説明

原子炉重大事故に備えたレーザーエネルギー伝送システム

【課題】重大な原子炉の事故などでとくに初動の現場の状況を知るための情報収集、事故対応初期操作を行う遠隔操作のロボットや小型飛翔体を作動させるの必要な電力と、そのロボットなどが立ち往生したり、バッテリーや燃料がなくなったとき、あるいは長時間運用するときに遠隔地から充電する必要があるとき。原子炉の基本的な動作のモニターや必要最低限の制御に必要な電力を供給する方法に関するものである。
【解決手段】原子炉事故用ロボットや小型無人飛翔体あるいは建屋外壁に装備した太陽電池に遠隔位置からレーザーを照射することで電力を供給する。太陽電池はパネルあるいは構造体に太陽電池を複数枚配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重大な原子炉の事故などで、とくに初動の現場の状況を知るための情報収集や事故初動対応操作を行う遠隔操作のロボットや小型飛翔体を作動させるの必要な電力と、原子炉の基本的な動作のモニターや簡単な制御に必要は電力をレーザーによってエネルギーを遠隔からワイヤレス供給する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子炉事故が発生し、高い放射線により、人間が入っていけないような状況のとき、人間に代わって遠隔操作で作業するロボットがこれまでに開発されている。
【0003】
レーザーでエネルギーを伝送する技術は、小型飛行機やヘリコプターなどでの実験も行われ、技術としては確立されているが、電池やガソリン/軽油などの有限のエネルギー供給に対して無限時間の運用を可能にするメリットは強調されてきた。
【0004】
しかし、重大な原子炉事故の場合のように、ロボットや小型飛翔体が強い放射線の領域で被爆すると元へ戻れないところでは、継続的にエネルギーを伝送するにはレーザーしかないことはこれまで指摘されていなかった。
【0005】
また、平成23年3月11日に起きた東日本大震災・東北地方太平洋沖地震により福島第1原発が被害を受けたとき、代替の電源車が近くまでいけない状況が発生しているが、電源供給に放射線で汚染がひどいときや障害物が多くて電源車が近くまでいけないときには、遠隔からワイヤレスでエネルギーを伝送することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/029800号
【特許文献2】特開2008−072474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
重大な原子炉の事故などでとくに初動の現場の状況を知るための情報収集、事故対応初期操作を行う遠隔操作のロボット/小型飛翔体は、強い放射線の領域で活動しなければいけないが、強く被爆するとエネルギー補給(電池交換等)に戻ってこれない。これらに継続してエネルギーを供給しなければいけない。
【0008】
また、ロボットがトラブルを起こして、立ち往生した場合、トラブルシューティングには、継続的なエネルギー供給が必要である。
【0009】
また、多くの場合、原子炉は電力供給を絶たれることが多く、その際代替のエネルギーを供給するために現場に近づけないが、原子炉の基本的な動作のモニターや簡単な制御に必要な電力を速やかに供給できるシステムについて解決するのが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載のレーザーエネルギー伝送システムは、レスキューロボットや小型飛翔体に太陽電池パネルを装備し、遠隔地からレーザーを用いて、ワイヤレスにエネルギーを伝送する。
【0011】
請求項2記載のレーザーエネルギー伝送システムでは、ロボットの活動に支障を来さないように太陽電池はロボット内部の収納できる機構になっており、必要に応じて太陽電池を取り出し、搭載された電池を充電する。
【0012】
請求項3記載のレーザーエネルギー伝送システムでは、ロボットが見通しの悪いところでも活躍できるようにロボットとレーザー送信部との間に、レーザーを反射させてエネルギー光を中継するレーザー光中継ロボットを配置する。
【0013】
