説明

原子炉格納設備

【課題】鋼板コンクリート構造を利用した場合にも鋼板の熱伸びを抑制することができる原子炉格納設備を提供する。
【解決手段】原子炉圧力容器1と、原子炉圧力容器1を内部に保持する鋼板コンクリート構造の原子炉格納容器内部構造物2と、原子炉格納容器内部構造物2の上部全面を覆うように設けられた複数のプールである復水貯蔵プール3a,3b、原子炉ウェル7、機器仮置きプール8、及び使用済み燃料プール9と、原子炉格納容器内部構造物2を外側から覆う原子炉格納容器4とを備え、復水貯蔵プール3a,3bの上部に床部35a,35bを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子力プラントの原子炉を格納する原子炉格納設備に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉の一種である沸騰水型原子炉(BWR)には、大別すると、BWR改良の系列(「従来型BWR」とする)と改良型BWR(ABWR)がある。米国で初めて商用発電炉として建設されたBWR(Dresden1号機(1960年7月全出力運転))は、BWR−I型である。このBWR−I型は、加圧水型原子炉(PWR)のような二重サイクルと、乾式原子炉格納容器を有している。一方、BWR−II型以降は、炉心の出力密度を下げることによって小型化され、蒸気ドラムを原子炉容器内に格納することによって単純化し直接サイクル化され、さらに非常用炉心冷却設備(ECCS)が多重化された。従来型BWRは、原子炉格納容器を圧力抑制プール型とすることによって小型化され、ほぼ現在のBWRの構成となった。そして、このBWRには更に改良が重ねられ、ABWRとなった。
【0003】
また、この際、原子炉格納容器の形状は、ドライウェルと圧力抑制プールを分割したもの(MARK−I型PCV)から、PCVドライウェルと圧力抑制プールを一体型とし上下に配置したもの(MARK−II型PCV)を経て、ドライウェルと圧力抑制プールが分割され、円筒形の鉄筋コンクリート製格納容器を有するもの(ABWR型RCCV)に変化してきた。
【0004】
そして、これに更に改良を加えた原子炉格納設備として、原子炉包囲外側容器内に設けられた鋼製の原子炉格納容器と、この原子炉格納容器内に設けられた鉄筋コンクリート構造(RC構造)の原子炉格納容器内部構造物と、この原子炉格納容器内部構造物の内部に設けられた圧力抑制プールと、原子炉格納容器内部構造物と原子炉包囲外側容器の間に形成されるギャップ(間隙)に設けられた外側圧力抑制プールを備えたものが提案されている(特許文献1等参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−85234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の特許文献1の原子炉格納容器内部構造物も含め、RC構造部分を有する原子炉格納設備を構築するには、通常、多量の鉄筋を構築現場に搬入して組み立てる作業(配筋工事)や、コンクリート打設用の型枠の組立て及び撤去作業(型枠工事)を行う必要がある。その結果、どうしても建設工事の工程が長くなってしまい、工期短縮の際の障害となっていた。
【0007】
こうした背景の下、近年、RC構造に代替する構造として、鋼板コンクリート構造(SC構造)が注目されている。SC構造における鋼板は、RC構造における鉄筋に代わる強度部材としてだけでなく、コンクリート打設時の型枠としても利用できる。したがって、SC構造を利用すれば、RC構造と比較して配筋工事及び型枠工事が不要となる分だけ建設工期の短縮を図ることができる。
【0008】
しかし、原子炉格納容器内部構造物をSC構造で構築すると、非常時に内部温度が上昇した場合に、鋼板部分とコンクリート部分の間で熱伸び差が生じ、鋼板部分とコンクリート部分を結合している部材(スタッド)が熱伸びによる応力で塑性変形する懸念がある。
【0009】
