説明

印刷装置

【課題】印刷装置本体に対して着脱自在な複数の印刷ドラムユニットを構成しているか否かに拘わらず多色印刷等を行える印刷装置において、小サイズの用紙にも対応でき、天地移動手段を有していて、相隣る各印刷ドラム間の位相が変わっても隣の印刷ドラムが紙くわえ胴に干渉したり、クランパ同士が接触したりすることのない印刷装置を実現する。
【解決手段】紙くわえ胴6の周囲に各印刷ドラム1a,1bを配置した多色孔版印刷装置100において、紙くわえ胴6の回転方向の位相に対して各印刷ドラム1a,1bの回転方向の位相を調整可能とする天地移動機構を有し、紙くわえ胴6の回転中心軸を中心として凹部8の範囲に対応して形成される凹部切欠角度θ2は、クランパ幅角度θ3と、マスタ先端余白角度θ4と、天地移動量の片側分角度θ5とを加算した値以上に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔版印刷装置等を含む印刷装置に関し、さらに詳しくは複数の印刷ドラムおよび圧胴を有して多色印刷等を行える印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より簡便な印刷方式として、印刷装置の一例としての感熱デジタル製版式の孔版印刷装置が知られている。この孔版印刷装置では、サーマルヘッドの微細な発熱素子にマスタを接触させ、サーマルヘッドの発熱素子にパルス的に通電させながらマスタを搬送することで、画像信号に応じてマスタを溶融穿孔・製版し、この製版済みのマスタを多孔性円筒状の版胴(以下、「印刷ドラム」というときがある)の外周面に巻き付け、印刷ドラム内部のインキ供給手段よりインキを供給し、給送されてくる印刷用紙をプレスローラや圧胴等の押圧手段で製版済みのマスタを介して印刷ドラムに連続的に押し付けることにより、印刷ドラムの開孔部分、さらにはマスタの穿孔部分よりインキを滲み出させ、そのインキを印刷用紙に転移させることによって印刷画像を形成するものである。
【0003】
このような孔版印刷方式を使用する印刷技術として、次の2つのものが知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
(1)特許文献1には、2つ(またはそれ以上)の印刷ドラムを用紙搬送方向に略水平状態に並べて配置し、印刷用紙(以下、単に「用紙」という)を2つの印刷ドラム(またはそれ以上)の印刷部に給送し、印刷部において押圧手段として用いたプレスローラで印刷ドラム上の製版済みのマスタに用紙を押し付けることにより、2色(または多色)印刷を行う多色孔版印刷装置が開示されている。この印刷技術では、印刷部がプレスローラによるものなので、構成が簡略化でき低コストになるという利点がある(以下、「第1の印刷技術」という)。
【0004】
(2)特許文献2には、印刷ドラムの外径と略同径の裏押しローラ(圧胴)とを用いた多色孔版印刷装置が開示されている。特に、前記公報の第7図に示されているような単一の裏押しローラ102の周囲に、複数(前記同公報の第7図では3つ)の印刷ドラム101を配置した多色孔版印刷装置の場合では、印刷装置全体の用紙搬送方向の幅を狭くできること、および他の紙くわえ胴への用紙の受け渡しがないので用紙搬送性に優れていて、小サイズの用紙を使用しても、各印刷ドラム101との同期が取りやすく、印刷しやすいという利点がある。
そして、前記公報の第7図に示されているように、第2の印刷技術における各印刷ドラム101は、横木105に対して開閉自在な、製版済みの孔版原紙T(以下、「マスタ」という)の先端部を保持するマスタ保持手段としての孔版原紙前縁取付装置105a(以下、「クランパ」という)を有している。また、第2の印刷技術における裏押しローラ102(圧胴または紙くわえ胴とも呼ばれ、以下、「紙くわえ胴」という)は、各印刷ドラム101の横木105の部分およびそのクランパ(孔版原紙前縁取付装置105a)との接触・干渉を避けるための切り欠き状の凹部としての溝114(以下、「凹部」という)および用紙Sの先端部を保持する保持手段としての吸引ノズル130を有している(以下、「第2の印刷技術」という)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−208085号公報
【特許文献2】特開平4−105984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、第1の印刷技術では、小サイズの用紙(用紙搬送方向に短い用紙)を使用する場合、相隣る印刷ドラムの配置間隔に制限があるために、例えば1色目印刷ドラムから2色目印刷ドラムヘの進入同期が取りにくく、2色目での印刷画像位置精度が得にくいという問題点がある。
【0007】
一方、第2の印刷技術では、以下の問題点がある。すなわち、前記公報の第7図に示されているように、単一の紙くわえ胴(裏押しローラ)を中心として、その回転方向の周りに複数の印刷ドラムを配置し、紙くわえ胴および各印刷ドラムを印刷時等の回転状態で見た場合、紙くわえ胴の凹部に対応する各印刷ドラムのクランパの位置が、各印刷ドラムの回転中心に対して回転方向で様々な位置になる。
そして、このような多色孔版印刷装置では、用紙のジャム処理や色替えのために印刷ドラムが印刷装置本体に対して着脱自在な印刷ドラムユニットを構成しているものが多く、印刷ドラムユニットを介して印刷ドラムの着脱動作が頻繁に行われる。それ故に、前記したような印刷ドラムユニットを使用した多色孔版印刷方法および多色孔版印刷装置によると、印刷ドラムユニットを介して印刷ドラムを印刷装置本体に挿入(装着)したり、印刷装置本体から(引き出し)離脱したりする際には、各印刷ドラムユニットにおいては適正位置にて印刷ドラムを着脱操作できるようにして、誤操作が生じないようにし、印刷装置本体や印刷ドラムを含む印刷ドラムユニットの損傷がないようにする必要がある。しかし、第2の印刷技術ではそのような点についての配慮等が全くなされていないという問題点がある。
【0008】
また、第2の印刷技術では、紙くわえ胴の凹部に対する、各印刷ドラムのクランパの位置が上述したようにある範囲内にあるように定まってくるので、相隣る印刷ドラムでは、一方の印刷ドラムでの印刷中に、他方の印刷ドラムのクランパ等で紙くわえ胴やクランパ自身を損傷しないようにする必要が生じてくるが、第2の印刷技術ではそのような点についての配慮等も全くなされていないという問題点がある。
【0009】
また、複数の印刷ドラムを有するため、印刷装置全体が大型化する傾向にあり、そのコンパクト化のためには各印刷ドラム同士を近接して配置する必要がある。そうすると、各色間の印刷画像位置の天地調整のために天地移動を行うことが必ず必要であるので、これにより相隣る各印刷ドラム間の位相が変わると隣の印刷ドラムが紙くわえ胴に干渉したり、クランパ同士が接触したりするという問題点もある。
【0010】
したがって、本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の第1の目的は、印刷ドラムを備え、印刷装置本体に対して着脱自在な複数の印刷ドラムユニットを有して多色印刷等を行える印刷装置において、小サイズの用紙にも対応でき、印刷装置本体に対する複数の印刷ドラムユニットの着脱時に、印刷装置本体や紙くわえ胴や印刷ドラムを含む印刷ドラムユニットの損傷を防止できる印刷装置を実現することにある。
本発明の第2の目的は、印刷ドラムを備え、印刷装置本体に対して着脱自在な複数の印刷ドラムユニットを構成しているか否かに拘わらず多色印刷等を行える印刷装置において、小サイズの用紙にも対応でき、紙くわえ胴や印刷ドラム、あるいは印刷ドラムを含む印刷ドラムユニットの損傷を防止できる印刷装置を実現することにある。
【0011】
本発明の第3の目的は、印刷装置本体に対して着脱自在な複数の印刷ドラムユニットを構成しているか否かに拘わらず多色印刷等を行える印刷装置において、小サイズの用紙にも対応でき、天地移動手段を有していて、相隣る各印刷ドラム間の位相が変わっても隣の印刷ドラムが紙くわえ胴に干渉したり、クランパ同士が接触したりすることのない印刷装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した課題を解決すると共に前述した目的を達成するために、各請求項記載の発明では、以下の特徴ある構成を採っている。
請求項1記載の発明は、印刷装置本体に対して着脱自在に構成され、製版済みのマスタの先端部を保持するマスタ保持手段を備えた印刷ドラムを有する複数の印刷ドラムユニットと、前記マスタ保持手段との接触を避けるための凹部を備え、前記印刷装置本体に装着された前記各印刷ドラムユニットにおける前記各印刷ドラム上の製版済みのマスタに用紙を相対的に押し付ける、前記印刷ドラムの外径と略同径の圧胴とを具備し、前記圧胴の周囲に前記複数の印刷ドラムユニットを配置した印刷装置において、前記各印刷ドラムユニットは、該印刷ドラムが回転方向の離脱位置で停止したとき離脱可能であり、前記離脱位置は、前記各印刷ドラムユニットの前記マスタ保持手段が前記圧胴の前記凹部に対応した範囲内にあるときに設定されており、前記印刷装置本体内から離脱すべき前記印刷ドラムユニットの該印刷ドラムを回転駆動するドラム駆動手段と、前記離脱すべき前記印刷ドラムユニットの該印刷ドラムが前記離脱位置で停止するように前記ドラム駆動手段を制御する制御手段とを有することを特徴とする。
ここで、ドラム駆動手段の具体例としては、後述する実施形態のように、圧胴と各印刷ドラムとの同期を取りやすくし、かつ、駆動時の制御を容易にするために、圧胴、各印刷ドラムを回転伝達部材を介して連結した単一のメインモータを挙げることができる。このような利点を望まなくてもよいのであれば、単一のメインモータに限らず、印刷装置本体内から離脱すべき印刷ドラムユニットの該印刷ドラムを回転駆動する、複数の印刷ドラムに対応して配設された複数のモータであってもよい。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の印刷装置において、前記各印刷ドラムユニットに対応してそれぞれ配設され、離脱すべき前記印刷ドラムユニットを離脱可能な状態に設定するための個別ドラム離脱設定手段と、離脱すべき前記印刷ドラムユニットの該印刷ドラムの回転位置を検知するドラム回転位置検知手段とを有し、前記制御手段は、前記個別ドラム離脱設定手段および前記ドラム回転位置検知手段からの各信号に基づいて、離脱すべき前記印刷ドラムユニットの該印刷ドラムが前記離脱位置で停止するように前記ドラム駆動手段を制御することを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の印刷装置において、離脱すべき前記印刷ドラムユニットの該印刷ドラムが前記離脱位置に停止したときに、前記印刷ドラムユニットの該印刷ドラムが前記離脱位置にあることを報知する報知手段を有することを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1,2または3記載の印刷装置において、印刷動作終了時に、前記各印刷ドラムユニットのうちの特定の印刷ドラムユニットの該印刷ドラムを優先的に前記離脱位置に停止させる優先停止制御手段を有することを特徴とする。
【0016】
請求項5記載の発明は、製版済みのマスタの先端部を保持するマスタ保持手段を備えた複数の印刷ドラムと、前記マスタ保持手段との接触を避けるための凹部を備え、前記各印刷ドラム上の製版済みのマスタに用紙を相対的に押し付ける、前記印刷ドラムの外径と略同径の圧胴とを有し、前記圧胴の周囲に前記複数の印刷ドラムを配置した印刷装置において、前記圧胴の回転方向の位相に対して前記各印刷ドラムの回転方向の位相を調整可能とする天地移動手段を有し、前記圧胴の回転中心軸を中心として前記凹部の範囲に対応して形成される凹部切欠角度は、相隣る前記各印刷ドラムの回転中心軸を中心として前記マスタ保持手段の範囲に対応して形成されるマスタ保持手段形成角度と、前記マスタ保持手段に保持された製版済みのマスタの製版画像先端までの範囲に対応して形成されるマスタ先端余白角度と、前記天地移動手段による位相調整可能な角度のうち製版画像がホームポジションから回転方向の進み側へ偏倚した位相調整角度とを加算した値以上に設定されていることを特徴とする。
【0017】
請求項6記載の発明は、製版済みのマスタの先端部を保持するマスタ保持手段を備えた複数の印刷ドラムと、前記マスタ保持手段との接触を避けるための凹部を備え、前記各印刷ドラム上の製版済みのマスタに用紙を相対的に押し付ける、前記印刷ドラムの外径と略同径の圧胴とを有し、前記圧胴の周囲に前記複数の印刷ドラムを配置した印刷装置において、前記各印刷ドラムの前記マスタ保持手段または前記各印刷ドラムの最外周部と前記圧胴の外周面とは、非印刷時に、接触しない隙間を設けられることを特徴とする。
【0018】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の印刷装置において、前記各印刷ドラムは、インキ通過性の網材で形成され前記圧胴の外周面に接離可能な多孔性円筒体と、各印刷ドラム内に配置され前記多孔性円筒体の内周面に一つの母線に沿って接触し、印刷時に、前記圧胴の外周面に押圧すべく前記多孔性円筒体を前記圧胴に向けて半径方向外方へ押し出す中押しローラとを有し、前記隙間が、非印刷時に設けられることを特徴とする。
【0019】
請求項8記載の発明は、請求項5ないし7の何れか一つに記載の印刷装置において、前記各印刷ドラムは、前記印刷装置本体に対して着脱自在な印刷ドラムユニットとして構成されていることを特徴とする。
【0020】
請求項9記載の発明は、請求項6記載の印刷装置において、前記各印刷ドラムは、少なくともインキ通過性の金属薄板層を有し、前記各印刷ドラムは、印刷装置本体に対して着脱自在な印刷ドラムユニットとして構成されており、前記各印刷ドラムユニットに対応して前記印刷装置本体に配設され、前記印刷装置本体に装着された前記各印刷ドラムユニットを保持する保持部材と、前記各保持部材に対応して前記印刷装置本体に配設され、前記各保持部材ごと前記各印刷ドラムユニットの前記印刷ドラムを前記圧胴に対して接離動作させる接離手段とを有し、前記隙間が、非印刷時に設けられることを特徴とする。
【0021】
請求項10記載の発明は、請求項5ないし9の何れか一つに記載の印刷装置において、相隣る前記各印刷ドラム上の製版済みのマスタ装着面からの前記マスタ保持手段の高さまたは前記マスタ装着面から最外周部までの高さをHとし、相隣る前記各印刷ドラムの前記マスタ装着面までの半径をRとしたとき、相隣る前記各印刷ドラムの回転中心軸間の距離Lは、L≧2R+2Hを満足することを特徴とする。
【0022】
請求項1,5,6における「各印刷ドラム上の製版済みのマスタに用紙を相対的に押し付ける」方式としては、製版済みのマスタを介して圧胴に対して各印刷ドラムを押し付けて印刷を行う印刷ドラム接離方式と、製版済みのマスタを介して各印刷ドラムに対して圧胴を押し付けて印刷を行う圧胴接離方式と、それらの併用方式とがある。
印刷ドラム接離方式には、後述する第1の実施形態における接離手段が挙げられる他、各印刷ドラムの多孔性円筒部が圧胴側へ移動(印刷ドラム内部のインキ供給ローラ等が圧胴側へ突出するタイプも含む)して印刷を行う周知のものがある。この例としては、例えば、特開平1−204781号や、特開平3−197078号あるいは特開平3−254984号公報等に開示されているような金属製スクリーンを内側から外側に向けて膨出させる、いわゆる中押しローラ方式(インキ供給ローラを兼ねるものも含む)のものが挙げられる。