請求項4記載のエネルギー伝送システムでは、原子炉重大事故時に、原子炉の基本的な動作のモニターや簡単な制御に必要な最低限の電力を確保するため、原子炉建屋外壁に太陽電池パネルを設置し、該パネルに遠隔にレーザーでエネルギー伝送して内部のロボットや環境モニターにエネルギーを供給する。
【0014】
請求項5記載のエネルギー伝送システムでは、レーザーエネルギー伝送システムの送信元であるレーザー発振システムは、移動が容易な車搭載の形態をとっている。
【0015】
請求項6記載のエネルギー伝送システムでは、原子炉重大事故時には、原子炉全体の電力が失われているにもかかわらず、現場に近づけないことが多く、また、請求項4にある平常時に用意しておいた太陽電池パネルが使用できなくなった場合に対応するため、原子炉壁各所に原子炉緊急電源導入端子を複数個装備し、太陽電池パネル付きヘリコプターで近傍に着地して、太陽電池出力を該導入端子に遠隔操作で接続し、遠方からレーザーを送信して電力を供給する。
【0016】
請求項7記載のエネルギー伝送システムでは、請求項1〜3に記載したロボットや小型飛翔体が不具合で動かなくなった場合に、トラブルシューティングを行うために。トラブルシューティング用の電池をもった小型の電源装置を内蔵し 該電池を充電する小型太陽電池パネルを複数個どの方向からもレーザーを受信できるように装備し、該ロボットや小型飛翔体が不具合を起こして立ち往生したときに、トラブルシューティングを行うための電力を遠方からレーザーで該小型太陽電池パネルへレーザーで伝送する。
【発明の効果】
【0017】
原子炉災害で被爆量の大きいところで活動したロボット/小型飛翔体は、汚染されているため、バッテリーや燃料の補給に戻ってこれない。
【0018】
離れたところからエネルギーを送ることで、汚染物質を持ち帰ることなく、長時間の運用が可能となり、またロボットが立ち往生するなどの緊急時の最低限の電源を確保することができる。
【0019】
とくに初動時に重要になる原子炉の基本的な動作のモニターや簡単な制御に必要は電力が停電で供給が止まり、代替の電源も原子炉に近づけなくて供給できないときに遠隔から供給が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は事故を起こした原子炉の建屋内で、太陽電池パネルを搭載した原子炉探査ロボットにレーザーエネルギー伝送を行っている運用例である。
【図2】図2は収納式太陽電池パネルを搭載した原子炉探査ロボットの例である。
【図3】図3は事故を起こした原子炉の建屋内で、見通しのきかない領域で活躍するロボットへレーザーを中継する、中継反射ミラーを利用したレーザーエネルギー伝送型の原子炉探査ロボットの運用例である。
【図4】図4はレーザーエネルギー伝送型のラジコンの小型ヘリコプターを、事故を起こした原子炉の上空で運用している例である。
【図5】図5は太陽電池を建物外壁に設置し、建物外部からレーザーエネルギー伝送を行い、建物内部の環境センサーや屋内カメラへエネルギー伝送する運用例である。
【図6】図6は大型太陽電池パネルをラジコンヘリコプターで、建屋屋上に移送・配置し、レーザーエネルギー伝送にて、屋内に給電するシステムの例である。
【図7】図7は小さな太陽電池パネルを機体に複数枚配置し、どの方向からもレーザーエネルギー伝送が可能な原子炉探査ロボットの例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態の実施例について説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は、原子炉周辺や建屋1を探査する、バッテリーによって駆動している探査ロボットに関するものである。
【0023】
その活動限界はバッテリーのみの場合、そのバッテリー容量に依存している。バッテリー容量を気にしないで活動し続けるには外部からエネルギーを供給する必要がある。
【0024】
そこで太陽電池パネル5とバッテリーを搭載した探査ロボット4に遠隔地からレーザー装置2の照射によりエネルギー伝送を行う。
【0025】
