説明

原子力設備、その廃水処理装置及び廃水処理方法

【課題】原子炉建屋からの廃水から放射性核種や油分を除去し周辺環境への汚染拡散を回避することができる原子力設備、その廃水処理装置及び廃水処理方法を提供する。
【解決手段】原子力設備102からの廃水を浄化処理する廃水処理装置100であって、原子炉建屋102からの廃水から油分を除去する油分除去装置103と、原子炉建屋102からの廃水から放射性核種を除去する放射性核種除去装置104とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力設備、その廃水処理装置及び廃水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子力発電設備等の各種原子力プラントにおいては、タービン駆動用の蒸気を発生させるための核燃料を含む炉心を原子炉圧力容器内に備えている。原子炉圧力容器は格納容器に包囲され、さらに格納容器は原子炉建屋に収容されている(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−221880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原子力設備において原子炉格納容器や圧力容器から排出される廃水には、Cs,Sr,I等の放射性核種が含まれ得るため、そのまま発電所外に排出することはできない。原子力設備外に廃水を排出するには、廃水の放射性核種を規制値以下まで除去する必要がある。また、原子力設備ではタービン等の各種機械設備も設置されているため、廃水には油分も含まれ得る。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、原子炉建屋からの廃水から放射性核種や油分を除去し周辺環境への汚染拡散を回避することができる原子力設備、その廃水処理装置及び廃水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、原子炉建屋からの廃水の油分及び放射性核種を設定値まで低下させた上で放出又は原子力設備で再利用する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、廃水から放射性核種や油分を除去し周辺環境への汚染拡散を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る原子力設備の一例の概念図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る廃水処理装置に備えられた放射性核種除去装置の概略構成図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る廃水処理装置に備えられた放射性核種除去装置の概略構成図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係る廃水処理装置に備えられた放射性核種除去装置の概略構成図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係る廃水処理装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
本実施の形態では、原子炉建屋からの廃水から油分を除去して油分濃度を設定値以下にする工程、原子炉建屋からの廃水から放射性核種を除去して放射性物質濃度を設定値以下にする工程、及び油分及び放射性物質を除去した処理水を放出又は前記原子炉設備で再利用する工程を有する。また、必要に応じて、原子炉建屋からの廃水の塩濃度を設定値以下に下げる工程も有する。
【0011】
図1は本発明に係る原子力設備の一例の概念図である。
【0012】
本発明の原子力設備は、例えば沸騰水型原子力発電設備、加圧水型原子力発電設備や高速増殖炉型原子力発電設備等の原子力プラントであって、原子炉建屋102、及び原子炉建屋102からの廃水を浄化処理する廃水処理装置100を備えている。
【0013】
