説明

原子炉炉内構造物

【課題】スタンドパイプの補強構造に係る耐震性を向上させ、さらに流動変化による圧損を低減できる。
【解決手段】原子炉圧力容器内のシュラウドヘッド3に植設されるスタンドパイプ2と、このスタンドパイプ2上部に配設された気水分離器1と、スタンドパイプ2を連結する補強板16、17を有する原子炉炉内構造物において、補強板は最外周に配置された第1の補強板16と、この第1の補強板16より内周に配設され高さ方向の幅が第1の補強板16より長い第2の補強板17と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉セパレータのスタンドパイプを補強する原子炉炉内構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
図7に示すように、沸騰水型原子炉(Boiling Water Reactor:BWR)の原子炉圧力容器51には燃料集合体52、原子炉炉内構造物53、図示しない制御棒等が内蔵されている。この原子炉炉内構造物53は、気水分離器55、蒸気乾燥器56、給水スパージャ57、炉心支持板67、上部格子板68等から構成されている。
【0003】
この原子炉炉内構造物53の一部を構成する給水スパージャ57から原子炉圧力容器51内に注入された冷却材は、炉内構造物53の一部である炉心シュラウド58と原子炉圧力容器51との間のダウンカマ部65を流れ、図示しないジェットポンプにより加圧され炉心下部に入り、流れを上向きに変え燃料集合体52から熱をとり二相流となり、気水分離器55、蒸気乾燥器56にて蒸気中の湿分が除去される。
【0004】
なお、ABWR(Advanced BWR)においては、図示しない原子炉冷却材再循環ループとジェットポンプがなく、原子炉圧力容器51に内蔵されたインターナルポンプ(以下、RIPという。)を用いて原子炉冷却材は再循環されている。
【0005】
炉心で発生した蒸気を直接タービンに送り込むのがBWRの特徴となっている。この流れを最も簡単に行うように、原子炉圧力容器51内に気水分離器55と蒸気乾燥器56が設けられている。
【0006】
上記の気水分離器55は可動部品のない軸流式である。シュラウドヘッド60のスタンドパイプ61を上昇してきた気水混合物は静止翼で旋回流となり、遠心分離作用で冷却材は外側、蒸気は内側に分離される。分離された水は、炉心シュラウド58の外側のダウンカマ部65上部の水中に戻され、蒸気は蒸気乾燥器ハウジング内の湿り蒸気プレナムから蒸気乾燥器56へと送られる。
【0007】
この気水分離器55から出てくる蒸気は最大10%の湿分を含んでいる。これを0.1%に抑え、図示しないタービンに送り込むために気水分離器55の上部には蒸気乾燥器56が設けられている。
【0008】
上記の気水分離器であるセパレータ55は、シュラウドヘッド60に植設され蒸気が流れるスタンドパイプ61の上部に設置されている。このセパレータ55より排水された水は、上述のように、シュラウドヘッド60の外周へ流れ、ダウンカマ部65を通り、再循環機構により再び下部プレナムから炉心へと供給される。
【0009】
上記のスタンドパイプ61は補強板66によって補強されているが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
この補強板66について、図8を用いて説明する。この補強板66はセパレータ55から炉心までの再循環流れの途中にある。このように、この補強板66はセパレータ55の下端排水口55aからダウンカマ部65までの補強構造に大きく係わるものである。
【0011】
上記の補強板66は、一例として、高さ方向の幅が76mmあり、隣接する全てのスタンドパイプ61と連結されている。また、この補強板66は、ここでは、その上端がセパレータ55の下端排水口55aより336mm低い位置に設置されている。
【0012】
この補強板66を取り付けることにより耐震性を確保し、また曲がり等による隣接するスタンドパイプ61同士すなわちセパレータ55同士が接触することを防止している。
【0013】
また最近では、図9に示すように、上記の76mm幅の補強板66に加えて、耐震性向上のために452mm幅の補強板67が60°毎に中心から外側に6方向で設置されている。なお、両補強板66、67を区別するために、補強板66を小補強板、補強板67を大補強板と称する。
【0014】
上述のように、従来の原子炉内セパレータのスタンドパイプの補強構造において、耐震性を向上させた場合は、小補強板66が336−108=228mm高い位置、すなわちセパレータ下端排水口55aから108mm低い位置に設置されている。このように、従来のプラントでは、小補強板66の位置や大補強板67の有無に係わる仕様がプラント毎に異なっていた。
