説明

印刷インク除去剤

【課題】顔料を含む印刷インク層を表面に有する基材から該印刷インク層を取り除くための印刷インキ除去剤を提供すること。
【解決手段】
本発明の印刷インク除去剤は、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、又は、ポリビニルアルコールもしくは変性ポリビニルアルコールと他の高分子とのポリマーブレンドを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷インク除去剤、より詳しくは顔料を含む印刷インク層を表面に有する基材から該印刷インク層を取り除くための印刷インク除去剤に関する。
【背景技術】
【0002】
以前より、資源の有効利用という観点から、再生紙が使用されてきた。再生紙は、一般に新聞紙、雑誌等の印刷古紙から、それに含まれるインクが抜かれた脱墨パルプを製造し、この脱墨パルプ単独又は脱墨パルプを他のパルプと混合したものを原料として抄紙することにより、製造されている。
特許文献1には、インキ除去性に優れ、白色度が高く残存インキ数の少ない脱墨パルプを生産するための脱墨剤が記載されている。
【0003】
一方、引用文献2には、基紙と塗工層との間に、顔料と、接着剤として澱粉及びポリビニルアルコールとを含むアンダーコート層が設けられた塗工紙が記載され、該塗工紙は前記のような構成とすることにより、基紙に吸収されて印刷適性の向上に作用しない塗工液の量が減少するとともに、基紙表面が十分に被覆され、オフセット印刷やグラビア印刷等における優れた印刷適性を備えるものである。
このように従来、ポリビニルアルコールは、その性質から接着剤、繊維処理剤又は乳化剤として使用されている。
【特許文献1】特開2001−200484号公報
【特許文献2】特開2008−81899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、再生紙の製造には脱墨の工程が必要不可欠であるが、バージンパルプだけで作った紙よりもその製造コストは割高になる。さらに木材から新しく製造される木材パルプは、製造工程で発生する黒液(植物性廃液)をバイオマス燃料として使用できるため、化石燃料の消費量を抑えられるという特徴があるのに対して、古紙をリサイクルする場合は黒液の副生がないため、化石燃料を使用しなくてはならず、化石燃料の消費量は木材パルプのものより多くなると言われている。また、インクの除去や漂白といった各種薬品を使用する処理工程において排出される廃液により、環境への負荷も少なくない。また、回収された古紙が再生されるまでには、紙を繊維状にほぐす離解、脱墨、漂白、加熱、乾燥などの過程を経るため、数回再生利用すると繊維が細かくなり弱くなって、再生することができなくなる。すなわち、供給する紙をすべて再生紙だけで作ることはできない。このように、再生紙を製造するための製造コスト、製造工程における環境負荷及び強度の点を改善するための、より優れた再生紙の製造方法が求められている。
また、上述したような従来の脱墨技術は、印刷古紙、すなわち紙を再生するための技術であって、印刷された新製品の表面上の印刷インク部分を、紙自体を殆ど変質・劣化させることなく、それより取り除く技術ではない。合成樹脂等のシート、フィルムの表面に印刷がなされている製品について、その印刷インクを取り除く技術もまた未だ十分に確立されているとはいえない。
【0005】
従って、本発明は、印刷された紙製品において紙基材の繊維を傷める等それを実質変質・劣化させることなく、表面の印刷インクを除去することができ、よって印刷された紙基材から未印刷の新たな紙基材への再生産を容易にし、しかも環境への負担・影響も小さいところの印刷インク除去剤を提供することを目的とする。また、本発明は、紙以外の合成樹脂等のシート、フィルム基材の表面に印刷がなされている製品にも適用可能な印刷イン
ク除去剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討を行った結果、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、又は、ポリビニルアルコールもしくは変性ポリビニルアルコールと他の高分子とのポリマーブレンドを含む印刷インク除去剤を基材の表面と、その上に印刷により形成される顔料インク層との間に介在させると、顔料を含む印刷インク層を表面に有する基材から該印刷インク層を容易に取り除くことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
よって、本発明は、以下の(1)ないし(2)に記載される印刷インク除去剤に関する。
(1)顔料を含む印刷インク層を表面に有する基材から該印刷インク層を取り除くための印刷インク除去剤において、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、又は、ポリビニルアルコールもしくは変性ポリビニルアルコールと他の高分子とのポリマーブレンドを含むことを特徴とする印刷インク除去剤。
(2)前記ポリビニルアルコールのけん化度が98.0ないし99.5モル%であることを特徴とする前記(1)に記載の印刷インク除去剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明に使用されるポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、又は、ポリビニルアルコールもしくは変性ポリビニルアルコールと他の高分子とのポリマーブレンドは、温水(常温の水より高く熱水より低い水)に対して高い溶解度を有する。
従って、本発明によれば、印刷時に印刷インク層と基材との間に斯様に高い温水溶解性を有する本発明の印刷インク除去剤を介在させ、そしてリサイクル(再生)時に温水と接触させることで、該印刷インク除去剤の温水への溶解により、前記印刷インク層を前記基材より容易に取り除くことができる。
