説明

反応器

【課題】水蒸気を生成する性能を向上させる。
【解決手段】反応器10は、水と反応した際に生じる反応熱によって水蒸気を生成し、加熱されることによって水と分離されて蓄熱する化学蓄熱材30と、この化学蓄熱材30を内蔵する熱交換器40と、を備えている。熱交換器40は、化学蓄熱材30が収容された蓄熱材収容空間42と、蓄熱材収容空間42と連通する複数の吐出口50、外部水供給部と接続される主管52、及び、主管52と複数の吐出口50とを連通する支管54を有して構成された水流路44と、化学蓄熱材30を加熱する熱媒を流通させるための熱媒流路46と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多孔質管と、この多孔質管の内部に充填された複数の酸化カルシウム成型体と、この複数の酸化カルシウム成型体の間にそれぞれ積層された耐熱性多孔質部材とを備えた反応器が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−180539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この反応器は、一つ若しくは複数の水供給管が反応器の外壁部に単に接続された構成であり、反応器の内部に供給された水は、反応器内に配置された耐熱性多孔質部材によって形成された空間を通じて反応器の内部まで浸透する、という作動が想定されている。
【0005】
しかしながら、このような構成では、耐熱性多孔質部材の多孔空間を流通する水が反応器の内部へ流入すると同時に酸化カルシウム成型体とも接触するため、供給口付近においては即座に水和反応が生じ、反応熱に伴って供給された水の一部が水蒸気へ気化する。この気化した水蒸気は水の内部への浸透を阻害し、酸化カルシウム成型体全体へ均一な水供給を実現することは困難となる。すなわち、耐熱性多孔質部材を用いる従来技術では、水蒸気を生成する性能が低い。
【0006】
本発明は、上記課題である水の均一供給を実現し、水蒸気を生成する性能を向上させることができる反応器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の反応器は、水と反応した際に生じる反応熱によって水蒸気を生成し、加熱されることによって水と分離されて蓄熱する化学蓄熱材と、前記化学蓄熱材を内蔵する熱交換器と、を備え、前記熱交換器は、前記化学蓄熱材が収容された蓄熱材収容空間と、前記蓄熱材収容空間と連通する複数の吐出口、外部水供給部と接続される主管、及び、前記主管と前記複数の吐出口とを連通する支管を有して構成された水流路と、前記化学蓄熱材を加熱する熱媒を流通させるための熱媒流路と、を有している。
【0008】
この反応器によれば、水流路を熱交換器の内部に設け、複数の吐出口から化学蓄熱材全体に水を供給するため、化学蓄熱材全体が水と均一に反応できる。また、このような構成とすることで、より多くの吐出口を容易に設けることができるため、水の浸透距離を減らすことができ、水和反応熱によって生じる水蒸気が化学蓄熱材内部への水の浸透を妨げる流路閉塞作用を大幅に抑制させることができる。これにより、化学蓄熱材全体を均一に反応させることができるため、反応速度が向上し、結果的に得られた反応熱によって水蒸気を生成する性能を向上させることができる。
【0009】
請求項2に記載の反応器は、請求項1に記載の反応器において、前記支管が、複数の分岐部を有する樹形形状とされているものである。
【0010】
この反応器によれば、支管は、複数の分岐部を有する樹形形状とされているので、動圧を利用して水を分配することができる。これにより、複数の吐出口から同時に水を吐出させることができる。
【0011】
請求項3に記載の反応器は、請求項1又は請求項2に記載の反応器において、前記複数の吐出口が、千鳥状に配列されているものである。
【0012】
この反応器によれば、複数の吐出口は、千鳥状に配列されているので、最少口数で化学蓄熱材全体により均一に水を供給することができる。
【0013】
請求項4に記載の反応器は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の反応器において、前記蓄熱材収容空間が、鉛直方向に沿って延びると共に、鉛直方向上側の端部に前記化学蓄熱材で生成された水蒸気を外部に放出する放出口を有し、前記支管に供給される水の流れの方向と、前記水蒸気が放出される方向が一致されているものである。
