説明

原子力発電所の原子炉建屋

【課題】従来、原子炉建屋運転床ではキャスク除染ピットが使用済み燃料プールのキャスクピット脇に設置されているため、レイダウンスペースが確保できず大型機器のメンテナンスを実施する際に原子炉ウェル廻りでの作業性を阻害している。また、MSIV/SRVラッピング室が狭いため、MSIV/SRV室の直角方向の移動の際にはXY方向クレーンが使用できないためメンテナンス作業の工数が増加する問題を解決する。
【解決手段】従来使用済み燃料プールのキャスクピット脇で原子炉ウェルから見て大物搬入口の手前側に設置されていたキャスク除染ピットを、大物搬入口の反対側に移設することにより、大物搬入口の原子炉ウェル側を十分な面積を持つレイダウンスペースとして確保する。また、キャスク除染ピットを原子炉ウェルから見て大物搬入口の反対側に移設して広く確保したMSIV/SRVラッピング室にXYクレーンを設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転床の作業性を改善した原子力発電所の原子炉建屋構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力発電所では炉心から取り出した使用済み燃料を貯蔵、運搬する容器としてキャスクが使用されている。キャスクは、通常はステンレス製の密閉容器で例えば直径3m長さ10m前後の円筒形状を有する重量物である。作業員を放射線被ばくから防護するために、使用済み燃料をキャスクに装填する作業は使用済み燃料プールの一角に設けられたキャスクピットで行われている。キャスクに使用済み燃料を装填する作業は水中で行われるため、キャスクの表面は使用済み燃料プールのプール水によつて汚染される。このため、キャスクピットから取り出したキャスクの表面を原子力発電所外に運び出せる程度まで洗浄するために、キャスク除染ピットが設置されている。
【0003】
図3は従来の原子炉建屋10の上部に設けられた運転床Aのレイダウン(仮置き)スペースの状況を示す。原子炉建屋10の運転床Aの大型機器がレイダウンできるレイダウンスペース9は約30m×10m程度となっている。レイダウンスペース9は原子炉ウェル8と使用済み燃料プール6の側方に設けられている。ここで使用済み燃料プール6の一部にはキャスクピット5が設けられており、キャスクピット5近傍に下層階から各種機器等を搬入する大物搬入口7が設置されている。キャスク除染ピット1は運転床Aのほぼ中央部の原子炉ウェル8から見ると大物搬入口7の手前側に配置されている。この場合、原子炉ウェル8の近傍にキャスク除染ピット1が配置されていることから、運転床Aで大型機器のメンテナンスを実施する際に十分なレイダウンスペースが確保されていないため運転床Aでの作業性が低下していた。
【0004】
図4は運転床Aの1階下に配置された下部フロアBを示す。下部フロアBは主蒸気隔離弁(MSIV)および主蒸気逃し弁(SRV)の保守点検を行うMSIV/SRVラッピング室2を含み、運転床Aの1階下に配置されている。MSIV/SRVラッピング室2は下部フロアBに設置され、そのスペースは約40m×約8m程度を有する。しかし、運転床Aのキャスク除染ピット1下部がMSIV/SRVラッピング室2の天井から張り出しているため、実際の作業に使用できるMSIV/SRVラッピング室2の幅は5m程度と狭く制限され、天井にはモノレール3が直線状に設置され電気チェーンブロック4を設置してメンテナンス作業を実施している。
【0005】
MSIV/SRVラッピング室2の中には、室内仕切り壁11が設置されている。これは上階となる運転床Aにキャスク除染ピット1が設置されており、MSIV/SRVラッピング室に天井から張り出してくるキャスク除染ピット1下部のために作業性が悪い領域を収納スペースとして使用するため、室内を仕切る目的で設置されている。
【0006】
燃料貯蔵容量を増加させるために長手方向寸法が30m程度確保された使用済み燃料プール6を有する原子炉建屋において、従来キャスク除染ピット1は原子炉ウェル8から見て大物搬入口7の手前側に配置されていた。
【0007】
特許文献1には、原子炉格納容器内のSRVを分解する際にクレーンを設置することにより、SRVの搬出時にSRVの山超えを考慮する必要がなくなることから、原子炉格納容器の高さを低くできることが開示されている。しかしMSIV/SRVラッピング室に水平面内で移動可能なXYクレーンを設置する構成については開示されていない。
