説明

原子力プラント

【課題】
ウェルシールドプラグと躯体との間のギャップからのストリーミング放射線を低減する必要がある。
【解決方法】
原子炉を取り囲む原子炉格納容器を有する原子力プラントにおいて、前記原子炉格納容器の外周を覆う建屋と、前記原子炉格納容器上部の空間を形成する躯体と、前記空間の上部開口を閉塞するウェルシールドプラグと、このウェルシールドプラグと前記躯体間にあるギャップとからなり、このギャップにウェルシールドプラグライナーを介在させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子炉を取り囲む原子炉格納容器を有する原子力プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉ウェル上部のギャップによるストリーミング放射線の問題は知られている。ストリーミング放射線を低減するために製作精度を高める要求がある。しかしながら製作精度を高めるには高度な技術と多大な労力が必要であった。
【0003】
このような製作精度の向上を高める従来の技術として、例えば特開昭62−190492号公報(特許文献1)がある。この特許文献1は最もギャップが大きくなり、かつ精度良く加工することが困難なDSピット及び燃料プール側のウェルシールドプラグと躯体接触面を直線化し、精度向上を容易にしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−190492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1はDSピット及び燃料プール側のウェルシールドプラグと躯体接触面を直線化し、精度向上を容易にすることについては開示されているものの、ウェルシールドプラグと躯体との間に開くギャップを小さくすることについては配慮されていなかった。
【0006】
本発明の目的、ウェルシールドプラグと躯体間に開くギャップからのストリーミング放射線を低減した原子炉格納容器を有する原子力プラントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、原子炉を取り囲む原子炉格納容器を有する原子力プラントにおいて、前記原子炉格納容器の外周を覆う建屋と、前記原子炉格納容器上部の空間を形成する躯体と、前記空間の上部開口を閉塞するウェルシールドプラグと、このウェルシールドプラグと前記躯体間にあるギャップとからなり、このギャップにウェルシールドプラグライナーを介在させたことにより達成される。
【0008】
また上記目的は、前記ウェルシールドプラグライナーは複数個に分割され、分割されたウェルシールドプラグライナーそれぞれは伸縮自在に係合していることにより達成される。
【0009】
また上記目的は、前記ウェルシールドプラグライナーの上部に堰を設けたことにより達成される。
【0010】
また上記目的は、前記ウェルシールドプラグライナーはボロン添加金属からなることにより達成される。
【0011】
また上記目的は、前記ウェルシールドプラグライナーはボロン添加アルミニウムからなることにより達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ウェルシールドプラグと躯体間に開くギャップからのストリーミング放射線を低減した原子炉格納容器を有する原子力プラントを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明が対象とする原子力プラントの構成図である。
【図2】図1の原子力プラントに搭載されるウェルシールドプラグの断面図である。
【図3】図1の原子力プラントに搭載されるウェルシールドプラグの正面図である。
【図4】本発明の一実施例を備えたウェルシールドプラグの正面図である。
【図5】本発明の一実施例を備えたウェルシールドプラグライナーの斜視図である。
【図6】本発明の一実施例を備えたウェルシールドプラグライナーの斜視図である。
【図7】本発明の一実施例を備えたウェルシールドプラグライナーの斜視図である。
【図8】本発明の一実施例を備えたウェルシールドプラグライナーの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明が対象とする原子力プラントを、図1、図2、図3を用いて説明する。
図1は原子力プラントの構成図である。
図2は図1のウェルシールドプラグの拡大断面図である。
図3は図1のウェルシールドプラグの正面図である。
図1において、原子力プラントである沸騰水型原子力プラント(以下、BWRプラントという)1は原子炉2、原子炉格納容器3、原子炉建屋13からなり、原子炉2は内部に炉心3aを有する。
【0015】
