説明

印刷装置、および、コンピュータプログラム

【課題】 印刷媒体の挟持の状態が変化する場合に、印刷された画像における画質劣化を抑制することができるインタレース印刷技術を提供する。
【解決手段】 印刷ヘッドを駆動して印刷媒体の主走査ライン上のドットを形成することと、搬送部によって前記印刷媒体を前記主走査の方向と交差する搬送方向に搬送することを繰り返して印刷を行う印刷装置は、印刷媒体を両持ち状態で、第1の印刷方式を用いて第1領域に印刷を行う第1制御部と、片持ち状態で、第2の印刷方式を用いて第2領域に印刷を行う第2制御部と、第1領域と第2領域との間の第3領域に、第1の印刷方式と第2の印刷方式を併用して印刷を行う第3制御部と、を備える。第3制御部は、特定主走査ライン上に、第1の印刷方式における主走査と第2の印刷方式における主走査との両方でドットを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インタレース印刷を行う印刷装置の画質劣化を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷媒体上にインクを吐出することによってドットを形成して画像を印刷する印刷装置が広く使用されている。このような印刷装置において、互いに隣接する主走査ライン上に異なる主走査にてドットを形成するインタレース印刷が知られている(例えば、特許文献1)。インタレース印刷では、副走査方向のドットピッチ(互いに隣接する主走査ラインのライン間隔)が副走査方向のノズルピッチより小さい解像度で印刷を行うことができる。
【0003】
特許文献1には、印刷媒体の搬送(副走査)の精度が保証された状態で、インターレース印刷を行える印刷領域を拡大する技術が開示されている。すなわち、印刷媒体の搬送機構において給紙ローラ(上流側ローラ)と排紙ローラ(下流側ローラ)との両方で、印刷媒体が挟持されている状態(以下、両持ち状態とも呼ぶ)から、一方のローラ(給紙ローラ)から印刷媒体の端部が外れた状態(以下、片持ち状態とも呼ぶ)に移行するタイミングの近傍で、印刷媒体の搬送量が大きい印刷方式から搬送量が小さい印刷方式に切り替えている。この結果、両持ち状態で印刷を行える印刷領域を拡大することができる。なお、印刷方式を切り替えた際に生じる複数の主走査のいずれにおいてもドットを形成することができる主走査ラインには、先の主走査にてドットを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−207945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術では、両持ち状態から片持ち状態に移行するときや、移行後において行われる印刷については、十分な工夫がなされているとは言えなかった。したがって、両持ち状態から片持ち状態に移行するときや、移行後において印刷された画像における画質劣化を抑制できない可能性があった。このような課題は、印刷媒体の挟持の状態が変化する場合に、共通する課題であった。
【0006】
本発明の主な利点は、印刷媒体の挟持の状態が変化する場合に、印刷された画像における画質劣化を抑制することができるインタレース印刷技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]所定の搬送方向に搬送される印刷媒体にドットを形成することにより印刷を行う印刷装置であって、
前記搬送方向に沿って所定のノズルピッチで配置された複数のノズルであって同一色のドットを形成するための前記複数のノズルを有する印刷ヘッドと、
前記印刷ヘッドより上流側で印刷媒体を挟持して搬送するための上流側挟持部と、前記印刷ヘッドより下流側で印刷媒体を挟持して搬送するための下流側挟持部とを有し、前記搬送方向に印刷媒体を搬送する搬送部と、
前記印刷ヘッドを、前記印刷媒体に対して前記搬送方向と交差する主走査方向に移動させる主走査を行う主走査部と、
前記主走査が行われているときに前記複数のノズルのうちの少なくとも一部を駆動して主走査ライン上のドットを形成させるヘッド駆動部と、
前記各部を制御して、前記搬送方向のドットピッチが前記ノズルピッチより小さい解像度での印刷を、前記ドットピッチで並んだ複数の主走査ラインを印刷する順序が異なる第1の印刷方式および第2の印刷方式を用いて実行可能な印刷制御部と、
を備え、
前記印刷制御部は、
前記印刷媒体が前記上流側挟持部と前記下流側挟持部との両方によって挟持された第1の状態で、前記第1の印刷方式を用いて前記印刷媒体の第1の領域に印刷を行う第1制御部と、
前記印刷媒体が前記上流側挟持部と前記下流側挟持部のうちの一方によって挟持され、他方によって挟持されない第2の状態で、前記第2の印刷方式を用いて前記印刷媒体の第2の領域に印刷を行う第2制御部と、
前記第1の領域と前記第2の領域との間の第3の領域に、前記第1の印刷方式と前記第2の印刷方式を併用して印刷を行う第3制御部と、
を備え、
前記各領域は、前記第3の領域の印刷を行っているときに、前記第1の状態と前記第2の状態との間の状態変化が生じるように、設定され、
前記第3制御部は、前記第3の領域の主走査ラインのうちの一部の主走査ラインである特定主走査ライン上に、前記第1の印刷方式における主走査である第1種主走査と前記第2の印刷方式における主走査である第2種主走査との両方でドットを形成する、印刷装置。
【0009】
上記構成によれば、副走査方向の解像度が、ノズルピッチより小さいドットピッチとなる解像度である印刷(いわゆるインタレース印刷)を行う際に、印刷媒体が上流側挟持部と下流側挟持部との両方によって挟持された第1の状態と、印刷媒体が上流側挟持部と下流側挟持部のうちの一方によって挟持された第2の状態とで、異なる印刷方式を用いて印刷することができる。したがって、各状態における搬送特性に適した印刷方式を採用することができるので、第1の領域および第2の領域における画質劣化の可能性を低減することができる。さらに、2つの印刷方式が併用される第3の領域では、一部の主走査ライン上に、2つの印刷方式における主走査の両方でドットを形成するので、印刷媒体の挟持の状態が変化したときに生じる搬送特性の変動に起因して画質劣化が生じる可能性を低減することができる。
【0010】
[適用例2]適用例1に記載の印刷装置であって、
前記第3制御部は、前記第1種主走査において、前記特定主走査ライン上における間欠的なドット形成位置を対象としてドットを形成し、前記第2種主走査において、前記特定主走査ライン上における前記第1種主走査において対象とされないドット形成位置を対象としてドットを形成する、印刷装置。
上記構成によれば、印刷媒体の挟持の状態が変化したときに生じる搬送特性の変動に起因して画質劣化が生じる可能性をより効果的に低減することができる。
【0011】
[適用例3]適用例1または適用例2に記載の印刷装置であって、