特に図示していないが、原子炉建屋102には、タービン駆動用の蒸気を発生させるための核燃料を含む炉心を内包した原子炉圧力容器が備えられている。この原子炉圧力容器は格納容器に包囲され、さらに格納容器が原子炉建屋102に収容されている。
【0014】
廃水処理装置100は、廃水から油分を除去する油分除去装置103、及び廃水から放射性核種を除去する放射性核種除去装置104を備えている。本例では、原子炉建屋102の排水系に油分除去装置102を接続し、この油分除去装置102の下流に放射性核種除去装置104を接続することで、油分除去装置103によって原子炉建屋102の廃水から油分を除去した後、油分除去装置103で油分を除去した廃水から放射性核種除去装置104で放射性核種を除去する構成としてある。但し、油分除去装置103と放射性核種除去装置104の前後関係は必ずしもこの態様に限られず、油分除去装置103を放射性核種除去装置104の下流側に設置しても良い。
【0015】
更に、原子炉建屋102が沿岸に建設されている場合には、想定を超える津波等に襲われた場合、又は非常的に原子炉の冷却水として海水を用いた場合等に、原子炉建屋102からの廃水に海水が混入する場合がある。このような場合には、原子炉建屋102からの廃水の塩濃度を下げる塩濃度低減装置105を更に設置する。本例では、塩濃度低減装置105を放射性核種除去装置104の下流に接続し、放射性核種除去装置104で放射性核種を除去した廃水の塩濃度を塩濃度低減装置105で下げる構成としてあるが、油分除去装置103や放射性核種除去装置104との前後関係は必ずしもこの態様に限られない。
【0016】
このとき、廃水が塩濃縮装置105で処理されると、廃水は、低塩濃度水(蒸留液)、高塩濃度残渣(例えばCs,I,Srを除く残留濃縮液)及び気体成分(例えばIを含む排ガス)に分かれる。そこで、塩濃縮装置105を設置する場合には、その下流側に、気体成分から揮発性放射性成分(ヨウ素等)を除去する排気処理装置106、低塩濃度水の塩濃度を更に下げる脱塩処理装置107、及び高塩濃度残渣を固形化処理する固形化処理装置108を並列的に設置する。
【0017】
したがって、本例では、原子炉建屋102からの廃水は油分除去装置103で油分を除去された後、放射性核種除去装置104で放射性核種を除去され、更に塩濃縮装置105において、塩濃度を低下させるとともに、低塩濃度水、高塩濃度残渣と気体成分に分離する。低塩濃度水は、脱塩処理装置107において更に塩濃度を下げた後に海等に放水(又は再使用経路に導かれて原子力設備で再利用)される。また、高塩濃度残渣は、固形化処理装置108においてセメントで固化され、廃棄物処理設備(不図示)にて保管処理される。また、気体成分は、排気処理装置106において揮発性放射性成分を除去された上で大気に放出される。
【0018】
(第1の実施の形態)
図2は本発明の第1の実施の形態に係る廃水処理装置に備えられた放射性核種除去装置の概略構成図である。
【0019】
放射性核種除去装置104Aは、廃水を一時貯留する水槽201、及び水槽201内における廃水の流れをガイドする導水手段301Aを備えている。
【0020】
水槽201は例えば密閉タンク状のものであり、廃水の入口202及び出口203を備えている。また、底部には放射性物質捕捉手段204が設置されている。放射性物質捕捉手段204は、放射性物質を吸着する放射性核種吸着材である。
【0021】
導水手段301Aは、水槽201の廃水の入口202及び出口203の間に設けられ、廃水の流れを放射性物質捕捉手段204に導く役割を果たすものである。本実施の形態の導水手段301Aは、隔壁205と邪魔板206とで構成されている。但し、邪魔板206は省略可能である。
【0022】
隔壁205は、水槽201に対して鉛直に挿入されていて、その先端部(下端部)は放射性物質捕捉手段204に挿し込まれている。但し、隔壁205の先端部と水槽201の底部との間には隙間が確保されており、水槽201の入口202側の空間と出口203側の空間をその隙間で連通させている。隙間は放射性物質捕捉手段204で満たされている。従って、入口202から水槽201に供給された廃水は、出口203から排出されるまでに必ず放射性物質捕捉手段材204を経由する。
【0023】
