説明

卵巣癌を判定するためのHE4及び他の生化学マーカーの使用

【解決手段】 本開示は、患者における卵巣癌を判定するための、1若しくはそれ以上の他のマーカーとのHE4/HE4aマーカーの使用に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般的に、癌の診断、類別、病期診断及び予後診断の領域に関連するものである。より具体的には、本開示は卵巣癌の領域に関連するものである。さらに、本開示は、生物学的マーカーの発現を含む、卵巣癌診断、類別、病期診断及び予後診断の領域に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
癌は広範囲の疾患を含み、世界の約4分の1の人が発症している。癌による有害な影響の重症度は深刻であり、医療政策や方法、更には一般社会に影響を及ぼしている。多くの癌の多くの種類の特徴は悪性細胞の迅速且つ無秩序な増殖であるため、癌に対する取組みを改善する際の包括的な問題となるのは、早期発見及び診断の必要性である。早期発見は癌による致死率を減少させるための最適な手段であることが十分に評価されている。結果として、悪性疾患の存在を診断するための正確で信頼できる基準を開発するために多くの試みがなされてきた。特に、多くの研究は、癌細胞に特異的に発現している若しくは悪性疾患を有する対象において有意に高いレベルで存在している、腫瘍関連抗原として既知である血清学的に定義された抗原性マーカーの使用を対象としている。
【0003】
しかしながら、例えば癌腫抗原の極端な多様性などの、腫瘍関連抗原発現の高度な多様性のために、癌診断に有用な更なる腫瘍マーカーが必要とされている。癌関連抗原との反応性を有する多くのモノクローナル抗体が知られている。そのようなモノクローナル抗体は、糖タンパク質、糖脂質、及びムチンを含む様々な異なる癌関連抗体と結合する。そのようなモノクローナル抗体の多くは、所定の細胞系列或いは組織タイプに由来する同じ腫瘍(他の腫瘍は異なる)上に制限的な発現を示す腫瘍関連抗原を認識する。
【0004】
特定の種類の悪性腫瘍を同定するために有用であると思われる腫瘍関連抗原の例は比較的少ない。モノクローナル抗体B72.3は、例えば、高分子量(>106Da)腫瘍関連ムチン抗原に特異的に結合し、その抗原は、全てではないがほとんどの卵巣癌、及び非小細胞肺癌、大腸癌、及び乳癌の圧倒的多数を含む、多数の異なる癌腫に選択的に発現しているものである。それにも関わらず、腫瘍の外科的切除後、B72.3によって認識されるムチン抗原などの細胞関連腫瘍マーカーの検出は、診断的スクリーニングにおける有用性は限られており、相当量の腫瘤が蓄積される前に悪性疾患を早期発見することが好ましい。
【0005】
一般的に蓄積された腫瘤が検出された後にのみ侵襲的手術が適応されているが、外科的に切除された検体を腫瘍関連抗体に対してスクリーニングすることによって特定のタイプの癌を診断するための代替案は、非侵襲的或いは最小限の侵襲的手順によって対象から得られた検体におけるそのような抗原を検出するための組成物及び方法を提供することである。現在のところ、例えば卵巣、子宮内膜、及び他の癌腫においては、血清や粘膜分泌などの容易に得られる体液検体中に、検出可能な可溶性腫瘍関連抗原が多数存在している。そのようなマーカーの1つは、血流にも流れている癌関連抗原であるCA125であり、これは血清において検出可能である(例えば、Bast et al.,1983 N.Eng.J.Med.309:883;Lloyd et al.,1997 Int.J.Canc.71:842)。血清及び他の体液中におけるCA125値は、卵巣、子宮内膜、及び他の癌腫の診断及び/若しくは予後特性を提供するために、例えば癌胎児抗原(carcinoembryonic antigen:CEA)、扁平上皮癌抗原(squamous cell carcinoma antigen:SCC)、組織ポリペプチド特異的抗原(tissue polypeptide specific antigen:TPS)、シアリルTNムチン(sialyl TN mucin:STN)及び胎盤アルカリホスファターゼ(placenta alkaline phosphatase:PLAP)などの他のマーカーのレベルと共に測定された(例えば、Sarandakou et al.,1997,Acta Oncol.36:755;Sarandakou et al.,1998,Eur.J.Gynaecol.Oncol.19:73;Meier et al.,1997,Anticanc.Res.17(4B):2945;Kudoh et al.,1999,Gynecol.Obstet.Invest.47:52;Ind et al.,1997,Br.J.Obstet.Gynaecol.104:1024;Bell et al.1998,Br.J.Obstet.Gynaecol.105:1136;Cioffi et al.,1997,Tumori 83:594;Meier et al.1997,Anticanc.Res.17(4B):2949;Meier et al.,1997,Anticanc.Res.17(4B):3019)。
【0006】
しかしながら、血清CA125単独或いは他の既知指標との組み合わせにおけるCA125値の上昇は、悪性腫瘍、或いは卵巣癌又は子宮内膜癌などの特異的な悪性腫瘍の決定的な診断を提供するものではない。例えば、膣液及び血清におけるCA125、CEA、及びSCCの上昇は、子宮頸癌及び生殖器癌と比較して、良性婦人科疾患における炎症と最も強く一致する(例えば、Moore et al.,1998 Infect.Dis.Obstet.Gynecol.6:182;Sarandakou et al.,1997 Acta Oncol.36:755)。血清CA125の上昇は神経芽細胞腫に付随して生じ、CEA及びSCCレベルの上昇は結腸直腸癌に付随して生じる。別のマーカーである分化抗原メソテリン(mesothelin)は、正常中皮細胞の表面上に発現し、卵巣上皮癌及び中皮腫を含む特定の癌細胞上にも発現する。メソテリンに関する組成物及び方法(Chang et al.,1992 Canc.Res.52:181;Chang et al.,1992 Int.J.Canc.50:373;Chang et al.,1992 Int.J.Canc.51:548;Chang et al.,1996 Proc.Nat.Acad.Sci.USA 93:136;Chowdhury et al.,1998 Proc.Nat.Acad.Sci.USA 95:669;Yamaguchi et al.,1994 J.Biol.Chem.269:805;Kojima et al.,1995 J.Biol.Chem.270:21984)及び構造的に関連しているメソテリン関連抗原(mesothelin related antigen:MRA;例えばScholler et al.,1999 Proc.Nat.Acad.Sci.USA 96:11531を参照のこと)は、当業者に周知であり、国際出願第WO00/50900号及び米国出願第09/513,597号明細書に記載されているような癌検出及び治療における使用を含むものである。複数のマーカー診断スクリーニングに有用な更なるマーカーが切実に必要性となっている。
【0007】
「4−ジスルフィドコア」ファミリータンパク質は、互いに異なる機能である低分子酸性及び熱安定性分子の混成群を含み、ヒト精巣上体4−ジスルフィドコアタンパク質、或いは「HE4」を含む(Kirchhoff et al.,1991 Biol.Reprod.45:350−357;Wang et al.,1999 Gene 229:101;Schummer et al.,1999 Gene 238:375)。
【0008】
HE4 cDNAはまずヒト精巣上体から単離され(Kirchhoff et al.,1991 Biol.Reprod.45:350−357)、HE4 cDNAはその後、卵巣癌腫から構築されたcDNAライブラリにおいて高頻度に検出された(Wang et al., 1999 Gene 229:101; Schummer et al., 1999 Gene 238:375)。「4−ジスルフィドコア」ファミリータンパク質の新しいメンバーであるHE4aは、米国特許出願公開番号第2003/0108965 A1号明細書に記載されていた。HE4aは、HE4と異なるが高度に類似した配列を示す。HE4aは本開示で使用されている配列ID番号命名を含むように米国特許出願番号第10/233,150号明細書に記載されており、この参照によって本明細書に組み込まれる。本開示の目的のためには、HE4或いはHE4aの検出は同義であると考えられ、どちらかの分子の検出が本明細書で記載された方法において使用され得る。HE4aがHE4とは異なる分子であるか、若しくはHE4aの配列は公開されたHE4配列の修正を単に示しただけであるか否かは重要ではない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、患者(例えば骨盤腔内腫瘤を示す患者)が卵巣癌を発症しているかどうかを判定する方法を含む。前記方法は、前記患者から得られた検体におけるHE4マーカーと、SMRP、CA125及びCA72−4からなる群から選択された別のマーカーとの両方を含む少なくとも2つのマーカーで判定する工程を含む。前記マーカー値の上昇は、患者が卵巣癌を発症している可能性の増加と相関している。実施例として、HE4及びCA125マーカー、或いはHE4及びSMRPマーカーは検体において判定することが可能である。そのような方法は、患者における骨盤腔内腫瘤が良性のものか卵巣癌なのかを区別するために使用することが可能である。
