説明

印鑑ケース

【課題】印肉ケースの回動及びロックを簡素な機構により実現する。
【解決手段】印鑑Sを収容する内側スリーブ10と、その外周の外側スリーブ20と、印肉ケース40を回動可能に支持する支持ケース30とを備える。弾性部材50によって内側スリーブ10は支持ケース30を介して外側スリーブ20に対して軸方向一端側へ付勢される。印肉ケース40が印鑑Sの印面tに当接した作用状態Uで、支持ケース30の一端を押印する面に当てて外側スリーブ20を一端側へ向かって押すと、印肉ケース40が印鑑Sの印面tから離反し、つぎに、外側スリーブ20に設けた突条21の一端21aによって印肉ケース40が押圧されて、カム溝31とカム軸41との作用によって、印肉ケース40は前退避位置Rへ回動する。その後、突条21の側面21bによって印肉ケース40が退避位置Rに維持されるので、同一の突条21によって印肉ケース40の回動及びロックが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、印肉ケースと印鑑とをともに収容でき、その印肉ケースが印鑑の印面に顔料を付与し、手で持って紙等の押印しようとする面に押し付けるだけで、その印鑑で何度も押印が可能な印鑑ケースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
印肉ケースと印鑑とをともに収容でき、その印肉ケースが印鑑の印面に顔料を付与し、手で持って紙等の押印しようとする面に押し付けるだけで、その印鑑で何度も押印が可能な印鑑ケースが用いられる。
【0003】
この種の印鑑ケースとして、例えば、図8に記載されたものがある。この印鑑ケースCは、印鑑Sを収容する内側スリーブ1と、その内側スリーブ1の外周に軸方向へ相対移動可能に設けられた外側スリーブ2とを備える。また、印肉ケース4を回動可能に支持し、その印肉ケース4を、印鑑Sの印面に当接しその印面tに顔料を付与する作用位置Uと、印面tから離反した退避位置Rとの2つ位置に回動させることができる支持ケース3を備えている。印肉ケース4は、相互に噛み合う複数組のカム溝とカム軸の組合わせからなるカム機構9によって、支持ケース3に対して前記作用位置Uと前記退避位置Rとの間での回動が可能となっている。
【0004】
静止位置(前記作用位置Uにあって、押印する面に対して外側スリーブ2を押さない状態)において、内側スリーブ1の上端部外面と、外側スリーブ2の上端部内面との間に、その外側スリーブ2が内側スリーブ1に対して上下動可能な空間hが形成されている。
【0005】
また、内側スリーブ1と外側スリーブ2との間には、上向き受座6aと下向き受座6bとを有する受け部材6が設けられている。受け部材6の下向き受座6bと、支持ケース3の上端に設けられた上向き受座3aとの間に、コイルバネからなる第一弾性部材5が配置されている。
また、内側スリーブ1の上端外周部に設けた下向き受座1bと、受け部材6の上向き受座6aとの間に、やや小径で長さの短いコイルバネからなる第二弾性部材7が配置されている。
【0006】
印肉ケース4が、前記作用位置Uにある印鑑ケースCの静止位置において、受け部材6に作用する第一弾性部材5からの押圧弾性により、第二弾性部材7がある程度圧縮された状態となっている。ここで、外側スリーブ2を高さhだけ押し下げると、受け部材6が外側スリーブ2と共に下動し、第二弾性部材7が自由状態に伸長する。また、第一弾性部材は圧縮される。
【0007】
さらに、外側スリーブ2を押し下げると、その外側スリーブ2の上部内面の段部2aが内側スリーブ1の肩段部1aに当接し、第一弾性部材5を圧縮させながら内側スリーブ1が外側スリーブ2と共に下動する。このとき、第一弾性部材5が内側スリーブ1の外周面の凹所8から外れる際の振動が、いわゆるクリック感として操作する指に伝えられ、その後押印の行程に移行することを体感させる。
【0008】
そして、さらなる外側スリーブ2の下動により、前記カム機構9の作用により、印肉ケース4が、印鑑ケースの軸心から外れた位置に向かって外方へ回動し、前記退避位置Rに至る。カム機構9は、相互に噛み合う第一のカム溝9aとそれに噛み合う第一のカム軸9b、第二のカム溝9cととれに噛み合う第二のカム軸9dの組合わせからなる。第一のカム溝9aは支持ケース3に、第一のカム軸9bは印肉ケース4に設けられている。また、第二のカム溝9cは支持ケース3と外側スリーブ2のそれぞれに、カム軸9dは印肉ケース4に設けられている。