【0014】
この反応器によれば、支管に供給される水の流れの方向と、蓄熱材収容空間から外部に放出される水蒸気の放出方向とが一致されている。これにより、水蒸気の生成温度分布による水の供給の阻害を抑制することができる。
【0015】
請求項5に記載の反応器は、請求項4に記載の反応器において、前記熱交換器が、前記水流路が形成された水流路形成壁部を有し、前記複数の吐出口が、前記水流路形成壁部における前記放出口側の非形成領域よりも鉛直方向下側に形成されているものである。
【0016】
反応器では、鉛直方向下側において熱生成、水蒸気生成を、鉛直方向上側において熱生成、水蒸気をスーパヒートすることが理想となる。
【0017】
従って、この反応器のように、複数の吐出口が、水流路形成壁部における放出口側の非形成領域よりも鉛直方向下側に形成されていると、放出口の周辺部への水の供給による温度低下を抑制し、鉛直方向下側において生成した水蒸気による水和反応による熱を水蒸気へ効果的に回収するスーパヒートが可能となる。
【0018】
請求項6に記載の反応器は、請求項5に記載の反応器において、前記非形成領域における前記水流路形成壁部と前記化学蓄熱材との間に伝熱部が設けられているものである。
【0019】
この反応器によれば、非形成領域には、水流路が形成された水流路形成壁部と化学蓄熱材との間に伝熱部が設けられているので、発熱状態にある化学蓄熱材と水流路との対流熱交換を促進し、より効果的に高温の水蒸気を生成することができる。
【0020】
請求項7に記載の反応器は、請求項4〜請求項6のいずれか一項に記載の反応器において、前記複数の吐出口の各々の鉛直方向下側に、前記蓄熱材収容空間内を鉛直方向上側に向かって流れる水蒸気を遮蔽する遮蔽部が設けられているものである。
【0021】
吐出口付近では、吐出口より供給された水と上流側で生成された水蒸気が干渉することで供給水の分散を阻害する傾向を示す。本来、供給水は分散配置され、吐出された供給水を吐出口間を補完するように均一に分散供給する(濡れ広がる)ことが必要となる。一方で、上流側で生成された水蒸気は流量、速度を増加して系内を流動する。
【0022】
従って、この反応器のように、複数の吐出口の各々の鉛直方向下側に、蓄熱材収容空間内を鉛直方向上側に向かって流れる水蒸気を遮蔽する遮蔽部が設けられていると、上流からの水蒸気流れの干渉を抑制し、吐出口からの効果的な水の分散供給が可能となる。
【0023】
請求項8に記載の反応器は、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の反応器において、前記熱交換器が、前記水流路が形成された水流路形成壁部を有し、前記水流路形成壁部における前記複数の吐出口以外の部分に、前記蓄熱材収容空間と連通し、前記化学蓄熱材で生成された水蒸気を流通させるための水蒸気流路が形成されているものである。
【0024】
この反応器によれば、水流路形成壁部には、化学蓄熱材で生成された水蒸気を流通させるための水蒸気流路が形成されているので、水蒸気の流路の断面積を拡大し、内部水蒸気の流動に伴う圧力損失を低減することで水蒸気の排出をスムーズに行うことができる。また、水が供給されて発熱した化学蓄熱材に、さらに水蒸気を供給することができ、より高温の水蒸気を生成することができる。
【0025】
また、この水蒸気流路は、複数の吐出口以外の部分に形成されているので、生成された水蒸気が吐出口に流入して、吐出口から化学蓄熱材への水の供給が妨げられることを抑制することができる。
【0026】
請求項9に記載の反応器は、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の反応器において、前記支管が、流れの方向に向かうに従って流れの方向と直交する断面積が段階的に縮小する増圧部を有しているものである。
【0027】
この反応器によれば、支管は、流れの方向に向かうに従って流れの方向と直交する断面積が段階的に縮小する増圧部を有しているので、この増圧部により、支管を流れる水の圧力を段階的に制御することができる。
【0028】
請求項10に記載の反応器は、請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の反応器にいおいて、前記複数の吐出口の各々が、円形部と、前記円形部の外周に放射状に形成された複数の長孔とを有しているものである。
