説明

原子炉格納容器の過圧防止装置およびその運転方法

【課題】苛酷事故で原子炉格納容器内の圧力上昇を抑制する手段を、環境への放射性物質の放出や可燃性ガスの酸素との反応を防止しつつ経済性を考慮して実現すると共に、通常運転時に上部原子炉建屋へ立ち入る作業員のリスクを低減する。
【解決手段】原子炉建屋は、原子炉格納容器3とその領域を囲う付属建屋の上方に上部原子炉建屋9を有し、上部原子炉建屋9の上部に気密空間13を設置し、ウエットウエル5と気密空間13とを、ウエットウエル5内の圧力が上昇し制限値に近づいた場合に開放される破裂板11を介して放出配管14で接続し、気密空間13を隔離弁16を介して真空排気系統の真空ポンプと接続し、真空排気系統の作動および隔離弁16の開動作は、過酷事故発生信号の発生を契機とし、ウエットウエル5内の圧力が破裂板11が開放される圧力に到達する以前に真空ポンプを停止し隔離弁16を閉とする運転を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子力プラントに適用するに好適な原子炉格納容器の過圧防止装置およびその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子力プラントの原子炉建屋は、原子炉を格納する領域を原子炉格納容器(以下、単に格納容器とも称する。)として備え、さらにはその上方に上部原子炉建屋が構築されている。原子炉容器は、その原子炉格納容器内に格納されている。
【0003】
原子炉建屋は、コンクリート製とし、格納容器の境界壁にのみ鋼製ライナーを設置して環境への気密性を高めたコンクリート製格納容器を備えるものや、格納容器の領域と上部原子炉建屋との全領域を自立式の鋼製容器で囲った鋼製格納容器を有するものとが有る。
【0004】
沸騰水型原子力プラントにおいては発生の可能性は非常に小さいが、複数の安全系機器の多重故障を仮定する過酷事故時には、非凝縮性ガスの発生により格納容器の圧力が上昇して制限値に近づく可能性がある。格納容器内の圧力上昇と、放射性物質の環境への放出を抑制する技術として、格納容器の気相をフィルターや触媒層を通過させた後、排気筒から環境へ放出する技術が、下記の特許文献1,2,3にて公知である。これらの技術は、環境への排気の放出を伴うものである。
【0005】
一方、格納容器内が苛酷事故時に過圧状態となった場合、破裂板(ラプチャーディスクとも言う。)の開放により格納容器内の領域から格納容器の上部に位置する上部原子炉建屋に気相を放出して格納容器の健全性を維持し、かつ環境への排気の放出を回避する技術が下記の特許文献4にて公知である。
【0006】
原子炉建屋内に破裂板を用いる類似技術は、他に下記の特許文献5,6,7にて公知である。そのうちの特許文献6には、ガス排気系を備えて、窒素ガスで押し出された空間内のガスを大気中に放出するものが掲載されているが、その空間を真空にするものではない。
【0007】
また、カナダ国の原子力プラントでは原子炉建屋とは別の真空状態とした建屋(以下、単に真空建屋とも称する。)を備え、事故が発生した原子力プラントと真空建屋を連通して、格納容器の圧力を低減する技術が、インターネット上のアドレス「http://www.nucleartourist.com/systems/vacuum1.htm」や「http://www.sciencemag.org/feature/data/energy/pdf/se107800657.pdf」に掲載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−209193号公報
【特許文献2】特開3−77095号公報
【特許文献3】特開平3−77096号公報
【特許文献4】特開2004−85234号公報
【特許文献5】特開2009−150846号公報
【特許文献6】特開平8−334585号公報
【特許文献7】特開2004−333357号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】http://www.nucleartourist.com/systems/vacuum1.htm
【非特許文献2】http://www.sciencemag.org/feature/data/energy/pdf/se107800657.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