このカム機構9の作用によって、印肉ケース4は、支持ケース3に対して前記作用位置Uと前記退避位置Rとの間での回動が可能で、且つ、押印中は前記退避位置Rへロックされるようになっている。
【0009】
印肉ケース4が前記退避位置Rに至った後、さらに、外側スリーブ2を下動させると、第一弾性部材5はさらに圧縮され、外側スリーブ2と内側スリーブ1とは、印鑑Sとともに、その印鑑Sの印面tが押印しようとする面に当接するまで下動して押印が終了する。
【0010】
押印が終了した後、外側スリーブ2を持ったまま、印鑑ケースCを押印した部分から離すと、印鑑ケースCの各部部材は、押印時の逆の行程に沿って作動し、元の状態に復帰する。このとき、自由状態に伸長している第二弾性部材7の弾性力が、外側スリーブ2の上昇を阻止しようとする力となって作用する。このため、第一弾性部材5が受け部材6を介して第二弾性部材7を縮めようとすることで、第一弾性部材5の反発力によって印肉ケース4が勢いよく印鑑Sの印面tに当たることを防止している(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−182199号公報
【特許文献2】特開平10−250207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記図8に示す印鑑ケースCでは、印肉ケース4を回動させるために、相互に噛み合う第一のカム溝9aと第一のカム軸9b、第二のカム溝9cと第二のカム軸9dの組合わせからなるカム機構9を用いている。このカム機構9によって、支持ケース3に対して印肉ケース4を前記作用位置Uと前記退避位置Rとの間での回動が可能で、且つ、押印中は前記退避位置Rへロックされるようになっている。
【0013】
このように、印肉ケース4の回動及びロックのために、2つのカム軸、カム溝を用いていることから、その構造が複雑である。
【0014】
そこで、この発明は、支持ケース3に対する印肉ケース4の前記作用位置Uと前記退避位置Rとの間の回動、及び、前記退避位置Rでのロックを、簡素な機構により実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、この発明は、印鑑を収容する内側スリーブと、前記内側スリーブの外周に軸方向へ相対移動可能に設けられた外側スリーブと、前記印鑑の印面に顔料を付与する印肉ケースを回動可能に支持する支持ケースとを備え、前記内側スリーブの外周に弾性部材を配置し、その弾性部材によって前記内側スリーブは前記支持ケースを介して前記外側スリーブに対して軸方向一端側へ付勢され、前記印肉ケースが前記印鑑の印面に当接した作用状態で、前記支持ケースの軸方向一端を押印する面に当てて前記外側スリーブを軸方向一端側へ向かって押すと、前記内側スリーブと前記支持ケースとは前記印鑑とともに前記外側スリーブに対して軸方向他端側へ相対移動し且つその相対移動に伴って前記印肉ケースが前記印鑑の印面から軸方向一端側へ離反し、さらに、前記外側スリーブを軸方向一端側へ向かって押すと、前記外側スリーブに軸方向に沿って設けた前記突条の一端によって前記印肉ケースが前記支持ケースに対して軸方向一端側へ押圧されて、その支持ケースと印肉ケースの一方に設けたカム溝と他方に設けたカム軸との作用によって前記印肉ケースが前記支持ケースに対して軸心から離れる方向へ回動した退避位置へ至り、前記内側スリーブに設けた当接部が前記外側スリーブに設けたストッパ部に当接して前記内側スリーブは前記外側スリーブに対して軸方向他端側へ相対移動不能となり、さらに、外側スリーブを軸方向一端側へ向かって押すと、前記外側スリーブとともに前記内側スリーブが前記支持ケースに対して軸方向一端側へ相対移動し、前記突条の側面によって前記印肉ケースが前記退避位置に維持され、前記印鑑の印面が前記押印する面に当接可能であることを特徴とする印鑑ケースとした。
【0016】
この構成によれば、印肉ケースは、外側スリーブに設けた軸方向の突条の一端に押されることで、カム機構の作用によって、支持ケースに対して作用位置と退避位置との間で回動することができる。また、その退避状態において、印肉ケースは、その回動に用いた突条の側面によって、作用位置側へ戻らないように維持(ロック)される。