前記各領域は、前記第1種主走査と前記第2種主走査のうち、先に行われる主走査が終了し、後に行われる主走査が終了していない前記特定主走査ラインの数が最も多いときに、前記状態変化が生じるように、設定されている、印刷装置。
上記構成によれば、印刷媒体の挟持の状態が変化したときに生じ得る搬送特性の変動に起因して画質劣化が生じる可能性をより効果的に低減することができる。
【0012】
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれかに記載の印刷装置であって、
前記第1の印刷方式と前記第2の印刷方式は、前記ドットピッチをDとし、前記ノズルピッチをNとするとき、k=N/Dで表されるパス数kが等しい、印刷装置。
上記構成によれば、解像度を維持しながら、印刷画像の劣化を抑制することができる。
【0013】
[適用例5]適用例1ないし4のいずれかに記載の印刷装置であって、
前記状態変化は、前記第1の状態から、前記下流側挟持部によって前記印刷媒体が挟持され、前記上流側挟持部によって前記印刷媒体が挟持されない前記第2の状態への変化であり、
前記第1の印刷方式および前記第2の印刷方式において、前記ドットピッチをDとし、前記ノズルピッチをNとするとき、各主走査間に行われる前記印刷媒体の搬送量Lは、D×(k×n+b)(nは、使用するノズル数に応じて定まる自然数、kは、k=N/Dで表される3以上のパス数、bは、−(1/2)k<b<(1/2)kである0を除く整数)で表され、
前記第1の印刷方式は、前記bの値が負である印刷方式であり、
前記第2の印刷方式は、前記bの値が正である印刷方式である、印刷装置。
上記構成によれば、印刷媒体が下流側挟持部と上流側挟持部との両方で挟持された状態から、下流側挟持部によって印刷媒体が挟持され、上流側挟持部によって印刷媒体が挟持されない状態に変化したときに生じ得る搬送特性の変動に起因して画質劣化が生じる可能性をより効果的に低減することができる。
【0014】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、印刷装置の制御装置、印刷ステム、印刷方法、これらの方法、装置、システムの機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体、等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例における複合機200の構成を示すブロック図である。
【図2】プリンタ部250の概略構成を示す図である。
【図3】4パスの印刷方式について説明する図である。
【図4】8パスの印刷方式について説明する図である。
【図5】複合機200の印刷処理の処理ステップを示すフローチャートである。
【図6】搬送機構240の搬送特性について説明する図である。
【図7】用紙Pの各領域について説明する図である。
【図8】4パスの印刷例を示す図である。
【図9】8パスの印刷例を示す図である。
【図10】8パスの印刷例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.実施例:
A−1.印刷装置の構成:
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。図1は、実施例における複合機200の構成を示すブロック図である。
【0017】
複合機200は、CPU210と、インクジェット式のプリンタ部250と、フラットベッド式のスキャナ部260と、パーソナルコンピュータなどの計算機あるいはUSBメモリなどの外部記憶装置と接続するためのインタフェースを含む通信部270と、操作パネルや各種のボタンを含む操作部280と、RAM、ROM、ハードディスクなどの記憶装置290を備えている。通信部270は、通信部270のインタフェースに接続された計算機や外部記憶装置との間でデータ通信を行う。
【0018】
記憶装置290には、制御プログラム292が格納されている。CPU210は、制御プログラム292を実行することにより、複合機200の制御部として機能する。図1では、複合機200の制御部としての機能部のうち、説明に必要な機能部を選択的に図示している。具体的には、CPU210は、プリンタ部250を制御して印刷を実行する印刷制御部M20として機能する。印刷制御部M20は、印刷方式選択部M21と、通常印刷制御部M22と、併用印刷制御部M23と、下端印刷制御部M24と、を備えている。
【0019】
プリンタ部250は、複数種類のインク、例えば、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各インクを吐出して印刷を行う。プリンタ部250は、インク吐出機構220と主走査機構230と搬送機構240とを備えている。搬送機構240は、搬送モータ242と、該搬送モータ242を駆動する搬送モータ駆動部241と、ロータリエンコーダ243とを備え、搬送モータ242の動力で印刷媒体を搬送する。インク吐出機構220は、複数のノズル(後述)を有する印刷ヘッド222と、複数のノズルのうちの少なくとも一部を駆動するヘッド駆動部221とを備え、搬送機構240によって搬送される印刷媒体上にノズルからインクを吐出してドットを形成する。主走査機構230は、主走査モータ232と、該主走査モータ232を駆動する主走査モータ駆動部231とを備え、主走査モータ232の動力で印刷ヘッド222を主走査方向に往復動(主走査)させる。
【0020】
図2は、プリンタ部250の概略構成を示す図である。図2(a)は、プリンタ部250の全体構成の概略を示し、図2(b)は、図2(a)における下側から見た印刷ヘッド222の構成を示している。プリンタ部250は、さらに、印刷媒体としての用紙Pを収容するための用紙トレイ20a、20bと、印刷後の用紙Pが排出される排紙トレイ21と、印刷ヘッド222のインクを吐出する面と対向して配置されたプラテン40と、を備えている(図2(a))。
【0021】
搬送機構240は、用紙トレイ20a、20bから、プラテン40上を通り、排紙トレイ21に至る搬送経路に沿って、用紙Pを搬送する。矢印ARは、プラテン40上における用紙Pの搬送方向(図2(a)+X方向)を示している。以下、プラテン40上における用紙Pの搬送方向を、「搬送方向AR」と呼ぶ。用紙Pがプラテン40上を搬送方向ARに搬送されることにより、印刷ヘッド222は、用紙Pに対して搬送方向ARの反対方向に相対的に移動する。搬送方向ARの反対方向を、副走査方向とも呼び、印刷ヘッドを、用紙Pになどの印刷媒体に対して副走査方向に相対的に移動させることを、副走査とも呼ぶ。また、所定の方向の反対方向側を、当該方向の上流側とも呼び、所定の方向側を、当該方向の下流側とも呼ぶ。
【0022】
