説明

印刷装置

【課題】圧胴における保持部材による用紙先端の保持のための用紙搬送クランプ動作において用紙先端にきずがつきにくい印刷装置を提供する。
【解決手段】両面印刷等の場合のように、同じ用紙を2回通紙させることがあっても、用紙クランパ2のストッパ部2aに突き当ててクランプさせる際にこのストッパ部2aが用紙搬送方向の中心Oに対して左右非対称に配置されているので、1回目の通紙でストッパ部2aに突き当たった先端の同じ部分が再びストッパ部2aに突き当たることがなくなり、突き当たりによる先端きずが目立たないものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧胴を用いた孔版印刷装置等の印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷装置の一例としての孔版印刷装置において、回転中心軸の周りに回転自在であり、製版されたマスタを外周面に巻付ける版胴と、版胴の回転と同期して版胴の回転方向と反対方向に回転自在であり、給送されてきた用紙の先端部を保持する用紙クランパ(保持部材)を備え版胴の外径と略同径の圧胴とを具備したものが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2等参照)。上述の圧胴は、版胴の外周に設けられたマスタの先端部をくわえるマスタクランパとの干渉を避けるために自身の外周部の一部に設けられた凹部を有することで、版胴に対する印圧のオン/オフ時の移動量を小さくできるため、印圧音を小さくでき、ひいては孔版印刷装置の騒音の低減を図れるという特長をもっている。
【0003】
上述の用紙クランパは、圧胴の凹部に配設され開閉自在とされている。このような用紙クランパは、「くわえ爪」とも呼ばれており、給送されてきた用紙の先端部を挾持・保持する(以下、「くわえる」若しくは「クランプする」と表現する場合がある)機能を有している。給送されてきた用紙の先端部を用紙クランパによりくわえながら回転する圧胴で搬送しその用紙を版胴に押付けて印刷を行うことができるので、孔版印刷工程において、用紙の先端部が版胴に貼付いたまま排紙爪若しくは剥離爪で剥離できずジャムになる、いわゆる「排紙(用紙)巻上がり」を防止したり、用紙の用紙搬送方向に対する印刷画像の位置精度(レジスト精度)の向上を図ったりすることができる。
【0004】
以下、図12ないし図21を参照して、用紙クランパを備えた圧胴の用紙保持装置において、給紙時、クランプ時、排紙時の用紙クランプの各動作及びその時の用紙搬送動作を説明する。
【0005】
例えば、図12に示すような孔版印刷装置においては、その孔版印刷装置の騒音の低減及び用紙Pのレジスト精度等を向上する目的で押圧手段として用紙クランパ30を備えた圧胴20、いわゆる「紙くわえ圧胴方式」が用いられる。
【0006】
圧胴20は、図12に示すように、その外径寸法D(直径)を版胴22の外径寸法D(直径)と等しく形成されており、版胴22が1回転したとき圧胴20も1回転する。このため、同図に示すように、給送されてきた用紙Pの先端部をクランプする用紙クランパ30を圧胴20上に配設でき、用紙Pの先端を用紙クランパ30に突き当てながら給紙することで、用紙Pのレジスト精度を向上させることができる。なお、図12においては、用紙クランパ30及びスクレーパとも呼ばれている排紙爪44等を略図的に簡略化して示している。
【0007】
図13ないし図15に示すように、クランプ装置28は、給送されてきた用紙Pの先端部をクランプする開閉自在な用紙クランパ30と、用紙クランパ30の基端部をネジで固定し圧胴20の外周の一母線方向に延びた軸36と、用紙クランパ30を開閉駆動するために装置本体側に固定して設けられたカム(図示せず)と、このカムに係合するカムフォロア37と、軸36とカムフォロア37との間に固設され上述のカムの動きを用紙クランパ30に伝えるアーム39と、圧胴20の凹部21に固設され軸36の両端部を所定角度回動自在に支持するベース35と、用紙クランパ30を閉じる位置にその磁力で保持するマグネット34と、用紙クランパ30を閉じる向きに付勢する引張りスプリング38とから主に構成されている。
【0008】
用紙クランパ30は、用紙Pの先端部をクランプする用紙爪31と、この用紙爪31でクランプされて排紙爪44の位置にきたとき印刷された用紙Pを圧胴20から浮上させて排出するために用紙Pを蹴上げる蹴上げ爪32と、給送されてきた用紙Pの先端に当接して用紙Pの先端の位置決めをするストッパ爪33とからなる。このように用紙クランパ30は、用紙爪31、蹴上げ爪32及びストッパ爪33とから、板金の切り曲げ加工等によって実質一体的に形成されている。
【0009】
マグネット34はベース35の上部に固設されており、その磁力によって用紙爪31によりクランプされた用紙Pの先端部を閉じ位置に保持する。ベース35には、開閉揺動動作する用紙クランパ30における用紙爪31、ストッパ爪33及び蹴上げ爪32が干渉しないように切欠部34aが複数箇所形成されている。引張りスプリング38はアーム39のカムフォロア37寄りの部位と圧胴20の端板20aに植設されたピン20bとの間に張設されている。用紙クランパ30は上述のカムのカム曲線により開閉するが、閉じるときは引張りスプリング38の付勢力によって閉じられる。
【0010】
上述したクランプ装置28の構造により、用紙クランパ30は上述のカムの動きに合わせ軸36を支点として揺動しつつ開閉する。この時、用紙クランパ30は用紙爪31及び蹴上げ爪32が一体的に一つの軸36を支点として所定角度回動、換言すれば、揺動するため、用紙クランパ30が用紙Pをクランプする際には蹴上げ爪32の先端が圧胴20の外周面上から出ない程度に開く(図17参照)。そして、用紙クランパ30は、上述のカムによりレジストローラ対25a,25bから送られてきた用紙Pの先端部をクランプすべく所定のタイミング、例えば図12に(丸1)で示す圧胴20における用紙クランパ30の回転位置(以下、「用紙クランプ位置」というときがある)で開き、用紙Pの先端を用紙クランパ30のストッパ爪33に突き当てた後、図12に二点鎖線で示すような所定のたわみPAが形成されるような用紙搬送速度で搬送されつつ、用紙Pの先端部が用紙クランパ30の用紙爪31によりクランプされ、用紙Pの先端が図13に示されている上下一対のガイド板40,41の下流端を出た後の所定のタイミングで用紙クランパ30が閉じるようになっている(図15参照)。