【0029】
この反応器によれば、複数の吐出口の各々は、円形部の外周に放射状に形成された複数の長孔を有しているので、この複数の長孔を有する分、この複数の吐出口が開口する壁面の濡れ面積を拡大することができる。
【0030】
請求項11に記載の反応器は、請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載の反応器において、前記熱交換器が、前記水流路が形成された水流路形成壁部を有し、前記水流路形成壁部と前記化学蓄熱材との間に、断熱部が設けられているものである。
【0031】
この反応器によれば、水流路が形成された水流路形成壁部と化学蓄熱材との間には、断熱部が設けられているので、化学蓄熱材の熱が水流路に伝達されて、水流路内に水蒸気が生じることを抑制することができる。
【0032】
請求項12に記載の反応器は、請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載の反応器において、前記熱交換器が、前記熱媒流路と前記蓄熱材収容空間との間の隔壁部と、前記水流路が形成された水流路形成壁部とを有し、前記化学蓄熱材が、前記隔壁部と前記水流路形成壁部とによって拘束されているものである。
【0033】
この反応器によれば、化学蓄熱材は、熱媒流路と蓄熱材収容空間との間の隔壁部と、水蒸気流路形成壁部とによって拘束されているので、水和反応又は脱水反応に伴う体積変化で化学蓄熱材が崩壊することを抑制することができる。
【0034】
請求項13に記載の反応器は、請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載の反応器において、前記支管が、キャピラリ又はオリフィスからなる圧力調整部を有しているものである。
【0035】
この反応器によれば、支管は、キャピラリ又はオリフィスからなる圧力調整部を有しているので、この圧力調整部によって支管の内部圧力を調整することで、支管の各部を流れる水の量を均一にすることができる。
【0036】
請求項14に記載の反応器は、請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載の反応器において、前記熱交換器が、前記水流路が形成された水流路形成壁部を有し、前記水流路形成壁部における前記蓄熱材収容空間側の壁面に、前記複数の吐出口を繋ぐと共に前記複数の吐出口の各々の直径寸法よりも小さい幅寸法を有する複数の細溝が形成されているものである。
【0037】
この反応器によれば、水流路形成壁部における前記蓄熱材収容空間側の壁面には、前記複数の吐出口を繋ぐと共に前記複数の吐出口の各々の直径寸法よりも小さい幅寸法を有する複数の細溝が形成されているので、この細溝の毛管力により化学蓄熱材の全体に水を供給することができる。
【0038】
請求項15に記載の反応器は、請求項1〜請求項14のいずれか一項に記載の反応器において、前記熱交換器が、前記水流路が形成された水流路形成壁部を有し、前記水流路形成壁部における前記蓄熱材収容空間側の壁面に、前記複数の吐出口の各々から鉛直方向上側に延びると共に前記複数の吐出口の各々の直径寸法よりも小さい幅寸法を有する複数の細溝が形成されているものである。
【0039】
この反応器によれば、水流路形成壁部における前記蓄熱材収容空間側の壁面には、前記複数の吐出口の各々から鉛直方向上側に延びると共に前記複数の吐出口の各々の直径寸法よりも小さい幅寸法を有する複数の細溝が形成されているので、この細溝の毛管力により化学蓄熱材の全体に水を供給することができると共に、細溝から水が鉛直方向下側に流れることを抑制することができる。
【0040】
請求項16に記載の反応器は、請求項1〜請求項15のいずれか一項に記載の反応器において、前記熱交換器が、前記水流路が形成された水流路形成壁部を有し、前記水流路形成壁部における前記蓄熱材収容空間側の壁面に、前記複数の吐出口の各々から水平方向に延びると共に前記複数の吐出口の各々の直径寸法よりも小さい幅寸法を有する複数の細溝が形成されているものである。
【0041】
