説明

双極直流送電用同軸ケーブル

【課題】
1本のケーブルで双極直流送電システムを構成できるようにしてケーブル布設費用を低減する。双極直流送電時(正常運転時)及び単極直流送電時(片極故障時)の双方に対して外部漏れ磁界の発生を抑制する。
【解決手段】
中心に正又は負の一方の極性の直流送電経路となる主導体2を設け、この主導体2の外側に、主絶縁体3、前記主導体2とは逆極性の直流送電経路となる帰路導体4、帰路絶縁体5、中性線用外部導体6、中性線用絶縁体7、ケーブル保護層8、9を、順次同軸状に設けて、双極直流送電用同軸ケーブル1を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双極運転方式の直流送電システムにおいて、正極性の直流送電経路と負極性の直流送電経路と中性線を同軸状に統合した一本の直流送電用同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
直流送電には単極送電方式と双極送電方式がある。後者の双極送電方式は、単極送電方式に対して送電容量を大きくできる利点の他に、片極性の送電線路で故障が発生した時に他方の極性の送電線路を用いて50%の電力を送電できるため、電力供給信頼度が高いという利点がある。
【0003】
双極送電線路での片線故障時に他方の送電線路で送電する場合、帰路電流を大地あるいは海水を介して流す方式と、中性線ケーブルの導体を介して流す方式がある。前者の大地帰路あるいは海水帰路の場合には、直流電流による大地電位の変動や、周辺構築物の電気腐食、船舶のコンパスエラーや魚類などの生態系への悪影響が懸念される。このため、近年では後者の中性線ケーブルを用いる場合が多い。図3に従来の中性線を用いた双極送電方式を示す。
【0004】
図3(A)は、正極性の直流ケーブル11、負極性の直流ケーブル13及び中性線12の3本のケーブルを用いた双極線送電方式である。なお、図において、14は順変換器、15は逆変換器である(以下同じ)。
図3(B)は、例えば特許文献1の図1に示されるような直流同軸ケーブル16を使用し、その直流同軸ケーブル16の主導体17を正極性の直流送電用に使用し、主導体17の外周に絶縁層を介して設けた中性線導体18を中性線として使用し、負極性の直流送電用に別の直流ケーブル19(直流同軸ケーブルでもよい)を使用する方式である。
図3(C)は、双極送電用の直流同軸ケーブル(特許文献2参照)を用いた方式であり、双極送電用直流同軸ケーブル20の中心導体21に正極性の直流を接続し、第2の導体22に負極性の直流を接続し、鉛被23をアースに接続して、双極送電し、中性線回路は別の中性線ケーブル24を使用するものである。
【0005】
【特許文献1】特開平11−120837号公報
【特許文献2】特開2001−189113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の中性線を用いた双極送電方式(図3A、図3B、図3C)では、いずれも2本あるいは3本のケーブルが必要であり、ケーブル布設の複雑化とケーブル布設費用の高額化が問題である。
【0007】
他の問題として、直流送電回路から外部に漏れる磁界が環境に与える影響があり、船舶などに対してコンパスエラーを発生させたり、地磁気を感知して行動する生態系への悪影響や、有害な電磁波の発生などが懸念される。そこで、図3Aの方式では、漏れ磁界を低減するためにケーブル同士を互いにかなり近くに布設する必要があるが、ケーブル布設が難しくなる問題がある。直流同軸ケーブルを用いる図3Bの方式では、正常運転時には中性線(外部導体)にほとんど電流が流れないため(両極間のアンバランス電流が流れるが、定格電流の数%以下)、直流同軸ケーブル本来の漏れ磁場低減効果(主導体と帰路導体に流れる逆向きで同一電流値の電流により、漏れ磁界がキャンセルされて低減する効果)が発揮されず、やはり直流同軸ケーブルと他方の直流ケーブルを近接して布設しなければならない制約がある。
【0008】
また、図3Cの方式では、双極送電用直流同軸ケーブルの使用により、正常運転時には正極性と負極性で逆向きの同一電流値の電流が流れるため、漏れ磁場が低減される。しかし、片極性の故障時には、他方の極性の双極送電用直流同軸ケーブルの導体と中性線ケーブルの導体で直流送電回路が形成されるため、この時の漏れ磁界を低減するためには、双極送電用直流同軸ケーブルと中性線ケーブルを近接に布設しなければならないという制約がある。
【0009】
