説明

卵を保温および孵化させるための方法

本発明は、未成熟卵、特に、未成熟卵がトリの排出腔へと移動する前にトリから取り出された、外科的に取り出された未成熟卵、を保温および孵化させるための方法に関する。上記方法は、a.外科的に取り出した未成熟卵を保温前貯蔵する工程;b.卵の変速式の揺れを提供するように適合された保温隔離装置内に卵を置く工程;c.隔離装置内の換気を制御する工程;d.卵を秤量して重量減少を監視する工程;e.保温期間中に、相対湿度を約15%〜40%に低下させ、そして、保温隔離装置内の温度を変化させて、保温期間中に目標の重量減少を達成する工程;f.孵化期間中に、保温隔離装置内の相対湿度および温度を制御し、そして、相対湿度を約60%〜75%に上昇させ、そして、卵の揺れを停止させる工程;ならびにg.孵化させるまで、卵を隔離装置内で無菌状態に維持する工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、未成熟卵(特に未成熟卵がトリの排出腔に移動する前にトリからその殻内にある状態で取り出された未成熟卵)を保温および孵化させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
特許文献1は、無菌状態のトリを飼育するための方法に関し、この方法は、親ドリを飼う工程と、未成熟卵が排出腔に移動する前に親ドリからその殻内にある状態の未成熟卵を取り出す工程と、その殻内にある状態の未成熟卵を保温する工程と、未成熟卵を孵化させて、トリを卵から孵す工程とを包含する。
【0003】
保温および孵化のプロセスの間、換気、温度制御および湿度は非常に重要である。卵殻(特に、その孔および角質)は、発生中の胚の呼吸器のガス交換と水和とを調節する。本質的に、卵殻は空気を通す膜であるが、胚の発生中、卵殻は、二酸化炭素および水が卵から外に出て、酸素が卵内に入ることを可能にする。胚が成長すると、酸素の増加した供給が必要となる。さらに、孵化期間の間に、適切な湿度レベルを維持するために注意が払われなければならない。
【0004】
正常な自然に産まれた卵の首尾よい保温および孵化に必要とされる条件は周知である。これらの条件は、種間で変化する。例えば、ニワトリのような家禽について、保温条件には0日目〜18日目を割り当て、そして、孵化条件には18日目〜21日目を割り当てて、全体のプロセスは、20〜22日間、一般に21日間かかる。保温中、卵は、ドーム状の端部(空気の空洞を含む)が上向きになるように位置決めされるべきである。代表的な保温器の条件は、37.5℃の気温、50%の相対湿度(RH)、および、卵の長軸方向が45分〜180分ごとに1回、ゆっくりと約80°(垂直面から各側に40°ずつ)回転させられるような卵の規則正しい反転(turning)(揺れ(rocking))である。
【0005】
孵化の3日前(18日目またはそれ以降)に、胚は代表的に卵内の孵化位置に移動する。卵は、この段階ではもはや反転させられるべきではない。19日目〜21日目には、相対湿度が約60%〜70%まで上昇させられるべきである。この高い湿度レベルは、卵からの湿度の減少を減少させる。また、保温および孵化の段階の全体を通じて適度な換気を維持し、標準的な大気圧(760mmHg)における正常な空気の二酸化炭素濃度および酸素濃度が維持されることを確実なものとすることも重要である。
【0006】
通常、卵の保温の間でかつ孵化時期の前(18日目または19日目まで)には、卵は、その最初の重量の約13%を失っている。この重量減少は、卵の正確な発生に必須である。
【0007】
特許文献2は、インビトロでの鳥類胚の培養技術を記載する。具体的には、この明細書は、胚がその殻から取り出された後に、密閉された容器内で胚を保温することに関する。使用される容器は、好ましくは、培養のために同じ種から選択されたか、または、本発明の観点から、同様の雌鶏に由来する卵殻の一部である。同様に、特許文献3は、雌鶏の受精させた卵子のインビトロ培養方法を開示し、この方法においては、まさに受精させたばかりの胚が産卵後約1時間以内に雌鶏の卵管の有頭骨の上側部分から取られ、その後、培養される。これらの明細書は共に、単に、その殻を持たない状態で取り出された卵の人工培養を開示するだけである。
【特許文献1】欧州特許出願第01650109号明細書
【特許文献2】欧州特許第0 295 964号明細書
【特許文献3】欧州特許第0 511 431号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、外科的に取り出したその殻内にある状態の未成熟卵を保温および孵化させるための特別な技術に関し、具体的には、欧州特許出願第01650109号の方法から誘導した技術に関する。これらの技術は、従来の卵の保温および孵化の技術と比較したときに、外科的に取り出した卵の収率の観点から改善された結果をもたらす。