この反応器によれば、水流路形成壁部における前記蓄熱材収容空間側の壁面には、前記複数の吐出口の各々から水平方向に延びると共に前記複数の吐出口の各々の直径寸法よりも小さい幅寸法を有する複数の細溝が形成されているので、水流路形成壁部における蓄熱材収容空間側の壁面における保水性を確保することができると共に、細溝から水が鉛直方向下側に流れることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0042】
以上詳述したように、本発明によれば、水蒸気を生成する性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係る反応器を用いた水蒸気生成システムの全体構成を示す図である。
【図2】図1に示される反応器の斜視図である。
【図3】図1に示される反応器の平面図である。
【図4】図3のA−A線断面図である。
【図5】図3のB−B線断面図である。
【図6】図4に示される水流路形成壁部をC−C方向から見た矢視図である。
【図7】図1に示される反応器の変形例を示す分解斜視図である。
【図8】図1に示される水流路の変形例を示す断面図である。
【図9】図1に示される水流路の他の変形例を示す断面図である。
【図10】図6に示される吐出口の変形例を示す図である。
【図11】図1に示される反応器の他の変形例を示す断面図である。
【図12】図6に示される水流路形成壁部の変形例を示す図である。
【図13】図12に示される水流路形成壁部に沿う水蒸気の流れを示す図である。
【図14】図13に示される吐出口周辺部の変形例を示す図である。
【図15】図6に示される水流路形成壁部の変形例を示す図である。
【図16】図15のD−D線断面図である。
【図17】図5に示される水流路の変形例を示す図である。
【図18】図1に示される反応器の他の変形例を示す斜視図である。
【図19】図18の要部拡大図である。
【図20】図1に示される反応器の他の変形例を示す斜視図である。
【図21】図20の要部拡大図である。
【図22】図20に示される反応器の他の変形例を示す要部拡大図である。
【図23】図6に示される水流路形成壁部の他の変形例を示す図である。
【図24】図23の要部拡大図である。
【図25】図23の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0045】
図1に示されるように、本発明の一実施形態に係る反応器10は、水蒸気生成システムSに適用されている。この水蒸気生成システムSは、反応器10に加え、水タンク12と、液送ポンプ14及びバルブ16が設けられた水供給管18と、水蒸気排出管20とを備えている。
【0046】
水タンク12には、水22が貯留されている。反応器10は、水供給管18によって水タンク12と密閉状態で接続されている。この反応器10は、水タンク12から水が供給されると、水蒸気を生成し、水蒸気排出管20を通じて図示しない水蒸気利用装置に水蒸気を供給するものである。この反応器10は、具体的には、次の構成とされている。
【0047】
すなわち、反応器10は、図2〜図5に示されるように、化学蓄熱材30と、この化学蓄熱材30を内蔵する熱交換器40とを備えている。化学蓄熱材30は、水と反応した際に生じる反応熱によって水蒸気を生成し、加熱されることによって水と分離されて蓄熱する。この化学蓄熱材30としては、例えば、プレート状に成型されたもの、又は、粒子状のものが用いられる。
【0048】
本実施形態では、化学蓄熱材30として、アルカリ土類金属の水酸化物の1つである酸化カルシウム(CaO)が用いられている。従って、反応器10では、以下の如く、水和反応及び脱水反応が可逆的に繰り返し得るようになっている。
CaO + HO ⇔ Ca(OH)
【0049】
なお、この式に蓄熱量及び発熱量Qを併せて示すと、以下のようになる。
Ca(OH) + Q → CaO + H
CaO + HO → Ca(OH) + Q
【0050】
熱交換器40は、化学蓄熱材30が収容された蓄熱材収容空間42と、上述の水供給管18(図1参照)と蓄熱材収容空間42とを連通する水流路44と、化学蓄熱材30を加熱する熱媒を流通させるための熱媒流路46と、を有している、
【0051】
蓄熱材収容空間42は、鉛直方向に沿って延びると共に、鉛直方向上側の端部に化学蓄熱材30で生成された水蒸気を外部に放出する放出口48を有している。この放出口48は、上述の水蒸気排出管20(図1参照)と接続されている。
【0052】