【0010】
別の実施形態において、本開示は卵巣癌を発症している患者の治療に対する反応を判定する方法に関するものである。前記方法は、治療期間中の異なる時間で患者から採取した検体において、HE4マーカーと、SMRP、CA125及びCA72−4からなる群から選択された別のマーカーとの両方を含む少なくとも2つのマーカーで判定する工程を有するものである。後期における前記マーカー値の減少は、患者がその治療に対して反応している事を示している。前記治療は、腹腔内化学療法、或いは例えばCA125に特異的に結合する抗体の患者への投与である。
【0011】
本開示は、卵巣癌の治療を受けた患者において再発を判定する方法にも関する。前記方法は、治療後の患者から採取された検体において、HE4マーカーと、SMRP、CA125及びCA72−4からなる群から選択された別のマーカーとの両方を含む少なくとも2つのマーカーで判定する工程を有するものである。前記マーカー値の上昇は、卵巣癌が患者において再発したことを示している。前記マーカーは治療後に複数回判定され、前記マーカー値の上昇は、卵巣癌が前記患者において再発したことを示している。
【0012】
更なる別の実施形態において、本開示は、患者が卵巣癌を発症する可能性を判定する方法に関するものである。前記方法は、患者から採取した検体において、HE4マーカーと、SMRP、CA125及びCA72−4からなる群から選択された別のマーカーとの両方を含む少なくとも2つのマーカーで判定する工程を有するものである。前記マーカー値の上昇は、前記患者が卵巣癌を発症する可能性の増加と相関している。
【0013】
更なる別の実施形態において、本開示は、卵巣癌を発症した患者における腫瘍を病期診断する及び/若しくは類別する方法を含む。前記方法は、前記患者から採取した検体における、HE4マーカーと、SMRP、CA125及びCA72−4からなる群から選択された別のマーカーとの両方を含む少なくとも2つのマーカーで判定する工程を有するものである。前記マーカー値の上昇は、卵巣癌のより進行した段階及び/若しくは卵巣癌のより高い段階と相関している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
表の簡単な説明
表1は、設定特異度レベルで使用されたマーカーの感度の比較をまとめた実施例1の結果を含むものである。
【0015】
表2は、実施例2に記載されたように、悪性腫瘍を有する或いは有さない対象における年齢分布を含むものである。
【0016】
表3は、実施例2に記載されたように、良性疾患を有する対象の臨床診断を含むものである。
【0017】
表4は、実施例2に記載されたように、卵巣癌を有する対象の組織像及び段階分布を含むものである。
【0018】
表5は、実施例2に記載されたように、卵巣癌及び良性腫瘍を比較した場合の平均と培養液マーカー値を含むものである。
【0019】
表6は、実施例2に記載されたように、設定特異度レベルでのマーカーの組み合わせの感度の比較を含むものである。
【0020】
表7は、実施例2に記載されたように、第1期卵巣癌或いは良性疾患を有する患者の腫瘍マーカーの比較を含むものである。
【0021】
表8は、実施例2に記載されたように、良性及び第1期卵巣癌を有する患者に対する、90%、95%、及び98%の設定特異度レベルでの腫瘍マーカーの組み合わせの感度の比較を含むものである。
【0022】
表9は、実施例3に記載されたように、良性疾患を有する対象における、90%、95%及び98%の設定特異度レベルでの単一マーカー及びマーカーの組み合わせに対する感度レベルをまとめたものである。
【0023】
本開示の主題は、全体的に、生物学的マーカーの組み合わせを用いた、女性における卵巣癌の判定に関連している。HE4単独或いは1若しくはそれ以上の卵巣癌の付加的マーカー(特にマーカーCA125、SMRP及びCA72−4)との組み合わせにおける判定は、ヒト患者における卵巣癌の発症を診断するために、及び様々な種類の治療(例えば、腹腔内化学療法、若しくはViRexx company of Edmonton(カナダ、アルバータ州)のOVAREX(登録商標)製品などの抗CA125抗体での治療)に対する前記癌の反応を判定するために使用することが可能である。さらに、これらのマーカーの判定は、患者における卵巣癌の再発を監視するために、若しくは患者が卵巣癌を再発する可能性を判定するために使用され得る。
【0024】
定義
本明細書で使用される「検体」という用語は、患者に特異的に関連し、そこから前記患者に関する特定の情報を決定、計算、或いは推定することができる物質を意味している。検体は、前記患者からの生物学的物質の全部或いは一部で構成されていても良い。検体は、前記患者情報を提供する前記検体上でテストを行うことが可能な方法において、前記患者に密着した物質であっても良い。検体は、前記患者のものではないが、第一の物質がテストされ、前記患者に関する情報が決定されるものであるこ他の物質に密着した物質であっても良い。検体は患者以外の生物学的物質源と接触していても良く、当業者であればそれでもなお、前記検体から前記患者情報を決定することができる。前記検体でない外来性物質或いは情報は、前記患者と前記検体を確証的に連結するために使用され得るということも理解される。限定されない実施例に対して、二重盲検テストは、検体と患者を一致させるために、チャート或いはデータベースを必要とする。
【0025】
本明細書で使用される「患者」という用語は、それに関する情報を決定するためのアッセイの対象である生物体を意味している。本明細書に記載された方法の多くの実施形態において前記患者はヒトであるが、それら方法は個々のヒトに対して使用するものに限定されるものではない。前記患者は一群のヒトである。前記患者はさらにヒトの一部でもある。本実施形態の限定されない実施例に対して、前記患者は、ヒトの身体に連結していない組織検体、若しくは形質転換細胞株であっても良い。特定の実施形態において、前記患者は非ヒト生物体でも良い。
【0026】
本明細書で使用されたる「参考値」という用語は、アッセイ結果と比較した場合、特定の結果と統計学的に一致する値を意味している。好ましい実施形態において、前記参考値は、HE4a発現を既知臨床結果と比較した研究の統計学的再検討から決定される。そのような研究のいくつかは、本明細書の実施例の項目において示されている。しかしながら、文献の研究、及び本明細書に記載された方法を使用した実験は、参考値を作成する或いは調節するために使用される。参考値は、患者の医療歴、遺伝子、年齢及び他の因子に特に関連がある症例及び結果の考察からも決定される。
【0027】
本明細書において使用される「体液」という用語は、実質的に液体の粘稠度である患者から採取された物質を意味しており、それに関連した固体或いは粒子状物質を含む可能性がある。体液は、前記患者からでない物質及び一部を含んでいてもよい。例えば、体液は水で希釈されるか、或いはEDTAなどの防腐剤を含んでいても良い。体液の限定されない実施例としては、血液、血清、漿膜液、血漿、リンパ、尿、脳脊髄液、唾液、分泌組織及び臓器の粘膜分泌物、膣分泌物、母乳、涙、及び非固体腫瘍に関連するものなどの腹水液である。付加的な実施例は、胸膜、心膜、腹膜、腹腔及び他の体腔とそれらと同等物の液体を含む。体液はさらに、対象、若しくは例えば細胞或いは器官条件培地、洗浄液及びそれらと同等物を含む細胞及び期間培養液などの生物学的原料と接触した液体溶液を含む。
【0028】
検体が投与の準備段階として、投与時に、或いは治療用組成物或いは方法の投与の後、若しくはその後実行したフォローアップの期間中に採取された場合、前記検体は「治療中」に患者から採取される。この用語の使用は、検体が前記治療(すなわち、前記治療或いは再発の有効性を判定するために)の投与前及び後に採取される状況、更には複数の検体が治療の延長コースの間断続的に取られる状況を明確に含む。
【0029】
詳細な説明
卵巣癌は、婦人科悪性腫瘍の最も致死的なものである。2005年には22,000人以上の女性が診断を受け、16,000人がこの病気で死亡することが推測されている(Murray et al.,2005.Ca.Cancer.J.Clin.2005;55(1):10−30)。これらの女性の大部分は上腹部における疾患の痕跡がある又は無い付属器腫瘤を発症している。しかしながら、米国の全女性の20パーセントは、ある時点で付属器腫瘤或いは嚢胞と診断され、その少数が悪性腫瘍を示す。
【0030】
