説明

原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造

【課題】コンクリートに含有する水分に起因した鋼板を面外変形させる背圧を抑制し、かつ供用期間中のコンクリートの観察を可能とする。
【解決手段】高温環境に曝される内側鋼板1と、外側鋼板2、スタッド3、及びコンクリート4からなる鋼板コンクリート構造に、蒸気排出管6及び管開口部5を設置する。蒸気排出管6は小開口部7を有する。コンクリート内部の含有水は、コンクリート温度が100℃前後に達した状態で蒸発し、蒸気となって鋼板1裏面付近に集まり、小開口部7から蒸気排出管6を通って格納容器外側に放出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板コンクリート構造ならびにこれを採用する原子炉格納施設に関するも
のである。
【背景技術】
【0002】
改良型沸騰水型原子炉(ABWR)においては、鉄筋コンクリート製格納容器(RCCV)を採用している。RCCVでは、内面を鋼製のライナで内張りすることにより気密性を保持して、事故時における外部への放射性物質の漏えいを防ぎ、鉄筋コンクリートによって設計上想定される地震、圧力等の荷重に耐える構造となっている。
【0003】
これに対して、近年、RCCVと同等の強度及び耐漏えい機能を有する、鋼板コンクリート構造を適用した原子炉格納容器が提案されている(特許文献1〜4参照)。
【0004】
鉄筋コンクリート構造の場合、鉄筋の設定、コンクリート打設用の型枠工事、及びコンクリートの打設等の現場作業により、工程が長くなる傾向にあった。一方、鋼板コンクリート構造においては、鋼板で密閉された空間内にコンクリートが充填されている。また、鋼板内側に配置された複数のスタッドを介し鋼板がコンクリートと定着し複合的に荷重を負担する事により鉄筋が不要である。さらに、鋼板がコンクリート打設時の型枠の役割も果たすことから、現場における鉄筋の設定工事及び型枠工事が不要となり、建設工期の短縮が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−275368号公報
【特許文献2】特開2008−249329号公報
【特許文献3】特開2007−204953号公報
【特許文献4】特開平9−41489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鋼板コンクリート構造の問題点として、格納容器内部の異常時の熱荷重による変形が挙げられる。これまでも、鋼板の急激な熱膨張により、コンクリートとの熱伸び差が生じ、鋼板が座屈する可能性があることが知られていた。
【0007】
その他にも、異常時の熱によってコンクリートに含有される水分が蒸発し、密閉鋼板内の蒸気が加熱された鋼板裏面とコンクリートの間に集まり、鋼板裏面に背圧が作用して鋼板が当初の設置平面から湾曲して面外変形し、圧縮応力に対する座屈強度の低下を引き起こす可能性があることが分かつている。
【0008】
また、コンクリートは2枚の鋼板の間に充填されるため、打設後はコンクリートの状況を目視で確認できないという問題点もあった。
【0009】
さらに、鋼板に配置されたスタッドは、コンクリート打設後の強度確保が目的であり、コンクリート打設前にはスタッドは強度部材として機能しない。
【0010】
本発明は、コンクリート含有水の蒸発により発生した蒸気を鋼板外に排出し、鋼板に背圧が作用する事を防止または抑制する事を目的とし、さらに供用期間中においてもコンクリート表面の状況を目視確認できる事を目的とし、加えてコンクリート打設前であっても、鋼板の強度を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、互いに間隔をあけて対向して配置された高温環境に曝される内側鋼板と外側鋼板からなる一対の鋼板と、各鋼板のコンクリートと接する面に配置された複数のスタッドと、前記鋼板の間に充填されたコンクリートを有する原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造において、前記外側鋼板に蒸気を排出する排出開口部を設ける事を特徴とする。
【0012】
また、原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造において、前記内側鋼板の裏面に接し、外側鋼板に設けられた管開口部を通じて蒸気をコンクリート外に導く蒸気排出管を有し、前記管開口部は前記蒸気排出管との間に間隔を設けることを特徴とする。
【0013】
また、原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造において、排出開口部と管開口部周辺に板厚増加部を設ける事を特徴とする。
【0014】
また、原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造において、対向する内側鋼板と外側鋼板間を繋ぐ上下方向の隔壁を有し、かつ内側鋼板と外側鋼板に座屈防止のための水平方向補強材を有し、該水平方向補強材にはコンクリート流入用の開口部を有する事を特徴とする。