【0011】
用紙クランパ30は、図16に示す用紙先端余白長さALを極力小さくするために、用紙爪31の先端を加圧点Cぎりぎりまで近付けてレイアウト設計されており、用紙Pの先端部の数mm(大体2〜5mm)ほどの部位をクランプするようになっている。
【0012】
次いで、用紙クランパ30は用紙Pの先端部をクランプした状態で、即ち、圧胴20がその外周面に用紙Pを保持したまま回転し、図19及び図12に(丸2)で示す回転位置近傍に至ると、図14にも示されているように、用紙Pの先端部が版胴22の外周面と圧胴20の外周面との間に搬送され、用紙Pの先端がマスタ23及び用紙Pを介して版胴22の外周面と圧胴20の外周面とが押圧して形成されるニップ部Nで孔版印刷が行われる。
【0013】
用紙クランパ30は、図20に示すようにニップ部Nを通過した後、図21に示す回転位置(以下、「用紙排出位置」というときがある)である排紙爪44に至る直前の位置付近で再び開き、これにより用紙クランパ30の用紙爪31から印刷された用紙Pの先端部を離し、それからさらに用紙クランパ30が開くことで、図21に示すように、蹴上げ爪32で印刷された用紙Pの先端部を蹴上げて用紙Pの先端を排紙爪44に受け渡し、こうして排出された用紙Pを回転するベルト及び吸引ファン等を備えた排紙搬送装置49(図13及び図14参照)へと送るようになっている。
【0014】
このように圧胴20における用紙クランパ30の回転位置が、(丸1)→(丸2)→(丸3)と順次推移することで、インキが用紙Pに転写される(丸2)の回転位置より過ぎた位置で用紙Pの先端部が排出されるので、用紙Pがインキの粘着力により版胴22に巻上がらない。このような圧胴20の回転位置における用紙クランパ30の用紙クランプ位置の開閉タイミング位置は、用紙クランパ30による用紙Pの先端部のクランプミスを防止し、かつ、ニップ部N近傍における版胴22の外周面との干渉等を防止するために、できるだけ一対のガイド板40,41の下流端に近くなるように設定される。
【0015】
ところで、用紙クランパ30が用紙Pの先端部の数mm(大体2〜5mm)位の部位をクランプするようになっている用紙クランパ30の場合、用紙Pの先端が用紙クランパ30のストッパ爪33に突き当たり衝突する際の用紙搬送速度が圧胴20の周速度よりも遅いときには、用紙クランパ30にクランプされるべき用紙Pの先端部が、版胴22の外周面と圧胴20の外周面とが押圧される前に用紙クランパ30から抜けたり、ストッパ爪33と用紙Pの先端との間に隙間を生じてストッパ爪33に対する用紙Pの先端位置がずれたりしてしまう。用紙Pの先端部が上述したように用紙クランパ30から完全に抜けてクランプされないとき、用紙Pの先端部が版胴22の外周面に貼り付いたまま排紙爪44や蹴上げ爪32で剥離できず、上述のした排紙巻上がりと呼ばれるジャムとなったり、また、用紙Pの先端部が用紙クランパ30から完全に抜けなくても、ストッパ爪33に対する用紙Pの先端位置がずれたときには、印刷された用紙Pにおける用紙搬送方向Xに対する印刷画像Gの位置精度(レジスト精度)が悪化したりする不具合となる。
【0016】
このような不具合を解消するために、現実的には上述したように、用紙Pの先端が用紙クランパ30のストッパ爪33に当接する際の用紙搬送速度を圧胴20の周速度よりも速くなるように設定することにより、用紙クランパ30による用紙Pの先端部の保持部近傍に所定のたわみPAを形成して、用紙クランパ30から用紙Pの先端部が抜けるような力が働かない用紙搬送速度制御方式を採用している。
【0017】
このような用紙搬送速度制御方式を採用した場合、用紙Pの先端部近傍のたわみPA形成部分がニップ部Nで押圧される前に、版胴22の外周面上の製版済みのマスタ23に接触することがあり、用紙PのたわみPA形成部分が製版済みのマスタ23から滲み出たインキで汚れ、ダブリ画像を形成してしまう重大な不具合となるため、ニップ部Nに至る前の用紙搬送路上に、ニップ部Nに至る前の用紙PのたわみPA形成部分が版胴22上の製版済みのマスタ23と接触しないように用紙Pを案内する用紙案内手段としてのガイド部材160a(図13のみに示す)を設けている。符号161は、ガイド部材160aの用紙搬送方向Xの下流側端部に設けられた可撓性部材を示している。
【0018】
一方、用紙先端余白長さALを小さくしようとすると、用紙爪31の先端Dが圧胴20の外径寸法Dから外側へ突出して版胴22上の製版済みのマスタ23に接触し、用紙爪31の先端Dが1回転毎に同じ部位の製版済みのマスタ23に当たるために、当該部位の製版済みのマスタ23が破れてしまう。このようにして製版済みのマスタ23が破れると、版胴22の外周面に供給されたインキが当該部位の破れからはみ出すことになり、はみ出したインキが用紙爪31を汚すことで、用紙Pの先端部を汚してしまう不具合になるため、用紙クランパ30の用紙爪31の先端Dが版胴22上の製版済みのマスタ23に当たるのを防止すべく、用紙クランパ30は、用紙爪31の先端Dが外径寸法D内に入るように、圧胴20の中心側に傾けられて配設され、これにより用紙Pの先端部を圧胴20に巻付く内側の方へ若干曲げてクランプするようなレイアウト構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平5−201115号公報
【特許文献2】特開平8−183166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、従来の用紙クランパ30周りの構造の場合、以下の様な不具合や問題点が生じてしまう。
【0021】