「印刷ドラムの外径と略同径の圧胴」とは、圧胴の外径寸法が印刷ドラムの外径寸法と同じであるものの他、設計上の許容寸法公差範囲内にある場合も含む。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、前述したような従来装置の有する諸問題点を解決して新規な印刷装置を提供することができる。請求項ごとの効果を挙げれば次のとおりである。
請求項1記載の発明によれば、小サイズの用紙にも対応できることはもとより、制御手段が離脱すべき印刷ドラムユニットの該印刷ドラムが離脱位置で停止するようにドラム駆動手段を制御するので、印刷装置本体に対する複数の印刷ドラムユニットの着脱時に、圧胴や印刷装置本体や印刷ドラムを含む印刷ドラムユニットの損傷を防止できる。
【0024】
請求項2記載の発明によれば、個別ドラム離脱設定手段を操作すると、後は制御手段が自動的に、個別ドラム離脱設定手段およびドラム回転位置検知手段からの各信号に基づいて、離脱すべき印刷ドラムユニットの該印刷ドラムが離脱位置で停止するようにドラム駆動手段を制御するので、複数の印刷ドラムを順次交換する際に作業性が向上するとともに、どの印刷ドラムユニットにおける印刷ドラムでも、請求項1記載の発明における効果と同様に損傷を与えない状態で、印刷ドラムの交換作業を確実に行うことができる。
【0025】
請求項3記載の発明によれば、離脱すべき印刷ドラムユニットの該印刷ドラムが離脱位置に停止したときに、報知手段によって印刷ドラムユニットの該印刷ドラムが離脱位置にあることを報知されるので、請求項1または2記載の発明の効果に加えて、印刷ドラムユニットの該印刷ドラムが離脱位置にあることが容易に分かり、離脱位置への停止前に印刷ドラムユニットを離脱しようとして、印刷装置本体側の着脱駆動部などに損傷を与えるのを防止できる。
【0026】
請求項4記載の発明によれば、優先停止制御手段は、印刷動作終了時に、各印刷ドラムユニットのうちの特定の印刷ドラムユニットの該印刷ドラムを優先的に離脱位置に停止させるので、請求項1,2または3記載の発明の効果に加えて、操作上必要な印刷ドラムを常に優先的に最初に交換できるようにすることができる。
【0027】
請求項5記載の発明によれば、圧胴の回転中心軸を中心として凹部の範囲に対応して形成される凹部切欠角度は、相隣る各印刷ドラムの回転中心軸を中心としてマスタ保持手段の範囲に対応して形成されるマスタ保持手段形成角度と、マスタ保持手段に保持された製版済みのマスタの製版画像先端までの範囲に対応して形成されるマスタ先端余白角度と、天地移動手段による位相調整可能な角度のうち製版画像がホームポジションから回転方向の進み側へ偏倚した位相調整角度とを加算した値以上に設定されているので、小サイズの用紙にも対応できることはもとより、圧胴に対する各印刷ドラムの位相を調整して天地移動を行うようにしても、相隣る印刷ドラムの表面から突出したマスタ保持手段などの部分が圧胴に接触したり、マスタ保持手段同士が接触したりすることがなくなり、圧胴や各印刷ドラムを損傷しないようにすることが可能になる。
【0028】
請求項6記載の発明によれば、各印刷ドラムのマスタ保持手段または各印刷ドラムの最外周部と圧胴の外周面とは、非印刷時に、接触しない隙間を設けられるので、小サイズの用紙にも対応できることはもとより、圧胴の凹部の凹部切欠角度が小さくても、相隣る印刷ドラムの表面から突出したマスタ保持手段などの部分が圧胴に接触しないので、印刷ドラムと圧胴との直径を小さくでき、印刷装置全体を小型化できる。
【0029】
請求項7記載の発明によれば、各印刷ドラムは、インキ通過性の網材で形成され圧胴の外周面に接離可能な多孔性円筒体と、各印刷ドラム内に配置され多孔性円筒体の内周面に一つの母線に沿って接触し、印刷時に、圧胴の外周面に押圧すべく多孔性円筒体を圧胴に向けて半径方向外方へ押し出す中押しローラとを有することにより、各印刷ドラムのマスタ保持手段または各印刷ドラムの最外周部と圧胴の外周面とが、非印刷時に、接触しない隙間を設けられるので、特別な接離手段を設けることなく比較的簡単な構成によって、請求項6記載の発明の効果を奏する。
【0030】
請求項8記載の発明によれば、各印刷ドラムは、印刷装置本体に対して着脱自在な印刷ドラムユニットとして構成されているので、請求項5ないし7の何れか一つに記載の発明の効果に加えて、印刷ドラムの交換作業を行うことができる。
【0031】
請求項9記載の発明によれば、接離手段によって、各保持部材に対応して印刷装置本体に配設された、各保持部材ごと各印刷ドラムユニットの印刷ドラムが圧胴に対して接離動作され、これにより各印刷ドラムのマスタ保持手段または各印刷ドラムの最外周部と圧胴の外周面とが、非印刷時に、接触しない隙間を設けられるので、請求項6記載の発明の効果を確実に奏する。
【0032】
請求項10記載の発明によれば、相隣る各印刷ドラム上の製版済みのマスタ装着面からのマスタ保持手段の高さまたはマスタ装着面から最外周部までの高さをHとし、相隣る各印刷ドラムのマスタ装着面までの半径をRとしたとき、相隣る各印刷ドラムの回転中心軸間の距離Lは、L≧2R+2Hを満足するので、請求項5ないし9の何れか一つに記載の発明の効果に加えて、相隣る印刷ドラムは、マスタ保持手段形成角度や天地移動量の程度等により、相隣る各印刷ドラムの回転中心軸間を結ぶ最近接部で互いのマスタ保持手段が通過する場合があるので、マスタ保持手段同士の接触を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施形態を適用した多色孔版印刷装置の要部の正面図である。
【図2】図1の要部の拡大正面図である。
【図3】第1の実施形態における駆動機構および各印刷ドラムの天地移動機構を示す図であって、図1の背面側から視た背面図である。
【図4】第1の実施形態において、クランパ中心を基準として紙くわえ胴の凹部切欠角度を求めるための説明図である。
【図5】第1の実施形態において、クランパ片側端面を基準として紙くわえ胴の凹部切欠角度を求めるための説明図である。
【図6】第1の実施形態における印刷ドラムユニットの印刷ドラム着脱可否ランプの配置例を示す要部の簡略的な斜視図である。
【図7】第1の実施形態における操作パネルの要部の平面図である。
【図8】第1の実施形態における制御構成を示すブロック図である。
【図9】第2の実施形態における保持フレームおよび接離手段を示す要部の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図を参照して実施例を含む本発明の実施の形態(以下、単に「実施形態」という)を説明する。各実施形態等に亘り、同一の機能および形状等を有する部材や構成部品等の構成要素については、同一符号を付すことによりその説明をできるだけ省略する。図および説明の簡明化を図るため、図に表されるべき構成要素であっても、その図において特別に説明する必要がない構成要素は適宜断わりなく省略することがある。図において一対で構成されていて特別に区別して説明する必要がない構成要素は、説明の簡明化を図る上から、その片方を適宜記載することでその説明に代えるものとする。
(第1の実施形態)
図1ないし図8に、本発明の第1の実施形態を示す。図1において、符号100は、本発明を適用した印刷装置の一例としての多色孔版印刷装置を示す。符号101は多色孔版印刷装置100の装置本体としての本体フレームを示す。本体フレーム101は、後述する各装置・ユニットを覆うように配置された外装パネルおよび内部に配設された不動部材である各種側板を連結固定していて、その外側形状が略筐体状をなしている。以下、前記外装パネルおよび前記各種側板を総称して、単に本体フレーム101というときがある。
多色孔版印刷装置100は、図1に示すように、本体フレーム101に対して着脱自在に構成され、1色目印刷ドラム1a(以下、単に「印刷ドラム1a」というときがある)を有する印刷ドラムユニット70aと、同じく本体フレーム101に対して着脱自在に構成され、2色目印刷ドラム1b(以下、単に「印刷ドラム1b」というときがある)を有する印刷ドラムユニット70b’と、給送されて来た用紙32の先端部を保持する保持手段としての用紙クランパ7を備え、本体フレーム101に装着された各印刷ドラムユニット70a,70b’における各印刷ドラム1a,1b上の製版済みのマスタ12a,12bに用紙32を相対的に押し付ける、各印刷ドラム1a,1bの外径と略同径の圧胴6(以下、「紙くわえ胴6」と言い替える)とを有する。
【0035】
多色孔版印刷装置100は、紙くわえ胴6の周囲に各印刷ドラムユニット70a,70b’を配置した配置構成により、各製版済みのマスタ12a,12bを各印刷ドラム1a,1bに巻き付け、各印刷ドラム1a,1b上の製版済みのマスタ12a,12bにインキを供給して、各印刷ドラム1a,1b上の製版済みのマスタ12a,12bに、紙くわえ胴6で用紙32を順次相対的に押し付けることにより連続的に印刷を行って、同時多色印刷(第1の実施形態では同時2色印刷である)をすることが可能なように構成されている。
したがって、第1の実施形態によれば、上述した構成を有することにより、従来の第2の印刷技術と同様の利点、すなわち多色孔版印刷装置100全体の用紙搬送方向Xの幅を狭くできること、および他の紙くわえ胴等の押圧手段への用紙の受け渡しがないので用紙搬送性に優れていて、用紙搬送方向Xに長さの短い小サイズの用紙32を使用しても、各印刷ドラム1a,1bとの同期が取りやすく、印刷しやすいという利点がある。
【0036】
多色孔版印刷装置100は、前記した各印刷ドラムユニット70a,70b’および紙くわえ胴6の他に、図1に示すように、前記各印刷ドラムユニット70a,70b’に対応して本体フレーム101側にそれぞれ配設され、各印刷ドラムユニット70a,70b’を各印刷ドラム1a,1bの軸線方向に移動可能に案内・保持する案内保持手段としての本体側レール69a,69b’と、本体フレーム101に装着される各印刷ドラムユニット70a,70b’における相隣る印刷ドラム1a,1bの略中間位置に配置され、マスタ12を製版し各製版済みのマスタ12a,12bを各印刷ドラム1a,1bに給版する1つの製版・給版装置としての製版・給版ユニット10と、印刷ドラム1aの右下方に配置され給紙台31上に積載された用紙32を紙くわえ胴6の用紙クランパ7に向けて給送する給紙装置30と、本体フレーム101に装着される印刷ドラム1bの左下方に配置され各印刷ドラム1a,1bの印刷部で多色印刷された印刷済みの用紙32を排紙台(図示せず)上に排出・排紙する排紙装置40と、製版・給版ユニット10の両側に配置され本体フレーム101に装着される各印刷ドラム1a,1b上の各使用済みのマスタ12a,12bを剥離し収納する排版装置としての排版ユニット50a,50bと、製版・給版ユニット10の上方に配置され原稿の画像を読み取る原稿読取装置としてのスキャナユニット(図示せず)等とを具備する。
【0037】
本体側レール69aと本体側レール69b’と、印刷ドラムユニット70aと印刷ドラムユニット70b’とは、一部の構成を除き、略同一の機能および構成を有しているため、以下、それらを同一符号の末尾に符号aまたはbを付加することで区別することとし、その一方を詳述した場合には重複説明を避けるため他方の説明をできるだけ省略する。
【0038】
本体側レール69a,69b’は、例えば板金でできていて、断面が正面視でチャンネル状に形成されている。本体側レール69aと本体側レール69b’の断面形状とを比較すると、本体側レール69b’の方が、本体側レール69aの断面形状に対して、図1および図2における左右方向に小さくかつ上下方向に大きいことのみ相違する。
【0039】
各印刷ドラムユニット70a,70b’は、本体フレーム101に装着されたとき、用紙搬送方向Xの上流側から下流側に沿って並んで配置される。印刷ドラムユニット70aと印刷ドラムユニット70b’とは、後述する一部分を除き、それぞれ同一の機能および構成を具備している。
印刷ドラムユニット70aは、図1および図2に示すように、印刷ドラム1aと、本体側レール69aに係合して本体フレーム101内の所定位置に案内される移動可能な被係合レール部71aと、この被係合レール部71aに一体的に形成され、印刷ドラムユニット70aの重心73aよりも略鉛直方向の印刷ドラムユニット70aの上部に設けられ、印刷ドラムユニット70aの着脱操作時に用いる把手手段としての取っ手72aと、印刷ドラム1aの両側の端板(図示せず)を挟んで被係合レール部71aの図1および図2の紙面の手前側に垂設された前フレーム74aおよび図1および図2の紙面の奥側に垂設された後フレーム(図示せず)とから主に構成されている。
印刷ドラムユニット70b’は、図1および図2に示すように、印刷ドラム1bと、本体側レール69b’に係合して本体フレーム101内の所定位置に案内される移動可能な被係合レール部71b’と、この被係合レール部71b’に一体的に形成され、印刷ドラムユニット70b’の重心73bよりも略鉛直方向の印刷ドラムユニット70bの上部に設けられ、印刷ドラムユニット70bの着脱操作時に用いる把手手段としての取っ手72b’と、印刷ドラム1bの両側の端板(図示せず)を挟んで被係合レール部71b’の図1および図2の紙面の手前側に垂設された前フレーム74bおよび図1および図2の紙面の奥側に垂設された後フレーム(図示せず)とから主に構成されている。
【0040】
1色目印刷ドラム1aと2色目印刷ドラム1bとは、インキの色や動作タイミング等を除き、それぞれ同一の機能および構成を有し、直径を始めとする各部位の寸法形状も同じである。これと同様に、印刷ドラム1aの内外周りに配設された後述するクランパ5a、インキ供給手段および排版ユニット50aと、印刷ドラム1bの内外周りに配設された後述するクランパ5b、インキ供給手段および排版ユニット50bとは、配置位置を除き略同一の機能および構成を有しているので、それらを同一符号の末尾に符号aまたはbを付加することで区別することとし、その一方を詳述した場合には重複説明を避けるため他方の説明をできるだけ省略する。
また、マスタ12については、印刷ドラム1a側へ給版するものを製版済みのマスタ12aとし、印刷ドラム1b側へ給版するものを製版済みのマスタ12bとして区別して説明することとする。
【0041】
各印刷ドラム1a,1bは、後で詳述するように、印刷ドラムユニット70a、70b’を介して、各本体側レール69a,69b’に案内・保持されて本体フレーム101内に装着され印刷可能となる印刷位置と、本体フレーム101から離脱される離脱位置との間に移動可能となっている。
【0042】
印刷ドラム1aは、印刷ドラムユニット70aにおいて、ドラム軸2aおよびこのドラム軸2aに装着された図示しない軸受を介して、前フレーム74aおよび前記後フレームに回転可能に支持されている。
被係合レール部71aは、図2に拡大して示すように、例えば板金でできていて、断面が正面視でチャンネル状に形成されている。取っ手72aは、被係合レール部71aの図1および図2における紙面手前側で折り曲げ形成されていて、その断面が側面視で倒立したL字状をなす。取っ手72aは、本体側レール69aと係合して印刷ドラムユニット70aを印刷ドラム1aの軸線方向に移動可能にする機能を有する。この第1の実施形態例では、印刷ドラムユニット70aの取っ手72aを把持・操作して、印刷ドラムユニット70aを印刷ドラム軸線方向にスライドさせて前記印刷位置と前記離脱位置とを占めることができる。