本発明の目的は鋼板コンクリート構造を利用した場合にも鋼板の熱伸びを抑制することができる原子炉格納設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明は、上記目的を達成するために、原子炉圧力容器と、この原子炉圧力容器を内部に保持する鋼板コンクリート構造の原子炉格納容器内部構造物と、この原子炉格納容器内部構造物の上部全面を覆うように設けられ、水が張られた複数のプールと、この複数のプールうち少なくとも一部のプールの上部に設けられた床部と、前記原子炉格納容器内部構造物を外側から覆う原子炉格納容器とを備える。
【0011】
これにより、前記複数のプールの自重と前記複数のプールに満たされた水の荷重によって前記原子炉格納容器内部構造物が上方から押さえつけられるので、非常時に前記原子炉格納容器内部構造物の内部温度が上昇しても、前記複数のプールの荷重によって鋼板コンクリート構造の鋼板部の熱伸びを抑制することができる。
【0012】
(2)上記(1)は、好ましくは、前記複数のプールが、前記原子炉圧力容器の上方に設けられた原子炉ウェルと、この原子炉ウェルの隣りに設けられた機器仮置きプールと、前記原子炉ウェルの隣りに設けられた使用済み燃料プールと、その他の部分に設けられ少なくとも1つの復水貯蔵プールとを有し、前記床部が、前記復水貯蔵プールの上部に設けられている。
【0013】
(3)上記(2)は、好ましくは、前記復水貯蔵プールが、複数設けられており、前記原子炉ウェルを中心に対称配置されている。
【0014】
(4)上記(1)は、好ましくは、前記複数のプールが、前記原子炉圧力容器の上方に設けられた原子炉ウェルと、この原子炉ウェルを挟んで互いに対向して配置された機器仮置きプール及び使用済み燃料プールと、前記原子炉ウェル及び前記機器仮置きプール及び前記使用済み燃料プールを挟んで互いに対向して配置され、上部に床部が設けられた2つの復水貯蔵プールとから成る。
【0015】
(5)上記(1)は、好ましくは、前記床部がコンクリート製である。
【0016】
(6)上記(1)は、好ましくは、前記原子炉格納容器内部構造物は、内部側面に断熱材が取り付けられている。
【0017】
(7)また、本発明は、上記目的を達成するために、原子炉圧力容器と、この原子炉圧力容器を内部に保持する鋼板コンクリート構造の原子炉格納容器内部構造物と、この原子炉格納容器内部構造物の上部全面を覆うように設けられ、水が張られた複数のプールと、この複数のプールうち少なくとも一部のプールの上部に設けられた床部と、前記原子炉格納容器内部構造物の内部に設けられた圧力抑制プールと、前記原子炉格納容器内部構造物を外側から覆うように前記原子炉格納容器内部構造物と間隙を介して設けられ、熱伝導性素材で形成された原子炉格納容器と、この原子炉格納容器と前記原子炉格納容器内部構造物の間に設けられ、前記圧力抑制プールと連通している外側圧力抑制プールと、前記原子炉格納容器と間隙を介して設けられた原子炉包囲外側容器とを備える。
【0018】
(8)本発明は、上記目的を達成するために、原子炉圧力容器と、この原子炉圧力容器を内部に保持する内部側面に断熱材が取り付けられている鋼板コンクリート構造の原子炉格納容器内部構造物と、この原子炉格納容器内部構造物の内部に設けられた圧力抑制プールと、前記原子炉格納容器内部構造物を外側から覆うように前記原子炉格納容器内部構造物と間隙を介して設けられ、熱伝導性素材で形成された原子炉格納容器と、この原子炉格納容器と前記原子炉格納容器内部構造物の間に設けられ、前記圧力抑制プールと連通している外側圧力抑制プールと、前記原子炉格納容器と間隙を介して設けられた原子炉包囲外側容器とを備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、原子炉格納設備に鋼板コンクリート構造を利用した場合にも鋼板の熱伸びを抑制することができるので、原子炉格納設備の信頼性及び安全性を確保しつつ建設工期を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0021】