このように、同じ突条によって、印肉ケースの回動とロックが可能であり、装置の構成を簡素化することができる。
【0017】
また、この構成において、前記カム溝は前記支持ケースに設けられ、前記カム軸は前記印肉ケースに設けられており、前記カム軸が、前記外側スリーブに設けた軸方向への長孔に入り込むことで、前記外側スリーブと前記支持ケースとの軸方向への相対移動がガイドされている構成を採用することができる。
【0018】
この構成によれば、印肉ケースが退避位置になった後において、印肉ケースを支持する支持ケースと外側スリーブとの軸方向相対移動がガイドされる。
このように、印肉ケースの回動とロックに用いた同じカム軸によって、支持ケースと外側スリーブとのガイドが可能であり、この点においても、装置の構成を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明は、外側スリーブに設けた同一の突条によって、印肉ケースの回動とロックの両方の機能を発揮することができ、装置の構成を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の一実施形態の印鑑ケースを示す全体斜視図
【図2】(a)は図1のa−a断面図、(b)は図1のb−b断面図
【図3】(a)は図2(a)のA−A断面図、(b)は図2(a)のB−B断面図、(c)は図2(a)のC−C断面図、(d)は図2(a)のD−D断面図、(e)は図2(a)のE−E断面図
【図4A】図1の分解斜視図
【図4B】印肉ケースの詳細を示し、(a)は側面図、(b)は背面図、(c)は平面図、(d)は底面図
【図5】内側スリーブ、弾性部材、外側スリーブの詳細を示す分解斜視図
【図6】(a)〜(c)は、それぞれ同実施形態の印鑑ケースの作用図
【図7】(a)〜(c)は、それぞれ同実施形態の印鑑ケースの作用図
【図8】他の実施形態の印鑑ケースを示す分解斜視図
【図9】図8の詳細を示し、(a)は内側スリーブの側面図、(b)は(a)のB−B断面図、(c)は印鑑ケースの断面図、(d)は(c)のD−D断面図
【図10】従来例の印鑑ケースを示し、(a)は作用状態を示す断面図、(b)は退避状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。この実施形態は、印肉ケース40と認め印などの印鑑Sとをともに収容でき、その印肉ケース40が印鑑Sの印面tに顔料を付与し、手で持って紙等の押印しようとする面に押し付けるだけで、その印鑑Sで何度も押印が可能な印鑑ケース60である。
【0022】
この印鑑ケース60は、図1、図4A及び図5に示すように、印鑑Sを収容する内側スリーブ10と、その内側スリーブ10の外周に、外側スリーブ20が配置されている。内側スリーブ10と外側スリーブ20とは、一定の範囲で軸方向へ相対移動可能である。
【0023】
また、顔料を含浸した印肉を備えた印肉ケース40を回動可能に支持し、その印肉ケース40を、印鑑Sの印面tに当接しその印面に顔料を付与する作用位置Uと、印面から離反した退避位置Rとの2つの位置に回動させることができる支持ケース30を備えている。
【0024】
図1及び図2に示すように、静止位置(前記作用位置Uにあって、押印する面に対して外側スリーブ20を押さない状態)において、内側スリーブ10の軸方向他端側(上部側)の外面と、外側スリーブ20がその上部に備えるキャップ26の内面26bとの間に、その外側スリーブ20が内側スリーブ10に対して軸方向移動可能な空間hが形成されている。キャップ26は、外側スリーブ20の本体に対して着脱自在で、キャップ26の一端26aと外側スリーブ20の肩部20cが密着した状態で、その外側スリーブ20の軸方向他端側の端部20bに設けた嵌合部27の凸部27cが、キャップ26に設けた凹部26cに嵌って抜け止めされるようになっている。
【0025】
支持ケース30は、内側スリーブ10の軸方向一端側(下部側)に配置されている。内側スリーブ10と支持ケース30とは、一定の範囲で軸方向へ相対移動可能である。
【0026】
また、内側スリーブ10と外側スリーブ20との間には、コイルバネからなる弾性部材50が配置されている。弾性部材50は、その他端50bが、外側スリーブ20の軸方向他端側の端部20bの内周に設けた受座22に、一端50aが、支持ケース30の軸方向他端側の端部30bに設けた受座32に当接するように配置される。
【0027】
