説明

原子間力顕微鏡用カンチレバーとその製造方法

【目的】 先端が鋭利でアスペクト比の高い急峻な形状の探針と、常に一定のバネ定数を有しながらその一端に探針を支える片持つ梁を具備する原子間力顕微鏡用カンチレバー及びそ製造方法を提供すること。
【構成】 充分な機械的強度を有するシリコン単結晶母材11と、母材に一端が接合されたシリコン酸化膜からなる片持ち梁12と、該片持ち梁12上の母材11に接合された一端とは反対側の一端に形成された鋭い先端を有するコーン形探針とを具備し、且つ全表面が導電性薄膜で覆われている。また、片持ち梁を両側から囲むように母材から加工され且つ充分な強度を有する片持ち梁を機械的破損から防ぐための保護板を具備する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は原子間力顕微鏡用カンチレバーとその製造方法に関し、原子レベルの表面形状測定法として急速に普及しつつある、走査型原子間力顕微鏡(AFM)に不可欠な探針を組み込んだカンチレバーとその製造方法に関するもので、単にAFMのみならず最近注目されてきている走査型マックスウェルストレス顕微鏡(SMM)に対して特に有効なカンチレバーとその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来技術】これまでに市販或いは発表されているこの種の原子間力顕微鏡用カンチレバーを整理すると図6の(a),(b),(c)に示す3種類である。図6の(a)は現在市販されているカンチレバーで、シリコン単結晶母材51から主としてKOH水溶液によるウエットチエッチング法により片持ち梁52及び探針53を形成することを特徴としている。探針53の先端角は用いるシリコン単結晶母材51の面方位によって決まり、通常(100)面方位の母材を用いるため、約70度である。
【0003】図6の(b)は、T.R.Albrechtらが1990年に発表したカンチレバーで、母材51は(100)面方位のシリコン単結晶膜を用い、片持ち梁52と探針53が熱酸化膜又は窒化膜で形成されている(T.R.Albrecht,et al.,J.Vac.Sci.Technol,A8(1990)3386-3396)。この場合、熱酸化膜の探針53の先端を先鋭化することが極めて困難であることから、探針先端はあまり鋭くならない。
【0004】図6の(c)は、M.M.Farooquiらが1992年に発表したもので、N型シリコンの母材51の表面に高濃度にボロンをドープした層を形成し、その層から片持ち梁52と探針53の両方を形成したものである(M.M.Farooqui,et al.,Nanotecnology 3(1992)91-97)。この場合、ボロン拡散層の厚さが探針53の高さと片持ち梁52の厚みの合計となるが、該探針53をドライエッチングで加工した残りの層がそのまま片持ち梁52の厚みとなる。従って、該高さや厚みは特に探針53を加工するドライエッチング条件に強く依存する。
【0005】図6の(d)は、L.C.Kongらが1993年に発表したもので、シリコン単結晶の母材51に片持ち梁52をシリコン酸化膜又は窒化膜で形成し、該片持ち梁52の上にポリシリコン層を形成し、それをドライエッチングと熱酸化法によって加工して探針53を形成している(L.C.Kong.et al.,J.Vac.Sci.Technol,B11(1993)634-641)。この場合、ポリシリコンが0.1μm程度の微小粒界を有しているため、それ以下の寸法に探針の先端を尖らせることが困難で、実際発表された探針の先端はその程度の大きさを持っている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】AFM用カンチレバーが具備すべき条件には下記(1)乃至(3)が必要である。
