説明

参照溶液

液相に、互いに相互変換可能な第1化合物および第2化合物の少なくとも一方、ならびに、第1化合物と第2化合物の間の変換を触媒する少なくとも1種の触媒を含む、参照溶液を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、参照溶液、該参照溶液を保持する容器を提供するためのキット、該キットの操作方法、該参照溶液を保持する容器、該参照溶液の調製方法、および該参照溶液の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
試験流体においてパラメーターを測定するためのセンサーは、化学、生物学および生理学のさまざまな分野で幅広く用いられている。
センサーの測定値が正確であることを保証にするために、センサーは定期的に較正すべきである。センサーの較正は、通常、センサーの応答と予め決定されている参照材料のパラメーター値との対応を実験的に決定し、これに従ってセンサーを調整することを包含する。
【0003】
センサーの性能品質も、センサーの測定値が正確であることを実験的に検証するために、定期的に管理すべきである。これは通常、参照材料の測定パラメーター値を同参照材料の許容範囲(acceptance range)と比較することにより行われる。
【0004】
較正および日常的品質管理のための参照材料は、問題のパラメーターを示す化合物を含む。パラメーターは、粘度、密度、圧力および導電率などの物理的パラメーターでも、血液のような生理学的液体のガス、電解質もしくは代謝産物のpHまたは濃度などの化学的パラメーターでもよい。参照材料は、その寿命の全期間にわたり精密かつ定常的に該パラメーターを示すべきである。したがって、参照材料は、長期にわたり安定な濃度にある化合物、例えば化学平衡にある化合物を含んでよく、その規格を確実に満たすように厳密に管理された条件下で調製し貯蔵されるべきである。
【0005】
場合によっては、そのような管理された調製および貯蔵条件は、規格を満たすのに十分ではないかもしれない。これは、平衡状態で存在し、互いに相互変換可能な2種の化合物を含む参照溶液の場合にあてはまる可能性がある。そのような2種の化合物間の平衡は、温度に依存する可能性がある。
【0006】
もしそうであるなら、あらゆる温度変化が、参照溶液の化学組成を徐々に変化させる可能性がある。
そのような参照溶液の一つは溶解ガスを含有してもよい。この場合には、該ガスは、容器の上部空間内の気相と溶液中の溶解相とに分布し得る。そのような系では、2相間のガスの平衡分布は温度に依存する可能性がある。したがって、溶液を操作温度とは異なる温度で貯蔵する場合、ガスの分布は操作温度における平衡分布とは異なり得る。したがって、参照溶液は、操作温度に対応する2層間の平衡状態を確立するために、使用前に長期間のコンディショニングを必要とする可能性がある。
【0007】
他のタイプの2相参照溶液は、部分的には溶質として且つ部分的には固相として存在し得る難溶性化合物を含む系である。これら2相間の分布は温度に依存し得る。また、該溶液も、操作温度における平衡状態を確立するために、使用前に長期間のコンディショニングを必要とする可能性がある。
【0008】
さらに別の参照溶液では、2種以上の化合物が平衡状態で存在するような化学反応が関与する。例としては、グルタミンとグルタミン酸/グルタメートの系および二酸化炭素と炭酸の系、ならびにα−D−グルコースとβ−D−グルコースの変旋光系(mutarotational system)が挙げられる。これらの化合物を含む参照溶液は、操作温度における平衡状態を確立するために、使用前に数日間、数カ月間、または数年間ものコンディショニングを要する可能性がある。
【0009】
平衡状態にある2種の化合物を含むさらに他の例は、クレアチニンとクレアチンの系である。上記の例と同様に、これら2種の化合物間の平衡は数カ月間または数年間かけないと確立されないので、長期間のコンディショニングが必要となる可能性がある。
【0010】