【0009】
(発明の言明)
本発明の一般的な局面によれば、その殻内にある状態の未成熟卵を滅菌環境中で保温および孵化させるための方法が提供され、この方法は、卵を必要に応じて冷却および保温前貯蔵する工程;卵の変速式の揺れを提供するように適合された保温隔離装置内に卵を置く工程;卵の換気および重量減少を監視する工程;保温期間中に隔離装置内の相対湿度(RH)を約15%〜40%のレベルまで低下させる工程;孵化期間中に相対湿度を約60%〜75%に上昇させ、卵の揺れを停止させる工程;および、孵化させるまで、卵を隔離装置内に維持する工程を包含する。
【0010】
予期せぬことに、保温期間の最初の18日間に所望される相対湿度は、通常の卵に必要とされるものよりもかなり低い。15〜40%というこの低い相対湿度が、通常の/従来の卵(すなわち、生殖管内で完全に成熟する機会を与えられ、排出腔を通して自然に産まれた卵)を孵化させるために使用された場合、非常に低い孵化率(<40%)を与えるが、未成熟卵の場合は、この低い相対湿度が最適なRH範囲である。したがって、保温期間中にこのような低い相対湿度レベルを用いることは、この分野における従来の技術に反する。
【0011】
本発明の最初の局面によれば、外科的に取り出したその殻内にある状態の未成熟卵を滅菌環境中で保温および孵化させるための方法が提供され、この方法は、以下の工程を包含する:
a.外科的に取り出した未成熟卵を保温前貯蔵する工程;
b.卵の変速式の揺れを提供するように適合された保温隔離装置内に卵を置く工程;
c.隔離装置内の換気を制御する工程;
d.卵を秤量して重量減少を監視する工程;
e.保温期間中に、相対湿度を約15%〜40%に低下させ、そして、保温隔離装置内の温度を変化させて、保温期間中に目標の重量減少を達成する工程;
f.孵化期間中に、保温隔離装置内の相対湿度および温度を制御し、そして、相対湿度を約60%〜75%に上昇させ、そして、卵の揺れを停止させる工程;ならびに
g.孵化させるまで、卵を隔離装置内で無菌状態に維持する工程。
【0012】
本発明によれば、外科的に取り出した卵の無菌状態は、方法の全体を通して維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(発明の詳細な説明)
本発明は、最適な保温前貯蔵から、生育できるトリの保温および孵化までの、外科的に取り出した未成熟卵の保温および孵化の方法に関する。
【0014】
外科的に取り出した卵(例えば、欧州特許出願第01650109号の手順を用いて得られた卵)は、その性質として、未成熟である。いくつかの場合、その発生(例えば、嚢胚形成)が遅らされ得る。さらに、未成熟卵は、妊娠期を十分に経て自然に産まれた卵のある特徴を欠く可能性がある。例えば、殻上の角質が減少しており、そして、殻中の孔形成が損なわれている可能性がある。外科的に取り出した卵のいくつかは、未成熟な卵殻形成、ならびに、外科的な麻酔、安楽死の方法およびタイミングの影響から、湿気の減少およびそれに対応する重量減少(これらは、正確な胚発生およびヒナの生存性に必須である)を適切に行わない可能性があることが見出されている。したがって、通常の産まれた卵についての標準的な孵化の実施は、未成熟な外科的に取り出した卵の最適な生存率を達成するには不適切である。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、外科的に取り出したその殻内にある状態の未成熟卵を保温および孵化させるための方法が提供され、この方法は、以下の工程を提供する:
a.外科的に取り出した未成熟卵を保温前貯蔵する工程;
b.卵の変速式の揺れを提供するように適合された保温隔離装置内に卵を置く工程;
c.隔離装置内の換気を制御する工程;
d.卵を秤量して重量減少を監視する工程;
e.保温期間中に、相対湿度を約15%〜40%に低下させ、そして、保温隔離装置内の温度を変化させて、保温期間中に目標の重量減少を達成する工程;
f.孵化期間中に、保温隔離装置内の相対湿度および温度を制御し、そして、相対湿度を約60%〜75%に上昇させ、そして、卵の揺れを停止させる工程;ならびに
g.孵化させるまで、卵を隔離装置内で無菌状態に維持する工程。
【0016】
本発明者らは、予期せぬことに、従来の孵化技術が、外科的に取り出した未成熟卵には適切でないことを発見した。このような外科的に取り出した卵からの健康なトリの一貫して高い孵化率を達成するために、未成熟卵について新規な方法が特に必要とされている。
