説明

印鑑

【課題】 盗難されても不正使用による危険性を大幅に低減することができ、同時に、所有者やその使用が許諾された人にとって、容易に正しい印相を形成することのできる印鑑を提供する。
【解決手段】印面11aを有する印鑑本体11と、前記印鑑本体11の外周に複数の層を形成し、各層が前記印鑑本体11の印面周囲に円環状の印面A4、B4、C4を夫々有する外層部A1、B1、C1とを備え、前記外層部A1、B1、C1の層は夫々、前記印鑑本体11を軸に回転自在になされ、該外層部A1、B1、C1の印面A4、B4、C4が前記印鑑本体11の印面11aに対し静止した状態で外層部A1、B1、C1と印鑑本体11の印面が一つの印相を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行印や実印としての好適に用いられる印鑑に関し、特に盗用等の不正使用による危険性を低減するための構造を有する印鑑に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば銀行印や実印として使用される印鑑は、その所有者にとっての財産に係わる重要なものである。しかしながら、従来から用いられている印鑑は、その使用者が誰であろうと捺印された印影に対して真偽の判断がなされる。したがって、もし、その印鑑が盗難された場合には、不正に使用されるおそれがあり、例えば横領等により所有者は多大な損害を被ることになる。
【0003】
このような問題に対し、特許文献1に開示されるような安全印鑑が提案されている。
この特許文献1に開示された安全印鑑について、図8に基づいて簡単に説明する。図8は、特許文献1に開示された安全印鑑の斜視図である。
図示する印鑑50は、印面を有する印鑑本体51と、印鑑本体51を一端部に収容する印鑑保護筒52と、印鑑保護筒52の他端部に設けられた回転ナット53とを備えている。前記印鑑保護筒52の先端面、即ち、印鑑本体51の印面51aの周囲には、複数の(例えば8通り)の符丁図案52aが形成され、それらの符丁図案は印鑑本体51の印面と共に一つの印相となるよう構成されている。
【0004】
また、印鑑保護筒52に対し、回転ナット53を回転させることにより印鑑本体51も同時に回転するようになされている。即ち、印鑑本体51の印面に対し、その周囲の符丁図案52aが回転し、その回転角度により複数の異なる印相が形成できるよう構成されている。
したがって、例えば、銀行印として登録しているこの印鑑50と、銀行通帳とが盗難されたとしても、普段は、銀行印として登録していない印相にしておくことにより、登録された印相と異なるため横領の危険性を低減することができる。
【特許文献1】実用新案登録第3078233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1に開示された印鑑50にあっては、模様が固定された複数の符丁図案に対し、印鑑本体51の印面が回転する構成であるため、変更可能な印相の種類は数種類から多くても数十種類である。図8に示した形態にあっては、8角形であるため、変更可能な印相は8種類である。
このため、印鑑50と銀行通帳とが盗難された場合、盗難者は銀行通帳に示される印影を見ながら、それと合致するように印鑑50の印相を容易に形成することができ、結局は預金が横領されるおそれが高い。
【0006】
また、前記した印鑑50にあっては、所有者が登録した元来の印相に合わせる際、符丁と印鑑本体51の印面との位置関係だけで視覚的に記憶する必要があり、所有者自身も正しい印相を記憶するのが困難であるという課題があった。もし、所有者自身が正しい印相を記憶しているとしても、例えば配偶者に印鑑50を使用してもらう場合等において、口頭で正しい印相を伝えるのは困難であり、安全性が得られる一方で、不便性が生じるという課題があった。
【0007】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、盗難されても不正使用による危険性を大幅に低減することができ、同時に、所有者やその使用が許諾された人にとって、容易に正しい印相を形成することのできる印鑑を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するために、本発明に係る印鑑は、印面を有する印鑑本体と、前記印鑑本体の外周に複数の層を形成し、各層が前記印鑑本体の印面周囲に円環状の印面を夫々有する外層部とを備え、前記外層部の層は夫々、前記印鑑本体を軸に回転自在になされ、該外層部の印面が前記印鑑本体の印面に対し静止した状態で外層部と印鑑本体の印面が一つの印相を形成することに特徴を有する。