被係合レール部71b’および取っ手72b’ の各断面形状は、被係合レール部71および取っ手72aの断面形状と比較すると、被係合レール部71b’および取っ手72b’の方が、被係合レール部71aおよび取っ手72aの断面形状に対して、図1および図2における左右方向に小さくかつ上下方向に大きいことのみ相違する。
【0043】
このように、第1の実施形態では、図1および図2に示すように、各印刷ドラムユニット70a,70b’が本体フレーム101内の前記印刷位置に装着されたとき、各印刷ドラムユニット70a,70b’の各印刷ドラム1a,1bは紙くわえ胴6に対して傾斜をもって装着されているが、各取っ手72a,72bは、各印刷ドラムユニット70a,70b’の重心73a,73bの鉛直方向上側に設置されているので、各印刷ドラムユニット70a,70b’の重心73a,73bを下にして各取っ手72a,72bを安定して操作できるので、各印刷ドラムユニット70a,70b’の着脱操作を行いやすくなっている。
また、各取っ手72a,72bは、前フレーム74aの上端部および被係合レール部71aの前端部に一体的に形成、換言すれば固定して設けられているので、印刷ドラムユニット70aまたは印刷ドラムユニット70b’を片手で保持し、かつ、着脱操作をできるから、各印刷ドラムユニット70a,70b’の着脱操作が行いやすくなると共に、離脱させた場合の印刷ドラムユニット70aまたは印刷ドラムユニット70b’をハンドリングする際にも操作性を向上することができる。
【0044】
印刷ドラム1aは、周知の多孔性円筒状部(この部分を版胴と呼ぶこともある)を有し、ドラム軸2aの周りに図示しない端板を介して回動自在に支持されている。印刷ドラム1aは、ドラム軸2aの中心軸線方向に延在して設けられていて、例えば特開平10−297074号公報の図4に示されている版胴1a,1bと同様の、インキ通過性の多数かつ微細な開孔部(図示せず)が形成された金属製の支持円筒体(図示せず)と、その外周面に巻き付けられた樹脂もしくは金属製のメッシュスクリーン層(図示せず)との2層構造となっている。前記支持円筒体には、クランパ5aの周辺を除くその円周上の所定の範囲にわたり前記開孔部が形成された印刷可能領域と、前記開孔部が形成されていないインキ不通過性の非印刷領域とが形成されている。
第1の実施形態における印刷ドラム1aは、少なくともインキ通過性の金属薄板層(前記支持円筒体に同じ)を有していればよく、メッシュスクリーン層は無くても、あるいは複数層有していても構わない。
【0045】
印刷ドラム1a外周部の一母線上には、図1および図2に示すように、製版済みのマスタ12aの先端部をクランプ(挟持)・保持するマスタ保持手段としての開閉自在なクランパ5aが設けられている。クランパ5aは、クランパ軸で印刷ドラム1a上に枢着されている。
クランパ5aは、それ自身が図1において略真上に位置する給版位置に印刷ドラム1aが停止したときや、印刷ドラム1a上の使用済みのマスタ12aを排版すべく排版位置に停止したとき、図示しない開閉装置により開閉される。同様に、クランパ5bは、それ自身が図1および図2において右斜め上方に位置する給版位置に印刷ドラム1bが停止したときや、印刷ドラム1b上の使用済みのマスタ12bを排版すべく排版位置に停止したとき、図示しない開閉装置により開閉される。
【0046】
各印刷ドラム1a,1bが本体フレーム101内にあるとき、図1および図2に示すように、各クランパ5a,5bの位置(位相)が異なるように、1色目印刷ドラム1aと2色目印刷ドラム1bとの間には予め初期位相差が設けられている。この初期位相差を設けた理由は、例えば特開平11−138961号公報の明細書の段落番号(0105)〜(0106)に記載されていることに基づく。
【0047】
印刷ドラム1aの内部には、図1に示すように、インキを保持するインキ貯容部としてのインキ溜まりIaを形成しながら印刷ドラム1aの内周面にインキを供給するインキ供給手段が配設されている。1色目印刷ドラム1aにおけるインキ供給手段では1色目のインキとして例えばブラック(Bk)色(以下、「黒色」と言い替える)のインキが、2色目印刷ドラム1bにおけるインキ供給手段では2色目のインキとして例えばマゼンタ(M)色(以下、「赤色」と言い替える)のインキがそれぞれ供給されるようになっている。
【0048】
印刷ドラム1aにおけるインキ供給手段は、印刷ドラム1aの内周面に黒色のインキを供給するインキ供給ローラ3aと、このインキ供給ローラ3aと僅かな間隙を置いて平行に配置され、インキ供給ローラ3aとの間にインキ溜まりIaを形成するドクターローラ4aと、インキ溜まりIaへインキを供給する図示しないインキディストリビュータ等とから構成されている。
インキは、各印刷ドラムユニット70a,70b’に設けられたインキ容器(図示せず)からインキポンプ(図示せず)により圧送され、前記インキディストリビュータを介してインキ溜まりIaへ供給される。インキ溜まりIaに供給されるインキの量は、インキ検知手段としてのインキセンサ(図示せず)やインキ検知回路(図示せず)によって検知・測定され、前記インキポンプによってインキ圧送量をコントロールされる。インキとしては、例えばW/O型のエマルションインキが良好な印刷画像品質を得る上から好ましく用いられる。
【0049】
インキ供給ローラ3aは、例えばアルミニウム、ステンレススチールなどの金属またはゴム等で形成されている。インキ供給ローラ3aは、ドラム軸2aに垂設されたインキ側板(図示せず)に、軸を持って回転自在に支持されている。インキ供給ローラ3aは、図示しないギヤ列により印刷ドラム1aと共に時計回り方向に回転する。インキ供給ローラ3aと印刷ドラム1aとの回転速度の比は、所定の値に設定されている。
【0050】
ドクターローラ4aは、例えば鉄やステンレススチールなどの金属で形成されている。ドクターローラ4aは、前記インキ側板に軸を持って回転不能に固定されている。ドクターローラ4aは、インキ供給ローラ3a上のインキ膜の厚さを所定の厚さに規制・計量する機能を有する。
なお、ドクターローラは、前記したような回転不能に固定されているものに限らず、例えば前記インキ側板に軸を持って回転可能(間欠的に回転するもの含む)に支持されていて、図示しないギヤ列等により反時計回り方向に回転するものであってもよい。このような場合、ドクターローラと印刷ドラム1aとの回転速度の比も所定の値に設定される。
【0051】
この第1の実施形態では、前記したように用紙搬送方向Xに沿って短い小サイズの用紙32を使用可能にすること、用紙32に対する印刷レジスト精度の向上、画像濃度の安定および印刷時の静音化等を図る目的で押圧手段として紙くわえ胴6を用いている。紙くわえ胴6は、図1にその概略を示すように、その外径寸法(直径)が印刷ドラム1aの外径寸法(直径)と略等しく形成されている。印刷ドラム1aが1回転したとき、紙くわえ胴6も1回転する。このため、給送されて来た用紙32の先端部をクランプ(挟持)する用紙クランパ7を紙くわえ胴6上に設けることができ、用紙32の先端を用紙クランパ7に突き当てながら給紙することで、用紙32に対する印刷レジスト精度を向上することができる。
【0052】
図1に示すように、紙くわえ胴6が反時計回り方向に回転し、紙くわえ胴6における用紙クランパ7の回転位置(以下、「用紙くわえ位置」というときがある)で、用紙32の先端を用紙クランパ7に突き当てた後、用紙クランパ7が閉じることで、用紙32の先端部が用紙クランパ7によりクランプ・保持される。次いで、紙くわえ胴6がさらに反時計回り方向に回転し、紙くわえ胴6における用紙クランパ7が印刷ドラム1bのインキ供給ローラ3bと対向する位置から若干進んだ回転位置(以下、「用紙排出位置」というときがある)で用紙クランパ7が開き、インキが用紙32に転写される各印刷ドラム1a,1bの印刷部(ニップ部)よりすぎた位置で用紙32の先端部が排出されるので、用紙32がインキの粘着力により各印刷ドラム1a,1bに巻き上がらないという利点もある。
【0053】
紙くわえ胴6の外周部には、各印刷ドラム1a,1bの外周面に製版済みのマスタ12a,12bを介して接触する円筒部と、各印刷ドラム1a,1bにおけるクランパ5a,5bとの接触・衝突を避けるためにくぼんだ凹部8とが形成されている。紙くわえ胴6は実施例的にいうと、その本体部分には合成樹脂が使用されていて軽量化を図っていると共に、前記円筒部の外周には例えばニトリルゴムが巻着されていて紙くわえ胴6の回転ムラを低減している。紙くわえ胴6は、自身の中心に配設された軸9の周りに回転自在に支持されている。
【0054】
紙くわえ胴6の凹部8には、用紙32の先端部をクランプ・保持する開閉自在な用紙クランパ7が設けられている。用紙クランパ7にはマグネットを用いたクランプ方式が採用されていると共に、用紙クランパ7は、凹部8に配置された用紙クランパ軸にその基端部を固定されていて、図示しないスプリングにより常に閉じる向きに付勢されている。用紙クランパ7は、本体フレーム101側に配置された図示しないカムにより所定のタイミングで開き、用紙32の先端部をくわえた後閉じることで、紙くわえ胴6の外周面上に用紙32を保持する。
用紙クランパ7周りの細部の構造は、例えば本願出願人が提案した特開平11−99735号公報の図1ないし図6および図8ないし図10や、特開平11−147358号公報の図23ないし図25、あるいは特開2000−33764公報の図1、図2、図22および図26等に開示されているものと同様である。
【0055】
紙くわえ胴6の凹部8の形成範囲は、後述するように、各印刷ドラム1a,1bのクランパ5a,5bとの接触・衝突を避ける特有の範囲および位相関係をもって設定されている。紙くわえ胴6のホームポジションは、図2に二点鎖線で示すように、凹部8の中央部が略真上に位置するときに設定されている。
【0056】
紙くわえ胴6を用いた印刷装置では、紙くわえ胴6を用いた前記理由から当然にその解除量が小さく設定されるので、各印刷ドラムユニット70a,70b’を引き出し・離脱する際には、各クランパ5a,5bを含めて各印刷ドラム1a,1bが紙くわえ胴6に接触しないようにする必要がある。
このようなことから、各印刷ドラムユニット70a,70b’は、各印刷ドラム1a,1bが回転方向の離脱位置で停止したとき離脱可能に構成されている。そして、前記離脱位置は、各印刷ドラム1a,1bの各クランパ5a,4bが紙くわえ胴6の凹部8に対応した範囲内にあるときに設定されている。換言すれば、前記離脱位置は、各印刷ドラム1a,1bの各クランパ5a,4bが用紙クランパ7を含めた紙くわえ胴6に接触することなく紙くわえ胴6の凹部8の中に入るように予め設定されている。印刷ドラムユニット70aの1色目印刷ドラム1aの前記離脱位置は、例えば図4および図5に示されている位置に設定されている。印刷ドラムユニット70b’の2色目印刷ドラム1bの前記離脱位置は、例えば図1、図2および図3に示されている位置に設定されている。
【0057】
したがって、各印刷ドラムユニット70a,70b’の印刷ドラム1a,1bが前記離脱位置を占めたとき、各印刷ドラムユニット70a,70b’を引き出し・離脱するようにすれば、各印刷ドラム1a,1bのクランパ5a,5bなどの突出部材によって、紙くわえ胴6や各印刷ドラム1a,1bを含む印刷ドラムユニット70a,70b’あるいはクランパ5a,5b自身の損傷を防止できることとなる。
【0058】
製版・給版ユニット10は、マスタ12を繰り出し可能に貯容するマスタ貯容手段としてのマスタ支持部材11と、マスタロール13から繰り出されたマスタ12の搬送方向を図1における左斜め下方から右斜め下方に変える回転自在なガイドローラ14と、マスタ12を画像情報に応じて加熱穿孔・製版するための多数の発熱素子を備えた製版手段としてのサーマルヘッド15と、サーマルヘッド15によりマスタ12を押圧されながらマスタ搬送経路Mの下流側にマスタ12を搬送する回転自在なプラテンローラ16と、プラテンローラ16よりもマスタ搬送経路Mの下流側に配設され製版済みのマスタ12a,12bまたは未製版のマスタ12を所定の長さに切断するカッタ17と、カッタ17よりもマスタ搬送経路Mの下流側に配設され製版済みのマスタ12a,12bをマスタ搬送経路Mの下流側に搬送し、切断時等のために製版済みのマスタ12a,12bに張力を与える回転自在なテンションローラ対18と、テンションローラ対18よりもマスタ搬送経路Mの下流側に配設され、各印刷ドラム1a,1bの何れか一方に製版済みのマスタ12a,12bを給送する回転自在な給版ローラ対19と、テンションローラ対18と給版ローラ対19との間に配設され、製版済みのマスタ12a,12bや未製版のマスタ12を給版ローラ対19へ案内するための、可動ガイド板23aと共にマスタ搬送経路Mを形成する固定ガイド板23bと、テンションローラ対18と給版ローラ対19との間に配設され、排版動作中に、製版済みのマスタ12a,12bを略水平方向に延ばして貯容する製版済マスタ貯容手段としてのマスタストック装置20等とを具備している。
多色孔版印刷装置100における製版・給版ユニット10の配置構成は、新規であって特有の効果を有するが、これについては本願出願人が先に提案した特願2000−231142号に詳細に記載されているのでそれを参照されたい。製版・給版ユニット10の各構成要素は、何れも周知であるため、その説明を省略し、後述する動作で補足説明する。
【0059】
マスタ12は、連続シート状をなし、合成樹脂製の芯管13Aに巻き付けられてマスタロール13が形成される。マスタ12としては、例えばポリエステルテレフタレート(PET)系の熱可塑性樹脂フィルムに多孔質支持体(ベース)として和紙等を貼り合わせたマスタが用いられている。マスタロール13は、マスタ12の熱可塑性樹脂フィルム面を内側にして芯管13Aの周りに巻き付けられた前記フィルム面がいわゆる内巻きの例を示す。
マスタ12は、前記のものに限らず、非常に薄い実質的に熱可塑性樹脂フィルムのみからなるものや、実質的に熱可塑性樹脂フィルムのみからなるマスタ(その厚さが約1〜8μm)程ではないが、前記マスタ12(その厚さが約40〜50μm程度)よりも厚さが薄く(厚さ20〜30μm)、かつ、ベースにおける合成繊維の混抄率が高いマスタ、例えば極端に合成繊維の混抄率が高いポリエチレンテレフタレート(PET)100%からなるベースを有する合成繊維ベースマスタを用いることも可能である。また、マスタ12の熱可塑性樹脂フィルム面を外側にして芯管13Aの周りに巻き付けられた前記フィルム面がいわゆる外巻きのマスタロールも使用可能である。
【0060】
図1における右側の給版ローラ19近傍には、製版済みのマスタ12aの先端を1色目印刷ドラム1aへ給送するための1色目給送経路を形成する図示しない1色目給版ガイド板が配置されている。一方、図1における左側の給版ローラ19近傍には、製版済みのマスタ12bの先端を2色目印刷ドラム1bへ給送するための2色目給送経路を形成する図示しない2色目給版ガイド板が配置されている。
【0061】
給版ローラ対19よりもさらに給送経路の下流側には、前記1色目給送経路および前記2色目給送経路のうちの何れか一方に切り替えて、各印刷ドラム1a,1bヘ製版済みのマスタ12a,12bを供給するマスタ給送経路切替手段としての給版切替ガイド(図示せず)が配設されている。
