説明

印刷シリンダー及びそれを用いた印刷機。

【課題】
本発明は、水性平版インキを用いたエレクトロウェッティング方式の平版印刷システムに関して、簡単な構成で印刷シリンダー上の濡れを電気的に制御する事によって,個別の版を用いず,オフセット印刷を可能にする印刷システムの提供する。
【解決手段】ロールと、
前記ロールの曲面上に設置されてなる、単位面積毎に電場を制御できる電極群と、
前記電極群を修飾する、電場により極性を変化しうる誘電体と、
からなる印刷シリンダー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,エレクトロウェッティング現象を利用した印刷シリンダー及びそれを用いた印刷機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の平版印刷は,親油性/親水性,或いは親油性/撥油性の表面特性を印刷版上に形成し,その各々の領域に対して,印刷インキが濡れる/濡れないという差を利用し,情報に応じたインキのパターンを形成してきた。この平版インキの特徴は,他の印刷方式である凹版・凸版・孔版に比較して,インキ粘度が高く,インキの転移に伴う寸法精度が優れ,高速印刷が可能,更に,版の表面物性の制御のみで機械的な加工度が低く比較的安価,等々の優れた利点がある。しかし,書籍を例に採ると,版を用いるという印刷そのものに内在する問題として,刷る色毎の版を用意し,必要な頁の数だけ版を作り,その版を鋳型にしてインキを基材上に転移させるという,全ての工程の長さと煩雑さはコストアップに直結し,小ロットの印刷を実質不可能にしていた。近年,時間短縮の為に,通常は別工程となる製版工程も,印刷機上でダイレクトに製版可能な方式が提案され,時間短縮の努力が払われてきた。しかし,高価な版を使う限り,小ロット印刷には本質的に向いていないという欠点が内在していた。
【0003】
一方,オフィス・プリンターとして発達して来た電子写真方式とインクジェット方式が版を使わない新しい印刷方式として,徐々に印刷市場に進出している。しかし,従来の印刷方式に比べ,それぞれインキが低粘度,粉体/熱定着という形態の制限から,基材の選択幅が狭く,幅広いインキ物性の調整可能な方式が求められていた。
【0004】
以上の,平版印刷自体の長所を維持し,欠点である版を用いない方式を実現させる為に,これまでは,電子写真印刷の方式と平版印刷方式の組み合わせの様なシステムが提案されてきた。しかし,平版印刷方式ではあっても,湿し水を使ったシステムである為,システム全体が煩雑に成るという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−198278号公報
【特許文献2】特開2007−168432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の技術的な背景に鑑み,版を使わない平版印刷シリンダーを用いた印刷機であり,更に,平版印刷では一般的な湿し水を使わない印刷機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の印刷原理は,エレクトロウェッティング現象を利用した印刷シリンダーを用いた印刷機であって,撥水表面に局所的に電場を掛けることにより,電場の掛かった部分の濡れが向上するという現象を利用し,該親水性の高まった部分に水性インキを付着させ,画像を形成することを特徴とする印刷機である。
【0008】
即ち,本発明は,ロールと、
前記ロールの曲面上に設置されてなる、単位面積毎に電場を制御できる電極群と、
前記電極群を修飾する、電場により極性を変化しうる誘電体と、
からなる印刷シリンダーに関する。
【0009】
また、本発明は、誘電体は、電場のない状態では撥水性であり、電場のある状態では親水性である上記印刷シリンダーに関する。
【0010】
また、本発明は、電極群と、誘電体とから形成されてなるシートを、ロールに巻きつけてなることを特徴とする上記印刷シリンダーに関する。
【0011】
また、本発明は、インキングロール、上記印刷シリンダー、および、圧胴を含んでなる印刷機に関する。
【0012】
また、本発明は、さらに、電場の制御を、印刷シリンダーの回転角と同期させる制御装置を備える上記印刷機に関する。
【0013】