このように外層部の複数の層が夫々印面を有し、各層を印鑑本体を軸に個別に回転させることができるため、各層の印面に夫々異なる絵柄を印相として形成すれば、印面全体として多様な印相を形成することができる。したがって、印面全体で所定の印相を実印や銀行印として登録し、印鑑使用時だけ、正しい印相となるようにして用いれば、その印鑑が盗難されても、盗用等の不正使用による危険性を大幅に低減することができる。
【0009】
また、前記外層部の層の数に対応して設けられ、回転自在に構成された複数のダイヤルを備え、前記複数のダイヤルを夫々回転させることにより、各ダイヤルに対応する前記外層部の層の印面が、前記印鑑本体の印面の周りを回転することが望ましい。
また、前記複数のダイヤルには夫々複数の数字が記され、前記ダイヤルに連動して回転する前記外層部の層の印面には、前記複数の数字の夫々に対応した複数の異なる絵柄が夫々印相として形成されていることが望ましい。
【0010】
さらには、前記複数のダイヤルに記された数字を並べ、所定の複数桁の数字となるよう位置を合わせるための目印が記されていることが好ましい。
このように構成することにより、複数のダイヤルを夫々回し、目印に合わせ所定の複数桁の数字を形成することにより、その複数桁の数字のみに対応する印相を形成することができる。したがって、印鑑の所有者は、目印に揃える複数桁の数字を暗証番号として記憶すればよいので、印鑑の使用時には、容易に正しい印相を形成することができる。
また、前記目印は、印影の上下を判別するための、あたりの機能を兼ねていることが望ましい。
このように、ダイヤル位置を合わせるための目印を「あたり」として用いることにより、印影の上下を容易に判別することができ、正しい向きで捺印することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、盗難されても不正使用による危険性を大幅に低減することができ、同時に、所有者やその使用が許諾された人にとって、容易に正しい印相を形成することのできる印鑑を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。図1及び図2は本発明の印鑑の全体構成を示す図であり、図1はその正面図、図2は図1の縦断面図である。
この印鑑100は、図2に示すように、印面11aが下端面に形成された円柱形状の印鑑本体11と、印鑑本体11の上端面を支える中軸12とを備えている。中軸12は中空構造であって、その上端部が開放されており、そこに後軸13が挿嵌されている。尚、後軸13の周縁には円環状に延設されたストッパー部13aが形成されており、このストッパー部13aの下面が中軸12の上端に当接するようになされている。
【0013】
また、印鑑本体11の外周面を覆うように略円筒状の印面外層A1が設けられ、この印面外層A1の外周面を覆うように略円筒状の印面外層B1が設けられ、さらに、この印面外層B1の外周面を覆うように略円筒状の印面外層C1が設けられている。即ち、印鑑本体11の外周に複数の層(外層部)が形成されている。尚、印面外層A1、B1、C1の下端部は、夫々印鑑本体11の印面11aの周囲に円環状に形成されると共に、印鑑本体11の印面11aと同一面に揃えられ、夫々印面A4、B4、C4として印面11aと共に印影を残すことができるようになされている。
【0014】
さらに前記印面外層A1の上部は、中軸12の周囲に設けられた円環状のダイヤルA2に固定接続されている。また、前記印面外層B1の上部はダイヤルA2の下段に設けられたダイヤルB2に固定接続され、さらに前記印面外層C1の上部はダイヤルB2の下段に設けられたダイヤルC2に固定接続されている。
前記ダイヤルA2、B2、C2は夫々、中軸12を軸に回転自在に設けられており、それらダイヤルの回転に連動して、対応する印面外層A1、B1、C1が印鑑本体11を軸に回転するように構成されている。このため、印鑑100としての印相は、ダイヤルA2、B2、C2を回転させた後、印面外層A1、B1、C1の印面A4、B4、C4を、印鑑本体11の印面11aに対し静止させた状態で形成される。
【0015】
また、ダイヤルA2の上部であって中軸12の周りには、円環状に形成された円環板部14aを有し前記円環板部14aが中軸12に沿って上下動自在になされた後キャップ14が設けられている。
また、この後キャップ14は、前記円環板部14aが後軸13に形成されたストッパー部13aに係止することにより中軸12から外れないようになされている。尚、この後キャップ14には、円環板部14aの周縁から垂直上方に向け、円筒部14bが延設されている。
【0016】