Roche Diagnostics社への国際公開第WO02/14533号パンフレットには、クレアチニンセンサーの較正方法が開示されている。この方法によると、2種の較正溶液が用いられる。第1の較正溶液はクレアチニンの酸性溶液であり、これを最初に中和してから較正に用いる。しかし、この中和処理がこの方法を、日常作業として行うには不便なものとしている。第2の溶液は、特定温度に対応する平衡濃度にあるクレアチニンとクレアチンの溶液である。しかし、組成変化を避けるために、そのような溶液は、使用する直前に調製するか又は特定温度に保たねばならず、これらはともに日常的な使用という点では実用的ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、これまでにも相互変換可能な化合物を検出するための参照溶液が提案されてきたにもかかわらず、長期間コンディショニングおよび/または即時の調製を必要としない参照溶液が依然として必要とされている。したがって、本発明の目的は、そのような参照溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一側面において、液相に、互いに相互変換可能な第1化合物および第2化合物の少なくとも一方と、第1化合物および第2化合物間の変換に触媒作用を及ぼす少なくとも1種の触媒とを含む、参照溶液を提供する。
【0013】
2種の相互変換可能な化合物に限定される従来の参照溶液と比較すると、本発明に従った参照溶液は、第1化合物と第2化合物の間の変換に触媒作用を及ぼす触媒も含有する。触媒は、第1化合物および第2化合物間の変換を促進し、参照溶液の操作温度における2種の化合物間の平衡状態の迅速な実現を確保する。したがって、本発明の参照溶液により、長期間のコンディショニングおよび即時の調製の必要性がなくなる。短縮されたコンディショニング期間の後、本発明の参照溶液は平衡状態にあり、その化学組成は、その温度から完全に決定することができる。このようにして、本発明の参照溶液は、例えば密封アンプルとして提供される場合のように、すぐ使用できる溶液として、容易に提供することができる。
【0014】
使用前に、該参照溶液は、第1化合物および第2化合物のうち一方の化合物のみを含んでいてもよい。したがって、該溶液を一方の化合物のみ、すなわち第1化合物のみ又は第2化合物のみから調製する場合、触媒が存在し且つ該参照溶液が操作温度に到達すると、第1化合物および第2化合物間の平衡状態が迅速に確立される。
【0015】
本出願で用いる“参照溶液”という用語は、センサーの較正および/または品質管理のための溶液を意味する。したがって、参照溶液は、それが対象としているセンサーの較正に用いることができ、および/または該センサーの品質管理に用いることができる。
【0016】
“液相”という用語は、参照溶液の溶媒か、または例えば緩衝液か、または、相互変換可能な化合物以外の1種以上の化合物の溶液であって、該相互変換可能な化合物に対し参照溶液としても働くことができる溶液を意味する。
【0017】
“化合物”という用語は、化学物質または化学物質の混合物を意味する。本発明によると、センサーにより測定される化学種は、実際は参照溶液の第1化合物および第2化合物のうちの一方であってよく、または第1および/もしくは第2化合物(単数又は複数)から誘導される反応生成物であってもよい。
【0018】
第1化合物および第2化合物は、互いに可能であるべきである。本出願で用いる“互いに相互変換可能な”という用語は、二つの化合物が、いずれかの方向への化学反応により、互いに変換することができることを意味する。本発明によると、第1化合物および第2化合物は、異なる2相中の同一種、例えばガス状および溶解した二酸化炭素であってもよい。
【0019】
参照溶液は、単独または組合わせで両方向の変換反応に触媒作用を及ぼす1種以上の触媒を含むことができる。したがって、触媒という用語は、両方向の変換反応に触媒作用を及ぼす単一の触媒か、又は、例えば、一方が一方向の変換反応を触媒し、他方が逆方向の変換反応に触媒作用を及ぼすような、2種の触媒の組合わせとすることができる。
【0020】
変換反応を触媒するのに必要とされる触媒の量は、系の種類による。参照溶液の寿命の間に、ある程度の触媒活性の損失をもたらす触媒の分解が起こる可能性がある。したがって、触媒濃度は、参照溶液の寿命の全期間にわたり変換反応を触媒する程度に十分なものであるべきである。
【0021】
触媒は、酵素、すなわち触媒作用を示すタンパク質であるか、酵素の活動に必要な補酵素であることができる。あるいは、触媒は、触媒作用を示す別の化合物であって、酵素の作用を模倣する化合物、例えば酵素模倣性ポリマー(enzyme-mimicking polymer)であることができる。
【0022】