前記給版切替ガイドは、ソレノイド等のアクチュエータおよびバネ等の付勢手段の組み合わせ駆動機構(図示せず)によって、図示しないガイド軸を中心として、時計回り方向または反時計回り方向に揺動するように駆動される。
【0062】
排版ユニット50aは、製版・給版ユニット10の図1において右側に近接して配置されている。排版ユニット50bは、製版・給版ユニット10の図1において左側に近接して配置されている。以下、排版ユニット50a側の構成についてのみ説明する。
排版ユニット50aは、1色目印刷ドラム1aの外周面に近接自在に配置され、1色目印刷ドラム1a上の使用済みのマスタ12aの先端部を剥離し案内するマスタ剥がし爪51aと、このマスタ剥がし爪51aにより剥離・案内された使用済みのマスタ12aを排版ボックス53a内に搬送する排版搬送ローラ対52aと、この排版搬送ローラ対52aにより搬送されてきた使用済みのマスタ12aを収納する排版ボックス53aとから主に構成されている。
【0063】
なお、各排版ユニット50a,50bは、前述したものに限らず、例えば実公平2−274号公報の第1図ないし第5図に示されているものや、特開平5−286223号公報の図1ないし図6等に示されている自動排版装置や、特開平8−142484号公報記載の排版装置でもよい。
【0064】
給紙装置30は、エレベータ方式の昇降自在な給紙台31と、給紙側板(図示せず)に回転自在に支持された呼出しコロ33および分離コロ34と、分離コロ34に圧接し用紙32の重送を防止するための分離パッド35と、紙くわえ胴6の用紙クランパ7に向けて所定のタイミングで用紙32の先端を送り出すレジストローラ対36とから主に構成されている。
【0065】
給紙台31は、その上に用紙32を積載され、本体フレーム101に昇降自在に支持されている。給紙台31は、用紙32の増減に連動して図示しないモータ装置により上下動される。呼出しコロ33は、給紙台31上の最上位の用紙32と当接するように設けられており、分離コロ34および分離パッド35は、その協働作用により呼出しコロ33によって送り出されてきた用紙32を1枚に分離する機能を有する。用紙32を1枚ずつ分離してレジストローラ対36に向けて用紙32の先端を給送する給紙手段は、前記した呼出しコロ33、分離コロ34および分離パッド35から構成されている。
呼出しコロ33と分離コロ34とは、プーリおよびベルト等の回転伝達部材を介して回転伝達関係にあり、前記メインモータとは独立して配設された給紙モータ(図示せず)により回転駆動される。レジストローラ対36は、前記メインモータとは独立して配設されたレジストモータ(図示せず)により回転駆動される。前記給紙モータおよび前記レジストモータは、例えばステッピングモータからなる。
【0066】
排紙装置40は、印刷ドラム1bの左下方に配置され各印刷ドラム1a,1bの印刷部で多色印刷された印刷済みの用紙32を受渡・排紙される図示しない排紙爪と、この排紙爪に受け渡された印刷済みの用紙32を多孔性の搬送ベルトで強制的に吸着・搬送して排紙台(図示せず)上に排出する周知の排紙搬送ユニット41と、前記排紙台とから主に構成されている。
排紙搬送ユニット41は、例えば特開平10−297074号公報の図1等に示されているものと同様の構成を有し、周知の動作を行う。
【0067】
前記スキャナユニットは、例えば特開平4−189544号公報の第2図等に記載されている構成と同様のものであり、原稿の表面からミラー群および結像レンズ等を介して結像された反射光に対応して光電変換を行うCCD(電荷結合素子)等からなる画像センサおよびスキャナモータ(図示せず)等を備えた周知の原稿走査用光学系を有する。
また、前記スキャナユニットには、多色重ね刷り印刷に必要な色分解のための諸機能を有する構成、例えば特開昭64−18682号公報記載の複数の色フィルターを切換可能に制御できるフィルターユニットと同様の機能および構成を有するものが、スキャナユニット45のミラー群と結像レンズとの間の光路上に配設されていて、同公報記載と略同様の自動製版等の動作を行えるようになっているものでもよいし、色分解機能のない単色のスキャナでもよい。
【0068】
図3を参照して、本体フレーム101に装着された各印刷ドラムユニット70a,70b’の各印刷ドラム1a,1bおよび紙くわえ胴6を回転駆動する駆動機構110および紙くわえ胴6の回転方向の位相に対して各印刷ドラム1a,1bの回転方向の位相を調整するための天地移動手段としての天地移動機構について説明する。
【0069】
図3は、図1および図2に示されている多色孔版印刷装置100の要部を図1および図2の紙面の背面側から視た状態を示しており、駆動機構110および前記天地移動機構は、図1および図2では紙面の奥側に配設されている。図3では、駆動機構110および前記天地移動機構を明確に表すために、前記後フレームの図示を省略している。
【0070】
駆動機構110は、本体フレーム101側に固設された単一のメインモータ111と、メインモータ111の出力軸に固設された駆動プーリ小112と紙くわえ胴6の端板に固設された駆動プーリ大113との間に掛け渡された駆動ベルト114と、駆動プーリ大113と同軸に設けられたドラム駆動ギヤ116と、ドラム駆動ギヤ116と噛み合い1色目印刷ドラム1aを回転駆動するための1色目駆動機構115aと、ドラム駆動ギヤ116と噛み合い2色目印刷ドラム1bを回転駆動するための2色目駆動機構115bとから主に構成される。
1色目駆動機構115aと2色目駆動機構115bとは、配置位置を除き略同一の機能および同じ構成要素を有しているので、それらを同一符号の末尾に符号aまたはbを付加することで区別することとし、その一方を詳述した場合には重複説明を避けるため他方の説明をできるだけ省略する。
【0071】
1色目駆動機構115aは、第1リンク120aによりドラム駆動ギヤ116に連結され、ドラム駆動ギヤ116に噛み合う第1天地ギヤ117aと、第2リンク121aにより第1天地ギヤ117aに連結され、第1天地ギヤ117aに噛み合う第2天地ギヤ118aと、第3リンク122aにより第2天地ギヤ118aに連結され、第2天地ギヤ118aに噛み合う1色目駆動ギヤ119aとから主に構成される。
同様に、2色目駆動機構115bは、第1リンク120bによりドラム駆動ギヤ116に連結され、ドラム駆動ギヤ116に噛み合う第1天地ギヤ117bと、第2リンク121bにより第1天地ギヤ117bに連結され、第1天地ギヤ117bに噛み合う第2天地ギヤ118bと、第3リンク122bにより第2天地ギヤ118bに連結され、第2天地ギヤ118bに噛み合う2色目駆動ギヤ119bとから主に構成される。
【0072】
メインモータ111は、本体フレーム101内から離脱すべき印刷ドラムユニット70aの1色目印刷ドラム1aまたは印刷ドラムユニット70b’の2色目印刷ドラム1bを回転駆動するドラム駆動手段としての機能を有する。メインモータ111としては、駆動トルクを十分に確保する上からDCモータが好ましく用いられ、このDCモータには周知の制動手段が付設されている。1色目駆動ギヤ119aは、本体フレーム101側に回動自在に設けられていて、図示しないオルダム継手を介して1色目印刷ドラム1aの前記端板に対して係脱自在に連結されている。同様に、2色目駆動ギヤ119bは、本体フレーム101側に回動自在に設けられていて、図示しないオルダム継手を介して2色目印刷ドラム1bの前記端板に対して係脱自在に連結されている。
なお、メインモータ111は、DCモータに限らず、ステッピングモータなどのパルス駆動可能なものでもよい。
【0073】
上述した駆動機構110により、紙くわえ胴6は、メインモータ111の駆動によって駆動ベルト114を介して時計回り方向に回転駆動される。また、メインモータ111の駆動により、紙くわえ胴6の回転と同期して、1色目駆動機構115aによって1色目印刷ドラム1aが、2色目駆動機構115bによって2色目印刷ドラム1bがそれぞれ反時計回り方向に回転駆動される。
【0074】
次に、天地移動機構について説明する。
この天地移動機構を設けた理由は、以下のとおりである。すなわち、多色孔版印刷装置100は、複数の印刷ドラム1a,1bを有するため、各印刷ドラム1a,1bに製版済みのマスタ12a,12bを巻き付ける際に、マスタ搬送方向での着版位置にバラツキが生じることで、各色間での製版画像位置、すなわち印刷画像位置にバラツキが生じ、1つの印刷ドラムに対する用紙給送タイミングを調整しただけでは各色間での印刷画像位置ずれを補正できないため、各色間の印刷画像位置の天地調整のために天地移動を行うことが必然的となるからである。
【0075】
1色目印刷ドラム1a側の天地移動機構は、前記した、第1リンク120aによりドラム駆動ギヤ116に連結され、ドラム駆動ギヤ116に噛み合う第1天地ギヤ117aと、第2リンク121aにより第1天地ギヤ117aに連結され、第1天地ギヤ117aに噛み合う第2天地ギヤ118aと、第3リンク122aにより第2天地ギヤ118aに連結され、第2天地ギヤ118aに噛み合う1色目駆動ギヤ119aと、第1リンク120aに植設されたピン123aと、このピン123aに係合可能に本体フレーム101側に設けられた図示しない確動カムと、この確動カムを回転駆動する、本体フレーム101側に設けられた図示しない1色目カム駆動モータとから主に構成される。
【0076】
同様に、2色目印刷ドラム1b側の天地移動機構は、前記した、第1リンク120bによりドラム駆動ギヤ116に連結され、ドラム駆動ギヤ116に噛み合う第1天地ギヤ117bと、第2リンク121bにより第1天地ギヤ117bに連結され、第1天地ギヤ117bに噛み合う第2天地ギヤ118bと、第3リンク122bにより第2天地ギヤ118bに連結され、第2天地ギヤ118bに噛み合う2色目駆動ギヤ119bと、第1リンク120bに植設されたピン123bと、このピン123bに係合可能に本体フレーム101側に設けられた図示しない確動カムと、この確動カムを回転駆動する、本体フレーム101側に設けられた図示しない2色目カム駆動モータとから主に構成される。
【0077】
前記確動カムは、例えば溝を備えた拘束カムからなる。これにより、各第1リンク120a,120bは、1色目確動カム駆動モータや2色目確動カム駆動モータにより変位・駆動された所定位置で保持されることとなる。1色目駆動ギヤ119aおよび2色目駆動ギヤ119bの各軸心は、本体フレーム101側に固定されている。
【0078】
1色目印刷ドラム1a側の天地移動動作を説明する。前記1色目カム駆動モータの駆動により、ピン123aが前記確動カムとの摺接・係合によって移動されると、第1リンク120aは紙くわえ胴6を中心に所定の角度分回動し、それにつれて第1天地ギヤ117a、第2天地ギヤ118aが第1リンク120a、第2リンク121a、第3リンク122aで連結されているので、第1天地ギヤ117aが自転しながらドラム駆動ギヤ116の周りを、第2天地ギヤ118aが自転しながら1色目駆動ギヤ119aの周りを移動する。このとき、ドラム駆動ギヤ116は、メインモータ111の停止時の負荷により1色目印刷ドラム1aの回転負荷よりも相対的に大きいために回転せず、第1天地ギヤ117a、第2天地ギヤ118aおよび1色目駆動ギヤ119aのみが回転することとなる。この動作によって、第1天地ギヤ117aおよび第2天地ギヤ118aは遊星ギヤ機構をなし、1色目駆動ギヤ119aはドラム駆動ギヤ116に対して所定の位相差が生じる。これにより、1色目印刷ドラム1aは、紙くわえ胴6に対して所定の位相差を生じて、1色目印刷ドラム1aに巻装された製版済みのマスタ12aの製版画像の回転方向の位置、すなわち用紙32の天地方向における印刷画像位置を移動させることができる。
2色目印刷ドラム1b側の天地移動動作も、上述したと同様にして、紙くわえ胴6に対して所定の位相差を作ることができて、天地移動が可能になっている。
【0079】
ここで、図4および図5を参照して、請求項5に係る技術事項を説明する。
図4および図5において、各印刷ドラム1a,1bおよび紙くわえ胴6の外径(直径)を共に、例えば180mm(φ180)とし、各印刷ドラム1a,1bのドラム配置角度θ1=66.66°(θ1/2=33.33°)とし、紙くわえ胴6の凹部8の凹部切欠角度をθ2とし、クランパ幅角度θ3=31.8°(θ3/2=15.9°)(但し、各クランパ5a,5bの各印刷ドラム1a,1bの回転方向におけるクランパ幅を50mmとしたとき)とし、マスタ先端余白角度θ4=31.8°(但し、1色目印刷ドラム1a上の製版済みのマスタ12aの製版画像における先端余白=50mmとしたとき)とし、2色目印刷ドラム1bによる天地移動量の片側分角度θ5=19.1°(但し、印刷画像位置が天(前)方向へ進む側で、用紙32における天地移動量を±30mmとしたとき)、2色目印刷ドラム1bの余裕回転角度θ6=31.66°としたとき、従来の技術で説明したような問題点を生じない紙くわえ胴6の適正な凹部切欠角度θ2を求める。なお、図5の符号θ8は、θ3+θ5を表している。符号Pa,Pbは、製版済みのマスタ12aおよび用紙32を介して、1色目印刷ドラム1aの外周面と紙くわえ胴6の外周面とが印圧開始時に互いに接触し始める接触開始位置をそれぞれ表している。
【0080】
ドラム配置角度θ1は、相隣る各印刷ドラム1a,1bの一方の印刷ドラム1aの回転中心軸と紙くわえ胴6の回転中心軸とを結ぶ線分と、相隣る各印刷ドラム1a,1bの他方の印刷ドラム1bの回転中心軸と紙くわえ胴6の回転中心軸とを結ぶ線分とのなす角度をいう。凹部切欠角度θ2は、紙くわえ胴6の回転中心軸を中心として凹部8の範囲に対応して形成される角度をいう。クランパ幅角度θ3は、各印刷ドラム1a,1bの回転中心軸を中心として各クランパ5a,5b(マスタ保持手段)の範囲に対応して形成されるマスタ保持手段形成角度をいう。
マスタ先端余白角度θ4は、クランパ5a(マスタ保持手段)に保持された製版済みのマスタ12aの製版画像先端までの範囲に対応して形成される角度をいう。マスタ先端余白角度θ4は、1色目印刷ドラム1aのクランパ5aが紙くわえ胴6の凹部8に対向・離間してから1色目印刷ドラム1aの外周面上の製版済みのマスタ12aと紙くわえ胴6の外周面とが接触するまでの1色目印刷ドラム1aの回転角で決まり、その接触までの助走距離(角度)でもある。天地移動量の片側分角度θ5は、前記天地移動手段による位相調整可能な角度のうち2色目印刷ドラム1b上の製版済みのマスタ12bの製版画像がホームポジションから回転方向の進み側へ偏倚した位相調整角度をいう。2色目印刷ドラム1bの余裕回転角度θ6は、2色目印刷ドラム1bの外周面が紙くわえ胴6の外周面と接触するまで回転可能な角度をいう。
【0081】
まず、図4において、各クランパ5a,5bの中心を基準にした場合の紙くわえ胴6の好ましい凹部切欠角度θ2を求める。図4の幾何学的関係より、
θ6=θ1−θ3/2−θ5…(1)
θ2=θ1+θ3/2+θ4−θ6…(2)
(1)式と(2)式との関係から、θ2=θ1+θ3/2+θ4−(θ1−θ3/2−θ5)=θ3+θ4+θ5が得られる。
【0082】
次に、図5において、各クランパ5a,5bの片側端面を基準にした場合の紙くわえ胴6の好ましい凹部切欠角度θ2を求める。図5の幾何学的関係より、
θ2=θ1−θ6+θ4…(3)
θ6=θ1−θ3−θ5…(4)
(3)式と(4)式との関係から、θ2=θ1−(θ1−θ3−θ5)+θ4
=θ3+θ4+θ5となって、図4において求めた凹部切欠角度θ2と同様の結果が得られる。
【0083】