【0017】
具体的に、本発明者らは、驚くべきことに、低い湿度レベルで、規定された時間にわたって外科的に取り出した卵を保温することで、生存可能な胚という観点で、良好な結果が得られることを発見した。予期せぬことに、保温の最初の約18日間で、自然に産まれた卵に適切なRH(約50%のRH)を使用すると、自然に産まれた卵では>85%の生存可能な孵化が提供されたが、未成熟卵については非常に低い卵の孵化率(<35%の生存可能な孵化)をもたらした。さらにそして、再度予期せぬことに、保温の最初の約18日間で低いRH(15〜40%)を使用すると、自然に産まれた卵については非常に低い孵化率(<40%)をもたらしたが、未成熟卵については予期せぬほどに良好な孵化率(>70%の生存可能な孵化)をもたらした。これらの低い湿度レベルを保持することで、トリの生存可能な孵化を確実なものとするために必要とされる重量減少が提供されるので、有益である。
【0018】
理想的には、外科的に取り出したその殻内にある状態の未成熟卵は無菌でありそして、本発明の方法は、孵化および保温の期間中、無菌状態を確実なものとするために、滅菌した大気中で行われる。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、保温器内の換気が制御される。適切な場合、HEPAフィルター処理した空気と、滅菌した酸素を補充した滅菌空気との組み合わせを用いた換気が使用され得る。
【0020】
本発明の別の実施形態によれば、隔離装置には、卵を秤量するための設備が提供される。これにより、卵の重量減少を直接監視することが可能となる。個々の卵についての保温の開始から、孵化期間の前までの目標とする重量減少は、卵の最初の重量の約10%〜15%である。
【0021】
本発明のなお好ましい実施形態によれば、隔離装置には、各保温器が、個々の卵についての重量減少および生存率を最適にするために必須な種々の条件(具体的には、相対湿度レベル)を同時に提供し得るように、1以上の保温器が提供され得る。卵の重量減少における広範囲な変化が予想される状況において、別々の保温器が同時に使用される。
【0022】
保温期間は、保温器内での0日目〜18日目の期間として規定される。この期間では、卵を揺らすことが必須である。0日目は、卵が保温器内に入れられた最初の日に対応する。孵化期間は、19日目〜21日目の期間として規定される。この期間の間には、卵を揺らすことは必要とされない。
【0023】
保温および孵化の間の通常レベルの相対湿度は、約50%〜70%であると理解されている。本発明の方法は、従来の保温および孵化の慣習を、この分野では意図されなかったレベルに変更する必要性を認識する。外科的に取り出した卵に独特の特徴が、この分野における従来の技術が、所望の孵化率/生存率を達成しないという特別の状況を生じる。
【0024】
本発明の好ましい実施形態によれば、相対湿度レベルは、保温期間中に、15%〜35%、好ましくは25%〜35%に低下される。さらに、保温期間は、36℃〜38℃の温度で起こる。
【0025】
本発明のなお好ましい実施形態によれば、相対湿度レベルは、孵化期間中に、60%〜75%、好ましくは、約65%に上昇させられる。さらに、孵化期間は、36℃〜37.5℃の温度で起こり得る。孵化期間(工程(e))は、18日目付近で始まり得る。
【0026】
未成熟卵は、自然に産まれた卵と比較して、最初の18日間の保温期間にかなりより低いRHを必要とするが、孵化期間における次の3日間には、必要とされるRHは、自然に産まれた卵に必要とされるRHと同様であることが分かった。
【0027】
本発明の方法は、保温隔離装置内で行われる。保温器は、標準的な孵化技術において使用される従来の保温器であり得るか、または、無菌卵の保温および孵化のための滅菌の要件を満たすように適合された保温器(すなわち、保温隔離装置)であり得る。理想的には、保温の方法および保温隔離装置は、未成熟卵の滅菌性および無菌状態を維持する。
【0028】
保温隔離装置は、換気率を監視および制御し、空気を除湿し、そして、酸素富化された空気(760mmHgで21〜23%)を達成するための設備を備えられ得る。従って、理想的には、換気を制御するように改変され、換気の制御を可能にされた、従来の保温隔離装置が使用される。この方法はさらに、保温隔離装置に酸素を加える工程を包含し得る。より好ましくは、酸素は、保温器内の湿度が低下した場合に加えられる。
【0029】
好ましくは、外科的に取り出された卵は、外科的な取り出しが行われた外科手術用隔離装置から取り出され、そして、短時間(例えば、手術から30分以内)で保温隔離装置へと運ばれる。卵が、保温の開始前に空気で換気されることを確実なものとすることが有益である。