ここで、放射性物質捕捉手段204の上部に廃水が貯まっていくと、放射性物質捕捉手段204が拡散抵抗となるため、拡散抵抗の少ない隔壁205付近を廃水が通り易くなる場合がある。そこで、本実施の形態では、入口202側の空間では放射性物質捕捉手段204の上部に邪魔板206を水平に設けている。邪魔板206は隔壁205と接していて、入口202を設けた水槽201の側壁との間に隙間を有している。つまり、図2に破線矢印で示したように隔壁205から離れたこの隙間が廃水の通り道となり、放射性物質捕捉手段204中を廃水が通過する距離が確保され、放射性物質捕捉手段204の利用効率が上がる。
【0024】
本実施の形態によれば、上記構成によって排水中の放射性物質を除去することができるので、油分回収装置103と併用することによって原子炉建屋102からの廃水から放射性核種や油分を除去し、周辺環境への汚染拡散を回避することができる。
【0025】
また、放射性物質捕捉手段204の上部に水が存在することで、放射性物質捕捉手段204に蓄積された放射性物質の遮蔽効果もある。
【0026】
(第2の実施の形態)
図3は本発明の第2の実施の形態に係る廃水処理装置に備えられた放射性核種除去装置の概略構成図である。
【0027】
本実施の形態は、第1の実施の形態の放射性核種除去装置104Aの放射性物質捕捉手段の利用効率を更に向上させた実施の形態である。構成的に本実施の形態の放射性核種除去装置104Bが第1の実施の形態と相違する点は邪魔板の構成にあり、本実施の形態の邪魔板207は、入口202側の端部が水槽201の底部側に折れ曲がって垂直に降ろされている。そのため、第1の実施の形態に比べて邪魔板207の入口側の端部と水槽201の底部との間の隙間が狭まり、図3に破線矢印で示したように、邪魔板207の下側に流れ込む際に廃水が水槽201の底部近辺を通過し、その後浮上して出口から排出されることになるので、放射性物質捕捉手段204の利用効率が更に向上する。
【0028】
その他の構成は第1の実施の形態と同様であり、既出図面と同符号を付して説明を省略する。
【0029】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態と比較しても放射性物質の除去効率が向上し、周辺環境への汚染拡散をより効果的に回避することができる。
【0030】
また、放射性物質捕捉手段204の上部に水が存在することで、放射性物質捕捉手段204に蓄積された放射性物質の遮蔽効果もある。
【0031】
(第3の実施の形態)
図4は本発明の第3の実施の形態に係る廃水処理装置に備えられた放射性核種除去装置の概略構成図である。
【0032】
本実施の形態は、第1の実施の形態の放射性核種除去装置104Aの放射性物質捕捉手段の利用効率を更に向上させた実施の形態である。構成的に本実施の形態の放射性核種除去装置104Cが第1の実施の形態と相違する点は隔壁及び邪魔板の構成にあり、本実施の形態の隔壁208は縦に延びる円筒状に構成されており、邪魔板210は邪魔板208の外周部に設けたリング状の板で構成されている。邪魔板210の内周面は隔壁208の外周面に接触しており、邪魔板210の外周面と水槽209の内周面との間には隙間が介在している。
【0033】
その他の点は第1の実施の形態と同様であり、既出図面と同符号を付して説明を省略する。
【0034】
本実施の形態においては、隔壁208の内周通路を介して廃水が供給され、放射性物質捕捉手段204を通って出口203から排出される。このとき、供給された廃水は、隔壁208によって水槽209の底部近傍を通り、さらに邪魔板210によって水槽209の内壁近くを通過するので、水槽209に設けられた放射性物質捕捉手段204を廃水が通過する距離が確保され、放射性物質捕捉手段204の利用効率をより向上させることができる。
【0035】
よって、本実施の形態によれば、第1の実施の形態と比較しても、周辺環境への汚染拡散をより効果的に回避することができる。
【0036】
また、放射性物質捕捉手段204の上部に水が存在することで、放射性物質捕捉手段204に蓄積された放射性物質の遮蔽効果もある。
【0037】
次に幾つかの試験例を実施例として示す。
【実施例1】
【0038】