搬送機構240は、さらに、プラテン40から見て搬送方向ARの上流側に配置された上流側挟持部244と、プラテン40から見て搬送方向ARの下流側に配置された下流側挟持部245と、用紙トレイ20a、20bから上流側挟持部244に至る上流搬送経路248(図2(a):破線)上に用紙Pを搬送する上流搬送部(図示せず)とを備えている。上流側挟持部244は、搬送モータ242によって回転駆動される上流側搬送ローラ244aと、上流側従動ローラ244bと、を備え、これらのローラによって用紙Pを挟持して搬送方向ARに用紙Pを搬送する。下流側挟持部245は、搬送モータ242の動力によって回転駆動される下流側搬送ローラ245aと、下流側従動ローラ245bと、を備え、これらのローラによって用紙Pを挟持して搬送方向ARに用紙Pを搬送する。なお、各従動ローラ244b、245bに代えて、板部材を採用しても良い。
【0023】
上述したロータリエンコーダ243(図1)は、上流側搬送ローラ244aの回転量に応じてパルスを出力する回転量センサである。上述した搬送モータ駆動部241(図1)は、ロータリエンコーダ243が出力するパルスに基づいて、搬送モータ242を回転駆動することによって、用紙Pの搬送量を制御する。したがって、用紙Pの搬送量の精度は、ロータリエンコーダ243の分解能に依存する。
【0024】
主走査機構230は、さらに、印刷ヘッド222を搭載するキャリッジ233と、キャリッジ233を主走査方向(図2:Y軸方向)に沿って往復動可能に保持する摺動軸234と、を備えている。主走査機構230は、主走査モータ232の動力を用いて、キャリッジ233を摺動軸234に沿って往復動させる主走査を実行する。
【0025】
図2(b)に示すように、印刷ヘッド222のプラテン40と対向する面には、上述したC、M、Y、Kの各インクを吐出するノズル列NC、NM、NY、NKが形成されている。各ノズル列は、同一色のインクを吐出して用紙P上にドットを形成する複数のノズル(例えば、210個のノズル)をそれぞれ有している。各ノズルには、各ノズルを駆動してインクを吐出させるための駆動素子としてのピエゾ素子(図示せず)が設けられている。図2(b)に示すように、1つのノズル列に含まれる複数のノズルは、副走査方向にノズルピッチNで並んでいる。なお、複数のノズルは、図2(b)に示すように、直線状に並んでいる必要はなく、例えば、千鳥状に並んでいても良い。
【0026】
A−2:印刷方式:
次に、印刷制御部M20(図1)が実行可能な印刷方式について説明する。印刷制御部M20は、インク吐出機構220と、主走査機構230と、搬送機構240とを制御して、単位印刷と単位搬送とを交互に繰り返し実行することにより印刷を行う。単位印刷は、用紙Pをプラテン40上に停止した状態で、主走査を行いつつ、印刷ヘッド222のノズルを駆動することによって行われる印刷である。1回の単位印刷に対応する1回の主走査をパスとも呼ぶ。単位搬送は、所定の単位送り量Lだけ用紙Pを搬送方向ARに搬送することによって行われる。
【0027】
印刷制御部M20は、4パス、8パスについて、それぞれ2種類の印刷方式を用いて、インタレース印刷を実行することができる。図3は、4パスの印刷方式について説明する図である。図3(a)、(b)は、それぞれ、4n+1、4n−1の印刷方式を示す。図4は、8パスの印刷方式について説明する図である。図4(a)、(b)は、それぞれ、8n+3、8n−3の印刷方式を示す。
【0028】
インタレース印刷によって、複数のラスタラインRLが副走査方向にノズルピッチNより小さなライン間隔(副走査方向のドットピッチ)Dで並ぶ解像度での印刷を行うことができる。ここで、ラスタラインRLは、主走査方向に並んだドットDTによって形成されるラインである。印刷画像は、副走査方向に並んだ複数のラスタラインRLによって形成される。ラスタ番号RNは、印刷画像を形成する各ラスタラインに、副走査方向の上流側から下流側に順次に付された番号である。以下では、ラスタ番号j(jは、自然数)のラスタラインRLをラスタラインRL(j)とも記述する。
【0029】
各図には、各パスにおけるノズルの副走査方向の位置が示されている。ここで、パス数kは、ノズルピッチN/ライン間隔Dで表される。すなわち、4パスは、使用するノズルのノズルピッチNの1/4のライン間隔Dで、8パスは、ノズルピッチNの1/8のライン間隔Dで、それぞれ印刷する印刷方式である。すなわち、8パスの印刷方式では、4パスの印刷方式と比べて、副走査方向の解像度を2倍にすることができる。また、個々のパスを特定するために、符号P(m)を用いる。ここで、mは、各パスが実行される順番を表すパス順である。各図に示す各ラスタライン上のドットDTに付された番号は、当該ラスタラインRL上のドットDTを形成するパスのパス順である。例えば、図3(a)に示すラスタラインRL(1)、RL(5)上のドットDTは、パスP(1)において形成され、ラスタラインRL(2)、RL(6)、RL(10)上のドットDTは、パスP(2)において形成される。
【0030】
各図には印刷可能範囲を示す水平線が図示されている。この水平線より副走査方向の上流側(各図の上側)では、全てのラスタラインRLを印刷することができないため、印刷は行われない。
【0031】
印刷方式の名称は、「kn+b」(nは、使用するノズル数に応じて定まる自然数、kは、k=N/Dで表される3以上のパス数、bは、−(1/2)k<b<(1/2)kである0を除く整数)で表される。これは、使用するノズル数が(kn+b)個であり、単位送り量Lが、D×(k×n+b)である印刷方式であることを表している。例えば、図3(a)に示す4n+1の印刷方式は、4パスの印刷方式であり、例えば、201個のノズルを用いてライン間隔Dの201倍の単位送り量L(n=50の場合)で印刷を行う印刷方式である。また、図4(a)に示す8n+3の印刷方式は、8パスの印刷方式(従って、ライン間隔Dは、4パスの場合のライン間隔Dの半分である)であり、例えば、203個のノズルを用いてライン間隔Dの203倍の単位送り量L(n=25の場合)で印刷を行う印刷方式である。各図では、図の煩雑を避けるため、n=1の場合を図示している。ここで言う単位送り量Lは、印刷される全てのラスタラインのライン間隔を等しくする理想的な送り量であり、目標単位送り量Lとも呼ぶ。実際の単位送り量は、目標単位送り量Lに誤差ΔLを加えた値(L+ΔL)となる。また、ここでいうライン間隔Dは、目標単位送り量Lによって実現される理想的なライン間隔Dであり、目標ライン間隔Dとも呼ぶ。実際のライン間隔は、目標ライン間隔Dに誤差ΔDを加えた値(D+ΔD)となる。
【0032】