【特許文献1】特開昭62−228977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述した従来の原子炉炉内構造物においては、耐震性向上のために小補強板66に加えて、大補強板67を60°毎に挿入する構造が採用されている。この小補強板66の位置や大補強板67の有無に係わる仕様がプラント毎に異なっていた。
【0016】
しかしながら、このように設置された小補強板66及び大補強板67が流動に与える影響についてはこれまで考慮されていない、という課題があった。この流動が変化すれば圧損も変化し、原子炉の出力に影響を及ぼすことになる。また、この圧損が小さいと出力を大きくすることができる。原子炉増出力や将来炉設計においては、より圧損の小さい設計が望ましく、このために流動と補強板の関係を明らかにすることは重要である、という課題があった。
【0017】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、スタンドパイプの補強構造に係る耐震性を向上させ、さらに流動変化による圧損を低減できる原子炉炉内構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、本発明の原子炉炉内構造物においては、原子炉圧力容器内のシュラウドヘッドに植設されるスタンドパイプと、このスタンドパイプ上部に配設された気水分離器と、前記スタンドパイプを連結する補強板を有する原子炉炉内構造物において、前記補強板は最外周に配置された第1の補強板と、この第1の補強板より内周に配設され高さ方向の幅が第1の補強板より長い第2の補強板と、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の原子炉炉内構造物によれば、セパレータの下端排水口から流出する冷却材と前記シュラウドヘッドの外周部に設けられた複数の給水スパージャから供給される冷却材との給水混合を促進することにより、スタンドパイプの補強構造に係る耐震性を向上させ、さらに流動変化による圧損を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る原子炉炉内構造物の実施の形態について、図面を参照して説明する。ここで、同一又は類似の部分には共通の符号を付すことにより、重複説明を省略する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態の原子炉内セパレータのスタンドパイプの補強構造の構成を示す正面図である。
【0022】
本図において、圧損低減効果のあるスタンドパイプ2の補強構造の一例を示す。気水分離器であるセパレータ1は、スタンドパイプ2の上部に設置されている。このスタンドパイプ2は、シュラウドヘッド3の上部に複数立設され蒸気が流れる構造となっている。このスタンドパイプ2の外側面は、補強手段であり給水混合を促進させる手段でもある補強板16、17によって補強されている。また、シュラウドヘッド3の外周部には複数の給水スパージャ6が設けられ冷却材を供給している。
【0023】
上記のセパレータ1により蒸気から分離され排水された水は、シュラウドヘッド3の外周へ流れ、図7に示すダウンカマ部65を通り、再循環機構により再び下部プレナムから炉心へと供給される。すなわち、上記の補強板16、17はセパレータ1から炉心までの再循環流れの途中にある。従って、この補強板16、17は、セパレータ1の下端排水口1aからダウンカマ部65までの補強構造に大きく影響を与える。
【0024】
この補強板16、17を取り付けることにより耐震性を確保し、また曲がり等による隣接するスタンドパイプ2同士すなわちセパレータ1同士が接触することを防止している。
【0025】
この補強板16、17は、少なくとも2種類の補強板に分類される。一つ目は、上記シュラウドヘッド3の周辺に設けられ上記給水スパージャ6から供給される冷却材の流れに影響を受ける第1の補強板である小補強板16である。二つ目は、上記シュラウドヘッド3の中心部に設けられ上記給水スパージャ6から供給される冷却材の流れに影響を受けにくい第2の補強板である大補強板17である。この補強板の構造は、後述する熱流動解析の結果に基づいて、以下のように決定される。
【0026】
上記の第1の補強板である小補強板16は、例えば、高さ方向の幅が76mm以上あり、この小補強板16の下端はセパレータ1の下端排水口1aより360mm以内の位置に設置され、図8(b)に上面図で示すように、隣接する全て又は一部のスタンドパイプ2と連結されている。また、この小補強板16と給水スパージャ6との間隔は、457−360=97mmある。なお、耐震構造の関係から図9(b)に示す配置でも可能となることはもちろんである。