【0015】
また、原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造において、前記水平方向補強材は、対向する内側鋼板と外側鋼板間を繋ぐ水平方向隔壁からなり、該水平方向隔壁にはコンクリート流入用の開口部を有する事を特徴とする。
【0016】
さらに、上記構造の鋼板コンクリート構造を有する原子炉格納容器をもつ事を特徴とする。
【0017】
さらに、上記構造の鋼板コンクリート構造を採用する原子炉格納容器内部構造物を持つことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の鋼板コンクリート構造は、互いに間隔をあけて対向して配置された高温環境に曝される内側鋼板と外側鋼板からなる一対の鋼板と、各鋼板のコンクリートと接する面に配置された複数のスタッドと、前記鋼板の間に充填されたコンクリートを有する原子炉の鋼板コンクリート構造において、前記外側鋼板に蒸気を排出する排出開口部を設ける事により、背圧による鋼板の面外変形を防止または抑制することが可能となる。また、供用期間中のコンクリートの観察も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】外側鋼板に排出開口部を有する鋼板コンクリート構造の縦断面図である。
【図2】蒸気排出管を有する鋼板コンクリート構造の斜視図である。
【図3】蒸気排出管を有する鋼板コンクリート構造の説明図である。
【図4】外側鋼板の開口部周辺の板厚を増加した鋼板コンクリート構造の縦断面図である。
【図5】水平方向補強材を有する鋼板コンクリート構造の斜視図である。
【図6】水平方向補強材を有する鋼板コンクリート構造の平面図である。
【図7】水平方向隔壁を有する鋼板コンクリート構造の斜視図である。
【図8】水平方向隔壁を有する鋼板コンクリート構造の平面図である。
【図9】円盤状に組立てた放射状隔壁を有する鋼板コンクリート構造の模式図である。
【図10】円盤状に組立てた格子状隔壁を有する鋼板コンクリート構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に実施の形態を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は、実施例1の鋼板コンクリート構造の一部分を示した斜視図である。格納容器の内側鋼板1、外側鋼板2、上側鋼板20、下側鋼板21、スタッド3、及びコンクリート4からなる鋼板コンクリート構造に、排出開口部8を有するものである。排出開口部8は、コンクリート内部の蒸気を排出する役割を持つと同時に、供用期間中のコンクリート表面状態の観察を可能とする。
【0022】
上記の構成により、コンクリート内部の蒸気は徐々に排出開口部8から、密閉された鋼板コンクリート構造の外部へ排出され、特に内側鋼板1が面外変形する事がなくなる。
【実施例2】
【0023】
図2は、鋼板コンクリート構造の一部分を示した斜視図である。内部構造を説明するためコンクリートの図示は省略する。図3は、図1の鋼板コンクリート構造の縦断面図である。図2、図3において、内側鋼板1、外側鋼板2、上側鋼板20、下側鋼板21、後側
鋼板22、スタッド3、及びコンタリート4からなる鋼板コンクリート構造に、蒸気排出管6及び配管貫通用の管開口部5を設置したものである。
【0024】
蒸気排出管6は先端に蒸気を流入させる小開口部7を有する。蒸気排出管6は、鋼板の設置と同時に内側鋼板にあらかじめ接着され、その後鋼板1と2の間にコンクリートを充填する。
【0025】
コンクリートの充填の際には、小開口部7を通じてコンクリートが蒸気排出管6内に流入しないよう、蒸気排出管6から抜き差しが可能な小径パイプ等からなる小開口部閉止治具を使用する。内側鋼板1の温度が上昇すると、コンクリート内部の含有水はコンクリート温度が100℃前後に達した状態で蒸発し、蒸気となって鋼板1裏面付近に集まり、小開口部7から蒸気排出管6を通って、格納容器外側に放出される。
【実施例3】
【0026】
図4は、図3と同様な鋼板コンクリート構造の縦断面図であって、管開口部5ならびに排出開口部8の周辺に板厚増加部9を設け、鋼板厚さを増加させたものである。上記の板厚増加は、開口部により欠損する外側鋼板の強度を補強するためのものである。
【実施例4】
【0027】
図5は、水平方向の補強材を有する鋼板コンクリート構造の一部分を示した斜視図である。鋼板1及び2、スタッド3、コンクリート4、管開口部5、水平方向補強材10、及び上下方向隔壁12からなる。簡単のため、コンクリート及び上下方向の隔壁の図示は省略する。
【0028】
図6は、図5の鋼板コンクリート構造の横断面図であって、補強材10には、コンクリート打設時の施工性を向上させるための開口部11が設けられている。水平方向補強材10は、鋼板に対する補強リングの役割を果たし、打設前後の鋼板の座屈を抑制する。