また、後キャップ14の円環板部14aの上面にはノックスプリング15の下端が当接するよう設けられ、このノックスプリング15の上端は、後軸13に沿って上下に摺動自在に設けられたノック受け台16によって支えられている。詳しくは、このノック受け台16は、後軸13に対し摺動する部分である第一円筒部16aと、ノックスプリング15と当接する円環板部16bと、円環板部16bの垂直上方に延設され、捺印の際、指腹の当接部となるノックカバー17が嵌合する第二円筒部16cとで形成されている。
また、ノック受け台16は、後カバー18が後キャップ14の円筒部14bに強固に嵌合することにより、その上方への移動が制限され、ノックスプリング15を適度に押さえつけるように構成されている。
【0017】
このように構成された印鑑100を捺印する際には、先ず、後カバー18に記された矢印マーク18a(目印)を、印影の上下を判別するための「あたり」として用いる。即ち、この形態においては、矢印マーク18aは印影の上部を示す目印であり、その位置を確認して印鑑100の捺印方向を合わせる。
そして、後カバー18を複数の指で保持し、ノックカバー17を指の腹で押し下げることにより、ノックスプリング15が圧縮される。これによりスプリングの反発力が生じ、後キャップ14が下方に均一に加圧する。その結果、印鑑本体11及び印面外層A1、B1、C1による全ての印面が均一な加圧力により捺印面に対し押し付けられる。
【0018】
続いて、ダイヤルA2、B2、C2の構造について更に詳しく説明する。図1にその外観が示されるダイヤルA2、B2、C2は、その周面に夫々1〜8の数字が記されており、印鑑の使用者は、各ダイヤルを回転させて、前記の矢印マーク18aに数字を合わせ、所定の3桁の数字を形成することができる。
【0019】
また、各ダイヤルA2、B2、C2の回転機構については、矢印マーク18aへの位置合わせ精度の向上、及び操作感覚向上のために、図2に示すように各ダイヤルの上面に、板ばねA3、B3、C3が夫々設けられている。
ここで、この板ばねの機能について説明するため、図3(a)に、図2に示す矢視a−aの断面図を示し、図3(b)に、図2に示す矢視b−bの断面図を示す。即ち、図3(a)に示されるのは板ばねC3を下方から見た平面図であり、図3(b)に示されるのはダイヤルC2を上方から見た平面図である。
【0020】
図3(a)に示す板ばねC3には、一つの突起部19が形成され、この突起部19は矢印マーク18aの位置に合わせて固定されている。一方、回転する側のダイヤルC2には、図3(b)に示すように、8個の凹部20が45度の等間隔で形成されている。即ち、これら8個の凹部20はダイヤル表面に記された数字1〜8に夫々対応して設けられている。
この構造により、ダイヤルC2を回転させると、ダイヤルC2の凹部20に板ばねC3の突起部19が軽く嵌り、適度なクリック感が生じるように構成されている。そして、ダイヤルに記された数字に対応して凹部20が形成されているため、矢印マーク18aにダイヤルの数字を正確に合わせることができるようになされている。
尚、図3(a)、(b)では板ばねC3とダイヤルC2との関係のみを示したが、板ばねA3とダイヤルA2との関係、板ばねB3とダイヤルB2との関係も同様の構造となされている。
【0021】
続いて、この印鑑100において形成される印相について説明する。図4は、印鑑100の印面を示す図であり、図5は、図4の印面による印相を詳細に示した図である。
図4に示すように、印鑑100の印面100aにおいて、印鑑本体11の印面11aには、例えば名字等の文字(この例では特許という文字)が刻印される。印鑑本体11の印面11aの周囲には印面外層A1、B1、C1が形成され、前記したように、夫々の外層は印鑑本体11を軸に回転自在に構成されている。また、印面外層A1、B1、C1の回転は、前記したようにダイヤルA2、B2、C2の回転に夫々連動しているため、各ダイヤルを回転させることによってなされる。
【0022】
また、図4に示すように、印面100aにおいて、印面外層A1、B1、C1による印面A4、B4、C4はダイヤルA2、B2、C2に記された数字に対応して8つのエリア1〜8に分けられている。ここで図5に示すように、8つのエリア1〜8の夫々には、印面外層ごとにダイヤルの数字に対応した絵柄が印相として記されており、夫々の数字に対応する絵柄は互いに異なるように形成されている。また、図示するように、印面外層A1、B1、C1の間では、各数字に対応する絵柄は同じになされている。尚、図6には、この図5に示す印相による印影を示している。
【0023】
このような構成において、ダイヤルA2、B2、C2を夫々回転させると、対応する印面外層A1、B1、C1が連動して回転し、その印面A4、B4、C4に形成された絵柄が印鑑本体11の印面11aに対して回転する。したがって、後カバー18に記された矢印マーク18aに合わせて所定の数字を揃え、3桁の数字を形成することにより、例えば図7(a)〜図7(c)に示すように、揃えた数字によって異なる印相の印鑑100を作成することができる。尚、図7(a)は、図5の印相に基づいて形成された、ダイヤル数字が112の場合の印影であり、図7(b)はダイヤル数字が252の場合の印影であり、図7(c)はダイヤル数字が843の場合の印影である。