【0027】
また、第2の補強板である大補強板17は、例えば、その下端がセパレータ1の下端排水口1aより430mm以内の位置に設置され、隣接する全て又は一部のスタンドパイプ2と連結されている。この大補強板17と給水スパージャ6との間隔は、457−430=27mmある。なお、第2の補強板が設けられている上記シュラウドヘッド3の中心部とは、ここでは一例として、半径R=2400mmとした。この点については後述する。
【0028】
一方、図10に示すように補強板が給水スパージャノズル6と同じ高さにあると給水流れ8に対して邪魔板になり、この給水流れ8とセパレータ1の下端排水口1aからの蒸気から分離された冷却材の流れ7との給水混合を妨げ、結果として給水混合を悪化させる恐れがあるである。よって、図1に示すように第1の補強板16と第2の補強板17の間には適宜その給水スパージャ6の給水流れを邪魔しない大きさ(セパレータ1の下端排水口1aから360mm〜430mmの間に下端が形成されるように配置)の第3の補強板16aを設けてもよい。
【0029】
このように構成された本実施の形態において、シュラウドヘッド3の外周に近い位置にある小補強板16の下端は給水スパージャノズル6よりも97mm高い位置にあるので、給水スパージャノズル6からの給水流れ8に対して給水混合を促進させる影響を与える。
【0030】
本実施の形態によれば、セパレータ1の下端排水口1aから流出する冷却材と上記シュラウドヘッド3の外周部に設けられた複数の給水スパージャ6から供給される冷却材との給水混合を促進することにより、スタンドパイプ2の補強構造に係る耐震性を向上させ、さらに流動変化による圧損を低減することができる。
【0031】
ここで、セパレータ1の下端排水口1aからの冷却材の水平断面(x−y平面)における水平方向速度の平均流速とセパレータ1の下端排水口1aからの距離との関係について説明する。
【0032】
図2は、原子炉構造物の熱流動解析に係る説明図で、(a)は熱流動解析に係る90°セクタモデルの斜視図であり、(b)は従来構造の補強板を設けた場合の熱流動解析図であり、(c)は本実施例の補強板を設けた場合の熱流動解析図である。
【0033】
図7に示す原子炉構造物に係る90°セクタモデルを使用して熱流動解析を行った。この解析対象は、シュラウドヘッド60からスタンドパイプ61、セパレータ55を含む原子炉圧力容器51内部の領域からダウンカマ部65、RIPへと流れる蒸気と水からなる流体である。この90°セクタモデルの周方向については、境界条件を設定する。補強構造を比較するために、一つ目は従来の補強構造について熱流動解析を行い、二つ目は耐震性向上を図った本実施例の補強構造について熱流動解析を行った。また、ここでは蒸気と飽和水の2流体解析を行った。
【0034】
上記の熱流動解析の結果について、図3及び図4を用いて説明する。図3は、補強板がない場合の水平断面における水平方向速度の平均流速とセパレータ1の下端排水口からの距離の関係を示すグラフであり、図4は、補強板がある場合の水平断面における水平方向速度の平均流速とセパレータ下端排水口からの距離の関係を示すグラフである。
【0035】
図3に示すように、補強板がない場合の水平断面(x−y平面)における水平方向速度の平均流速とセパレータ1の下端排水口1aからの距離の関係を示す。横軸がセパレータ1の下端排水口1aからの距離(mm)であり、縦軸が平均流速(m/s)である。なお、この平均流速は、補強板がない場合の任意の水平方向(x−y方向)断面の流速の面積分値である。
【0036】
図中にある矢印とその両端の線は小補強板の位置を示しており、実線が従来構造の小補強板を示し、点線が本実施例の小補強板を示す。図中において、矢印の右側が下端、左側が上端となる。補強板がない場合は、高温水の水平方向速度は、セパレータ1の下端排水口1aから離れるに従って大きくなっていることが分る。
【0037】
すなわち、セパレータ1の下端排水口1aから排水された高温水は、まず水平方向断面の平均流速が増加していく。水平速度が増加しているのは、高温水がセパレータ1から離れるとシュラウドヘッド3から図1に示すダウンカマ65に向かう流れが強くなるからである。
【0038】
