説明

原子力プラントの非常用冷却装置

【課題】外部電源及び非常用ディーゼル発電機による電力供給が途絶えても、炉心内の核燃料物質から発生する崩壊熱を効率良く除去できる原子力プラントの非常用冷却装置を提供する。
【解決手段】冷却材喪失事故の発生により、隔離弁20が開いて原子炉圧力容器(RPV)2内の蒸気が、蒸気排出管19を通り圧力抑制室7内の圧力抑制プール8で凝縮される。この蒸気によって、蒸気排出管19に設けられた、圧縮機12に連結された蒸気タービン13が回転され、圧縮機12によって昇圧された冷媒が、冷媒排出管17、凝縮器14、冷媒供給管18及び蒸発器11で構成される閉ループ内を循環する。冷媒は、RPV2内の冷却水によって加熱されて蒸発器11内で気化し、凝縮器14での冷却によって液化される。冷媒が気化するとき、RPV2内の冷却水から熱を奪うので、その冷却水の温度が低下し、核燃料物質の崩壊熱を除去できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラントの非常用冷却装置に係り、特に、沸騰水型原子力プラントに適用するのに好適な原子力プラントの非常用冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の近くで大きな地震及び津波が発生したとき、運転中の原子炉を安全な状態にするために、まず、全制御棒を炉心内に緊急挿入し、炉心に装荷されている複数の燃料集合体内の核燃料物質の核分裂の進行を停止させる。その後、炉心の余熱及び核燃料物質の崩壊熱等の高熱により、炉心に存在する燃料集合体に含まれる燃料棒が破損・溶解する危険性があるため、冷温停止状態になるまで炉心を冷却し続けなければならない。
【0003】
例えば、沸騰水型原子力プラント(BWRプラント:Boiling Water Reactor Plant)においては、外部電源が喪失したとき、非常用炉心冷却装置(ECCS:Emergency Core Cooling System)が非常用ディーゼル発電機により起動され、非常用炉心冷却装置により原子炉内の炉心に冷却水が供給される。これにより、炉心内の燃料集合体が冷却される。さらに、万が一、外部電源及び非常用ディーゼル発電機による電力のすべてが失われた場合には、原子炉隔離時冷却系(RCIC:Reactor Core Isolation Cooling system)により、炉心内の燃料集合体の冷却が行われる。原子炉隔離時冷却系は、燃料集合体に含まれる核燃料物質の崩壊熱によって発生した蒸気を、原子炉隔離時冷却系のポンプを駆動するタービンに供給してこのタービンを回転させ、タービンの回転によりポンプを駆動して圧力抑制プール内の冷却水を昇圧し、この冷却水を、原子炉に接続される給水配管を経由して原子炉の炉心に供給する。ただし、原子炉隔離時冷却系がうまく稼動できない状態で原子炉冷却材喪失事象が発生した場合には、原子炉内の冷却水の水位が低下しながら原子炉圧力が上昇して、炉心への注水がしにくくなる可能性がある。
【0004】
上記した課題をめぐって、外部電源の消失及び原子炉圧力に影響されない独立した原子炉冷却システムがいくつか提案されている。
【0005】
特開2004−198118号公報は、冷却材喪失事故が発生して電源が喪失した場合においても原子炉格納容器内の除熱を行う原子炉格納容器冷却設備を提案している。この原子炉格納容器冷却設備は、原子炉格納容器の上方に配置されて冷却水を溜めたプールと、プールに溜まった冷却水を、ポンプを介さずに重力を駆動力として、原子炉格納容器内に設置した冷却器に供給し、原子炉格納容器内の蒸気を冷却する。このような冷却を行うことによって、原子炉格納容器内の圧力及び温度を低下させる。
【0006】
特開平05−157877号公報に記載された原子炉の冷却装置は、原子炉圧力容器を内蔵する原子炉格納容器の上方に設置された冷却水プール、及び原子炉圧力容器内に設置されて、この冷却水プール内の冷却水を供給する熱交換器を有する。この熱交換器と冷却水プールは、上流側連結配管及び下流側連結配管で連絡され、これらによって冷却水を循環させる閉ループを形成している。冷却材喪失事故が発生したとき、冷却水プール内の冷却水が、重力により上流側連結配管を通して熱交換器内に供給されて原子炉圧力容器内の冷却水を冷却し、暖められて比重が小さくなった状態で下流側連結配管を通して冷却水プールに戻される。冷却水プール内の冷却水がこのように循環することによって、原子炉圧力容器内の冷却水を冷却する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−198118号公報
