説明

印刷機用版および版装着装置

【課題】 筒状の版を印刷機の版装着装置に対してより簡単にかつ正確に取り付けることを可能にする印刷機用版および版装着装置を提供する。
【解決手段】 印刷機用版2は、長方形状の弾性材料製シート7の両端部7aが重ね合わされて接合されることにより、筒状版本体4が形成され、版本体4の重ね合わせ部分8を含む所定部分4aが平坦で、残りの部分4bが円筒状をなすものである。重ね合わせ部分8の反対側の円筒状部分4bの一端部に周方向位置決め用凹部41が形成され、円筒状部分4bの外周面の所定箇所に版部5が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、印刷機用版(刷版)および版装着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷機として、版駆動軸に固定される版シリンダの外周に版が装着されるようになったものが知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような印刷機では、版駆動軸に固定された状態の版シリンダに、シート状の版を巻き付けて装着することがある。その場合、印刷機内での版の装着作業が面倒で、版シリンダに版を正確に取り付けることが困難である。
【0004】
これを避けるため、版駆動軸から取り外した状態の版シリンダにシート状の版を巻き付けて装着した後に、版シリンダを版駆動軸に固定することもある。この場合、版シリンダはかなりの重量を有するので、版駆動軸に対する版シリンダの取り外し、取り付け作業が困難である。
【0005】
本発明者は、上記の問題を解決し、印刷機に対して版を簡単にかつ正確に取り付けることを可能にする印刷機用版として、弾性材料により円筒状に形成された版本体の外周面の一部に版部が設けられ、版本体の内周に内向きに突出して軸方向にのびる係合部が形成されているものを提案した(特願2008−137766号参照)。
【0006】
この発明の目的は、上記のような筒状の版を印刷機の版装着装置に対してより簡単にかつ正確に取り付けることを可能にする印刷機用版および版装着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による印刷機用版は、長方形状の弾性材料製シートの両端部が重ね合わされて接合されることにより、筒状版本体が形成され、版本体の重ね合わせ部分を含む所定部分が平坦で、残りの部分が円筒状をなし、重ね合わせ部分の反対側の円筒状部分の一端部に周方向位置決め用凹部が形成され、円筒状部分の外周面の所定箇所に版部が設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
この明細書において、「版部」という用語は、既に版が形成されている部分(製版済みの部分)および版を形成するための部分であってまだ版が形成されていない部分(製版前の部分)の両方を含む意味で用いられる。
【0009】
この発明の印刷機用版において、たとえば、重ね合わせ部分の内側に位置するシートの端部が内側に折り曲げられて、係合部が形成されている。
【0010】
係合部は、版の製造を容易にするために形成される。
【0011】
この発明による版装着装置は、上記の版を装着するために、印刷機の版駆動軸に固定状に設けられる装置であって、版駆動軸に固定状に設けられて外周に版駆動軸の先端側から版が装着される円筒状の版装着面を有する版シリンダ部を備えており、版シリンダ部の外周の円筒面の周方向の一部が取り除かれて、版装着面を含む円筒面より径方向内側に位置する平坦な版固定部材装着面が形成されており、版シリンダ部の基端部外周に、版の端部が当接する軸方向位置決め用ストッパが設けられ、版固定部材装着面の反対側の版装着面の外周に、基端部において版の周方向位置決め用凹部とはまり合う周方向位置決め用凸部と、軸方向にのびる版固定用突起とが設けられており、版固定部材装着面に、版シリンダ部に装着された版の平坦部分を径方向内側から径方向外側に押して版の円筒状部分を版シリンダ部の版装着面に密着固定させるとともに版固定用突起を版の円筒状部分に食い込ませて固定する版固定部材が設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
版の版部は、版が版シリンダ部に装着されたときに版装着面に密着する版の円筒状部分に形成される。
【0013】