本発明の印刷インク除去剤を使用することによって、印刷インク層を表面に有する製品のリサイクル(再生)処理をする際、従来のように多くの工程を必要とせず、またそれら工程において使用される薬品等も必要としないので、製造工程における製造コスト及び環境への負荷を低減することができる。
特に例えば、基材が紙である場合、紙を繊維状にほぐすことなく、また紙表面の印刷インク層を取り除くだけで再生紙を製造することができるので、本発明の印刷インク除去剤を用いることによって製造された再生紙は品質及び強度が殆ど低下せず、実用的な価値が高いものが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の印刷インク除去剤は、高い温水溶解性を有するポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、又は、ポリビニルアルコールもしくは変性ポリビニルアルコールと他の高分子とのポリマーブレンドを含む。
また、前記印刷インク除去剤に用いられるポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する。)としてはPVA、変性PVAいずれでもよく、PVAとしてはポリ酢酸ビニル系樹脂を常法によってケン化して得られるものであればいずれでも良い。変性PVAとしては、酢酸ビニルと共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合してケン化して得られた共重合体や、PVAを後変性したものが挙げられる。
【0009】
前記酢酸ビニルと共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等のカルボン酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類
、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等が挙げられる。
【0010】
変性の方法としては、ポリビニルアルコールをアセト酢酸エステル化、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、オキシアルキレン化したものが挙げられ、好ましくはオキシアルキレン化したものである。
【0011】
ポリビニルアルコールとしては、例えば、日本合成化学株式会社製のゴーセノール(登録商標)、クラレ社製のポバール(登録商標)又は電気化学工業社製のデンカポバール(登録商標)等を用いることができる。
【0012】
また、前記ポリマーブレンドにおいてボリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールと混合される他の高分子としては、ポリビニルアセタール、セルロース系ポリマー〔メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等〕、キチン類、キトサン類、デンプン;エーテル結合を有するポリマーであるポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル(PVE);アミド基またはアミド結合を有するポリマーであるポリアクリルアミド(PAAM)、ポリビニルピロリドン(PVP)、並びに、解離性基としてカルボキシル基を有する、ポリアクリル酸塩、マレイン酸樹脂、アルギン酸塩、ゼラチン類などのような水溶性高分子が挙げられる。ポリマーブレンドとしてポリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールを使用する場合、ポリマーブレンド全質量に占めるポリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールの量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上が更に好ましい。
【0013】
本発明の印刷インク除去剤は、低温の水には溶解しないが、基材から容易に分離されるようにするために印刷された基材が60℃以上の温水に接触(浸漬)したときには、容易に溶解してしまう性質を有するものであることが求められる。ここで、本発明の印刷インク除去剤がある一定以上の温度の温水に対して溶解性を示すことが必要である理由として、例えば印刷インク除去剤が低温の水に溶解してしまうと、日常生活での使用に耐えられず、日常生活で使用されるような製品には採用できなくなる。しかしながら、印刷インク層を取り除くために高温の温水に浸漬した場合、該印刷インク除去剤が適用されている基材によっては変質したり、傷んでしまうなど基材の強度低下を招く恐れがある。例えば、アクリル、ポリウレタン及びポリプロピレンのような合成繊維を含む基材から印刷インク層を取り除く場合は、これら繊維の強度低下を防ぐために80℃より低い温水を採用することが好ましい。
従って、それら要求を満たすところのポリビニルアルコール等としては、95.0モル%以上のけん化度を有するものが好ましく、98.0モル%以上のけん化度を有するもの
がさらに好ましい。またポリビニルアルコール等の溶解度は、20℃の水100gに対して10g未満、及び60℃の水100gに対して60g以上であることが好ましい。
【0014】
本発明の印刷インク除去剤が適用される基材としては、上質紙、中質紙、アート紙、コート紙、合成紙、合成樹脂フィルム及びシート、織布並びに不織布などが挙げられるが、従来、顔料印刷がなされる基材であれば特に制限はない。織布としては、木綿、絹、麻などの天然素材の織布であってもよく、不織布としては、リサイクルの容易さ、強度、成形性等の面から、素材としてポリプロピレン不織布、ポリエステル不織布又はアクリル樹脂不織布が好ましく、なかでも、再生が容易なポリプロピレン不織布が好ましい。
【0015】