【特許文献2】特開平05−157877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した各公開公報に記載された各冷却システムは、ポンプなどの動的な機器を用いずに重力等による冷却水の自然循環力を利用して冷却機能を果たしているが、炉内の水蒸気および水が密封状態の独立系統であるため、内圧の低減効果が小さい。
【0009】
事故や自然災害により外部電源及び非常用ディーゼル発電機による電力の供給が途絶えた場合においても、原子炉の炉心内に装荷されている複数の燃料集合体を冷却し続けなければならない。
【0010】
本発明の目的は、外部電源及び非常用ディーゼル発電機による電力供給が途絶えても、炉心内の核燃料物質から発生する崩壊熱を効率良く除去できる原子力プラントの非常用冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、原子炉圧力容器内に設置された蒸発器と、原子炉圧力容器を取り囲む原子炉格納容器の外部に設置された凝縮器と、蒸発器の出口と凝縮器の入口を連絡する第1冷媒配管と、蒸発器の入口と凝縮器の出口を連絡する第2冷媒配管と、第1冷媒配管及び第2冷媒配管のいずれかに設けられた冷媒昇圧装置と、原子炉圧力容器に接続されて原子炉圧力容器内の蒸気を原子炉格納容器内に形成された圧力抑制プールに排出する蒸気排出管と、蒸気排出管に設けられ、冷媒昇圧装置に連結された蒸気タービンとを備え、
蒸発器、第1冷媒配管、凝縮器及び第2冷媒配管が冷媒を循環させる閉ループを構成していることにある。
【0012】
上記の特徴によれば、外部電源及び非常用ディーゼル発電機による電力供給が途絶えても、原子炉圧力容器内の蒸気を用いて冷媒昇圧装置を駆動して閉ループ内で冷媒を循環させることができるので、原子炉圧力容器内の冷却水の冷却を行うことができる。このため、炉心に配置された各燃料集合体内の核燃料物質から発生する崩壊熱を効率良く除去することができる。
【0013】
原子炉圧力容器と原子炉圧力容器を取り囲む原子炉格納容器の間に設置された蒸発器と、原子炉格納容器の外に設置された凝縮器と、蒸発器の出口と凝縮器の入口を連絡する第1冷媒配管と、蒸発器の入口と凝縮器の出口を連絡する第2冷媒配管と、第1冷媒配管及び第2冷媒配管のいずれかに設けられた冷媒昇圧装置と、原子炉圧力容器に接続されて原子炉圧力容器内の蒸気を原子炉格納容器内に形成された圧力抑制プールに排出する蒸気排出管と、蒸気排出管に設けられ、冷媒昇圧装置に連結された蒸気タービンとを備え、
蒸発器、第1冷媒配管、凝縮器及び前記第2冷媒配管が冷媒を循環させる閉ループを構成することによって、外部電源及び非常用ディーゼル発電機による電力供給が途絶えても、原子炉圧力容器内の蒸気を用いて冷媒昇圧装置を駆動して閉ループ内で冷媒を循環させることができるので、原子炉格納容器内に放出された蒸気の冷却を効率良く行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、外部電源及び非常用ディーゼル発電機による電力供給が途絶えても、炉心に配置された各燃料集合体内の核燃料物質から発生する崩壊熱を効率良く除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好適的な一実施例である実施例1の原子力プラントの非常用冷却装置の構成図である。
【図2】図1に示す蒸発器の詳細な構造図である。
【図3】凝縮器の他の実施例の構造図である。
【図4】凝縮器の他の実施例の構造図である。
【図5】本発明の他の実施例である実施例2の原子力プラントの非常用冷却装置の構成図である。
【図6】本発明の他の実施例である実施例3の原子力プラントの非常用冷却装置の構成図である。
【図7】本発明の他の実施例である実施例4の原子力プラントの非常用冷却装置の構成図である。