【0008】
また、特許文献2、特許文献3、特許文献4は、いずれも従来の原子炉建屋においてキャスク除染ピットが原子炉ウェル近傍に設置されていることを開示しているが、キャスク除染ピットを原子炉ウェルから隔てて配置し、レイダウンスペースを確保することについては特に言及していない。
【0009】
本発明の目的は、キャスクピットまたはキャスク除染ピットの移設による運転床定検時の作業効率の向上と、MSIV/SRVラッピング室へのXYクレーンの設置による定検時の作業効率の向上を提供するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−222490号公報
【特許文献2】特開昭63−274897号公報
【特許文献3】特開昭62−118296号公報
【特許文献4】特開平9−5492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来、キャスク除染ピットが使用済み燃料プールのキャスクピットに近接して設置されていることから、運転床で大型機器のメンテナンスを実施する際に十分なレイダウンスペースがなく作業性を阻害している。また、MSIV/SRVラッピング室においては部屋の幅が狭いことから、上部にはモノレールが設置され電気チェーンブロックを設置してメンテナンス作業を実施している。メンテナンス作業の際には、MSIV、SRVをモノレールと直角方向に移動する必要性もあるが、直角方向の移動に上部電気チェーンブロックが使用できないためメンテナンス作業の工数が増加するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、原子炉ウェルと、キャスクピットを有する使用済み燃料プールと、該使用済み燃料プールに近接して設けた大物搬入口と、前記キャスクピットから搬入されたキャスクを除染するキャスク除染ピットと、定期点検作業時に機器の仮置きを行うレイダウンスペースを前記原子炉ウェルと前記使用済み燃料プールの側方に有する運転床を備えた原子炉建屋において、前記キャスク除染ピットと前記大物搬入口を前記運転床の端部に配置し、前記原子炉ウェルと前記使用済み燃料プールの側方に連続したレイダウンスペースを確保したことを特徴とする。
【0013】
また、原子炉建屋において、前記キャスク除染ピットを前記大物搬入口に対し原子炉ウェル側に配置したことを特徴とする。
【0014】
また、原子炉建屋において、前記キャスク除染ピットを前記大物搬入口に対し前記原子炉ウェルと反対側に配置したことを特徴とする。
【0015】
また、原子炉建屋において、前記運転床の階下の下層フロアに配置されたMSIV/SRVラッピングの天井にXYクレーンを設置したことを特徴とする。
【0016】
また、原子炉建屋において、前記MSIV/SRVラッピング室にXYクレーンを設置するスペースを、室内仕切り壁を取り除いて確保したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、原子炉ウェルと、キャスクピットを有する使用済み燃料プールと、使用済み燃料プールに近接して設けた大物搬入口と、キャスク除染ピットと、定期点検作業時に機器の仮置きを行うレイダウンスペースを原子炉ウェルと使用済み燃料プールの側方に有する運転床を備えた原子炉建屋において、キャスク除染ピットと大物搬入口を運転床の端部に配置し、原子炉ウェルと前記使用済み燃料プールの側方に連続したレイダウンスペースを確保したことにより、運転床の十分なレイダウンスペースを確保することができ、機器メンテナンス時の作業性を向上することができる。
【0018】
また、MSIV/SRVラッピング室を広く確保し、MSIV/SRVラッピング室にXYクレーンを設置してMSIV/SRVラッピング室全体をクレーンの稼動範囲とすることで、部屋の任意の位置にMSIV、SRVを移動可能とし作業性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の原子炉建屋の運転床を示す平面図
【図2】本発明の原子炉建屋の下部フロアを示す平面図
【図3】従来の原子炉建屋の運転床を示す平面図