(1)探針53が原子レベルの形状評価にふさわしい鋭利な先端を有しつつ大きなアスペクト比(底部の直径に対する探針の高さの比)で加工されていること、(2)片持ち梁52のバネ定数がいつも一定であること、(3)片持ち梁52が取扱中の機械的破損に強いこと。
【0007】上記条件の内(2)については、片持ち梁の膜質は勿論のこと、梁の寸法、特に厚さが高い再現性と安定性を持って形成される必要がある。図6に示す従来例では、いずれの場合も上記三つの条件を同時には満たしていない。即ち、図6の(a),(b),(d)のカンチレバーの場合は、探針53の先端を尖らせることが原理的に困難であり、同図の(c)のカンチレバーの場合は、探針53の高さと梁52の厚さが形成プロセスの条件の僅かな変化で大きく変動する欠点を原理的に持っているとともに、内部応力の大きい高濃度ボロン拡散層(1020個/cm3)を片持ち梁材料としているため、梁それ自身で最初から撓んでおり、バネ定数もその撓み量によって非線形に変化してしまい、AFM測定に重大な支障をきたす。
【0008】また、いずれの従来例でも、探針53の高さはせいぜい3〜5μm程度であり、アスペクト比は1以下である。また、全ての従来例では片持ち梁52が母材51から完全に露出しており、保護機構を有していない。
【0009】本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、先端が鋭利でアスペクト比の高い急峻な形状の探針と、常に一定のバネ定数を有しながらその一端に探針を支える片持ち梁を具備する原子間力顕微鏡用カンチレバー、更に該片持ち梁を機械的損傷から保護する保護板を有する原子間力顕微鏡用カンチレバー及びこれらの原子間力顕微鏡用カンチレバーの製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため本願請求項1の発明の原子間力顕微鏡用カンチレバーは、充分な機械的強度を有するシリコン単結晶母材と、該母材に一端が接合されたシリコン酸化膜からなる片持ち梁と、該片持ち梁上の前記母材に接合された一端とは反対側の一端に形成された鋭い先端を有するコーン形探針とを具備し、且つ全表面が導電性薄膜で覆われていることを特徴とする。
【0011】また、本願請求項2の発明の原子間力顕微鏡用カンチレバーは、充分な機械的強度を有するシリコン単結晶母材と、該母材に一端が接合されたシリコン酸化膜からなる片持ち梁と、該片持ち梁上の母材に接合された一端とは反対側の一端に形成された鋭い先端を有するコーン形探針と、シリコン単結晶母材から張り出した片持ち梁の母材側に該片持ち梁から充分な間隔をおき、該片持ち梁を両側から囲むように母材から加工され且つ充分な強度を有する片持ち梁を機械的破損から防ぐための保護板とを具備し、且つ全表面が導電性薄膜で覆われていることを特徴とする。
【0012】また、本願請求項1に記載された原子間力顕微鏡用カンチレバーの製造方法は、下記の(a)乃至(k)の工程からなることを特徴とする。
(a)充分な機械的強度を有する(100)面方位のシリコン単結晶母材と、その上に熱酸化法により形成されたシリコン酸化膜と、該熱酸化皮膜の上に貼り合わせ法により形成された(100)面方位のシリコン単結晶膜とから構成される基板を熱酸化することによって、前記熱酸化膜上のシリコン単結晶膜面に0.5〜1μmの熱酸化膜を形成する工程、(b)前記貼り合わせシリコン単結晶膜表面の熱酸化膜を直径10〜15μmの円形に加工する工程、(c)前記円形に加工された熱酸化膜をマスクとして反応性ドライエッチング(RIE)とKOH水溶液によるウエットエッチングを組み合わせた方法により、前記貼り合わせシリコン単結晶膜を概略コーン形探針形状に加工するとともに、該貼り合わせシリコン単結晶膜の下地である熱酸化膜を露出させる工程、(d)前記露出した熱酸化膜を