以上から、好ましい凹部切欠角度θ2は、クランパ幅角度θ3と、マスタ先端余白角度θ4と、天地移動量の片側分角度θ5とを加算した値以上に設定されていればよいことが分かる(請求項5参照)。そして、さらに好ましい凹部切欠角度θ2は、紙くわえ胴6の用紙クランパ7が配置されているスペース分に対応する用紙クランパ角度θ7を考慮して、θ2=θ3+θ4+θ5+θ7以上に設定されていればよいと言える。
【0084】
次に、図4を参照して、請求項10に係る技術事項について説明する。
2色目印刷ドラム1bのクランパ5b配置部は、紙くわえ胴6の外周面との接触点より、さらに2色目印刷ドラム1bの回転方向の上流側にドラム配置角度θ1だけ戻った位置になる。2色目印刷ドラム1bが天地移動調整されて図4において二点鎖線で示すクランパ5b配置部が2色目印刷ドラム1bの回転方向の下流側に進んだときでも、図4において実線で示す位置ではクランパ5b配置部が紙くわえ胴6の外周面に接触しないで凹部内に入り、2色目印刷ドラム1bおよび紙くわえ胴6が共に余裕回転角度θ6だけ回転したときにも、二点鎖線で示すクランパ5b配置部が回転移動してきた紙くわえ胴6の凹部8と外周面との境界部分に接触しないようになっている。
しかし、例えば2色目印刷ドラム1bの天地移動方向が逆方向に移動されると、1色目印刷ドラム1aと2色目印刷ドラム1bとのクランパ5a,5bは、丁度2つの印刷ドラム1a,1bの回転中心軸を結ぶ線分上付近で交差することがあり、2つのクランパ5a,5b同士の接触を防止する必要がある。これは、ドラム間隔を狭め装置全体を小型化する上で重要となってくる。
【0085】
これらの天地移動調整量を考慮して、相隣る各印刷ドラム1a,1b上の製版済みのマスタ12a,12b装着面からのクランパ5a,5bの高さまたは前記マスタ装着面から最外周部までの高さをHとし、相隣る各印刷ドラム1a,1bの前記マスタ装着面までの半径をRとしたとき、相隣る各印刷ドラム1a,1bの回転中心軸間の距離Lは、L≧2R+2Hを満足しなければならないことは、明らかである(請求項10参照)。
【0086】
なお、駆動機構110および前記天地移動機構は、これに限らず、例えば特開平10−297074号公報の図9や図10等に示されているようなベルト方式によっても構成することが可能である。
【0087】
本体フレーム101には、図6に示すように、各印刷ドラムユニット70a,70b’を着脱する際の出入口である着脱口90a,90bがそれぞれ形成されている。本体フレーム101の前面側には、着脱口90a,90bを覆う開閉自在な開閉部材としてのドアカバー91が設けられている。ドアカバー91は、合成樹脂等で一体成形されていて、本体フレーム101に対してドアヒンジ92を介して開閉可能となっている。ドアカバー91の図において右下部には、遮光片93が本体フレーム101の着脱口90a,90bに対向可能にドアカバー91から突出して取り付けられている。なお、ドアカバー91に対する遮光片93の取り付け位置の図示は、図の簡明化を図るため、スケールアウトしている。
【0088】
一方、本体フレーム101の図において左下部には、ドアカバー91の開閉状態を検知する開閉検知手段としてのドアカバー開閉センサ94が設けられている。ドアカバー開閉センサ94の配置部近傍の本体フレーム101の前面パネルには、遮光片93を挿通可能とする検知口95が形成されている。ドアカバー開閉センサ94は、透過型の光学センサからなり、ドアカバー91が閉じられたときに、遮光片93が検知口95に嵌入しドアカバー開閉センサ94と係合することによりドアカバー91の閉じ状態をオン検知するものである。本体フレーム101の図において右側壁には、多色孔版印刷装置100への電力の供給をオン/オフする電源スイッチ89が配置されている。
【0089】
本体フレーム101における各着脱口90a,90bの上方近傍には、多色孔版印刷装置100の動作状態を表示するための各種表示器が配置されている。すなわち、本体フレーム101における着脱口90aの上方近傍には、印刷ドラムユニット70aが着脱可能な状態にあることを表示するための1色目ドラム着脱可ランプ96および印刷ドラムユニット70aが着脱不可能な状態にあることを表示するための1色目ドラム着脱不可ランプ97が配置されている。本体フレーム101における着脱口90bの上方近傍には、印刷ドラムユニット70b’が着脱可能な状態にあることを表示するための2色目ドラム着脱可ランプ98および印刷ドラムユニット70b’が着脱不可能な状態にあることを表示するための2色目ドラム着脱不可ランプ99が配置されている。
【0090】
上記したとおり、1色目ドラム着脱可ランプ96および2色目ドラム着脱可ランプ98は、離脱すべき印刷ドラムユニット70aの1色目印刷ドラム1aまたは印刷ドラムユニット70b’の2色目印刷ドラム1bが前記離脱位置に停止したときに、印刷ドラムユニット70aの1色目印刷ドラム1aまたは印刷ドラムユニット70b’の2色目印刷ドラム1bが前記離脱位置にあることを報知する報知手段としての機能を有する(請求項3参照)。
また、1色目ドラム着脱可ランプ96、1色目ドラム着脱不可ランプ97、2色目ドラム着脱可ランプ98および2色目ドラム着脱不可ランプ99は、各印刷ドラムユニット70a,70b’の着脱可否状態を表示するためのドラム着脱可否表示手段としての機能を有する。
これらの各ランプ96,97,98,99は、それぞれ発光素子としての発光ダイオードからなり、該発光ダイオードには各印刷ドラムユニット70a,70b’の着脱可および着脱不可状態に対応した色別表示がなされている。1色目ドラム着脱可ランプ96および2色目ドラム着脱可ランプ98は、例えば緑色の発光ダイオードを用いていて、発光ダイオード駆動回路を介して点滅したり点灯表示したりする。1色目ドラム着脱不可ランプ97および2色目ドラム着脱不可ランプ99は、例えば赤色の発光ダイオードを用いていて、発光ダイオード駆動回路を介して点滅したり点灯表示したりする。
【0091】
図6に示されている着脱口90a,90bの奥側の本体フレーム101には、特開平11−138961号公報の図4に示されていると同様の、この第1の実施形態1では図示しない本体着脱コネクタが配置され、一方、ドラムユニット70aの前記後フレーム外壁には前記本体着脱コネクタと係合する着脱コネクタが配置されている。前記本体着脱コネクタは外部電源や図8に示す制御装置80等に接続されており、一方、前記着脱コネクタは、前記インキ検知手段および前記インキポンプ等に接続されている。ドラムユニット70aが、本体側レール69aを介して本体フレーム101内に装着されたとき、前記着脱コネクタが前記本体着脱コネクタと結合して、前記電力の授受あるいは前記各信号の送受信が行われると共に、本体フレーム101におけるドラムユニット70aの有り状態が電気的に検知される。これは、ドラムユニット70b’でも同様であり、前記各着脱コネクタおよび前記各本体着脱コネクタは、図8のみに示す1色目ドラム有無センサ66、2色目ドラム有無センサ67の機能・構成を有している。
【0092】
各ドラムユニット70a,70b’には、本体フレーム101内から離脱したとき、各クランパ5a,5bが紙くわえ胴6の凹部に対応した離脱位置にある位置で固定される周知の装置(図示せず)が付いており、各印刷ドラム1a,1bの回転方向の位相を変えずに離脱したときと同じ状態で装着できるようになっている。
【0093】
次に、図7を参照して多色孔版印刷装置100を操作するための操作パネル55を説明する。
操作パネル55は、前記スキャナの上部の一側部に配設されている。操作パネル55には、図7に示すように、原稿の画像の読み取りから排版、製版、給版、版付け印刷、排紙工程に至るまでの一連の工程(動作)を起動するための動作起動設定手段としてのスタートキー56と、印刷枚数等を入力・設定するためのテンキー58と、このテンキー58で置数(入力・設定)された印刷枚数分の印刷動作の起動を行うためのプリントキー57と、本体フレーム101内から離脱すべき1色目印刷ドラム1aを備えた印刷ドラムユニット70aを離脱可能な状態に設定するための個別ドラム離脱設定手段としての1色目ドラム離脱キー60、および本体フレーム101内から離脱すべき2色目印刷ドラム1bを備えた印刷ドラムユニット70b’を離脱可能な状態に設定するための個別ドラム離脱設定手段としての2色目ドラム離脱キー61等の各種キーが配置されている。
1色目ドラム離脱キー60は、本体フレーム101内へ装着すべき1色目印刷ドラム1aを備えた印刷ドラムユニット70aを装着可能な状態に設定するための個別ドラム装着設定手段としての機能も有する。同じく、2色目ドラム離脱キー61は、本体フレーム101内へ装着すべき2色目印刷ドラム1bを備えた印刷ドラムユニット70b’を装着可能な状態に設定するための個別ドラム装着設定手段としての機能も有する。
【0094】
操作パネル55上には、印刷ドラムユニット70aが着脱可能な状態にあることを表示するための1色目ドラム着脱可ランプ62、印刷ドラムユニット70aが着脱不可能な状態にあることを表示するための1色目ドラム着脱不可ランプ63、印刷ドラムユニット70b’が着脱可能な状態にあることを表示するための2色目ドラム着脱可ランプ64、印刷ドラムユニット70b’が着脱不可能な状態にあることを表示するための2色目ドラム着脱不可ランプ65および各印刷ドラムユニット70a,70b’の着脱可否状態を表示するための液晶表示部59が配置されている。
上述したとおり、1色目ドラム着脱可ランプ62、2色目ドラム着脱可ランプ64および液晶表示部59は、離脱すべき印刷ドラムユニット70aの1色目印刷ドラム1aまたは印刷ドラムユニット70b’の2色目印刷ドラム1bが前記離脱位置に停止したときに、印刷ドラムユニット70aの1色目印刷ドラム1aまたは印刷ドラムユニット70b’の2色目印刷ドラム1bが前記離脱位置にあることを報知する報知手段としての機能を有する(請求項3参照)。
また、液晶表示部59、1色目ドラム着脱可ランプ62、1色目ドラム着脱不可ランプ63、2色目ドラム着脱可ランプ64および2色目ドラム着脱不可ランプ65は、各印刷ドラムユニット70a,70b’の着脱可否状態を表示するためのドラム着脱可否表示手段としての機能を有する。
【0095】
これらの各ランプ62,63,64,65は、それぞれ発光素子としての発光ダイオードからなり、該発光ダイオードには各印刷ドラムユニット70a,70b’の着脱可および着脱不可状態に対応した色別表示がなされている。1色目ドラム着脱可ランプ62および2色目ドラム着脱可ランプ64は、例えば緑色の発光ダイオードを用いていて、発光ダイオード駆動回路を介して点滅したり点灯表示したりする。1色目ドラム着脱不可ランプ63および2色目ドラム着脱不可ランプ65は、例えば赤色の発光ダイオードを用いていて、発光ダイオード駆動回路を介して点滅したり点灯表示したりする。
【0096】
なお、操作パネル55においては、上述したものに限らず、印刷ドラムユニット70aが着脱可能な状態にあることを表示するための1色目ドラム着脱可ランプ62と、印刷ドラムユニット70b’が着脱可能な状態にあることを表示するための2色目ドラム着脱可ランプ64とだけを配設して、各印刷ドラムユニット70a,70b’が着脱可能な状態にあるときに発光ダイオード駆動回路を介して点滅したり点灯したりし、着脱位置でないときには消灯として状態表示することもできる。また、着脱可能表示を点灯としたとき、着脱位置への回転移動中は点滅とし、回転移動待機中の状態表示とすることもできる。
【0097】
液晶表示部59は、液晶表示装置からなり、液晶駆動回路を介して各印刷ドラムユニット70a,70b’の着脱位置への回転位置状態を絵表示したり、文字表示したり、あるいは必要な操作内容を表示したりする。液晶表示部59は、図示しない排紙検知センサからの排紙不良信号に基づいて、該排紙不良を生じた印刷ドラムユニット70aまたは印刷ドラムユニット70b’を報知・表示したりもする。
【0098】
次に、図8を参照して、上述しなかった一部の制御構成要素を含め、制御装置80の要部の制御構成について説明する。
図3および図8において、メインモータ111は、図示しないモータ駆動回路を介して制御装置80を構成しているCPU81に接続されており、前記モータ駆動回路を介してCPU81との間でオン/オフ信号やデータ信号あるいは指令信号の送受信を行っている。
【0099】
図3において、本体フレーム101の所定位置には、本体フレーム101内から離脱すべき印刷ドラムユニット70aの1色目印刷ドラム1aの回転位置を検知するドラム回転位置検知手段としての1色目ドラム着脱位置検知センサ87(図8のみに示す)が固設されている。同様に、本体フレーム101の所定位置には、本体フレーム101内から離脱すべき印刷ドラムユニット70b’の2色目印刷ドラム1bの回転位置を検知するドラム回転位置検知手段としての2色目ドラム着脱位置検知センサ88(図8のみに示す)が固設されている。
【0100】
各ドラム着脱位置検知センサ87,88は、特開平11−138961号公報の図7や特開平11−151852号公報の図7に示されているものと同様の発光素子および受光素子を具備した光透過型フォトセンサからなる。
各印刷ドラム1a,1bの奥側の端板(図示せず)には、各ドラム着脱位置検知センサ87,88と選択的に係合する図示しない遮光板が外側に突出して設けられている。前記遮光板は、特開平11−138961号公報の図7や特開平11−151852号公報の図7に示されていると同様のものを用いている。
【0101】
本体フレーム101内から離脱すべき印刷ドラムユニット70aの1色目印刷ドラム1aが前記離脱位置に来たときに、1色目印刷ドラム1aの前記遮光板が1色目ドラム着脱位置検知センサ87を遮蔽することにより、前記離脱位置を占めたことを検知する。これは、印刷ドラムユニット70b’の2色目印刷ドラム1b側の2色目ドラム着脱位置検知センサ88による前記離脱位置の検知動作でも同様である。
【0102】
なお、ドラム回転位置検知手段における前記遮光板は、上述したように各印刷ドラム1a,1b側に配置したものに限らず、例えば本体フレーム101側の1色目駆動ギヤ119aや2色目駆動ギヤ119b側に配置してもよい。また、1色目印刷ドラム1aおよび2色目印刷ドラム1b側は、前記のような遊星ギヤ連結にて従動関係にあるため、ドラム回転位置検知手段は各印刷ドラム1a,1bの何れか一方側に配設してもよい。また、適宜エンコーダセンサ等を付設しても構わない。
【0103】
制御装置80は、図8に示すように、例えば信号バス(図示せず)によって互いに接続された、CPU81(中央演算処理装置)、RAM82(読み書き可能な記憶装置)、ROM83(読み出し専用記憶装置)およびI/O(入出力)ポート(図示せず)等を備えたマイクロコンピュータを具備している。
【0104】
1色目ドラム有無センサ66、2色目ドラム有無センサ67、1色目ドラム着脱位置検知センサ87、2色目ドラム着脱位置検知センサ88、電源スイッチ89およびドアカバー開閉センサ94からのオン/オフ信号やデータ信号は、制御装置80のCPU81に送信される。操作パネル55の各種キー、すなわち1色目ドラム離脱キー60および2色目ドラム離脱キー61からのオン/オフ信号は、制御装置80のCPU81に送信される。制御装置80のCPU81からは、操作パネル55の1色目ドラム着脱可ランプ62、1色目ドラム着脱不可ランプ63、2色目ドラム着脱可ランプ64、2色目ドラム着脱不可ランプ65および液晶表示部59に各種指令信号が送信される。また、制御装置80のCPU81からは、1色目ドラム着脱可ランプ96、1色目ドラム着脱不可ランプ97、2色目ドラム着脱可ランプ98および2色目ドラム着脱不可ランプ99に各種指令信号が送信される。そして、制御装置80のCPU81からは、メインモータ111に各種指令信号が送信される。