図1は本発明の実施の形態である原子炉格納設備の横断面図(図3中のI-I断面図)であり、図2は図1に示した原子炉格納設備の縦断面図(図3中のII-II断面図)であり、図3は図1中のIII-III断面図である。
【0022】
これらの図に示す原子炉格納設備は、原子炉圧力容器1と、原子炉圧力容器1を保持する原子炉格納容器内部構造物(内部構造物)2と、内部構造物2の上部に設けられた復水貯蔵プール3(3a,3b)と、内部構造物2を外側から覆う原子炉格納容器4と、内部構造物2と原子炉格納容器4の間に設けられた外側圧力抑制プール5と、原子炉格納容器4の外側に設けられた原子炉包囲外側容器6を主に備えている。この原子炉格納設備は、岩盤に設置されたマット30上に設置されている。
【0023】
原子炉圧力容器1は、核分裂によって発生する熱エネルギーで水を沸騰させて蒸気を発生させるもので、ドライヤ(蒸気乾燥器)とセパレータ(気水分離器)(ともに図示せず)等を内包している。原子炉圧力容器1にはタービン建屋(図示せず)と接続された主蒸気配管10が取り付けられており、原子炉圧力容器1内で発生した蒸気は主蒸気配管10を介してタービン建屋に供給されている。
【0024】
原子炉格納容器内部構造物(内部構造物)2は、原子炉圧力容器1を内部に保持するもので、主に鋼板部15とコンクリート部16から成る鋼板コンクリート構造(SC構造)で形成されている。鋼板部15は、内部構造物2の外部側面(原子炉格納容器4側)と内部側面(原子炉圧力容器1側)の両側面に配されており、強度部材としてだけでなく、施工時にコンクリート部16を形成する型枠としても利用される。これにより型枠工事等の手間が削減されるので、鉄筋コンクリート構造(RC構造)を利用する場合と比較して建設工期の短縮を図ることができる。また、鋼板部15とコンクリート部16とはスタッド(結合部材)(図示せず)によって結合されており、このスタッドは内部構造物2の強度を向上させている。なお、このスタッドのピッチ(設置間隔)を小さくすると、各スタッドにかかる応力が低減するので、鋼板部15とコンクリート部16の熱伸び差の発生が抑制される。
【0025】
内部構造物2の内部側面を構成する鋼板部15のさらに内側(原子炉圧力容器1側)には、断熱材17が取り付けられている。この断熱材17は、原子炉圧力容器1内で核分裂を発生させた際に生じる熱エネルギーがSC構造の鋼板部15に伝達することを軽減するもので、内部構造物2の鋼板部15の熱伸びを抑制する。
【0026】
内部構造物2の内部には、原子炉本体基礎18と、ダイアフラムフロア19が設けられている。原子炉本体基礎18は、原子炉圧力容器1を支持しており、マット30の上部に設けられている。ダイアフラムフロア19は、内部構造物2の内部を上部ドライウェル20と下部ドライウェル21及び圧力抑制室22とに分割している。なお、本実施の形態における、原子炉本体基礎18及びダイアフラムフロア19は、RC構造であるが、内部構造物2と同様にSC構造としても良い。SC構造を利用すれば、更なる工期の短縮を図ることができる。
【0027】
上部ドライウェル20は、原子炉圧力容器1の周囲に設けられた空間で、主蒸気配管10と、原子炉圧力容器1に給水する給水配管11と、主蒸気配管10に取り付けられた主蒸気逃がし安全弁12及び主蒸気隔離弁13等が設置されている。
【0028】
下部ドライウェル21は、原子炉圧力容器1の下方に設けられた空間で、原子炉圧力容器1の下部に設けられた制御棒駆動機構25及び原子炉冷却材再循環ポンプ26が主に設置されている。
【0029】
圧力抑制室22は、下部ドライウェル21の周囲に配置された空間で、冷却水が蓄えられた圧力抑制プール27と、この上方に位置するウェットウェル28からなっている。圧力抑制室22は、主蒸気配管10の破断などの事故が発生した場合に上部ドライウェル20に充満する蒸気等が導かれるもので、圧力抑制機能を有している。
【0030】
なお、上記の上部ドライウェル20、下部ドライウェル21、及び圧力抑制室22は、通常運転中は不活性ガス(例えば、窒素)で満たされており、火災等の発生を防止できるようになっている。
【0031】