太陽電池パネル5にレーザー光3が照射されると太陽電池パネル5は発電し、その電力をバッテリーに蓄電、探査ロボット4を運用する。
【0026】
よってバッテリー残量を気にしないで長時間運用が可能となる。
【0027】
太陽電池パネル5には追尾用のコーナーキューブアレイを取り付け、エネルギー伝送用のレーザー光3の一部がコーナーキューブアレイによって反射し、その光を追尾することで、探査ロボット4の動きに合わせてエネルギー伝送を行うことができる。
【0028】
図2は図1の探査ロボット4の太陽電池パネルが収納することが出来る収納式太陽電池パネルを搭載した場合である。
【0029】
通常はロボットの活動に支障を来さないように収納されているが、必要に応じて展開し、レーザーエネルギー伝送を受けることができる。
【0030】
図3は遠隔操作あるいは自動でミラー角度を変更可能な中継反射ミラー7を用い、探査ロボット4にレーザーを届けるシステムである。
【0031】
探査ロボット4は通路を曲がったり、物陰に隠れるような場合も考えられる。
【0032】
この場合は、探査ロボット4に中継反射ミラー7を複数個搭載しておき、曲がり角に来るたびに、探査ロボット4自ら中継反射ミラー7をセットしていく。
【0033】
中継反射ミラーは自走式の小型遠隔操作ロボットに搭載して運用することも可能である。
【実施例2】
【0034】
ラジコンの小型ヘリコプターや小型飛行機などの小型飛翔体に太陽電池パネルを搭載し、遠隔地からレーザー照射によりエネルギー伝送を行うことで、レーザーが照射されている間の飛行が可能となる。
【0035】
図4は小型ヘリコプター8へレーザーエネルギー伝送を行いながら上空から原子炉事故の探査を行っている様子である。
【0036】
小型ヘリコプター8は図1の探査ロボット4と同じように太陽電池パネル5とバッテリー、追尾用のコーナーキューブアレイ、無線の搭載カメラ8を搭載する。
【0037】
小型ヘリコプター8はラジコンにより飛翔しながら、常時あるいは必要に応じ、移動可能な車載レーザー装置10によってエネルギー伝送を受け、搭載カメラ9で事故現場の撮影を行う。
【0038】
小型ヘリコプター8がレーザーから外れても、搭載しているバッテリーにより、ある程度の飛行が可能であり、再びレーザー光3によるレーザーエネルギー伝送を受ける領域まで戻ることが出来る。
【実施例3】
【0039】
図5は原子炉の建屋1の外壁に原子炉建屋外壁用太陽電池パネル11を設置し、外部の車載レーザー装置10から建屋1へとエネルギー伝送するシステムである。
【0040】
車載レーザー装置9から照射されたレーザー光3によって原子炉建屋外壁用太陽電池パネル11は24時間発電することができる。
【0041】
発電した電力は建屋1内にて、放射線量・気圧・温度・湿度などを計測して外部にデータ伝送することができる環境センサー12や、屋内の様子を撮影して外部に画像伝送できる屋内固定カメラ13に給電される。
【実施例4】
【0042】
図6は建屋の屋上に大型の太陽電池パネルをラジコンヘリコプターで空輸し、屋上に着陸した状態でレーザーエネルギー伝送を受けるシステムである。
【0043】
まず、屋上には原子炉緊急電源導入端子16をあらかじめ設置しておく。
【0044】
そして原子炉事故が起きた場合、外部から電源供給用太陽電池パネル15を搭載した電源供給用ヘリコプター14を屋上に着陸させて、遠隔操作あるいは自動にて原子炉緊急電源導入端子16と接続する。
【0045】
この電源供給用太陽電池パネル15に車載レーザー装置10からレーザー光3を照射し、エネルギー伝送を行う。
【0046】
電源供給用太陽電池パネル15で発電された電力は実施例3と同じく、建屋1内に設置されている放射線量・気圧・温度・湿度などを計測して外部にデータ伝送することができる環境センサー12や、屋内の様子を撮影して外部に画像伝送できる屋内固定カメラ13に給電される。
【0047】
図7は探査現場で立ち往生してしたときにも対応可能な探査ロボットのシステムである。トラブルシーティング対応型探査ロボット17は、立ち往生してしまったとき、その場から緊急に抜け出すときに使用するトラブルシーティング用電池を内蔵している。
【0048】
