすることができない。その上に、柄部は溶融樹脂の圧入側に位置するために、溶融樹脂が高速で流れる関係上、印刷物を固定しても印刷物が流されてしまうことになり易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−34154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、上述の困難を解決しようとしてなされたものである。すなわち、この発明はブラシの柄を透明な熱可塑性樹脂で成形し、その中に印刷物を内蔵させて、外から印刷が透視できるようなブラシ柄を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明者は、上記の課題を解決するためには、ブラシ柄を二度に分けて成形する必要があると考えた。すなわち、ブラシ柄は植毛孔の穿設されている植毛部と、その余の柄の部分からなるものであるところ、この発明者は、柄部を植毛孔の向く方向に垂直な平面で2つに分割し、分割した柄部の1つと植毛部とからなる中間材をまず射出成形により成形し、柄部の分割面に印刷を付与し、その後に中間材の柄部上に柄部の残り半分を射出成形することを考えた。その際、中間材では柄部の分割面を柄部の端から植毛部に向けて平坦な面としておき、この平坦な分割面上に印刷を付与すると、その後分割面上に柄部の残り半分を射出成形したとき、印刷が流されたり変形したりするようなことが防がれることを見出した。この発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
この発明は、植毛部と柄部とからなる所望形状のブラシ柄において、柄部を植毛孔の向く方向に垂直な平面によって2つに分割し、分割面を平坦な面とした形状の中間材を透明な熱可塑性合成樹脂の射出成形によって成形し、次いで分割面に印刷を施し、その後分割面上に上記と同じ熱可塑性合成樹脂を射出成形して、柄部の残り半分を成形して一体とすることを特徴とする、印刷を内蔵したブラシ柄の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、透明な熱可塑性合成樹脂を用いて、植毛部と柄部とを一体にしたブラシ柄を射出成形により成形するから、柄部の内部を透視できる美麗なブラシ柄を能率よく、安価に製造することができる。その際、柄部を植毛孔の向く方向に垂直な平面で2つに分割し、分割面に印刷を付与するので、印刷は植毛孔に垂直な平面に広がり、従って印刷は明瞭に目に映る。
【0011】
また、分割面を柄部の端から植毛部に向かって平坦な面としたから、この面に印刷を付与すると、この面に柄部の残り半分を射出成形するときに印刷が剥がれたり変形したりすることがなく、従って印刷をそのまま柄部内に埋没させることができる。しかも、あとで成形する柄部の残り半分は、中間材を作っている樹脂と同じ透明な熱可塑性樹脂で作ることとしたから、残り半分は中間材とよく融着し、従って分割面を感じさせない一体物が得られる。
また、印刷物は柄部内に埋没されているから、剥がれたり印刷が不鮮明となったりすることがない。この発明はこのような効果をもたらすものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明によって作られた印刷の透視できる歯ブラシ用柄の斜視図である。
【図2】図1に示した歯ブラシ用の柄を作るにあたって、射出成形によって作られた中間材の斜視図である。
【図3】この発明において、分割面に印刷を付与するために用いられる熱転写用フィルムの説明図である。
【図4】この発明において、分割面に印刷を付与するために用いられるインサートフィルムの説明図である。
【図5】この発明において、中間材を成形するために射出成形用型内に着脱される充填金型の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明は、図1に示したように植毛部1と柄部2とからなる歯ブラシ用の柄の製造方法を提供するものである。その柄は全体が透明な熱可塑性合成樹脂で作られており、柄部の内部には印刷された文字A〜Gが埋没されていて、しかもその文字が植毛孔4の向く方向と垂直に広がっているために文字が歯ブラシの正面からも裏面からも明瞭に見えるものとなっている。
透明な熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン(PS)、アクリルスチレン共重合体(AS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などを用いることができる。
【0014】
図1に示した歯ブラシ用の柄を作るために、この発明では図2に示したような中間材Aを作る。図2に示した中間材Aでは、植毛部1は図1の植毛部1と全く同じ形状にされているが、柄部2は一部が柄部の厚み方向に2分されて、2分されたうちの1つが取り去られている。云いかえると、柄部2の一部は植毛孔4の向く方向に垂直な平面により2つに分割されて、分割されたうちの1つが除去されている。そして、分割面5は平坦な面とされる。
【0015】
この発明では、このような図2に示したような中間材Aを透明な合成樹脂の射出成形により作ることが1つの特徴とされる。
この発明では中間材の分割面5に印刷3を施すことが必要である。印刷3は分割面5上に直接行うこともできるが、熱転写フィルム又はインサートフィルムとして印刷を行うことが好ましい。なお、6は透孔である。
印刷インクとしては熱可塑性合成樹脂フィルムに接着し易いものを用いる。とくにベヒクルとして熱可塑性合成樹脂を使用したものを用いることが好ましい。
【0016】