版の内周寸法は、版シリンダ部の外周寸法をわずかに大きくしたものである。すなわち、版の円筒状部分の内径は版シリンダ部の版装着面の外径よりわずかに大きく、版の円筒状部分の内周の周長は版シリンダ部の版装着面の外周の周長よりわずかに大きく、版の平坦部分の周長は版シリンダ部の版固定部材装着面の周長よりわずかに小さい。
【0014】
版固定用突起は、軸方向に連続的または断続的にのびるものであり、好ましくは、版装着面の全長にわたるものである。
【0015】
版装着装置に版を取り付けるときには、版固定部材が版を径方向外側に押さない状態にしておく。このような状態で、版の円筒状部分が版シリンダ部の版装着面に、版の平坦部分が版シリンダ部の版固定部材装着面にそれぞれ対応するように、版を版シリンダ部の外周に先端側からはめて、版の周方向位置決め用凹部を版シリンダ部の周方向位置決め用凸部にはめ合わせるとともに、版の一端部を版シリンダ部の軸方向位置決め用ストッパに当接させる。これにより、版が、版シリンダ部の所定位置に正確にかつ簡単に取り付けられる。版の内周寸法が版シリンダ部の外周寸法よりわずかに大きく、版を取り付けるときには、版固定部材が版を径方向外側に押さない状態になっているので、版シリンダ部と版の間に隙間があり、版を版シリンダ部に簡単に取り付けることができる。版が取り付けられたならば、版固定部材が版の平坦部分を径方向外側に押す状態にし、版の円筒状部分を版装着面に密着させて固定するとともに、版固定用突起を版の円筒状部分に食い込ませて固定する。これにより、版が版シリンダ部に確実に固定され、使用中に版シリンダ部に対して版の位置がずれることがない。
【0016】
版の内周寸法と版シリンダ部の外周寸法の差は、版シリンダ部に対する版の取り付け・取り外しが簡単にできる範囲で、なるべく小さくするのが好ましい。
【0017】
版装着装置から版を取り外すときは、版固定部材が版を径方向外側に押さない状態にする。これにより、版シリンダ部と版の間に隙間が生じ、版を軸方向に移動させて、版シリンダ部の先端から簡単に取り外すことができる。
【0018】
この発明の版装着装置において、たとえば、版固定部材装着面に、版の係合部との干渉を避けるためのみぞが形成されている。
【0019】
みぞは、好ましくは、版の係合部が比較的大きな隙間をあけてはまる程度の形状、寸法に形成される。
【0020】
このようにすれば、版に係合部が形成されている場合でも、係合部と版シリンダ部との干渉を避けて、版を版シリンダ部に簡単に装着することができる。
【0021】
この発明の版装着装置において、たとえば、版固定部材が、版固定部材装着面より内側に没入した位置と外側に突出した位置との間を移動できて、かつ任意の位置に固定できるものである。
【0022】
この場合、版を版シリンダ部に取り付けるときおよび取り外すときには、版固定部材を版固定部材装着面より内側に没入した位置に固定して版を押さない状態にする。そして、版が版シリンダ部に取り付けられた後に、版固定部材を版固定部材装着面より外側に突出する位置に固定することにより、版を径方向外側に押し、版装着面に密着させて固定する。
【0023】
このようにすれば、版固定部材を移動させて任意の位置に固定するだけで、版の取り付け・取り外しおよび版の固定を簡単に行うことができる。
【0024】
上記の版装着装置において、たとえば、版固定部材装着面に形成された版固定部材用凹所に、版固定部材が径方向に移動しうるようにはめられている。
【0025】
上記の版装着装置において、たとえば、版固定部材装着面の凹所の底に形成された楔部材用凹所に、径方向外側に楔面を有する楔部材が軸方向に移動しうるようにはめられ、版シリンダ部に、楔部材を軸方向に移動させて任意の位置に停止させるためのねじ手段が設けられ、版固定部材の径方向内側に楔部材の楔面と当接する楔面が形成され、版シリンダ部または楔部材と版固定部材との間に、永久磁石を用いて版固定部材を径方向内向きに付勢することにより版固定部材の楔面を楔部材の楔面に圧接させる付勢手段が設けられている。
【0026】
このようにすれば、ねじ手段で楔部材を移動させて任意の位置に固定するだけで、版の取り付け・取り外しおよび版の固定を簡単に行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
この発明の印刷機用版装着装置および印刷機によれば、上記のように、印刷機に対する円筒状の版の取り付けおよび取り外しをきわめて簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、この発明の実施形態を示す印刷機の版装着装置の縦断面図である。