本実施例は図2の実施の形態において放射性物質捕捉手段204に粒状モルデナイトを用いた試験例である。
【0039】
本実施例では、水槽201に対して重量で20kgの粒状モルデナイトをほぼ均一に充填し、模擬海水を350cc/min供給した。模擬海水には、精製水:96.6wt%、NaCl:2.65wt%、MgCl:0.33wt%、MgSO:0.21wt%、CaSO:0.14wt%、KCl:0.07wt%を混合した溶液を用いた。以降の実施例で用いられる模擬海水は全てこの用液である。
【0040】
模擬海水を放射性核種除去装置に流通し、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)を用いて入口202及び出口203のCs濃度を測定した。入口202中のCs濃度に対する出口203のCs濃度の減少率をCs吸着率とした。
【0041】
比較試験例として、図2の構成において邪魔板206を省略した放射性核種除去装置を用いて同様の条件で試験を実施した結果、比較試験例における模擬海水供給20時間後のCs吸着率は65%であった。
【0042】
それに対し、図2の放射性核種除去装置104を用いた本実施例では、模擬海水供給20時間後のCs吸着率は90%に達した。
【0043】
以上のことから、邪魔板206を供えることで放射性物質捕捉手段204の利用効率が改善されることが実証された。
【実施例2】
【0044】
本実施例は、放射性物質捕捉手段204として、ヨウ素を捕捉するヨウ素捕捉手段を用いた例である。
【0045】
模擬海水50mLにNaI又はIを10−4mol/L(12.7ppm相当)とタービン油を5mL添加した溶液を撹拌(1h)した。該溶液を静置し、模擬海水とタービン油を分離させた後、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)を用いて模擬海水中のヨウ素濃度を測定した。測定結果、模擬海水に投入したIの37%はタービン油に移行していた。NaI由来のIは6%移行した。
【0046】
以上のことから、海水中に含まれるヨウ素の一部が油分(タービン油を含む)に移行し得ることが明らかになった。
【0047】
従って、放射性核種除去装置104とともに油分除去装置103を用いる実施の形態によれば、海水分と放射性核種(ヨウ素)を含む廃水から油分を除去することによって廃水からヨウ素の少なくとも一部を除去することができる。
【0048】
油分除去装置103としては、油水分離フィルターの他、磁気式油水分離装置等を用いることができる。磁気式油水分離装置は、海水分と放射性核種(ヨウ素等)を含む廃水に親油性高分子付着磁性フェライトを添加し、ヨウ素を取り込んだ油分をフェイラトに付着させ、ヨウ素含有油該フェライトを磁石で回収する装置である。
【実施例3】
【0049】
本実施例は、ヨウ素捕捉手段として、(C10)n(n>1)の分子構造を有するD−グルカンを主鎖とする多糖類を用いた例である。この多糖類はいわゆる澱粉であり、例えば、片栗粉やコーンスターチ等を含む。本実施例においては、多糖類として片栗粉及びコーンスターチを用いた。
【0050】
まず、模擬海水中に放射性核種としてI−125を2.2×10−8mol/Lとなるように添加したものを模擬廃水として作成した。そして、この模擬廃水10ccに片栗粉又はコーンスターチを1g添加し、室温で1時間撹拌した。次に撹拌後の模擬廃水を0.45μmフィルターにより濾過し、濾液中のI−125濃度を測定した。この濾液中のI−125濃度から多糖類へのヨウ素吸着率(投入ヨウ素に対する多糖類へのヨウ素移動率)を求めた結果、片栗粉の場合には12%、コーンスターチの場合には11%となった。
【0051】
以上のことから、ヨウ素捕捉手段として(C10)n(n>1)の分子構造を有するD−グルカンを主鎖とする多糖類を添加することで、廃水中のヨウ素を効果的に除除できることが明らかになった。
【実施例4】
【0052】
本実施例は、Pd又はAgの少なくとも一方を含んだ多孔質無機酸化物をヨウ素捕捉手段として用いた例である。
【0053】
Pd/アルミナは、直径3mm程度のγ-アルミナ粒子にPd溶液を含浸法で担持させたものである。Pd溶液としては、硝酸Pd溶液、塩化Pd溶液などがある。本実施例ではアルミナ100gに対して金属管算でPdを1g担持させた。