【0030】
保温の方法はまた、親ドリから外科的に取り出した後に、卵を冷却するという追加の最初の工程も包含し得る。また、保温前の貯蔵の工程も包含され得、この工程において、卵は次いで貯蔵され、少なくとも24時間、好ましくは72時間まで、妨げられない状態にされ得る。一般に、保温前の貯蔵は、0時間〜72時間であり得る。未成熟卵についての好ましい貯蔵条件は、以下の通りである:HEPAフィルター処理した空気、15℃と23℃との間の温度、50%〜75%の相対湿度、および、振動も突然の衝撃もない貯蔵状態。
【0031】
本発明の別の実施形態によれば、卵は、滅菌した機器と、特定の汚染物質を含まないか、もしくは無菌の空気を用いて保温され得る。
【0032】
本発明のさらなる特定の実施形態によれば、この方法は以下の工程を包含する:最初の24時間には、卵の種についての標準的な保温条件が使用され得る。その後、各卵は、重量減少、保温温度、相対湿度、そして、適切な呼吸器のガス交換が成されているか(特に、二酸化炭素および酸素の空気中濃度)について、注意深く監視されるべきである。保温および富化の条件は、本発明に従って調節され得る。理想的には、55gの外科的に取り出された未成熟な卵について、約0.4g/日の目標重量減少が望ましい。保温の0日目から18日目までは、まず、約37.2℃〜37.6℃の保温温度が好ましく、次いで、孵化までは約36.5℃〜37.5℃の温度が望ましい。相対湿度は、最初に約40%に設定され得るが、相対湿度が約65%まで増加されるべき18日目までは、毎日、換気率、および、毎日の卵の重量減少に従って調節されるべきである。
【0033】
本発明のなおさらなる実施形態によれば、トリの子宮から未成熟卵を取り出すための外科手順は、トリの皮膚を通した切開と、子宮の操作とを包含する。卵がトリの腸からの排泄物で汚染されず、卵自体はこの技術の間損傷を受けないことが重要である。卵は、無傷の密閉された(例えば、クランプ留めされた)子宮内で、または、子宮の切開により直接的に、のいずれかで取り出され得る。胚の生存率を損ねる危険性に対抗するために、流体形状の滅菌溶液間でのあらゆる直接接触が回避されるべきである。無菌技術が必須である。
【0034】
あるいは、外科的取り出しは、以下の工程を包含する:
側腹部切開を行い、そして、縫合糸を用いてトリの卵管を両端で結紮する工程;
各縫合糸から遠位に離れた位置で卵管を切断する工程;
卵を卵管中に包まれた状態で取り出す工程;
卵管を滅菌する工程;
卵を取り出す工程;および
卵を滅菌する工程。
【0035】
好ましくは、トリは麻酔されるが、あるいは、その殻内の卵を取り出す前に、安楽死または畜殺により屠殺され得る。雌性の親ドリは、生きていても、ごく最近に畜殺されていてもよい。生きたトリは、倫理、法律、および動物の福祉の考慮と両立するように、完全に意識があって落ち着いていても、麻酔されてもよい。卵および卵子(eggs and ova)は、有精または無精のいずれであってもよい。
【0036】
好ましくは、卵の取り出しは、自然状態で卵が親ドリの排出腔へと移動する移動時点よりも前で、かつ可能な限りこの移動時点に近い時点において行われる。
【0037】
外科的に取り出された卵は、次いで、滅菌した容器内に置かれて、密閉され得る。この容器は、卵を冷却することを可能にし、そして、卵の貯蔵に適した設計および大きさであるべきである。滅菌した容器は、卵の約10倍の容量のものであり、卵は、プラスチック製のフレームにより支持され、そして保護されて、安定性および換気の両方を確実なものとされる。
【0038】
いったん卵が孵化されると、孵化したヒナ、飼育中のトリ、産まれ、そして産出能力のあるトリについての適切な環境は、HEPAフィルター処理された空気を備える堅い壁のある隔離装置である。空気は、陽圧に維持され、そして、頻繁な間隔で(例えば、成体のトリについては10回/時間、隔離装置の体積容量および貯蔵の密集具合を考慮)交換される。床面積は、理想的には0.2〜0.4m/トリである。入口ポート上のグローブはトリによる損傷から保護される。空気の温度および照明が制御され、同じ種および段階のトリの従来の生活環についての条件に類似する条件を提供する。
【0039】
本発明のさらなる実施形態によれば、いったん外科的に取り出した卵が孵化されると、取り出されたトリの健康かつ産出力のある状態での飼育および繁殖は、特定の汚染物質を含まないかまたは滅菌した環境において維持される。食餌の栄養成分の調節が必要とされ得る。
【0040】