用紙クランパ30の蹴上げ爪32の蹴上げ動作により、図21に示すように用紙爪31が必要以上に開くため、用紙爪31が排紙爪44の先端部と干渉するので、これを避けるため図15に示すように、用紙爪31に逃げ31aを形成しており、用紙爪31はその自由端が開放されたくし歯状になっている。一方、用紙クランパ30で用紙Pの先端部をクランプする上で、その位置決め精度を出すために用紙クランパ30のストッパ爪33に突き当てる訳であるが、このストッパ爪33も上述の用紙爪31に対応して用紙幅方向にくし歯状、即ち、間欠的に形成されており、用紙Pの先端はストッパ爪33の存在する部分で部分的に突き当たることとなる。もっとも、それ以前にストッパ爪としては用紙先端を全面的に面接触させず部分的に接触させた方が位置精度を出しやすいこともこの種の技術分野の設計上の常識となっている。この際、左右の重心バランス等を考慮し、ストッパ爪33を用紙搬送方向の中心に対して左右対称に形成・配置することもこの種の技術分野の設計上の常識となっている。
【0022】
ところが、前述したように用紙Pの先端が用紙クランパ30のストッパ爪33に当接する際の用紙搬送速度を圧胴20の周速度よりも速くなるように設定しており、ストッパ爪33に高速で突き当たる先端部分に部分的なきずがつきやすい(図22参照…50がきず部分である)。1回の通紙ではこのようなきず50はあまり目立たないが、例えば、同一の用紙を2回通紙させる両面印刷を行わせる場合のように用紙Pの先端の同じ部分がストッパ爪33に2度当たると目立つようになる。これも1枚だけではあまり目立たないが、この種の孔版印刷装置でも元々多数枚印刷を行うことが多いので、多数枚の両面印刷の場合には、図23に示すように、積層状態の印刷結果においてすじ状のきず50が目立つこととなり、印刷仕上がりを損なう。
【0023】
そこで、本発明は、圧胴における保持部材による用紙先端の保持のための用紙搬送クランプ動作において用紙先端にきずがつきにくい印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
請求項1記載の発明は、製版されたマスタを外周面に巻付ける版胴と、搬送されてきた用紙の先端を保持する開閉自在な保持部材を有して前記版胴に対向接触する圧胴とを備える印刷装置において、前記保持部材は、用紙幅方向に間欠的に形成されて給紙搬送されてくる前記用紙の先端を突き当てて位置決めさせるストッパ部と、前記用紙の先端部をクランプするクランプ部とを有し、前記ストッパ部が用紙搬送方向の中心に対して左右非対称に配置されている。
【発明の効果】
【0025】
請求項1記載の発明によれば、両面印刷等の場合のように、同じ用紙を2回通紙させることがあっても、保持部材のストッパ部に突き当ててクランプさせる際にこのストッパ部が用紙搬送方向の中心に対して左右非対称に配置されているので、1回目の通紙でストッパ部に突き当たった先端の同じ部分が再びストッパ部に突き当たることがなくなり、突き当たりによる先端きずが目立たないものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施の形態が適用される孔版印刷装置における用紙保持装置の構成及び動作を示す要部の正面図である。
【図2】図1における用紙保持装置の要部の動作を圧胴の回転位置を同じ状態に直して示す図であって、(a)は給紙時における用紙クランパ及び排紙蹴上げ爪の動作状態を、(b)は用紙クランパの用紙クランプ状態を、(c)は排紙時における用紙クランパ及び排紙蹴上げ爪の動作状態を各々表す拡大正断面図である。
【図3】(a)は用紙クランパ及び排紙蹴上げ爪の動作状態を示す図であり、(b)は図2(a)のクランパベースだけを示す図であり、(c)は図2(a)の排紙蹴上げ爪だけを示す図であり、(d)は図2(a)の用紙クランパだけを示す図である。
【図4】図1における用紙保持装置の排紙時の用紙クランパ及び排紙蹴上げ爪の動作状態を各々示す要部の正面図である。
【図5】用紙クランパのV−V断面図である。
【図6】図1における用紙保持装置の開閉機構及び浮上機構周りの要部の構造を示す斜視図である。
【図7】図1における用紙保持装置の浮上機構周りの要部の構造を示す斜視図である。
【図8】本発明の一実施の形態の特長的な用紙クランパ配置例を示す側面図である。
【図9】本発明の一実施の形態の他の特長的な用紙クランパ付近を示す拡大正面図である。
【図10】本発明の一実施の形態のさらに他の特長的な用紙クランパを示す拡大正面図である。
【図11】その用紙突き当て動作を示す拡大正面図である。
【図12】従来の孔版印刷装置における圧胴の回転動作に伴う用紙クランパの回転位置及び用紙搬送動作を示す概略的な正面図である。
【図13】従来の孔版印刷装置の版胴及び圧胴周りの要部の一部を示す断面正面図である。
【図14】従来の孔版印刷装置の版胴及び圧胴周りの要部の一部を示す断面正面図である。
【図15】図14における版胴及び圧胴周りの要部の一部を示す分解的な斜視図である。
【図16】印刷された用紙における用紙先端余白長さを説明するための平面図である。
【図17】従来の孔版印刷装置におけるクランプ装置による給紙時の動作を示す要部の模式的な正面図である。
【図18】従来のクランプ装置の用紙クランパによる用紙クランプ動作を示す要部の模式的な正面図である。
【図19】従来のクランプ装置の用紙クランパによる用紙クランプ後の印圧時の動作を示す要部の模式的な正面図である。
【図20】従来のクランプ装置の用紙クランパによる排紙時の用紙排出の初期動作を示す要部の模式的な正面図である。
【図21】従来のクランプ装置の用紙クランパによる排紙時の用紙排出中の動作を示す要部の模式的な正面図である。
【図22】ストッパ爪に突き当たることによる先端きずを示す用紙の平面図である。
【図23】先端きずが生じた両面印刷時の積層状態の用紙を示す斜視図である。
【図24】クランプ動作における先端折れの発生を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。上述した従来例及び本実施の形態等に亘り、同一の機能及び形状等を有する部材や構成部品等については、同一符号を付すことによりその説明をできるだけ省略する。また、図及び説明の簡明化を図るため、図に表されるべき部材や構成部品であっても、その図において特別に説明する必要がない部材や構成部品は適宜断わりなく省略する。
【0028】