【実施例5】
【0029】
図7は、水平方向の隔壁を有する鋼板コンクリート構造の一部分を示した斜視図である。鋼板1及び2、スタッド3、コンクリート4、管開口部5、水平方向補強材10、及び上下方向隔壁12からなる。簡単のため、コンクリート及び上下方向の隔壁の図示は省略する。図8は、図7の鋼板コンクリート構造の平面図であって、水平方向隔壁13には、コンクリート打設時の施工性を向上させるための開口部14が設けられている。開口部11及び14は、図に記載の形状にかかわらず、施工性を考慮した任意の形状で良いものとする。水平方向隔壁13は、鋼板に対する補強リングの役割を果たし、打設前後の鋼板の座屈を抑制する。
【実施例6】
【0030】
上記実施例1〜5の鋼板コンクリート構造は、通常は円筒状に組み立てて原子炉格納容器として利用するが、加えて、図9及び図10のように円盤状の垂直平面構造とすることもできる。図9は隔壁を放射状に配置し内部にコンクリートを打設した場合であり、図10は隔壁を格子状に配置し内部にコンクリートを打設した場合である。この時、垂直に設けられる一対の鋼板15に対して、隔壁16が直交して設けられる水平方向隔壁の役割を果たし、隔壁17が上下方向隔壁の役割を果たす。これらにより形成される空間に打設されるコンクリートは省略してある。
【0031】
これら鋼板コンクリート構造は、耐圧・耐漏えい機能を要求される原子炉格納容器に用いることができる。さらに、原子炉格納容器内部構造物に用いることもできる。
【符号の説明】
【0032】
1 内側鋼板
2 外側鋼板
3 スタッド
4 コンクリート
5 管開口部
6 蒸気排出管
7 小開口
8 排出開口部
9 板厚増加部
10 水平方向補強材
11 開口部
12 上下方向隔壁
13 水平方向隔壁
14 開口部
15 鋼板
16、17 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔をあけて対向して配置された高温環境に曝される内側鋼板と外側鋼板からなる一対の鋼板と、各鋼板のコンクリートと接する面に配置された複数のスタッドと、前記鋼板の間に充填されたコンクリートを有する原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造において、
前記外側鋼板に蒸気を排出する排出開口部を設ける事を特徴とする原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造。
【請求項2】
請求項1に記載された原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造において、前記内側鋼板の裏面に接し、外側鋼板に設けられた管開口部を通じて蒸気をコンクリート外に導く蒸気排出管を有し、前記管開口部は前記蒸気排出管との間に間隔を設けることを特徴とする原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載された原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造において、排出開口部と管開口部周辺に板厚増加部を設ける事を特徴とする原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載された原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造において、対向する内側鋼板と外側鋼板間を繋ぐ上下方向の隔壁を有し、かつ内側鋼板と外側鋼板に座屈防止のための水平方向補強材を有し、該水平方向補強材にはコンクリート流入用の開口部を有する事を特徴とする原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造。
【請求項5】
請求項4に記載された原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造において、前記水平方向補強材は、対向する内側鋼板と外側鋼板間を繋ぐ水平方向隔壁からなり、該水平方向隔壁にはコンクリート流入用の開口部を有する事を特徴とする原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造を有する事を特徴とする原子炉格納容器。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の原子炉格納施設の鋼板コンクリート構造を採用する事を特徴とする原子炉格納施設内部構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−163799(P2011−163799A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24007(P2010−24007)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)