水流路44は、蓄熱材収容空間42と連通する複数の吐出口50、外部水供給部の一例である水供給管18と接続される主管52、及び、主管52と複数の吐出口50を連通する支管54を有して構成されている。
【0053】
支管54は、図6に示されるように、複数の分岐部を有する樹形形状とされている。また、複数の吐出口50は、鉛直方向(Z方向)に配列されており、本実施形態では、一例として、千鳥状に配列されている。
【0054】
また、熱交換器40は、水流路44が形成された水流路形成壁部56を有しており、上述の複数の吐出口50は、この水流路形成壁部56における鉛直方向上側(上述の放出口48側)の非形成領域58よりも鉛直方向下側に形成されている。
【0055】
また、図4に示されるように、熱媒流路46には、フィン60が設けられている。この熱媒流路46と蓄熱材収容空間42との間には、隔壁部62が形成されている。
【0056】
次に、本発明の一実施形態の作用及び効果について説明する。
【0057】
この反応器10によれば、水流路44を熱交換器40の内部に設け、複数の吐出口50から化学蓄熱材30全体に水を供給するため、化学蓄熱材30全体が水と均一に反応できる。また、このような構成とすることで、より多くの吐出口50を容易に設けることができるため、水の浸透距離を減らすことができ、水和反応熱によって生じる水蒸気が化学蓄熱材30内部への水の浸透を妨げる流路閉塞作用を大幅に抑制させることができる。これにより、化学蓄熱材30全体を均一に反応させることができるため、反応速度が向上し、結果的に得られた反応熱によって水蒸気を生成する性能を向上させることができる。
【0058】
また、支管54は、複数の分岐部を有する樹形形状とされているので、動圧を利用して水を分配することができる。これにより、複数の吐出口50から同時に水を吐出させることができる。
【0059】
さらに、複数の吐出口50は、千鳥状に配列されているので、最少口数で化学蓄熱材30全体により均一に水を供給することができる。
【0060】
また、支管54に供給される水の流れの方向と、蓄熱材収容空間42から外部に放出される水蒸気の放出方向とが一致されている。これにより、水蒸気の生成温度分布による水の供給の阻害を抑制することができる。
【0061】
ところで、反応器では、鉛直方向下側において熱生成、水蒸気生成を、鉛直方向上側において熱生成、水蒸気をスーパヒートすることが理想となる。
【0062】
従って、この反応器10のように、複数の吐出口50が、水流路形成壁部56における鉛直方向上側(上述の放出口48側)の非形成領域58よりも鉛直方向下側に形成されていると、放出口48の周辺部への水の供給による温度低下を抑制し、鉛直方向下側において生成した水蒸気による水和反応による熱を水蒸気へ効果的に回収するスーパヒートが可能となる。
【0063】
次に、本発明の一実施形態の変形例について説明する。
【0064】
図7に示されるように、水流路形成壁部56には、複数の吐出口50以外の部分に、蓄熱材収容空間42と連通し、化学蓄熱材30で生成された水蒸気を流通させるための水蒸気流路70が複数形成されていても良い。なお、この変形例では、一例として、複数の水蒸気流路70は、鉛直方向(Z方向)に延びると共に、水平方向に並んで形成されている。
【0065】
このように構成されていると、水蒸気の流路の断面積を拡大し、内部水蒸気の流動に伴う圧力損失を低減することで水蒸気の排出をスムーズに行うことができる。また、水が供給されて発熱した化学蓄熱材30に、さらに水蒸気を供給することができ、より高温の水蒸気を生成することができる。
【0066】
また、この水蒸気流路70は、複数の吐出口50以外の部分に形成されているので、生成された水蒸気が吐出口50に流入して、吐出口50から化学蓄熱材30への水の供給が妨げられることを抑制することができる。
【0067】
なお、複数の吐出口50、及び、水蒸気流路70における蓄熱材収容空間42側の開口を塞ぐように、水流路形成壁部56と化学蓄熱材30との間に多孔体72が設けられていても良い。ここでは、多孔体72の一例として、ステンレス製のメッシュが用いられている。このようにすると、化学蓄熱材30の反応により飛散した飛散物が複数の吐出口50又は水蒸気流路70に詰まることを抑制することができる。
【0068】