片持ち梁形状に加工する工程、(e)前記(a)乃至(d)の工程で形成された構造体の全表面に薄い熱酸化膜を形成する工程、(f)前記概略加工されたコーン形探針を保護するために、厚さ5μm以上のレジストを塗布し、且つ前記(d)の工程で加工した片持ち梁形状に位置合わせして該レジストを加工する工程、(g)上記レジストとして(e)の工程で形成された薄い熱酸化膜を片持ち梁形状に加工してその下地となるシリコン母材を露出させ、且つ前記レジストを剥離する工程、(h)前記(g)の工程で露出した片持ち梁周囲のシリコン母材をKOH水溶液によるウエットエッチング法によりエッチングして、前記熱酸化膜から成る片持ち梁を該シリコン母材から浮かせる工程、(i)探針表面に前記(e)の工程で形成された薄い熱酸化膜をエッチングして探針を先鋭化する工程、(j)前記(h)の工程で片持ち梁が母材から浮いている部位を母材裏面からカッターで切り込み、前記片持ち梁裏側の母材を切り離す工程、(k)前記(a)乃至(j)の工程で形成された構造体の全表面を薄い導電性薄膜で覆う工程。
【0013】また、本願請求項2に記載の原子間力顕微鏡用カンチレバーの製造方法は、上記(a)乃至(k)の工程の内、(h)の工程で前記熱酸化膜から成る片持ち梁から浮いた前記シリコン母材の所望の部位にレーザ光を該片持ち梁裏面に照射するための開口部をドライエッチングとウエットエッチングを組み合わせた加工法により形成することを特徴とする。
【0014】
【作用】請求項1に記載の原子間力顕微鏡用カンチレバーは、上記構造及び上記(a)乃至(k)の工程を採用することにより、カンチレバーの母材となるシリコン単結晶体の基板の表面に予め設計された膜厚を有する熱酸化膜(SiO2)を形成し、さらにその上に一定の設計値の膜厚でシリコン単結晶体の基板を形成した3層構造の基板を用意し、熱酸化膜を片持ち梁として加工し、その上の一定厚さで形成されたシリコン単結晶体の基板から探針を加工することにより、先端が鋭利で高さが一定のシリコン単結晶からなる探針と、バネ定数が一定な片持ち梁を具備する原子間力顕微鏡用カンチレバーとなる。
【0015】また、請求項2に記載の原子間力顕微鏡用カンチレバーは、更に、片持ち梁を取り囲むように充分な機械的強度を有する保護板を設けるので、片持つ梁12を機械的損傷から保護できる原子間力顕微鏡用カンチレバーとなる。
【0016】また、探針の材質がシリコン単結晶体であるため、ポリシリコンのように微小粒界などが存在せずドライエッチングと熱酸化を組み合わせた方法などにより、探針の先端の曲率半径を10nm以下まで先鋭化できる。
【0017】シリコン単結晶膜の面方位を(100)にすることで、KOH水溶液による膜厚方向への高速エッチングが可能となり、上記探針の高さを10μm程度まで高くでき、高いアスペクト比の探針が実現できる。
【0018】また、片持ち梁は一定の膜厚を有する熱酸化膜から形成されシリコン母材から切り離されるが、その際、該母材をエッチングする手段、例えばKOH水溶液によるウエットエッチングは該熱酸化膜を全くエッチングしない。そのため、プロセス途中で該熱酸化膜の厚さが変化することなく、片持ち梁は設計値通りの厚さで再現性良く形成されることになり、バネ定数の再現性が極めて高くなる。
【0019】また、シリコン単結晶体の母材の面方位を(100)にすることにより、KOH水溶液による膜厚方向への高速選択エッチングが可能となるため、該母材から前記保護板を加工することが容易となる。
【0020】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