卵巣癌は外科的に病期診断されており、研究によって、婦人科癌専門医によって手術された患者は、非婦人科癌専門医によって手術された患者に比べてより適切に病期診断され、更により減量手術(デバルク)されることを示している。良性婦人科医によってなされる手術とは対照的に、付属器腫瘤を患った患者の場合は外科的調査のために婦人科癌専門医に診せるべきであるという臨床決定が頻繁になされるべきである。CA125腫瘍マーカーは、骨盤腔内腫瘤を患ったどの患者が卵巣癌を発症するかという予測を援助するために使用される。残念なことに、多くの良性婦人科疾患及び非婦人科疾患であっても、CA125は上昇するためその特異性は低いが、正常なCA125は早期卵巣癌の患者の約半分においても見出される。付属器腫瘤を患った患者における悪性腫瘍のリスクを決定し、婦人腫瘍医が患者の適切なトリアージ方式で処理に役立つ、より正確なテストが必要とされている。
【0031】
卵巣癌の低い生存率は、一つには早期疾患では無症状であることに加えて、有効なスクリーニングがないことが原因である。結果として、70%の患者が、診断時には第3期或いは第4期疾患であり、5年の生存率は約44%である(Murry et al.ibid)。初期段階疾患(第1期)に対する5年の生存率は、74〜90%の範囲内である(Averette et al.,1995,Cancer 76(6):1096−1103;Young et al.,1990 N.Engl.J.Med.,322(15):1021−1027)。残念なことに、卵巣癌に対する有効なスクリーニングテストは現在存在せず、増加した感度と特異性を有する腫瘍マーカーが必要とされている。良性と悪性腫瘤とを的確に区別できるマーカー或いはマーカーの組み合わせは、潜在的なスクリーニングテストとして評価するためのよい候補ともなるであろう。
【0032】
血清腫瘍マーカーCA125は、卵巣癌において最も広く使用されていたが、十分な感度を有しておらず、初期段階疾患の検出に対して特異的でもない(Einhorn et al.,1992,Hematol.Oncol.Clin.North.Am.6(4):843−850;Campbell et al.,1990,Br.J.Obstet.Gynaecol.97(4):304−311;Jacobs et al.,1993,BMJ 306(6884):1030−1034;DePriest et al.,1993,Gynecol.Oncol.51(2):205−209)。残念なことに、超音波画像法と高リスク患者の断定におけるCA125血清値とを組み合わせて使用することは、この疾患による致死率を低下させるようには見られなかった(Jacobs et al.,1990,Br.J.Obstet.Gynaecol.97(10):922−929;Karlan et al.,1993 Am.J.Obstet.Gynecol.169(3):494−501;Bourne et al.,1993,BMJ 306(6884):1025−1029;Schwartz et al.,1991,Yale J.Biol.Med.64(6):557−571)。いくつかの新規腫瘍マーカーもまた評価され、卵巣癌を同定する際におけるそれらの有用性を決定した。
【0033】
近年、可溶性メソテリン関連ペプチド(SMRP)及びHE4値は、卵巣癌を患った女性において上昇していることが発見された(Schaner et al.,2003,Mol.Biol.Cell 14(11):4376−4386;Hough et al.,2000,Cancer Res.60(22):6281−6287;Scholler et al.,1999,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.96(20):11531−11536;Hellstrom et al.,2003,Cancer Res.63(13):3695−3700)。可溶性メソテリン関連ペプチドは、巨核球増強因子ファミリーのメンバーであり、卵巣癌を患った14患者の血清及び尿の両方において検出された。予備試験において、血清SMRP値は、良性婦人科疾患の人が10%であったのに対して、卵巣癌を患った女性の92%において上昇していた。尿検査を用いて、SMRP値は、健常ボランティアが14%、良性婦人科状態の人が20%であったのに対して、卵巣癌を患った女性の67%において上昇していた(Bones et al.,2003,American Association for Clinical Chemisty,55th Annual Meeting)。
【0034】
オステオポンチンは、近年、マイクロアレイ技術によって潜在的な卵巣癌マーカーとして同定され、卵巣癌患者の血清において上昇していることが見出された(Kim et al.,ibid)。Kimらは、卵巣癌の患者においてオステオポンチンの組織発現と血漿値が増加していることを示したが、80%だけ下がった80%特異度の感度を得た(Kim et al.,ibid)。CA72−4は、1980年代初期に最初に記載されたタンパク質であり、単一マーカーとして使用された場合及びCA125との組み合わせで使用された場合(Negishi et al.,1993,Gynecol Oncol.48:148−154;Skates et al.,2004,J.Clinical Oncology 22(20):4059−4066;Fayed et al.,1998,Disease Markers 14:155−160)、卵巣癌を含む様々な腫瘍において上昇していることが示された(Colcher et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.78(5):3199−3203)。アクチビン及びインヒビンは、その感度は上皮癌においては高くないが、可能なマーカーとして研究されている(Robertson et al.,2002,Molecular and Cellular Endocrinology 191(1):97−103;Robertson et al.,2004,Endocrine−Related Cancer,11:35−49)。
【0035】
HE4は11kDaのタンパク質であり、マイクロアレイ技術を用いて最初に同定された遺伝子を有する精巣上体分泌性タンパク質E4の前駆体である。正常の卵巣組織においては、卵巣癌5において発現が上昇する最小遺伝子発現のみが見られる。血清HE4値は、良性婦人科疾患の人で5%であるのに対し、卵巣癌を患った女性の88%において上昇していた(Kim et al.,2003,JAMA 287(13)1671−1679)。興味深いことに、SMRP及びHE4両アッセイ値における上昇は、疾患の段階(ステージ)及び閉経期症状には依存しないものであった。尿検査を用いて、SMRPレベルは第1期患者の50%、及び第2期患者の79%において上昇しており、これは初期段階疾患の増強された検出の可能性を上げるものである(Bones et al.,ibid)。
【0036】
本明細書で記載された方法は、HE4aに関連するものであり、このHE4aは本明細書で記載されたような「4−ジスルフィドコア」ファミリータンパク質のメンバーであり、HE4と高度に類似しているが異なる配列を示す(Kirchhoff et al.,1991 Biol.Reproduct.45:350−357)。本明細書で記載されたように、HE4a(HE4ではない)は、ヒト精巣上体上皮細胞におけるHE4の制限的な発現とはかなり対照的に、例えば子宮内膜癌などの特定の悪性腫瘍、更には他の多くのヒト組織において過剰発現されていることが予想外に示された(Kirchhoff et al.,1991)。本明細書に記載された方法はさらに、特定の腫瘍(例えば子宮内膜癌)を有する対象におけるそのようなポリペプチドのレベルの上昇を含む、対象において天然に生じる細胞表面及び/若しくは可溶型のHE4aを検出するための組成物及び方法と一部関連しているものである。従って、本開示は、そのような細胞表面及び/若しくは可溶型HE4aポリペプチドの特異的検出によって、対象における悪性状態を検出及び診断するための有用な組成物及び方法を提供する。
【0037】
本明細書に記載された方法によると、可溶性ヒトHE4a抗原ポリペプチド(或いはHE4aポリペプチド)は、対照或いは生物源からの生物学的検体において検出され得る。生物学的検体は、血液検体、生検標本、組織移植片、期間培養、体液、或いはあらゆる他の組織、若しくは対象或いは生物源からの細胞標本を得ることによって提供される。前記対象或いは生物源は、ヒト或いは非ヒト動物、染色体性に組み込まれた或いは染色副体組換え核酸配列を含む遺伝的に改変された細胞株(しかしこれに限定されるものではない)を含む初代細胞培養或いは培養適応細胞株、不死化或いは不死化可能な細胞株、体細胞ハイブリッド細胞株、分化或いは分化可能な細胞株、形質転換細胞株、及びそれらと同等物である。本明細書に記載された方法の特定の好ましい実施形態において、前記対象或いは生物源は、悪性疾患を有すると疑われている、若しくは悪性疾患を有する危険性があると疑われているものであり、特定の更なる好ましい実施形態においては、子宮内膜癌(carcinoma)などの子宮内膜癌であり、本明細書に記載された方法の他の好ましい実施形態において、前記対象或いは生物源は、そのような疾患の恐れがない、或いはそのような疾患を有していると知られているものである。
【0038】