内部構造物2の上部、すなわち原子炉圧力容器1と上部ドライウェル20の上方には、復水貯蔵プール3a,3bと、原子炉ウェル7と、機器仮置きプール8と、使用済み燃料プール9が設けられている。内部構造物2の上部は、これら複数のプール3,7,8,9によって全面覆われている。これら複数のプール3,7,8,9は、内部構造物2を上方から押さえつける荷重として作用している。
【0032】
原子炉ウェル7は、運転時及び定期検査時に関わらず水が張られた状態(常時水張り状態)で保持されたプールで、原子炉圧力容器1の上方に設けられている。定期検査のために、原子炉圧力容器1内部の検査や、原子炉圧力容器1内の燃料集合体(図示せず)の取替等を行う際には、この原子炉ウェル7を介して、原子炉圧力容器1が格納されている容器の蓋であるPCVヘッド41と、原子炉圧力容器1の蓋であるRPVヘッド42と、RPVヘッド42を保温するRPVヘッド保温材43(図4参照)等を取り外し、原子炉圧力容器1を開放する。
【0033】
機器仮置きプール8は、常時水張り状態に保持されたプールで、原子炉圧力容器1の隣りに設けられている。定期検査時には、原子炉圧力容器1内の蒸気にさらされて線量が高くなっている機器(例えば、ドライヤとセパレータ)が放射線の遮蔽のためにこのプール8内に仮置きされる。一般的な機器仮置きプールは、こうした用途から定期検査時のみに水を張って使用されることが多いが、本実施の形態のものは、より多くの荷重を内部構造物2に掛けるために常時水張り状態となっている。なお、機器仮置きプール8には、プール内に常時張られる水を浄化するために、水浄化設備(図示せず)を設けることが好ましい。
【0034】
使用済み燃料プール9は、常時水張り状態に保持されたプールで、原子炉圧力容器1の隣りに設けられ、かつ、原子炉ウェル7を挟んで機器仮置きプール8と互いに対向するように配置されている。この使用済み燃料プール9には使用済み燃料が保管されており、使用済み燃料から放射される放射線が遮蔽されている。
【0035】
なお、原子炉ウェル7、機器仮置きプール8、及び使用済み燃料プール9は、本実施の形態のように、原子炉ウェル7の隣りに機器仮置きプール8及び使用済み燃料プール9を配置すると良い。このように配置すれば、原子炉圧力容器1内から取り出した機器や使用済み燃料を容易に各プール8,9に移動させることができるからである。また更に好ましくは、原子炉ウェル7を中心に配置し、機器仮置きプール7と使用済み燃料プール9が原子炉ウェル7を挟んで互いに対向するように配置すると良い。このように原子炉ウェル7、機器仮置きプール8、及び使用済み燃料プール9を直線配置すれば、これらの上部を直線移動する燃料取替機を設置することができるので、燃料取替の作業効率を向上させることができるからである。
【0036】
復水貯蔵プール3a,3bは、常時水張り状態に保持された2つのプールで、原子炉ウェル7、機器仮置きプール8、及び使用済み燃料プール9を挟んで互いに対向して配置されている。復水貯蔵プール3a,3bの外部側面は、図1及び図2に示すように、内部構造物2の外部側面を上方にそのまま延長して形成されている。なお、これに限らず、内部構造物2に対して更に荷重を掛けるために、複数のプール3,7,8,9で構成される外部側面の径が内部構造物2の外部側面の径より大きくなるように上記各プール3,7,8,9を設けても良い。
【0037】
また、復水貯蔵プール3a,3bは、復水貯蔵プール3a,3bの上部開口部を覆う蓋のように取り付けられたRC構造の床部35a,35bを有している。床部35a,35bの上面は、原子炉ウェル7、機器仮置きプール8、及び使用済み燃料プール9の水面の上方に位置しており、運転時及び定期検査時に機器が配置されるスペースとして利用される。なお、床部35a,35bは、復水貯蔵プール3a,3bと一体化させて床スラブ状に形成しても良いし、復水貯蔵プール3a,3b用の取り外し可能な蓋として形成しても良い。また、本実施の形態では復水貯蔵プール3a,3bの両方に床部を設けているが、機器配置スペースとして使用する空間が確保できれば、一方の復水貯蔵プール3a(又は3b)に床部35a(又は35b)を設けるだけでも良いし、復水貯蔵プール3a(又は3b)の一部に床部を設けるように構成しても良い。次に、定期検査時における床部35a,35bの使用形態の一例を図4を用いて説明する。