〔実施例1〕図1は請求項1に記載する発明の原子間力顕微鏡用カンチレバーの基本構造を示す外観斜視図で、図2は原子間力顕微鏡用カンチレバーの縦断面図である。図1に示すように、本カンチレバーは、厚さが500μm程度のシリコン単結晶からなる母材11に厚さ1〜2μmの熱酸化膜(SiO2)からなる片持ち梁12が一端で強固に接合されている。この片持ち梁12は梁部12bと基体部12aからなり、該基体部12aが母材11に強固に接合されている。該片持ち梁12の前記母材11の側とは反対側の端部にシリコン単結晶から加工された鋭利な先端を有する高アスペクト比のコーン形の探針13が設けられている。
【0021】上記探針13の高さは8〜10μm、アスペクト比は2以上である。また、上記片持ち梁12の幅は15〜30μm、張り出し長さは120〜150μmである。この時の片持ち梁12の共鳴振動数は50kHz以上である。
【0022】上記基本構造の原子間力顕微鏡用カンチレバーの全表面には、導電性を持たせるため金(Au)薄膜14で覆っている。この場合の金薄膜14の厚さは10nm以下で充分である。このように構造体の全面を金薄膜14で覆っても前記共鳴振動数には殆ど変化はない。
【0023】〔実施例2〕図3は請求項2に記載する発明の原子間力顕微鏡用カンチレバーの構造を示す外観斜視図である。本カンチレバーは、図1に示すカンチレバーにおいて外部からの機械的応力に弱い片持ち梁12を機械的破損から保護するための保護板15,15が設けられている。該保護板15,15は母材11から張り出した片持ち梁12の母材11側に該片持ち梁12から充分な間隔をおき、該片持ち梁12を両側から囲むように母材11から加工され、充分な強度を有する。また、保護板15と保護板15の間から片持ち梁12の裏面に該片持ち梁12の変位を検知するためのレーザ光を照射できるようになっている。
【0024】図4及び図5は図1及び図2、図3に示す構造の原子間力顕微鏡用カンチレバーの製造プロセスを説明するための図である。本カンチレバーの製造には厚さ2μmの熱酸化膜(SiO2)101を上下から単結晶のシリコン(Si)基板102,103で挟んでなる貼り合わせウエハを使用する。先ずKOH水溶液で前記貼り合わせウエハの上部の(100)面方位の単結晶のシリコン基板101の面を20μmにエッチングし、該シリコン基板101の厚さを10μm程度とする。
【0025】次に、図4の(a)に示すように探針13を形成するため、RIEのマスクとして厚さ0.7μmの熱酸化膜(SiO2)104をシリコン基板101の表面に形成する。
【0026】次に、図4の(b)に示すように探針13を形成するため、熱酸化膜104の上面に直径10μm(又は15μm)の円形パターンのレジスト105を形成し、このレジスト105をマスクとしてBHF(緩衝ふっ酸)により、上面に露出している部分の熱酸化膜104をエッチング除去する。
【0027】次に、上記(b)で形成された円形の熱酸化膜104をマスクとしてRIEで図4の(c)に示すように、シリコン基板102を探針形状部13−1に加工する。更に、KOH水溶液(KOH:H2O=30g:100ml)で探針の形を整える。この時探針以外の部分はRIEとKOHによって厚さ2μmの熱酸化膜(SiO2)101の表面が露出している。
【0028】次に、図4の(d)に示すように、露出した熱酸化膜101の上面にレジストを塗布し、基体部12aと梁部12bからなる片持ち梁12の形状のレジスト層106を熱酸化膜101の上面に形成する。更に、BHP処理でレジスト層106で覆われていない部分の熱酸化膜101をエッチングして除去し、熱酸化膜101を片持ち梁12の形状に形成する。
【0029】次に、図4の(e)に示すように、上記(d)で形成されたレジスト層106を剥離し、後に行なうKOH処理からの保護と探針形状部13−1の先端先鋭化のために全体を熱酸化し厚さ約0.2μmの熱酸化膜107で全面を覆う。