いくつかの実施形態において、前記生物学的検体は、対象或いは生物源からの少なくとも1つの細胞を含み、特定の他の好ましい実施形態において、前記生物学的検体は、CA−125或いは可溶性ヒトメソテリン関連抗原ポリペプチドなどの別の腫瘍マーカーを含む体液である。体液は一般的に、生理的温度にて液体であり、対象或いは生物源に存在、除去、発現、或いは抽出される天然由来液体を含む。特定の体液は、特定の組織、器官或いは局在性領域に由来し、特定の他の体液は、対象或いは生物源により包括的に或いは全身性に位置している。体液の限定されない実施例としては、血液、血清及び漿膜液、血漿、リンパ液、尿、脳脊髄液、唾液、分泌性組織及び器官の粘膜分泌物、膣分泌物、母乳、涙及び非固体腫瘍に関連するものなどの腹水液である。付加的な実施例としては、胸膜、心膜、腹膜、腹腔、及び他の体腔の液体、及びそれらと同等物を含む。体液はさらに、例えば細胞或いは器官条件培養、洗浄液及びそれらと同等物を含む細胞及び器官培養液などの、対照或いは生物源と接触させた液体溶液を含む。他の好ましい実施形態において、前記生物学的検体は、血清、血漿若しくは遠心分離した尿の上清などの細胞を含まない液体溶液である。
【0039】
特定の他の好ましい実施形態において、前記生物学的検体は、無傷細胞を有しており、特定の他の好ましい実施形態において、前記生物学的検体は、配列ID番号11或いは13に説明されたアミノ酸配列を持つHE4a抗原ポリペプチド、コード化した核酸配列を含む細胞抽出物、或いは断片若しくはそれらの変異体を有するものである。本明細書に記載された方法の更なる他の実施形態において、細胞は、解析用に細胞内容物を提供するためのアッセイの前に、物理的に或いは化学的に破裂された或いは溶解されていることが好ましい。
【0040】
検体における「可溶型の天然由来分子」は、可溶性タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、アミノ酸、或いはそれらの誘導体、脂質、脂肪酸或いはそれらと同等物若しくはそれらの誘導体、糖質、糖類或いはそれらと同等物若しくはそれらの誘導体、核酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、プリン、ピリミジン、或いは関連分子若しくはそれらの誘導体、或いはそれらと同等物、若しくは例えば糖タンパク質、糖脂質、リポタンパク質、プロテオリピドなどのそれらの組み合わせ、或いは本明細書に提供されたような生物学的検体の細胞を含まない構成物である他の生物分子である。「可溶型の天然由来分子」はさらに、溶液中或いは本明細書で提供されるような体液を含む生物学的検体に存在し、無傷細胞の表面には結合しない分子を意味する。例えば、可溶型の天然由来分子は、これに限定されるものではないが、溶質、巨大分子複合体の構成成分、細胞から脱落、分泌或いは輸出された物質、コロイド、微小粒子或いはナノ粒子、若しくは他の微懸濁粒子、或いはそれらと同等物を含む。
【0041】
患者における悪性状態の存在は、例えば新生物、腫瘍、非接触阻害或いは発癌性形質転換細胞、或いはそれらと同等物を含む、対象における形成異常、癌性及び/若しくは形質転換細胞の存在を意味している。説明を目的とし限定するものではないが、本明細書に記載された本発明の方法の文脈において、悪性状態はさらに、HE4a抗原ポリペプチド(或いはHE4aポリペプチド)を分泌、脱落、輸送或いは放出し、対象からの生物学的検体においてそのようなポリペプチドのレベルの上昇が検出可能になるような、対象における癌細胞の存在を意味している。好ましい実施形態において、例えばそのような癌細胞は、癌腫細胞などの悪性上皮細胞であり、特に好ましい実施形態において、そのような癌細胞は悪性中皮細胞であり、これは裏打ち胸膜、心膜、腹膜、腹腔、及び他の体腔などに見出される、複数の形質転換された扁平細胞上皮或いは中皮細胞である。
【0042】
本明細書に記載された方法の最も好ましい実施形態において、その存在が悪性条件の存在の表れである癌細胞は、原発性及び転移性子宮内膜癌細胞を含む、子宮内膜癌細胞である。子宮内膜癌として悪性度を分類する基準は、本分野ではよく知られており、原発性及び転移性腫瘍からのヒト子宮内膜癌細胞株の樹立及び特徴付けされている。別の実施形態において、悪性状態は、中皮腫、膵臓癌、非小細胞肺癌、若しくは扁平細胞癌腫及び腺癌を含む様々な癌腫を含む他の形態の癌、及び肉腫及び血液学的悪性癌(例えば、白血病、リンパ腫、骨髄腫など)を含む他の形態の癌である。これら及び他の悪性状態の分類は、当業者が熟知しているものであり、本発明の開示によって、過度の実験をすることなくそのような悪性条件におけるHE4aポリペプチドの存在の決定が提供される。
【0043】
参照値は、本明細書に含まれている実施例内に提供されている。そのような値は、本明細書に記載された方法の実行に適している。しかしながら、本明細書に記載された方法の使用は、それらの参照値或いはそのデータに限定されるものではないことは留意されるべきである。当業者は、彼らの特定のニーズに対する参照値を得ることができる。そのような参照値は、悪性の疑いがある子宮或いは子宮内膜塊に対する生検処理を受けた際に、患者のHE4a発現を解析することによって得られる。そのような参照値を得るための方法は、本明細書に含まれており、実施例において提供される。本明細書に記載された方法の使用者は、患者の特異的なカテゴリーに焦点を合わせて本明細書で提供されたものとは異なる参照値を得るであろう。そのようなカテゴリーは、年齢、遺伝的バックグラウンド、癌のリスク、病歴、血液型、体重などの身体的特徴、及び他のカテゴリーを含むと予見される。
【0044】
本明細書で提供さるように、対象において悪性状態の存在をスクリーニングする方法は、HE4a抗原ポリペプチドに特異的な抗体、或いはHE4aポリペプチドに特異的な抗体の使用を特色とする。
【0045】
HE4a抗原ポリペプチド(或いはHE4aポリペプチド)に特異的な抗体は、モノクローナル抗体として、或いはポリクローナル抗体として容易に産生される、若しくは当業者にはよく知られた方法を用いて望ましい特性を有するように設計された一般的な改変免疫グロブリン(Ig)として産生される。例えば、説明する目的であって限定されるものではないが、抗体は組換えIgG、免疫グロブリン由来配列を有するキメラ融合タンパク質、或いは「ヒト化」抗体を含み(米国特許番号第5,693,762号;第5,585,089号;第4,816,567号;第5,225,539号;第5,530,101号を参照のこと、本明細書において参考文献として引用される)、これら全ては本明細書に記載された方法に従ってヒトHE4aポリペプチドを検出するために使用される。そのような抗体は、以下に記載されたようにHE4aポリペプチドと免疫化することを含む、本明細書に提供されたように調合される。例えば、本明細書で提供されたように、HE4aポリペプチドをコード化する核酸配列が開示され、当業者は日常的に免疫原として使用するためのこれらのポリペプチドを調合することが可能である。例えば、2H5、3D8及び4H4などのモノクローナル抗体は、以下に詳細に記載されており、これらは本明細書に記載された方法に従った特定の方法を実行するために使用される。
【0046】
「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、F(ab’)などのそれらの断片、及びFab断片、更にはHE4aに特異的に結合する分子である、全ての天然由来或いは組換え的に産生された結合パートナーを含む。抗体とは、「免疫特異的(immunospecific)」、若しくはそれらがHE4aポリペプチドに対して約104M−1以上或いは同程度、好ましくは約10−1以上或いは同程度、より好ましくは約10−1以上或いは同程度、最も好ましくは約10−1以上或いは同等のKaを有して結合するような特異的な結合であると定義される。結合パートナー或いは抗体の親和性は、例えばScatchardら(Scatchard et al.,Ann.N.Y.Acad.Sci.51:660(1949))によって記載された方法などの従来の技術を用いて、容易に決定され得る。HE4aポリペプチドの結合パートナーとして他のタンパク質を決定することは、他のタンパク質或いはポリペプチドと特異的に相互作用するタンパク質を同定し得るための多数の既知方法、例えば米国特許番号第5,283,173号及び米国特許番号第5,468,614号に記載されているような酵母ツーハイブリッドスクリーニングシステム及びそれらと同様のものを用いて実行され得る。本明細書に記載された方法も、HE4aポリペプチド、及びHE4aポリペプチドに特異的に結合する結合パートナー及び抗体を調合するためのHE4aポリペプチドのアミノ酸配列に基づいたペプチドの使用も含む。
【0047】
抗体は、本分野の当業者に知られている様々な技術によって一般的に調合される(Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)。そのような技術の1つにおいて、例えば、その表面上にHE4aポリペプチドを持つ細胞、或いは単離されたHE4aポリペプチドなどのHE4aポリペプチドを有する免疫原は、まず適切な動物(例えばマウス、ラット、ウサギ、ヒツジ及びヤギ)に好ましくは1若しくはそれ以上の追加免疫(ブースター)免疫化を含む事前に決定されたスケジュールに従って注入され、前記動物は定期的に出血させる。HE4aポリペプチドに特異的なポリクローナル抗体は次に、例えば適切な固体支持体に結合したポリペプチドを用いた親和性クロマトグラフィーによってそのような抗血清から精製される。