また、図8、図9に示されるように、支管54は、流れの方向に向かうに従って流れの方向と直交する断面積が段階的に縮小する増圧部74を有していても良い。
【0069】
このように構成されていると、この増圧部74により、支管54を流れる水の圧力を段階的に制御することができる。
【0070】
また、図10に示されるように、複数の吐出口50の各々は、円形部50Aと、円形部50Aの外周に放射状に形成された複数の長孔50Bとを有していても良い。
【0071】
このように構成されていると、この複数の長孔50Bを有する分、この複数の吐出口50が開口する壁面の濡れ面積を拡大することができる。
【0072】
また、図11に示されるように、水流路形成壁部56と化学蓄熱材30との間には、断熱部76が設けられていても良い。
【0073】
このように構成されていると、化学蓄熱材30の熱が水流路44(支管54)に伝達されて、水流路44内に水蒸気が生じることを抑制することができる。
【0074】
また、図11に示されるように、水流路形成壁部56には、突起状の拘束部77が形成され、化学蓄熱材30は、熱媒流路46と蓄熱材収容空間42との間の隔壁部62と、拘束部77(水流路形成壁部56)とによって拘束されていても良い。
【0075】
このように構成されていると、水和反応又は脱水反応に伴う体積変化で化学蓄熱材30が崩壊することを抑制することができる。
【0076】
また、図11に示されるように、非形成領域58には、水流路形成壁部56と化学蓄熱材30との間に伝熱部78が設けられていても良い。なお、この伝熱部78としては、例えば、フィンや多孔体を用いることができる。
【0077】
このように構成されていると、発熱状態にある化学蓄熱材30と水流路44との対流熱交換を促進し、より効果的に高温の水蒸気を生成することができる。
【0078】
また、図12に示されるように、放出口48には、鉛直方向上側に向かうに従って縮径する絞り部80が形成されていても良い。
【0079】
このように構成されていると、内部断面積を拡大し内部水蒸気の流動に伴う圧力損失を低減することで水蒸気の排出をスムーズに行うことができる(図13参照)。また、上流部での水蒸気空間を縮小することで液水貯留による温度低下を抑制することができる。
【0080】
また、図14に示されるように、複数の吐出口50の各々の鉛直方向下側には、蓄熱材収容空間42内を鉛直方向上側に向かって流れる水蒸気を遮蔽する遮蔽部82が設けられていても良い。なお、この変形例では、一例として、遮蔽部82は、鉛直方向下側に凸を成す円弧状に形成されている。
【0081】
吐出口50付近では、吐出口50より供給された水と上流側で生成された水蒸気が干渉することで供給水の分散を阻害する傾向を示す。本来、供給水は分散配置され、吐出された供給水を吐出口50間を補完するように均一に分散供給する(濡れ広がる)ことが必要となる。一方で、上流側で生成された水蒸気は流量、速度を増加して系内を流動する。
【0082】
従って、この変形例のように、複数の吐出口50の各々の鉛直方向下側に、蓄熱材収容空間42内を鉛直方向上側に向かって流れる水蒸気を遮蔽する遮蔽部82が設けられていると、上流からの水蒸気流れの干渉を抑制し、吐出口50からの効果的な水の分散供給が可能となる。
【0083】
また、図15,図16に示されるように、蓄熱材収容空間42は、水流路形成壁部56における水流路44が形成された以外の部分に肉盗み部84が形成されることで、鉛直方向上側(放出口48側)に向かうに従って断面積が拡大されていても良い。なお、図15では、理解のようにために、ドットが付された領域によって肉盗み部84が示されている。
【0084】
この反応器10では、水蒸気の流れ方向に対し生成水蒸気量の増加、温度上昇による流速の増加が発生する。従って、この変形例のように、蓄熱材収容空間42が、放出口48に向かうに従って断面積が拡大されていると、内部水蒸気の流動に伴う圧力損失を低減することで水蒸気の排出をスムーズに行うことができる。
【0085】
また、水流路形成壁部56における水流路44が形成された以外の部分に肉盗み部84が形成されることで、蓄熱材収容空間42が放出口48に向かうに従って断面積が拡大されていると、水流路44の断面積を確保しつつ、蓄熱材収容空間42の断面積を拡大し、内部水蒸気の流動に伴う圧力損失を低減することで水蒸気の排出をスムーズに行うことができる。
【0086】