【図2】図2は、版装着装置の正面図である。
【図3】図3は、版装着装置の一部を示す平面図である。
【図4】図4は、版装着装置の一部とそれに装着される前の版の一部を拡大して示した縦断面図である。
【図5】図5は、図1のV−V線に沿う拡大断面図(横断面図)である。
【図6】図6は、版が固定される前の状態を示す図5相当の図面である。
【図7】図7は、図1のVII−VII線に沿う拡大断面図(横断面図)である。
【図8】図8は、版シリンダ部の一部を構成するブロックの一部を取り除いて示した斜視図である。
【図9】図9は、版とその製造工程を示す斜視図である。
【図10】図10は、版製造装置の1例を示す概略正面図である。
【図11】図11は、図10と異なる状態を示す版製造装置の概略正面図である。
【符号の説明】
【0029】
(1) 版駆動軸
(2) 版
(3) 版装着装置
(4) 版本体
(4a) 平坦部分
(4b) 円筒状部分
(5) 版部
(6) 係合部
(7) シート
(8) 重ね合わせ部分
(12) 版シリンダ部
(14) 版装着面
(18) 版固定部材装着面
(20) 軸方向位置決め用ストッパ
(22) 第1凹所(版固定部材用凹所)
(23) 第2凹所(楔部材用凹所)
(21) 周方向位置決め用みぞ
(24) 版固定部材
(24a) 楔面
(28) 楔部材
(28a) 楔面
(30)(31) 永久磁石
(32) ねじ部材
(41) 周方向位置決め用凹部
(42) 周方向位置決め用凹部
(43) 版固定用突起
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。
【0031】
図1は印刷機の版駆動軸(1)に取り付けられて版(2)が装着された版装着装置(3)の縦断面図、図2は図1の版装着装置(3)の正面図、図3〜図8は版(2)および版装着装置(3)の各部を詳細に示す図面、図9は版(2)とその製造工程を示す斜視図である。以下の説明において、図1の上下を上下とし、図1の左側を前、右側を後とし、前から後を見たときの左右を左右とする。
【0032】
版(2)は、長方形状の弾性材料製シート(7)の両端部が重ね合わされて接合されることにより筒状に形成された版本体(4)を備えている。版本体(4)の重ね合わせ部分(8)を含む比較的小さい部分が平坦部分(4a)で、残りの大部分が円筒状部分(4b)となっている。重ね合わせ部分(8)の反対側の円筒状部分(4b)の一端部に、周方向位置決め用凹部(41)が形成されている。円筒状部分(4b)の外周面の所定箇所に版部(5)が設けられ、版部(5)の外周面が版面となっている。この例では、重ね合わせ部分(8)の内側に位置するシート(7)の端部が内側に折り曲げられることにより、内向きに突出して軸方向にのびる係合部(6)が形成されている。
【0033】
版本体(4)を構成するシート(7)は、磁性あるいは非磁性の適当な金属よりなる。この例では、一般構造用鋼であるSS鋼製である。シート(7)の厚さは、筒状に形成できて、かつ弾性力により筒状を保持できる程度であればよい。この例では、約0.24mmである。シート(7)の接合手段は任意であるが、この例では、接着剤とスポット溶接が用いられている。
【0034】
凹部(41)は、この例では半円形で、好ましくは、平坦部分(4a)の周方向中心から180度離れた対称位置に形成される。
【0035】
好ましくは、係合部(6)の折り曲げ角度は90度以上であり、係合部(6)と隣接するシート(7)の部分とのなす角度α(図6参照)は90度以下である。この例では、角度αは約45度である。
【0036】
版(2)の製造方法は任意であるが、次に、図9を参照して、その1例について説明する。
【0037】
まず、図9(a)に示すように、長方形状のシート(7)の一端部に係合部(6)を形成するとともに、一側端部に周方向位置決め用凹部(41)を形成し、シート(7)の両端寄りの部分を除く所定の部分に版部(5)を形成する。そして、係合部(6)側のシート(7)の端部の係合部(6)と反対側の面に適当な接着剤(9)を塗布する。次に、図9(b)に示すように、シート(7)を円筒状に形成して、接着剤(9)の外側に反対側のシート(7)の端部(7a)を重ね合わせて接合し、さらに接合部分(8)をスポット溶接により強固に接合する。図9(b)において、(10)はスポット溶接部を示している。そして、プレスなどの適宜な手段により、重ね合わせ部分(8)を含む所定部分を平坦にして、平坦部分(4a)を形成する。版本体(4)の平坦部分(4a)以外の部分は、そのまま円筒状部分(4b)となる。版部(5)への版の形成すなわち製版は、図9(a)のシート(7)の状態の版部(5)に対して行ってもよいし、図9(b)の筒状の版(2)の版部(5)に対して行ってもよい。