【0030】次に、図5の(a)に示すように、BHF処理から片持ち梁12の形状の熱酸化膜101を保護するために、先ずOFPR−8600層108を片持ち梁12の形状の熱酸化膜101の上面に形成し、更に探針形状部13−1をBHFから保護するために厚塗り用レジスト(AZ−4620;厚さ6μm)を2度塗りしてレジスト層109を片持ち梁12の形状の前記OFPR−8600層108の上に形成する。
【0031】次に、図5の(b)に示すように、BHF処理で片持ち梁12の形状の周囲の前記0.2μmの熱酸化膜107をエッチングして除去し、カンチレバーの土台である母材11となる部分の単結晶のシリコン基板103を露出させた後、片持ち梁12の形状の熱酸化膜101を保護したOFPR−8600層108とレジスト層109を剥離する。
【0032】次に、図5の(c)に示すように、露出した片持ち梁12の形状の熱酸化膜101の周囲のシリコン基板103をKOH水溶液(KOH:H2O=30g:100ml)で異方性エッチング処理を行ない、片持ち梁12の梁部12bの部分を浮かせる。この時、探針形状部13−1は前記0.2μm厚の熱酸化膜107で保護されているのでエッチングされることはない。
【0033】次に、図5の(d)に示すように、探針形状部13−1を保護している熱酸化膜をBHFでかるくエッチングして探針形状部13−1の先端を先鋭化し、探針13を形成する。
【0034】最後に裏側からシリコン基板103を切削し、母材11を形成し、図1及び図2に示す原子間力顕微鏡用カンチレバーが完成する。また、図3に示す原子間力顕微鏡用カンチレバーとする場合はシリコン基板103を切削する過程において、保護板15,15を形成すればよい。
【0035】上記の構造とすることにより、カンチレバーの母材11となるシリコン単結晶体の基板103の表面に予め設計された膜厚を有する熱酸化膜(SiO2)101を形成し、さらにその上に一定の設計値の膜厚でシリコン単結晶体の基板102を形成した3層構造の基板を用意し、熱酸化膜101を片持ち梁12として加工し、その上の一定厚さで形成されたシリコン単結晶体の基板102から探針13を加工することにより、先端が鋭利で高さが一定のシリコン単結晶からなる探針13と、バネ定数が一定な片持ち梁12を具備する原子間力顕微鏡用カンチレバーとなる。更に、片持ち梁12を取り囲むように充分な機械的強度を有する保護板15,15を設けるので、片持つ梁12を機械的損傷から保護できる原子間力顕微鏡用カンチレバーとなる。
【0036】また、探針13の材質がシリコン単結晶であるため、ポリシリコンのように微小粒界などが存在せずドライエッチングと熱酸化を組み合わせた方法などにより、探針13の先端の曲率半径を10nm以下まで先鋭化できる。
【0037】シリコン単結晶膜の面方位を(100)にすることで、KOH水溶液による膜厚方向への高速エッチングが可能となり、上記探針13の高さを10μm程度まで高くでき、高いアスペクト比の探針13が実現できる。これは従来例にみられる、熱酸化膜そのもの或いはポリシリコンから探針13が形成されている場合には実現できない利点である。
【0038】また、片持ち梁12は一定の膜厚を有する熱酸化膜から形成されシリコン母材11から切り離されるが、その際、該母材11をエッチングする手段、例えばKOH水溶液によるウエットエッチングは該熱酸化膜を全くエッチングしない。そのため、プロセス途中で該熱酸化膜の厚さが変化することなく、従って片持ち梁12は設計値通りの厚さで再現性良く形成されることになり、バネ定数の再現性が極めて高くなる。
【0039】また、シリコン単結晶の母材11の面方位を(100)にすることにより、前述のKOH水溶液による膜厚方向への高速選択エッチングが可能となるため、該母材11から前記保護板15を加工することが容易となる。最後にカンチレバー全体の導電性を確保する場合には、片持ち梁12の梁部12bのバネ定数を変えない程度に柔らかく、且つ化学的に安定で変質しない金等を10nm程度以下の厚さで全面に塗布する。この塗布は市販のスパッタリング装置を利用することにより、充分に実現できる。