本発明に用いることができる変換反応の1タイプは、加水分解反応である。加水分解反応は、例えば加水分解酵素である酵素により触媒され得る。したがって、本発明の一態様において、触媒は加水分解酵素である。
【0023】
アミドおよびエステルは、本発明に用いることができる化合物の群を示す。したがって、本発明の他の態様において、第1化合物はアミドまたはエステルである。
アミドまたはエステルが関与する加水分解反応および変換反応はともに、より実用的なコンディショニング期間と比較して、その反応速度がかなり遅い点に特徴がある。しかしながら、長期間の貯蔵中に、このような参照溶液は、なお著しい組成変化を受ける可能性がある。触媒がなければ、選択した操作温度において実用的な期限内に平衡状態は確立されない。このような参照溶液に触媒を加えると、コンディショニング期間を著しく短縮することができる。
【0024】
第1化合物および第2化合物としてクレアチニン−クレアチンを含む参照溶液において、触媒は、クレアチニンアミドヒドロラーゼ酵素、EC 3.5.2.10であり得る。この系において、関係するパラメーターは、クレアチニン、クレアチン、またはそれらから誘導されるパラメーターであり得る。
【0025】
第1化合物および第2化合物としてグルタミン−グルタミン酸/グルタメートを含む参照溶液において、触媒は、グルタミナーゼ、EC 3.5.1.2およびグルタミンシンセターゼ、EC 6.3.1.2の酵素の1種以上であり得る。この系において、関係するパラメーターは、グルタミン、グルタミン酸もしくはグルタメート、またはそれらから誘導されるパラメーターであり得る。
【0026】
第1化合物および第2化合物として二酸化炭素および炭酸を含む参照溶液において、触媒は、炭酸脱水酵素、EC 4.2.1.1であり得る。この系において、関係するパラメーターは、二酸化炭素、炭酸、またはそれらから誘導されるパラメーターであり得る。
【0027】
第1化合物および第2化合物としてα−D−グルコースおよびβ−D−グルコースの変旋光的系を含む参照溶液において、触媒は、アルドース1−エピメラーゼともよばれる酵素ムタロターゼ、EC 5.1.3.3であり得る。この系において、関係するパラメーターは、2種のグルコース種のいずれか又はそれから誘導されるパラメーターであり得る。
【0028】
本参照溶液は、相互変換可能な第1化合物及び第2化合物並びに触媒の他に、追加化合物を含んでもよい。該参照溶液は、1種以上の追加パラメーターを分析するための1種以上の追加センサーの較正および/または品質管理にそのまま用いることができる。したがって、該参照溶液は、例えば血液の第1および/もしくは第2化合物(単数または複数)又はそれらから誘導されるパラメーターを分析するためのセンサー用の参照溶液であることに加えて、pO、pCO、pH、ナトリウム、カリウム、カルシウム、塩化物、グルコース、ラクテート、尿素、ビリルビン、ヘモグロビンまたはヘモグロビンの任意の誘導体などの1種以上の更なる血液パラメーターに対しても用いることができる。このような参照溶液は複数のセンサーの較正および/または品質管理に用いることができ、これにより、必要な個々の参照溶液の数が減り、費用の節約になる。
【0029】
本発明の他の側面は、本発明の参照溶液を保持する容器を提供するためのキットである。該キットは、少なくとも1つの第1区画および1つの別個の第2区画を有する容器;第1区画に含有されている液体第1相;ならびに、別個の第2区画に含有されている第2相を含み、ここにおいて、該第2相は、該参照溶液の第1化合物、第2化合物および触媒の少なくとも1種を含む。
【0030】
本発明のキットにより、参照溶液中に包含される複数の相が可能になる。該キットでは、参照溶液を、使用する直前に分離されていた相を組み合わせることにより調製することができ、したがって、触媒寿命が乾式貯蔵により延長する。
【0031】
“別個の区画”という用語は、容器の区画であって、容器の任意の他の区画内に保持されている任意の他の相と接触しないように相を保持するように構成された区画を意味する。
【0032】
第1区画は、例えば緩衝液を保持するために用いることができ、第1化合物および第2化合物の1種以上ならびに触媒を、別個の第2区画に保持させることができる。あるいは、第1区画を、例えば第1および/もしくは第2化合物(単数または複数)の溶液を保持するために用いることができ、触媒を別個の第2区画に保持させることができ;または、第1区画を溶液中の触媒を保持するために用いることができ、第1および/もしくは第2化合物(単数または複数)を別個の第2区画に保持させることができる。