【0048】
HE4aポリペプチド或いはそれらの変異体に特異的なモノクローナル抗体は、例えば、Kohler及びMilstein(1976 Eur.J.Immunol.6:511−519)の技術、及びその改善技術を用いて調合される。簡潔には、これらの方法は、望ましい特異性(すなわち、目的のメソテリンポリペプチドとの反応性)を有する抗体を産生することができる不死細胞株の調合に関するものである。そのような細胞株は、例えば以前に記載されたような動物免疫化から得られた脾臓細胞から産生される。脾臓細胞は次に、例えばミエローマ細胞融合パートナー、好ましくは免疫化動物と同系のものとの融合によって不死化される。例えば、脾臓細胞及びミエローマ細胞は、ポリエチレングリコール或いは非イオン性試薬などの膜融合促進因子と数分間組み合わせ、次にハイブリッド細胞の成長を支持するがミエローマ細胞の成長は支持しない選択培地に低密度で播種する。好ましい選択技術は、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)選択を使用する。十分な時間、通常は約1〜2週間後、ハイブリッドのコロニーが観察される。単一コロニーを選択し、前記ポリペプチドに対する結合活性をテストする。高反応性及び特異性を有するハイブリドーマが好ましい。HE4aポリペプチドに特異的に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、本明細書に記載された方法によって熟慮される。
【0049】
モノクローナル抗体は、増殖ハイブリドーマコロニーの上清から単離される。加えて、様々な技術が収率を増強するために使用され、例えば、マウス或いは他の適切なホストなどの適切な脊椎動物ホストの腹膜腔へのハイブリドーマ細胞株の注入などである。モノクローナル抗体は次に腹水或いは血液から回収される。汚染物質は、クロマトグラフィー、ゲルろ過、沈殿及び抽出などの従来技術によって前記抗体から除去される。例えば、抗体は、標準的な技術を用いた固定化プロテインG或いはプロテインA上のクロマトグラフィーによって精製される。
【0050】
特定の実施形態の範囲内において、抗体の抗原−結合断片の使用も好ましい。そのような断片は、標準的な技術(例えば、パパインでの消化によってFab及びFc断片を得ることによって)を用いて調合されたFab断片を含む。Fab及びFc断片は、標準的な技術を用いて、親和性クロマトグラフィー(例えば固定化プロテインAカラム上)によって分離される。そのような技術は、本分野ではよく知られており、例えばWeir,D.M.,Handbook of Experimental Immunology,1986,Blackwell Scientific,Bostonを参照のこと。
【0051】
様々なエフェクタータンパク質をコードしている配列とインフレームで結合するDNA配列によってコード化される免疫グロブリンV−領域ドメインのおかげで、事前に選択された抗原に対して特異的結合親和性を有する多機能性融合タンパク質は、本分野で既知であり、例えば欧州特許番号第EP−B1−0318554号,米国特許番号第5,132,405号,米国特許番号第5,091,513号及び米国特許番号第5,476,786号に開示されている。そのようなエフェクタータンパク質は、当業者にはよく知られた様々な技術によって、前記融合タンパク質の結合を検出するために使用されるポリペプチドドメインを含み、この技術は、これに限定されるものではないが、ビオチン模倣配列(例えば、Luo et al.,1998 J.Biotechnol.65:225を参照のこと、本明細書に参照として引用されている)、検出可能なラベル部位での直接的な共有結合修飾、特異的にラベルされたレポーター分子への非共有結合、検出可能な基質の酵素的修飾、或いは固体相支持体上の固定化(共有結合或いは非共有結合)などを含む。
【0052】
本明細書に記載された方法において使用される一本鎖抗体もまた産生され、ファージディスプレイ(例えば、米国特許番号第5,223,409号;Schlebusch et al.,1997 Hybridoma 16:47を参照のこと、本明細書において参照として引用している)。簡潔には、この方法において、DNA配列は、M13などの繊維状ファージの遺伝子III或いは遺伝子VIIIへ挿入される。マルチクローニングサイトを有するいくつかのベクターは、挿入のために開発されていた(McLafferty et al.,Gene 128:29−36,1993;Scott and Smith,Science 249:386−390,1990;Smith and Scott,Methods Enzymol.217:228−257,1993)。挿入されたDNA配列はランダムに産生される、或いはHE4aポリペプチドに結合するための既知結合ドメインの変異体となる。一本鎖抗体は、この方法を用いて容易に産生される。一般的に、前記挿入物は、6〜20アミノ酸をコード化している。前記挿入配列によってコード化されている前記ペプチドは、バクテリオファージの表面に示される。HE4aポリペプチドに対する結合ドメインを発現しているバクテリオファージは、例えば当業者には既知である方法を用いて調合された組換えポリペプチド、及び本明細書に開示された配列をコード化する核酸などの、固定化HE4aポリペプチドに対する結合によって選択される。非結合ファージは、一般的には10mM Tris、1mM EDTA、及び塩なし或いは低濃度塩を含む洗浄液によって除去される。結合ファージは、例えば塩含有バッファーで溶出する。NaCl濃度は、全てのファージが溶出されるまで、段階的に増加される。一般的に高親和性を有して結合しているファージは、より高い塩濃度によって放出される。溶出されたファージは、細菌ホストにおいて増殖される。更なる選択ラウンドは、高親和性を有して結合しているいくつかのファージを選択するために実行される。前記結合しているファージにおける挿入物の配列は次に決定される。結合しているペプチドの予想アミノ酸配列が一度既知になったら、本明細書においてHE4aポリペプチドに特異的な交代として使用するのに十分なペプチドは、組換え手段或いは合成的に作成される。組換え手段は、抗体が融合タンパク質として産生された場合に使用される。前記ペプチドは、親和性或いは結合性を最大限にするために、2若しくはそれ以上の類似或いは非類似ペプチドのタンデムアレイとして産生される。
【0053】
HE4aポリペプチドに特異的な抗体に反応性がある抗原決定基を検出するために、検出試薬は一般的に抗体であり、本明細書に記載されたように調合される。検体内のポリペプチドを検出するために抗体を用いる本分野の当業者に既知である様々なアッセイ型式が存在し、これに限定されるものではないが、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)、免疫蛍光定量法、免疫沈降、平衡透析法、免疫拡散法、及び他の技術を含む。例えば、Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988;Weir,D.M.,Handbook of Experimental Immunology,1986,Blackwell Scientific,Bostonを参照のこと。例えば、前記アッセイは、ウェスタンブロット型式において実行され、前記生物学的検体からのタンパク質調合はゲル電気泳動に供し、適切な膜に移し、前記抗体と反応させた。前記膜上の抗体の存在は次に、適切な検出試薬を用いて検出され、これは当業者にはよく知られており、以下に記載されている。
【0054】
別の実施形態において、前記アッセイは、固体支持体上に固定化された抗体の使用を含み、その抗体は標的HE4aポリペプチドに結合し、前記検体の残部から除去させる。結合HE4aポリペプチドは次に、異なるHE4aポリペプチド抗原決定基と反応する二次抗体、例えば検出可能なレポーター部位を含む試薬を用いて検出される。限定されない実施例として、本実施形態に従うと、前記固定化抗体及び異なる抗原決定基を認識する二次抗体は、モノクローナル抗体2H5、3D8、及び4H4から選択された、本明細書で記載されたモノクローナル抗体のいずれか2つである。或いは、競合性アッセイは、HE4aポリペプチドが検出可能なレポーター部位でラベルされ、固定化抗体と前記検体のインキュベーション後に固定化HE4aポリペプチド特異的抗体へ結合できる際に使用される。前記検体の構成成分がラベルされたポリペプチドの抗体への結合を阻害する程度は、固定化抗体との検体の反応性を示すものであり、結果として前記検体内のHE4aのレベルを示している。
【0055】
固体支持体は、当業者に既知である、抗体を付着できるどんな材料でもよく、例えば、マイクロタイタープレートのテストウェル、ニトロセルロースフィルター、或いは別の適切な膜である。或いは、前記支持体は、ビーズ或いはディスクでもよく、例えば、ガラス、ファイバーガラス、ラテックス、或いはポリスチレン或いはポリビニルクロライドなどのプラスティックである。抗体は、特許文献及び科学文献に十分に記載されているような当業者には既知である様々な技術を用いて前記固体支持体上に固定化される。
