説明

反応活性種を含む水の製造方法および反応活性種を含む水

【課題】 水中の微小気泡に対して物理的刺激を与えたり酸化剤を作用させたりすることなく簡易に行うことができる、反応活性種を含む水の製造方法を提供すること。
【解決手段】 電気伝導度が100μS/cm以上でpHが5以下の水中に、粒径が50μm以下の微小気泡を発生させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、あらゆる技術分野にその有用性が潜在する特別な機能を付与した水としての反応活性種を含む水の製造方法および当該方法により製造されてなる反応活性種を含む水に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸基ラジカル(・OH)や水素ラジカル(・H)などのフリーラジカル種に代表される反応活性種が、化学物質の分解、有害微生物の殺菌、界面の洗浄などの優れた作用を有することは当業者によく知られた事実である。そして、このような反応活性種を含む水は、汚水処理などの水処理や有害物質の分解処理や様々な化合物の化学合成などに利用できるため、近年、その利用価値が注目されている。本発明者らは、このような反応活性種を含む水の製造方法を長年に亘って研究しており、その研究成果として、特許文献1において、水中に発生させた粒径が50μm以下の微小気泡に対し、放電や超音波照射やパンチング板通過などの物理的刺激を与えたり、オゾンや過酸化水素などの酸化剤を作用させたりすることで、これを強制的に圧壊して水中で反応活性種を生成させる方法を提案している。しかしながら、この方法は、物理的刺激を与えるため装置設備や酸化剤を必要とする。従って、より簡易な、反応活性種を含む水の製造方法の開発が望まれている。
【特許文献1】国際公開第2005/030649号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、水中の微小気泡に対して物理的刺激を与えたり酸化剤を作用させたりすることなく簡易に行うことができる、反応活性種を含む水の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の点に鑑みてなされた本発明の反応活性種を含む水の製造方法は、請求項1記載の通り、電気伝導度が100μS/cm以上でpHが5以下の水中に、粒径が50μm以下の微小気泡を発生させることを特徴とする。
また、請求項2記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、水中に微小気泡を発生させた後、少なくとも10秒間、微小気泡を水中で自然浮遊させることを特徴とする。
また、請求項3記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、微小気泡を発生させる水の電気伝導度を、電解質を加えることで調整することを特徴とする。
また、請求項4記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、微小気泡を発生させる水のpHを、有機酸および/または無機酸を加えることで調整することを特徴とする。
また、請求項5記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、反応活性種が水酸基ラジカルであることを特徴とする。
また、本発明の水中における反応活性種の生成方法は、請求項6記載の通り、電気伝導度が100μS/cm以上でpHが5以下の水中に、粒径が50μm以下の微小気泡を発生させることを特徴とする。
また、本発明の反応活性種を含む水は、請求項7記載の通り、電気伝導度が100μS/cm以上でpHが5以下の水中に、粒径が50μm以下の微小気泡を発生させることにより製造されてなることを特徴とする。
また、本発明の酸化対象物の処理方法は、請求項8記載の通り、請求項7記載の反応活性種を含む水の中に酸化対象物を存在せしめ、水中の反応活性種により酸化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、水中の微小気泡に対して物理的刺激を与えたり酸化剤を作用させたりすることなく簡易に行うことができる、反応活性種を含む水の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の反応活性種を含む水の製造方法は、電気伝導度が100μS/cm以上でpHが5以下の水中に、粒径が50μm以下の微小気泡を発生させることを特徴とするものである。ある程度の水深(例えば20cm以上)を有する水槽内や天然水域において、水の電気伝導度を100μS/cm以上とし、かつ、pHを5以下とした上で、粒径が50μm以下の微小気泡を発生させると、微小気泡は、自然浮遊する条件下で、その球形を正常に維持したまま、気液界面に水中のイオン、例えば、水酸基イオン、プロトン(水素イオン)、電気伝導度の調整のために電解質を加えた場合やもともと水中に電解質が存在する場合には電解質イオンなどを電荷として濃縮させながら縮小し、そして消滅の瞬間に高濃度に濃縮された電荷がその濃縮の要因である界面を喪失することにより、超高電場として蓄えられた電荷エネルギーが瞬時に開放されることで、反応活性種が生成する。反応活性種の生成メカニズムとしては、超高電場として蓄えられた電荷エネルギーの解放により、気泡の周囲にあった水が強制的に分解されることによるものが考えられる。本発明の方法によって製造される反応活性種を含む水は、汚水処理などの水処理や有害物質の分解処理や様々な化合物の化学合成などに利用できる。
【0007】