【0054】
また、模擬海水中に放射性核種としてI−125を2.2×10−8mol/Lとなるように添加したものを模擬廃水として作成した。そして、この模擬廃水10ccにPd/アルミナ触媒を1g又は3gを添加し、室温で1時間撹拌した。次にPd/アルミナ触媒と模擬廃水を0.45μmフィルターにより濾過し、濾液中のI−125濃度を測定した。この濾液中のI−125濃度からPd/アルミナ触媒へのヨウ素吸着率(投入ヨウ素に対するPd/アルミナへのヨウ素移動率)を求めた結果、Pd/アルミナ触媒が1gの場合には54%、3gの場合には83%となった。
【0055】
以上のことから、ヨウ素捕捉手段としてPd/アルミナを用いることにより廃水中のヨウ素を除去できることが明らかになった。
【0056】
Pdは廃水中のヨウ素をPd表面に化学吸着、又は化学反応によりPdIとして捕捉する能力を有する。従って、Pdを担持する担体は多孔性酸化物であれば良く、アルミナ、シリカ、ゼオライト、層間粘土鉱物、チタニア、メソポーラス材料等が例示できる。また、Pd/アルミナの形状は、粒子状、粉末状、ハニカム状などがある。ハニカム状の場合には、コージェライト製ハニカムまたは金属製ハニカム(メタルハニカム)のセル内壁にPd/アルミナを塗布したものがある。
【0057】
放射性核種捕捉手段(例えば、ヨウ素捕捉手段)を用いた廃水からの放射性核種(例えば、ヨウ素)除去方法としては、放射性核種捕捉手段充填層に廃水を流通させる流通式、廃水を貯めたタンク内に放射性核種捕捉手段を分散させた後に廃水と放射性核種捕捉手段を分離する回分式、廃水と放射性核種捕捉手段を同時に反応管に流通させた後に廃水と放射性核種捕捉手段を分離する移動床式等がある。
【実施例5】
【0058】
本実施例は、ヨウ素捕捉手段として、Agイオン含有溶液を添加するAgイオン装置と、ヨウ化銀を回収するヨウ化銀回収装置を用いた例である。すなわち、海水及びヨウ素を含む廃水中にAgイオンを含む溶液を添加し、フィルター等を用いて廃水からヨウ化銀(固体)を分離することで、廃水からヨウ素を除去する例である。従来のヨウ素−Ag反応は親水中で行われており、海水を含む溶液への適用性検討は不十分であった。
【0059】
以下に試験条件を記す。
【0060】
まず、模擬海水中にI−125を2.2×10−6mol/Lとなるように添加して作成した模擬廃水に所定量のAgNOを添加し、室温で1時間撹拌した後に0.45μmフィルターにより濾過した。そして、濾液中のI−125濃度を測定し、ヨウ素除去率を求めた。結果を表1に示す。
【0061】
排水中のNaCl濃度を1×10−5mol/L、AgNO3濃度を0.00058mol/Lとすると、ヨウ素除去率は76%となった。また、Cl濃度、I−(NaI)濃度、AgNO濃度範囲には適性範囲があることが判った。
【0062】
以上のことから、海水を含む廃水中に含まれるヨウ素は本方法により除去できることは明らかである。
【0063】
【表1】

【実施例6】
【0064】
本実施例では、ヨウ素を含む廃水に還元剤(アスコルビン酸、硫酸ヒドラジン)を添加してIOをIに還元した後、Ag又はPdを含むヨウ素吸着材に接触させ、AgIまたはPdIとしてヨウ素を捕捉させた。
【0065】
Ag又はPdを含むヨウ素吸着材としては、ゼオライト、アルミナ、シリカ、チタニアなどの無機酸化物を担体として、Ag又はPdをイオン交換法、浸漬法等で含有させたものを用いた。具体的には、Ag/ゼオライト、Pd/ゼオライト、Pd/アルミナ等である。
【0066】
試験条件は次の通りである。まず、模擬海水(12cc)にヨウ素として、I−を5ppm、IOを5ppm含有させた。このヨウ素含有模擬海水に、アスコルビン酸を25ppm又は硫酸ヒドラジンを20ppm室温で添加した。次にAg/ゼオライトを0.12g添加して1時間攪拌した。
【0067】
比較例試験としてアスコルビン酸及び硫酸ヒドラジンのいずれも添加しない場合を実施した結果、Ag/ゼオライトへのヨウ素吸着率は58%であった。それに対し、還元剤としてアスコルビン酸を用いた実施例の場合、Ag/ゼオライトへのヨウ素吸着率は71%であった。また、還元剤として硫酸ヒドラジンを用いた実施例の場合、Ag/ゼオライトへのヨウ素吸着率は61%であった。