次に図4に示すように、補強板がある場合の水平断面(x−y平面)における水平方向(x−y平面)速度の平均流速とセパレータ下端排水口からの距離の関係を示す。基本的には、図3に示すグラフに従来構造の補強板および本実施例の補強板を設けた場合の水平方向平均流速を加えたグラフである。白抜き四角と実線が従来構造の補強板を設けた場合の冷却材の水平方向平均流速を示し、白抜きひし形と点線が本実施例の補強板を設けた場合の冷却材の水平方向平均流速を示す。上記の両解析共に小補強板の位置における水平方向速度が小さくなっていることが分る。
【0039】
上述のように、両方の解析で小補強板のある位置で水平方向の平均流速が低下している。これは、小補強板が整流効果を有することを示すものである。ここで、両解析結果を更に検討する。
【0040】
本実施例の補強板高さ方向幅76mmの小補強板は、その位置に関わらず、水平方向の平均流速を約0.1〜0.2m/sの間まで低下させる効果がある。つまり、小補強板の位置が低くなれば(図3、図4おいて右側で)水平方向の平均流速の減速幅が大きく、より整流効果が大きくなる。このことは、水平方向の平均流速が小さい領域に小補強板を設置すれば、減速幅は小さくて済むことを示している。
【0041】
一方従来構造の小補強板は、高さ方向幅が76mmであり、その上端がセパレータ1の下端排水口1aから336mm低い位置にある。しかも、図1に示す給水スパージャノズル6の上部より約24mm上側に位置している。このため、従来構造の小補強板は、給水スパージャ6から出る低温水の一部がシュラウドヘッド3の外周近傍に位置する最外郭の小補強板の下部に衝突し、流れが妨げられている。このことは、つまり一部で給水混合が妨げられていることを示すものである。この給水混合が進行しないことは、再循環する水の温度が下がらず、原子炉の増出力をより困難なものにすることを示す。上述のように、従来構造の小補強板より低い位置に小補強板を設置することは、高温水と低温水との給水混合を妨げることになり、好ましくないといえる。
【0042】
上述したように、小補強板の設置位置が高い方が、セパレータ1の下端排水口1aから流出する高温水の流動への影響が小さく、また従来構造の小補強板より低い位置に小補強板を設置することは給水混合の観点から好ましくないことが分かる。
【0043】
換言すれば、圧損低減効果のある補強構造の小補強板は、少なくとも従来構造の小補強板の位置すなわち小補強板の上端がセパレータ1の下端排水口1aから336mmの距離にある位置よりも高い位置に、すなわちセパレータ1の下端排水口1aにより近い位置に設けることが好ましいといえる。
【0044】
また図4において、高温水が従来構造の小補強板を通過するときに水平方向の平均流速が通過前の約40%まで減少しており、小補強板を抜けるまで水平方向の平均流速はほぼ線形に下がり続ける。一方これに対して、実施例の小補強板を通過している間は水平方向の平均流速は大きく変化しない。
【0045】
このことは、セパレータ1の下端排水口1aに近い領域では水平方向の速度が十分に発達しておらず、小補強板で形成されるチャンネルを通過する間の速度変化量は小さくて済むことを示している。つまり、補強板の上端がセパレータ1の下端排水口1aに近ければ、補強板の高さ方向幅を長くとっても圧損にはさほど影響しないと言える。つまり、補強板の上端をより高い配置にすれば、従来構造の小補強板や実施例の小補強板の高さ方向の幅76mmよりも長い補強板を、小補強板のように隣接するスタンドパイプ2を連結する補強構造として採用することが可能であることを示している。
【0046】
しかしながら、耐震性を考慮して設計された現行の76mmという小補強板の高さ方向幅より短くなると強度的に従来構造よりも弱くなってしまう恐れがある。現行の76mmの小補強板の高さ方向幅をより短くすることは、冷却材の圧損を低減しても強度が下がってしまうので、ここでは従来構造よりも耐震性を悪化させないことを考慮し、高さ方向幅は少なくとも従来構造の76mmであるような補強板を採用する。そうすると、セパレータ1の下端排水口1aからの小補強板上端の距離は最大で従来構造の336mmであることが前提となる。
【0047】
本実施の形態によれば、給水スパージャから出る低温水の一部が小補強板の下部に衝突して給水混合が妨げられない位置に小補強板を設けることにより、スタンドパイプの補強構造に係る耐震性を向上させ、また流動変化による圧損を低減でき更に給水混合を妨げないセパレータスタンドパイプの補強構造を得ることができる。
【0048】
すなわち、従来明らかにされてこなかったスタンドパイプ補強構造による圧損への影響を小補強板の位置を従来構造から変えて解析した解析結果から圧損低減の効果のあるスタンドパイプ補強構造を得ることができる。
【0049】
また、小補強板よりも大きい補強板を用いることにより、耐震性を向上させかつ給水混合をできるだけ妨げない補強構造を有する補強を得ることができる。
【0050】