4n+1(図3(a))と、4n−1(図3(b))の印刷方式は、4パスの印刷方式である点で共通するが、印刷画像を構成する複数のラスタラインの印刷順序が互いに異なっている。言い換えれば、複数のラスタラインの印刷順序は、印刷方式によって決定付けられている。具体的に、印刷画像の副走査方向の両端部を除いた領域を印刷するパスP(m)について説明する。インタレース印刷では、パスP(m)は、既に前回のパスP(m−1)で一部のラスタラインが印刷されている一部印刷済み領域において、ラスタラインを印刷すると共に、一部印刷済み領域より副走査方向下流側の領域において、ラスタラインを印刷する。4n+1では、パスP(m)は、一部印刷済み領域において、前回のパスP(m−1)にて印刷されたラスタラインの副走査方向下流側に隣接するラスタラインを印刷する。4n−1では、パスP(m)は、一部印刷済み領域において、前回のパスP(m−1)にて印刷されたラスタラインの副走査方向上流側に隣接するラスタラインを印刷する。
【0033】
8n+3(図4(a))と、8n−3(図4(b))の印刷方式は、8パスの印刷方式である点で共通するが、印刷画像を構成する複数のラスタラインの印刷順序が互いに異なっている。具体的には、8n+3では、パスP(m)は、一部印刷済み領域において、前回のパスP(m−1)にて印刷されたラスタラインから見て、3本だけ副走査方向下流側に位置するラスタラインを印刷する。8n−3では、パスP(m)は、一部印刷済み領域において、前回のパスP(m−1)にて印刷されたラスタラインから見て、3本だけ副走査方向上流側に位置するラスタラインを印刷する。
【0034】
A−3:印刷処理:
図5は、複合機200の印刷処理の処理ステップを示すフローチャートである。この印刷処理は、複合機200の印刷制御部M20が、インタレース印刷を行うための印刷ジョブを受け付けた場合に実行される。
【0035】
ステップS110では、印刷制御部M20は、受け付けた印刷ジョブに含まれる印刷対象の画像データを取得する。画像データは、例えば、JPEG形式、BMP形式の画像データ、ページ記述言語で記述された画像データである。
【0036】
ステップS101では、印刷制御部M20の印刷方式選択部M21は、インタレース印刷のパス数と、搬送機構240の搬送特性(副走査特性)に応じて、印刷に用いる印刷方式を選択する。
【0037】
図6は、搬送機構240の搬送特性について説明する図である。図7は、用紙Pの各領域について説明する図である。印刷時には、プラテン40から見て搬送方向ARの上流側(図6(a)右側)から用紙Pが搬送されてくる。搬送されている用紙Pの副走査方向の反対方向の端部(搬送方向ARの端部)を上端UT(図6(a)、図7)と呼び、副走査方向の端部(搬送方向ARの反対方向の端部)を下端BT(図6(b)、図7)と呼ぶ。用紙Pの上端UTが下流側挟持部245に挟持されるまで、用紙Pは、上流側挟持部244で挟持され、下流側挟持部245で挟持されない状態(上流片持ち状態)で搬送される。用紙Pの上端UTが下流側挟持部245に挟持されると、用紙Pは、上流側挟持部244と、下流側挟持部245tの両方によって挟持された状態(両持ち状態)で搬送される(図6(a))。さらに、用紙Pの搬送が進むと、あるタイミングにて、用紙Pの下端BTが下流側挟持部245から外れ、用紙Pは、下流側挟持部245で挟持され、上流側挟持部244で挟持されない状態(下流片持ち状態)で搬送される。このタイミングを、下端外れタイミングTrとも呼ぶ。言い換えれば、下端外れタイミングTrで、両持ち状態から下流片持ち状態への状態変化が生じる。
【0038】
ここで、下流側挟持部245の搬送速度は、上流側挟持部244の搬送速度より僅かに大きくされている。こうすることによって、両持ち状態において、用紙Pには、用紙Pを搬送方向ARに沿って伸ばす張力がかけられる。その結果、用紙Pが撓んで印刷(ドットの形成)が精度良くできない不都合を抑制することができる。このために、用紙Pが下流片持ち状態で搬送される速度は、用紙Pが両持ち状態で搬送される速度よりも速い。この結果、本実施例における搬送機構240では、下流片持ち状態での実際の単位送り量は、両持ち状態での実際の単位送り量より大きい。
【0039】
図6(c)には、印刷時における搬送機構240の実際の単位送り量の変化が示されている。下端外れタイミングTrより前(両持ち状態)では、単位送り量のバラツキが比較的小さく、実際の単位送り量の平均値は、目標単位送り量Lより小さくなっている。一方、下端外れタイミングTr以後(下流片持ち状態)では、単位送り量のバラツキが比較的大きく、実際の単位送り量の平均値は、目標単位送り量Lより大きくなっている。言い換えれば、搬送機構240は、両持ち状態での搬送では負の誤差ΔLが発生しやすく、下流片持ち状態での搬送では正の誤差ΔLが発生しやすい搬送特性を有している。
【0040】
本実施例では、用紙Pの3つの領域A1、A2、A3(図7)とで、印刷の態様を変化させている。下端領域A3は、用紙Pの下端BT近傍の領域である。通常領域A1は、下端領域A3よりも副走査方向上流側の領域であり、用紙Pの上端UTを含む。中間領域A2は、通常領域A1と下端領域A3との間の領域である。通常領域A1は、上端UT近傍の上端領域を除いて両持ち状態で印刷が行われる領域である。通常領域A1には、両持ち状態での搬送特性に適した通常印刷方式を用いて印刷が行われる。下端領域A3は、下流片持ち状態で印刷が行われる領域である。下端領域A3には、下流片持ち状態での搬送特性に適した下端用印刷方式を用いて印刷が行われる。中間領域A2は、通常印刷方式と下端用印刷方式とを併用して印刷が行われる。中間領域A2に対する印刷が行われている最中に、上述した下端外れタイミングTrになるように、上記3つの領域A1、A2、A3は、設定されている。
【0041】
ステップS101(図5)では、印刷方式選択部M21は、8パスのインタレース印刷を行う場合には、上述した通常印刷方式として8n−3を選択し、下端用印刷方式として8n+3を選択する。一方、印刷方式選択部M21は、4パスのインタレース印刷を行う場合には、通常印刷方式として4n−1を選択し、下端用印刷方式として4n+1を選択する。このように、印刷方式を選択する理由を以下に説明する。
【0042】
上述したラスタ番号RN(図3、図4参照)がsであるラスタラインRL(s)を印刷するパスのパス順をPN(s)とし、ラスタラインRL(s)の副走査方向下流側に隣接するラスタラインRL(s+1)を印刷するパスのパス順をPN(s+1)とする。2本のラスタラインRL(s)とRL(s+1)とのパス順差ΔPN(s)を、ΔPN(s)=PN(s+1)−PN(s)と定義する。ΔPN(s)は、0ではない整数値となる。ΔPN(s)=「2」は、ラスタラインRL(s)を印刷するパスの2回後のパスでラスタラインRL(s+1)が印刷されることを表す。また、ΔPN(s)=「−2」は、ラスタラインRL(s)を印刷するパスの2回前のパスでラスタラインRL(s+1)が印刷されることを表す。
【0043】