【図8】本発明の他の実施例である実施例5の原子力プラントの非常用冷却装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明の好適的な一実施例である実施例1の原子力プラントの非常用冷却装置を、図1を用いて説明する。
【0018】
本実施例の非常用冷却装置30が適用される沸騰水型原子力プラントは、原子炉1及び原子炉1を内部に設けた原子炉格納容器5を有し、原子炉建屋9内に原子炉格納容器5を設置している。原子炉格納容器5はドライウェル6及び環状の圧力抑制室7を有する。圧力抑制室7はドライウェル6を取り囲んでドライウェル6の底部に配置されている。冷却水が充填された圧力抑制プール8が、圧力抑制室7内に形成される。ドライウェル6の底部に放射状に配置された複数の排出管(図示せず)が連絡され、これらの排出管が圧力抑制室7内に挿入されている。各排出管に連絡される複数のベント管の下端部が、圧力抑制プール8内の冷却水に浸漬されている。
【0019】
原子炉1は、内部に炉心を配置した原子炉圧力容器2を有する。核燃料物質を充填した複数の燃料棒(図示せず)を有する複数の燃料集合体3が、炉心に装荷されている。原子炉1は、原子炉出力を制御する複数の制御棒4を有している。制御棒4は、原子炉圧力容器2内に配置され、原子炉圧力容器2に設けられた制御棒駆動機構(図示せず)によって燃料集合体4の相互間に挿入され、また、燃料集合体4の相互間から引き抜かれる。
【0020】
非常用冷却装置30は、蒸発器11、蒸気タービン13で駆動される冷媒昇圧装置である圧縮機12、凝縮器14及び蒸気排出管19を備えている。蒸発器11は原子炉圧力容器2内に設置される。凝縮器14は、熱伝導係数が高い、例えば、アルミニウムなどの金属材料を用いて製造された伝熱管15を有し、原子炉建屋9の外部に設置される。冷媒排出管(第1冷媒配管)17が蒸発器11の出口と凝縮器14の伝熱管15の一端に接続される。圧縮機12が冷媒排出管17に設けられる。冷媒供給管(第2冷媒配管)18が蒸発器11の入口と凝縮器14の伝熱管15の他端に接続される。膨張弁16が冷媒排出管17に設けられる。原子炉圧力容器2の上部に接続された蒸気排出管19が、原子炉格納容器5の外側で原子炉建屋9内に配置され、圧力抑制室7を貫通して圧力抑制室8内に達している。蒸気排出管19の下端部は圧力抑制プール8の冷却水に浸漬されている。圧縮機12に連結された蒸気タービン13、及び隔離弁20が蒸気排出管19に設けられる。
【0021】
蒸発器11は、図2に示すように、原子炉圧力容器2の内面に取り付けられている。この蒸発器11は、原子炉圧力容器2内において、複数の燃料集合体3が装荷された炉心を取り囲んで原子炉圧力容器2内に設置された円筒状の炉心シュラウド(図示せず)と原子炉圧力容器2の間に形成された環状領域であるダウンカマ(図示せず)に設置される。蒸発器11は、熱伝導係数が高い材料、例えば、アルミニウムなどの金属材料により製作される。また、高い熱交換率を実現するためは、原子炉圧力容器2内の蒸気及び炉水とできるだけ広い範囲で熱交換することが好ましい。このため、蒸発器11は、細長いアルミニウム製のチューブを折り曲げながら蛇行させて製造される。蒸発器11内における沸騰した冷媒の上昇を考慮し、蒸発器11の下端部を冷媒の入口に、上端部を冷媒の出口にする。さらに、複数の蒸発器11を、ダウンカマ内で原子炉圧力容器2の周方向に分散させて配置した(炉心シュラウドを取り囲んで配置した)状態で、原子炉圧力容器2の内面(または炉心シュラウドの外面)にそれぞれ設置してもよい。
【0022】
冷媒が、冷媒供給管18、蒸発器11、冷媒排出管17、及び凝縮器14の伝熱管15内に充填されている。本実施例では、冷媒供給管18、蒸発器11、冷媒排出管17、及び凝縮器14の伝熱管15により構成される、冷媒の循環ループが、原子炉1内の炉水を循環させる循環ループとは別に形成されるために、冷媒として、アンモニア、イソブタン及び二酸化炭素などの一般的な凝縮気体を利用することができる。ただし、より一層の安全性が求められる原子力プラントにおいては、爆発の危険性がない二酸化炭素または水蒸気を用いることが好ましい。
【0023】