【0056】
特定の好ましい実施形態において、検体におけるHE4a抗原ポリペプチドを検出するためのアッセイは、2−抗体サンドウィッチアッセイである。このアッセイはまず、固体支持体(一般的にはマイクロタイタープレートの壁である)上に固定化されたHE4aポリペプチド−特異的抗体(例えば、2H5、3D8、或いは4H4などのモノクローナル抗体)を前記生物学的検体と接触させる工程によって実行され、この工程によって、検体中の天然に由来し、前記抗体と反応性である抗原決定基を有している可溶性分子は、前記固定化抗体(例えば、室温での30分インキュベーション時間で一般的に十分である)へ結合させ、抗原−抗体複合体或いは免疫複合体を形成させる。前記検体の非結合成分は、前記固定化免疫複合体から除去された。次にHE4a抗原ポリペプチドに特異的な二次抗体を添加し、そこにおいて、前記二次抗体の抗原結合部位は、HE4aポリペプチド(例えば、前記固体支持体上に固定化されたモノクローナル抗体とは異なる2H5、3D8或いは4H4などのモノクローナル抗体)に対する工程か一次抗体の抗原結合部位の結合を競合的に阻害しないものである。前記二次抗体は、本明細書で提供されたように検出可能にラベルされ、それにより直接的に検出される。或いは、前記二次抗体は、検出可能にラベルされた二次(或いは「第二期」)抗−抗体の使用を介して、若しくは本明細書で提供されたような特異的検出試薬を使用することによって、間接的に検出される。本明細書に記載された方法は、特定の検出手順に限定されるものではなく、免疫アッセイを熟知している当業者は、2−抗体サンドウィッチ免疫アッセイにおいて特定の抗原(例えば、メソテリンポリペプチド)を免疫学的に検出するための多数の試薬及び形態が存在することを理解するであろう。
【0057】
上述の2−抗体サンドウィッチアッセイを用いた、本明細書に記載された方法の特定の好ましい実施形態において、HE4a抗原ポリペプチドに特異的な一次固定化抗体はポリクローナル抗体であり、HE4a抗原ポリペプチドに特異的な二次抗体はポリクローナル抗体である。非競合的HE4a抗体のあらゆる組み合わせは、本明細書で記載された方法と共に使用され得る。モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体及びそれらの組み合わせを含んでいる。本明細書に記載された方法の特定の他の実施形態において、HE4a抗原ポリペプチドに特異的な一次固定化抗体はモノクローナル抗体であり、HE4a抗原ポリペプチドに特異的な二次抗体はポリクローナル抗体である。本明細書に記載された方法の特定の他の実施形態において、HE4a抗原ポリペプチドに特異的な一次固定化抗体はポリクローナル抗体であり、HE4a抗原ポリペプチドに特異的な二次抗体はモノクローナル抗体である。本明細書に記載された方法の特に好ましい特定の実施形態において、HE4a抗原ポリペプチドに特異的な一次固定化抗体はモノクローナル抗体であり、HE4a抗原ポリペプチドに特異的な二次抗体はモノクローナル抗体である。例えば、これらの実施形態において、本明細書で提供されたようなモノクローナル抗体2H5、3D8、及び4H4は、違いやHE4aポリペプチド上の非競合性抗原決定基(例えばエピトープ)を認識し、これらモノクローナル抗体の対のあらゆる組み合わせが使用される。本明細書に記載された方法の別の好ましい実施形態において、HE4a抗原ポリペプチドに特異的な一次固定化抗体及び/若しくはHE4a抗原ポリペプチドに特異的な二次抗体は、当業者に既知であり、本明細書で参照されているあらゆる種類のものでもよく、例えばこれに限定されるものではなく説明のために記載した、Fab断片、F(ab’)断片、免疫グロブリンV−領域融合タンパク質、或いは一本鎖抗体である。本分野を熟知している当業者は、本明細書に記載された方法は、開示され請求された方法において他の抗体形態、断片、誘導体、及びそれらと同等物の使用も含むことを理解するであろう。
【0058】
特定の好ましい実施形態において、二次抗体は検出可能なレポーター部位、或いは抗体、色素、放射線核種、発光団、蛍光団或いはビオチン、若しくはそれらと同等物などのラベルを含む。あらゆるレポーター部位或いはラベルは、そのようなシグナルが洗浄後前記支持体上に残存している抗体の量に直接関連する或いは比例している限り、本明細書に記載された方法で使用できる。前記固体支持体上に結合し残存している二次抗体の量は次に、特異的に検出可能なレポーター部位或いはラベルに対して適切な方法を用いて決定される。放射性群に対して、シンチレーションカウンティング或いはオートラジオグラフィー法は一般的に適切である。抗体−酵素共役体は、様々なカップリング技術(参考のために例えば、Scouten,W.H.,Methods in Enzymology 135:30−65,1987を参照のこと)を用いて調合される。分光法は、色素(例えば、酵素反応の比色定量産物)、発光団及び蛍光団を検出するために使用される。ビオチンは、異なるレポーター群(一般的に放射性或いは蛍光団或いは酵素)に結合したアビジン或いはストレプトアビジンを使用して検出される。酵素レポーター群は一般的に、基質(一般的に特定時間で)を添加し、反応産物の分光、分光光度或いは他の解析によって検出される。標準或いは標準添加物は、既知技術を用いて検体内の抗原レベルを検出するために使用される。
【0059】
別の実施形態において、本明細書で記載された方法は、生物源或いは対象からの生物学的検体における免疫特異的反応性抗体を検出することによって、悪性状態の存在をスクリーニングするための、本明細書で提供されたようなHE4a抗原ポリペプチドの使用に関するものである。この実施形態によると、HE4a抗原ポリペプチド(若しくは本明細書で提供されたような、切断HE4a抗原ポリペプチドを含む、断片或いはそれらの変異体)は、検出可能にラベルされ、生物学的検体と接触させ、前記検体において可溶性形態で天然に由来する抗体のHE4a抗原ポリペプチドへの結合を検出する。例えば、HE4a抗原ポリペプチドは、容易に検出可能な(例えば、放射線ラベル)アミノ酸のin vitro翻訳間の取り込みなどのよく知られた方法と共同して、本明細書で開示された配列を使用することによって、若しくは、上述したものなどの他の検出可能なレポーター部位を使用することによって、生合成的にラベルされる。理論によって束縛されることなく、本明細書に記載された方法のこの実施形態によって、本明細書で開示されたHE4a融合ポリペプチドなどの特定のHE4aポリペプチドは、特に免疫原性でありそれにより特異的で検出可能な抗体を生じさせるペプチドを提供するということが考えられる。例えば、この理論によると特定のHE4a融合ポリペプチドは、強烈な免疫反応を誘発する「非自己」抗原を示す一方、融合ドメインを欠いたHE4aポリペプチドは、液性或いは細胞仲介性免疫を容易に誘発しないより類似した「自己」抗原として免疫システムが見なす。
【0060】
上述したように、本明細書に記載された本方法は一部、HE4a抗原ポリペプチドの可溶性型は対象内に天然に由来する(これは特定の癌腫を有する対象における可溶性HE4aポリペプチドのレベルの上昇を含んでいる)という驚くべき発見に関連している。
【0061】
本明細書に記載された方法に従って、悪性状態の存在をスクリーニングする方法はさらに、対象からの生物学的検体における1つ以上の腫瘍関連マーカーの検出によって増強される。従って、特定の実施形態において、本明細書に記載された方法は、天然由来の可溶性検体成分のHE4a抗原ポリペプチドに特異的な抗体に対する反応性を検出することに加えて、当業者には既知で且つ本明細書で提供されている確立された方法を用いて、悪性状態の少なくとも1つの付加的可溶性マーカーの検出も含む、スクリーニングの方法を提供する。上述されたように、現在、容易に得られる体液の検体において検出可能な多数の可溶性腫瘍関連抗原が存在する。例えば、本明細書で記載された方法の特定の実施形態は、ヒトメソテリンポリペプチドに関連するものであり、これはSchollerら(1999 Proc.Nat.Acad.Sci.USA 96:11531)、更には米国特許番号第6,770,445号にも記載されている新規メソテリン関連抗原(MRA)ポリペプチドなどのポリペプチドを含む。
【0062】
本明細書で提供される「メソテリンポリペプチド」は、ポリペプチド配列EVEKTACPSGKKAREIDES(配列ID番号:14)を含むアミノ酸配列を有し、更にはMAb K−1(Chang et al.,1996 Proc.Nat.Acad.Sci.USA 93:136;MAb K−1は例えばSignet Laboratories,Inc.(Dedham, Mass.)から利用可能である)、或いは米国特許番号第6,770,445号に提供されたようなモノクローナル抗体OV569、4H3、3G3或いは1A6の免疫特異的結合を競合的に阻害する抗原結合部位を有する少なくとも1つの抗原決定基を有する可溶性ポリペプチドである。
【0063】