まず、本発明を適用する印刷装置の一例としての版胴及び圧胴を備えた孔版印刷装置において、従来例で説明しなかった構成部分を補充説明する。
【0029】
版胴22は、図1、図12ないし図14等に示すように、インキ通過性多孔構造の支持円筒体とその外周面に巻装されたインキ通過性の複数層のメッシュスクリーン(図示せず)とを有し、支軸22Aの周りに回転可能に支持されている。版胴22は、複数の印刷速度に対応してその回転速度を変えることが可能なようにメインモータ29を含む版胴22の駆動系を介して図1において時計方向に回転駆動される。版胴22の外周面には製版書込み部(図示せず)で穿孔・製版された製版済みのマスタ23の先端部を挾持するマスタクランパ24が配置されている。マスタクランパ24は支持円筒体の外周面の母線に沿って設けられた強磁性体よりなるステージ(図示せず)に対向し、マスタクランパ軸24aを介して回動可能に支持されており、上述のステージと対向する面に磁石を貼着されて構成されている。マスタクランパ24は、版胴22が所定の回転位置を占めたときに、開閉装置(図示せず)により駆動力を伝達されて開閉される。
【0030】
版胴22の内部には、図12に示すように、インキ供給装置45が配設されている。インキ供給装置45は、版胴22と同方向に同期して回転し、版胴22の内周面にインキを供給するインキローラ46と、インキローラ46とわずかな間隙を置いて平行に配置され、インキローラ46との間にインキ溜り48を形成するドクターローラ47と、インキ溜り48へインキを供給するパイプ状をなす支軸22Aとを具備している。インキローラ46、ドクターローラ47は、支軸22Aに固定された側板手前・奥に各々回転自在に支持されている。インキ溜り48からインキローラ46の外周面に供給されたインキは、版胴22とインキローラ46の外周面とに僅かに隙間を設けているために、版胴22の内周面に供給される。インキは、適宜の位置に配置されたインキパックからインキポンプにより圧送され、支軸22Aの供給穴よりインキ溜り48へ供給される。
【0031】
上述の版胴22の駆動系は、圧胴20の駆動系に連結されており、メインモータ29は圧胴20を回転駆動する駆動手段を兼ねている。圧胴20は、メインモータ29及び圧胴20の駆動系を介して、図1において版胴1の回転周速度と同じ周速度で反時計方向に回転駆動されると共に、接離手段(図示せず)によって、版胴22の外周面に対して接離自在とされている。圧胴20の外周部には、版胴22の外周面に接触する円筒部と、上述した凹部21とが形成されている。
【0032】
以下、図1ないし図7を参照して、本実施の形態で採用している特開2000−238400号公報による提案例の孔版印刷装置例について説明する。
【0033】
図1において、符号1は特開2000−238400号公報例の画像印刷装置における用紙保持装置を示す。用紙保持装置1は、図12ないし図21に示した従来のクランプ装置28と比較して、クランプ装置28の用紙クランパ30に代えて、用紙Pの先端部を給紙時に係止する開閉自在な保持部材としての用紙クランパ2と、この用紙クランパ2が排紙時に開放された際に、用紙Pの先端部を圧胴20の外周面から浮上させる浮上部材としての排紙蹴上げ爪10とを備えた保持手段を有すること、及び、クランプ装置28における上述のカムを備えた一つのクランプ機構に代えて、用紙クランパ2を選択的に開閉動作するための開閉機構19と、排紙蹴上げ爪10を選択的に浮上動作するための浮上機構27とを個別に有することが主に相違する。
【0034】
また、用紙保持装置1は、クランプ装置28の構成及び動作と比較して、上述の構成によって、用紙クランパ用カム8により用紙クランパ2が蹴上げ爪用カム17により排紙蹴上げ爪10が各々独立して駆動されること、図1の(丸1)及び図2(a)に示す給紙時における用紙クランパ2の開放角度θ1が、図1の(丸3)及び図2(c)に示す排紙時における開放角度θ2よりも大きく設定されており、排紙時に、用紙クランパ2と排紙蹴上げ爪10とを略同時的に駆動すること、及び、排紙蹴上げ爪10の先端10eが排紙時に開放した用紙クランパ2の自由端よりも用紙搬送方向Xの上流側に偏倚した用紙Pの先端部を浮上させることが主な相違点となっている。
【0035】
用紙クランパ2及び排紙蹴上げ爪10は給送されてきた用紙Pの先端部を保持する保持手段を構成している。用紙クランパ2を駆動する係止部材駆動手段はメインモータ29、圧胴20の駆動系及び用紙クランパ用カム8から主に構成される。排紙蹴上げ爪10を駆動する浮上部材駆動手段はメインモータ29、圧胴20の駆動系及び蹴上げ爪用カム17から主に構成される。
【0036】
開閉機構19は、図1、図2、図3、図5及び図6に示すように、上述した用紙クランパ用カム8と、用紙クランパ用カム8と常に係合する転動自在なコロからなるクランパカムフォロア5と、クランパカムフォロア5をその一端に軸をもって取付けたクランパアーム4と、クランパベース6の両側壁に所定角度回動自在に支持され、クランパアーム4の他端をネジを介して固定すると共に用紙クランパ2の基端部を固定して取付けたクランパ軸3と、クランパ軸3にその基端部を固定され、その自由端部が後述する3つの位置を占めるべく開閉自在な用紙クランパ2と、用紙クランパ2を常に開放する向きに付勢すると共に、クランパカムフォロア5を常に用紙クランパ用カム8に押付ける向きに付勢するねじりバネ7とから主に構成される。
【0037】
用紙クランパ用カム8は、図1に示すように、適宜の合成樹脂や金属で一体成形されており、圧胴20の端板20a外側近傍における孔版印刷装置の本体側に配置された本体側板(図示せず)に固定して設けられている。用紙クランパ用カム8は、圧胴20の回転運動を用紙クランパ2の開閉動作に所定のタイミングをもって変換し伝達する係止部材用カムとしての構成・機能を有する。用紙クランパ用カム8には用紙クランパ2を開閉させるためのカム形状が形成されている。即ち、用紙クランパ用カム8には、給紙時において、用紙クランパ2側に設けられたクランパカムフォロア5と係合し、用紙クランパ2が開放角度θ1で開くように制御するための小径凹部8aがニップ部Nより手前であって圧胴20の回転方向の上流側寄りの所定位置に形成されている。また、用紙クランパ用カム8には、排紙時において、クランパカムフォロア5と係合し、用紙クランパ2が開放角度θ2で開くように制御するための小径凹部8bがニップ部Nを通り過ぎた圧胴20の回転方向の下流側寄りの所定位置に形成されている。そして、各小径凹部8a,8bを除く用紙クランパ用カム8には、圧胴20の圧胴軸26を中心として同一の直径をもって形成された均等周面部8cが一体形成されている。