具体的には、食餌を滅菌する間に生じる損失および片利共生微生物からの供給がないことを補填するために、脂溶性ビタミンまたは水溶性ビタミンのような有機微量栄養素が加えられ得る。ガンマ線照射により滅菌された食餌は、脂溶性ビタミンおよび水溶性ビタミンの濃度が減少している。さらに、ガンマ線照射した食餌は、貯蔵寿命が限られており、脂肪の腐敗臭について監視されるべきである。
【0041】
食餌内容の解析は次いで、生活環の段階によってトリに必要とされる適切な補助物質の計算を可能にする。特定の栄養成分に依存して、これらは、食餌中または水中のいずれかで、非経口的または経口的に投与され得る。飲用水もまた、ガンマ線照射されるべきである(UV照射された水は、細菌の芽胞を含み得る)。
【0042】
本発明のなおさらなる実施形態によれば、外科的に取り出した卵の飼育および繁殖のための方法が提供され、この方法は、卵管内の外科的に取り出された未成熟卵に抗生物質を投与する工程を包含する。好ましくは、フルオロキノロンが経口投与され、そして、適切な場合、特定の微生物を排除するために、他の抗生物質が投与される。抗生物質は、経卵巣性の細菌およびマイコプラズマ感染を排除し、そして、胚およびその後のヒナの生存率および滅菌率に正の影響を及ぼす。抗生物質、医薬品、低分子、ペプチドおよびモノクローナル抗体もまた、ウイルス感染を排除または防止するために使用され得る。
【0043】
卵を保温および孵化させるために必要とされる特定の条件は、例えば、種および親ドリから取り出されたときの発生の段階により変化することが理解される。
【0044】
上段において、本明細書は家禽そして具体的には雌鶏全体に関連するが、本発明は他のトリにおいても行われ得ることが理解される。
【0045】
受精卵を用いて子孫または取り出されたトリ(derived bird)を生産する場合、卵は、微生物の侵入を制御するために、従来の畜産システム、無菌システムにおいて、または、隔離装置においてのいずれかで孵化され、飼育され、維持され、そして繁殖させられ得る。
【0046】
本発明によれば、微生物を含まない程度を最大にするために、卵は、好ましくは、親の雌から無菌的に取り出されるべきであり(親の雌もまた無菌でない限り)、そして、生活環は、隔離装置内で一周されるべきである。無菌の卵およびトリが生産される場合、生活環は、隔離装置の外側で一周され得る。
【0047】
本明細書において、用語「含む(comprise、comprises)、含んだ(comprised)および含んでいる(comprising)」またはその任意のバリエーション、ならびに、用語「含む、挙げられる(include、includes)、含んだ(included)および含んでいる(including)」またはその任意のバリエーションは、全て交換可能であると考えられ、そしてこれらは全て、可能な限り最も広い解釈をもたらすべきであり、逆の場合も同様である。
【0048】
本発明は、以下の非限定的な実施例により例示される。
【実施例】
【0049】
実施例1
材料および方法:
その殻内にある状態の未成熟卵を、欧州特許出願第01650109号の技術に従って親ドリから得た。
【0050】
親ドリから外科的に取り出した後、未成熟卵を冷却した。次いで、これらを、少なくとも24時間、多くても72時間の間、貯蔵し、妨げない状態にした。貯蔵条件は、HEPAフィルター処理した空気、15℃と23℃との間の温度、50%〜75%の相対湿度であり、そして、卵を、振動も突然の衝撃もない状態で貯蔵した。
【0051】
滅菌した機器と、特定の汚染物質を含まない空気を用いて卵を保温した。
【0052】
最初の24時間には標準的な保温条件を用いたが、その後、各卵を、重量減少、保温温度、相対湿度、および、適切な場合、呼吸器のガス交換(特に、空気中の二酸化炭素および酸素の濃度)について注意深く監視した。それに従って、保温および孵化の条件を調節した。例えば、二酸化炭素濃度を減らすために、保温隔離装置の換気率を高め、そして、高い周囲温度および相対湿度の条件下では、隔離装置に入ってくる空気を除湿して、相対湿度が約25%に維持されることを確実なものとした。
【0053】
隔離装置の湿度は、1日目の40%から、20〜25%に低下させて、卵殻を通した湿気の減少を増加させた。これにより、未成熟卵の重量減少が促された。湿度を、13日目までこのレベルに維持し、次いで、14日目〜18日目には40%まで上昇させて、0日目から18日目までで、全体として13%の重量減少を達成した。18日目以後、湿度は65%の通常の孵化レベルに上昇させた。
【0054】