【図4】従来の原子炉建屋の下部フロアを示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態を実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0021】
図1は本発明による原子炉建屋の運転床のレイダウン状況を示す平面図である。使用済み燃料プール6の一部にはキャスクピット5が設置されており、キャスクピット5近傍に大物搬入口7が設置されている。キャスク除染ピット21は、新たに原子炉ウェル8から見て大物搬入口7の反対側に配置されている。この場合、図3の従来の原子炉建屋の運転床と比較すればわかるように、原子炉ウェル8側面に一定の連続した従来より広い約40m×10mのレイダウンスペース29が確保されているために、メンテナンス時の作業性を向上することができる。
【0022】
ここで、図1は大物搬入口7を従来位置のままとし、新たにキャスク除染ピット21を運転床A端部の壁際に移設した場合を示す。大物搬入口7をともに移動してもよい。或いは大物搬入口7を運転床A端部の壁際に移設して、これに近接して原子炉ウェル8側にキャスク除染ピット21を設けても良い。この場合にも一定の連続した従来より広いレイダウンスペース29が確保され、キャスクピット5からキャスク除染ピット21までの移動距離が短くなり運転床Aの床を汚染しないようにする養生作業が容易となる。
【0023】
図2は本発明による原子炉建屋のMSIV/SRVラッピング室12を含む下部フロアBを示す。この場合、キャスク除染ピット21は前述のように原子炉ウェル8から見て大物搬入口7の反対側に配置されている。そのため、キャスク除染ピット1下部とMSIV/SRVラッピング室2は平面的に干渉しない位置に配置されるため、従来例でMSIV/SRVラッピング室2の中にあった室内仕切り壁9が不要となり、これを取り除くことが可能となる。そのため、MSIV/SRVラッピング室2の大きさを約40m×約8m程度確保することができ、MSIV/SRVラッピング室2の天井にXYクレーン13を設置することにより、クレーンにより部屋全体にMSIV、SRVを移動可能として大幅に作業性を向上することができる。
【符号の説明】
【0024】
5…キャスクピット
6…使用済み燃料プール
7…大物搬入口
8…原子炉ウェル
9…室内仕切り壁
21…キャスク除染ピット
22…MSIV/SRVラッピング室
23…XYクレーン
29…レイダウンスペース
A…運転床
B…下部フロア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉ウェルと、キャスクピットを有する使用済み燃料プールと、該使用済み燃料プールに近接して設けた大物搬入口と、前記キャスクピットから搬入されたキャスクを除染するキャスク除染ピットと、定期点検作業時に機器の仮置きを行うレイダウンスペースを前記原子炉ウェルと前記使用済み燃料プールの側方に有する運転床を備えた原子炉建屋において、
前記キャスク除染ピットと前記大物搬入口を前記運転床の端部に配置し、前記原子炉ウェルと前記使用済み燃料プールの側方に連続したレイダウンスペースを確保したことを特徴とする原子炉建屋。
【請求項2】
請求項1に記載された原子炉建屋において、前記キャスク除染ピットを前記大物搬入口に対し原子炉ウェル側に配置したことを特徴とする原子炉建屋。
【請求項3】
請求項1に記載された原子炉建屋において、前記キャスク除染ピットを前記大物搬入口に対し前記原子炉ウェルと反対側に配置したことを特徴とする原子炉建屋。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された原子炉建屋において、前記運転床の階下の下層フロアに配置されたMSIV/SRVラッピングの天井にXYクレーンを設置したことを特徴とする原子炉建屋。
【請求項5】
請求項4に記載された原子炉建屋において、前記MSIV/SRVラッピング室にXYクレーンを設置するスペースを、室内仕切り壁を取り除いて確保したことを特徴とする原子炉建屋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−117946(P2012−117946A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268931(P2010−268931)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)