【0038】
用紙クランパ用カム8の小径凹部8aは、給紙時における用紙クランパ2の開放角度θ1を排紙時における開放角度θ2よりも大きく設定するために、小径凹部8bの凹みの深さよりも深く形成されている。開閉機構19におけるこのような用紙クランパ2と用紙クランパ用カム8との関係により、用紙クランパ2は図1の(丸1)及び図2(a)に示す給紙時において開放角度θ1で大きく開き、図1の(丸3)及び図2(c)に示す排紙時において開放角度θ2で、用紙Pの先端部を解放し自由にする程度の最小限の角度をもって開くようになされている。
【0039】
クランパベース6は、図1、図2、図3及び図6等に示すように、概略筐体状をなしており、例えば合成樹脂又はアルミニウム等の金属で一体的に形成されている。クランパベース6における用紙搬送方向Xの上流端上部には、用紙クランパ2のクランプ部2cとの間で用紙Pの先端部をクランプするときに用紙Pの先端部を受ける用紙受け面6aと、排紙時に蹴上げ爪アーム12の先端を用紙浮上位置を占めさせるべく矩形状に切り欠かれた逃げ部6bとが、用紙幅方向Yにくし歯状に交互に複数箇所形成されている。また、クランパベース6の底壁には、図7に示すように、引張バネ16の一端を係止するためのバネ掛け部6cが用紙搬送方向Xの下流側に突出して一体形成されており、クランパベース6の両側壁には、排紙蹴上げ爪10の両端部に突出形成された各被案内部10cを緩く嵌入し、排紙蹴上げ爪10を図7において用紙搬送方向Xに摺動自在に案内する蹴上げ爪案内窓6d,6dが各々形成されている。クランパベース6の用紙受け面6aの部位には、従来のクランプ装置28に配設されたマグネット34のような用紙爪31を用紙クランプ状態に保持する部品が配置されていなく、用紙受け面6aと用紙クランパ2のクランプ部2cとの間で用紙Pの先端部をクランプすることになる。
【0040】
クランパアーム4は、用紙クランパ用カム8とクランパカムフォロア5との係合より、圧胴20の回転駆動力の一部が変換されて伝達された駆動力をクランパ軸3へ、即ち、用紙クランパ2へ伝える駆動力伝達部材である。
【0041】
用紙クランパ2は、それ自体や用紙クランパ用カム8等の精度上の誤差を吸収し得る程度の所定の弾性を有する弾性部材としての薄いステンレス鋼板から形成されている。用紙クランパ2は、例えば、その厚さが0.3〜0.5mmのステンレス鋼板からできており、図2及び図6等に示すように、断面視略Z字状をなすようにクランク状に折り曲げ形成され、上述の所定の弾性が付与されている。用紙クランパ2は、その基端部がネジ(図示せず)を介してクランパ軸3に固定されている。用紙クランパ2には、図2、図3、図5及び図6等に示すように、レジストローラ対25a,25bから給送されてきた用紙Pの先端を突き当ててその位置を決めると共に所定の撓みを形成させるためのストッパ部2aと、排紙蹴上げ爪10の先端部の干渉を避けその移動を許すための切欠部2bと用紙Pの先端部の2〜3mmの部分をクランプするクランプ部2cとが各々一体形成されている。
【0042】
用紙クランパ2のクランプ部2cには、図3(d)及び図6に示されているように、図15に示した従来の用紙爪31の自由端の用紙搬送方向Xが開放されたくし歯状の逃げ31aがなく、用紙クランパ2の自由端部は、略直線状に用紙幅方向Yに亘りつながって形成されていると共に、用紙搬送方向Xに所定の寸法幅をもった略平板状部分を有している。それ故に、用紙クランパ2の自由端部であるクランプ部2cの上面先端から印圧を掛けても、この部分に対応した版胴22上の製版済みのマスタ23の部位には印圧が不均一状態で掛からず、これによりインキが溜ってしまうことがなくなる。従って、耐久的にインキ漏れを生じることなく、版胴22への印圧をクランプ跡直後から掛けて印刷画像を出すことができ、図16に示した用紙先端余白長さALを4〜5mmの範囲に抑えることができる利点を有する。
【0043】
ねじりバネ7は、クランパ軸3に巻着され、図6に示すように、その一端が用紙クランパ2の裏面に、他端がクランパベース6の手前側の側壁上面に各々掛けられており、用紙クランパ2を常に開く向きに付勢している。用紙クランパ2は、図2(b)に示すような用紙クランプ状態にあるとき、適度の弾性復元力を生じるような形状及び寸法に設定されている。用紙クランパ2と用紙受け面6aとの間には、それ自体の所定の弾性及び用紙クランパ用カム8の均等周面部8cのカム形状により、所定範囲の必要なクランプ力を生じさせるようになっている。換言すれば、用紙クランパ2による用紙Pの先端部のクランプ・係止が、用紙クランパ用カム8のカム形状と所定の弾性とに基づき行われると言える。このように用紙クランパ2に対して、所定の弾性を与えると共に、用紙クランパ2、クランパベース6の用紙受け面6a及び用紙クランパ用カム8を比較的単純な形状で各々形成することにより、ねじりバネ7のバネ荷重をできるだけ小さく抑えることができると共に、従来のようにベース部35にマグネット34を設けてその吸磁力を利用しなくても済むので、高価なマグネット34という構成部品を減らすことができる利点もある。
【0044】
上述の構成の通り、用紙クランパ2は、給紙時に、用紙Pの先端部を突き当てクランプするために開放角度θ1で開く図1に(丸1)で示す給紙開放位置と、用紙Pの先端部をクランプして閉じた用紙クランプ位置(図1の(丸2)参照)と、排紙時に、用紙Pの先端部を開放すべく開放角度θ2で開く図1に(丸3)で示す用紙排出位置との3つの位置の間で変位自在に構成されており、3つの位置を各々占めることができる。
【0045】