【0033】
第1区画および第2区画は、2つの区画に保持されている相を効果的に分離するあらゆる形状をとることができる。したがって、例えば錠剤の包装に用いられるようなブリスターパックに関していうと、第2区画を、第2区画の外側表面に指圧を加えることにより破るか押しのけることができる薄壁によって第1区画から分離することができる。あるいは、第2区画を、例えば、先の尖った端を有するプランジャーを受容するように構成することができる。プランジャーを押し込むと、末端が第2区画の薄壁を貫通して第2区画から第1区画への流体の導管を形成し、これにより相が第2区画から第1区画へ送られる。
【0034】
容器は、第1化合物および第2化合物の少なくとも一方が第2区画に含有され、触媒が第3区画に含有されるように、別個の第3区画を有していてもよい。本発明のこの態様によると、第1および/または第2化合物(単数または複数)は貯蔵中に触媒から分離される。第1区画を参照溶液の緩衝液を保持するために用いることができる一方、第1および/または第2化合物(単数または複数)を別個の第2区画に保持することができ、触媒を別個の第3区画に保持することができる。
【0035】
容器は、上記3区画のほかに、例えば相互変換可能な第1化合物および第2化合物ならびに触媒以外の化合物を保持する追加的な別個の区画を含むことができる。
本発明の他の態様において、区画間に流体連絡(fluid communication)を提供することにより第2相を第1相に移動させるキットの操作方法を提供する。したがって、この方法によると、第1化合物および第2化合物の少なくとも一方ならびに触媒とを含有する第2相を液体第1相に移動させて、参照溶液を調製する。
【0036】
本発明の他の側面において、参照溶液を保持する容器を提供する。該容器は、上記のように第1区画および別個の第2区画を含むことができる。該容器は、当分野で公知のような2区画のシリンジであってもよく、または、2区画のアンプルであってもよい。本発明の参照溶液は、1区画の容器、例えば1区画のアンプルで提供し、該容器内では第1化合物および第2化合物の少なくとも一方ならびに少なくとも1種の触媒のすべてが液相中で混合されるようにしてもよい。
【0037】
本発明のさらに他の側面において、本発明の参照溶液の調製方法であって、該方法が、液相に、(a)第1化合物及び第2化合物の少なくとも一方、並びに(b)少なくとも1種の触媒を加える段階;並びに、少なくとも1種の触媒を加える前または後に、選択した温度に対する第1化合物及び第2化合物の平衡濃度を決定する段階とを含む、前記調製方法を提供する。
【0038】
段階(a)および(b)は、任意の順序、すなわち、最初に段階(a)で次に段階(b)、または最初に段階(b)で次に段階(a)の順に実施することができる。
本出願でさらに用いる“平衡濃度”という用語は、参照溶液が所定温度において平衡状態にあるとき、すなわち、所定温度において第1化合物および第2化合物間に正味の変換がないときの、参照溶液中の第1化合物および第2化合物の濃度を意味する。
【0039】
平衡濃度の決定段階は、(a)第1化合物および第2化合物の合計濃度を測定すること、及び(b)それに基づき平衡濃度を計算することを含むことができる。
本出願で用いる“それに基づき平衡濃度を計算する”という用語は、第1化合物および第2化合物の合計濃度から、所定温度における各化合物の平衡濃度を算出することを意味する。算出は、平衡データ、例えば温度の関数としての平衡定数を包含する、所定のアルゴリズムに基づいて行うことができる。
【0040】
第1化合物および第2化合物の合計濃度の決定は、溶液が平衡状態にあるか否かに依存しない。任意の正味の変換、例えば第1化合物から第2化合物への正味の変換は、2種の化合物の合計濃度に影響を及ぼさない。これは、第2化合物の濃度の上昇が、これに対応する第1化合物の濃度の低下により相殺されるためである。
【0041】
本発明の他の態様において、平衡濃度の決定段階は、(a)第1化合物および第2化合物それぞれの濃度を測定すること、及び(b)それらに基づき平衡濃度を計算することを含む。
【0042】
本発明のさらに他の態様において、平衡濃度の決定段階は、(a)触媒を加えた後に第1化合物および第2化合物の平衡濃度を確立させること、(b)化合物の一方の平衡濃度を測定すること、及び(c)それに基づき他方の化合物の平衡濃度を計算することを含む。