【0105】
制御装置80のCPU81(以下、単に「制御装置80」というときがある)は、離脱すべき印刷ドラムユニット70aまたは70b’の印刷ドラム1aまたは1bが前記離脱位置で停止するように駆動機構110のメインモータ111を制御する制御手段としての基本的な制御機能を有する。
さらに具体的には、制御装置80は、1色目ドラム離脱キー60または2色目ドラム離脱キー61、1色目ドラム着脱位置検知センサ87または2色目ドラム着脱位置検知センサ88からの各信号に基づいて、離脱すべき印刷ドラムユニット70aまたは70b’の印刷ドラム1aまたは1bが前記離脱位置で停止するようにメインモータ111を制御する制御手段としての制御機能を有する。
【0106】
また、制御装置80は、印刷動作終了時に、各印刷ドラムユニット70a,70b’のうちの特定の印刷ドラムユニット70aまたは70b’の印刷ドラム1aまたは1bを優先的に前記離脱位置に停止させる優先停止制御手段としての制御機能を有する。
【0107】
制御装置80は、各ドラム有無センサ66,67からの各信号に基づいて、操作パネル55の各ランプ62,63,64,65や着脱口90a、90b近傍に配置された各ランプ96,97,98,99あるいは液晶表示部59を制御する制御機能を有する。
【0108】
ROM83には、メインモータ111、操作パネル55の各ランプ62,63,64,65や着脱口90a、90b近傍に配置された各ランプ96,97,98,99あるいは液晶表示部59を駆動制御するためのデータあるいは後述する動作を行うためのプログラムが予め記憶されている。RAM82では、前記各センサ等からのデータ信号を一時記憶したりする。
【0109】
説明の都合上から、多色孔版印刷装置100の上述した制御構成に係る部分の動作を説明する。
各印刷ドラムユニット70a,70b’のうちの特定の印刷ドラムユニット70aまたは70b’において、インキの色替えやマスタ12の交換あるいは清掃・保守整備等のために、各印刷ドラムユニット70a,70b’を本体フレーム101から離脱する場合について説明する。
【0110】
先ず、使用者により1色目ドラム離脱キー60が押されオンすると、制御装置80からの指令に基づきメインモータ111が回転駆動され、これにより1色目印刷ドラム1aは駆動機構110の動作を介して回転され始める。このとき同時に、操作パネル55の1色目ドラム着脱可ランプ62が緑色点滅すると共に、2色目ドラム着脱不可ランプ65が赤色点灯する。これにより、各印刷ドラムユニット70a,70b’を着脱できないことを知らせ、使用者は1色目印刷ドラム1aの回転動作中待機状態になる。
【0111】
次いで、制御装置80は1色目ドラム離脱キー60および1色目ドラム着脱位置検知センサ87からの各信号に基づいて、1色目印刷ドラム1aが前記離脱位置を占めるようにメインモータ111を制御する。制御装置80は、1色目印刷ドラム1aが前記離脱位置を占めたと判断したとき、メインモータ111の回転駆動を停止させ、これにより1色目印刷ドラム1aが前記離脱位置に停止すると共に、操作パネル55の1色目ドラム着脱可ランプ62が緑色点灯状態となる。
【0112】
次いで、印刷ドラムユニット70aの離脱動作が行われる。使用者は、操作パネル55の1色目ドラム着脱可ランプ62が緑色点灯していて1色目印刷ドラム1aが離脱可能な前記離脱位置を占めていることを視認した後、印刷ドラムユニット70aを引き出して離脱させるためにドアカバー91を開けると、制御装置80はドアカバー開閉センサ94からの信号に基づき1色目ドラム着脱可ランプ96を緑色点灯させると共に、2色目ドラム着脱不可ランプ99を赤色点灯させているので、これを視認した後、使用者は印刷ドラムユニット70aを引き出すこととなる。
1色目印刷ドラム1aが前記離脱位置に停止した状態で、印刷ドラムユニット70aの本体フレーム101からの離脱操作が行われる。この離脱操作は、取っ手72aを把持してドラムユニット70aを本体フレーム101の着脱口90aから引き出すことにより行われる。そして、1色目印刷ドラム1a側のインキの色替えやマスタ12の交換あるいは清掃等を実施した後、ドアカバー91を閉める。印刷ドラムユニット70b’の2色目印刷ドラム1b側の離脱動作も前記と同様に行われるので、以下この動作説明を省略する。
【0113】
次いで、使用者により、2色目ドラム離脱キー61が押されオンすると、制御装置80からの指令に基づきメインモータ111が回転駆動され、これにより2色目印刷ドラム1bは駆動機構110の動作を介して回転され始める。このとき同時に、操作パネル55の2色目ドラム着脱可ランプ64が緑色点滅すると共に、1色目ドラム着脱可ランプ62が消灯し、1色目ドラム着脱不可ランプ63が点灯する。これにより、各印刷ドラムユニット70a,70b’を着脱できないことを知らせ、使用者は2色目印刷ドラム1bの回転動作中待機状態になる。
【0114】
次いで、制御装置80は2色目ドラム離脱キー61および2色目ドラム着脱位置検知センサ88からの各信号に基づいて、2色目印刷ドラム1bが前記離脱位置を占めるようにメインモータ111を制御する。制御装置80は、2色目印刷ドラム1bが前記離脱位置を占めたと判断したとき、メインモータ111の回転駆動を停止させ、これにより2色目印刷ドラム1bが前記離脱位置に停止すると共に、操作パネル55の2色目ドラム着脱可ランプ64が緑色点灯状態となる。
【0115】
次いで、印刷ドラムユニット70b’の離脱動作が行われる。使用者は、操作パネル55の2色目ドラム着脱可ランプ64が緑色点灯していて2色目印刷ドラム1bが離脱可能な前記離脱位置を占めていることを視認した後、印刷ドラムユニット70b’を引き出し・離脱するためにドアカバー91を開けると、制御装置80はドアカバー開閉センサ94からの信号に基づき2色目ドラム着脱可ランプ98を緑色点灯させると共に、1色目ドラム着脱不可ランプ97を赤色点灯させているので、これを視認した後、使用者は印刷ドラムユニット70b’を引き出すこととなる。そして、1色目印刷ドラム1a側のインキの色替えやマスタ12の交換あるいは清掃等を実施した後、ドアカバー91を閉める。
【0116】
次に、印刷ドラムユニット70a,70b’を本体フレーム101に装着・セットする動作例について説明する。
例えば、両印刷ドラムユニット70a,70b’のマスタ12の交換が終わり、両印刷ドラムユニット70a,70b’が本体フレーム101内に装着されていない状態で、一方の印刷ドラムユニット70b’を装着するときについて述べる。このときは、両印刷ドラムユニット70a,70b’を離脱したときに、後から一方の印刷ドラムユニット70b’を離脱しているので、着脱口90b側の2色目ドラム着脱可ランプ98が緑色で、着脱口90a側の1色目ドラム着脱不可ランプ97が赤色でそれぞれ点灯している。操作パネル55側でも同様に、2色目ドラム着脱可ランプ64が緑色で、1色目ドラム着脱不可ランプ63が赤色でそれぞれ点灯しているので、2色目印刷ドラム1b側に対応した駆動機構110の着脱駆動部が前記離脱位置(離脱位置すなわち装着位置でもある)を占めていて、印刷ドラムユニット70b’を装着可能な状態にあることが分かる。
【0117】
まず、一方の印刷ドラムユニット70b’を着脱口90bに挿入すると、2色目印刷ドラム1b側に対応した駆動機構110の着脱駆動部が前記離脱位置を占めているので、容易に装着・セットを行うことができる。
次いで、ドアカバー91を閉める。このとき、制御装置80は、2色目ドラム有無センサ67からの印刷ドラム有り信号、ドアカバー開閉センサ94からの閉信号、2色目着脱位置検知センサ88からの各信号に基づいて、未だ装着されていない他方の印刷ドラムユニット70aの1色目印刷ドラム1a側の着脱駆動部が前記離脱位置を占めるようにメインモータ111を制御する。これにより、1色目印刷ドラム1a側の着脱駆動部が前記離脱位置に自動的に回転駆動され、停止する。このとき、操作パネル55の1色目ドラム着脱可ランプ62が緑色点灯状態となる。
【0118】
次いで、使用者は操作パネル55の1色目ドラム着脱可ランプ62が緑色点灯していて1色目印刷ドラム1aが装着可能な前記離脱位置を占めていることを視認した後、印刷ドラムユニット70aを装着するためにドアカバー91を開けると、制御装置80はドアカバー開閉センサ94からの信号に基づき1色目ドラム着脱可ランプ96を緑色点灯させると共に、2色目ドラム着脱不可ランプ99を赤色点灯させているので、これを視認した後、使用者は印刷ドラムユニット70aを挿入・装着する。
使用者は印刷ドラムユニット70aを着脱口90aに挿入すると、1色目印刷ドラム1a側の着脱駆動部が前記離脱位置を占めているので、容易に装着・セットを行うことができる。そして、ドアカバー91を閉める。またこのとき、制御装置80は、ドアカバー開閉センサ94からの閉信号および各ドラム有無センサ66,67からの印刷ドラム有り信号に基づいて、印刷動作可能状態と判断することとなる。
【0119】
なお、印刷ドラムユニット70a,70b’装着時の動作は、前記動作例に限らず、次の動作例であってもよい。すなわち、例えば前記動作例とは逆に印刷ドラムユニット70a側から挿入するために、1色目ドラム離脱キー60を押し、1色目印刷ドラム1a側の着脱駆動部が前記離脱位置を占めるように制御した後、ドアカバー91を閉める。すると、前記動作例と略同様に自動モードが働き、未だ装着されていない他方の印刷ドラムユニット70b’の2色目印刷ドラム1b側の着脱駆動部が前記離脱位置を占めるように自動的に回転駆動されて停止し、印刷ドラムユニット70b’の装着可能な状態となる。
【0120】
印刷終了時には、制御装置80からの指令により、各印刷ドラムユニット70a,70b’のうちの特定の印刷ドラムユニット70aまたは70b’の印刷ドラム1aまたは1bを優先的に前記離脱位置に停止させるようにメインモータ111が制御される。
これにより、例えば、一方の印刷ドラム1aはインキの色を固定して、他方の印刷ドラム1bは色替えを行うような場合、色替えを行う方の印刷ドラム1bを常に前記離脱位置に停上させるようにすると、色替えの際に、交換する側の印刷ドラム1bを前述のように2色目ドラム離脱キー61で位置決め設定する必要がなくなるので、印刷ドラムの交換作業が迅速に行える。また、最初に離脱すべき位置決めする印刷ドラムを選択できるようにすることで、前記のような利点を得る印刷ドラムの離脱位置を選択できるようになる。
【0121】
なお、報知手段は、上述した1色目ドラム着脱可ランプ62、2色目ドラム着脱可ランプ64および液晶表示部59等に限らず、上述した1色目ドラム着脱可ランプ62、2色目ドラム着脱可ランプ64および液晶表示部59のうちの何れか一つ、あるいは二つであってもよく、また例えばブザー等の音声で報知する手段に置き換えたり、上述した1色目ドラム着脱可ランプ62、2色目ドラム着脱可ランプ64および液晶表示部59等にに加えてブザー等で二重に警告を行うようにしても勿論構わない。
【0122】
次に、上述した制御構成に係る部分以外の多色孔版印刷装置100の一般的な動作を説明する。
先ず、使用者により前記スキャナユニットに配設されている図示しないADFの原稿載置台あるいはコンタクトガラス上に原稿がセットされ、操作パネル55のスタートキー55が押されると製版スタート信号が生成され、これが図示しない制御装置(前記した制御装置80でもよい)に入力されることによって、排版動作、原稿読み取り動作および製版動作が同時的にスタートする。またこのとき、給紙台31上に積載された最上位面の用紙32を呼出しコロ33に接触させて給紙可能な状態になるまで、給紙台31が上昇される。
【0123】
メインモータ111が駆動されることにより、図1において各印刷ドラム1a,1bが時計回り方向に回転し、まず、1色目印刷ドラム1aがその排版動作を行われるべき排版位置に回転して停止する。この1色目印刷ドラム1aの排版位置は、排版ユニット50aのマスタ剥がし爪51aの先端が図1に示すように略左真横に揺動して1色目印刷ドラム1aの外周面近傍にあるときに、1色目印刷ドラム1aのクランパ5aがマスタ剥がし爪51aの先端近傍にまで回転したときに設定されている。1色目印刷ドラム1aが排版位置を占めると、前記開閉装置によりクランパ5aが開放される。次いで、1色目印刷ドラム1a,1bが時計回り方向に徐々に回転することにより、マスタ剥がし爪51aの先端部が、クランプが開放された使用済み(印刷済み)のマスタ12aの先端部と1色目印刷ドラム1aの外周面との間に差し込まれることで、マスタ剥がし爪51aにより使用済みのマスタ12aの先端部が剥離され排版搬送ローラ対52aに案内される。そして、排版搬送ローラ対52aの回転により、使用済みのマスタ12aの先端部が排版搬送ローラ対52aのニップ部に挟持されつつ排版ボックス53a内に搬送され、排版ボックス53a内に収納される。
【0124】
次いで、2色目印刷ドラム1bがその排版動作を行われるべき排版位置に回転して停止する。この2色目印刷ドラム1bの排版位置は、排版ユニット50bのマスタ剥がし爪51bの先端が図1に示すように略真下に揺動して2色目印刷ドラム1bの外周面近傍にあるときに、2色目印刷ドラム1bのクランパ5bがマスタ剥がし爪51bの先端近傍にまで回転したときに設定されている。以降の排版ユニット50bによる排版動作は、排版ユニット50aと同様に行われるため、その説明を省略する。
【0125】
次いで、1色目印刷ドラム1aが、前記給版位置で停止され、クランパ5aが図示しない開閉装置により開放されて給版待機状態となる。同様に、2色目印刷ドラム1bに給版するときには、2色目印刷ドラム1bが前記給版位置で停止され、クランパ5bが図示しない開閉装置により開放されて給版待機状態となる。
【0126】
1色目印刷ドラム1aが前記給版待機状態となったとき、前記ソレノイド等の前記アクチュエータがオンすることにより、前記1色目給送経路が形成される。このとき、マスタ12の先端は、給版ローラ対19のニップ部を少し出た初期位置にある。
【0127】
前記した排版動作における1色目印刷ドラム1aおよび2色目印刷ドラム1bの回転と並行して、原稿読み取り動作および製版動作が開始される。
この原稿読み取りに係る詳細な動作は、例えば特開平10−297074号公報明細書の段落番号(0064)に記載されている内容と略同じであり、原稿読み取りされた画像は最終的にCCD等の光電変換素子からなる画像センサにより光電変換される。画像センサにより光電変換された電気信号は、図示しないA/D変換装置に送信されることによりデジタル画像信号に変換される。スキャナが前述の色分解機能付きの場合には、次いで、デジタル画像信号は図示しない画像処理装置で、例えば1色目印刷ドラム1aで黒、2色目印刷ドラム1bで赤印刷する場合、黒画像に対応したデジタル画像信号および赤画像に対応したデジタル画像信号に分類されて、赤画像に対応したデジタル画像信号は図示しない画像メモリに一度格納される。
【0128】
一方、前記原稿読み取り動作と並行して、先ず1色目印刷ドラム1aで印刷するための黒画像に対応したデジタル信号化された画像信号に基づき、製版・給版ユニット10において製版・給版動作が行われる。