浮上機構27は、図1ないし図4及び図7に示すように、上述した蹴上げ爪用カム17と、蹴上げ爪用カム17と常に係合する転動自在なコロからなる蹴上げ爪カムフォロア13と、蹴上げ爪カムフォロア13を軸をもってその一端に取付けた蹴上げ爪アーム12と、クランパベース6の両側壁に所定角度回動自在に支持され、蹴上げ爪アーム12の他端をネジを介して固定して取付けた蹴上げ爪軸11と、その基端部が蹴上げ爪軸11に固定して取付けられ、その自由端部が排紙蹴上げ爪10の折り曲げ端部10bと接触係合し所定角度回動可能な蹴上げ爪駆動ガイド14と、上述した蹴上げ爪案内窓6d,6dと、その先端10eが排紙時に開放した用紙クランパ2の自由端よりも用紙搬送方向Xの上流側に偏倚した用紙Pの先端部を浮上させる用紙浮上位置を占める排紙蹴上げ爪10と、排紙蹴上げ爪10の先端を浮上位置から版胴22の外周面より内側に没入した非浮上位置を占める向きに付勢する引張バネ16とから主に構成される。
【0046】
蹴上げ爪用カム17は、図1及び図4に示すように、適宜の合成樹脂や金属で一体成形されており、圧胴20の近傍であって端板20aと用紙クランパ用カム8との間において、上述の本体側板に固定して設けられている。蹴上げ爪用カム17は、圧胴20の反時計方向の回転運動を排紙蹴上げ爪10の浮上動作に所定のタイミングをもって変換し伝達するための浮上部材用カムとしての構成・機能を有する。蹴上げ爪用カム17には、排紙蹴上げ爪10が排紙時にのみ駆動されるためのカム形状が形成されている。即ち、蹴上げ爪用カム17には、排紙蹴上げ爪10側に設けられた蹴上げ爪カムフォロア13と排紙時においてのみ係合し、かつ、上述のしたように排紙時に開放した用紙クランパ2の自由端よりも用紙搬送方向Xの上流側に偏倚した用紙Pの先端部を蹴上げて浮上させるように制御するための山形状の大径凸部17aが形成されている。蹴上げ爪用カム17の大径凸部17aは、用紙クランパ用カム8の小径凹部8b配置部近傍の圧胴20の回転方向上流側寄りに形成されている。
【0047】
蹴上げ爪アーム12は、蹴上げ爪用カム17と蹴上げ爪カムフォロア13との係合により、圧胴20の回転駆動力の一部が変換されて伝達された駆動力を蹴上げ爪軸11へ、即ち排紙蹴上げ爪10へ伝える駆動力伝達部材である。蹴上げ爪駆動ガイド14は、図7においてはその一つが示されているが、複数の蹴上げ爪駆動ガイド14が同じ姿勢をもって蹴上げ爪軸11にネジで固定して取付けられている。蹴上げ爪駆動ガイド14の自由端部は、排紙蹴上げ爪10の折り曲げ端部10bに引張バネ16の付勢力によって常に接触係合しており、蹴上げ爪カムフォロア13から蹴上げ爪軸11へ伝達された回転駆動力により、排紙蹴上げ爪10の全体を移動させるように動作する。
【0048】
排紙蹴上げ爪10は、例えば、その厚さが0.8〜1.0mmの薄板状のステンレス鋼板からできており、図2及び図7等に示すように、断面視略平板状をなしており、その先端10eを含む先端部及び基端部が両被案内部10cを介して蹴上げ爪案内窓6d,6dの形成範囲内で一体的に移動可能になされている。排紙蹴上げ爪10には、図2、図3及び図7等に示すように、移動時に用紙クランパ2及び排紙爪44との干渉を避けるために形成された複数の切欠き10aと、折り曲げ端部10bと、各被案内部10c,10cと、引張バネ16の他端を係止するためのバネ掛け部10dと、先端10eとが各々一体成形されている。排紙蹴上げ爪10の先端10eを含む先端部は、各先端10eの部位がクランパベース6の逃げ部6bに挿通可能なように略くし歯状に形成されている。排紙蹴上げ爪10の用紙幅方向Yに対する移動は、各被案内部10c,10c上に各々ネジで固定された各ストッパ18,18で規制されている。
【0049】
引張バネ16は、その一端がクランパベース6のバネ掛け部6cに係止され他端が排紙蹴上げ爪10のバネ掛け部10dに係止されて、図7においてはその片方が示されているが、これらと同じものが用紙幅方向Yにおける排紙蹴上げ爪10の中央を中心として他方が左右対称の位置に上述のしたと同様に配設されている。上述の構成の通り、排紙蹴上げ爪10は、上述の浮上部材駆動手段により排紙時にのみ駆動され、かつ、排紙時に開放した用紙クランパ2の自由端よりも用紙搬送方向Xの上流側に偏倚した用紙Pの先端部を浮上させるようになされており、用紙浮上位置と非用紙浮上位置との間で移動自在になされている。
【0050】
次に、動作を説明する。この孔版印刷装置では、用紙Pの搬送動作が特有の給送制御を伴って行われる。即ち、給紙部に配設された図示しないステッピングモータからなる給紙モータ(図示せず)で回転駆動される給紙ローラ等の給紙手段が、圧胴20の端板20aに取付けられた給紙遮光片と圧胴20を回転自在に支持する版胴アーム(図示せず)側に取付けられた透過型の給紙フォトセンサとの係合時点をトリガとして給紙モータの起動が制御される。また、同様に、ステッピングモータからなるレジストモータ(図示せず)で回転駆動されるレジストローラ対25a,25bが、圧胴20の端板20aに取付けられたレジスト遮光片と圧胴20を回転自在に支持する図示しない版胴アーム側に取付けられた透過型のレジストフォトセンサとの係合時点をトリガとして、レジストモータの起動が制御される。この給送制御は、本発明には関係ないのでこれ以上の説明を省略する。
【0051】
図1において、メインモータ29により、圧胴20が図1において反時計方向に回転し、給紙遮光片が上述の給紙フォトセンサを通過すると、給紙モータが回転駆動され、これにより給紙部の給紙ローラ(図示せず)から用紙Pの重送が防止されて1枚の用紙Pが給送される。この時、圧胴20のクランパカムフォロア5が用紙クランパ用カム8の均等周面部8cに係合していることにより、用紙クランパ2は用紙Pの先端部をクランプしていない状態で用紙クランプ位置を占めた状態にある。また、この時には、圧胴20の蹴上げ爪カムフォロア13が蹴上げ爪用カム17と非係合状態にあることにより、図7に示すように、各引張バネ16の付勢力によって各蹴上げ爪駆動ガイド14及び蹴上げ爪カムフォロア13が図1の(丸1)、(丸2)及び図7に示す状態に各々保持されており、各引張バネ16の付勢力によって排紙蹴上げ爪10は非用紙浮上位置を占めている状態にある。一方、給送された1枚の用紙Pは、その先端がレジストローラ対25a,25bのニップ部に衝突し、さらに給紙モータにより搬送されて、所定量の湾曲したたわみが形成された時点で、給紙ローラの回転が停止する。圧胴20が図1においてさらに反時計方向に回転し、レジスト遮光片が所定タイミングで上述のレジストフォトセンサを通過すると、レジストモータが回転駆動される。