いったん卵を孵化させたら、孵化したヒナ、飼育中のトリ、産まれ、そして産出能力のあるトリについての適切な環境は、HEPAフィルター処理された空気を備える堅い壁のある隔離装置である。空気は、陽圧に維持し、そして、頻繁な間隔で(例えば、成体のトリについては10回/時間、隔離装置の体積容量および貯蔵の密集具合を考慮)交換する。床面積は、0.2〜0.4m/トリであり、入口ポート上のグローブはトリによる損傷から保護され、そして、空気の温度および照明が制御され、同じ種および段階のトリの従来の生活環についての条件に類似する条件を提供する。
【0055】
結果:
胚の生存率に対する、保温前貯蔵の時間(0〜5日間)および条件(温度、湿度、卵の方向、換気、振動)、保温条件(温度、湿度、換気、方向、重量減少)、取り扱いおよび孵化の条件、の影響
以下の貯蔵時間:
0日間 − 孵化率は90%であった。
1〜3日間 − 孵化率は90%であった。
4〜5日間 − 孵化率は60%であった。
【0056】
3日間の貯蔵についての温度、換気/振動:
約25℃、振動/換気あり − 孵化率は60%であった。
約20℃、振動/換気なし − 孵化率は80%であった。
【0057】
卵の方向および重量減少:
卵を横向きに倒した場合 − 重量減少 7.8%、孵化率 30%
卵のドーム状の端部を上向きにした場合 − 重量減少 10.2〜13.1%、孵化率 80〜90%
これらの結果は、振動を除き、換気を提供するという条件で、3日までの貯蔵によっては、外科的に取り出した卵の孵化率に対して、不利な影響がないことが確立するものである。これらの結果はまた、保温中の卵の方向の重要性を確認する。
【0058】
実施例2
経卵巣性の細菌およびマイコプラズマ感染の排除、そして、胚およびその後のヒナの生存率および滅菌率に対する、抗生物質(例えば、経口投与したフルオロキノロン)の影響。
【0059】
結果:
抗生物質なし − 生存率 22〜60%および滅菌率 66〜100%
抗生物質あり − 生存率 13〜57%および滅菌率 89〜100%
これらの結果は、経卵巣性感染(例えば、サルモネラ)を除くために抗生物質を用いることの利益と、抗生物質の使用が、外科的に取り出した卵の生存率に対して不利な影響がないことを確立するものである。
【0060】
実施例3
微量栄養素(ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEおよびビタミンK、Bビタミン複合物を含む)を補充した食餌を用いた、健康および再生産効率の維持
結果:
市販の食餌に25ラドで放射線照射した場合、ビタミンの損失は、ビタミンAおよびB6について最大であった(約50%)。健康は、追加の補充物質を加えた食餌によって維持された。これらの結果は、外科的に取り出した卵から孵化させたトリが、完全な生活環を維持され得、そして、正常な生存率の卵をもたらし得ることを確立するものである。
【0061】
実施例4
外科的に取り出した殻付きの卵の孵化率に対する、保温期間(約18日間)中の非常に低いRHレベル(25%)と比較した従来のRHレベル(50%)の影響。
【0062】
卵の最初の重量は約60gであった。
【0063】
結果:
50%RH 保温中の卵の重量減少 5〜9%、孵化率 33%
25%RH 保温中の卵の重量減少 8〜13%、孵化率 73%
これらの結果は、より低いRHにより重量減少/湿気の減少を制御する場合に、孵化率が改善されることを確認するものである。
【0064】
実施例5
外科的に取り出した単語の孵化率に対する、麻酔または安楽死の影響。
【0065】
30分間の麻酔と比較した場合の安楽死+その30分後の卵の取り出しの影響、および、32時間の保温前貯蔵と比較した場合の8時間の貯蔵の影響。
【0066】
結果:
安楽死:孵化率は25%であった(32時間貯蔵した卵)
麻酔 :孵化率は75%であった(32時間貯蔵した卵)
孵化率は0%であった(8時間貯蔵した卵)
麻酔は、酸素およびイソフルランの混合物を用いて提供した。
【0067】
実施例6
材料および方法
公知のSPF状態の50羽の成体の雌性のニワトリおよび5羽の成体の雄性のニワトリを選択した食餌で維持し、自然繁殖させた。時間設定(timing)と触診との組み合わせを用いて、トリの腹部から卵を取り出す最適な時間を決定した。
【0068】
この手順のために、頚椎脱臼によりトリを安楽死させ、その直後に調製した。腹側胸郭および腹部から羽毛を取り除き、そして、露出された皮膚を、アルコール中50%のヨウ素溶液を用いて滅菌した。次いで、各トリを、5%の過酢酸溶液で滅菌した特別に適合され、かつ、滅菌した機器を備える外科手術用隔離装置下に配置した。トリを滅菌した接着性ドレープで覆い、次いで、隔離装置の滅菌した入口ポートを、このドレープを覆って配置した。開腹切開をつくり、そして、注意深く切断した後、卵を、子宮(生殖管の遠位側でかつ排出腔の近位)から取り出した。これらの卵を次いで、無菌条件下で、孵化用保温器として適合された隔離装置へと移した。