原子炉格納容器3は、鉄筋コンクリート部4、ライナー5及びトップヘッド6を有する。ライナー5は、原子炉格納容器3の気密性を確保するために用いられ、耐圧機能を有する鉄筋コンクリート部4の内側に取り付けられている。トップヘッド6は、コンクリート部4の上端部に設けられたフランジ7を用い、ボルト(図示せず)により鉄筋コンクリート部4に着脱可能に取り付けられている。
【0016】
原子炉2は、原子炉格納容器3内に設けられた筒状のペデスタル8に据え付けられる。ダイヤフラムフロア9が原子炉格納容器3とペデスタル8に取り付けられる。原子炉格納容器3の内部空間は、ペデスタル8及びダイヤフラムフロア9によって、ウェットウェルである圧力抑制室12及びドライウェルに分離される。ドライウェルは、ダイヤフラムフロア9より上方に位置する上部ドライウェル10、及び原子炉2より下方でペデスタル8内に位置する下部ドライウェル11を含んでいる。
【0017】
圧力抑制室12内には、冷却水26が充填されている。この圧力抑制室12は上部ドライウェル10及び下部ドライウェル11にそれぞれ連通され、ペデスタル8内に形成された複数のベント通路(図示せず)が、冷却水26中に開口している。
【0018】
原子炉格納容器3は原子炉建屋13内に設置されている。原子炉建屋13内に形成される床は鉄筋コンクリート部4につながっている。原子炉ウェル14が、原子炉建屋13内で原子炉格納容器3の上方に形成される。ウェルシールドプラグ15が、原子炉ウェル14の上方に配置され、原子炉建屋13から取外し可能に取り付けられる。原子炉ウェル14は躯体16によって形成されている。
【0019】
なお、図1では、原子炉ウェル天井15よりも上方における原子炉建屋13の構造が省略されている。
原子炉2の運転が停止されて炉心3a内に装荷された燃料集合体(図示せず)を交換するときには、水が原子炉ウェル14内に張られ、ウェルシールドプラグ15、トップヘッド6及び原子炉2の原子炉圧力容器の蓋がそれぞれ取り外される。燃料交換時には、原子炉ウェル14上方の運転床上を移動する燃料交換機(図示せず)により、炉心3aから燃料集合体が取り出され、原子炉ウェル14を介して燃料貯蔵プールまで搬送される。新燃料集合体が、燃料プールから逆のルートをたどり炉心3内に装荷される。
【0020】
原子炉格納容器3の外側で原子炉建屋13内には様々部屋が形成されている。図1では、それらの部屋のうち、部屋22、24及び25が示されている。配管室である部屋22内には、弁21を有する配管20が設置されている。部屋22内には、原子炉格納容器3を貫通している配管20のような配管が集中して配置されている。部屋24内には空調設備(図示せず)の吸い込みダクト23が配置されている。ペデスタル8、圧力抑制室12及び原子炉格納容器3を貫通するアクセストンネル32が設けられる。アクセストンネル32は、下部ドライウェル11と部屋25を連絡する。気密性を確保する開閉可能な機器搬入ハッチ31が、アクセストンネル32の部屋25側の端部に設けられる。機器搬入ハッチ31は部屋25内に存在している。
【0021】
図2、図3において、鉄筋コンクリート製の原子炉建屋13の上部に位置する開口部を遮蔽するウェルシールドプラグ15は直径が10メートル以上ある巨大なものである。この巨大なウェルシールドプラグ15は一度に持ち上げて移動させることは困難であるため、図2に示すように5個(15a、15b×2、15c×2)に分割されている。例えば中央の15aを中心として左右両側に15bと15cが配置されて円盤状のウェルシールドプラグ15が形成されている。
【0022】
ウェルシールドプラグ15は図1にも示したように、鉄筋コンクリート製の原子炉建屋13に形成された原子炉2を覆うトップヘッド6が位置する空間(以下、躯体16という)を覆うものである。このウェルシールドプラグ15は原子炉2を覆うことで放射線をシールドしている。
【0023】
ところで、躯体16とウェルシールドプラグ15とは別々に製造されるため、製造する側からは両者の隙間(以下、ギャップ17という)を組み合わせて建設する場合の、組み立て誤差を考慮した隙間寸法が要求されている。しかしながら製造側から要求される寸法ではストリーミング放射線が大きくなり、基準を満たさないという問題がある。
【0024】
さて、原子炉格納容器の定期検査時には、このウェルシールドプラグ15を取り外して躯体16の内部で作業することになる。復旧時には図に示すように、ウェルシールドプラグ15a、15b、15cの順に躯体16の開口部を閉塞していくことになる。したがって、ウェルシールドプラグ15の据付精度が悪い場合や元々ウェルシールドプラグ15の製作精度が悪い場合には、躯体16とウェルシールドプラグ15a、15b及び15cのギャップが大きくなってしまう。ギャップが大きくなってしまうとウェル下部にある炉心で発生する放射線がギャップ17からストリーミングすることになる。
【0025】