従って、本明細書に記載された方法に従って使用するためのこれらの付加的な可溶性腫瘍関連抗原は、これに限定されるものではないが、mesothelin及びmesothelin関連抗原であるCEA、CA125、シアリルTN、SCC、TPS及びPLAP(例えば、Bast et al.,1983,N.Eng.J.Med.309:883;Lloyd et al.,1997,Int.J.Canc.71:842;Sarandakou et al.,1997,Acta Oncol.36:755;Sarandakou et al.,1998,Eur.J.Gynaecol.Oncol.19:73;Meier et al.,1997,Anticanc.Res.17(4B):2945;Kudoh et al.,1999,Gynecol.Obstet.Invest.47:52;Ind et al.,1997,Br.J.Obstet.Gynaecol.104:1024;Bell et al.1998,Br.J.Obstet.Gynaecol.105:1136;Cioffi et al.,1997,Tumori 83:594;Meier et al.1997,Anticanc.Res.17(4B):2949;Meier et al.,1997,Anticanc.Res.17(4B):3019を参照のこと)を含み、更には、本明細書に提供されたように、生物学的検体におけるその存在が少なくとも1つの悪性状態の存在と一致するあらゆる既知マーカーを含む。
【0064】
或いは、HE4aポリペプチドをコード化する核酸配列は、標準的ハイブリダイゼーション及び/若しくはポリペラーゼ連鎖反応(PCR)技術を用いて検出される。適切なプローブ及びプライマーは、本明細書に提供されたHE4a cDNA配列に基づいて本分野の当業者によって設計される。アッセイは一般的に、真核細胞、細菌、ウイルス、そのような生物から調合された抽出物、及び生きている生物の体液などの生物源から得られた多数の検体を用いて実行される。
【0065】
実施例
一般的な方法
実施例において使用される標準組換えDNA及び分子クローニング技術は、当業者にはよく知られており、Sambrook,J.,Fritsch,E.F.and Maniatis,T.Molecular Cloning:A Laboratory Manual;Cold Spring Harbor Laboratory Press:Cold Spring Harbor,(1989)(Maniatis)、及びT.J.Silhavy,M.L.Bennan,and L.W.Enquist,Experiments with Gene Fusions,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1984)、及びAusubel,F.M.et al.,Current Protocols in Molecular Biology,pub.by Greene Publishing Assoc.and Wiley−Interscience (1987)に記載されている。
【0066】
略称の意味は以下の通りである。「h」は時間を意味し、「min」は分を意味し、「s」は秒を意味し、「d」は日を意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「L」はリットルを意味し、「U」はユニットを意味し、「pM」はピコモルを意味する。
【0067】
本開示の主題は、以下の実施例を参照することによって説明される。これらの実施例は、説明の目的のためだけに提供されたものであり、主題はこれらの実施例に限定されるものではなく、むしろ本明細書に提供された教示の結果として明らかである全ての変形例が含まれるものである。
【実施例1】
【0068】
卵巣癌を検出するための新規血清腫瘍マーカーを用いた複数マーカーアッセイの開発
米国の全女性の20%は、付属器腫瘤或いは嚢胞と診断され、その中の小数は悪性腫瘍を示している。卵巣癌は外科的に病期診断され、研究によって婦人科腫瘍医によって手術された患者はしばしば、非婦人科腫瘍医によって手術された患者と比較してより適切に病期診断され手術される。CA125腫瘍マーカーは、骨盤腔内腫瘤を有する患者のうちどの患者が卵巣癌を発症しているかを予想するのに役立つ可能性がある。しかしながら、多くの良性婦人科疾患もまたCA125が上昇しているため、その特異性が減少している。この疾患の治療に熟達したセンターに対して、これら患者をトリアージ方式で対処するのを支援するためにも、正確なテストが必要とされている。このアプローチはいくつかの新規腫瘍マーカーに適用し、卵巣癌のリスクを予測し、更に骨盤腔内腫瘤を有する患者を婦人科腫瘍医へトリアージ方式で対処するのを支援するために複数マーカーアッセイを開発した。
【0069】
この実施例の実験に使用された方法は以下に記載する。
【0070】
これはIRB承認プロスペクティブ治験であった。インフォームドコンセントを得た後、付属器腫瘤の手術を受ける女性から血清検体を手術前に入手し、CA125、SMRP、HE4、CA72−4、及びオステオポンチン値を解析した。全ての病理結果を前記腫瘍マーカーで比較した。ロジスティック回帰モデルを各マーカー別々に推測し、これらマーカーの全ての組み合わせに対しても行った。クロス確認(cross−validation)解析を実行し、95%及び98%の特異度で感度を得た。
【0071】
本実施例の実験から得られた結果は以下に記載した。
【0072】
179人の患者を解析した。50人は卵巣癌(14人は第1期)及び129人は良性卵巣腫瘤である。HE4、SMRP、CA125、及びCA72−4に対する値は、良性腫瘤と癌との間で全て異なっていた。全てのマーカーを組み合わせた場合、HE4、SMRP、及びCA125は92%のAUCを有すると予測された。全ての潜在的マーカー組み合わせを95%の特異度で比較した場合、CA125及びHE4の組み合わせは74.5%で最高感度を示した。CA125へのHE4の添加は、テストの感度を7.4%増加した。
【0073】
これらのデータは、表1にまとめた。
【0074】
【表1】

【実施例2】
【0075】
これらは、本実施例において使用された方法である。
【0076】
血清及び尿検体は、同意後、手術前に入手した。尿はカテーテル挿入或いは排泄された手術前の検体から回収した。30mLの全血液検体及び10mL以上の尿検体を回収した。全血液は、3本の10mL血清分離チューブ(SST)へ回収した。SSTチューブを遠心分離し、分離させ、その上清を−80℃以下で回収して3時間以内に冷凍させた。10mLの尿酸検体は、発送し貯蔵するのに適切なチューブへ若しくはチューブへ移して回収し、−80℃以下で回収した日に冷凍させた。血清及び尿検体は、テスト及び長期貯蔵のためにバッチでFujirebio Diagnostics laboratoryへ発送した。以下の血清腫瘍マーカーレベルを、CA125、HE4、SMRP、CA72−4、アクチビン、インヒビン及びオステオポンチン、更には尿SMRPに対して解析した。
【0077】
手術後、病理報告を全ての患者に対して再調査し、良性或いは悪性を分類した。卵巣癌を有する全ての患者に対する病気の段階と同様に、悪性腫瘍の組織学的種類及び良性疾患を有する患者に対する特異的診断も記録した。全ての腫瘍マーカーを最終病理結果と比較した。平均値及び中央値は、t−検定及びカイ二乗検定を適切に用いて良性疾患の患者と癌を有する患者との間で比較した。第1期癌を有する患者と良性疾患を有する患者とのみを比較したサブセット解析も実行した。ロジスティック回帰モデルは、各マーカーに対して別々に、及びマーカーの全組み合わせに対して推定した。クロス確認解析を実行し、各マーカー別々、更には組み合わせに対する90%、95%及び98%特異度での感度を得た。感度解析は第1期サブセットに対しても実行した。
【0078】
これらは本実施例からの結果である。
【0079】
付属器腫瘤を有する244人の患者を記録した。2人の女性は手術前に血清を得られなかったので除外し、7人の女性は遠隔原発癌からの転移が見られたため除外した。235人の患者が解析に対して適性であった。これらの女性における病理結果によって、69人の卵巣癌(14人は第1期)及び166人の良性卵巣腫瘤が示されていた。悪性腫瘍を有する或いは有さない患者における年齢分布は表2に示し、癌を有する患者は良性疾患を有する患者に比べて驚くほど年上ではなかった。
【0080】
良性疾患を有するこれら女性において見出された正確な診断は、表3に示した。最も一般的な診断は良性嚢胞腺腫或いは嚢胞腺線維腫であり、良性疾患を有する女性の約3分の1の割合を占める。卵巣癌の組織学的及びステージ分布は表4に示した。卵巣癌疫学と一致して、女性の大部分(71%)は漿液性腫瘍を有しており、第3期疾患(67%)を有していることが判明した。
【0081】
HE4、SMRP、CA125、CA72−4、アクチビン、及びインヒビンに対する平均値及び中央値は全て、良性腫瘤と癌との間では有意に異なっていた。オステオポンチンレベルは有意に異なっていなかった。このデータは表5に示した。
【0082】