コンクリート製格納容器に対する過圧防止技術(以下、単に第1の先行技術とも称する。)では、過酷事故時に非凝縮性ガスが発生するため、格納容器領域にある圧力抑制室の圧力抑制プールの上部空間であるウエットウエル圧力が上昇した場合、放射性物質をフィルター等で除去した後ではあるが、非凝縮性ガスを環境に放出する必要がある。
【0011】
また。上述の破裂板を用いた過圧防止技術(以下、単に第2の先行技術とも称する。)をコンクリート製建屋に適用した場合、環境への漏洩を防止するため、上部原子炉建屋の壁にもライナーを設けるなどの気密性並びに耐圧性の向上が必須であり、コストが増大する。
【0012】
格納容器も原子炉建屋も鋼製として破裂板を組み合わせた既述の第2の先行技術では、放射性物質の環境への放出は回避されるが、上部原子炉建屋の容積増加が必要である。また苛酷事故時に発生する非凝縮性ガスの中には可燃性ガスである水素も含まれており、空気(酸素)が存在する空間に放出する場合に、水素の燃焼を抑制する処理設備が必要となる。
【0013】
一方、原子炉建屋のほかに真空建屋を併設する例では、真空建屋が苛酷事故以外の事象にも対応する設備であり、通常運転中、常に真空状態を維持する必要がある。これは、真空建屋の構造壁に常に外圧が作用している状態であり、構造上好ましくない。さらに、格納容器に直接接続される放出用配管を建屋外に設置するため、外部からのハザードに対する障壁が必要である。
【0014】
従って、本発明で解決しようとする課題は、原子力プラントの苛酷事故時にウエットウエル圧力が上昇して制限値に近づいた場合に、格納容器外の原子炉建屋内にウエットウエルから気相を放出して環境への放出を防止する過圧防止装置について、原子炉建屋のコスト増大を抑制するとともに、放出された非凝縮性ガスに含まれる可燃性ガスが酸素と反応することを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そのような課題は、原子炉建屋の上部原子炉建屋に設置されている走行クレーンの走行空間よりも上方に、原子炉格納容器内の圧力を吸収する気密空間を設け、前記気密空間と原子炉格納容器のウエットウエル内とを破裂板を介して接続し、前記気密空間に真空排気系統を接続してある原子炉格納容器の過圧防止装置を用いることによって解決できる。
【0016】
その過圧防止装置は、原子炉圧力容器内のウエットウエル空間の圧力が上昇する状態を伴う事象が発生した後に、真空排気系統による気密空間内のガスの排気運転を開始し、破裂板が開放される以前に真空排気設備による気密空間内のガスの排気を止めるように真空排気系統を運転して用いられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、過酷事故時にウエットウエルの圧力が非凝縮性ガスの発生により上昇し制限値に近づいた場合、破裂板が開放されてウエットウエルから気相(主として非凝縮性ガス)が気密空間へ放出され、格納容器内の圧力上昇を抑制するが、このとき、放出される気相を受容する気密空間が原子炉通常運転時の常態圧力状態よりも真空側にコントロールされているため、圧力低減の効果が大きく必要とする空間容積が小さいか、あるいは空間の設計圧力が小さくてよいので、この結果、建屋のコスト上昇を抑制できるうえ、さらに、気密空間が真空引きされた空間であるため、酸素濃度も常態よりも低くコントロールされて、気密空間へ放出された非凝縮性ガスに含まれる可燃性ガスの酸素との反応は抑制される乃至は発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施例を適用した原子炉建屋の縦断面図である。
【図2】本発明の第2の実施例を適用した原子炉建屋の縦断面図である。
【図3】本発明の第3の実施例を適用した原子炉建屋の縦断面図である。
【図4】放出空間が常圧と真空での圧力低減効果の違いを比較する空間容積と圧力低減の相関を示すグラフ図である。