したがって本発明の目的は、ケーブル布設費用を低減でき、しかも双極直流送電時(正常運転時)及び単極直流送電時(片極故障時)のいずれの場合でも外部漏れ磁界の発生を抑制することができる双極直流送電用同軸ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る双極直流送電用同軸ケーブルは、中心に正又は負の一方の極性の直流送電経路となる主導体を設け、この主導体の外側に、主絶縁体、前記主導体とは逆極性の直流送電経路となる帰路導体、帰路絶縁体、中性線用外部導体、中性線用絶縁体、ケーブル保護層を、順次同軸状に設けたことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る双極直流送電用同軸ケーブルにおいては、主絶縁体及び帰路絶縁体が、耐直流用の高分子絶縁材料からなることが好ましい。
【0012】
また本発明に係る双極直流送電用同軸ケーブルにおいては、主絶縁体が耐直流用の架橋ポリエチレンからなり、帰路絶縁体が耐直流用の非架橋ポリエチレンからなることがさらに好ましい。なお、本発明のケーブルは、上述したような高分子材料押出絶縁ケーブル以外に、OFケーブル(Oil-filled Cable)や油浸紙ソリッドケーブル(Mass Impregnated又はNon Draining Cable)であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、1本の同軸ケーブルで中性線を含む双極直流送電を実現することができ、従来複数本(2〜3本)の直流ケーブルを布設する必要であったことに比べ、ケーブル布設費用を大幅に低減できるため、経済的効果が大きい。
【0014】
また本発明の直流同軸ケーブルを使用することにより、双極直流送電時(正常運転時)及び単極直流送電時(片極故障時)のいずれの場合でも外部漏れ磁界の発生を抑制することができるので、航海でのコンパスエラーや、地磁気を感知して行動する生態系への影響、有害な電磁波の発生等を防止することができる。
【0015】
本発明に係る直流同軸ケーブルを双極直流送電システムに使用した場合、双極送電の直流電圧が±V0とすると、主絶縁体間には2×V0の電圧が加わり、帰路絶縁体間にはV0の電圧が加わる。従って、主絶縁体及び帰路絶縁体は、上記電圧に耐え得るようにするために、耐直流用(60〜500kV)の高分子絶縁材料(例えば、直流用架橋ポリエチレンや、カーボン充填材入り架橋ポリエチレン、変性ポリオレフィン等)の押出成形により形成することが好ましい。
【0016】
また本発明に係る直流同軸ケーブルは、ケーブルの構造上から、主導体と帰路導体の最高許容温度には差があり、例えば、主導体と帰路導体の最高許容温度はそれぞれ90℃と75℃程度である。すなわち帰路絶縁体は、主絶縁体ほど高温では使用されず、高々75℃程度であるため、主絶縁体よりも耐熱性の低い高分子絶縁材料、例えば非架橋ポリエチレンで形成するとよい。帰路絶縁体に非架橋ポリエチレンを使用すると、架橋の必要がないため、帰路絶縁体の樹脂押出し設備を簡易化できる利点があり、ケーブル製造性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明に係る双極直流送電用同軸ケーブルの一実施形態を示す。この双極直流送電用同軸ケーブル1は、中心に主導体2を有し、その外周に主絶縁体3を有している。主絶縁体3は、内部半導電層、架橋ポリエチレン絶縁体層及び外部半導電層から構成されている。通常、内部半導電層、架橋ポリエチレン絶縁体層及び外部半導電層は同時押出法により形成され、この3層間は一体化されている。主絶縁体3の絶縁材料には、耐直流用(60〜500kV)の高分子絶縁材料を使用することができる。主絶縁体3は、例えば、直流用架橋ポリエチレンや、カーボン充填材入り架橋ポリエチレン、変性ポリオレフィン等を押出し成形することにより形成することができる。
【0018】
主絶縁体3の外側には、多数の銅線をらせん巻きした帰路導体4が設けられている。この帰路導体4の外側には、内部半導電層、ポリエチレン絶縁体層及び外部半導電層からなる帰路絶縁体5が設けられている。帰路絶縁体5は、耐直流用(60〜500kV)の高分子絶縁材料を押出し成形することにより形成される。帰路絶縁体5の絶縁材料としては、例えば、直流用の架橋ポリエチレンや、カーボン充填材入り架橋ポリエチレン、非架橋ポリエチレン、変性ポリオレフィン等を使用することができる。
【0019】
帰路絶縁体5の外側には、中性線用外部導体6が設けられている。中性線用外部導体6は、多数の銅線をらせん巻きする方法や、金属テープを巻きつける方法や、それらを複合した方法にて形成することができる。