【0040】なお、前記3層構造の基板は所謂貼り合わせ基板として既に実用化されており、容易に準備することができる。また、それ以外にも、レーザアニール法やイオン注入法などの公知既存の方法で製造できる。
【0041】
【発明の効果】以上、説明したように本発明によれば下記のような効果が得られる。
(1)請求項1に記載の構成とすることにより、先端が鋭利でアスペクト比の高い急峻な形状の探針と、常に一定のバネ定数を有しながらその一端に上記探針を支える片持ち梁とを具備する原子力間顕微鏡用カンチレバーが得られる。
【0042】(2)請求項2に記載の構成とすることにより、支持母材から加工された片持ち梁を機械的損傷から保護する保護板を設けるから、上記原子力間顕微鏡用カンチレバーを機械的損傷に強い構造とすることができる。
【0043】(3)請求項9又は請求項10の製造方法を採用することにより、上記のような優れた原子力間顕微鏡用カンチレバーを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の原子間力顕微鏡用カンチレバーの構造を示す外観斜視図である。
【図2】本発明の原子間力顕微鏡用カンチレバーの構造を示す縦断面図である。
【図3】本発明の原子間力顕微鏡用カンチレバーの構造を示す外観斜視図である。
【図4】図4の(a)乃至(e)は本発明の原子間力顕微鏡用カンチレバーの製造工程を説明するための図である。
【図5】図5の(a)乃至(e)は本発明の原子間力顕微鏡用カンチレバーの製造工程を説明するための図である。
【図6】図6の(a)乃至(d)はそれぞれ従来の原子間力顕微鏡用カンチレバーの構造を示す図である。
【符号の説明】
11 母材
12 片持ち梁
13 探針
14 金薄膜
15 保護板

【特許請求の範囲】
【請求項1】 充分な機械的強度を有するシリコン単結晶母材と、該母材に一端が接合されたシリコン酸化膜からなる片持ち梁と、該片持ち梁上の前記母材に接合された一端とは反対側の一端に形成された鋭い先端を有するコーン形探針とを具備し、且つ全表面が導電性薄膜で覆われていることを特徴とする原子間力顕微鏡用カンチレバー。
【請求項2】 充分な機械的強度を有するシリコン単結晶母材と、該母材に一端が接合されたシリコン酸化膜からなる片持ち梁と、該片持ち梁上の前記母材に接合された一端とは反対側の一端に形成された鋭い先端を有するコーン形探針と、前記シリコン単結晶母材から張り出した前記片持ち梁の前記母材側に該片持ち梁から充分な間隔をおき、該片持ち梁を両側から囲むように前記母材から加工され、充分な強度を有する前記片持ち梁を機械的破損から防ぐための保護板とを具備し、且つ全表面が導電性薄膜で覆われていることを特徴とする原子間力顕微鏡用カンチレバー。
【請求項3】 請求項2に記載の原子間力顕微鏡用カンチレバーにおいて、前記保護板が前記片持ち梁が原子間力によって撓む量を測定するためのレーザ光を該片持ち梁表面に照射するための開口部を有することを特徴とする原子間力顕微鏡用カンチレバー。
【請求項4】 請求項1乃至3のいずれか一つに記載された原子間力顕微鏡用カンチレバーにおいて、前記シリコン酸化膜の片持ち梁上に形成されたコーン形探針が、該シリコン酸化膜面上に貼り合わせ法により形成されたシリコン単結晶体から加工されたものであることを特徴とする原子間力顕微鏡用カンチレバー。
【請求項5】 請求項1乃至4のいずれか一つに記載された原子間力顕微鏡用カンチレバーにおいて、前記シリコン酸化膜面上に貼り合わせ法により形成されたシリコン単結晶体の面方位が(100)であることを特徴とする原子間力顕微鏡用カンチレバー。