また、支持ケース30は、その軸方向他端側の端部30bに、軸方向一端側に向くストッパ36(内向き凸部30cの一部)を有する。このストッパ36が、内側スリーブ10の外周に設けた係止部11に当接することによって、支持ケース30が内側スリーブ10に対して、それ以上軸方向一端側へ相対移動することが規制されている。
すなわち、ストッパ36が内側スリーブ10の係止部11に当接していれば、弾性部材50によって、内側スリーブ10は支持ケース30を介して外側スリーブ20に対して軸方向一端側へ付勢された状態である。
【0028】
なお、このストッパ36は、支持ケース30の内面に設けた軸方向へ伸びる二本の突条からなるガイド33,33の内側に嵌って、その軸方向への相対移動が案内されている。
【0029】
また、内側スリーブ10の軸方向他端側の端部10bには、雌ネジ部15が設けられている。この雌ネジ部15に、雄ネジ部16bと操作部16aとを有する位置調節ネジ16がねじ込まれる。
位置調節ネジ16の先端16cが、印鑑Sの頂部に当接するようになっており、その位置調節ネジ16のねじ込み量を加減することにより、印鑑Sの印面tの位置を内側スリーブ10に対して軸方向に調節できる。なお、この実施形態では、前記空間hは、位置調節ネジ16の操作部16aの上面と、キャップ26の内面26bとの間に相当する。
【0030】
印肉ケース40は、顔料を含浸した印肉を収容した印肉収容体42が本体部46に着脱可能である。印肉収容体42と本体部46とは、本体部46の底部40aに設けたアリ溝44と、それに嵌るように印肉収容体42に設けられた断面台形状の係止突条43とで固定されている。また、その印肉収容体42の外面に設けたフラット部42aが、本体部46に設けた支持部42bに当接して、がたつきが防止されている。
【0031】
この印肉ケース40は、カム機構によって、支持ケース30に対して前記作用位置Uと前記退避位置Rとの間での回動が可能となっている。
【0032】
カム機構は、支持ケース30に設けられたカム溝31と、印肉ケース40の本体部46が備えるアーム部45に設けられたカム軸41とを備える。
【0033】
カム溝31は、図4Aに示すように、軸方向と並行に伸びる直線部31aと、その直線部の軸方向一端から前記退避位置R側に向かう屈曲部31bとを備える。このカム溝31は、支持ケース30の軸心を挟んで両側に対向して設けられる。カム溝31は、軸心を挟んで両側のものが同一の形状、同一の大きさに形成されている。また、その軸方向位置も同一である。
【0034】
カム軸41は、軸心を挟んで両側に対向して設けられたアーム部45の先端にそれぞれ設けられ、外側を向く第一カム軸41aと内側を向く第二カム軸41bとを備える。図4Bに示すように、第一カム軸41aは断面円形の円柱状を成す突起であり、第二カム軸41bは、断面楕円状、又は、矩形の両端に半円を配置したような細長い形状の断面を有する突起である。第一カム軸41aと第二カム軸41bは、軸心を挟んで両側のものが同一の形状、同一の大きさに形成されている。また、その軸方向位置も同一である。
【0035】
第一カム軸41aは、外側スリーブ20に軸方向に並行に設けられた対の長孔24に収納される。第一カム軸41aがその長孔24内を移動することにより、支持ケース30及び印肉ケース40の外側スリーブ20に対する軸方向への相対移動が案内される。
また、第二カム軸41bは、直線部31aから屈曲部31bへ移動することで、印肉ケース40を、支持ケース30に対して前記作用位置Uから前記退避位置Rへと回動させる。また、その第二カム軸41bが、屈曲部31bから直線部31aへ移動することで、印肉ケース40を、支持ケース30に対して前記退避位置Rから前記作用位置Uへと回動させる。
【0036】
この回動は、外側スリーブ20を軸方向一端側へ(押印しようとする面へ)向かって押した際に、外側スリーブ20に設けた突条21によって、印肉ケース40のアーム部45が軸方向一端側へ押されることで、及び、その押圧力が解除された際に、前記弾性部材50による支持ケース30への軸方向一端側への弾性力(付勢力)によって、それぞれ行われるようになっている。
【0037】