次に、セパレータ1の下端排水口1aからRIP流入口の手前までの圧力分布について説明する。図5は、セパレータの下端排水口からRIP流入口手前における圧力分布を示す説明図で、(a)は従来構造の補強板を設けた場合の圧力分布図であり、(b)は本実施例の補強板を設けた場合の圧力分布図である。
【0051】
図5(a)、(b)を用いて、セパレータ1の下端排水口1aからRIP流入口の手前までの圧力分布について説明する。この圧力分布は、図2〜図4で用いられた熱流動解析の結果から得られた圧力データと差圧の計算から構成されている。
【0052】
図5(a)は、従来構造の補強板を設けた場合の各断面A〜Dの圧力分布を示し、図5(b)は、本実施例の補強板を設けた場合の各断面A〜Dの圧力分布を示し、両場合の各断面は同じ高さになっている。ここで、Aは図7のセパレータ55の下端排水口55aの位置を示し、Bはダウンカマ部65の中段の位置を示し、Cはダウンカマ部65の下段の位置を示し、DはRIP流入口手前の位置を示す。図5(a)及び図5(b)を比較すると、圧力分布そのものには両者で有意な相違は見られない。
【0053】
次に、差圧DPについて検討する。
【0054】
断面Aでの平均圧力をP1、断面Bでの平均圧力をP2とすると、差圧DPは静圧を引くことにより下記の(1)式のように求めることができる。
【0055】
DP=P1−(P2−r gDh)・・・・・(1)
ここで、
r:密度
g:重力加速度
Dh:断面Aと断面B〜Dとの高さの差
ここでは、断面AとBについて説明する。密度rはセパレータ55からの流入条件から734.4kg/m3、重力加速度gは9.8m/s2、高さの差Dhは4096.9mmであるので、それぞれの差圧は以下のように求めることができる。
【0056】
本実施例の補強板を設けた場合は、DP=12929Paとなり、従来構造の補強板を設けた場合は、DP=13202Paとなる。
【0057】
上述のことは、小補強板の位置が336−108=228mm上昇したことにより、13202−12929=273Paだけ差圧が小さくなっており有意な相違が見られる。
【0058】
上記の両解析は補強構造以外の解析条件が同じであるので、差圧はそのまま圧損を意味する。つまりこれは、従来構造の小補強板を設けた場合に比較して、本実施例の小補強板を設けたときの高く設置した場合の方が、圧損低減の効果があることを示している。
【0059】
次に、給水スパージャ6の水平断面における水平方向速度分布について説明する。図6、実施例における給水スパージャノズルの水平断面における水平方向速度分布を示す分布図である。
【0060】
本図において、給水スパージャ6のノズルがある高さの水平断面における水平方向速度分布が示されている。この水平方向速度分布は、図2〜図4で用いられた熱流動解析の結果から得られたものである。白い丸がスタンドパイプ2であり、白い四角が給水スパージャ6のノズルである。濃淡は流速の大きさを表しており、色が濃い程流速が大きいことを示す。給水スパージャ6のノズルからの給水は最大で中心から2495mmの範囲まで入り込んでいる。このように、本実施例では給水スパージャ6からの低温水流れと小補強板の衝突はあまり見られない。
【0061】
上述したように、シュラウドヘッド3の外周では給水スパージャ6から供給される低温水との混合領域がある。この給水混合を妨げるとプラントの効率が低下するため、それは避けなければならない。給水スパージャノズル6はセパレータ1の下端排水口1aから457mmの位置にある。この給水スパージャ6のノズルと従来構造の小補強板との間隔は24mm程度である。このときは、給水スパージャ6からの低温水流れと小補強板の衝突はあまり見られない。すなわち、小補強板が給水流れ8に対して邪魔板になり、この給水流れ8とセパレータ1の下端排水口1aからの冷却材の流れ7との給水混合を妨げる事象はあまり見られない。
【0062】
また図6において、本実施例のように小補強板がノズルより十分高い位置にあれば低温水は十分内部まで流れ込む。本実施例では、小補強板の下端がセパレータ下端排水口から約360mmの位置にある。つまり、最も給水スパージャノズル6に近い外側の小補強板でも下端が本実施例と同程度であれば、給水混合の抑制の影響も小さい。
【0063】
さらに図6より、本実施例のように小補強板が低温水流れに大きく影響しない場合は、低温水は最大で中心から約2495mmの距離まで入り込んでいる。
【0064】
上述の事象から、中心部から2400mm程度までの距離であれば、従来構造のように給水スパージャノズル6と小補強板の下端の距離が24mm程度、つまりセパレータ1の下端排水口1aからの距離が430mm程度あれば給水混合を妨げることにはならない。