すなわち、第1ステッピングモータが駆動されることにより、プラテンローラ16およびテンションローラ対18が回転を開始して、マスタロール13からマスタ12が引き出されつつ搬送されると共に、図示しないソレノイド等を備えた可動ガイド板駆動手段がオンすることにより、可動ガイド板23aは、図1に仮想線で示すように、製版済みのマスタ12aを受け入れ貯容するタワミ形成位置を占め、これにより吸引ボックス21の左方が開放されて、製版済みのマスタ12aを導入するための吸引口が形成される。
【0129】
一方、説明が前後するが、プラテンローラ16およびテンションローラ対18の回転開始と同じ頃に、黒画像に対応したデジタル画像信号は図示しない製版制御装置を経由して処理されて送出される黒画像に対応したデジタルの画像データ信号に基づいて、サーマルヘッド15の発熱素子がパルス的に通電されて位置選択的に発熱され、マスタ12が画像情報に応じて位置選択的に加熱溶融され穿孔・製版される。
【0130】
マスタストック装置20の図示しない吸引ファンモータが駆動されることにより吸引ファン22が回転し、これにより図1において吸引ボックス21の内部における左側から右側へと向かう空気流が生じることで、静止状態にある給版ローラ対19と回転・搬送状態にあるテンションローラ対18との間の製版済みのマスタ12aの部分が吸引ボックス21の内部に引き込まれながら貯留されていく。吸引ファン22の継続的な回転により、製版済みのマスタ12aは次々に吸引ボックス21内に引き込まれる形で吸引ボックス21に収納されながら製版が行われる。
【0131】
一方、第1ステッピングモータの所定ステップ数の駆動により、黒画像に対応したデジタルの画像データ信号の所定分についての製版動作が行われたと前記制御装置により判断されると、第2ステッピングモータが駆動されることにより、給版ローラ対19が回転を開始する。
このときには、前述したように、前記給版切替ガイドは反時計回り方向に揺動していて、1色目給送経路が既に形成されているので、製版済みのマスタ12aの先端部が1色目給送経路に案内されてステージと拡開したクランパ5aとの間に挿入される。給版ローラ対19が所定の角度回転して、これに対応して第2ステッピングモータのステップ数がある設定値に達し、製版済みのマスタ12aの先端部がステージと拡開したクランパ5aとの間に届いたと判断されると、前記開閉装置によりクランパ5aが閉じられ、製版済みのマスタ12aの先端部がステージとクランパ5aとの間に挟持される。
【0132】
製版済みのマスタ12aの先端部のクランプ後、メインモータ111の駆動により1色目印刷ドラム1aが時計回り方向に回転を再開して、製版済みのマスタ12aが吸引ボックス21より引き出されながら給版ローラ対19により搬送されて1色目印刷ドラム1aの外周面へ給版されるが、この1色目印刷ドラム1aの外周面への巻装時には巻装シワを発生させることなく行われる。
【0133】
第1ステッピングモータの所定ステップ数の回転駆動および第2ステッピングモータの所定ステップ数の回転駆動により、1版のマスタ12への製版および設定量の製版済みのマスタ12aの搬送が終了したと判断されると、第1ステッピングモータの駆動が停止されることにより、プラテンローラ16およびテンションローラ対18の回転が停止する。これと同時に、第2ステッピングモータの駆動が停止されることにより、給版ローラ対19の回転が停止する。
これと同時的に、カッタ17が作動して製版済みのマスタ12aの後端が切断される。このとき、1色目印刷ドラム1aの回転によって製版済みのマスタ12aが吸引ボックス21より完全に引き出される前にカッタ17による製版済みのマスタ12aの切断が終了するようになっていて、製版済みのマスタ12aの後端部が引きちぎれたりしないような設定になっている。
そして、切断された製版済みのマスタ12aの後端が、1色目印刷ドラム1aの回転によって製版・給版ユニット10内から引き出され、1色目印刷ドラム1aの外周面に完全に巻き取られた段階で1色目印刷ドラム1aへの製版済みのマスタ12aの巻装が終了すると共に、吸引ボックス21の前記吸引口近傍に設けられた図示しないセンサ等により、製版済みのマスタ12aの残り等が判断される。
【0134】
1色目印刷ドラム1aへの製版済みのマスタ12aの巻装が完了すると、直ちに、可動ガイド板23aは次の製版に備えてタワミ形成位置から時計回り方向に揺動変位してガイド搬送位置を占める。これと同時に、前記給版切替ガイドは時計回り方向に揺動して、2色目給送経路を形成する。次いで、プラテンローラ16およびテンションローラ対18が回転を再開して、切断された次に製版されるべきマスタ12の先端が可動ガイド板23aと固定ガイド板23bとに案内されつつ給版ローラ対19のニップ部に向けて送り込まれる。
次いで、給版ローラ対19が回転して、次に製版されるべきマスタ12の先端が給版ローラ対19のニップ部で挟持され前記初期位置を占める。そして、第1ステッピングモータおよび第2ステッピングモータへ供給したパルス数(または所定のステップ数)から、次に製版されるべきマスタ12の先端が前記初期位置を占めたと判断されると、可動ガイド板23aは反時計回り方向へ揺動変位してタワミ形成位置に復帰すると共に、第1ステッピングモータおよび第2ステッピングモータの駆動が一時停止される。
【0135】
次いで、前記画像メモリに格納されている2色目印刷ドラム1bで印刷するための赤画像に対応したデジタル画像信号を呼出しながら、赤画像に対応したデジタル信号化された画像信号に基づき、製版・給版ユニット10において製版・給版動作が前述したと同様に行われる。
赤画像に対応した製版・給版動作は、前述した黒画像に対応した製版・給版動作と比較して、「製版済みのマスタ12a」を「製版済みのマスタ12b」と、「黒画像に対応したデジタルの画像データ信号」を「赤画像に対応したデジタルの画像データ信号」と、「1色目印刷ドラム1a」を「2色目印刷ドラム1bと、「クランパ5a」を「クランパ5b」とそれぞれ読み替えるだけで容易に理解し実施することができるので、以下相違する給版時の動作のみについて説明する。
すなわち、給版時においては、前記給版切替ガイドは時計回り方向に揺動していて、前記2色目給送経路が既に形成されているので、製版済みのマスタ12bの先端部が前記2色目給送経路に案内されてステージと拡開したクランパ5bとの間に挿入される。給版ローラ対19が所定の角度回転して、これに対応して第2ステッピングモータのステップ数がある設定値に達し、製版済みのマスタ12bの先端部がステージと拡開したクランパ5bとの間に届いたと判断されると、前記開閉装置によりクランパ5bが閉じられ、製版済みのマスタ12bの先端部がステージとクランパ5bとの間に挟持される。
【0136】
製版済みのマスタ12bの先端部のクランプ後、メインモータ111の駆動により2色目印刷ドラム1bが時計回り方向に回転を再開して、製版済みのマスタ12bが吸引ボックス21より引き出されながら給版ローラ対19により搬送されて、2色目印刷ドラム1bの外周面への巻装動作が前述した1色目印刷ドラム1aの外周面への巻装動作と略同様に行われる。
【0137】
2色目印刷ドラム1bへの製版済みのマスタ12bの巻装中に、給紙動作が行われる。呼出しコロ33に接触している最上位面の用紙32が、前記給紙モータの駆動により分離コロ34と共に呼出しコロ33が回転動作されることによって送り出されると共に、分離コロ34および分離パッド35の協働作用により1枚に分離され、図示しない上下一対のガイド板に案内されつつレジストローラ対36に向けて用紙搬送方向Xに給送される。このとき、給送された用紙32の先端は、レジストローラ対36のニップ部直前の部位に当接し、前記上部のガイド板に沿って撓んだ状態で停止している。
【0138】
一方、1色目印刷ドラム1aは、印刷動作が始まると印刷の回転速度で回転され始める。印刷ドラム1aの内周側では、前記インキディストリビュータからインキ供給ローラ3aとドクターローラ4aとの間に形成されたインキ溜まりIaに黒色のインキが供給され、その黒色のインキはインキ供給ローラ3aとドクターローラ4aとが回転することによって混練され伸ばされると共に、インキ供給ローラ3aの外周面に均一に付着するようになる。インキの残量は、前記したインキ検知手段によって検知され、インキが少なくなったときには前記インキディストリビュータから補給される。こうして印刷ドラム1aの回転方向と同一方向に、かつ、1色目印刷ドラム1aの回転速度と同期して回転しながら内周面に転接するインキ供給ローラ3aにより、黒色のインキが1色目印刷ドラム1aの内周側に供給される。このとき、2色目の印刷ドラム1b側でも、前記と略同様にして2色目印刷ドラム1bの回転速度と同期して回転しながら内周面に転接するインキ供給ローラ3bにより、赤色のインキが2色目印刷ドラム1bの内周側に供給される。
【0139】
各印刷ドラム1a,1bへの製版済みのマスタ12a,12bの巻装が完了すると、給紙・印刷動作が開始される。前記レジストモータの駆動により、用紙32は、レジストローラ対36により1色目印刷ドラム1aの回転と同期した所定のタイミングをとられた後給送され、これとタイミングを合わせて紙くわえ胴6が反時計回り方向に回転して用紙くわえ位置を占める。紙くわえ胴6が用紙くわえ位置を占めると、紙くわえ胴6の用紙クランパ7が開かれ、用紙32の先端を突き当てた後、用紙32の先端部をくわえる。次いで、用紙クランパ7が閉じられ、紙くわえ胴6の外周面に用紙32が保持されたまま紙くわえ胴6がさらに反時計回り方向に回転され、1色目印刷ドラム1aと紙くわえ胴6との間の印刷部(ニップ部)に用紙32が送り込まれる。1色目印刷ドラム1aと紙くわえ胴6との前記ニップ部は、緊縮性の印圧バネ(図示せず)の付勢力によって加圧されており、これにより用紙32は1色目印刷ドラム1aの外周面上に巻装されている製版済みのマスタ12aに押圧される。この押圧の際に、インキ供給ローラ3aにより1色目印刷ドラム1aの内周面に供給された黒色のインキは、1色目の製版画像が形成された製版済みのマスタ12aの穿孔部分を通過して滲み出し、この滲み出たインキが用紙32の表面に転移されて、黒色の印刷画像が形成される。
【0140】
黒色の印刷画像が形成された用紙32を保持した紙くわえ胴6がさらに反時計回り方向に回転されることで、黒色の印刷画像が形成された用紙32は2色目印刷ドラム1bと紙くわえ胴6との間の印刷部(ニップ部)に回転・搬送される。2色目印刷ドラム1bと紙くわえ胴6との前記ニップ部は、緊縮性の印圧バネ(図示せず)の付勢力によって加圧されており、これにより黒色の印刷画像が形成された用紙32は2色目印刷ドラム1bの外周面上に巻装されている製版済みのマスタ12bに押圧される。この押圧の際に、インキ供給ローラ3bにより2色目印刷ドラム1bの内周面に供給された赤色のインキは、2色目の製版画像が形成された製版済みのマスタ12bの穿孔部分を通過して滲み出し、この滲み出た赤色インキが黒色の印刷画像が形成された用紙32の表面に転移されて、黒色および赤色の2色の印刷画像が形成される。
【0141】
2色の印刷画像が形成された印刷済みの用紙32は、紙くわえ胴6がさらに反時計回り方向に回転して用紙排出位置を占めることにより、前記した図示しない排紙爪の手前で用紙クランパ7が開くことにより、前記排紙爪に乗り上げて剥離され、排紙搬送ユニット41の吸引ファンにより吸引されつつ、下方に位置する搬送ベルト上に排出される。搬送ベルト上の印刷済みの用紙32は、吸引ファンで搬送ベルト上に吸引されつつ吸着排紙出口ローラの回転によって搬送され、図示しない排紙台上に排出されていわゆる版付け印刷が終了する。この版付け印刷により排出された印刷物は正規の印刷物として通常はカウントされない。
【0142】
版付け印刷終了後、使用者は排出された印刷物を適宜目視して、通常の正規の印刷動作を行ってもよいかどうかを適宜判断し、画像品質の確認や画像位置の確認等を適宜行う。そして、これらがオーケーであれば、使用者が操作パネル55に配設されているテンキー58で印刷枚数を設定し、プリントキー57を押すことにより、正規の印刷動作(工程)が始まり、前記版付けと同様の給紙、印刷および排紙の各工程が設定した印刷速度で設定した印刷枚数分繰り返して行われ、孔版印刷の全工程が終了する。
【0143】
第1の実施形態では、各印刷ドラムユニット70a,70b’における各印刷ドラム1a,1bはインキ供給ローラ3a,3b等の配置により各位置が定まっているので、各印刷ドラムユニット70a,70b’が所定の印刷位置にセットされないと印刷に不具合を生じる。また、誤って本体フレーム101内に装着されると、駆動されるか否かにかかわらず、紙くわえ胴6を傷付けたりすることがある。そこで、第1の実施形態によれば、上述した利点および後述する効果の他に、以下の利点を得ることができる。
すなわち、印刷ドラムユニット70aを誤った本体フレーム101内の本体側レール69b’を介して装着しようとしても、本体側レール69b’の断面形状と被係合レール部71aおよび取っ手72a の各断面形状とが異なることにより、被係合レール部71aおよび取っ手72aが本体側レール69b’に入らず(係合することができず)印刷ドラムユニット70aを本体フレーム101内に挿入・装着できないので、誤った印刷ドラムユニット70a自体を挿入することが回避できて、これにより誤った印刷ドラムユニット70aを装着してしまって、紙くわえ胴6や駆動機構110の印刷ドラム着脱部などを損傷させたり、インキ溜まりにインキを保持できなくなって正常な印刷ができなくなったり、インキが漏れてきたりすることを未然に防止することができる。
(第2の実施形態)
第1の実施形態のような紙くわえ胴6を用いた多色孔版印刷装置100では、上述したように、紙くわえ胴6の解除量が小さく設定されるので、各印刷ドラムユニット70a,70b’を引き出し・離脱する際には、各クランパ5a,5bを含めて各印刷ドラム1a,1bが紙くわえ胴6に接触しないようにする必要があった。また、第1の実施形態のような天地移動手段による天地移動調整を行う場合には、上述したように、凹部切欠角度θ2を比較的大きく設定する必要もあった。
そこで、凹部切欠角度θ2を比較的大きく設定することが困難な場合には、各印刷ドラム1a,1bのクランパ5a,5b配置部と紙くわえ胴6とが、非印刷時に、接触しない隙間を設けることで、これを回避できる。このような考えの下に、第2の実施形態を創作した。
【0144】
図9に、第2の実施形態を適用した多色孔版印刷装置200を示す。この第2の実施形態の多色孔版印刷装置200は、第1の実施形態の多色孔版印刷装置100と比較すると、印刷ドラムユニット70a,70b’に代えて、印刷ドラムユニット76a,76bを有すること、これらの印刷ドラムユニット76a,76bに対応して本体フレーム101に配設され、本体フレーム101に装着された各印刷ドラムユニット76a,76bを保持する保持部材としての1色目保持フレーム104a、2色目保持フレーム104bを新たに設けたこと、1色目保持フレーム104a、2色目保持フレーム104bに対応して本体フレーム101に配設され、1色目保持フレーム104a、2色目保持フレーム104bごと各印刷ドラムユニット76a,76bの印刷ドラム1a,1bを紙くわえ胴6に対して接離動作させる接離手段130a,130bを新たに設けたこと、これらの接離手段130a,130bにより、本体フレーム101に装着された各印刷ドラム1a,1bのクランパ5a,5bまたは各印刷ドラム1a,1bの最外周部と紙くわえ胴6の外周面とが、非印刷時に、接触しない隙間107を設けられることが主に相違する(請求項6および請求項9参照)。