また、内側スリーブ10の外面には、軸心を挟んで両側に対向してガイド14,14が設けられている。ガイド14は、軸方向一端側に設けられた凹部14bとそのすぐ他端側に設けられた凸部14a、その凸部14aよりも他端側において、軸方向に並行に一定の距離だけ設けられる溝部14cとからなる。溝部14cはフラットな面であるか、又は、内側スリーブ10の外面に沿う滑らかな円筒面を有する。ガイド14は、軸心を挟んで両側のものが同一の形状、同一の大きさに形成されている。また、その軸方向位置も同一である。
【0038】
印鑑ケース60が前記静止位置にあって、外側スリーブ20が軸方向一端側へ押圧されると、支持ケース30の軸方向他端側の端部30bに設けた爪部34の内向きの凸部34aが、凹部14bから離脱し、凸部14aを乗り越えて溝部14cに入り込むときの振動を、外側スリーブ20を掴む手や指へのクリック感として伝達する。また、凸部34aが溝部14cに入り込んだ後は、その凸部34aが溝部14c内を軸方向へ移動して、支持ケース30と外側スリーブ20との軸方向への相対移動が案内される。
【0039】
この印鑑ケース60の作用について説明すると、図2(a)(b)に示すように、印肉ケース40が印鑑Sの印面tに当接した作用状態で、支持ケース30の軸方向一端側の端部30aを、紙面など押印しようとする面に当てて、外側スリーブ20を弾性部材50の弾性力に抗して軸方向一端側へ、すなわち、押印しようとする面に向かって押す。
【0040】
すると、まず最初に、図6(a)から図6(b)に示すように、内側スリーブ10及び支持ケース30は、内部に収容した印鑑Sとともに外側スリーブ20に対して軸方向他端側へわずかに相対移動する。すなわち、外側スリーブ20は、内側スリーブ10及び支持ケース30に対して、軸方向一端側へわずかに相対移動する。この相対移動に伴って、第二カム軸41bがカム溝31の直線部31aを屈曲部31b側へ移動する。このとき、印肉ケース40に設けたアーム部45のあご部45aが、外側スリーブ20の内面に軸方向に沿って設けた突条21の一端21aによって押されているので、印肉ケース40と外側スリーブ20とは一体に移動する。
【0041】
この相対移動に伴って、印肉ケース40が、印鑑Sの印面tから軸方向一端側へ離反する。この離反により、後述するその後の印肉ケース40の回動をスムーズにしている。印肉ケース40が印鑑Sの印面tに当接していると、印肉ケース40と印面tとの摺動により円滑な回動が阻害されるからである。
【0042】
さらに、外側スリーブ20を軸方向一端側へ向かって押すと、図6(b)から図6(c)に示すように、その外側スリーブ20の突条21の一端21aによって、印肉ケース40のアーム部45のあご部45aが、支持ケース30に対して、軸方向一端側へ押圧される。
【0043】
この押圧により、その支持ケース30に設けたカム溝31と、印肉ケース40に設けたカム軸41との作用によって、印肉ケース40が支持ケース30に対して軸心から離れる方向へ回動し、図7(a)(b)に示す状態を経て、図7(c)に示す前記退避位置Rへ至る。この回動は、突条21の一端21aによって印肉ケース40が押されることによって、第二カム軸41bが直線部31aから屈曲部31bに入り込むことによって行われる。第二カム軸41bの断面が、カム溝31に沿う細長い形状であるので、その回動が確実に行われるように案内されている。
【0044】
また、印肉ケース40のアーム部45は、外側スリーブ20に設けたスリット25内に入り込む。また、本体部46は、支持ケース30に設けた開口35を通じて、その支持ケース30の内外に出入りする。このため、回動する印肉ケース40が外側スリーブ20と干渉しないようになっている。
【0045】
このとき、前述の支持ケース30に設けた爪部34の内向きの凸部34aが、ガイド14内において、凹部14bから離脱し、凸部14aを乗り越えて溝部14cに入り込む。このときの振動が、外側スリーブ20を掴む手や指へのクリック感として伝達される。また、ほぼ同時に、内側スリーブ10の軸方向他端側の端部10bに設けた爪部13の外向きの凸部13aが、外側スリーブ20内に設けた段部23aに乗り上げることによっても振動が発生し、その振動が外側スリーブ20を掴む手や指へのクリック感として伝達されるようにもなっている。これらのクリック感は、印肉ケース40が退避位置Rに至り、以後、印鑑Sが押印しようとする面に向かって進出する動作に切り替わることを意味している。
【0046】