沸騰水型原子力プラントでは、通常運転時において、炉心に供給された炉水が、燃料集合体3に含まれる核燃料物質の核分裂により発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、原子炉圧力容器2内に設置された気水分離器(図示せず)及び蒸気乾燥器(図示せず)で水を分離された後、原子炉圧力容器2に接続された主蒸気配管(図示せず)を通して高圧タービン(図示せず)及び低圧タービン(図示せず)に導かれ、これらのタービンを回転させる。これらのタービンに連結された発電機(図示せず)も回転し、電気を発生する。低圧タービンから排気された蒸気は復水器(図示せず)で凝縮されて水になり、この水は、給水として、給水配管(図示せず)を通って原子炉圧力容器2内に戻される。沸騰水型原子力プラントの通常運転時においては、隔離弁20が閉じられている。
【0024】
前述のように正常な状態で運転されている沸騰水型原子力プラントにおいて、例えば、高圧タービンに蒸気を供給する主蒸気配管の、ドライウェル6内に存在する部分が地震などの外力により破断する冷却材喪失事故が発生した場合を想定する。
【0025】
原子炉圧力容器2内の高温高圧の炉水が、蒸気となって、主蒸気配管の破断箇所からドライウェル6内に放出される。放出された蒸気は、ドライウェル6から各排出管及び各ベント管を経て圧力抑制プール8の冷却水中に放出され、凝縮される。この結果、ドライウェル6内の圧力上昇が抑制される。
【0026】
冷却材喪失事故が発生したとき、隔離弁20が開いて原子炉圧力容器2内の蒸気が、蒸気排出管19を通して蒸気タービン13に導かれ、蒸気タービン13を回転させる。蒸気タービン13を回転させた蒸気は、蒸気排出管19内をさらに流れ、圧力抑制プール8の冷却水中に放出されて凝縮される。蒸気排出管19による原子炉圧力容器2内の蒸気の放出によって、原子炉圧力容器2内の圧力が低減される。
【0027】
蒸気タービン13が回転すると、この蒸気タービン13に連結された圧縮機12が駆動される。圧縮機12の駆動によって昇圧された冷媒、例えば、水が、冷媒排出管17、凝縮器14の伝熱管15、冷媒供給管18、及び蒸発器11で構成される閉ループ内を循環する。圧縮機12によって昇圧されて沸点が上昇した冷媒の気体が、冷媒排出管17を通して凝縮器14の伝熱管15に導かれる。冷媒の気体は、伝熱管15内を通過しながら、伝熱管15の外面に接触する、原子炉建屋13外の冷たい空気と熱交換を行って冷却される。冷媒の気体が伝熱管15内で冷却されて冷媒の気体の温度が沸点以下になると、冷媒の気体が凝縮して冷媒の液体になり、放熱される。伝熱管15から冷媒供給管18に排出された冷媒の液体は、膨張弁16の通過により圧力が低下し、沸点も低下する。
【0028】
その後、冷媒の液体は原子炉圧力容器2の内面に取付けられている蒸発器11に到達する。冷媒の液体は、蒸発器11内にて原子炉圧力容器2内の高温の冷却水及び蒸気と熱交換を行い温度が上昇する。冷媒の液体は温度が沸点に達する際に沸騰して冷媒の気体となり、冷媒の液体が気化する際に原子炉圧力容器2内の冷却水及び蒸気から大量の熱を吸収する。この結果、原子炉圧力容器2内の冷却水等の温度が低下する。蒸発器11が地面に対して垂直に配置されているため、冷媒の気体は、蒸発器11に流入する冷媒の液体よりも密度が低く、自然循環で上昇流になる。この冷媒の気体が、圧縮機12によって昇圧される。このように、冷媒は、冷媒排出管17、凝縮器14の伝熱管15、冷媒供給管18、及び蒸発器11で構成される閉ループ内を循環する。図1に示された矢印は、その閉ループ内における冷媒の流れ方向を示している。
【0029】
蒸気排出管19を用いた、原子炉圧力容器2内の蒸気の圧力抑制プール8への放出は、原子炉圧力容器2内の圧力の低減、及び圧縮機12の駆動による、冷媒排出管17、凝縮器14の伝熱管15、冷媒供給管18、及び蒸発器11で構成される閉ループ内での冷媒の循環をもたらす。
【0030】
本実施例によれば、万が一、冷却材喪失事故時が発生してかつ外部電源及び非常用ディーゼル発電機による沸騰水型原子力プラントへの電力の供給がすべて失われた非常事態が生じても、原子炉圧力容器2内の蒸気を用いて圧縮機12を駆動して非常用冷却装置30の閉ループ内で冷媒を循環させ、原子炉圧力容器2内の炉水及び蒸気の冷却を継続して行うことができる。このため、炉心に配置された各燃料集合体内の核燃料物質から発生する崩壊熱を効率良く除去することができ、外部電源及び非常用ディーゼル発電機による沸騰水型原子力プラントへの電力の供給が途絶えて他の冷却系統、例えば、非常用炉心冷却装置(ECCS)及び原子炉隔離時冷却系(RCIC)などが作動しないときでも、非常用冷却装置30により各燃料集合体の冷却を継続して行うことができる。