90%、95%及び98%特異度での感度は、全てのマーカーに対して別々に、及びマーカー組み合わせに対して計算し、表6に示した。CA125及びHE4は悪性度の最も優れた個々の予測判断材料であった。表1.5に示したように、それらはそれぞれ密接に相関しておらず、それらは疾患の異なる亜集団を同定すると示唆された。潜在的なマーカーの組み合わせを比較した場合、CA125及びHE4の組み合わせは、設定95%特異度において77%の最も高い感度を示した。付加的なマーカーの包含は、感度を有意に増加しなかった。
【0083】
【表2】

【0084】
第1期疾患を有する患者と良性疾患を有する患者とのみ比較しているサブセット解析を次に実行した。平均値及び中央値は表7に示した。HE4、CA125、及びSMRPは、卵巣癌を有する患者と良性疾患を有する患者との間で有意に異なっていた。変動設定特異度での感度は、表8に示した。HE4は最も感度を有する単一マーカーであり、95%特異度において50%の感度を有していた。CA125、或いは他のマーカーの添加は、ステージI疾患の検出の感度を有意に改善しなかった。
【0085】
【表3】

【0086】
【表4】

【0087】
【表5】

【0088】
【表6】

【0089】
【表7】

【0090】
【表8】

【0091】
【表9】

【実施例3】
【0092】
これらは本実施例で使用した方法である。
【0093】
2箇所の施設からの2つの個別IRB承認前向き治験のデータを集めた。インフォームドコンセントを得た後、血清検体は、付属器腫瘤の手術を受ける女性から手術前に採取し、CA125、SMRP、HE4及びCA72−4のレベルを解析した。全ての病理結果は、腫瘍マーカーと比較した。90、95及び98%の設定特異度での感度は、各マーカー別々、及び2、3及び4マーカーの組み合わせに対するロジスティック回帰を用いて決定した。
【0094】
これらは本実施例の結果である。
【0095】
448検体を解析した。267の良性症例と181の卵巣癌(27の第1期、20の第2期、115の第3期、及び19の第4期)である。HE4、SMRP、CA125及びCA72−4に対する中央値は、良性腫瘤及び癌との間で全て有意に異なっていた(p<0.001)。良性腫瘤及びステージI悪性腫瘍の差異において、HE4のCA125への添加によって、90%の特異度にて感度が22.2%増加した。全てのステージに対するHE4及びCA125の組み合わせは、HE4或いはCA125単体より上回っていた(p<0.003)。この結果は表9にまとめた。
【0096】
【表10】

【0097】
本明細書で引用された全ての特許、特許明細書、及び刊行物の開示は、それらの全体がこの参照によって本明細書に組み込まれる。
【0098】
本発明の主題は特定の実施形態を参照することによって開示されているが、他の実施形態及び変形例は、本明細書に開示された主題の要旨から逸脱することなく、当業者によって考案され得るということは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者が卵巣癌を発症しているかどうかを判定する方法であって、
前記患者から得られた検体において、HE4マーカーと、SMRP、CA125及びCA72−4からなる群から選択された別のマーカーとの両方を含む少なくとも2つのマーカーで判定する工程を有するものであり、前記マーカー値の上昇は、前記患者の卵巣癌を発症する可能性の増加と相関するものである、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記患者は、骨盤腔内腫瘤を示しているものである。
【請求項3】
請求項1記載の方法であって、この方法は、
前記HE及びCA125マーカーを判定する工程を有するものである。
【請求項4】
請求項1記載の方法であって、この方法は、
前記HE及びSMRPマーカーを判定する工程を有するものである。
【請求項5】
患者における骨盤腔内腫瘤が良性なのか卵巣癌なのかを識別する方法であって、
前記患者から得られた検体において、HE4マーカーと、SMRP、CA125及びCA72−4からなる群から選択された別のマーカーとの両方を含む少なくとも2つのマーカーで判定する工程を有するものであり、前記マーカー値の上昇は、前記骨盤腔内腫瘤が卵巣癌である可能性の増加と相関するものである、方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法であって、この方法は、
前記HE4及びCA125マーカーを判定する工程を有するものである。
【請求項7】
請求項5記載の方法であって、この方法は、
前記HE4及びSMRPマーカーを判定する工程を有するものである。
【請求項8】
卵巣癌を発症した患者の治療に対する反応を判定する方法であって、
治療期間中の異なる時間で前記患者から得られた検体において、HE4マーカーと、SMRP、CA125及びCA72−4からなる群から選択された別のマーカーとの両方を含む少なくとも2つのマーカーで判定する工程を有するものであり、後半時における前記マーカー値の減少は、前記患者がその治療に対して反応している事を示唆するものである、方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法であって、この方法は、
前記HE4及びCA125マーカーを判定する工程を有するものである。
【請求項10】
請求項8記載の方法であって、この方法は、
前記HE4及びSMRPマーカーを判定する工程を有するものである。
【請求項11】
請求項8記載の方法において、前記治療は、腹腔内化学療法である。
【請求項12】
請求項8記載の方法において、前記治療は、CA125に特異的に結合する抗体を患者に投与する工程を有するものである。
【請求項13】
卵巣癌の治療を受けている患者において再発を判定する方法であって、
治療後の前記患者から採取された検体において、HE4マーカーと、SMRP、CA125及びCA72−4からなる群から選択された別のマーカーとの両方を含む少なくとも2つのマーカーで判定する工程を有するものであり、前記マーカー値の上昇は、卵巣癌が前記患者において再発したことを意味するものである、方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、前記マーカーは前記治療後に複数回判定されるものであり、前記マーカー値の上昇は、卵巣癌が前記患者において再発したことを意味するものである。
【請求項15】
請求項13記載の方法であって、
前記HE4及びCA125マーカーを判定する工程を有するものである。
【請求項16】
請求項13記載の方法であって、
前記HE4及びSMRPマーカーを判定する工程を有するものである。
【請求項17】
請求項13記載の方法において、前記治療は、腹腔内化学療法である。
【請求項18】
請求13記載の方法において、前記治療は、CA125に特異的に結合する抗体を患者に投与する工程を有するものである。
【請求項19】
患者が卵巣癌を発症する可能性を判定する方法であって、
前記患者から採取した検体において、HE4マーカーと、SMRP、CA125及びCA72−4からなる群から選択された別のマーカーとの両方を含む少なくとも2つのマーカーで判定する工程を有するものであり、前記マーカー値の上昇は、前記患者が卵巣癌を発症する可能性の増加に相関するものである、方法。
【請求項20】
請求項19記載の方法であって、この方法は、
前記HE4及びCA125マーカーを判定する工程を有するものである。
【請求項21】
請求項20記載の方法において、前記患者はCA125マーカーの正常レベルを示しており、前記HE4マーカー値の上昇は、前記患者が卵巣癌を発症する可能性の増加に相関するものである。
【請求項22】
請求項19記載の方法であって、この方法は、
前記HE4及びSMRPマーカーを判定する工程を有するものである。
【請求項23】
卵巣癌を発症した患者における腫瘍を病期診断する方法であって、
前記患者から採取した検体において、HE4マーカーと、SMRP、CA125及びCA72−4からなる群から選択された別のマーカーとの両方を含む少なくとも2つのマーカーで判定する工程を有するものであり、前記マーカー値の上昇は、卵巣癌のより進行した段階に相関するものである、方法。
【請求項24】
卵巣癌を発症した患者における腫瘍を類別する方法であって、
前記患者から採取した検体において、HE4マーカーと、SMRP、CA125及びCA72−4からなる群から選択された別のマーカーとの両方を含む少なくとも2つのマーカーで判定する工程を有するものであり、前記マーカー値の上昇は、卵巣癌のより高い段階に相関するものである、方法。

【公表番号】特表2009−522578(P2009−522578A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549563(P2008−549563)
【出願日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【国際出願番号】PCT/US2007/000216
【国際公開番号】WO2007/081768
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(507240118)フジレビオ アメリカ、インク. (3)