特にウェルシールドプラグ15cは躯体16に対して最後に設置する部分であることと、ウェルシールドプラグ15aと15bとの間、ウェルシールドプラグ15bと15cとの間の誤差も含むことなどからギャップ17が最大となってしまう。さらに、ギャップ17の形状は製作時点で大きさが個々に異なり、据付精度の問題もあるためギャップ17の寸法はウェルシールドプラグ15を取り外す度に変わってしまうという問題がある。
【0026】
このようなギャップ17の形状に合わせたウェルシールドプラグ15を設計することは不可能であった。そのため、ウェルシールドプラグ15を可能な限り精度を向上させることで対応しているが、結果としてコスト上昇の原因となってしまう。
【0027】
一方、精度を下げた場合には、ギャップが大きいためにストリーミング線量が大きくなり、ギャップの上部に別の追加遮蔽対策が必要な場合も考えられる。その場合は不要な突起物をオペフロ上に設置することになり、さまざまな不都合が考えられる。
【0028】
そこで本発明の発明者らは躯体とウェルシールドプラグの間に発生するギャップに詰め物をすることを種々検討した結果、以下のような実施例を得た。
【実施例1】
【0029】
本発明の一実施例を図4〜図5にしたがって説明する。
図4は本発明の一実施例を備えたウェルシールドプラグの正面図である。
図5は本発明の一実施例を備えたウェルシールドプラグライナーの斜視図である。
図4において、ウェルシールドプラグ15と躯体16との間のギャップ17にウェルシールドプラグライナー18が介在されている。換言するとストリーミング上問題となる寸法のギャップ17をウェルシールドプラグライナー18で埋めることになる。
【0030】
図5において、ウェルシールドプラグライナー18は挿入部分の形状が長方形になる部材18a、円周方向の変形を吸収するために挿入部分が収縮できる形状の部材18b及び18cからなり、各々の材質はボロン添加金属となっている。
【0031】
各部材はウェルシールドプラグ15の周囲に密着するようにウェルシールドプラグ半径と同じ半径で円形に曲げられている。上部は躯体上部の堰に掛けられるかぎ型の形状とする。部材の厚さは、ギャップ17大きさに併せて設計すれば良い。
ウェルシールドプラグライナー18とウェルシールドプラグ15のギャップ17は、ウェルシールドプラグ15の上部における、放射線業務従事者の年間被ばく線量限度(法令値)を満足するためにできるだけ狭くする必要がある。しかし、これを満足するために遮蔽上要求する設計値を、製作側が達成するのは製作精度の問題で非常に困難である。そこで、ギャップが大きいウェルシールドプラグ15の遮蔽性能を保管する目的で、ウェルシールドプラグライナー18をギャップ17内に挿入するものである。
【0032】
あらかじめギャップ17が大きいことがわかっている場合には、ウェルシールドプラグ15を設置する前にウェルシールドプラグライナー18を先行して躯体16側に設置することも可能である。ウェルシールドプラグライナー18の上部をカギ形状の堰18dを設け、この堰18dによってウェルシールドプラグライナー18脱着を容易にすることができる。ウェルシールドプラグを設置する前にあらかじめ躯体側に設置することも、ウェルシールドプラグ設置完了後に挿入することも可能である。
【0033】
図6、図7、図8はウェルシールドプラグライナーを段階的に伸縮させた状態を示した図である。
図6、図7、図8において、ウェルシールドプラグ15を躯体16に挿入した後にギャップ形状が予測と異なる場合でも、図6に示すように部材18b、18cを組み込むことにより、最大120cmまで周方向に伸縮させて設置することが可能で、その場合でも遮蔽体として十分機能できる。図6は600ミリ広げた状態である。
【0034】
部材18b、18cの組み込み部分の構造は、ウェルシールドプラグ15の材質であるコンクリートと比較して、約20%アルミの密度が大きいことを利用することにより、一部欠損してもコンクリートの必要厚さと等価な遮蔽厚さを確保できる形状としている。例えば組み合わせ部の欠損は高さ方向に対して20%以内であるため、ライナーと同じ高さのウェルシールドプラグと同様の遮蔽性能を確保できる。部材18b、18cの組み合わせの欠損は、斜め方向に放射線が通過する場合ついても考慮されている。図7は300mm広げた状態である。図8は隙間なく、組み込んだ状態である。
【0035】
斜め方向に放射線が通過する場合には、その入射角度に応じて実際のアルミ部分の通過距離が長くなるため、欠損が大きくなっても遮蔽性能を確保できる。例えば45°に放射線が入射する場合であっても、欠損部は最大でも2箇所分しか通過しない配置である。元のライナー高さを1とした場合には放射線のライナー部分通過距離が√2になる。一方、20%の欠損部2箇所の合計で0.4×√2となり、実際のアルミ部分を通過する距離は(1-0.4)×√2≒0.85となり、元の厚さに対して80%以上の実効厚さを確保できていることになる。