また、本発明の印刷インク除去剤は、例えば該印刷インク除去剤をフィルムの形態に加工し、前記基材の表面に熱融着により積層することによって、該基材の表面上に適用され、該印刷インク除去剤からなる印刷インク層が形成される。あるいは、前記印刷インク除去剤は、例えば前記基材の表面に印刷インク除去剤を塗付又は噴き付け、該基材に含浸することによって適用される。紙や不織布等の基材表面に印刷インク除去剤を積層する場合、該基材と印刷インク層との間に十分な厚みを有する印刷インク層が形成されるので、該基材から該印刷インク層を分離するときに容易に分離することができる。一方、基材内に印刷インク除去剤を含浸する場合、該基材における該印刷インク除去剤の密着性が高くなるので、見た目にも綺麗に仕上がる。
【0016】
本発明において前記印刷インク除去剤が適用される基材への印刷方法は、従来、前記基材の印刷に採用される方法であれば特に制限はなく、凸版印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写印刷等いずれも採用可能である。なかでも、厚さ、大小、平面、曲面を問わず印刷が可能なことからシルクスクリーン印刷が好ましい。
【0017】
本発明の印刷インク除去剤は、高い温水溶解性を有するので、基材と印刷インク層との間に該印刷インク除去剤を介在させることにより、該印刷インク除去剤を有する基材を一定温度以上の温水に浸漬することで、前記印刷インク除去剤が温水中に溶解し、前記印刷インク層を前記基材の表面から容易に分離することができる。このとき温水に浸漬された印刷インク層及び印刷インク除去剤を有する基材に振動、特に超音波振動を加えることによって更により一層印刷インク層が基材から剥がれ易くなる。また、分離された前記印刷インク層を構成する印刷インクは一般に水不溶性であり、温水であっても溶解しないので、容易に温水から印刷インク層のみを取り除くことができる。また、本発明の不織布製品から印刷インク層を分離する際、有機溶剤などを使用せず水だけを使用するので、作業者の健康面への影響、更には土壌汚染等の環境への影響もない。
【実施例】
【0018】
以下、本発明について実施例を挙げて詳述するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
本実施例では、以下の試料を用いた。
試料:
A.
ゴーセノールN−300(日本合成化学株式会社製)けん化度98.5モル%
B.
ゴーセノールNL−05(日本合成化学株式会社製)けん化度98.5モル%
C.
ハイセロンH(日本合成化学株式会社製)
D.
ゴーセノールGH−23(日本合成化学株式会社製)けん化度87.0モル%
【0019】
[実施例1ないし2]
上記試料A及びBからなる印刷インク除去剤をフィルム形態に作成した。ポリプロピレン不織布表面にこれら各々のフィルムを重ね合わせ、熱溶着により不織布とフィルムを貼り合わせた。さらにその上からシルクスクリーン印刷をすることによって印刷インク層を形成し、印刷インク層を有する不織布を作成した。
また、上記のとおり作成した不織布を65℃に保たれた温水槽に入れ、超音波による振動を与えながら約3分間浸漬したところ、不織布試料の表面から印刷インク層を分離することができた。前記温水槽から印刷インク層が分離された不織布試料を取り出し、分離した印刷インクは水よりも比重が大きいことから該温水槽の底に沈んだ。沈んだ印刷インクを該温水槽から取り出した。
このように、前記不織布試料は、ポリプロピレン不織布の表面に印刷を施しても、ポリプロピレン不織布と印刷インク層との間に高い温水溶解性を有する印刷インク除去剤を介在させることによって、印刷インク層を容易に分離することができた。
【0020】
[実施例3]
フィルムの形態にある試料Cを、実施例1及び2と同様にポリプロピレン不織布表面に重ね合わせ、熱溶着により不織布とフィルムを貼り合わせた。続いて、実施例1及び2と同様な手順により前記不織布の表面に印刷インク層を形成し、そして実施例1及び2と同様な手順により得られた印刷インク層を有する不織布から該印刷インク層を取り除いた。
その結果、実施例1及び2と同様に前記不織布とその表面の印刷インク層を容易に分離することができた。
【0021】
[比較例1]
試料Dを用いた以外は、実施例1と同様な方法により試験を行った。その結果、温水槽に実施例1と同じ時間浸漬したが、基材から印刷インクが分離せず、一部の印刷インクが基材表面に残ってしまった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の印刷インク除去剤は、印刷がなされた紙及び不織布のような再生可能な基材から印刷インクを取り除き、前記基材を新たな基材に再生し、再利用することで、環境保全・資源節約の点において非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を含む印刷インク層を表面に有する基材から該印刷インク層を取り除くための印刷インク除去剤において、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、又は、ポリビニルアルコールもしくは変性ポリビニルアルコールと他の高分子とのポリマーブレンドを含むことを特徴とする印刷インク除去剤。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールのけん化度が98.0ないし99.5モル%であることを特徴とする請求項1に記載の印刷インク除去剤。


【公開番号】特開2010−1408(P2010−1408A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162414(P2008−162414)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(598110219)株式会社アクシス (24)
【Fターム(参考)】