【0038】
上記の版(2)は、図10および図11に示すような版製造装置を用いて製造することもできる。図10および図11の説明において、紙面の表側を前、同裏側を後とする。
【0039】
版製造装置は、前後方向にのびる水平軸(46)を中心に回転するシリンダ(47)を備えている。シリンダ(47)の外周の円筒面の周方向の一部が取り除かれて平坦部(47a)が形成され、残りの部分が円筒部(47b)となっている。シリンダ(47)は、適宜な駆動手段により、図の時計方向に比較的遅い一定速度で回転させられる。
【0040】
平坦部(47a)の回転方向前側の部分に、前後方向にのびる角みぞ(48)が全長にわたって形成され、このみぞ(48)に、前後方向にのびる角柱状のスポット溶接用板状電極(49)がはめ止められている。電極(49)は、この例では、銅合金製である。電極(49)の表面は、平坦部(47a)と面一になっている。
【0041】
電極(49)の表面の回転方向前側の部分の全長に、シート(7)の係合部(6)が軸方向に脱着可能なみぞ(50)が形成されている。みぞ(50)の開口部は底部より回転方向前側に位置しており、みぞ(50)と電極(49)の表面のなす角度αは、シート(7)と係合部(6)のなす角度αと等しい。
【0042】
平坦部(47a)の反対側の円筒部(47b)の表面に、前後方向にのびる角みぞ(51)が形成され、製造される版(2)の寸法を調整するとともに製造された版(2)の取り外しを容易にするための角柱状の調整部材(52)が径方向に移動しうるようにはめられている。調整部材(52)の表面は、円筒部(47b)と同じ円筒面となっている。調整部材(52)は、円筒部(47b)より径方向内側に没入した没入位置と、円筒部(47b)より径方向外側に突出した突出位置との間を移動でき、任意の位置に固定されるようになっている。
【0043】
シリンダ(47)の上方に、前後方向にのびる押さえ板部材(53)が上下方向に移動しうるように設けられている。板部材(53)の上方に、溶接ヘッド(54)が水平方向および上下方向に移動しうるように設けられている。溶接ヘッド(54)の下端に、スポット溶接用棒状電極(54a)が設けられている。図示は省略したが、板部材(53)には、電極(54a)が入る複数の穴が形成されている。
【0044】
押さえ板部材(53)より少し回転方向前側のシリンダ(47)の上方に、径方向にのびる空気シリンダ(55)が配置され、シリンダ(47)側のびた空気シリンダ(55)のロッド(55a)の先端部に、前後方向にのびるしごき用ローラ(56)が自由に回転しうるように取り付けられている。ローラ(56)は、空気シリンダ(55)の作動により、シリンダ(47)から離れた位置と、シリンダ(47)に圧接した位置とに切り替えられる。
【0045】
版(2)の製造前には、図10に示すように、押さえ板部材(53)はシリンダ(47)から上方に離れ、ローラ(56)はシリンダ(47)に圧接し、調整部材(52)は製造される版(2)の寸法に合わせて突出位置に固定されている。
【0046】
このような状態で、シート(7)の係合部(6)がシリンダ(47)のみぞ(50)にはめられ、その後、シリンダ(47)が回転させられる。シリンダ(47)が回転すると、これに圧接しているローラ(56)もつられて回転し、シート(7)の部分がローラ(56)の位置に達すると、ローラ(56)によりシリンダ(47)の表面に押しつけられて、その表面に合う形状に形成される。シリンダ(47)の平坦部(47a)と円筒部(47b)の間の2つの境界部で、シート(7)はローラ(56)によって折り曲げられ、これにより、反本体(4)の平坦部分(4a)と円筒状部分(4b)が形成される。シート(7)がシリンダ(47)の全周に巻きかけられて、両端部が重ね合わされると、図11に示すように、シリンダ(47)の回転が停止させられ、押さえ板部材(53)が下方に移動して、シート(7)の重ね合わせ部分(8)をシリンダ(47)の平坦部(47a)および板状電極(49)の表面に押しつける。このような状態で、溶接ヘッド(54)が水平方向および上下方向に移動し、押さえ板部材(53)の穴の部分を通して、重ね合わせ部分(8)のスポット溶接が行われる。スポット溶接が終了すると、図11に鎖線で示すように、調整部材(52)が没入位置に移動させられる。これにより、製造された版(2)とシリンダ(47)の間に隙間ができるので、版(2)を前側に移動して、シリンダ(47)から簡単に取り外すことができる。