【0043】
本発明のこの態様において、参照溶液は平衡状態にあるべきであり、平衡状態は、相互変換可能な第1化合物および第2化合物間の変換に触媒作用を及ぼす触媒を添加して得られる。平衡状態が確立したら、第1化合物または第2化合物の一方の濃度を測定する。
【0044】
本出願で用いる“それに基づき他方の化合物の平衡濃度を計算する”は、所定温度において第1化合物の平衡濃度から第2化合物の平衡濃度を算出することを意味する。算出は、平衡データ、例えば温度の関数としての平衡定数を包含する、所定のアルゴリズムに基づいて行うことができる。
【0045】
その他の態様によると、平衡濃度の決定段階は、第1および/または第2化合物(単数または複数)を予め測定された量(単数または複数)で液相に加えること、及び、所望によりそれ(ら)に基づいて平衡濃度を計算することを含む。
【0046】
本出願で用いる“予め測定された量(単数または複数)”は、第1および/または第2化合物(単数または複数)を、特定濃度(単数または複数)に相当する量(単数または複数;液相に加える前に例えば秤量手順により測定する)で、加えることを意味する。したがって、添加量は、参照溶液の操作温度における第1化合物および第2化合物の平衡濃度に相当する可能性がある。すなわち、調製したままの参照溶液は、平衡状態にあるか、又は、非平衡濃度に相当する可能性がある。後者の場合、平衡濃度を上記のように、すなわち、平衡データ、例えば温度の関数としての平衡定数を包含するアルゴリズムに基づいて、計算することができる。
【0047】
本発明の別の側面において、本発明に従った参照溶液を、第1化合物および第2化合物の少なくとも一方またはそれらから誘導されるパラメーターを感じるセンサーの較正または品質管理に用いる。
【0048】
本出願で用いる“センサー”という用語は、関心のある化学種と選択的に相互作用することができ、それにより、該特定化学種の望ましい特性の関数であり、明確かつ測定可能な応答をもたらす、あらゆる種類のデバイスを意味する。
【0049】
関連するタイプのセンサーは、例えば先に述べたパラメーターのいずれかを決定するように構成されたもの、例えば、応答が電位の形で現れる電位差センサー(potentiometric sensor);応答が電流の形で現れる電流センサー;光学センサー;圧電センサー;温度センサー;圧力変化センサー(pressure-change sensor);音響センサー、またはそれらの任意の組合わせである。
【0050】
本参照溶液は、触媒の分解が最小限に抑えられる低温で貯蔵することができる。この温度において、相互変換可能な化合物間の平衡は、参照溶液の操作温度におけるそれらの平衡と比較してシフトしている可能性がある。
【0051】
コンディショニング温度における平衡状態を確立するために、参照溶液を、センサーの較正または品質管理に先立ち、18〜32℃、好ましくは20〜25℃の温度範囲でコンディショニングする。コンディショニング温度は操作温度に相当し得る。
【0052】
参照溶液は、0.1〜8時間、好ましくは0.1〜3時間の範囲の期間にわたりコンディショニングすることができる。
本出願で用いる“コンディショニング”という用語は、参照溶液を所定温度に調整されるようにすることを意味する。したがって、コンディショニングは、溶液を所定温度、例えば周囲温度に放置することにより、または参照溶液を加熱もしくは冷却要素(heating or cooling element)により加熱もしくは冷却することにより実施することができる。コンディショニングはまた、参照溶液を提供するキットで行ってもよい。参照溶液を操作温度に近い温度で貯蔵する場合、コンディショニングの必要性はなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下に、第1化合物および第2化合物がそれぞれクレアチニンおよびクレアチンであり、触媒が、クレアチニンとクレアチンの間の変換を触媒する酵素である、本発明の態様を記載する。
【0054】
図1は、本発明に従った参照溶液を保持する容器を提供するためのキットを示している。
図2は、酵素の存在下および非存在下での参照溶液のコンディショニング時のクレアチニン濃度対時間に関する比較データを示している。
【0055】