【0031】
本実施例では、冷媒排出管17、凝縮器14の伝熱管15、冷媒供給管18、及び蒸発器11で構成される閉ループ内を循環させる冷媒として、凝縮気体を用いており、この冷媒の気化及び液化をその閉ループ内で繰り返すことにより、原子炉圧力容器2内の炉水及び蒸気から大量の熱を吸収し、この熱を外部に放出することができる。すなわち、蒸発器11内での冷媒の気化により原子炉圧力容器2内の炉水及び蒸気から大量の熱を吸収し、凝縮器14の伝熱管15内での冷媒の液化により伝熱管15の外部にその熱を放出することができる。このように、冷媒として凝縮気体を用いることによって、非常用冷却装置30は、原子炉1内の熱を大量に外部に放出することができ、炉心内の燃料集合体3の冷却を促進することができる。
【0032】
また、沸騰水型原子力プラントに設けられた非常用冷却装置30は、この沸騰水型原子力プラントに設けられた他の冷却系統、例えば、非常用炉心冷却装置(ECCS)及び原子炉隔離時冷却系(RCIC)などが故障で稼動しないときにおいても、原子炉1を冷却することができる。このため、沸騰水型原子力プラントの信頼性及び安全性を向上させることができる。
【0033】
本実施例では、蒸発器11を、原子炉圧力容器2の周辺部である、炉心を取り囲む炉心シュラウドと原子炉圧力容器2の間に存在するダウンカマに配置しているので、蒸発器11に接触する、ダウンカマ内の冷却水及び蒸気が冷却されて密度が上昇し、ダウンカマ内で炉水の下降流が生じる。一方、燃料集合体3が装荷された、炉心シュラウドの内側の炉心内では、冷却水が燃料集合体3内の核燃料物質の崩壊熱で加熱されて密度が低下し、炉水の上昇流が生じる。この結果、原子炉圧力容器2の中央部である炉心で生じる炉水の上昇流、及び原子炉圧力容器2の周辺部であるダウンカマで生じる炉水の下降流により、原子炉圧力容器2内において炉水の自然循環が生じる。ダウンカマ内への蒸発器11の配置によって、上記したように、原子炉圧力容器2内で炉水の自然循環流が発生し、燃料集合体3の冷却効率が向上する。
【0034】
ダウンカマ内で原子炉圧力容器2の周方向において複数、例えば、4個の蒸発器11を配置し、これらの蒸発器11を冷媒排出管17及び冷媒供給管18に並列に接続することによって、ダウンカマ内の冷却水及び蒸気の冷却効果が増大し、原子炉圧力容器2内での炉水の自然循環流量を増加させることができる。このため、燃料集合体3の冷却効率がさらに向上する。また、ダウンカマ内で原子炉圧力容器2の周方向において複数の蒸発器11を配置する、すなわち、ダウンカマ内で炉心シュラウドを取り囲むように複数の蒸発器11を配置するので、各蒸発器11で冷却された炉水を炉心により均一に供給することができ、炉心内の各燃料集合体3の冷却が均一化される。
【0035】
本実施例は、特開2004−198118号公報及び特開平05−157877号公報に記載された冷却システムのように、原子炉格納容器の上方に冷却水を充填した冷却水プールを設置する必要がなく、冷媒を循環させる、冷媒排出管17、凝縮器14の伝熱管15、冷媒供給管18、及び蒸発器11で構成される閉ループを設けているので、システム全体の重心を低くすることができ、非常用冷却装置30の耐震性が向上する。
【0036】
本実施例では、凝縮器14を原子炉建屋9の外部に配置して外部環境の空気で冷却している。この凝縮器14の伝熱管15を水で冷却することも可能である。凝縮器14の伝熱管15を水冷する例を、以下に説明する。
【0037】
図3に示す例では、凝縮器14を、冷却水22を充填した水槽21内に設置している。水槽21は、原子炉建屋9の外部に設置されているが、原子炉建屋9内に設置してもよい。凝縮器14の、アルミニウムで製造された伝熱管15が、水槽21内の冷却水22内に浸漬され、伝熱管15の外面が冷却水22に接触している。圧縮機12で昇圧された冷媒の気体が、冷媒排出管17を通して伝熱管15内に導かれ、冷却水22との熱交換によって凝縮されて冷媒の液体になる。この冷媒の液体は、冷媒供給管18を通して蒸発器11に供給される。