【0047】
このような版製造装置を用いて版(2)を製造する場合、係合部(6)があると、版(2)の製造が容易になる。
【0048】
次に、図1〜図8を参照して、版装着装置(3)の構成について説明する。
【0049】
図1において、(11)は図示しない印刷機の機枠に設けられた軸受ハウジングである。版駆動軸(1)の前側部分は軸受ハウジング(11)に回転支持され、後側部分は機枠に設けられた図示しない軸受ハウジングに回転支持されている。軸(1)は公知の駆動手段により所定方向(この例では前から見て時計方向)に所定速度で回転させられる。軸(1)の前端寄りの部分は、軸受ハウジング(11)より前方に突出しており、軸受ハウジング(11)より前側の軸(1)の前端部に、先細テーパ部(1a)が形成されている。
【0050】
版装着装置(3)は、軸テーパ部(1a)に着脱ができるように固定される。
【0051】
版装着装置(3)は、軸テーパ部(1a)に固定される版シリンダ部(12)を備えている。版シリンダ部(12)は、中心に前側の内径の小さいテーパ穴(13)が形成された円筒状をなし、その外周に、軸(1)と同心の円筒状の版装着面(14)が形成されている。重量軽減のため、版シリンダ部(12)の周方向の複数箇所(この例では4箇所)が前後全長にわたって取り除かれている。それにより、版シリンダ部(12)は、内周にテーパ穴(13)が形成された先細テーパ筒部(15)と、外周に版装着面(14)が形成された外側円筒部(16)と、これらを連結する複数(この例では4つ)の連結部(17)とから構成されている。版シリンダ部(12)は、テーパ穴(13)に軸テーパ部(1a)をはめ合わせた状態で軸(1)に固定され、軸(1)と一体となって回転する。版シリンダ部(12)の回転方向を、図2および図5に矢印Rで示している。
【0052】
版シリンダ部(12)の外側円筒部(16)の上部の連結部(17)に対応する部分において、円筒面の一部が取り除かれて、平坦な版固定部材装着面(18)が形成されており、外側円筒部(16)の外周の版固定部材装着面(18)を除く部分が版装着面(14)となっている。版(2)の版部(5)は、版(2)が版シリンダ部(12)に装着されたときに版装着面(14)に密着する版本体(4)の部分に形成され、版装着面(14)の周方向長さは、版部(5)の周方向長さより長い。版固定部材装着面(18)は、版装着面(14)を含む円筒面より径方向内側に位置している。版装着面(14)の前端部に、面取りにより先細テーパ面(19)が形成されている。
【0053】
図6に示すように、版(2)の内周寸法は、版シリンダ部(12)の外周寸法よりわずかに大きい。すなわち、版(2)の円筒状部分(4b)の内径は版シリンダ部(12)の版装着面(14)の外径よりわずかに大きく、版(2)の円筒状部分(4b)の内周の周長は版シリンダ部(12)の版装着面(14)の外周の周長よりわずかに大きく、版(2)の平坦部分(4a)の周長は版シリンダ部(12)の版固定部材装着面(18)の周長よりわずかに小さい。
【0054】
版シリンダ部(12)の円筒部(16)後端面の外周部に、版装着面(14)より径方向外側に少し張り出した円環状の軸方向位置決め用ストッパ(20)が固定されている。
【0055】
版固定部材装着面(18)の反対側の版装着面(14)の外周後端部に、版(2)の凹部(41)とはまり合う周方向位置決め用凸部(42)が設けられ、凸部(42)の前側の版装着面(14)の外周に、軸方向にのびる版固定用突起(43)が設けられている。この例では、凸部(42)および突起(43)は、版シリンダ部(12)に固定されて版シリンダ部(12)の一部をなす角柱状のブロック(44)に設けられている。ブロック(44)は、版シリンダ部(12)の版装着面(14)に形成された角みぞ(45)にはめられて、固定されている。みぞ(45)から露出したブロック(44)の面(外周面)は円筒状で、版装着面(14)の一部を構成している。そして、このブロック(44)の外周面に、凸部(42)および突起(43)が一体に形成されている。版シリンダ部(12)の凸部(42)は、版(2)の凹部(41)と同じ形状を有する。凸部(42)および突起(43)は、好ましくは、版固定部材装着面(18)の周方向中心から180度離れた対称位置に設けられる。突起(43)は、軸方向に連続的または断続的にのびるものであり、この例では、版装着面(14)の全長にわたる連続したものである。ブロック(44)の前端部は、面取りが施されて、先細テーパ面(19)の一部を構成している。