【0052】
この給紙時のタイミングに合わせて、圧胴20のクランパカムフォロア5が用紙クランパ用カム8の小径凹部8aに所定のタイミングで係合することにより、図1の(丸1)及び図6において、クランパアーム4と共にクランパ軸3が反時計方向に回転し、これにより用紙クランパ2が図1の(丸1)及び図2(a)に示すように開放角度θ1で大きく開き、用紙クランパ2が給紙開放位置を占める。この時には、用紙クランパ2が開放角度θ1で開く向きにねじりバネ7の付勢力が働いている。
【0053】
レジストモータの回転駆動により、レジストローラ対25a,25bが回転することで、用紙Pの先端が給紙開放位置を占めている用紙クランパ2のストッパ部2aに向けて搬送され、ストッパ部2aに突き当たり衝突する。こうして、図1の(丸1)に仮想線で示すように、用紙Pの先端部には所定の湾曲したたわみが形成される。
【0054】
圧胴20がさらに反時計方向に回転し、クランパカムフォロア5が用紙クランパ用カム8の小径凹部8aを通り過ぎ、均等周面部8cに所定のタイミングで係合すると、図6において、クランパアーム4と共にクランパ軸3がねじりバネ7の付勢力に抗して時計方向に回転し、これにより用紙クランパ2が、図2(b)に示すように、用紙Pの先端部を確実にクランプした後、用紙クランパ2は閉じられる。こうして用紙クランパ2が用紙クランプ位置を占めた図1の(丸2)に示した状態で、圧胴20が、用紙Pを圧胴20の外周面に保持したまま回転し、用紙Pの先端部が版胴22の外周面と圧胴20の外周面との間に搬送される。
【0055】
版胴22の外周面と圧胴20の外周面との間に搬送された用紙Pに対して、上述の接離手段に配設されている左右一対の印圧スプリング(図示せず)により圧胴20が版胴22の外周面に押圧する上向きに揺動変位されることでニップ部Nが形成されると共に、圧胴20の外周面が用紙Pを版胴22の外周面に対して製版済みのマスタ23(図1には図示せず)を介して押圧する。この時、用紙クランパ2の自由端部であるクランプ部2cの上面先端から印圧が掛けられるが、このように押圧した状態下であっても上述した理由により、クランプ部2cの上面先端部分に対応した版胴22上の製版済みのマスタ23(図1には図示せず)の部位には印圧が不均一状態で掛からず、これによりインキが溜ってしまうことがなくなり、耐久的にインキ漏れを生じることなく、版胴22への印圧をクランプ跡直後から掛けて印刷画像を出すことができ、図12に示した用紙先端余白長さALを4〜5mmの範囲に抑えることができる。
【0056】
こうして、圧胴20の外周面の押圧によって、回転する版胴22の外周面に巻装された製版済みのマスタ23に用紙Pが連続的に押圧されることにより、製版済みのマスタ23が版胴22の外周面に密着すると共に、版胴22の開孔部分から製版済みのマスタ23の穿孔部分へとインキが滲み出てきて用紙Pの表面に転移され、孔版印刷が行われる。このとき、図8を借りて説明すると、図8に示すインキローラ46も版胴22の回転方向と同一方向に回転する。インキ溜り48のインキは、インキローラ46の回転によりインキローラ46の表面に付着され、インキローラ46とドクターローラ47との間隙を通過する際にその量を規制され、版胴22の内周面に供給される。
【0057】
圧胴20がさらに反時計方向に回転し、排紙爪44の手前の用紙排出位置近傍に至ると、圧胴20の蹴上げ爪カムフォロア13が蹴上げ爪用カム17と係合し始めることにより、図1の(丸3)、図2(c)及び図4に示すように、蹴上げ爪アーム12と共に蹴上げ爪軸11が各引張バネ16の付勢力に抗して反時計方向に回転し、これにより各蹴上げ爪駆動ガイド14の下部の自由端部が排紙蹴上げ爪10の折り曲げ端部10bの部位を反時計方向に揺動しつつ押付ける。こうして、排紙蹴上げ爪10の先端10eがクランパベース6の各逃げ部6bを挿通し、排紙蹴上げ爪10が用紙浮上位置を占める。
【0058】
一方、排紙蹴上げ爪10が用紙浮上位置を占めるに至る動作と略同時的に、用紙クランパ2の開放動作が行われる。即ち、圧胴20がさらに反時計方向に回転し、排紙爪44の手前の用紙排出位置近傍に至ると、圧胴20のクランパカムフォロア5が用紙クランパ用カム8の均等周面部8cから小径凹部8bに所定のタイミングで係合することにより、図1の(丸3)、図2(c)図4及び図6において、クランパアーム4と共にクランパ軸3が反時計方向に回転し、これにより用紙クランパ2が図1の(丸3)及び図2(c)に示すように開放角度θ2で小さく開き、用紙クランパ2が用紙排出位置を占める。
【0059】
このように、排紙時に、用紙クランパ2と排紙蹴上げ爪10とが略同時的に作動して、排紙蹴上げ爪10の先端10eが排紙時に開放した用紙クランパ2の自由端よりも用紙搬送方向Xの上流側に偏倚した用紙Pの先端部を浮上させる用紙浮上位置を占めることにより、排紙巻上りを生じにくくすると共に、浮上・蹴上げ動作時に従来装置のように用紙Pの先端が外れることがなく用紙Pの先端部を確実に浮上させて、排紙爪44に向けて排出し、受け渡すことができるので、ジャム等を生じることがない。
【0060】
印刷された用紙Pは排紙爪44により剥離・案内され、図13を借りて説明すると図13に示した排紙搬送装置49で搬送されて図示しない排紙台上に排出積載される。こうして、製版済みのマスタ23にインキを充填するいわゆる版付け印刷が行われると共に、版胴22が圧胴20から離間して初期状態に復帰し、印刷待機状態となる。印刷終了後、オペレーターは排出された印刷物を目視して、印刷画像品質の確認や印刷画像位置の確認等を行い、これらがOKであれば、給紙、印刷及び排紙の各工程が設定した印刷枚数分繰返して行なわれ、孔版印刷の全工程が終了する。
【0061】
このような特開2000−238400号公報の提案例を利用した構成例の下、用紙クランパ2付近に関する本実施の形態の特長的な構成例について図8ないし図11を参照して説明する。
【0062】