クレアチニンすなわち2−イミノ−1−メチルイミダゾリジン−4−オンは、脊椎動物の筋肉中でリン酸結合エネルギーの貯蔵および伝達に重要な役割を果たすクレアチンすなわちα−メチル−グアニド酢酸の分解産物である。これらの化合物は、(1)に示すように、互いに相互変換可能である。
【0056】
【化1】

【0057】
血液および尿中のクレアチニンレベルは、腎機能に関する有用な情報を提供する。正常な血中クレアチニン濃度は小児で20〜80μM、成人で50〜130μmの範囲にあるが、腎不全または尿毒性症候群を患う個人では1500μMにも達することがある。
【0058】
クレアチニンレベルを決定するために、クレアチニンからクレアチンへの加水分解に基づく酵素的アッセイが開発されている。そのようなアッセイの一つでは、クレアチニンをクレアチンに変換し、このクレアチンをサルコシンに変換し、このサルコシンをグリシン、ホルムアルデヒドおよび過酸化水素に酸化する。このようなアッセイについては、例えば国際公開第WO02/14533号パンフレットを参照のこと。その後、過酸化水素の濃度を電流測定により決定する。このセンサー系は、クレアチンの濃度を決定するための電極1本と、クレアチニンとクレアチンの合計濃度を決定するための別の電極を含む、二重電極系である。該アッセイにより、クレアチニンおよびクレアチンの合計濃度とクレアチンの濃度との差からクレアチニンの濃度を決定することが可能になる。
【0059】
クレアチニンとクレアチンの間の非触媒的変換は遅いものの重要である。25℃、pH=7.4におけるクレアチニンからクレアチンへの一次変換に関する速度定数は、2.4×10−3−1である。逆反応に関しては、速度定数は1.4×10−3−1である。40℃において、速度定数はそれぞれ10.1×10−3−1および8.5×10−3−1である。6℃において、速度定数はそれぞれ2.2×10−4−1および0.8×10−4−1である。非触媒的変換に必要な時間は、そのまま、日数、月数または年数単位で測定してよい。
【0060】
クレアチニン−クレアチン系に関し触媒作用を示す酵素はクレアチニンアミドヒドロラーゼであり得るが、これはクレアチニナーゼともよばれる。この酵素は、例えばRoche Diagnostics社により供給されるようなものであり、約80IU/mgの酵素活性を有し、1〜12IU/mLの範囲の濃度で参照溶液に加えることができる。
【0061】
参照溶液中のクレアチニンとクレアチンの合計濃度は50〜2000μMの範囲にあることができ、これは、周囲温度において約20〜750μMの範囲のクレアチニン濃度および約30〜1250μMの範囲のクレアチン濃度に相当する。この範囲のクレアチニン濃度は、それぞれ20〜80μMおよび50〜130μMである小児および成人の参照範囲(reference range)、ならびに約200μMの腎不全および約500μMの腎障害の発症レベルを包含しており、したがって、幅広い範囲での実用性を示す。
【実施例】
【0062】
図1を参照すると、1.5mmのポリエチレンから作成された容器100は、別個の2区画110および120を含む。大きい方の区画110は250mLの容量を有し、pH=7.4のHEPES緩衝液を200mL保持する。小さい方の区画120は、5.7mgのクレアチニン、11.2mgのクレアチンおよび1500IUのクレアチニンアミドヒドロラーゼの混合物を保持する。小さい方の区画120は、60μmのポリエステル膜130により、大きい方の区画110から分離されている。
【0063】
小さい方の区画120の外側表面に中程度の指圧を加えると、膜130は、大きい方の区画110内に押しのけられ、クレアチニン、クレアチンおよびクレアチニンアミドヒドロラーゼが、大きい方の区画110内の緩衝液中に移動する。該溶液は、25℃の操作温度で3時間コンディショニングした後、すぐに用いることができる。このように調製した参照溶液中のクレアチニンおよびクレアチンの濃度は、それぞれ250μMおよび425μmである。
【0064】
比較対照研究では、A、BおよびCと表示した3種の容器を上記のように用意し、クレアチニンおよびクレアチンの濃度をHPLCにより測定した。その後、容器を6℃で1年間貯蔵した。1年間貯蔵後、容器(A)は6℃でさらに14日間貯蔵し、続いて25℃で3時間コンディショニングした。容器(B)は25℃でさらに14日間貯蔵し、続いて25℃で3時間コンディショニングした。第三の容器(C)は40℃でさらに14日間貯蔵し、続いて25℃で3時間コンディショニングした。