また、このとき、内側スリーブ10に設けた当接部12が、外側スリーブ20に設けたストッパ部28に当接する。この当接により、内側スリーブ10は外側スリーブ20に対して軸方向他端側へ相対移動不能となる。これにより、以後、外側スリーブ20の軸方向一端側への押圧に伴って、その外側スリーブ20と内側スリーブ10とは一体に移動するようになる。
【0047】
さらに、外側スリーブ20を軸方向一端側へ向かって押すと、外側スリーブ20とともに内側スリーブ10が支持ケース30に対して軸方向一端側へ相対移動し、印鑑Sの印面tが徐々に支持ケース30の軸方向一端側の端部30aに近づいていく。
【0048】
このとき、外側スリーブ20の突条21の側面21bによって、印肉ケース40が前記退避位置Rに維持される。すなわち、印肉ケース40のアーム部45のあご部45aに、突条21の側面21bが摺動する状態であるので、印肉ケース40は、この状態では作用位置U側への回動がロックされている。
【0049】
このように、支持ケース30に対する印肉ケース40の前記作用位置Uと前記退避位置Rとの間の回動、及び、その退避位置Rでのロックを、同一の突条21によって機能させることができる。また、その印肉ケース40を回動させるカム機構は、第二カム軸41bとカム溝31との組合わせからなる1組のカム機構で足り、印鑑ケース60を簡素な機構とできる。
なお、ここで、第一カム軸41aは、後述のように、外側スリーブ20と支持ケース30との軸方向への相対移動を案内するものであるので、ここでいう印肉ケース40回動用のカム機構とはその目的を異にするものである。
【0050】
印肉ケース40が前記退避位置Rに至った後、さらに、外側スリーブ20を軸方向一端側へ押すと、弾性部材50はさらに圧縮され、外側スリーブ20と内側スリーブ10とは、印鑑Sとともに、その印鑑Sの印面tが押印しようとする面に当接するまで移動して押印(捺印)が終了する。
【0051】
このとき、第一カム軸41aが、外側スリーブ20に設けた軸方向への長孔24に入り込むことで、外側スリーブ20と支持ケース30との軸方向への相対移動が案内されている。
【0052】
押印が終了した後、外側スリーブ20を持ったまま、印鑑ケース60を押印した部分から離すと、印鑑ケース60の各部部材は、押印時の逆の行程に沿って作動し、元の状態に復帰していく。このとき、圧縮状態にある弾性部材50の弾性力が、外側スリーブ20を支持ケース30に対して軸方向他端側へ押圧し、外側スリーブ20と支持ケース30との軸方向への相対移動によって、印肉ケース40は、前記退避状態Rから前記作用状態Uへと回動する。この回動に際し、印肉ケース40のアーム部45のあご部45aは、常に、突条21の側面21bに摺動し、一定の時期までその回動が拘束されているので、弾性部材50の反発力によって印肉ケース40が勢いよく印鑑Sの印面tに当たることを防止している。
【0053】
他の実施形態を、図8及び図9に示す。この実施形態は、前述の実施形態の構成に加え、内側スリーブ10に、印鑑Sの側面(側周面)を押圧することにより、その印鑑Sを動かないように固定する保持手段17を設けたものである。
【0054】
保持手段17の構成について説明すると、図8に示すように、内側スリーブ10の側面に複数の孔17aが設けられている。この実施形態では、孔17aは、内側スリーブ10の軸方向に沿って2箇所に設けられ、その2箇所のそれぞれおいて、軸周り方向に等分方位に4つ並列して設けられている。また、この実施形態では、孔17aは、それぞれ軸方向に長辺、軸周り方向に短辺を配置した長方形状である。
【0055】
その各孔17aにおいて、その孔17aの軸方向他端側の縁から一端側に向かって突出片17bが設けられている。突出片17bは、内側スリーブ10の本体と一体に樹脂成形されている。
【0056】
また、その突出片17bは、孔17aの軸方向他端側の縁への接続部である根元部17cと突出側の先端部17dの間の中程部17eにおいて、内側スリーブ10の軸心に近づくように、円弧状に湾曲している。
【0057】
このため、内側スリーブ10内に収容された印鑑Sは、その軸方向2箇所において、それぞれ軸周り4方向において突出片17bに摺接する。この摺接により、印鑑Sは内側スリーブ10内にしっかりと保持される。また、内側に湾曲した中程部17eで印鑑Sに摺接するので、その印鑑Sを傷つけることがない。
【符号の説明】
【0058】
1 内側スリーブ
2 外側スリーブ
3 支持ケース
4 印肉ケース
5 第一弾性部材