本発明において、水中に粒径が50μm以下の微小気泡を発生させる方法は特段限定されるものではなく、自体公知の方法を採用することができる。例えば、気液混合物を流動下において攪拌することにより行うことができる。この場合、回転子などを利用して半径が10cm以下の渦流を強制的に生じせしめ、壁面などの障害物や相対速度の異なる流体に気液混合物を打ち当てることにより、渦流中に獲得した気体成分を渦の消失とともに分散させることで、所望の微小気泡を大量に発生させることができる。また、2気圧以上の高圧下で気体を水中に溶解させた後、これを大気圧に開放することにより生じた溶解気体の過飽和条件から気泡を発生させることができる。この場合、圧力の開放部位において、水流と障害物を利用して半径が1mm以下の渦を多数発生させ、渦流の中心域における水の分子揺動を起因として多量の気相の核(気泡核)を形成させるとともに、過飽和条件に伴ってこれらの気泡核に向かって水中の気体成分を拡散させ、気泡核を成長させることにより、所望の微小気泡を大量に発生させることができる。なお、これらの方法によって発生した気泡群の濃度は100個/mL以上であり、1000個/mLよりも多い値となることも稀ではない(必要であれば特開2000−51107号公報や特開2003−265938号公報などを参照のこと)。
【0008】
微小気泡を発生させる水の電気伝導度は、必要に応じて電解質を加えることで調整することが望ましい。電解質としては塩化ナトリウムや塩酸や硫酸や硝酸などを使用することができる。使用する電解質の種類を変えることで、生成する反応活性種の種類を変えることができる。
【0009】
微小気泡を発生させる水のpHは、必要に応じて有機酸および/または無機酸を加えることで調整することが望ましい。有機酸としては酢酸やシュウ酸やクエン酸などを使用することができる。無機酸としては塩酸や硫酸や硝酸などを使用することができる。
【0010】
本発明者らは、様々な条件下における微小気泡の特性を長年に亘って研究することにより、本発明に関して下記の知見を得た。即ち、水中に粒径が50μm以下の微小気泡を発生させると、気泡の気液界面に水酸基イオンやプロトンが集積する。これは水が有している構造的な要因に関連したものであり、特に水酸基イオンが集積しやすい傾向にある。この傾向は図1に示すように微小気泡のゼータ電位として表現される(この現象についての詳細は本発明者によって公表された文献、例えば、Journal of Physical Chemistry B 109-46, pp21858-21864, ζ Potential of Microbubbles in Aqueous Solutions: Electrical Properties of the Gas-Water Interface, M. Takahashi,などを参照のこと)。また、電気伝導度の調整のために電解質を加えた場合やもともと水中に電解質が存在する場合、気液界面の電荷に応じて電解質イオンが静電気力により界面周辺に引き寄せられて、所謂電気二重層を形成し、電荷が周囲に及ぼす影響は局所的である。このように微小気泡は水酸基イオンやプロトンおよびその周囲の電解質イオンに取り囲まれているが、これらのイオンは気泡からの気体の溶解を著しく制限するものではないため、気泡はその内部の気体を溶解させることにより表面積を急速に減少させる。これに伴う気泡粒径の減少は、ヤング・ラプラスの法則に基づいて内部の気体を強く加圧する。加圧された気体はヘンリーの法則に従って気泡周囲の水中に溶け込むため、気泡は縮小速度を上昇させながらついには水中で消滅する(この現象についての詳細は本発明者らによって公表された文献、例えば、Journal of Physical Chemistry B 107-10, pp2171-2173, Effect of Shrinking Microbubble on Gas Hydrate Formation, M. Takahashi, et.al.,などを参照のこと)。
【0011】
今般、本発明者らは、上記の条件において気泡粒径の縮小速度が0.5μm/秒を超えると、気液界面の移動速度が水中における電解質イオンの拡散速度よりも有意に速くなり、逃げ切れなくなった電解質イオンが気液界面に濃縮し始めることを世界に先駆けて発見した。微小気泡が球形を維持することを絶対条件として、この濃縮速度は気泡粒径の減少に伴って増加する傾向にあり、電気伝導度が100μS/cm以上でありpHが5以下である水中においては、最終的な気泡消滅の瞬間には気液界面の表面電位が1000Vを超えると予想されるような極めて特異な超高電場を形成する。縮小過程における気泡が最後まで球形を維持できる唯一の手法、自然浮遊による自然放置である。自然放置の条件下では物理的刺激がないため、球形の気泡は変形されずに内部加圧効果による縮小過程を経て分裂することなく反応活性種の生成に必要な表面電荷条件を形成する。以上の観点から、水中に微小気泡を発生させた後、少なくとも10秒間、微小気泡を水中で自然浮遊させることが望ましい。なお、微小気泡の通常の流動や配管内での平行移動では、微小気泡に物理的刺激を与えたことにはならないため、これらの系内においても、電気伝導度が100μS/cm以上でpHが5以下の水中に、粒径が50μm以下の微小気泡を発生させることができれば、発生した微小気泡は反応活性種の生成に寄与する。
【0012】
本発明の特徴は、反応活性種を生成させるために微小気泡の縮小過程に伴う超高電場の形成を利用するものであり、これは放電や超音波照射やパンチング板通過などの物理的刺激などの極限反応場を利用して反応活性種を生成させる方法とは大きく異なる。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0014】
実施例1:
例えば、特開2003−265938号公報に記載の方法に従って、4気圧の高圧下で空気を電気伝導度が100μS/cm以上でpHが5以下の水中に溶解させた後、これを大気圧に開放することにより生じた溶解空気の過飽和条件から粒径が50μm以下の微小気泡を発生させ、これをビーカーに採取した。なお、水の電気伝導度とpHは硫酸を加えることで調整した。ビーカーにスピントラップ剤であるDMPO(5,5−ジメチル−1−ピロリン−N−オキシド)を加えた後、いっさいの物理的刺激を与えることなく卓上でしばらく静置し、微小気泡を自然浮遊の条件下におくことで、水中に反応活性種を生成させた。以上の方法によって生成させた反応活性種を、電子スピン共鳴法(ESR)により測定した。図2に微小気泡が消滅した後にESRで分析した反応活性種のスペクトルを示す。図2から明らかなように、このスペクトルからは、水酸基ラジカルに特徴的な1:2:2:1の大きさを示す4個のピークが認められ、反応活性種として水酸基ラジカルが生成したことがわかった。水酸基ラジカルは水中における最も強力な酸化剤の一つであるので、この方法によれば、水中に生成させた水酸基ラジカルを利用して、様々な化学物質を酸化分解できることがわかった。
【0015】
実施例2:
自体公知の微小気泡発生装置(必要であれば特開2003−265938号公報を参照のこと)を使用して、5Lの容器に満たしたフェノールを1.5mMの濃度で添加した電気伝導度が100μS/cm以上でpHが5以下の水中に、粒径が50μm以下の微小気泡を発生させた。なお、水の電気伝導度とpHは硝酸を加えることで調整した。供給した気体は空気であり、その供給量は約2L/分とした。発生した微小気泡の平均粒径は約10μm、気泡群の濃度は約2000個/Lであった。微小気泡を連続的に発生させる都合上、ポンプは駆動させ続けたが、循環量は8L/分程度とし、容器中に放出されている微小気泡の50%以上は、最低でも10秒間はポンプの駆動に伴う物理的刺激を受けることのない自然浮遊の条件下においた。微小気泡発生装置を作動させた後、水中に添加したフェノールの濃度がどのように変化するかを調べた結果を図3に示す。図3から明らかなように、微小気泡発生装置を3時間作動させることにより、フェノールを約30%分解することができた。また、これとともに、フェノールの分解中間物質であるベンゾキノンの他、ギ酸やシュウ酸などの生成を認めた。以上の結果は、実施例1で示したように、微小気泡が自然浮遊の過程で球形を維持しながら縮小し、消滅する瞬間に高濃度に濃縮した電荷がその濃縮の要因である界面を喪失することにより、超高電場として蓄えられた電荷エネルギーが瞬時に開放されることで、反応活性種として水酸基ラジカルが生成し、生成した水酸基ラジカルがフェノールを酸化分解したことによるものと考えられた。なお、水の電気伝導度が100μS/cm未満の場合や、pHが5よりも大きい場合には、フェノールの分解は起こらなかった。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、水中の微小気泡に対して物理的刺激を与えたり酸化剤を作用させたりすることなく簡易に行うことができる、反応活性種を含む水の製造方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】微小気泡の気液界面におけるイオン類の分布を示す概念図である。
【図2】実施例1において生成させた反応活性種としての水酸基ラジカルのESRスペクトルである。
【図3】実施例2におけるフェノール分解の時間推移を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気伝導度が100μS/cm以上でpHが5以下の水中に、粒径が50μm以下の微小気泡を発生させることを特徴とする反応活性種を含む水の製造方法。
【請求項2】
水中に微小気泡を発生させた後、少なくとも10秒間、微小気泡を水中で自然浮遊させることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
微小気泡を発生させる水の電気伝導度を、電解質を加えることで調整することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
微小気泡を発生させる水のpHを、有機酸および/または無機酸を加えることで調整することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
反応活性種が水酸基ラジカルであることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
電気伝導度が100μS/cm以上でpHが5以下の水中に、粒径が50μm以下の微小気泡を発生させることを特徴とする水中における反応活性種の生成方法。
【請求項7】
電気伝導度が100μS/cm以上でpHが5以下の水中に、粒径が50μm以下の微小気泡を発生させることにより製造されてなることを特徴とする反応活性種を含む水。
【請求項8】
請求項7記載の反応活性種を含む水の中に酸化対象物を存在せしめ、水中の反応活性種により酸化することを特徴とする酸化対象物の処理方法。

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−93612(P2008−93612A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280514(P2006−280514)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「有害化学物質リスク削減基盤技術研究開発 マイクロバブルの圧壊による有害化学物質の高効率分解技術の開発」、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(503357735)株式会社REO研究所 (21)
【Fターム(参考)】