また、図17に示されるように、支管54は、キャピラリ又はオリフィスからなる圧力調整部86を有していても良い。
【0087】
このように構成されていると、この圧力調整部86によって支管54の内部圧力を調整することで、支管54の各部を流れる水の量を均一にすることができる。
【0088】
また、図18、図19に示されるように、水流路形成壁部56における蓄熱材収容空間42側の壁面には、複数の吐出口50を繋ぐと共に複数の吐出口50の各々の直径寸法よりも小さい幅寸法を有する複数の細溝88(マイクログルーブ)が形成されていても良い。
【0089】
このように構成されていると、この細溝88の毛管力により化学蓄熱材30(図4等参照)の全体に水を供給することができる。
【0090】
また、図20、図21に示されるように、この複数の細溝88は、複数の吐出口50の各々から鉛直方向上側に延びていても良い。
【0091】
このように構成されていると、この細溝88の毛管力により化学蓄熱材30の全体に水を供給することができると共に、細溝88から水が鉛直方向下側に流れることを抑制することができる。
【0092】
さらに、図22に示されるように、この複数の細溝88は、複数の吐出口50の各々から水平方向(X方向)に延びていても良い。
【0093】
このように構成されていると、水流路形成壁部56における蓄熱材収容空間42側の壁面における保水性を確保することができると共に、細溝88から水が鉛直方向下側に流れることを抑制することができる。
【0094】
また、図23〜図25に示されるように、複数の吐出口50を有する支管54は、次のように形成されていても良い。すなわち、この変形例では、板状(直方体)の蓄熱材収容空間42の3面(XY,XZ,YZ)のうち、最も面積が大きい面(ここではYZ面)上に複数の吐出口50が設けられている。これにより、複数の吐出口50を多数設けることができ、化学蓄熱材30(図4等参照)全体に均一に水を供給することができる。また、蓄熱材収容空間42が板状に薄く構成されることで化学蓄熱材30の奥にまで容易に水を供給できる。
【0095】
また、この変形例では、複数の吐出口50に水を均一に供給するために、支管54は、複数の流路に分岐されており、全体として、樹形形状とされている。また、支管54の各分岐部の形状は、輸送される水の動圧を利用して水をよどみなく分配するために、できる限り鋭角とされることが好ましい。このように、複数の吐出口50が支管54の各所に設けられていると、支管54の流路圧損が複数の噴出口の圧損に比べ十分小さく設定される。これにより、複数の吐出口50全体から均一に水を化学蓄熱材30に供給できる。
【0096】
なお、上記複数の変形例のうち、組み合わせ可能な変形例は、適宜、組み合わされて実施可能である。
【0097】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能である。
【符号の説明】
【0098】
10 反応器
12 水タンク
30 化学蓄熱材
40 熱交換器
42 蓄熱材収容空間
44 水流路
46 熱媒流路
48 放出口
50A 円形部
50B 長孔
50 吐出口
52 主管
54 支管
56 水流路形成壁部
58 非形成領域
62 隔壁部
70 水蒸気流路
74 増圧部
76 断熱部
78 伝熱部
80 絞り部
82 遮蔽部
84 肉盗み部
86 圧力調整部
88 細溝
S 水蒸気生成システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と反応した際に生じる反応熱によって水蒸気を生成し、加熱されることによって水と分離されて蓄熱する化学蓄熱材と、
前記化学蓄熱材を内蔵する熱交換器と、
を備え、
前記熱交換器は、
前記化学蓄熱材が収容された蓄熱材収容空間と、
前記蓄熱材収容空間と連通する複数の吐出口、外部水供給部と接続される主管、及び、前記主管と前記複数の吐出口とを連通する支管を有して構成された水流路と、
前記化学蓄熱材を加熱する熱媒を流通させるための熱媒流路と、
を有している反応器。
【請求項2】
前記支管は、複数の分岐部を有する樹形形状とされている、
請求項1に記載の反応器。
【請求項3】
前記複数の吐出口は、千鳥状に配列されている、
請求項1又は請求項2に記載の反応器。
【請求項4】
前記蓄熱材収容空間は、鉛直方向に沿って延びると共に、鉛直方向上側の端部に前記化学蓄熱材で生成された水蒸気を外部に放出する放出口を有し、