【0056】
版固定部材装着面(18)の回転方向前側の部分の軸方向全長に、版(2)の係合部(6)との干渉を避けるためのみぞ(21)が形成されている。みぞ(21)は、好ましくは、係合部(6)が比較的大きな隙間をあけてはまる程度の形状、寸法に形成される。この例では、みぞ(21)は角みぞである。
【0057】
版固定部材装着面(18)のみぞ(21)より回転方向後側の部分、この例では、版固定部材装着面(18)の回転方向中間部より回転方向後側の部分に、第1凹所(版固定部材用凹所)(22)が形成されている。凹所(22)は、版固定部材装着面(18)の軸方向長さの大部分にわたり、径方向外側から見て、軸方向に長い方形状をなす。凹所(22)の横断面形状は方形状で、凹所(22)の底壁および両側壁は平坦面である。第1凹所(22)の長さの中間部に、第1凹所(22)より短い第2凹所(楔部材用凹所)(23)が第1凹所(22)の一部を径方向内側に延長した形に形成されている。第2凹所(23)の横断面形状は方形状で、凹所(23)の底壁および両側壁は平坦面である。
【0058】
前後方向に長い版固定部材(24)が、第1凹所(22)に軸(1)の径方向に移動しうるようにはめられている。版固定部材(24)は、周方向および軸方向に凹所(22)にほぼ隙間なくはまり、凹所(22)の周方向両側壁および軸方向両端壁に沿って径方向に移動する。版固定部材(24)の径方向外側の端面(24a)は、版固定部材装着面(18)と平行な平坦面である。この端面(24a)は、版装着面(14)と同じ曲率の円筒面であってもよい。版固定部材(24)の径方向内側の端面の軸方向中間部に、径方向内側に突出して第2凹所(23)の径方向外側の部分にはまる突出部(24b)が形成されている。突出部(24b)の径方向内側の端面は、径方向内側および前側を向いた楔面(24c)となっている。版固定部材(24)の1側面の前後2箇所に、方形状のみぞ(25)が形成されている。凹所(22)の1側壁の上部の前後2箇所に切欠き部(26)が形成され、これらの切欠き部(26)に、先端部が凹所(22)内に突出する脱落防止部材(27)が固定されている。各脱落防止部材(27)は、版固定部材(24)のみぞ(25)に前後方向および径方向に隙間をもってはめられ、版固定部材(24)の径方向の移動は許容するが、脱落は防止するようになっている。
【0059】
第2凹所(23)に、楔部材(28)が前後方向に移動しうるようにはめられている。楔部材(28)の径方向内側の端面は平坦面で、凹所(23)の底壁に摺接している。楔部材(28)は、周方向に凹所(23)にほぼ隙間なくはまり、凹所(23)の底壁および両側壁に沿って前後方向に移動する。楔部材(28)の径方向外側の端面は、版固定部材(24)の楔面(24c)に対向して径方向外側および後側を向いた楔面(28a)となっている。楔部材(24)には、その前端面から後方にのびるめねじ(29)が形成されている。
【0060】
版固定部材(24)の楔面(24c)に、第1永久磁石(30)が埋め込まれて固定されている。第2凹所(23)の底壁に、第1永久磁石(30)に対向する第2永久磁石(31)が埋め込まれて固定されている。第1永久磁石(30)と第2永久磁石(31)は、互いに吸引するように配置され、この磁気吸引力により版固定部材(24)を径方向内向きに付勢して版固定部材(24)の楔面(24c)を楔部材(28)の楔面(28a)に圧接させる付勢手段を構成している。
【0061】