パス順差ΔPN(s)は、2本のラスタラインRL(s)とRL(s+1)とのライン間隔の誤差ΔD(s)を評価する指標となる。実際の単位送り量における目標単位送り量Lとの誤差ΔLに起因して、ライン間隔の誤差ΔD(s)が変動し得る。ライン間隔の誤差ΔD(s)が大きいほど、実際のライン間隔が目標ライン間隔Dより広くなり、白筋が発生しやすくなる。実際の単位送り量が目標単位送り量Lより誤差ΔLだけ大きいとすると、ライン間隔の誤差ΔD(s)は、以下の式(1)で表される。
ΔD(s)=ΔPN(s)×ΔL...(1)
【0044】
上記式(1)は、パス順差ΔPN(s)の絶対値の回数分だけ、送り量の誤差ΔLが積算されて、ライン間隔の誤差ΔD(s)となって現れることを意味している。すなわち、パス順差ΔPN(s)の絶対値が大きいと、ライン間隔の誤差ΔD(s)の絶対値が大きくなる。また、パス順差ΔPN(s)が正の値である場合には、送り量の誤差ΔLが正である場合に、実際のライン間隔が目標ライン間隔Dより広くなる。逆に、パス順差ΔPN(s)が負の値である場合には、送り量の誤差ΔLが負である場合に、実際のライン間隔が目標ライン間隔Dより広くなる。したがって、送り量の誤差ΔLが正である場合、すなわち、実際の単位送り量が目標単位送り量Lより大きい場合には、パス順差ΔPN(s)が正であり、かつ、その絶対値が大きいほど、そのパス順差ΔPN(s)に対応する2本のラスタラインの間に白筋が生じやすい。送り量の誤差ΔLが負である場合、すなわち、実際の単位送り量が目標単位送り量Lより小さい場合には、パス順差ΔPN(s)が負であり、かつ、その絶対値が大きいほど、そのパス順差ΔPN(s)に対応する2本のラスタラインの間に白筋が生じやすい。
【0045】
ここで、印刷画像に含まれる全ての隣接するラスタラインの組のパス順差ΔPN(s)のうち、絶対値が最大となるパス順差を最大パス順差と呼ぶ。これらのパス順差ΔPN(s)のうちの正であるパス順差の中で絶対値が最大となるパス順差を最大正パス順差と呼ぶ。また、これらのパス順差ΔPN(s)のうちの負であるパス順差ΔPN(s)の中で絶対値が最大となるパス順差を最大負パス順差と呼ぶ。
【0046】
以上の説明に基づいて、以下のことが解る。
1.最大正パス順差の絶対値が小さい印刷方式ほど、送り量の誤差ΔLが正である場合に白筋が生じにくい。
2.最大負パス順差の絶対値が小さい印刷方式ほど、送り量の誤差ΔLが負である場合に白筋が生じにくい。
【0047】
以上を踏まえて、図3に示した4パスの2種類の印刷方式について検討する。
4n+1(図3(a))の場合には、パス順差ΔPN(s)は、「−3」または「1」のいずれかの値を取る。例えば、ラスタラインRL(4)とRL(5)とのパス順差ΔPN(4)は、「−3」である(図3(a):破線c1参照)。また、ラスタラインRL(2)とRL(3)のパス順差ΔPN(2)は、「1」である(図3(a):破線c2参照)。したがって、4n+1の最大パス順差および最大負パス順差は、「−3」であり、最大正パス順差は、「1」である。
【0048】
4n−1(図3(b))の場合には、パス順差ΔPN(s)は、「3」または「−1」のいずれかの値を取る。例えば、ラスタラインRL(3)とRL(4)とのパス順差ΔPN(3)は、「3」である(図3(b):破線c1参照)。ラスタラインRL(4)とRL(5)のパス順差ΔPN(4)は、「−1」である(図3(b):破線c2参照)。したがって、4n−1の最大パス順差および最大正パス順差は、「3」であり、最大負パス順差は、「−1」である。
【0049】
4n+1の最大正パス順差は、4n−1の最大正パス順差より絶対値が小さい。したがって、4n+1は、4n−1と比較して、送り量の誤差ΔLが正である場合、すなわち、実際の単位送り量が目標単位送り量Lより大きくなる場合に、白筋が生じにくい。4n−1の最大負パス順差は、4n+1の最大負パス順差より絶対値が小さい。したがって、4n−1は、4n+1と比較して、送り量の誤差ΔLが負である場合、すなわち、実際の単位送り量が目標単位送り量Lより小さくなる場合に、白筋が生じにくい。
【0050】
以上の説明から解るように、4パスのインタレース印刷において、負の誤差ΔLが発生しやすい両持ち状態で用いられる通常印刷方式には、4n−1を用いることが好ましく、正の誤差ΔLが発生しやすい下流片持ち状態で用いられる下端用印刷方式には、4n+1を用いることが好ましい。
【0051】
次に、図4に示した8パスの印刷方式について検討する。
8n+3(図4(a))の場合には、パス順差ΔPN(s)は、「−5」または「3」のいずれかの値を取る。例えば、ラスタラインRL(2)とRL(3)とのパス順差ΔPN(2)は、「−5」である(図4(a):破線c1参照)。また、ラスタラインRL(4)とRL(5)のパス順差ΔPN(4)は、「3」である(図4(a):破線c2参照)。したがって、8n+3の最大パス順差および最大負パス順差は、「−5」であり、最大正パス順差は、「3」である。
【0052】
8n−3(図4(b))の場合には、パス順差ΔPN(s)は、「5」または「−3」のいずれかの値を取る。例えば、ラスタラインRL(5)とRL(6)とのパス順差ΔPN(5)は、「5」である(図4(b):破線c1参照)。また、ラスタラインRL(6)とRL(7)のパス順差ΔPN(6)は、「−3」である(図4(b):破線c2参照)。したがって、8n−3の最大パス順差および最大正パス順差は、「5」であり、最大負パス順差は、「−3」である。
【0053】
8n+3の最大正パス順差は、8n−3の最大正パス順差より絶対値が小さい。したがって、8n+3は、8n−3と比較して、送り量の誤差ΔLが正である場合、すなわち、実際の単位送り量が目標単位送り量Lより大きくなる場合に、白筋が生じにくい。8n−3の最大負パス順差は、8n+3の最大負パス順差より絶対値が小さい。したがって、8n−3は、8n+3と比較して、送り量の誤差ΔLが負である場合、すなわち、実際の単位送り量が目標単位送り量Lより小さくなる場合に、白筋が生じにくい。
【0054】
以上の説明から解るように、8パスのインタレース印刷において、負の誤差ΔLが発生しやすい両持ち状態で用いられる通常印刷方式には、8n−3を用いることが好ましく、正の誤差ΔLが発生しやすい下流片持ち状態で用いられる下端用印刷方式には、8n+3を用いることが好ましい。
【0055】
印刷方式が選択されると(図5:S101)、ステップS102では、印刷制御部M20は、画像データに基づいて、選択された印刷方式で印刷を行うためのドットデータが生成される。具体的には、周知の色変換処理、ハーフトーン処理、印刷方式に応じた印刷順序にデータを並べ代える処理などを経て、ドットデータが生成される。
【0056】
ステップS103では、印刷制御部M20は、搬送機構240を制御して、用紙Pをプラテン40の上流まで搬送する(給紙)。ステップS104では、印刷制御部M20は、下端用印刷方式での印刷を開始するタイミングTsであるか否かを判断する。この下端印刷方式開始タイミングTsは、例えば、下端外れタイミングTrより規定回数前の単位搬送を行うタイミングである。