【0068】
比較例試験ではIOがIに還元されていないのに対し、実施例ではIOをIに還元する還元剤が添加されているため、比較例試験より高いヨウ素吸着率が得られたものと解される。
【実施例7】
【0069】
本実施例では、放射性核種とともに廃水をゲル化剤で吸収し、このゲル化剤を乾燥装置(又は自然乾燥)で乾燥させた。この乾燥物は固形化廃棄物として処理することができる。
【0070】
例えば、ゲル化剤として1%アガロース水溶液を用い、放射性核種を含む高温(例えば、80℃)の廃水をゲル化した例を記す。まず、放射性核種を含む高温の廃水を貯留した貯留槽に1%アガロース水溶液を添加した。このアガロース添加廃水をゲル化させた後、室温まで冷却したら凝固した。この凝固物を真空乾燥させ、さらに圧縮することによって放射性核種とアガロース繊維を含んだ減溶固形物が得られた。
【0071】
(第3の実施の形態)
図5は本発明の第3の実施の形態に係る廃水処理装置の模式図である。
【0072】
本実施の形態は、原子炉建屋102と海505との間の地中に放射性核種除去装置104Dを設けた例であり、沿岸にある原子炉建屋102から排出された放射性核種を含む廃水が地中を経由して海505に拡散することを抑制するものである。
【0073】
図5において、原子炉建屋102は岩盤501の上に建っている。原子炉建屋102から流出した放射性核種を含む廃水がピット503へ移行し、さらに埋め戻した地表504の地中を経由して海505に流出し得るケースを想定する。
【0074】
本実施の形態では、埋め戻した地表504と岩盤501の間に放射性物質捕捉手段506を予め充填して放射性核種除去装置104Dを構築しておくことにより、ピット503から移行した廃水が地表504の下部の地中を通って海505に向かう場合には、廃水が海505に到達するまでに廃水中の放射性核種を放射性物質捕捉手段506で捕捉することができる。これにより、廃水中の放射性核種が海505へ流出することを抑制することができる。放射性物質捕捉手段506は先に例示したものを用いることができる。
【符号の説明】
【0075】
100 廃水処理装置
102 原子炉建屋
103 油分除去装置
104 放射性核種除去装置
104A 放射性核種除去装置
104B 放射性核種除去装置
104C 放射性核種除去装置
104D 放射性核種除去装置
106 排気処理装置
107 脱塩処理装置
108 固形化処理装置
201 水槽
202 入口
203 出口
204 放射性物質捕捉手段
205 隔壁
206 邪魔板
207 邪魔板
208 隔壁
210 邪魔板
209 水槽
301A 導水手段
501 岩盤
503 ピット
504 地表
505 海
506 放射性物質捕捉手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力設備からの廃水を浄化処理するものであって、
原子炉建屋からの廃水から油分を除去する油分除去装置と、
原子炉建屋からの廃水から放射性核種を除去する放射性核種除去装置と
を備えたことを特徴とする廃水処理装置。
【請求項2】
原子力設備から廃水を浄化処理するものであって、
原子力設備の排水系に接続し当該原子炉建屋からの廃水から油分を除去する油分除去装置と、
この油分除去装置の下流に接続し当該油分除去装置で油分を除去した廃水から放射性核種を除去する放射性核種除去装置と
を備えたことを特徴とする廃水処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2の廃水処理装置において、
前記放射性核種除去装置は、
原子炉建屋からの廃水を一時貯留するものであって底部に放射性物質捕捉手段を設置した水槽と、
この水槽の廃水の入口及び出口の間に設けられ、廃水の流れを前記放射性物質捕捉手段に導く導水手段と
を備えていることを特徴とする廃水処理装置。
【請求項4】
請求項3の廃水処理装置において、