【0069】
安楽死の15〜22分後に、41個の卵を首尾よく回収し、そして、保温に適していると判断した。
【0070】
振動がなく換気ありのプラスチック製の卵トレー内で18〜20℃にて約24時間貯蔵した後、卵を秤量し、次いで、40個の卵を、4つの小型の揺れている保温器のうちの1つにランダムに割り当てた。2つの保温器は、約16%と29%との間のRH(25%のRHとみなした)に維持し、そして、2つの保温器は、約43%と54%との間のRH(50%のRHとみなした)に維持した。卵は、空気の空洞が上向きになるように保持し、そして、保温の0日目、7日目および18日目に個々に秤量した。18日目に、全ての保温器を、約55〜71%のRHを提供するように調節した。孵り、ヒナが生育可能な卵の数を記録した。
【0071】
孵化から1日以内に、生きているニワトリを孵化用隔離装置から取り出して、若いニワトリの群れを飼育するのに適した、2つの大規模飼育用隔離装置へと移した。ニワトリを、放射線照射により滅菌した、補充用の市販の食餌を用いて飼育した。18日齢の時点で、5羽のニワトリを飼育用隔離装置の各々から取り出し、安楽死させ、そして、好気性培養および嫌気性培養によって細菌学的にサンプリングした。これらのサンプルには、肝臓、脾臓、心臓の血液、膣/排出腔、盲嚢および小腸の消化物ならびに糞便を含めた。
【0072】
さらに、外科手術用に選択した50羽の雌から自然に産まれた100個の卵を、標準的な孵化条件(0日目〜18日目、約50%のRH;18日目〜21日目、65%のRH)下で保温し、制御を提供した。全ての卵を、37.4℃に保温した。
【0073】
結果:
人工的に取り出した未成熟卵から、生育能力のあるニワトリを首尾よく孵化させた。サンプリングしたニワトリからは、嫌気性細菌も好気性細菌も単離されなかった。
【0074】
自然に産まれた卵は、91%の生育能力のあるヒナの孵化率を有した。このことは、雌により産まれた卵における自然な繁殖力が正常または高いレベルであることを確認する。
【0075】
最初の18日間に25%RHで保温された未成熟卵(外科的に取り出した)は、50%RHで保温した同様の卵と比較して、有意に高い孵化率を有した(それぞれ、73% 対 33%の生育可能なヒナの孵化率)(P<0.05)。
【0076】
結論:
ニワトリにおいて無菌の有精卵を人工的に生産するための安全かつ効率的な方法を確立した。卵は生育可能であり、そして、生育可能な無菌のニワトリをもたらし、これらのニワトリを隔離装置内に首尾よく維持した。しかし、生育可能なヒナの孵化率を自然に産まれた卵の孵化率に到達させるためには、異常に低い相対湿度を使用することが必要である。具体的には、従来のRH(50%)を使用する場合、自然に産まれた卵の孵化率が>90%であり、未成熟な外科的に取り出した卵が>70%であるのに比して、孵化率は卵の<35%であった。これは、従来の卵についての十分に実証された結果とは対照的であり、この十分に実証された結果は、40%未満のRHが孵化率の低下と関連しているというものであり、50%のRHに比して、25%で保温した未成熟卵に見られる孵化率の上昇と対照的である。
【0077】
本発明により制御され得る感染性生物としては、問題とされる種に対し病原性でも非病原性でもあり得る生物が挙げられる。これらとしては、鳥類種(代表的には、ニワトリ、家禽およびシチメンチョウ)、ヒトおよび他の哺乳動物(代表的には、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラットおよびマウス)が挙げられる。本発明の目的に関して、微生物としては、寄生生物、細菌(嫌気性種および好気性種、片利共生種および腸に関する種を含む)、マイコプラズマ、ウイルス(レトロウイルスを含む)、プリオン、真菌、酵母、カビ、ならびに、DNAおよびRNAのフラグメントが挙げられる。
【0078】
本発明によれば、卵の無菌的な取り出し、ならびに、適切な場合、トリの孵化、飼育、維持および繁殖、は、微生物による汚染を制御する別の方法と組み合わせて使用され得る。このような方法としては、消毒剤、抗菌剤、抗生物質、抗ウイルス剤、駆虫薬、免疫調節因子およびワクチンが挙げられる。
【0079】