【図5】本発明の各実施例における真空排気系の起動及び停止のロジック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施例では、原子炉格納容器の圧力抑制室のウエットウエルの上方にある上部原子炉建屋の上部に気密性と耐圧性のある気密空間を設置するとともに、冷却材喪失事故発生信号を受けて気密空間を真空に排気する真空排気系統を設ける。ウエットウエルの圧力が上昇し制限値に近づいた場合に、ウエットウエル内と気密空間との差圧によってウエットウエルと気密空間との間の流路途中に設けた破裂板が開放されてウエットウエル内と気密空間内とが連通され、ウエットウエルから非凝縮性ガスなどの気相を気密空間に放出する。このとき、気密空間は通常時は常圧であり、事故発生以後前述の信号を受けて真空排気系統を起動し気密空間を真空引きし、破裂板が開放される前には真空引き停止すべく、真空排気系統を停止して非凝縮性ガスの原子炉建屋外の環境への放出を阻止する。
【0020】
非凝縮性ガスを受容する気密空間は、非凝縮性ガスの漏洩が発生しないように、その気密空間は構造壁で囲って形成され、気密性と耐圧性を備える。気密空間の気密性と耐圧性とは以下のごとくである。即ち、気密性とは、気密空間の内外圧差がある場合の気密空間からの漏れ量が低いことを意味し、好ましくは、漏れが一般的に0.5%/day(@2kg/cm2)(圧力差が2kg/cm2の時に空間容積の0.5%/dayしか漏れない)以下とする気密構造を有することを意図している。また、気密空間の耐圧性とは、事故時には気密空間が圧力抑制室などの格納容器の耐圧空間と連通することになるので、好ましくは気密空間が格納容器に付与される設計圧力と同じ圧力に耐える耐圧構造を有することを意図している。
【0021】
このようにすることによって、原子力プラントの過酷事故時に、ウエットウエルからの高圧な圧力を有する気相を気密空間で吸収し、格納容器内の圧力上昇を抑制する効果を発揮する。その上、このとき、ウエットウエルから放出される気相を受容する気密空間が真空であるため、圧力低減の効果が大きくなり、必要とする気密空間の空間容積が小さいか、あるいは空間の設計圧力が小さくてよいという効果を発揮する。この結果、原子炉建屋のコスト上昇を抑制できるうえ、事故時に発生した非凝縮性ガスを気密空間が受け入れる時点では気密空間が真空引きされた後であるから、気密空間へ放出された非凝縮性ガスに含まれる可燃性ガスの酸素との反応は発生しない、或いはその反応を抑制できるので、気密空間の耐圧や可燃性ガスの燃焼等の対策に要するコストを低減できる。
【実施例1】
【0022】
以下に、本発明の第1の実施例を図に基づいて具体的に説明する。図1に示す本発明の第1の実施例は、原子炉容器1を内置する格納容器3および上部原子炉建屋9の全体を気密性且つ耐圧性を有する自立式の鋼製容器で覆って、その外周囲にコンクリート製の外郭壁を構築してある鋼製原子炉建屋に本発明を採用した例示である。
【0023】
図1のように、原子炉格納容器3(以下、単に格納容器3とも称する。)は、原子炉圧力容器1を内置している原子炉格納容器内部構造物2を有する。その格納容器3の一部を構成する圧力抑制プール4とウエットウエル5からなる圧力抑制室の上方には通常運転時立ち入り可能な機器設置エリア6が設けられている。その機器設置エリア6と空間的につながっている上部原子炉建屋には、燃料プール7や機器仮置きプール8が設置されている。
【0024】
このように上部原子炉建屋9や機器設置エリア6や圧力抑制室を鋼製容器10で覆った鋼製原子炉建屋内には、ウエットウエル5内の圧力を受け入れるように破裂板(ラプチャーディスク)11がウエットウエル上方の水平隔壁に設置されている。一方、鋼製容器10で覆われた上部原子炉建屋9は上部と下部に気密性と耐圧性を有する区画壁12で区画されている。
【0025】
また、区画された上部の気密空間13と破裂板11の出口とを放出配管14で連通させている。この場合の区画壁12の例としては、鋼製容器10と同様に鋼板でも良いし、十分な強度を有するコンクリート壁に鋼製ライナーを貼ったものでも良い。図1は区画壁12を鋼板とした実施例である。
【0026】
この実施例では、上部原子炉建屋9に設けられた走行クレーンよりも上方の空間に区画壁12を水平に設置しており、その区画壁12が走行クレーンを用いる上部原子炉建屋内の各作業の障害とはならない。このように上部原子炉建屋での作業に利用されていない走行クレーンの上方の空間を気密空間13として設けているので、上部原子炉建屋での作業性に影響はない。