前記導水手段は、水槽の底部との間に隙間を介在させて前記放射性物質捕捉手段に挿し込んだ隔壁と、この隔壁に接するとともに前記水槽の内壁面との間に隙間が介在するように前記放射性物質捕捉手段の上部に設けた邪魔板とを備えていることを特徴とする廃水処理装置。
【請求項5】
請求項1又は2の廃水処理装置において、
原子炉建屋からの廃水の塩濃度を下げる塩濃度低減装置を備えたことを特徴とする廃水処理装置。
【請求項6】
請求項5の廃水処理装置において、
前記塩濃度低減装置は、前記放射性核種除去装置の下流に接続し当該放射性核種除去装置で放射性核種を除去した廃水の塩濃度を下げる
ことを特徴とする廃水処理装置。
【請求項7】
請求項1又は2の廃水処理装置において、
前記放射性核種除去装置は、ヨウ素を捕捉するヨウ素捕捉手段を有していることを特徴とする廃水処理装置。
【請求項8】
請求項7の廃水処理装置において、
前記ヨウ素捕捉手段が、(C6H10O5)n(n>1)の分子構造を有するD−グルカンを主鎖とする多糖類であることを特徴とする廃水処理装置。
【請求項9】
請求項7の廃水処理装置において、
前記ヨウ素捕捉手段が、Pd又はAgの少なくとも一方を含んだ多孔質無機酸化物であることを特徴とする廃水処理装置。
【請求項10】
請求項7の廃水処理装置において、
前記ヨウ素捕捉手段が、Agイオン含有溶液を添加するAgイオン装置と、ヨウ化銀を回収するヨウ化銀回収装置を備えている
ことを特徴とする廃水処理装置。
【請求項11】
請求項1又は2の廃水処理装置において、
前記放射性核種除去装置は、放射性核種とともに廃水を吸収するゲル化剤を有していることを特徴とする廃水処理装置。
【請求項12】
請求項11の廃水処理装置において、
前記ゲル化剤を乾燥させる乾燥装置を備えたことを特徴とする廃水処理装置。
【請求項13】
請求項11の廃水処理装置において、
前記ゲル化剤がアガロースであることを特徴とする廃水処理装置。
【請求項14】
請求項1又は2の廃水処理装置において、
原子炉建屋からの廃水から生じたガスから放射性物質を除去する排気処理装置と、
原子炉建屋からの廃水から生じた残渣を固形化する固形化処理装置と
を更に備えていることを特徴とする廃水処理装置。
【請求項15】
請求項1の放射性核種除去装置を前記原子炉建屋と海との間の地中に設けたことを特徴とする廃水処理装置。
【請求項16】
廃水から油分を除去する油分除去装置と、
廃水から放射性核種を除去する放射性核種除去装置と
を備えたことを特徴とする原子力設備。
【請求項17】
排水系に接続し廃水から油分を除去する油分除去装置と、
この油分除去装置の下流に接続し当該油分除去装置で油分を除去した廃水から放射性核種を除去する放射性核種除去装置と
を備えたことを特徴とする原子力設備。
【請求項18】
原子炉建屋からの廃水を浄化処理する方法であって、
前記原子炉建屋からの廃水から油分を除去して油分濃度を設定値以下にする工程と、
前記原子炉建屋からの廃水から放射性核種を除去して放射性物質濃度を設定値以下にする工程と、
油分及び放射性物質を除去した処理水を放出又は前記原子炉設備で再利用する工程と
を有することを特徴とする廃水処理方法。
【請求項19】
原子炉建屋からの廃水を浄化処理する方法であって、
前記原子力設備の排水系に油分除去装置を接続し、当該原子炉建屋からの廃水から油分を除去して油分濃度を設定値以下にする工程と、
この油分除去装置の下流に放射性核種除去装置を接続し、当該油分除去装置で油分を除去した廃水から放射性核種を除去して放射性物質濃度を設定値以下にする工程と、
油分及び放射性物質を除去した処理水を放出又は前記原子炉設備で再利用する工程と
を有することを特徴とする廃水処理方法。
【請求項20】
請求項18又は19の廃水処理方法において、
前記原子炉建屋からの廃水の塩濃度を設定値以下に下げる工程を有することを特徴とする廃水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−233749(P2012−233749A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101408(P2011−101408)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)