また、本発明は、上記印刷機で、水性インキを用いて基材に印刷してなる印刷物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエレクトロウェッティング平版印刷機は,水溶性平版インキを其の儘使用可能であり,簡単な構成で印刷シリンダーを作成すれば個別の版が不要という大きな特徴から,小ロットの印刷物も安価に作製可能である。また,電子写真の様な固体インキではなく,インキジェットインキのような低粘度という制約も無く,インキ設計の自由度が高い。その為,従来の視覚情報に訴えるパターンニングのみではなく,将来のプリンタブルエレクトロニクスで用いる機能性インキの設計,自由なパターンニング塗布等々の特徴から,電子デバイスの作製にも適したものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】エレクトロウェッティング印刷の基本構成図。
【図2】電極群配置の一例。
【図3】万線状の電極群の展開図。
【図4】シート電極。
【図5】シート電極の断面図。
【図6】各ロール間のインキの転移と画像形成開始部位。
【図7】万線状の電極を用いて印刷した例。
【図8】シート電極を用いて印刷した例。
【図9】印刷機の構成の一例。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず,本発明の基本構成を,図1を参考にしながら説明する。インキパン等のインキ供給部9から,インキングロール2を経て,印刷シリンダー4の上にインキが供給される。供給されたインキは,印刷シリンダー4とインキングロール2によって形成される電場がかかる部位に転移し,被印刷体表面に運ばれ印刷物となる。
【0017】
印刷シリンダー4上に親水性の潜像を形成する為には,画像に応じた電場の潜像を形成する必要がある。エレクトロウェッティングの原理に従えば,疎水性表面が電解質を介して電場が掛かった場所は,接触角の低下が起こり,濡れ易くなる為である。この電場による潜像形成の方法は,液晶を初めとするディスプレイの画素制御に似ている。直交するx,y軸方向に電極群を配置し,所謂単純マトリックスで制御する方法,或いは,単純マトリックスの交点にトランジスタを形成したアクティブマトリックスによって画素を制御する方法等は,平面とシリンダーという形状の差はあれ,其の儘適用は可能である。しかし,印刷の場合は,ディスプレイの様に面全体を制御する必要は無く、インキングロール2と印刷シリンダー4の間での,インキの挙動を制御できればよい。即ち、インキングロール2に均一に塗布された印刷インキは,インキングロール2と印刷シリンダー4の間を通過した後,インキングロール2と印刷シリンダー4の間隙の広がりに対応して,印刷インキがインキングロール2に残って非画像部に成るか,或いは印刷シリンダー4に転移して画像部を形成するかという分岐点でのみ制御で事足りる。
【0018】
図2に本発明で用いた電極群配置の一例を示す。印刷シリンダー4の表面に絶縁層を介して万線状の電極群を設け,側面に電極の端点を集めドライバーLSI に接続し易い構造とした。ここで、万線状とは、多数の平行線から構成される状態をいう。図3にその電極群の展開図を示す。この万線状の電極群のポイントは,電極群30が印刷シリンダー4上を丁度一周する様に展開図の対角線の角度を万線状の電極群の角度とする。この角度以上の角度にすると,万線状の電極群が印刷シリンダー4上を一周以上し,回転する位置によってはインキングロール2との間で電極が2点以上接する事になり,一意的な場所の指定が不可能になる。
【0019】
図4に本発明で用いることのできる電極群であるシート状の電極の一例を示す。シート電極21の断面は,図5に示す通り,金属・プラスチック等の基板23の上に,導電性の基板の場合には絶縁層24を設け,電極群25を一方向に配列し,その上に撥水性の誘電体層26を設ける。電極群25の端点は,ドライバーLSI27に接続している。ドライバーLSIには,アドレス入力端子28とデータ入力端子29等の入力端子を有し,選択された電極に指定されたタイミングで,電圧を印可する機能を有する。印刷シリンダー4上の万線状の電極群もシリンダーに巻き付ける様設計されたシート電極21も,何れも一方向に伸びる電極群として機能する。
【0020】