【0024】
以上のように、本実施の形態によれば、ダイヤルA2、B2、C2を夫々回し、矢印マーク8aに合わせ所定の3桁の数字を形成することにより、その3桁の数字のみに対応する印面100aの印相を形成することができる。また、3桁の数字の場合、その組み合わせにより、合計で512通りもの印相を形成できるため、数字の異なる印相同士の識別は、印相や印影を直接見ただけでは困難にすることができる。
したがって、この印鑑100の所有者は、印鑑100の使用時のみに所定の3桁の数字を揃え、それに対応した印相を形成するようにすれば、印鑑100の安全性を非常に高くすることができ、例え盗難されても盗用等の不正使用による危険性を大幅に低減することができる。
また、印鑑100の所有者(又は正規の使用者)は、矢印マーク8aに揃える3桁の数字を暗証番号として記憶すればよいので、印鑑100の使用時には、容易に正しい印相を形成することができる。
【0025】
尚、前記実施の形態においては、ダイヤル及び印面外層が3段(3層)に構成され、ダイヤルの数字及び各外層の印面の柄が8通りの場合を例に示したが、それに限らず、ダイヤルの段数、印面外層の層数、及び各層における印面の柄の数等を設定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、盗難されても盗用を防ぐことのできるセキュリティ性の高い印鑑を提供できるため、銀行印や実印等に用いられる印鑑に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は本発明に係る印鑑の全体構成を示す正面図である。
【図2】図2は図1の印鑑の縦断面図である。
【図3】図3は図2に示す矢視a−aの断面図及び矢視b−bの断面図である。
【図4】図4は図1の印鑑の印面を示す図である。
【図5】図5は図4の印面による印相を詳細に示した図である。
【図6】図6は図5に示す印相による印影を示す図である。
【図7】図7は夫々揃えられた数字が異なる印相が形成された印鑑の印影である。
【図8】図8は従来の安全機能を有する印鑑の斜視図である。
【符号の説明】
【0028】
11 印鑑本体
12 中軸
13 後軸
14 後キャップ
15 ノックスプリング
16 ノック受け台
17 ノックカバー
100 印鑑
100 印面
A1 印面外層
A2 ダイヤル
A3 板ばね
A4 印面
B1 印面外層
B2 ダイヤル
B3 板ばね
B4 印面
C1 印面外層
C2 ダイヤル
C3 板ばね
C4 印面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印面を有する印鑑本体と、
前記印鑑本体の外周に複数の層を形成し、各層が前記印鑑本体の印面周囲に円環状の印面を夫々有する外層部とを備え、
前記外層部の層は夫々、前記印鑑本体を軸に回転自在になされ、該外層部の印面が前記印鑑本体の印面に対し静止した状態で外層部と印鑑本体の印面が一つの印相を形成することを特徴とする印鑑。
【請求項2】
前記外層部の層の数に対応して設けられ、回転自在に構成された複数のダイヤルを備え、
前記複数のダイヤルを夫々回転させることにより、各ダイヤルに対応する前記外層部の層の印面が、前記印鑑本体の印面の周りを回転することを特徴とする請求項1に記載された印鑑。
【請求項3】
前記複数のダイヤルには夫々複数の数字が記され、
前記ダイヤルに連動して回転する前記外層部の層の印面には、前記複数の数字の夫々に対応した複数の異なる絵柄が夫々印相として形成されていることを特徴とする請求項2に記載された印鑑。
【請求項4】
前記複数のダイヤルに記された数字を並べ、所定の複数桁の数字となるよう位置を合わせるための目印が記されていることを特徴とする請求項3に記載された印鑑。
【請求項5】
前記目印は、印影の上下を判別するための、あたりの機能を兼ねていることを特徴とする請求項4に記載された印鑑。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−15112(P2007−15112A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−195704(P2005−195704)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(505254979)永江印祥堂株式会社 (1)