上で云う熱転写フィルムは、図3に示したような構造のものにすることが好ましい。図3において、11は延伸ポリプロピレン又は延伸ポリエステルフィルムであって、その片面に剥離層12を設け、その上に印刷インクで必要な印刷層13を付設し、その上に接着層14を付設して転写フィルムは作られている。この転写フィルムは、中間材Aが冷えた状態のときに、分割面上に接着層14が直接接触するように配置し、フィルム11の上から加熱押圧して印刷層13を接着層14によって分割面に接着し、その後フィルム11を剥離層12とともに剥離して印刷層13を分割面上に付与する。
【0017】
剥離層としてはシリコン樹脂を用いる。シリコン樹脂の中では、ポリエステル変性シリコン樹脂又はポリマー主鎖にポリシロキサンセグメント等をグラフト重合させて得られたグラフトコポリマーを用いることが好ましい。これらのシリコン樹脂はフィルム上に直接塗布する。また、上記の接着層はアクリル樹脂、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂の溶液を塗布して付設することが好ましい。
【0018】
上で云うインサートフィルムとしては、図4に示したようなものを用いることが好ましい。図4において、11は延伸ポリスチレン、アクリルスチレン共重合体又はポリエチレンテレフタレートフィルムであって、フィルム11の片面に印刷インクで必要な印刷層13を付設し、その上に接着層14を設けて、インサートフィルムは作られている。この場合の印刷層13と接着層14とは、図3に示した熱転写フィルムの印刷層13と接着層14と同じものを用いることができる。
【0019】
インサートフィルムは、中間体の射出成形時に、これを成形型の分割面を形成する壁面に接着層14によって貼付しておいて、中間体成形と同時に中間体の分割面にインサートフィルム全体を融着させることによって印刷を施すことができる。
【0020】
こうして印刷を施された中間体は射出成形用型内に入れられ、中間体の分割面上に前と同じ透明な熱可塑性樹脂の溶融物を射出することにより、柄部の残り半分が成形されてブラシ柄となる。このとき、溶融樹脂は柄部の端から圧入されるが、分割面が平坦な面とされているため、印刷は樹脂の圧入によって変形されることなく、元の形状を維持することができる。従って、成形されたブラシ柄では、印刷を表からも裏からもはっきりと見ることができる。
【0021】
この発明を実施する際には、図2に示した中間材Aを成形するための第1の成形型と、図1に示した完成品を成形するための第2の成形型とを別々に作っておいて、それぞれの成形型を用いて2回射出成形を行うことによりブラシ柄を作ることができる。この場合には、第1の成形型を用いて射出成形して得られた中間材を第2の成形型内に挿入して、2回目の射出成形を行うことになる。
【0022】
そのほか、第2の成形型だけを用意し、別に図5に示したような充填金型Pを用意し、中間材Aを成形するときに、充填金型Pを第2の成形型内に挿入して射出成形を行って中間材Aを作り、あとで分割面上に熱転写して印刷を施した中間材とすることができ、また表面にインサートフィルムを貼り着けた充填金型Pを第2の成形型内に挿入して射出成形を行い、印刷を施した中間材を作ることができる。こうして得た印刷された中間材を、充填金型Pを取り除いた第2の成形型内に挿入して、2回目の射出成形を行うことにより印刷を内蔵したブラシ柄を作ることができる。この場合には、第1の成形型を作る必要がないからそれだけ有利である。充填金型Pの形状が、あとで成形される柄部の残り半分の形状と一致しなければならないことは、云うまでもない。
【0023】
この明細書では、歯ブラシの柄を例に採ってこの発明を説明したが、この発明が適用できるのは歯ブラシの柄に限らない。毛髪を整えるためのヘアーブラシや、被服の塵を払う清掃用ブラシなどにも、この発明は適用できる。
この発明によれば、印刷を内蔵したブラシ柄が得られるから、内蔵された印刷は表側からも透明な合成樹脂を通して美しく見える。しかもその印刷は消えることがないから、実用上の価値が高い。
【符号の説明】
【0024】
A 中間材
P 充填金型
1 植毛部
2 柄部
3 印刷
4 植毛孔
5 分割面
6 透孔
11 フィルム
12 剥離層
13 印刷層
14 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植毛部と柄部とからなる所望形状のブラシ柄において、柄部を植毛孔の向く方向に垂直な平面によって2つに分割し、分割面を平坦な面とした形状の中間材を透明な熱可塑性合成樹脂の射出成形によって作り、次いで分割面上に印刷を施し、その後分割面上に上記の熱可塑性合成樹脂と同じ熱可塑性樹脂で柄部の残り半分を成形して一体とすることを特徴とする、印刷を内蔵したブラシ柄の製造方法。
【請求項2】
上記分割面上への印刷をするとき、熱転写フィルム又はインサートフィルムを用いることを特徴とする、請求項1に記載のブラシ柄の製造方法。
【請求項3】
上記所望形状のブラシ柄の型窩を持った成形用型内に充填金型を付設して上記中間材を成形し、充填金型の形状を上記柄部の残り半分の形状としたことを特徴とする、請求項1又は2に記載のブラシ柄の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−34762(P2012−34762A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176030(P2010−176030)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(592111894)ヤマトエスロン株式会社 (20)
【Fターム(参考)】