これ等の電極群とインキングロール3との間で,インキが転移する状態を図6で説明する。導電性ゴム等で作られたインキングロール2に,均一に塗布された印刷インキ61は,インキングロール2と印刷シリンダー4の間で圧力を受ける結果,ロールの中心線65からニップ幅66だけ離れた場所で印刷シリンダー4への転移(画像部)/非転移(非画像部)が起こる。即ちインキの転移の可否は,この画像形成開始位置67のライン上の電場の制御で決定される。従って,導電性のインキングロール2上の画像開始位置67のラインでの電場の制御が、そのまま、そのライン上のインキの濃淡となる。このため、電場の制御を、印刷シリンダーの回転角と同期させる制御装置があることが好ましい。
【0021】
印刷シリンダーの軸方向の解像度は,電極の間隔によって一義的に決まるが,印刷シリンダーの回転方向の解像度は電極の通電の制御により任意に指定することが出来る。この様にして得られた印刷シリンダー4上のイメージは,印刷シリンダー4と圧胴6との間で,被印刷体8上に転移し,最終的な印刷物と成るのである。
【0022】
図7に本発明による万線状の電極群を用い、アルファベットBの文字を出力した様子を示す。印刷方向71に向かって,画像形成開始位置67が移動し,画像開始位置67と螺旋電極との交点に電圧を印可/非印加し,画像部/非画像部を形成する。図8も同様に,シート電極を使った出力例を示す。
【0023】
以上のロール構成は,必要な機能だけで最も簡単なものであるが,更に,信頼性を上げる為には,図9に示す様なロール構成を用いる。それぞれ,インキの平滑度を上げる為の第一インキングロール2と第二インキングロール3等の多段のインキングロール構成,また,印刷シリンダー4上のインキ残り等を除去する為のクリーニング部7の設置,或いは,被印刷体の選択範囲を広げ,版ロールと被印刷体が直接接し無い事による,紙粉等の異物混入を防ぐことが可能なオフセットロール5の設置等々,通常の平版オフセット印刷で用いられる構成である。
【0024】
更に,印刷インキ以外にも粘着材・ニス・剥離材等々のインキを用いて基材に連続的にコーティング,或いは塗布パターンに従って間欠的なコーティング,連続的な多層コーティング等々の様々なコーティングにも対応可能である。




【符号の説明】
【0025】
1 インキ供給口,2 第一インキングロール,3 第二インキングロール,
4 印刷シリンダー,5 オフセットロール,6 圧胴,7 クリーニング部,
8 被印刷体, 9 インキ供給部,21 シート電極,22 シート電極断面,
23 シート電極基板, 24 絶縁層, 25 電極,
26 撥水性誘電体,27 ドライバーLSI, 28 アドレス入力端子,
29 データ入力端子,30 電極群,
61 インキングロール上の印刷インキ,62 画像部のインキ,
63 非画像部のインキ, 64 被印刷体に転移したインキ,
65 ロールの中心線,66 ニップ幅, 67 画像形成開始部位,
71 印刷方向, 72 万線状の電極群を用いた出力部,
73 シート電極を用いた出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールと、
前記ロールの曲面上に設置されてなる、単位面積毎に電場を制御できる電極群と、
前記電極群を修飾する、電場により極性を変化しうる誘電体と、
からなる印刷シリンダー。
【請求項2】
誘電体は、電場のない状態では撥水性であり、電場のある状態では親水性である請求項1記載の印刷シリンダー。
【請求項3】
電極群と、誘電体とから形成されてなるシートを、ロールに巻きつけてなることを特徴とする請求項1または2記載の印刷シリンダー。
【請求項4】
インキングロール、請求項1〜3いずれか記載の印刷シリンダー、および、圧胴を含んでなる印刷機。
【請求項5】
さらに、電場の制御を、印刷シリンダーの回転角と同期させる制御装置を備える請求項4記載の印刷機。
【請求項6】
請求項4または5記載の印刷機で、水性インキを用いて基材に印刷してなる印刷物。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−247407(P2010−247407A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98575(P2009−98575)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】