【0027】
また、該気密空間13には排気用配管15が接続され、その排気用配管15は隔離弁16を介して真空ポンプ(図示せず)や排気処理設備に接続されて真空排気系統が構成されている。そして、ウエットウエル5内の圧力が、破裂板11が破裂するほど高くなる苛酷事故時には、ウエットウエル内の圧力と気密空間13内の圧力との差圧が破裂板11を開放させる差圧の設定圧力となるまでに該気密空間13を真空排気系統で真空引きして真空状態としておく。
【0028】
この実施例において、発生確率は非常に小さいが複数の安全系機器の多重故障を仮定する苛酷事故時には、格納容器内に非凝縮性ガスが発生し、ウエットウエル5に蓄積され、格納容器の圧力が高くなる。この時、真空状態にある気密空間13との圧力差が破裂板11の開放設定値より大きくなり、破裂板11が開放され、ウエットウエルの気相が、気密空間13に放出されて格納容器の圧力を低減し、格納容器3内の圧力上昇を抑制する。
【0029】
このとき、気密空間13が真空であるため、後述するように、気密空間が常圧である場合に比べて圧力低減の効果が大きい。また、該気密空間には酸素が存在しないため、非凝縮性ガス中に含まれる可燃性ガスが反応することもない。
【0030】
この体系における第1の運転方法は、原子炉の通常運転中から、事故の有無にかかわらずに真空排気系統を作動させ隔離弁16を開として、気密空間13の真空状態を常時維持する方法である。この方法は、長期間に亘り気密空間13を形成する構造壁に外圧がかかることを設計上考慮する必要があるとともに、通常時に作業者が立ち入る上部原子炉建屋9に隣接した場所に真空状態の気密空間13が存在することになり、区画壁12が仮に損傷した場合、作業者に被害が発生する危惧がある。よって本発明では、第1の運転方法は採用しなかった。
【0031】
気密空間13が真空状態であることが必要なのは、破裂板11が開放されてウエットウエル5からの気相が放出される直前であり、この状態に達するのは事故後長時間が経過した後である。そこで、第2の運転方法を考えた。
【0032】
それは、原子炉の配管破断事故の事故発生信号(格納容器圧力高,炉水位低など)により、原子力プラントに備えられた安全系が起動されることが当業者間で知られているが、この信号により気密空間13に接続された真空排気系統を起動するとともに隔離弁16を開とする。これにより気密空間13内の気体が真空排気系統による真空引きにて排気されて気密空間13内の圧力と、空気が存在する場合には酸素濃度も低下する。
【0033】
その時の排気は換気空調系などの排気とともにスタックから原子炉建屋外の環境へ放出されるが、放出期間はウエットウエル5から気密空間13への非凝縮性ガスの放出開始の以前であるから、非凝縮性ガスに同伴される放射性物質等の環境への放出はない。
【0034】
そして、気密空間13の圧力が低下した信号やウエットウエル5の圧力が上昇した信号とから破裂板11の破裂する圧力に近い圧力となった時点で隔離弁16を閉とし真空排気系統による気密空間13に対する真空引きを停止する。
【0035】
このような運転方法により、気密空間13が真空となるのは事故発生後から破裂板11の開放直前までの期間に限られ、上部原子炉建屋9に作業員が立ち要っている時期に気密空間13が真空状態でなければならないという状態が回避される。また、破裂板11が開放する時点では、隔離弁16の閉止によって原子炉建屋と隔離弁16の下流側の系統との間が隔離されており、気密空間13に放出された放射性物質や非凝縮性ガスを含んだ気相が原子炉建屋外の環境へ放出されることはない。
【0036】
このようにこの実施例によれば、原子力プラントの過酷事故時に、ウエットウエル5からの高圧な圧力を有する気相を気密空間13で吸収し、格納容器3内の圧力上昇を抑制する効果を発揮する。その上、このとき、ウエットウエル5から放出される気相を受容する気密空間が真空であるため、圧力低減の効果が大きくなり、必要とする気密空間13の空間容積が小さいか、あるいは空間の設計圧力が小さくてよいという効果を発揮する。
【0037】
この結果、原子炉建屋のコスト上昇を抑制できるうえ、事故時に発生した非凝縮性ガスを気密空間13が受け入れる時点が気密空間13が真空引きされた後であるから、気密空間13へ放出された非凝縮性ガスに含まれる可燃性ガスの酸素との反応は発生しない、或いはその反応を抑制できるので、気密空間13の耐圧や防爆等の対策に要するコストを低減できる。