【0057】
下端印刷方式開始タイミングTsでない場合には(ステップS104:NO)、印刷制御部M20の通常印刷制御部M22は、通常印刷方式を用いて印刷を行う。すなわち、通常印刷方式に従った単位搬送(ステップS105)と、単位印刷(ステップS106)とを実行する。下端印刷方式開始タイミングTsである場合には(ステップS104:YES)、印刷制御部M20は、通常印刷方式での印刷を終了するタイミングTeであるか否かを判断する(ステップS107)。この通常印刷方式終了タイミングTeは、例えば、下端印刷方式開始タイミングTsの後に、規定回数の単位搬送を行ったタイミングである。
【0058】
通常印刷方式終了タイミングTeでない場合には(ステップS107:NO)、印刷制御部M20の併用印刷制御部M23は、通常印刷方式と下端用印刷方式とを併用して印刷を行う。すなわち、通常印刷方式と下端用印刷方式とを併用した単位搬送(ステップS108)と、単位印刷(ステップS109)とを実行する。通常印刷方式終了タイミングTeである場合には(ステップS104:YES)、印刷制御部M20は、印刷が終了したか否かを判断する(ステップS110)。
【0059】
印刷が終了していない場合には(ステップS110:NO)、印刷制御部M20の下端印刷制御部M24は、下端用印刷方式を用いて印刷を行う。すなわち、下端用印刷方式に従った単位搬送(ステップS111)と、単位印刷(ステップS112)とを実行する。印刷が終了した場合には(ステップS104:YES)、印刷制御部M20は、用紙Pを排紙トレイ21に排紙し(ステップS113)、処理を終了する。
【0060】
図8は、4パスの場合の印刷例を示す図である。図8の左側には、通常印刷方式としての4n−1におけるパス(主走査)におけるノズル位置を丸印で、下端用印刷方式としての4n+1におけるパス(主走査)におけるノズル位置を四角印で、それぞれ示した。丸印および四角印の中の番号は、そのパスが実行される順番であるパス順を表す。このパス順は、印刷方式とは無関係に実際に実行される順番を示している。図8の右側には、各ラスタラインが、どの印刷方式におけるどのパスにおいて印刷されるかを図示した。例えば、丸印の6番で示されるラスタラインは、4n−1におけるパス順6のパスにおいて印刷される。図8の右側において、黒丸で示されたラスタラインは、パス順1のパスよりも前のパスにおいて印刷されるラスタラインである。図8の右側において、黒い四角で示されたラスタラインは、パス順11のパスよりも後のパスにおいて印刷されるラスタラインである。
【0061】
印刷の途中で印刷を切り替える場合に、例えば、図8に示すように4n−1から4n+1に印刷方式を切り替える場合に、切り替え直後から全てのラスタラインを切り替え後の印刷方式(図8の場合は、4n+1)にて印刷できる訳ではない。切り替え直後には、切り替え後の印刷方式では、印刷できないラスタラインが発生する(例えば、図8:中間領域A2の図面における上側の領域を参照)。このために、ラスタラインの抜けを発生させないために、切り替え前の印刷方式(図8の場合は、4n−1)での印刷も規定回数行う。この結果、通常領域A1と下端領域A3の間には、切り替え前後の2つの印刷方式を併用して印刷を行う中間領域A2ができる。
【0062】
中間領域A2には、切り替え前の印刷方式のパスと、切り替え後の印刷方式のパスとの両方でドットを形成可能なラスタライン(特定ラスタラインと呼ぶ。)が生じる。図8の右側において、丸印と四角印の両方が並んで示されたラスタラインが特定ラスタラインである。図8では、特定ラスタラインの右側に左向きの矢印を付した。本実施例において、併用印刷制御部M23は、特定ラスタラインについては、シングリング印刷を実行する。シングリング印刷では、1つのラスタラインを複数回の異なるパスで印刷する。例えば、図8において星印を付した2つの特定ラスタラインには、4n−1におけるパス順8のパスと、4n+1におけるパス順9のパスの両方にてドットが形成される。具体的には、併用印刷制御部M23は、特定ラスタライン上の主走査方向に沿ったドット形成位置のうち、偶数番目のドット形成位置には、4n−1のパスでドットを形成し、奇数番目のドット形成位置には、4n+1のパスでドットを形成する。
【0063】
なお、本実施例の4パスのインタレース印刷では、4n−1におけるパス順8のパスの後に行われる単位搬送(図8における縦の矢印に対応)のタイミングが、下端外れタイミングTrとなるように、各領域A1〜A3が設定されている。このタイミングは、通常印刷方式(この例では、4n−1)のパスと、下端用印刷方式のパス(この例では、4n+1)のうち、先に行われるパスが終了し、後に行われるパスが終了していない特定主走査ラインの数が最も多いタイミングである。図8において、星印を付したラスタライン(2n本)が、パス順8のパスが終了した時点で、先に行われるパスが終了し、後に行われるパスが終了していない特定主走査ラインである。
【0064】
図9、図10は、8パスの場合の印刷例を示す図である。図10は、図9の下端A−Aより副走査方向下流側について図示している。図9、10の表記の方法は、図8と同様である。すなわち、図9、10の左側には、通常印刷方式としての8n−3におけるパスにおけるノズル位置を丸印で、下端用印刷方式としての8n+3におけるパスにおけるノズル位置を四角印で、それぞれ示した。丸印および四角印の中の番号は、そのパスが実行される順番であるパス順を表す。このパス順は、印刷方式とは無関係に実際に実行される順番を示している。図9、10の右側には、各ラスタラインが、どの印刷方式におけるどのパスにおいて印刷されるかを図示した。例えば、丸印の6番で示されるラスタラインは、8n−3におけるパス順6のパスにおいて印刷される。
【0065】
中間領域A2には、図8と同様に、特定ラスタラインが生じていることが解る。本実施例では、特定ラスタラインについては、上述したようにシングリング印刷を実行する。具体的には、併用印刷制御部M23は、4パスの場合と同様に、特定ラスタライン上の主走査方向に沿ったドット形成位置のうち、偶数番目のドット形成位置には、8n−3のパスでドットを記録し、奇数番目のドット形成位置には、8n+3のパスでドットを形成する。
【0066】
なお、本実施例の8パスのインタレース印刷では、8n−3におけるパス順9のパスの後に行われる単位搬送(図9における縦の矢印に対応)のタイミングが、下端外れタイミングTrとなるように、各領域A1〜A3が設定されている。このタイミングは、8n−3のパスと、8n+3のパスのうち、先に行われるパスが終了し、後に行われるパスが終了していない特定主走査ラインの数が最も多いタイミングである。図9、10において、星印を付したラスタライン(21n本)が、パス順9のパスが終了した時点で、先に行われるパスが終了し、後に行われる主走査が終了していない特定主走査ラインである。