【0038】
水槽21の設置場所には特に制限はないが、非常用冷却装置30の耐震性を考慮した場合には、水槽21は低い位置に設置することが好ましい。例えば、水槽21として、図5に示すように、海水プール23を用いてもよい。沸騰水型原子力プラントが設置された原子力発電所の近傍の海26を、海水通路25を形成した防波堤24で仕切って、防波堤24の内側に海水プール23を形成する。防波堤24の外側の海水は、海水通路25を通して海水プール23に流入する。凝縮器14の伝熱管15が海水プール23内の海水中に設置される。冷媒排出管17を通して伝熱管15内に導かれた冷媒の気体は、伝熱管15内で海水プール23内の海水によって冷却されて凝縮され、冷媒の液体になる。この冷媒の液体は、冷媒供給管18を通して蒸発器11に送られる。この例によれば、海水の自然循環により冷媒の気体と海水との間の熱交換率が向上する。
【実施例2】
【0039】
本発明の他の実施例である実施例2の原子力プラントの非常用冷却装置を、図5を用いて説明する。本実施例の非常用冷却装置30Aは、沸騰水型原子力プラントに適用され、実施例1で用いられる非常用冷却装置30と同じ構成を有する。非常用冷却装置30では蒸発器11が原子炉圧力容器2内に設置されているのに対して、非常用冷却装置30Aでは、蒸発器11が、原子炉圧力容器2の外側で原子炉格納容器5の内側であるドライウェル6内に設置されている。
【0040】
本実施例においても、冷却材喪失事故が発生してかつ外部電源及び非常用ディーゼル発電機による沸騰水型原子力プラントへの電力の供給がすべて失われている場合に、隔離弁20を開いて原子炉圧力容器2内の蒸気を、蒸気排出管19を通して圧力抑制プール8の冷却水中に放出する。このとき、蒸気が蒸気タービン13を回転するので、冷媒排出管17、凝縮器14の伝熱管15、冷媒供給管18、及び蒸発器11で構成される閉ループ内に存在する冷媒が、実施例1と同様に、その閉ループ内を循環する。このため、ドライウェル6内に放出された蒸気の熱が、蒸発器11内の冷媒に吸収されるため、その蒸気が凝縮されて水になる。蒸発器11内の冷媒は、冷媒の気体となって、冷媒排出管17を通って凝縮器14に導かれる。この冷媒の気体は、凝縮器14の伝熱管15で冷却されて凝縮され、冷媒の液体になり、冷媒供給管18を通って蒸発器11に導かれる。
【0041】
本実施例によれば、万が一、冷却材喪失事故時が発生してかつ外部電源及び非常用ディーゼル発電機による沸騰水型原子力プラントへの電力の供給がすべて失われた非常事態が生じても、原子炉圧力容器2内の蒸気を用いて圧縮機12を駆動して非常用冷却装置30の閉ループ内で冷媒を循環させ、原子炉格納容器5、特にドライウェル6内の蒸気の冷却を継続して行うことができる。
【0042】
冷媒として凝縮気体を用いているため、ドライウェル6内の熱を大量に外部に放出することができ、ドライウェル6の冷却を促進することができる。複数の蒸発器11を、原子炉圧力容器2の周方向において、原子炉圧力容器2を取り囲むように、ドライウェル6内に配置することにより、ドライウェル6内の蒸気を均一に冷却することができる。
【0043】
本実施例も、実施例1と同様に、原子炉格納容器の上方に冷却水を充填した冷却水プールを設置する必要がなく、冷媒を循環させる閉ループを設けているので、非常用冷却装置30の耐震性が向上する。
【実施例3】
【0044】
本発明の他の実施例である実施例3の原子力プラントの非常用冷却装置を、図6を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの非常用冷却装置30Bは、実施例1で用いられる非常用冷却装置30において、膨張弁16が取り除かれ、圧縮機12をポンプ28に変えた構成を有する。冷媒昇圧装置であるポンプ28は、冷媒排出管17に設けられ、そして蒸気排出管19に設けられた蒸気タービン13に連結される。非常用冷却装置30Bの他の構成は、非常用冷却装置30と同じである。本実施例の非常用冷却装置30Bは、沸騰水型原子力プラントに適用される。
【0045】