この内臓電池はトラブルシーティング対応型探査ロボット17の表面に複数個配置しているトラブルシーティング用電池充電用小型太陽電池パネル18によって充電可能である。
【0049】
トラブルシーティング用電池充電用小型太陽電池パネル18は機体のいたるところに配置してあるのでトラブルシーティング対応型探査ロボット17の姿勢がどのようになっていても、どの方向からもレーザー光を受け、発電が可能である。
【0050】
どうしてもその場から脱出できない場合は、充電した電力を使って、連続あるいはある時間ごとにデータ計測等を行い、データ送信することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0051】
原子力発電所の重大事故は、社会へ大きな影響をもたらすので、本発明のようなとくに初動時に活躍するレーザーエネルギー伝送システムは、レスキューロボットや小型飛翔体とともに必ず装備しておくものであり、産業状の利用価値は、大変大きい。
【符号の説明】
【0052】
1 建屋
2 レーザー装置
3 レーザー光
4 探査ロボット
5 太陽電池パネル
6 収納式太陽電池パネル
7 中継反射ミラー
8 小型ヘリコプター
9 搭載カメラ
10 車載レーザー装置
11 原子炉建屋外壁用太陽電池パネル
12 環境センサー
13 屋内固定カメラ
14 電源供給用ヘリコプター
15 電源供給用太陽電池パネル
16 原子炉緊急電源導入端子
17 トラブルシーティング対応型探査ロボット
18 トラブルシーティング用電池充電用小型太陽電池パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉重大事故時に情報収集や簡単な制御動作をするレスキューロボットや小型飛翔体が放射能汚染でエネルギー補給に戻れなくなったときに、レスキューロボットや小型飛翔体に太陽電池パネルを装備し、遠隔地からレーザーでエネルギーを伝送する、レーザーエネルギー伝送システム。
【請求項2】
請求項1記載の発明において、ロボットの活動に支障を来さないように太陽電池はロボット内部に設置あるいは収納できる機構になっており、搭載された電池を適時充電するレーザーエネルギー伝送システム。
【請求項3】
請求項1記載の発明において、ロボットが見通しの悪いところで活躍できるようにレーザーをロボットとレーザー送信部との間で、レーザーを反射させてエネルギー光を中継する中継反射ミラーを利用する、レーザーエネルギー伝送システム。
【請求項4】
原子炉重大事故時に、原子炉の基本的な動作のモニターや簡単な制御に必要な最低限の電力を確保するため、原子炉建屋外壁に太陽電池パネルを設置しておき、離れた場所からレーザーをパネルに送信し、電気エネルギーに変えて、内部のロボットや環境モニターに建屋外部から遠隔にエネルギー伝送する、レーザーエネルギー伝送システム。
【請求項5】
請求項1〜4記載の発明においてレーザーエネルギー伝送システムのレーザー発信元のレーザー発振器が車搭載になっているシステム。
【請求項6】
原子炉重大事故時には、原子炉全体の電力が失われているにもかかわらず、現場に近づけないことが多く、また、請求項4にある平常時に建屋外壁に用意しておいた太陽電池パネルが使用できなくなった場合に対応するため、原子炉壁各所に原子炉緊急電源導入端子を複数個設置し、太陽電池パネル付きヘリコプターで近傍に着地して、太陽電池出力を該導入端子に接続し、遠方からレーザーを送信して電力を供給する、レーザーエネルギー伝送システム。
【請求項7】
請求項1〜3に記載したロボットや小型飛翔体のトラブルシューティング用の電池をもった小型の電源装置を内蔵し 該電池を充電する小型太陽電池パネルを複数個どの方向からもレーザーを受信できるように装備し、該ロボットや小型飛翔体が不具合を起こして立ち往生したときに、遠方からレーザーで該小型太陽電池パネルへレーザーで電力を伝送し、トラブルシューティングする、レーザーエネルギー伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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