【実施例2】
【0036】
仮にウェルシールドプラグを設置した後にギャップが大きいことに明らかとなった場合、または運転中にストリーミング線量が高くなった場合には、必要に応じてギャップが大きい箇所にだけ設置することも可能である。この使用方法であっても、部材18aだけでなく、部材18b、18cを組み合わせて設置することにより隙間無く設置することが可能になる。
【0037】
このように本実施例によれば、ギャップ間に追加遮蔽体を挿入することで、ギャップからのストリーミング放射線を低減する。なお、部材18aはウェルシールドプラグの分割幅と同じ幅を持っているため、部分的にギャップが狭くて挿入できない場合には、そこだけ設置しなくても良い点が特徴である。
【0038】
またウェルシールドプラグライナー18をウェルシールドプラグ15の円周方向に伸縮可能な形状とすることで、不規則なギャップ形状であっても挿入できる追加遮蔽体となる。例えば、追加遮蔽体を次々挿入した後に最後の追加遮蔽体を挿入する段階で、ひずみや据付精度の不良で位置がずれた場合でも対応可能となる。さらに、金属の密度がコンクリートと比較して高いことを利用して、組み合わせ部分の溝を鉛直方向同一ラインに並ばないよう工夫して配置することで、欠損部分があっても実効的な遮蔽厚さを確保できる構造にする。
【0039】
ウェルシールドプラグライナー18の材質をボロン添加金属とすることで、中性子に対する遮蔽性能を有する遮蔽体となる。具体的には、例えばボロン添加アルミニウムを使用する。この場合、ウェルシールドプラグの躯体接面上に局所的な凹凸がある場合でも容易に変形するために吸収可能である点、軽量化できる点で最も有利である。なお、個別の大きさは部材Aが約2m×2mで重量が200kg程度、部材Bが約2m×3mで重量が300kg程度で定期検査時の仮置きスペースも限定されず、他の機器のレイダウン計画に与える影響も小さい。他のアルミウムより軽量な金属として、ベリリウムとマグネシウムがある。しかし、本発明のような使用方法で用いる場合、脆性や化学的安定性、毒性の面からアルミニウムが最も優れた材料であると考える。
【0040】
以上のことから本発明は、
(1)遮蔽要求上のギャップ幅の制限を緩和して製作精度を下げることが可能になり、製作日数を減少させることで、コストの削減が可能となる。
(2)定検時にウェルシールドプラグを復旧する際、ギャップが大きいことで据付が容易になる。
(3)この追加遮蔽体を据付前に躯体に設置しておけば、アルミライナーとして干渉材の役目を果たすので、ウェルシールドプラグや躯体の損傷を回避できる。
(4)予防保全の観点からも、既設のプラントにおいてストリーミング線量が高めの原子炉ウェル上部において、ストリーミング線量を低減する目的で追加遮蔽対策として提案できる。
【0041】
以上のごとく、本発明は原子炉上部に遮蔽対策として設置されるウェルシールドプラグの外周部にあるギャップからストリーミングする放射線を効率的に低減することができる。
【符号の説明】
【0042】
15…ウェルシールドプラグ、16…躯体、17…ギャップ、18…ウェルシールドプラグライナー、18d…堰。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉を取り囲む原子炉格納容器を有する原子力プラントにおいて、
前記原子炉格納容器の外周を覆う建屋と、前記原子炉格納容器上部の空間を形成する躯体と、前記空間の上部開口を閉塞するウェルシールドプラグと、このウェルシールドプラグと前記躯体間にあるギャップとからなり、
このギャップにウェルシールドプラグライナーを介在させたことを特徴とする原子力プラント。
【請求項2】
請求項1記載の原子力プラントにおいて、
前記ウェルシールドプラグライナーは複数個に分割され、分割されたウェルシールドプラグライナーそれぞれは伸縮自在に係合していることを特徴とする原子力プラント。
【請求項3】
請求項1記載の原子力プラントにおいて、
前記ウェルシールドプラグライナーの上部に堰を設けたことを特徴とする原子力プラント。
【請求項4】
請求項1記載の原子力プラントにおいて、
前記ウェルシールドプラグライナーはボロン添加金属からなることを特徴とする原子力プラント。
【請求項5】
請求項1記載の原子力プラントにおいて、
前記ウェルシールドプラグライナーはボロン添加アルミニウムからなることを特徴とする原子力プラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−220715(P2011−220715A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87009(P2010−87009)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)