【0038】
図4は本実施の形態である原子炉格納設備における定期検査時のIII-III断面図である。なお、先の図面と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する。
この図において、床部35a,35bには、PCVヘッド41と、RPVヘッド42と、RPVヘッド保温材43と、MSラインプラグ44と、ドライヤセパレータスリング45が載置されている。
【0039】
MSラインプラグ44は、定期検査時に原子炉圧力容器1から主蒸気配管(MS配管)10に水が侵入しないように蓋をするために用いるものである。また、ドライヤセパレータスリング45は、定期検査時に原子炉圧力容器1内のドライヤとセパレータを機器仮置きプール8に移動するために用いるものである。これらMSラインプラグ44及びドライヤセパレータスリング45は、運転中に床部35a(又は35b)に置かれる。定期検査時の床部35a,35bには、PCVヘッド41と、RPVヘッド42と、RPVヘッド保温材43が仮置きされる。この際、燃料交換を行う必要がある場合には、ドライヤセパレータスリング45を利用してドライヤとセパレータを機器仮置きプール8に移動する。
【0040】
図1及び図2に戻り、原子炉格納容器4は、内部で発生する気体に対する耐圧・耐漏洩機能を有し、かつ、コンクリートより良好な熱導電率を有する熱伝導性素材(例えば、鋼)で形成されたドーム状の容器であり、内部構造物2と間隔を介して設けられている。また、原子炉包囲外側容器6は、原子炉格納容器4を包囲するもので、コンクリートで形成されている。
【0041】
原子炉格納容器4と内部構造物2の間隙には環状の空間37が形成されている。内部構造物2の壁面には連通孔38,39が設けられており、環状空間37と圧力抑制室22とを連絡している。連通孔38は、通常時における圧力抑制プール27の水面よりも下方に設けられた孔であり、できるだけ圧力抑制室22の底部(プール底)に近接して配置されている。連通孔39は、通常時における圧力抑制プール27の水面よりも上方に設けられた孔であり、非常時に増水した圧力抑制プール27の水面よりも低い位置に配置されている。通常時において、圧力抑制プール27の冷却水は連通孔38を介して環状空間37の底部に導かれており、この冷却水によって環状空間37の底部に外側圧力抑制プール5が形成されている。外側圧力抑制プール5内の冷却水は、原子炉格納容器4の内周面と接触し、原子炉格納容器4に熱を伝達している。
【0042】
主蒸気配管10が破断する等して非常時になった場合には、上部ドライウェル20内の不活性ガスを含む蒸気の一部が圧力抑制プール27に流入して、圧力抑制プール27の水位を上昇させる。圧力抑制プール27の水位が連通孔39まで上がると、圧力抑制室20内の水は連通孔39を介して環状空間37に流入し、原子炉格納容器4と接触しながら外側圧力抑制プール5で冷却される。このように冷却された水は、その後、連通孔38,39を介して圧力抑制プール27と外側圧力抑制プール5の間を循環しながら対流し、さらに冷却されていく。一方、この際、熱で蒸発した外側圧力抑制プール5の冷却水は、原子炉格納容器4と接触しながら環状空間37の上方に向かって放出される。
【0043】
このように、本実施の形態の原子炉格納設備は、内部構造物2の外周側に設けられた外側圧力抑制プール5と、この外側圧力抑制プール5の外周側に設けられた原子炉格納容器4を備えるいわゆる自然放熱型の原子炉格納設備である。この種の原子炉格納設備は、上記のように外側圧力抑制プール5と原子炉格納容器4を利用して外部へ熱を放出することができるので、想定事故後の原子炉格納容器4内における圧力を効果的に抑制することができる。
【0044】
次に本実施の形態の作用効果について説明する。
【0045】