【実施例2】
【0038】
図2に示す第2の実施例は、コンクリート製の原子炉建屋内に、コンクリート製の境界壁に鋼製のライナーを設置した格納容器3を備えている原子炉建屋に本発明を適用した例である。この場合、格納容器3は、上部の一部がコンクリート製ではなく鋼製の蓋になっている部分を含んで、図2中のループ状の太線の枠内が格納容器領域とされている。
【0039】
図2は原子炉建屋の縦断面を示している。その原子炉建屋は、原子炉容器1や圧力抑制プール4およびウエットウエル5などで構成される気密性の高い格納容器3と、その格納容器3を覆うように気密性が相対的に低いコンクリート製の付属建屋が構築された領域とを包含している。上部原子炉建屋9は付属建屋と格納容器3の両領域の上方に構築され、作業員が立ち入れる作業空間とされる。
【0040】
その上部原子炉建屋9には、図示していない天井クレーンが走行する走行路が設けられている。その走行路を走行する走行クレーンを用いて上部原子炉建屋9に立ち入った作業員が各種の作業を行う。その走行クレーンが走行する空間よりも上方には、原子炉建屋の上方を覆うように耐圧性及び気密性のある気密空間13を構造壁17で形成してある。構造壁17の重量は原子炉建屋で支持する。
【0041】
ウエットウエル5と気密空間13とは、ウエットウエル5内の圧力が上昇し制限値に近づいたときに開放される破裂板11を介して放出配管14で連通してある。
【0042】
構造壁17については鋼板でも良いし、十分な強度を有するコンクリート壁に鋼製ライナーを貼ったものでも良い。図2の実施例では、構造壁17として十分な強度を有するコンクリート壁に鋼製ライナーを貼ったものが採用された実施例である。
【0043】
さらに、気密空間13には、排気用配管15が接続され、その排気用配管15が隔離弁16を介して真空ポンプ(図示せず)や排気処理設備に接続されて真空排気系統が構成されている。
【0044】
この実施例におけるその他の事項や運転方法及びその作用は、図1の場合と同様である。本実施例特有の効果は、第1の実施例による効果に加えて、原子炉建屋の上部に設置した気密空間13を形成する構造壁17が、航空機落下などの飛来物の到来といった外部ハザードに対する障壁として兼用可能であり、外部ハザードに対する信頼性が向上する。
【実施例3】
【0045】
図3に示す第3実施例は、第2の実施例と同じくコンクリート製の原子炉建屋の上部に気密空間13を構造壁で設置し、その気密空間13を構成する部材の重量を支える支持壁18を原子炉建屋の外側で、気密空間13と地表面の間に設置してある。
【0046】
この実施例でも、上部原子炉建屋9に図示していない天井クレーンが走行する走行路が設けられ、その走行路を走行する走行クレーンを用いて上部原子炉建屋9に立ち入った作業員が各種の作業を行う。その走行クレーンが走行する空間よりも上方には、原子炉建屋の上方を覆うように耐圧性及び気密性のある気密空間13を構造壁17で形成してある。
【0047】
支持壁18はその構造壁17を支持している。支持壁18は構造壁17の全部の重量を支持するように構築しても良いし、原子炉建屋と支持壁18とで構造壁17の重量を分散支持するように構築しても良い。いずれにしても、構造壁17の全部の重量が原子炉建屋に加わる事は避ける。
【0048】
この支持壁18と原子炉建屋との間の空間を利用して流路19を形成し、流路19の上端を気密空間13に連通してある。この流路19はウエットウエル5内と放出配管14で連通され、その放出配管14の途中には破裂板11が装備されている。破裂板11は第1,2の各実施例と同様に、事故後の気密空間13とウエットウエル5内の圧力の予め定めた差圧によって開放されるように設定されている。この流路19は、少なくとも支持壁18と原子炉建屋の外壁との間を流路とし、ウエットウエル5から気密空間13へ非凝縮性ガスを通すことに用いるので、そのガスが支持壁18の外側環境や原子炉建屋の内側へ漏洩しないように気密性及び耐圧性を高めて仕上げる。
【0049】
また、気密空間13に接続された真空排気系統の排気用配管15も支持壁18と原子炉建屋の外壁との間の空間に配管され、隔離弁16を介して真空ポンプや排気処理設備に接続されている。