前記相違点に加えて、第2の実施形態における紙くわえ胴6の凹部切欠角度θ2が、第1の実施形態における紙くわえ胴6の凹部切欠角度θ2と比べて、小さくなっていることを付記しておく。
【0145】
印刷ドラムユニット76aと印刷ドラムユニット76bと、1色目保持フレーム104a(以下、単に「保持フレーム104a」という)と2色目保持フレーム104b(以下、単に「保持フレーム104b」という)と、接離手段130aと接離手段130bと、はそれぞれ配置位置を除き略同一の機能および同じ構成要素をもって構成されているので、それらを同一符号の末尾に符号aまたはbを付加することで区別することとし、その一方を詳述した場合には重複説明を避けるため他方の説明をできるだけ省略する。
【0146】
印刷ドラムユニット76aは、第1の実施形態の印刷ドラムユニット70aと比較して、保持フレーム104aに位置決めされる図9において左右一対の被位置決め部75a,75aを前フレーム74aおよび図示しない後フレームの両側部に一体的に形成されていることのみ相違する。これと同様に、印刷ドラムユニット76bにも、保持フレーム104bに位置決めされる図9において左右一対の被位置決め部75b,7bを前フレーム74aおよび図示しない後フレームの両側部に一体的に形成されている。各被位置決め部75a,75bは、外方に突出した凸形状をなす。
【0147】
保持フレーム104aは、例えば板金等で形成されている。保持フレーム104aは、本体側レール69aを図9の紙面の手前側において固定している手前側側板(図9に表されている保持フレーム104aの部分)と、本体側レール69aを図9の紙面の奥側において固定している図示されていない奥側側板と、図9の紙面の奥側においてドラム軸2aを保持する図示しない奥側位置決め部とを含み、これらが一体化されたユニットをなしている。
【0148】
保持フレーム104aの前記手前側側板および前記奥側側板には、印刷ドラムユニット76aを着脱する際に干渉することなく逃がすための保持フレーム窓105aが形成されている。また、保持フレーム104aの前記手前側側板および前記奥側側板には、印刷ドラムユニット76aの両側の被位置決め部75aと摺接・係合して印刷ドラムユニット76aを保持フレーム104aの所定位置に位置決めする凹部状の位置決め部106a,106aが形成されている。
【0149】
一方、本体フレーム101側には、保持フレーム104aの前記手前側側板および前記奥側側板の外周輪郭部、ならびに保持フレーム104bの前記手前側側板および前記奥側側板の外周輪郭部と接触することなく各保持フレーム104a,104bを逃す本体フレーム窓102が形成されている。本体フレーム窓102側の本体フレーム101には、各保持フレーム104a,104bの外周端面側に突出した態様で複数の支持コロ103が転動自在に取り付けられている。
これらの構成により、保持フレーム104aは、複数の支持コロ103の転動動作を介して、紙くわえ胴6の軸9の中心と本体フレーム101に装着された1色目印刷ドラム1aのドラム軸2aの回転中心とを通る直線に沿ってこれと平行に、紙くわえ胴6の外周面に対して進退自在になされている。同様に、保持フレーム104bは、複数の支持コロ103の転動動作を介して、紙くわえ胴6の軸9の中心と本体フレーム101に装着された2色目印刷ドラム1bのドラム軸2bの回転中心とを通る直線に沿ってこれと平行に、紙くわえ胴6の外周面に対して進退自在になされている。また、保持フレーム104aには、前記直線近傍の位置に、印圧支点部131aが設けられている。
【0150】
接離手段130aは、レバー支点ピン132a、印圧レバー133a、印圧スプリング134a、印圧カム135a、カム駆動モータ136aから主に構成されている。
レバー支点ピン132aは、本体フレーム101に植設されていて、棒板状の印圧レバー133aの略中央部に緩く嵌入されている。印圧レバー133aの一端部は、印圧支点部131aにおいてピンを介して所定角度回動自在、かつ、摺動自在に取り付けられ、印圧レバー133aの他端部は、印圧カム145aの輪郭周面に選択的に摺接されるようになっている。印圧レバー133aにおけるレバー支点ピン132aの支持部と印圧レバー133aの他端との間には、保持フレーム104aを紙くわえ胴6の外周面に接近させる方向(図示矢印方向)に常に付勢する印圧スプリング134a(引張コイルバネ)が設けられている。印圧カム135aの軸には、カム駆動モータ136aの出力軸が連結されている。カム駆動モータ136aの駆動により、印圧カム135aが回転される。
【0151】
接離手段130aの動作を簡単に説明する。
図9に示す接離手段130aは、非印刷時の動作状態を示している。図9において、印圧スプリング134aの付勢力に抗して、カム駆動モータ136aが駆動されることにより、印圧カム135aが回転され、印圧カム135aの大径部が図9に示すように印圧レバー133aの他端部に摺接しているとき、印圧レバー133aの一端部はレバー支点ピン132aを中心として時計回りに揺動する。これにより、印刷ドラムユニット76aを保持している保持フレーム104aは、複数の支持コロ103の転動動作を介して、図9に破線矢印で示す方向に移動して、印刷ドラムユニット76aにおける1色目印刷ドラム1aのクランパ5a等が紙くわえ胴6に接触しない隙間107が確保され、1色目印刷ドラム1aは非印刷位置を占める。
印刷ドラムユニット76aにおける1色目印刷ドラム1aが非印刷位置を占めたとき、1色目印刷ドラム1aを含む印刷ドラムユニット76aの如何なる部分も紙くわえ胴6に接触させることなく、保持フレーム104aから印刷ドラムユニット76aを引き出し・離脱することができる。
【0152】
図9において、カム駆動モータ136aがさらに駆動されることにより、印圧カム135aが回転され、印圧カム135aの小径部が印圧レバー133aの他端部に接触することなく対向したとき、印圧スプリング134aの付勢力によって、印圧レバー133aの一端部はレバー支点ピン132aを中心として反時計回りに揺動する。これにより、印刷ドラムユニット76aを保持している保持フレーム104aは、複数の支持コロ103の転動動作を介して、図9に実線矢印で示す方向に移動して、印刷ドラムユニット76aにおける1色目印刷ドラム1aの外周面(マスタ装着面)が紙くわえ胴6の外周面に図示しない用紙32を介して押圧して印圧を加える印刷位置を占めることとなる。
なお、カム駆動モータ136aに代えて、紙くわえ胴6のドラム駆動ギヤ116から駆動力伝達を行って適切なタイミングによって2つの印圧カム135a,135bを回転駆動してもよい。
【0153】
上述したと同様の接離手段130bの動作によって、印刷ドラムユニット76bを保持している保持フレーム104b側においても、印刷ドラムユニット76bにおける2色目印刷ドラム1bが、前記非印刷位置と前記印刷位置とを選択的に占めることができることは言うまでもない。
【0154】
したがって、第2の実施形態によれば、接離手段130a,130bにより、各保持フレーム104a,104bに保持された印刷ドラムユニット76a、76bの印刷ドラム1a,1bのクランパ5a,5bまたは各印刷ドラム1a,1bの最外周部と紙くわえ胴6の外周面とが、非印刷時に、接触しない隙間107を設けられるので、紙くわえ胴6の凹部切欠角度θ2が小さくても、相隣る各印刷ドラム1a,1bの外表面から突出したクランパ5a,5bなどの突出部分が、紙くわえ胴6に接触しないので、各印刷ドラム1a,1bと紙くわえ胴6との直径を小さくでき、装置全体を小型化できる。
(第3の実施形態)
この第3の実施形態は、第2の実施形態と比較して、第2の実施形態における少なくともインキ通過性の金属薄板層(前記支持円筒体)を有して構成された各印刷ドラム1a,1bに代えて、インキ通過性の網材で形成され紙くわえ胴の外周面に接離可能な多孔性円筒体(図示せず)と、各印刷ドラム内に配置され前記多孔性円筒体の内周面に一つの母線に沿って接触し、印刷時に、紙くわえ胴の外周面に押圧すべく前記多孔性円筒体を紙くわえ胴に向けて半径方向外方へ押し出す中押しローラ(図示せず)とを有する各印刷ドラム(図示せず)であること、および前記各印刷ドラムによって、隙間(図9に示した接触しない隙間107に相当する)が非印刷時に設けられることが主に相違する(請求項6および請求項7参照)。
【0155】
第3の実施形態における前記各印刷ドラムは、例えば、特開平1−204781号および特開平3−197078号公報に記載されているものを挙げることができる。これらに開示されている印刷ドラムは、例えばステンレススチール製ワイヤ等の金属製スクリーン等からなるインキ通過性の網材で形成され裏押しローラ(紙くわえ胴)に接離可能な前記多孔性円筒体と、印刷ドラム内に配置され多孔性円筒体の内周面に一つの母線に沿って接触し、印刷時に、紙くわえ胴の外周面に押圧すべく多孔性円筒体を紙くわえ胴に向けて半径方向外方へ押し出す中押しローラとを有しているものである。
【0156】
前記中押しローラを有する印刷ドラムでの印刷は、印刷時において、中押しローラを印刷ドラムの外に向けて押し出すことにより多孔性円筒体を半径方向外方へ膨出させ、金属製スクリーン上に保持された製版済みのマスタを、紙くわえ胴に保持された用紙に接触させてインキ転写を行い、印刷を行う印刷方式である。
【0157】
第3の実施形態によれば、第2の実施形態のような接離手段130a,130bを設けることなく、各印刷ドラムのクランパまたは各印刷ドラムの最外周部と紙くわえ胴の外周面とが、非印刷時に、接触しない隙間を設けることができるので、図9に示すような紙くわえ胴6の凹部切欠角度θ2が小さくても、相隣る前記各印刷ドラムの外表面から突出したクランパなどの突出部分が、紙くわえ胴6に接触しないので、前記各印刷ドラムと紙くわえ胴6との直径を小さくでき、装置全体をより一層小型化できる。
【0158】
そして、第3の実施形態における前記各印刷ドラムを、第1の実施形態と同様に、印刷装置本体に対して着脱自在な印刷ドラムユニットとして構成できることは言うまでもない(請求項8参照)。
【0159】
第1ないし第3の実施形態に示した多色孔版印刷装置100、200を構成する前記各ユニット・各装置等の構成およびその配置状態は、あくまでもその一例を示したものであり、他の全ての均等な公知のユニット・装置を種々の配置状態をもって構成したり、公知のユニット・装置を付加してもよいことは言うまでもない。
第1ないし第3の実施形態では、説明の簡明化のために、2つの各印刷ドラム1a,1bや2つの印刷ドラムユニット70a,70bあるいは2つの印刷ドラムユニット76a,76bを具備したものとして説明したが、本発明の実施形態は、上述した各実施形態例に限定されるものでなく、3つ以上の印刷ドラムや3つ以上の印刷ドラムユニットを具備して構成できることは勿論、後述する効果を得られるものであることを付記しておく。
【0160】
以上述べたとおり、本発明を実施例を含む特定の実施形態等について説明したが、本発明の構成は、前述した実施形態等に限定されるものではなく、これらを適宜組み合わせて構成してもよく、本発明の範囲内において、その必要性および用途等に応じて種々の実施形態や実施例を構成し得ることは当業者ならば明らかである。
【符号の説明】
【0161】
1a (1色目)印刷ドラム
1b (2色目)印刷ドラム
5a,5b マスタ保持手段としてのクランパ
6 圧胴としての紙くわえ胴
7 保持手段としての用紙クランパ
8 凹部
10 製版・給版装置としての製版・給版ユニット
32 用紙
59 報知手段としての液晶表示部
62 報知手段としての1色目ドラム着脱可ランプ
64 報知手段としての2色目ドラム着脱可ランプ
60 個別ドラム離脱設定手段としての1色目ドラム離脱キー
61 個別ドラム離脱設定手段としての2色目ドラム離脱キー
70a,70b’,76a,76b 印刷ドラムユニット
80 制御手段および優先停止制御手段としての制御装置
87 ドラム回転位置検知手段としての1色目ドラム着脱位置検知センサ
88 ドラム回転位置検知手段としての2色目ドラム着脱位置検知センサ
96 報知手段としての1色目ドラム着脱可ランプ
98 報知手段としての2色目ドラム着脱可ランプ
100,200 印刷装置の一例としての多色孔版印刷装置
101 印刷装置本体としての本体フレーム
104a 保持部材としての1色目保持フレーム
104b 保持部材としての2色目保持フレーム
107 隙間
110 駆動機構
111 ドラム駆動手段としてのメインモータ
130a,130b 接離手段
θ2 凹部切欠角度
θ3 マスタ保持手段形成角度としてのクランパ幅角度
θ4 マスタ先端余白角度
θ5 位相調整角度としての天地移動量の片側分角度
L 相隣る各印刷ドラムの回転中心軸間の距離
X 用紙搬送方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製版済みのマスタの先端部を保持するマスタ保持手段を備えた複数の印刷ドラムと、前記マスタ保持手段との接触を避けるための凹部を備え、前記各印刷ドラム上の製版済みのマスタに用紙を相対的に押し付ける、前記印刷ドラムの外径と略同径の圧胴とを有し、前記圧胴の周囲に前記複数の印刷ドラムを配置した印刷装置において、
前記圧胴の回転方向の位相に対して前記各印刷ドラムの回転方向の位相を調整可能とする天地移動手段を有し、
前記圧胴の回転中心軸を中心として前記凹部の範囲に対応して形成される凹部切欠角度は、相隣る前記各印刷ドラムの回転中心軸を中心として前記マスタ保持手段の範囲に対応して形成されるマスタ保持手段形成角度と、前記マスタ保持手段に保持された製版済みのマスタの製版画像先端までの範囲に対応して形成されるマスタ先端余白角度と、前記天地移動手段による位相調整可能な角度のうち製版画像がホームポジションから回転方向の進み側へ偏倚した位相調整角度とを加算した値以上に設定されていることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1記載の印刷装置において、
前記各印刷ドラムは、前記印刷装置本体に対して着脱自在な印刷ドラムユニットとして構成されていることを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の印刷装置において、
相隣る前記各印刷ドラム上の製版済みのマスタ装着面からの前記マスタ保持手段の高さまたは前記マスタ装着面から最外周部までの高さをHとし、相隣る前記各印刷ドラムの前記マスタ装着面までの半径をRとしたとき、相隣る前記各印刷ドラムの回転中心軸間の距離Lは、L≧2R+2Hを満足することを特徴とする印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−264764(P2010−264764A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172432(P2010−172432)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【分割の表示】特願2000−272653(P2000−272653)の分割
【原出願日】平成12年9月8日(2000.9.8)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)