【0067】
以上説明した本実施例における複合機200によれば、インタレース印刷を行う際に、主として両持ち状態で印刷される通常領域A1と、下流片持ち状態で印刷される下端領域A3とを、異なる印刷方式を用いて印刷することができる。したがって、各状態における搬送特性に適した印刷方式を採用することができる。この結果、通常領域A1とおよび下端領域A3における画質劣化(白筋の発生)の可能性を低減することができる。さらに、2つの印刷方式が併用される中間領域A2では、特定ラスタライン上に、シングリング印刷を実行する。すなわち、併用印刷制御部M23は、特定ラスタライン上に、通常印刷方式におけるパスおよび下端用印刷方式におけるパスの両方でドットを形成する。シングリング印刷は、搬送特性の変動、具体的には、実際の単位送り量の誤差ΔLを分散し、白筋などのバンディングに代表される画質劣化を低減することができる。したがって、両持ち状態から下流片持ち状態への状態変化のときに生じる搬送特性の変動に起因して、バンディングなどの画質劣化が生じる可能性を低減することができる。
【0068】
さらに、特定ラスタライン上の主走査方向に沿ったドット形成位置のうち、偶数番目のドット形成位置には、通常印刷方式におけるパスでドットを記録し、奇数番目のドット形成位置には、下端用印刷方式におけるパスでドットを形成する。両持ち状態から下流片持ち状態への状態変化のときに生じる搬送特性の変動に起因して、バンディングなどの画質劣化が生じる可能性をより効果的に低減することができる。
【0069】
さらには、各領域A1〜A3は、通常印刷方式におけるパスと下端用印刷方式におけるパスのうち、先に行われるパスが終了し、後に行われるパスが終了していない特定ラスタラインの数が最も多いときと、下端外れタイミングTrとが一致するように、設定されている。この結果、両持ち状態から下流片持ち状態への状態変化のときに生じる搬送特性の変動に起因して、バンディングなどの画質劣化が生じる可能性をさらに効果的に低減することができる。
【0070】
さらに、1回の印刷において、通常印刷方式のパス数と下端用印刷方式のパス数は、等しくされるので、解像度を維持しながら、印刷画像の劣化を抑制することができる。
【0071】
なお、上記実施例における通常印刷制御部M22は、請求項における第1制御部の例であり、上記実施例における下端印刷制御部M24は、請求項における第2制御部の例であり、上記実施例における併用印刷制御部M23は、請求項における第3制御部の例である。
【0072】
B.変形例:
この発明は上記実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0073】
(1)上記実施例では、両持ち状態から下流片持ち状態への状態変化のときに、中間領域A2の印刷が行われるように、印刷方式を切り替えている。これに代えて、例えば、印刷の初期の段階にて、上流片持ち状態から両持ち状態への状態変化のときに、中間領域の印刷が行われるように、印刷方式を切り替えても良い。すなわち、用紙Pの上端UTの近傍の領域であって上流片持ち状態で印刷される上端領域と、用紙Pの中央付近の領域であって両持ち状態で印刷される中央領域と、上端領域と中央領域との間に設けられた中間領域とを設定する。そして、上端領域について、上流片持ち状態での印刷に適した特定の印刷方式を用いてインタレース印刷を実行する。また、中央領域について、両持ち状態での印刷に適した印刷方式であって、上記特定の印刷方式とは異なる印刷方式を用いてインタレース印刷を実行する。そして、中間領域において、上述した2つの印刷方式を併用してインタレース印刷を実行する。そして、中間領域を印刷している最中に、上流片持ち状態から両持ち状態への状態変化が生じるようにする。そして、中間領域の特定ラスタラインについて上述した2つの印刷方式の各パスを用いたシングリング印刷を実行しても良い。
【0074】
この変形例によれば、上流片持ち状態で印刷される領域と、両持ち状態で印刷される領域とにおいて、画質劣化を抑制できる。また、上流片持ち状態から両持ち状態への状態変化のときの搬送特性の変動に起因する画質劣化を低減することができる。
【0075】
(2)上記実施例における4種類の印刷方式は、インタレース印刷の印刷方式の一例であり、他のあらゆる種類の印刷方式が用いられても良い。例えば、8パスの通常印刷方式として、8n−3に代えて8n−1を採用しても良い。また、8パスの下端用印刷方式として8n+3に代えて、8n+1を採用しても良い。他の印刷方式を採用する場合には、実施例で説明した手法によりその印刷方式における搬送特性と白筋の発生との関係を評価し、通常印刷方式、下端用印刷方式として採用する印刷方式を決定すれば良い。例えば、等間隔送り量が、D×(k×n+b)(Dは、目標単位ライン間隔、nは、使用するノズル数に応じて定まる自然数、kは、k=N/Dで表される3以上のパス数、bは、−(1/2)k<b<(1/2)kである0を除く整数)で表される均等送りの印刷方式が採用される場合には、通常印刷方式には、bの値が負である印刷方式を採用し、下端用印刷方式は、bの値が正である印刷方式を採用しても良い。また、通常印刷方式と、下端用印刷方式とで、パス数が異なる印刷方式を採用しても良い。
【0076】
(3)上記実施例では、併用印刷制御部M23は、特定ラスタライン上の主走査方向に沿ったドット形成位置のうち、偶数番目のドット形成位置には、通常印刷方式におけるパスでドットを形成し、奇数番目のドット形成位置には、下端用印刷方式におけるパスでドットを形成する。これに限らず、併用印刷制御部M23は、通常印刷方式におけるパスにおいて、特定ラスタライン上における任意の一部のドット形成位置を対象としてドットを形成して良い。この場合、併用印刷制御部M23は、下端用印刷方式におけるパスにおいて、残りのドット形成位置を対象としてドットを形成して良い。併用印刷制御部M23は、通常印刷方式におけるパスにおいて、特定ラスタライン上における間欠的なドット形成位置を対象としてドットを形成し、通常印刷方式におけるパスにおいて、特定ラスタライン上における他のドット形成位置を対象としてドットを形成することが好ましい。
【0077】
(4)異なる印刷方式でラスタラインの全てが一方のパスでも形成できる場合には、もう一方の主走査を行わなくてもよい。このような構成によると印刷速度が速くなる。例えば、4パスの場合、4nー1の4パス目は、4n+1の5パス目ですべて補えるため、4n−1の4パス目の主走査を行わず、4n+1の5パス目の主走査を行ってもよい。この場合は、実施例において、4nー1の4パス目の主走査と4n+1の5パス目の主走査で行っていたシングリング印刷は行わず、4n+1の5パス目の主走査にて、印刷対象のラスタライン上のドットを全て形成すれば良い。
【0078】