本発明によれば、本質的には、厳密に言えば本発明に従って、人工的に、または、外科的に取り出した卵とは、その卵が汚染の可能性のある領域に移動する前に、親ドリから取り出されることを意味することが理解される。理想的には、トリを親ドリとして滅菌した環境下で飼育し、そのトリに滅菌した食餌を与える。次いで、卵が親ドリ内の汚染の可能性がある領域に移動する前に、親ドリから人工的に卵を取り出し、次いで、この卵を保温および孵化させてトリを卵から孵し、このトリをこの滅菌した環境中に維持する。
【0080】
本発明は、上述の実施形態および方法に限定されず、添付の特許請求の範囲内で変更され得ることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科的に取り出したその殻内にある状態の未成熟卵を滅菌環境中で保温および孵化させるための方法であって、該方法は、以下:
a.該外科的に取り出した未成熟卵を保温前貯蔵する工程;
b.該卵の変速式の揺れを提供するように適合された保温隔離装置内に該卵を置く工程;
c.該隔離装置内の換気を制御する工程;
d.該卵を秤量して重量減少を監視する工程;
e.該保温期間中に、相対湿度を約15%〜40%に低下させ、そして、該保温隔離装置内の温度を変化させて、該保温期間中に目標の重量減少を達成する工程;
f.該孵化期間中に、該保温隔離装置内の相対湿度および温度を制御し、そして、該相対湿度を約60%〜75%に上昇させ、そして、該卵の揺れを停止させる工程;ならびに
g.孵化させるまで、該卵を該隔離装置内で無菌状態に維持する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記未成熟卵が、トリ、好ましくはニワトリから外科的に取り出される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記隔離装置が、1以上の保温器を備え、該保温器の各々が種々の相対湿度レベルを同時に提供する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(a)が、0時間〜72時間、好ましくは、少なくとも約24時間かつ多くて約72時間かかる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記保温期間が、保温の開始後0日〜18日である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記保温期間の間かつ前記孵化期間の前の、卵の前記目標重量減少が、該卵の最初の重量の約8%〜15%である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記隔離装置に酸素を付加する工程をさらに包含する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記湿度が、前記工程(f)において60%〜70%に上昇させられる、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記工程(e)が36℃〜38℃の温度において起こる、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記工程(f)が36℃〜37.5℃の温度において起こる、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記未成熟卵の保温および孵化が、滅菌した設備および特定の汚染物質を含まない空気中で起こる、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記外科的に取り出された未成熟卵に対し卵管内に抗生物質が投与される、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記トリに、その食事中に特別の栄養補充物質を提供する工程を包含する、請求項1〜11のいずれかに記載の方法に従って得られた、孵化させたトリを飼育するための方法。
【請求項13】
前記補充物質が、脂溶性ビタミンまたは水溶性ビタミンから選択される、請求項12に記載の方法。

【公表番号】特表2009−527241(P2009−527241A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555799(P2008−555799)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051736
【国際公開番号】WO2007/096417
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(508254945)オバジェン インターナショナル リミテッド (3)
【Fターム(参考)】