冷却材喪失事故が発生してかつ外部電源及び非常用ディーゼル発電機による沸騰水型原子力プラントへの電力の供給がすべて失われているとき、隔離弁20を開いて原子炉圧力容器2内の蒸気を、蒸気排出管19を通して圧力抑制プール8の冷却水中に放出する。このとき、蒸気タービン13が蒸気排出管19内を流れる蒸気によって回転され、ポンプ28が回転している蒸気タービン13によって回転される。回転しているポンプ28は、冷媒供給管18内の冷媒の液体を昇圧する。このため、昇圧された冷媒の液体が蒸発器11内に供給され、蒸発器11内の冷媒の液体が原子炉圧力容器2内の冷却水及び蒸気によって加熱されて気化される。冷媒の液体の気化によって、原子炉圧力容器2内の冷却水及び蒸気から大量の熱が冷媒の液体に吸収される。結果的に、原子炉圧力容器2内の冷却水等の温度が低下し、この冷却水による炉心内の燃料集合体3の冷却効率が向上する。蒸発器11から排出された冷媒の気体は、凝縮器14の伝熱管15内で凝縮されて冷媒の液体になる。この冷媒の液体がポンプ28で昇圧される。
【0046】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【実施例4】
【0047】
本発明の他の実施例である実施例4の原子力プラントの非常用冷却装置を、図7を用いて説明する。本実施例の非常用冷却装置30Cは、沸騰水型原子力プラントに適用され、実施例3で用いられる非常用冷却装置30Bと同じ構成を有する。非常用冷却装置30Bでは蒸発器11が原子炉圧力容器2内に設置されているのに対して、非常用冷却装置30Cでは、実施例2と同様に、蒸発器11が、原子炉圧力容器2の外側で原子炉格納容器5の内側であるドライウェル6内に設置されている。
【0048】
本実施例においても、冷却材喪失事故が発生してかつ外部電源及び非常用ディーゼル発電機による沸騰水型原子力プラントへの電力の供給がすべて失われている場合に、隔離弁20を開いて原子炉圧力容器2内の蒸気を、蒸気排出管19を通して圧力抑制プール8の冷却水中に放出する。このとき、蒸気が蒸気タービン13を回転することにより、ポンプ28が回転されるので、冷媒排出管17、凝縮器14の伝熱管15、冷媒供給管18、及び蒸発器11で構成される閉ループ内に存在する冷媒が、実施例3と同様に、その閉ループ内を循環する。このため、ドライウェル6内に放出された蒸気の熱が、蒸発器11内の冷媒に吸収されるため、その蒸気が凝縮されて水になる。蒸発器11内の冷媒は、冷媒の気体となって、冷媒排出管17を通って凝縮器14に導かれる。この冷媒の気体は、凝縮器14の伝熱管15で冷却されて凝縮され、冷媒の液体になり、冷媒供給管18を通って蒸発器11に導かれる。
【0049】
本実施例は、実施例2で生じる各効果を得ることができる。
【実施例5】
【0050】
本発明の他の実施例である実施例5の原子力プラントの非常用冷却装置を、図8を用いて説明する。本実施例の非常用冷却装置30Dは、沸騰水型原子力プラントに適用され、実施例1で用いられる非常用冷却装置30において、冷媒昇圧装置である圧縮機12Aを追加した構成を有する。圧縮機12Aは、バッテリー27に接続されている。非常用冷却装置30Dの他の構成は、非常用冷却装置30と同じ構成である。
【0051】
本実施例における蒸気タービン13の駆動は、実施例1と同じである。蒸気タービン13に連結される圧縮機12が回転し、実施例1と同様に、冷媒が圧縮機12によって昇圧され、昇圧された冷媒が、冷媒排出管17、凝縮器14の伝熱管15、冷媒供給管18、及び蒸発器11で構成される閉ループ内を循環する。このため、原子炉圧力容器2内の冷却水及び蒸気が保有する熱が、凝縮器14において外部環境に放出される。バッテリー27からの直流電流により圧縮機12Aが駆動され、圧縮機12Aによっても冷媒が昇圧される。
【0052】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。また、本実施例は、異なる駆動力源であるバッテリー27で駆動する圧縮機12Aを備えているので、非常用冷却装置30Dの信頼性が向上する。
【0053】