【0065】
上述の熱流動解析の結果から、原子炉内セパレータのスタンドパイプの圧損低減効果のある補強構造とは、一例として、下記のようにまとめることができる。その一つは、少なくとも高さ方向幅が76mmある小補強板の上端が、セパレータ下端排水口から336mm以内の距離に配置したものをいう。二つ目は、中心から2400mm以内の距離で補強板の下端がセパレータ1の下端排水口1aから430mm程度に配置したものをいう。三つ目は、最も外周にある小補強板の下端がセパレータ1の下端排水口1aから360mm程度の距離に配置したものをいう。
【0066】
さらに、本発明は、上述したような各実施の形態に何ら限定されるものではなく、補強構造を平板から、上端と下端とが平行でない形状の板材、断面形状が楕円の板や窓付き平板に変更してもよく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施の形態の原子炉内セパレータのスタンドパイプの補強構造の構成を示す正面図。
【図2】原子炉構造物の熱流動解析に係る説明図で、(a)は熱流動解析に係る90°セクタモデルの斜視図、(b)は従来構造の補強板を設けた場合の熱流動解析図、(c)は本実施例の補強板を設けた場合の熱流動解析図。
【図3】補強板がない場合の水平断面における水平方向速度の平均流速とセパレータ下端排水口からの距離の関係を示すグラフ。
【図4】補強板がある場合の水平断面における水平方向速度の平均流速とセパレータ下端排水口からの距離の関係を示すグラフ。
【図5】セパレータの下端排水口からRIP流入口手前における圧力分布を示す説明図で、(a)は従来構造の補強板を設けた場合の圧力分布図、(b)は本実施例の補強板を設けた場合の圧力分布図。
【図6】給水スパージャノズルの水平断面における水平方向速度分布を示す分布図。
【図7】BWRの原子炉および炉内構造物の構造を示す斜視図。
【図8】従来の原子炉内セパレータのスタンドパイプの小補強板の構造を示す説明図で、(a)はその正面図、(b)はその上面図。
【図9】従来の原子炉内セパレータのスタンドパイプの大補強板の構造を示す説明図で、(a)はその正面図、(b)はその上面図。
【図10】従来の原子炉内セパレータのスタンドパイプの補強構造と給水スパージャの関係を示す正面図。
【符号の説明】
【0068】
1…セパレータ、2…スタンドパイプ、3…シュラウドヘッド、4…小補強板、5…大補強板、6…給水スパージャ、7…排水流れ、8…給水流れ、16、16a、17…補強板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器内のシュラウドヘッドに植設されるスタンドパイプと、このスタンドパイプ上部に配設された気水分離器と、前記スタンドパイプを連結する補強板を有する原子炉炉内構造物において、
前記補強板は最外周に配置された第1の補強板と、
この第1の補強板より内周に配設され高さ方向の幅が第1の補強板より長い第2の補強板と、
を有することを特徴とする原子炉炉内構造物。
【請求項2】
前記第1及び第2の補強板は、前記原子炉圧力容器内に配置された給水スパージャの上方に配置され、さらに第1の補強板の下端は前記第2の補強板の下端より上方に設けられて構成されていること、を特徴とする請求項1記載の原子炉炉内構造物。
【請求項3】
前記第1の補強板は、前記スタントパイプを連結する高さ方向幅は76mm以上あり、この第1の補強板の上端は前記気水分離器の下端排水口から336mm以内に設けられて構成されていること、を特徴とする請求項2記載の原子炉炉内構造物。
【請求項4】
前記第2の補強板は、前記シュラウドヘッドの中心部から、前記給水スパージャから供給される冷却材が前記シュラウドヘッドと第1の補強板との間を経由して流れ込む箇所の手前までに配置されて構成されていること、を特徴とする請求項1記載の原子炉炉内構造物。
【請求項5】
前記第2の補強板は、前記シュラウドヘッドの中心部から半径が2400mm以内に設けられて構成されていること、を特徴とする請求項4記載の原子炉炉内構造物。
【請求項6】
前記補強板は、この上端と下端とが平行でない形状の板材で構成されていること、を特徴とする請求項1記載の原子炉炉内構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−171097(P2007−171097A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−372104(P2005−372104)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)