【0020】
中性線用外部導体6の外側には、中性線の絶縁に必要な中性線用絶縁体7が設けられている。この中性線用絶縁体7は、例えば内部半導電層、ポリエチレン絶縁体層及び外部半導電層から構成される。
【0021】
中性線用絶縁体7の外側には鉛被8が設けられ、鉛被の外側には防食層9が設けられている。鉛被8及び防食層9はケーブル保護層である。なお、このケーブル1を海底ケーブルとして使用する場合には、防食層9の外周に、さらに座床、鉄線鎧装、サービング層が設けられる。
【0022】
図2は、図1の断面をもつ直流同軸ケーブル1を双極直流送電システムに使用した場合の概略図である。主導体2には正極性の直流が接続され、帰路導体4には負極性の直流が接続され、中性線用外部導体6には順変換器14及び逆変換器15の中性点が接続されている。なお、主導体2に負極性の直流を接続し、帰路導体4に正極性の直流を接続することも可能であることは勿論である。
【0023】
図2の双極直流送電システムでは、主導体2と帰路導体4に同一電流値で逆向きの電流が同軸状に流れるため、外部への漏れ磁界を理論上ゼロとすることができる。正常運転時には、中性線用外部導体6には両極間のアンバランス電流(定格電流の数%以下)が流れるため、その電流による若干の外部漏れ磁界が発生するが、例えば図3(A)のように正極性の直流ケーブルと負極性の直流ケーブルと中性線ケーブルの計3本のケーブルを近接に布設した場合に比べると、外部漏れ磁界を低減できることは明らかである。
【0024】
また図2の双極直流送電システムにおいて、片極性で故障が発生した場合には、他方の極性の導体(主導体あるいは帰路導体)と中性線用外部導体を用いて正常運転時の50%の電力を単極直流送電することが可能であり、電力供給の信頼度向上が期待できる。この場合、中性線用外部導体6を接地側帰路電流回路として利用するが、他方の極性の導体と中性線用外部導体には同一電流値で逆向きの電流が同軸状に流れるため、外部への漏れ磁界を理論上ゼロとすることができる。この時、中性線用外部導体6には、直流電流の電圧降下分に相当する直流電圧が生じるため、中性線用外部導体6とその外側の鉛被8との間には中性線用の絶縁体7が設けられる。中性線用外部導体6に誘起される直流電圧は、中性線用外部導体に流れる電流と導体抵抗(中性線用外部導体の断面積と送電距離で決まる)及び送電距離に依存するが、通常では高々10kV程度である。そこで、中性線用絶縁体7は、例えば非架橋ポリエチレンを押出し成形することにより形成することができる。
【0025】
また、片極故障時に中性線用外部導体7を接地側帰路電流回路として利用して単極直流送電を行うことを想定した場合、正常運転時と片極故障による単極運転時のいずれに対しても、主導体、帰路導体及び中性線用外部導体の最高許容温度を上回らないように各導体断面積を選択すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る双極直流送電用同軸ケーブルの一実施形態を示す断面図。
【図2】図1のケーブルを双極直流送電システムに使用した場合の概略構成図。
【図3】(A)〜(C)はそれぞれ従来の双極直流送電システムの概略構成図。
【符号の説明】
【0027】
1:双極直流送電用同軸ケーブル
2:主導体
3:主絶縁体
4:帰路導体
5:帰路絶縁体
6:中性線用外部導体
7:中性線用絶縁体
8:鉛被
9:防食層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブル中心に正又は負の一方の極性の直流送電経路となる主導体を設け、この主導体の外側に、主絶縁体、前記主導体とは逆極性の直流送電経路となる帰路導体、帰路絶縁体、中性線用外部導体、中性線用絶縁体、ケーブル保護層を、順次同軸状に設けたことを特徴とする双極直流送電用同軸ケーブル。
【請求項2】
主絶縁体及び帰路絶縁体が、耐直流用の高分子絶縁材料からなる請求項1記載の双極直流送電用同軸ケーブル。
【請求項3】
主絶縁体が耐直流用の架橋ポリエチレンからなり、帰路絶縁体が耐直流用の非架橋ポリエチレンからなる請求項2記載の双極直流送電用同軸ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−59085(P2007−59085A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239909(P2005−239909)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)