【0050】
この実施例における真空排気系統等の運転方法と作用は、図1や図2に示した実施例の場合と同じである。
【0051】
この実施例では、既存の原子力プラントに本発明を適用する場合に、原子炉建屋の上部に設置する気密空間13の構成部材の支持のために上部原子炉建屋9の天井や側壁を形成するコンクリート壁の強度増大を極力必要としないようにするために、その支持を支持壁18だけで、又は支持壁18と上部原子炉建屋9の原子炉建屋天井や側壁に分散して行うようにしている。
【0052】
この実施例では支持壁18を利用してウエットウエル5から気密空間13への非凝縮性ガスの流路を形成したが、そのウエットウエル5から気密空間13への流路を図2に示すようにすべて鋼製の配管としても、その配管を支持壁18と原子炉建屋の間の空間に配管しても機能上問題はない。その他の技術的事項は第2の実施例と同じである。
【0053】
本実施例特有の効果としては、第2の実施例による効果に加えて、地表に出ている原子炉建屋の横面に支持壁18が強度の強い構造壁として配備されることになるから、洪水などの横方向からの外部ハザードに対する障壁が強固になることが掲げられる。
【0054】
次に、本発明の各実施例における気密空間13による圧力低減効果を以下に説明する。
図4に気密空間13の容積をパラメータとし、該気密空間13が常圧である場合と本発明のように真空状態である場合について、苛酷事故時に破裂板11の開放による圧力低減効果を比較して示す。これは典型的な格納容器形状をベースとし、苛酷事故時に非凝縮性ガスがウエットウエル5の7.15倍の体積発生したケースについて、ウエットウエル容積で規格化した気密空間13の容積を横軸に、気密空間13がない場合からの圧力低減効果を縦軸に示している。実線が気密空間を真空とした場合であり、破線が気密空間を常圧とした場合である。
【0055】
図4に示したように、両者とも気密空間13の容積が大きくなるにつれて、圧力低減の効果が大きくなる。これは気相を収容する容積が増大するために、非凝縮性ガスの分圧が相対的に小さくなるためである。また、気密空間13が常圧であるより真空状態であるほうが、圧力低減の効果が大きいのは、常圧では気密空間13にある空気の分圧が開放後の非凝縮性ガスの分圧に寄与するが、真空ではこの寄与がなくなるため圧力低減効果が大きい。
【0056】
この結果、本発明の各実施例のように、破裂板11が開放される直前に気密空間13を真空とする運転では、ある圧力低減効果を得る場合の気密空間13の容積を削減できる。
図中の細線で示した圧力低減効果が約0.47MPaの場合は、気密空間の容積を約25%削減できる。これにより、気密空間13を形成する構造壁を削減し、ひいてはコストを低減できる。
【0057】
図5に、本発明の各実施例で気密空間13を事故発生時に真空状態とする真空排気系統の起動及び停止ロジックの例を示す。図5における上側の表示が起動のロジックであり、下側の表示が停止のロジックを示している。
【0058】
それらのロジックによれば、起動については、原子炉の配管破断事故の事故発生信号(格納容器圧力高,炉水位低など)にタイマーにより時間遅れを持たせた信号、或いは運転員の起動操作(スイッチ入)による信号のいずれかによって真空排気系統の真空ポンプ(図5では排気ポンプと表示した。)を起動するとともに、真空排気系統に設置した隔離弁16を開とする。
【0059】
ここで事故発生信号にタイマーで時間遅れを持たせているのは、設計基準事故をこえる発生頻度の非常に小さい苛酷事故を対象としているので起動までの時間的余裕があることから、誤信号かどうかの判断時間をその余裕を利用して運転員に与えるためである。誤信号と判断された場合は、図5の下段に示したロジック中の運転員の停止操作で起動信号をリセットする。
【0060】
真空排気系統の停止については、図5の下段に示したロジックのように、気密空間13の圧力を測定し、その気密空間13の圧力が十分低下した場合、ウエットウエル5の圧力を測定し、その圧力が破裂板11の開放動作する設定圧力直前まで上昇した場合、スタックからの排気中に放射能が検知(放射能レベル高)された場合、および運転員による停止操作(スイッチ切)のいずれかが発信された場合、真空ポンプ(図5では排気ポンプと表示してある。)を停止するとともに隔離弁16を閉とする。