第2凹所(23)の前側の連結部(17)の壁を貫通するように、前後方向にのびるねじ部材(32)が設けられている。ねじ部材(32)は、連結部(17)の壁を前後に貫通する穴(33)およびその前端面に固定された軸受部材(34)により、回転はするが前後に移動しないように支持されている。ねじ部材(32)は、連結部(17)の穴(33)および軸受部材(34)に支持されたねじ部(35)と、ねじ部(35)を軸受部材(34)に通した後にねじ部(35)の前端に固定される頭部(36)とから構成されている。ねじ部(35)は、連結部材(17)の穴(33)および軸受部材(34)に支持されており、第2凹所(23)内にのびたねじ部(35)の後部に、楔部材(28)のめねじ(29)とはまり合うおねじ(37)が形成されている。頭部(36)は連結部(17)より前方に突出しており、その外周面に、軸方向にのびる多数の細かい回り止め突条(38)が形成されている。連結部(17)の前端面に、回り止め部材(39)の基端部が固定されている。回り止め部材(39)は、金属板などの弾性部材よりなり、その自由端部に形成された爪(40)が、ねじ部材頭部(36)の外周面の突条(38)の間の部分に圧接してねじ部材(32)の回り止めの機能を果たすようになっている。
【0062】
ねじ部材(32)を押圧方向に回転させることにより、楔部材(28)が押圧側(後側)に移動し、それにより、版固定部材(24)が押圧側(径方向外側)に移動し、ねじ部材(32)を反対側の押圧解除方向に回転させることにより、楔部材(28)が押圧解除側(前側)に移動し、それにより、版固定部材(24)が押圧解除側(径方向内側)に移動する。版固定部材(24)は、最も押圧側に移動したときには、版装着面(14)を含む円筒面より径方向外側に突出し、最も押圧解除側に移動したときには、版装着面(14)と面一かそれより径方向内側に没入するようになっている。ねじ部材(32)および楔部材(28)のめねじ(29)により、楔部材(28)を軸方向に移動させて任意の位置に固定するねじ手段が構成されている。
【0063】
上記の版装着装置(3)に版(2)を取り付けるときには、図4および図6に示すように、版固定部材(24)を版装着面(14)と面一かそれより内側に没入した没入位置に固定して版を押さない押圧解除状態にする。このような状態で、版(2)の係合部(6)が版シリンダ部(12)のみぞ(21)に対応するとともに、版(2)の円筒状部分(4b)が版シリンダ部(12)の版装着面(14)に、版(2)の平坦部分(4a)が版シリンダ部(12)の版固定部材装着面(18)にそれぞれ対応するように、版(2)を版シリンダ部(12)の外周に先端側からはめて、版(2)の凹部(41)を版シリンダ部(12)の凸部(42)にはめ合わせるとともに、版(2)の後端部をストッパ(20)に当接させる。これにより、版(2)が、版シリンダ部(12)の所定位置に正確にかつ簡単に取り付けられる。版(2)の内周寸法が版シリンダ部(12)の外周寸法よりわずかに大きく、版(2)を取り付けるときには、版固定部材(24)が没入位置にあるので、版シリンダ部(12)および版固定部材(24)と版(2)の間に隙間があり、版(2)を版シリンダ部(12)に簡単に取り付けることができる。また、版シリンダ部(12)のみぞ(21)の寸法が版(2)の係合部(6)の寸法よりかなり大きいので、係合部(6)と版シリンダ部(12)との干渉を避けて、版(2)を版シリンダ部(12)に簡単に取り付けることができる。版(2)が取り付けられたならば、ねじ部材(32)を押圧方向に回転させて、版固定部材(24)を押圧方向に移動させ、版(2)の接合部分(8)の内周に押し当てて、版(2)を径方向外側に押す押圧状態にする。版固定部材(24)により版(2)に所定の張力が付与されると、版(2)の円筒状部分(4b)が版装着面(14)に密着固定されるとともに、突起(43)が円筒状部分(4b)に食い込んで、版(2)が固定される。版(2)が版装着面(14)に固定されたならば、ねじ部材(32)の回転を停止して、回り止め部材(39)によりその位置に固定する。これにより、版(2)の装着が完了する。このとき、版部(5)全体が、版本体(4)を介して版装着面(14)に密着している。
【0064】
印刷時には、上記のように版シリンダ部(12)に版(2)が固定されている状態で、版シリンダ部(12)が回転させられる。このとき、版固定部材(24)によって版(2)が版装着面(14)に密着固定され、しかも、版(2)の凹部(41)と版シリンダ部(12)の凸部(42)がはまり合うとともに、版シリンダ部(12)の突起(43)が版(2)の円筒状部分(4b)に食い込んでこれを固定しているので、版(2)の位置がずれることがない。また、回り止め部材(39)の爪(40)が弾性力によってねじ部材頭部(36)の突条(38)の間の部分に食い込んでいるので、振動などによってねじ部材(32)が回転してしまうことがない。
【0065】