【0065】
3種の容器A、BおよびCすべてにおけるクレアチニンとクレアチンの濃度を、HPLCと上記タイプの較正済みのクレアチニン/クレアチンセンサーにより決定した。クレアチニンおよびクレアチンの濃度は、25℃においてそれぞれ250μMおよび425μMであった、すなわち、濃度は、調製したままの溶液と比較して変化していなかった。
【0066】
比較のために、酵素を含まないが、その他の点では対応物であるA、BおよびCと同一の参照溶液を含有し、A’、B’およびC’と表示した追加の3種の容器を、A、BおよびCと同様の条件下で貯蔵およびコンディショニングした。
【0067】
容器A’(6℃)からの試料では、クレアチニンおよびクレアチンの濃度はそれぞれ243μMおよび432μMであった。容器B’(25℃)からの試料では、クレアチニンおよびクレアチンの濃度はそれぞれ243μMおよび432μMであった。容器C’(40℃)からの試料では、クレアチニンおよびクレアチンの濃度はそれぞれ260μMおよび415μMであった。この比較検討によって、酵素を含有しない溶液では、クレアチニン/クレアチンの相対組成が、それらの平衡組成、すなわち25℃における組成から著しく逸脱し得ることが示された。
【0068】
図2は、1年間にわたる25℃での長期コンディショニング中の容器AおよびA’からの試料に関するクレアチニン濃度対時間を示している。このコンディショニング期間中に、AおよびA’のクレアチニン濃度を、上記のようにt=0分、t=15分、t=60分、t=120分、t=1000分(約17時間)、t=10000分(約7日)、t=100000分(約70日)、およびt=525600分(1年)において測定した。
【0069】
t=0分、すなわちコンディショニング期間の開始時に、AおよびA’のクレアチニン濃度はそれぞれ179μMおよび243μMであった。179μMのAの濃度は、6℃の貯蔵温度での平衡濃度に相当する、すなわち、コンディショニング期間の開始時からこの溶液は平衡状態にある。触媒作用を示す酵素を含有しないA’の参照溶液では、このことはあてはまらない。6℃での1年間の貯蔵中に、A’中の溶液のクレアチニン濃度は、最初の濃度の250μMと比較して243μMまで低下した。しかしながら、これは、平衡レベルの179μMをなお大きく上回っていた。
【0070】
t=120分において、AおよびA’のクレアチニン濃度はそれぞれ250μMおよび243μMであった。したがって、t=120分において、Aの参照溶液はすでにその25℃における平衡状態に達していたが、A’の参照溶液はコンディショニング期間の開始時の濃度と比較して変化していなかった。
【0071】
t=525600分、すなわち1年間のコンディショニング後、AおよびA’のクレアチニン濃度はそれぞれ250μMおよび248μMであった。したがって、この長期コンディショニング期間の後であっても、A’の参照溶液はまだ平衡状態に達していなかった。
【0072】
この比較検討によって、触媒作用を示す酵素の存在が、平衡の確立に必要なコンディショニング期間を著しく短縮することができ、触媒作用を示す酵素の非存在下においては、平衡の確立がまったく実現可能であり得ないことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に従った参照溶液を保持するためのキットを示す図である。
【図2】酵素の存在下および非存在下での参照溶液のコンディショニング時のクレアチニン濃度対時間に関する比較データを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液相に、
互いに相互変換可能な第1化合物及び第2化合物の少なくとも一方;及び、
前記第1化合物と前記第2化合物の間の変換を触媒する少なくとも1種の触媒、
を含む、参照溶液。
【請求項2】
少なくとも1種の触媒が酵素である、請求項1に記載の参照溶液。
【請求項3】
酵素が加水分解酵素である、請求項2に記載の参照溶液。
【請求項4】
第1化合物がアミド又はエステルである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の参照溶液。
【請求項5】
第1化合物がクレアチニンであり、第2化合物がクレアチンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の参照溶液。
【請求項6】