(5)上記実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えてもよい。
【符号の説明】
【0079】
200...複合機、220...インク吐出機構、221...ヘッド駆動部、222...印刷ヘッド、230...主走査機構、240...搬送機構、250...プリンタ部、260...スキャナ部、270...通信部、280...操作部、290...記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の搬送方向に搬送される印刷媒体にドットを形成することにより印刷を行う印刷装置であって、
前記搬送方向に沿って所定のノズルピッチで配置された複数のノズルであって同一色のドットを形成するための前記複数のノズルを有する印刷ヘッドと、
前記印刷ヘッドより上流側で印刷媒体を挟持して搬送するための上流側挟持部と、前記印刷ヘッドより下流側で印刷媒体を挟持して搬送するための下流側挟持部とを有し、前記搬送方向に印刷媒体を搬送する搬送部と、
前記印刷ヘッドを、前記印刷媒体に対して前記搬送方向と交差する主走査方向に移動させる主走査を行う主走査部と、
前記主走査が行われているときに前記複数のノズルのうちの少なくとも一部を駆動して主走査ライン上のドットを形成させるヘッド駆動部と、
前記各部を制御して、前記搬送方向のドットピッチが前記ノズルピッチより小さい解像度での印刷を、前記ドットピッチで並んだ複数の主走査ラインを印刷する順序が異なる第1の印刷方式および第2の印刷方式を用いて実行可能な印刷制御部と、
を備え、
前記印刷制御部は、
前記印刷媒体が前記上流側挟持部と前記下流側挟持部との両方によって挟持された第1の状態で、前記第1の印刷方式を用いて前記印刷媒体の第1の領域に印刷を行う第1制御部と、
前記印刷媒体が前記上流側挟持部と前記下流側挟持部のうちの一方によって挟持され、他方によって挟持されない第2の状態で、前記第2の印刷方式を用いて前記印刷媒体の第2の領域に印刷を行う第2制御部と、
前記第1の領域と前記第2の領域との間の第3の領域に、前記第1の印刷方式と前記第2の印刷方式を併用して印刷を行う第3制御部と、
を備え、
前記各領域は、前記第3の領域の印刷を行っているときに、前記第1の状態と前記第2の状態との間の状態変化が生じるように、設定され、
前記第3制御部は、前記第3の領域の主走査ラインのうちの一部の主走査ラインである特定主走査ライン上に、前記第1の印刷方式における主走査である第1種主走査と前記第2の印刷方式における主走査である第2種主走査との両方でドットを形成する、印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記第3制御部は、前記第1種主走査において、前記特定主走査ライン上における間欠的なドット形成位置を対象としてドットを形成し、前記第2種主走査において、前記特定主走査ライン上における前記第1種主走査において対象とされないドット形成位置を対象としてドットを形成する、印刷装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の印刷装置であって、
前記各領域は、前記第1種主走査と前記第2種主走査のうち、先に行われる主走査が終了し、後に行われる主走査が終了していない前記特定主走査ラインの数が最も多いときに、前記状態変化が生じるように、設定されている、印刷装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の印刷装置であって、
前記第1の印刷方式と前記第2の印刷方式は、前記ドットピッチをDとし、前記ノズルピッチをNとするとき、k=N/Dで表されるパス数kが等しい、印刷装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の印刷装置であって、
前記状態変化は、前記第1の状態から、前記下流側挟持部によって前記印刷媒体が挟持され、前記上流側挟持部によって前記印刷媒体が挟持されない前記第2の状態への変化であり、
前記第1の印刷方式および前記第2の印刷方式において、前記ドットピッチをDとし、前記ノズルピッチをNとするとき、各主走査間に行われる前記印刷媒体の搬送量Lは、D×(k×n+b)(nは、使用するノズル数に応じて定まる自然数、kは、k=N/Dで表される3以上のパス数、bは、−(1/2)k<b<(1/2)kである0を除く整数)で表され、
前記第1の印刷方式は、前記bの値が負である印刷方式であり、
前記第2の印刷方式は、前記bの値が正である印刷方式である、印刷装置。
【請求項6】
主走査を行いつつ、印刷ヘッドを駆動して印刷媒体の主走査ライン上のドットを形成することと、搬送部によって前記印刷媒体を前記主走査の方向と交差する搬送方向に搬送することを繰り返して印刷を行う印刷実行部を制御するコンピュータプログラムであって、
前記印刷ヘッドは、搬送方向に沿って所定のノズルピッチで配置された複数のノズルであって同一色のドットを形成するための前記複数のノズルを有し、
前記搬送部は、前記印刷ヘッドより上流側で印刷媒体を挟持して搬送するための上流側挟持部と、前記印刷ヘッドより下流側で印刷媒体を挟持して搬送するための下流側挟持部とを有し、
前記コンピュータプログラムは、
前記搬送方向のドットピッチが前記ノズルピッチより小さい解像度での印刷を行う機能であって、前記印刷媒体が前記上流側挟持部と前記下流側挟持部との両方によって挟持された第1の状態で、第1の印刷方式を用いて前記印刷媒体の第1の領域に印刷を行う第1機能と、
前記搬送方向のドットピッチが前記ノズルピッチより小さい解像度での印刷を行う機能であって、前記印刷媒体が前記上流側挟持部と前記下流側挟持部のうちの一方によって挟持され、他方によって挟持されない第2の状態で、第1の印刷方式とは複数の主走査ラインを印刷対象にする順序が異なる第2の印刷方式を用いて前記印刷媒体の第2の領域に印刷を行う第2機能と、
前記搬送方向のドットピッチが前記ノズルピッチより小さい解像度での印刷を行う機能であって、前記第1の領域と前記第2の領域との間の第3の領域に、前記第1の印刷方式と前記第2の印刷方式を併用して印刷を行う第3機能と、
をコンピュータに実現させ、
前記各領域は、前記第3の領域の印刷を行っているときに、前記第1の状態と前記第2の状態との間の状態変化が生じるように、設定され、
前記第3機能は、前記第3の領域の主走査ラインのうちの一部の主走査ラインである特定主走査ライン上に、前記第1の印刷方式における主走査である第1種主走査と前記第2の印刷方式における主走査である第2種主走査との両方でドットを形成する、コンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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