6 受け部材
7 第二弾性部材
8 凹部
9 カム機構
10 内側スリーブ
10a 端部
10b 端部
11 係止部
12 当接部
13 爪部
13a 凸部
14 ガイド
14a 凸部
14b 凹部
14c 溝部
15 雌ネジ部
16 位置調節ネジ
16a 操作部
16b 雄ネジ部
16c 先端
17 保持手段
17a 孔
17b 突出片
17c 根元部
17d 先端部
17e 中程部
20 外側スリーブ
20a 端部
20b 端部
20c 肩部
21 突条
21a 一端
21b 側面
22 受座
23 爪部
23a 段部
24 長孔
25 スリット
26 キャップ
26a 一端
26b 内面
26c 凹部
27 嵌合部
27c 突部
30 支持ケース
30a 端部
30b 端部
30c 凸部
31 カム溝
31a 直線部
31b 屈曲部
32 受座
33 ガイド
34 爪部
34a 凸部
36 ストッパ
40 印肉ケース
40a 底部
41 カム軸
42 印肉収容体
42a フラット部
42b 支持部
43 係止突条
44 アリ溝
45 アーム部
45a あご部
50 弾性部材
50a 一端
50b 他端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印鑑(S)を収容する内側スリーブ(10)と、前記内側スリーブ(10)の外周に軸方向へ相対移動可能に設けられた外側スリーブ(20)と、前記印鑑(S)の印面(t)に顔料を付与する印肉ケース(40)を回動可能に支持する支持ケース(30)とを備え、前記内側スリーブ(10)の外周に弾性部材(50)を配置し、その弾性部材(50)によって前記内側スリーブ(10)は前記支持ケース(30)を介して前記外側スリーブ(20)に対して軸方向一端側へ付勢され、
前記印肉ケース(40)が前記印鑑(S)の印面(t)に当接した作用状態で、前記支持ケース(30)の軸方向一端を押印する面に当てて前記外側スリーブ(20)を軸方向一端側へ向かって押すと、前記内側スリーブ(10)と前記支持ケース(30)とは前記印鑑(S)とともに前記外側スリーブ(20)に対して軸方向他端側へ相対移動し且つその相対移動に伴って前記印肉ケース(40)が前記印鑑(S)の印面(t)から軸方向一端側へ離反し、
さらに、前記外側スリーブ(20)を軸方向一端側へ向かって押すと、前記外側スリーブ(20)に軸方向に沿って設けた前記突条(21)の一端(21a)によって前記印肉ケース(40)が前記支持ケース(30)に対して軸方向一端側へ押圧されて、その支持ケース(30)と印肉ケース(40)の一方に設けたカム溝(31)と他方に設けたカム軸(41)との作用によって前記印肉ケース(40)が前記支持ケース(30)に対して軸心から離れる方向へ回動した退避位置(R)へ至り、前記内側スリーブ(10)に設けた当接部(12)が前記外側スリーブ(20)に設けたストッパ部(28)に当接して前記内側スリーブ(10)は前記外側スリーブ(20)に対して軸方向他端側へ相対移動不能となり、
さらに、外側スリーブ(20)を軸方向一端側へ向かって押すと、前記外側スリーブ(20)とともに前記内側スリーブ(10)が前記支持ケース(30)に対して軸方向一端側へ相対移動し、前記突条(21)の側面(21b)によって前記印肉ケース(40)が前記退避位置(R)に維持され、前記印鑑(S)の印面(t)が前記押印する面に当接可能であることを特徴とする印鑑ケース。
【請求項2】
前記カム溝(31)は前記支持ケース(30)に設けられ、前記カム軸(41)は前記印肉ケース(40)に設けられており、前記カム軸(41)が、前記外側スリーブ(20)に設けた軸方向への長孔(24)に入り込むことで、前記外側スリーブ(20)と前記支持ケース(30)との軸方向への相対移動がガイドされていることを特徴とする請求項1に記載の印鑑ケース。







【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−10349(P2013−10349A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−124775(P2012−124775)
【出願日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【出願人】(510222419)株式会社ミムゴ (4)