前記支管に供給される水の流れの方向と、前記水蒸気が放出される方向が一致されている、
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項5】
前記熱交換器は、前記水流路が形成された水流路形成壁部を有し、
前記複数の吐出口は、前記水流路形成壁部における前記放出口側の非形成領域よりも鉛直方向下側に形成されている、
請求項4に記載の反応器。
【請求項6】
前記非形成領域には、前記水流路形成壁部と前記化学蓄熱材との間に伝熱部が設けられている、
請求項5に記載の反応器。
【請求項7】
前記複数の吐出口の各々の鉛直方向下側には、前記蓄熱材収容空間内を鉛直方向上側に向かって流れる水蒸気を遮蔽する遮蔽部が設けられている、
請求項4〜請求項6のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項8】
前記熱交換器は、前記水流路が形成された水流路形成壁部を有し、
前記水流路形成壁部には、前記複数の吐出口以外の部分に、前記蓄熱材収容空間と連通し、前記化学蓄熱材で生成された水蒸気を流通させるための水蒸気流路が形成されている、
請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項9】
前記支管は、流れの方向に向かうに従って流れの方向と直交する断面積が段階的に縮小する増圧部を有している、
請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項10】
前記複数の吐出口の各々は、円形部と、前記円形部の外周に放射状に形成された複数の長孔とを有している、
請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項11】
前記熱交換器は、前記水流路が形成された水流路形成壁部を有し、
前記水流路形成壁部と前記化学蓄熱材との間には、断熱部が設けられている、
請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項12】
前記熱交換器は、前記熱媒流路と前記蓄熱材収容空間との間の隔壁部と、前記水流路が形成された水流路形成壁部とを有し、
前記化学蓄熱材は、前記隔壁部と前記水流路形成壁部とによって拘束されている、
請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項13】
前記支管は、キャピラリ又はオリフィスからなる圧力調整部を有している、
請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項14】
前記熱交換器は、前記水流路が形成された水流路形成壁部を有し、
前記水流路形成壁部における前記蓄熱材収容空間側の壁面には、前記複数の吐出口を繋ぐと共に前記複数の吐出口の各々の直径寸法よりも小さい幅寸法を有する複数の細溝が形成されている、
請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項15】
前記熱交換器は、前記水流路が形成された水流路形成壁部を有し、
前記水流路形成壁部における前記蓄熱材収容空間側の壁面には、前記複数の吐出口の各々から鉛直方向上側に延びると共に前記複数の吐出口の各々の直径寸法よりも小さい幅寸法を有する複数の細溝が形成されている、
請求項1〜請求項14のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項16】
前記熱交換器は、前記水流路が形成された水流路形成壁部を有し、
前記水流路形成壁部における前記蓄熱材収容空間側の壁面には、前記複数の吐出口の各々から水平方向に延びると共に前記複数の吐出口の各々の直径寸法よりも小さい幅寸法を有する複数の細溝が形成されている、
請求項1〜請求項15のいずれか一項に記載の反応器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−215331(P2012−215331A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80217(P2011−80217)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)