図3に示す凝縮器14の水槽21内の冷却水22中への配置、または図4に示す凝縮器14の海水プール23内への配置は、実施例2ないし5のそれぞれの実施例に適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1…原子炉、2…原子炉圧力容器、3…燃料集合体、5…原子炉格納容器、6…ドライウェル、7…圧力抑制室、8…圧力抑制プール、9…原子炉建屋、11…蒸発器、12…圧縮機、13…蒸気タービン、14…凝縮器、15…伝熱管、16…膨張弁、17…冷媒排出管、18…冷媒供給管、19…蒸気排出管、20…隔離弁、21…水槽、23…海水プール、24…防波堤、28…ポンプ、30,30A,30B,30C,30D…非常用冷却装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器内に設置された蒸発器と、前記原子炉圧力容器を取り囲む原子炉格納容器の外部に設置された凝縮器と、前記蒸発器の出口と前記凝縮器の入口を連絡する第1冷媒配管と、前記蒸発器の入口と前記凝縮器の出口を連絡する第2冷媒配管と、前記第1冷媒配管及び前記第2冷媒配管のいずれかに設けられた冷媒昇圧装置と、前記原子炉圧力容器に接続されて前記原子炉圧力容器内の蒸気を前記原子炉格納容器内に形成された圧力抑制プールに排出する蒸気排出管と、前記蒸気排出管に設けられ、前記冷媒昇圧装置に連結された蒸気タービンとを備え、
前記蒸発器、前記第1冷媒配管、前記凝縮器及び前記第2冷媒配管が冷媒を循環させる閉ループを構成していることを特徴とする原子力プラントの非常用冷却装置。
【請求項2】
前記蒸発器が、前記原子炉圧力容器内で、複数の燃料集合体が装荷された炉心を取り囲む筒状の炉心シュラウドと前記原子炉圧力容器の間に形成される環状領域に配置される請求項1に記載の原子力プラントの非常用冷却装置。
【請求項3】
複数の前記蒸発器が、前記環状領域において、前記炉心シュラウドを取り囲んで配置される請求項2に記載の原子力プラントの非常用冷却装置。
【請求項4】
前記冷媒昇圧装置が圧縮機であり、この圧縮機が前記第1冷媒配管に設けられ、膨張弁が前記第2冷媒配管に設けられる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の原子力プラントの非常用冷却装置。
【請求項5】
前記冷媒昇圧装置がポンプであり、このポンプが前記第2冷媒配管に設けられる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の原子力プラントの非常用冷却装置。
【請求項6】
前記冷媒が凝縮性気体である請求項1ないし5のいずれか1項の原子力プラントの非常用冷却装置。
【請求項7】
原子炉圧力容器と前記原子炉圧力容器を取り囲む原子炉格納容器の間に設置された蒸発器と、前記原子炉格納容器の外に設置された凝縮器と、前記蒸発器の出口と前記凝縮器の入口を連絡する第1冷媒配管と、前記蒸発器の入口と前記凝縮器の出口を連絡する第2冷媒配管と、前記第1冷媒配管及び前記第2冷媒配管のいずれかに設けられた冷媒昇圧装置と、前記原子炉圧力容器に接続されて前記原子炉圧力容器内の蒸気を前記原子炉格納容器内に形成された圧力抑制プールに排出する蒸気排出管と、前記蒸気排出管に設けられ、前記冷媒昇圧装置に連結された蒸気タービンとを備え、
前記蒸発器、前記第1冷媒配管、前記凝縮器及び前記第2冷媒配管が冷媒を循環させる閉ループを構成していることを特徴とする原子力プラントの非常用冷却装置。
【請求項8】
複数の前記蒸発器が、前記原子炉圧力容器を取り囲むように配置される請求項7に記載の原子力プラントの非常用冷却装置。
【請求項9】
前記冷媒昇圧装置が圧縮機であり、この圧縮機が前記第1冷媒配管に設けられ、膨張弁が前記第2冷媒配管に設けられる請求項7または8に記載の原子力プラントの非常用冷却装置。
【請求項10】
前記冷媒昇圧装置がポンプであり、このポンプが前記第2冷媒配管に設けられる請求項7または8に記載の原子力プラントの非常用冷却装置。
【請求項11】
前記冷媒が凝縮性気体である請求項7ないし10のいずれか1項の原子力プラントの非常用冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−233698(P2012−233698A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100272(P2011−100272)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)