少なくとも1種の触媒がクレアチニンアミドヒドロラーゼである、請求項5に記載の参照溶液。
【請求項7】
第1化合物が二酸化炭素であり、酵素が炭酸脱水酵素である、請求項2に記載の参照溶液。
【請求項8】
少なくとも1つの第1区画及び1つの別個の第2区画を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の参照溶液を保持する容器;
前記第1区画に含有されている液体第1相;及び
前記第2区画に含有されている第2相
を含むキットであって、ここで、前記第2相は、前記の第1化合物及び第2化合物の少なくとも一方及び前記触媒を含むことを特徴とする前記キット。
【請求項9】
容器がさらに別個の第3区画を含む請求項8に記載のキットであって、第1化合物及び第2化合物の少なくとも一方が別個の第2区画に含有され、少なくとも1種の触媒が別個の第3区画に含有されている、前記キット。
【請求項10】
区画間に流体連絡を提供することにより第2相を第1相に移動させる、請求項8または9に記載のキットの操作方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の参照溶液を保持する容器。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の参照溶液の調製方法であって、
液相に、
第1化合物及び第2化合物の少なくとも一方;及び
少なくとも1種の触媒、
を加える段階、並びに、
前記触媒を加える前または後に、選択した温度について前記第1化合物及び前記第2化合物の平衡濃度を決定する段階、
を含む、前記調製方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、平衡濃度の決定段階が、
第1化合物及び第2化合物の合計濃度を測定すること;及び
それに基づき平衡濃度を計算すること、
を含む、前記方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法であって、平衡濃度の決定段階が、
第1化合物及び第2化合物それぞれの濃度を測定すること;及び
それらに基づき平衡濃度を計算すること、
を含む、前記方法。
【請求項15】
請求項12に記載の方法であって、平衡濃度の決定段階が、
少なくとも1種の触媒を加えた後に第1化合物及び第2化合物の平衡濃度を確立させること;
前記第1化合物及び前記第2化合物うちの一方の平衡濃度を測定すること;並びに、
それに基づき前記第1化合物及び前記第2化合物うちの他方の平衡濃度を計算すること、
を含む、前記方法。
【請求項16】
請求項12に記載の方法であって、平衡濃度の決定段階が、
第1化合物及び第2化合物の少なくとも一方を予め決定された量で液相に加えること;及び、
所望によりそれに基づき平衡濃度を計算すること、
を含む、前記方法。
【請求項17】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の参照溶液を、第1化合物及び第2化合物の少なくとも一方又はそれに基づき誘導されるパラメーターに感受性のセンサーの較正または品質管理に用いることを含む方法。
【請求項18】
参照溶液を、センサーの較正または品質管理に先立ち、18〜32℃、好ましくは20〜25℃の温度範囲のコンディショニング温度でコンディショニングする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
参照溶液を、センサーの較正または品質管理に先立ち、0.1〜8時間、好ましくは0.1〜3時間のコンディショニング期間範囲の期間にわたりコンディショニングする、請求項17または18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−512519(P2007−512519A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540174(P2006−540174)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【国際出願番号】PCT/DK2004/000807
【国際公開番号】WO2005/052596
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(500554782)ラジオメーター・メディカル・アー・ペー・エス (20)
【Fターム(参考)】