上記のように版シリンダ部(12)に装着されている版(2)を取り外すときには、ねじ部材(32)を押圧解除方向に回転させて、版固定部材(24)を押圧解除方向に移動させ、没入位置に固定する。これにより、版シリンダ部(12)および版固定部材(24)と版(2)の間に隙間が生じ、版(2)を軸方向に移動させて、版シリンダ部(12)の先端から簡単に取り外すことができる。
【0066】
突起(43)の先端部の角度は、版(2)の円筒状部分(4b)に十分に食い込んでこれを確実に固定するように決められる。この例では、約90度である。突起(43)の高さは、突起(43)が版(2)の円筒状部分(4b)に十分に食い込んでこれを確実に固定する範囲内で、できるだけ小さいのが好ましい。この例では、0.5〜1mm程度である。
【0067】
印刷機、版装着装置(3)および版(2)の全体構成および各部の構成は、上記実施形態のものに限らず、適宜変更可能である。
【0068】
ねじ部材(32)は、上記実施形態では、手動で回転させられるようになっているが、電力などの動力によって回転させられてもよい。
【0069】
上記実施形態では、楔部材を軸方向に移動させて、版固定部材を径方向に移動させているが、版固定部材を手動あるいは動力によって直接径方向に移動させるようにしてもよい。また、上記実施形態では、版固定部材を径方向に移動させることによって版(2)を径方向内側から径方向外側に押すようになっているが、たとえば、偏心した固定部材を回転させることによって版(2)を径方向内側から径方向外側に押すようにしてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長方形状の弾性材料製シートの両端部が重ね合わされて接合されることにより、筒状版本体が形成され、版本体の重ね合わせ部分を含む所定部分が平坦で、残りの部分が円筒状をなし、重ね合わせ部分の反対側の円筒状部分の一端部に周方向位置決め用凹部が形成され、円筒状部分の外周面の所定箇所に版部が設けられていることを特徴とする印刷機用版。
【請求項2】
重ね合わせ部分の内側に位置するシートの端部が内側に折り曲げられて、係合部が形成されていることを特徴とする請求項1の印刷機用版。
【請求項3】
請求項1の版を装着するために、印刷機の版駆動軸に固定状に設けられる装置であって、
版駆動軸に固定状に設けられて外周に版駆動軸の先端側から版が装着される円筒状の版装着面を有する版シリンダ部を備えており、版シリンダ部の外周の円筒面の周方向の一部が取り除かれて、版装着面を含む円筒面より径方向内側に位置する平坦な版固定部材装着面が形成されており、版シリンダ部の基端部外周に、版の端部が当接する軸方向位置決め用ストッパが設けられ、版固定部材装着面の反対側の版装着面の外周に、基端部において版の周方向位置決め用凹部とはまり合う周方向位置決め用凸部と、軸方向にのびる版固定用突起とが設けられており、版固定部材装着面に、版シリンダ部に装着された版の平坦部分を径方向内側から径方向外側に押して版の円筒状部分を版シリンダ部の版装着面に密着固定させるとともに版固定用突起を版の円筒状部分に食い込ませて固定する版固定部材が設けられていることを特徴とする印刷機用版装着装置。
【請求項4】
版固定部材装着面に、請求項2の版の係合部との干渉を避けるためのみぞが形成されていることを特徴とする請求項3の印刷機用版装着装置。
【請求項5】
版固定部材が、版固定部材装着面より内側に没入した位置と外側に突出した位置との間を移動できて、かつ任意の位置に固定できるものであることを特徴とする請求項3または4の印刷機用版装着装置。
【請求項6】
版固定部材装着面に形成された版固定部材用凹所に、版固定部材が径方向に移動しうるようにはめられていることを特徴とする請求項5の印刷機用版装着装置。
【請求項7】
版固定部材装着面の凹所の底に形成された楔部材用凹所に、径方向外側に楔面を有する楔部材が軸方向に移動しうるようにはめられ、版シリンダ部に、楔部材を軸方向に移動させて任意の位置に停止させるためのねじ手段が設けられ、版固定部材の径方向内側に楔部材の楔面と当接する楔面が形成され、版シリンダ部または楔部材と版固定部材との間に、永久磁石を用いて版固定部材を径方向内向きに付勢することにより版固定部材の楔面を楔部材の楔面に圧接させる付勢手段が設けられていることを特徴とする請求項6の印刷機用版装着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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