【0061】
ここで、スタックからの排気中の放射能レベル高の信号を含めているのは、環境への放射性物質の放出を回避することを、より確実にするためである。なお。本発明の各実施例は苛酷事故を対象としたものであり、事故時のマネージメントの一環であることから、制御系の多重化は必須ではない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、沸騰水型原子力プラントにおいて、事故時に原子炉を格納する原子炉格納容器内の圧力が過圧状態となることを防止する設備として利用可能性がある。
【符号の説明】
【0063】
1 原子炉容器
2 原子炉格納容器内部構造物
3 原子炉格納容器
4 圧力抑制プール
5 ウエットウエル
6 機器設置エリア
7 燃料プール
8 機器仮置きプール
9 上部原子炉建屋
10 鋼製容器
11 破裂板
12 区画壁
13 気密空間
14 放出配管
15 排気用配管
16 隔離弁
17 構造壁
18 支持壁
19 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉建屋の上部原子炉建屋に設置されている走行クレーンの走行空間よりも上方に、原子炉格納容器内の圧力を吸収する気密空間を設け、前記気密空間と原子炉格納容器のウエットウエル内とを破裂板を介して接続し、前記気密空間に真空排気系統を接続してある原子炉格納容器の過圧防止装置。
【請求項2】
請求項1において、前記原子炉建屋は前記原子炉格納容器と上部原子炉建屋とを鋼製の容器で覆って成り、前記上部原子炉建屋を区画壁で上下部に区画して前記上部の区画を前記気密空間として形成したことを特徴とする原子炉格納容器の過圧防止装置。
【請求項3】
請求項1において、前記原子炉建屋はコンクリート製の前記原子炉格納容器を包含するコンクリート製の建屋であって、前記原子炉建屋の上部原子炉建屋の上部に前記気密空間を設け、前記気密空間の構成部材を前記原子炉建屋で支持したことを特徴とする原子炉格納容器の過圧防止装置。
【請求項4】
請求項1において、前記原子炉建屋はコンクリート製の前記原子炉格納容器を包含するコンクリート製の建屋であって、前記原子炉建屋の上部原子炉建屋の上部に前記気密空間を設け、前記気密空間の構成部材を前記原子炉建屋の側方に設けた支持壁で支持したことを特徴とする原子炉格納容器の過圧防止装置。
【請求項5】
請求項4において、前記支持壁と前記原子炉建屋との間の空間に、前記気密空間と前記ウエットウエル内と通じる流路を有したことを特徴とする原子炉格納容器の過圧防止装置。
【請求項6】
請求項5において、前記支持壁と前記原子炉建屋との間の空間に、前記真空排気系統への排気用配管が配管されていることを特徴とする原子炉格納容器の過圧防止装置。
【請求項7】
原子炉建屋の上部原子炉建屋に設置されている走行クレーンの走行空間よりも上方に設置された気密空間へ、原子炉格納容器内のウエットウエルから非凝縮性ガスを破裂板の開放によって受容させて原子炉格納容器内の圧力の上昇を抑制する運転方法であって、
前記気密空間に隔離弁を介して接続した真空排気系統を、前記ウエットウエル内の圧力が上昇する状態を伴う事象が発生した後に、前記真空排気系統による前記気密空間の真空引きを行い、前記破裂板が開放される以前に前記隔離弁を閉じて前記気密空間に対する前記真空引きを止めるようにしたことを特徴とする原子炉格納容器の過圧防止装置の運転方法。
【請求項8】
請求項7において、ウエットウエル空間の圧力が上昇する状態を伴う事象の発生によって発せられた信号に基づいて前記隔離弁を開いて前記真空引きを開始し、前記ウエットウエル内の圧力が前記破裂板が開放する値に到達する以前に前記気密空間に対する真空引きを止めるとともに前記隔離弁を閉じるようにしたことを特徴とする原子炉格納容器の過圧防止装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−242184(P2011−242184A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112757(P2010−112757)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】