まず、用紙クランパ2におけるストッパ部2aについて図8により説明する。このストッパ部2aは上述のように用紙幅方向に間欠的に形成されており、用紙Pの先端を部分的に受ける訳であるが、本実施の形態においては、このストッパ部2aが用紙搬送方向の中心Oに対して左右非対称となるように配置されている。この場合、ストッパ部2a自体が用紙クランパ2において左右対称/非対称に形成されているか否かを問わず、クランパベース6の軸3に用紙クランパ2を取付けた使用状態において、用紙搬送方向の中心Oに対して左右非対称となればよい。非対称の程度としては、図示例の如く、用紙搬送方向の中心Oに対して折り返してみた場合にストッパ部2aが全く重なることのない配置状態となることが望ましい。
【0063】
この結果、例えば両面印刷等の場合のように、同じ用紙Pを表裏を代えて2回通紙させることがあっても、用紙クランパ2のストッパ部2aに突き当ててクランプさせる際にこのストッパ部2aが用紙搬送方向の中心Oに対して左右非対称となるように配置されているので、1回目の通紙でストッパ部2aに突き当たった先端の同じ部分が再びストッパ部2aに突き当たることがなくなり、他の部分が突き当たるので、軽いきずで済み、2度突き当たることによる目立つような先端きずは生じない。
【0064】
次に、用紙クランパ2に向けた搬送経路の用紙出口に位置する一対のガイド板40,41について図9を参照して説明する。これらのガイド板40,41は図14や図1に示すように、一般的には、平行に形成される(図9にあっては、破線参照)が、本実施の形態にあっては、上側案内板であるガイド板40に関してその先端側(用紙出口側)の部分40aをガイド板41側に近づくように下げて非平行とすることで、通紙される用紙Pの上面に必ず接触押圧して負荷を与えるように構成されている。部分40aはガイド板40自身とは別体の柔軟部材により形成されているが、硬質部材であってもよい。
【0065】
この結果、レジストローラ25a,25bによって用紙クランパ2側に向けて搬送される用紙Pはガイド板40の部分40aにより必ず特定の接触押圧により負荷を受けてしごかれるため、給紙部での給紙分離やレジストローラ25a,25bによるフィードに際して生じた用紙のしわ(ウェーブやカールなど)があっても、この部分40aでの強制的なしごきによりしわが緩和された状態で用紙クランパ2側に向かうこととなる。よって、用紙Pの先端は開放状態の用紙クランパ2内に確実に入り込み、正常に保持されることとなり、クランプミスによる用紙Pの先端のきずを防止できるとともにジャム原因となるのを回避できる。
【0066】
また、用紙クランパ2におけるストッパ部2aの側面的形状について図10及び図11を参照して説明する。用紙クランパ2においてストッパ部2aとクランプ部2cとのなす角度θは鋭角、より好ましくは80°〜45°位の角度に設定されている。また、ストッパ部2aのクランプ部2cとの合わせ目2d部分にはストッパ部2aの延長線軌跡Lよりも奥まった凹状のポケット部2eが形成されている。
【0067】
従って、用紙クランパ2により用紙Pの先端を保持させるに際して用紙Pの先端をストッパ部2aに突き当てるが、この用紙Pの先端は図11(a)に示すようにストッパ部2aに突き当たった後、クランプ部2c側に移動するが、この際、ストッパ部2aとクランプ部2cとの合わせ目2d部分ではストッパ部2aの延長線軌跡Lよりも奥まったポケット部2e内に入り込むように滑って移動する。即ち、クランプ部2cの下面においてポケット部2eの深さ相当の寸法d部分がクランプ部2cに当たった用紙Pの先端を合わせ目2d部分よりも奥側へ逃がす滑り効果を生ずるため、用紙Pは図11(b)に示すように逆向きに反り返るような挙動を示し、結果として、用紙Pの先端は確実に合わせ目2d部分に位置してクランプ部2cによりクランプされることとなり、図24(b)に示したように先端部分が折れ曲ることなく確実にクランプされる。
【0068】
なお、上述した孔版印刷方式は、「用紙Pを介して版胴22に対して圧胴20を相対的に押付けて用紙Pに印刷を行う」方式であり、版胴22に対して圧胴20を押付けて印刷を行う圧胴接離方式と、圧胴20に対して版胴22を押付けて印刷を行う版胴接離方式と、その併用方式とがある。圧胴接離方式の具体例としては、上述した実施形態における圧胴20及びその接離手段が挙げられる。一方、版胴接離方式としては、版胴22が圧胴20側へ移動(版胴22内部のインキローラ46が圧胴20側へ突出するタイプも含む)して印刷を行う周知のものが挙げられる。
【0069】
また、本実施の形態は、特に蹴上げ方式について改良された特開2000−238400号公報をベースとする適用例として説明したが、図12ないし図21に示したような従来方式に適用しても効果的なことは明らかである。
【符号の説明】
【0070】
2 保持部材
2a ストッパ部
2c クランプ部
20 圧胴
22 版胴
23 マスタ
O 用紙搬送方向の中心
P 用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製版されたマスタを外周面に巻付ける版胴と、搬送されてきた用紙の先端を保持する開閉自在な保持部材を有して前記版胴に対向接触する圧胴とを備える印刷装置において、
前記保持部材は、用紙幅方向に間欠的に形成されて給紙搬送されてくる前記用紙の先端を突き当てて位置決めさせるストッパ部と、前記用紙の先端部をクランプするクランプ部とを有し、前記ストッパ部が用紙搬送方向の中心に対して左右非対称に配置されている、ことを特徴とする印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−25707(P2011−25707A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224435(P2010−224435)
【出願日】平成22年10月2日(2010.10.2)
【分割の表示】特願2000−337665(P2000−337665)の分割
【原出願日】平成12年11月6日(2000.11.6)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)