原子炉格納設備の建設工期の短縮化が求められる背景の下、近年、RC構造に代替する構造として、SC構造が注目されている。しかし、原子炉格納容器内部構造物をSC構造で構築すると、非常時に内部温度が上昇した場合に、鋼板部分とコンクリート部分の間で熱伸び差が生じ、鋼板部分とコンクリート部分を結合している部材(スタッド)が熱伸びによる応力で塑性変形する懸念があった。
【0046】
これに対して、本実施の形態の原子力格納設備は、従来の原子力格納設備では定期検査時のみに水が張られていた機器仮置きプールを常時水張り状態とし、さらに、SC構造から成る内部構造物2の上部フロア(運転床フロア)全面に、常時水張り状態に保持された複数のプール(すなわち、原子炉ウェル7、機器仮置きプール8、使用済燃料プール9、及び復水貯蔵プール3a,3b)を設けている。このように構成した本実施の形態によれば、各プールの自重と各プールに満たされた水の荷重によって内部構造物2を上方から押さえつけることができる。これにより非常時に内部構造物2の内部温度が上昇しても、上記複数のプールの荷重によって鋼板部15の熱伸びが抑制されるので、鋼板部15とコンクリート部16の熱伸び差の発生を抑制することができ、かつ、スタッドが塑性変形することを抑制することができる。したがって、本発明によれば、原子炉格納設備にSC構造を利用した場合にも鋼板部15の熱伸びを抑制することができるので、原子炉格納設備の信頼性及び安全性を確保しつつ建設工期を短縮することができる。また、本実施の形態における復水貯蔵プール3は床部35を有しているため、復水貯蔵プール3として利用している部分に機器配置スペースを確保することができる。
【0047】
また、本実施の形態のような自然放熱型の原子炉格納設備では、原子炉格納容器4の直径の増加を伴う改良は容器4の耐圧能力の低下と建設費の増大をもたらしてしまうため、容器4の直径を保持したままで改良することが好ましい。上記に示した本実施の形態によれば、内部構造物2の上部に複数のプール3,7,8,9を設けるだけで鋼板部15の熱伸びを抑制することができるので、格納容器4の直径を保持したまま耐熱伸び性を向上させることができる。また、復水貯蔵プール3には床部35が設けられているので、復水貯蔵プール3を設けても機器配置スペースを確保することができ、定期検査時の利便性が低減することもない。
【0048】
ところで、本実施の形態の原子炉格納設備は、内部構造物2の内部側面に断熱材17が取り付けられている。このように断熱材17を取り付ければ、非常時に内部構造物2の内部温度が上昇しても鋼板部15に伝わる熱エネルギーが低減されるので、鋼板部15とコンクリート部16の熱伸び差の発生を抑制することができ、かつ、スタッドが塑性変形することを抑制することができる。また、本実施の形態のように、上記の複数のプール3,7,8,9と断熱材17を併用すれば、それぞれの効果が相まって更に顕著な熱伸び抑制効果を奏することができる。
【0049】
なお、復水貯蔵プール3(3a,3b)、原子炉ウェル7、機器仮置きプール8、及び使用済み燃料プール9の容量及び配置であるが、原子炉圧力容器1を中心として各プール3,7,8,9の容量及び配置を対称に構成することが好ましい。このように構成すれば、各プール3,7,8,9内の水によって内部構造物2に均等な荷重が掛かるので、鋼板部15の熱伸びを均等に抑制することができる。また、本実施の形態では5つのプールを設けたが、内部構造物2の上部に設けるプールの個数は、内部構造物2の大きさ等に応じて適宜変更しても勿論良い。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態である原子炉格納設備の横断面図。
【図2】本発明の実施の形態である原子炉格納設備の縦断面図。
【図3】本発明の実施の形態である原子炉格納設備のIII-III断面図。
【図4】本実施の形態である原子炉格納設備における定期検査時のIII-III断面図。
【符号の説明】
【0051】
1 原子炉圧力容器
2 原子炉格納容器内部構造物
3 復水貯蔵プール
4 原子炉格納容器
5 外側圧力抑制プール
6 原子炉包囲外側容器