【請求項6】 請求項1乃至5のいずれか一つに記載された原子間力顕微鏡用カンチレバーにおいて、前記シリコン酸化膜面上に貼り合わせ法により形成されたシリコン単結晶体の厚さが8〜10μmであって、前記コーン形探針の高さが該シリコン単結晶体の厚さと等しいことを特徴とする原子間力顕微鏡用カンチレバー。
【請求項7】 請求項1乃至6のいずれか一つに記載された原子間力顕微鏡用カンチレバーにおいて、前記シリコン酸化膜の片持ち梁の寸法が、厚さが1〜3μm、幅15〜30μm、母材からの張り出し長さ120〜150μmで、且つ前記コーン形探針が母材接合部材から100μm以上離れて形成されていることを特徴とする原子間力顕微鏡用カンチレバー。
【請求項8】 請求項1乃至7のいずれか一つに記載された原子間力顕微鏡用カンチレバーにおいて、前記カンチレバーの全面を覆っている導電性材料がスパッタリング法で堆積された厚さ10nm以下の金であることを特徴とする原子間力顕微鏡用カンチレバー。
【請求項9】 請求項1又は4乃至8のいずれか一つに記載された原子間力顕微鏡用カンチレバーの製造方法であって、下記の(a)乃至(k)の工程からなることを特徴とする原子間力顕微鏡用カンチレバーの製造方法。
(a)充分な機械的強度を有する(100)面方位のシリコン単結晶母材と、その上に熱酸化法により形成された熱酸化皮膜(シリコン酸化膜)と、該熱酸化皮膜の上に貼り合わせ法により形成された(100)面方位のシリコン単結晶膜とから構成される基板を熱酸化することによって、前記熱酸化膜上のシリコン単結晶膜面に0.5〜1μmの熱酸化膜を形成する工程、(b)前記貼り合わせシリコン単結晶膜表面の熱酸化膜を直径10〜15μmの円形に加工する工程、(c)前記円形に加工された熱酸化膜をマスクとして反応性ドライエッチング(RIE)とKOH水溶液によるウエットエッチングを組み合わせた方法により、前記貼り合わせシリコン単結晶膜を概略コーン形探針形状に加工するとともに、該貼り合わせシリコン単結晶膜の下地である熱酸化膜を露出させる工程、(d)前記露出した熱酸化膜を片持ち梁形状に加工する工程、(e)前記(a)乃至(d)の工程で形成された構造体の全表面に薄い熱酸化膜を形成する工程、(f)前記概略加工されたコーン形探針を保護するために、厚さ5μm以上のレジストを塗布し、且つ前記(d)の工程で加工した片持ち梁形状に位置合わせして該レジストを加工する工程、(g)上記レジストとして(e)の工程で形成された薄い熱酸化膜を片持ち梁形状に加工してその下地となるシリコン母材を露出させ、且つ前記レジストを剥離する工程、(h)前記(g)の工程で露出した片持ち梁周囲のシリコン母材をKOH水溶液によるウエットエッチング法によりエッチングして、前記熱酸化膜から成る片持ち梁を該シリコン母材から浮かせる工程、(i)探針表面に前記(e)の工程で形成された薄い熱酸化膜をエッチングして探針を先鋭化する工程、(j)前記(h)の工程で片持ち梁が母材から浮いている部位を母材裏面からカッターで切り込み、前記片持ち梁裏側の母材を切り離す工程、(k)前記(a)乃至(j)の工程で形成された構造体の全表面を薄い導電性薄膜で覆う工程。
【請求項10】前記請求項2乃至8に記載のいずれか一つに記載の原子間力顕微鏡用カンチレバーの製造方法であって、前記請求項9の原子間力顕微鏡用カンチレバーの製造方法の(a)乃至(k)の工程の内、(h)の工程で前記熱酸化膜から成る片持ち梁から浮いた前記シリコン母材の所望の部位にレーザ光を該片持ち梁裏面に照射するための開口部をドライエッチングとウエットエッチングを組み合わせた加工法により形成することを特徴とする原子間力顕微鏡用カンチレバーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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