7 原子炉ウェル
8 機器仮置きプール
9 使用済み燃料プール
15 鋼板部
16 コンクリート部
17 断熱材
27 圧力抑制プール
35 床部
38 連通孔
39 連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器と、
この原子炉圧力容器を内部に保持する鋼板コンクリート構造の原子炉格納容器内部構造物と、
この原子炉格納容器内部構造物の上部全面を覆うように設けられ、水が張られた複数のプールと、
この複数のプールうち少なくとも一部のプールの上部に設けられた床部と、
前記原子炉格納容器内部構造物を外側から覆う原子炉格納容器とを備えることを特徴とする原子炉格納設備。
【請求項2】
請求項1記載の原子炉格納設備において、
前記複数のプールは、前記原子炉圧力容器の上方に設けられた原子炉ウェルと、この原子炉ウェルの隣りに設けられた機器仮置きプールと、前記原子炉ウェルの隣りに設けられた使用済み燃料プールと、その他の部分に設けられ少なくとも1つの復水貯蔵プールとを有し、
前記床部は、前記復水貯蔵プールの上部に設けられていることを特徴とする原子炉格納設備。
【請求項3】
請求項2記載の原子炉格納設備において、
前記復水貯蔵プールは、複数設けられており、前記原子炉ウェルを中心に対称配置されていることを特徴とする原子炉格納設備。
【請求項4】
請求項1記載の原子炉格納設備において、
前記複数のプールは、前記原子炉圧力容器の上方に設けられた原子炉ウェルと、この原子炉ウェルを挟んで互いに対向して配置された機器仮置きプール及び使用済み燃料プールと、前記原子炉ウェル及び前記機器仮置きプール及び前記使用済み燃料プールを挟んで互いに対向して配置され、上部に床部が設けられた2つの復水貯蔵プールとから成ることを特徴とする原子炉格納設備。
【請求項5】
請求項1記載の原子炉格納設備において、
前記床部はコンクリート製であることを特徴とする原子炉格納設備。
【請求項6】
請求項1記載の原子炉格納設備において、
前記原子炉格納容器内部構造物は、内部側面に断熱材が取り付けられていることを特徴とする原子炉格納設備。
【請求項7】
原子炉圧力容器と、
この原子炉圧力容器を内部に保持する鋼板コンクリート構造の原子炉格納容器内部構造物と、
この原子炉格納容器内部構造物の上部全面を覆うように設けられ、水が張られた複数のプールと、
この複数のプールうち少なくとも一部のプールの上部に設けられた床部と、
前記原子炉格納容器内部構造物の内部に設けられた圧力抑制プールと、
前記原子炉格納容器内部構造物を外側から覆うように前記原子炉格納容器内部構造物と間隙を介して設けられ、熱伝導性素材で形成された原子炉格納容器と、
この原子炉格納容器と前記原子炉格納容器内部構造物の間に設けられ、前記圧力抑制プールと連通している外側圧力抑制プールと、
前記原子炉格納容器と間隙を介して設けられた原子炉包囲外側容器とを備えることを特徴とする原子炉格納設備。
【請求項8】
原子炉圧力容器と、
この原子炉圧力容器を内部に保持する内部側面に断熱材が取り付けられている鋼板コンクリート構造の原子炉格納容器内部構造物と、
この原子炉格納容器内部構造物の内部に設けられた圧力抑制プールと、
前記原子炉格納容器内部構造物を外側から覆うように前記原子炉格納容器内部構造物と間隙を介して設けられ、熱伝導性素材で形成された原子炉格納容器と、
この原子炉格納容器と前記原子炉格納容器内部構造物の間に設けられ、前記圧力抑制プールと連通している外側圧力抑制プールと、
前記原子炉格納容器と間隙を介して設けられた原子炉包囲外側容器とを備えることを特徴とする原子炉格納設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−275368(P2008−275368A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116811(P2007−116811)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)