説明

収容物の落下防止構造及び滑止シート

【課題】 本棚等が地震波の振動を受けたとき、確実に収容物の落下を防止することができる構造を提供することを目的としている。
【解決手段】 ほぼ水平な棚板12と、該棚板12の最奥部に立設された背板13と、前記棚板12の手前端側に敷かれて収容物が載置される滑止シート15と、を有し、前記収容物Aの最奥端と前記背板13との間に隙間Sが設けられ、前記滑止シート15と前記収容物Aとの重なり部分の奥行き寸法Wが、前記収容物の奥行き寸法Lの1/2を越えることを特徴としている。収容物Aは滑止シート15上に載っているので、棚板12の手前側にも奥側にも移動せず、隙間Sがあるので背板13にも接触しないので、飛び出したり、落下することがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震などで棚から書籍、CD、DVD等(これらをここでは「収容物」と称することにする)が落下するのを防止する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
地震などの外力による振動で、本棚から多数の収容物がバラバラと降るように落下する。このような収容物の落下を防止するものとして、特許文献1(特開平11−178665)、特許文献2(特開平11−276276)、特許文献3(特開平9−173170)、特許文献4(特許2826811号)、特許文献5(特開2003−79461)が知られている。
【0003】
特許文献1から4は、具体的な機構は個々に相違するが、いずれも、本棚の手前側に落下防止用のバーを設けたものである。このバーは、通常の場合は、棚板と同じ高さにあって書籍の出し入れの邪魔にならないようになっている。そして、地震の揺れを検知すると、このバーが移動し、書籍の落下を防止するものである。
【0004】
しかしながら、これらの落下防止装置は、誤動作が多い。これは、本棚の揺れが各部所や高さで一定ではないため、地震の際に作動するところと作動しないところが混在することが原因と考えられる。また、別の原因として、地震ではなく、人やブックカートが本棚に衝突した場合にも、作動する場合がある。
【0005】
さらに、最近の阪神大震災や新潟地震などの巨大な地震では、加速度500ガル程度以上が加わることになる。このような状況下で、落下防止バーが出てきて書籍の落下を防止しようとすると、移動落下しようとする書籍類を止めるために、急激がな衝撃が本棚の全体にかかる。その結果、本棚内の書籍は棚の上を一斉に同じ方向に移動し、エネルギーが集中・増幅して本棚全体を倒壊させてしまうことになる。
【0006】
特許文献5は、特許文献1〜4とは異なった考えに基づくものである。これは、棚の上の手前側に高摩擦材シートを敷き、この上に書籍などの収容物を載置するもので、高摩擦材シートの幅が、収容物の奥行き長さの1/2以下となっている。この場合、収容物の重心は、高摩擦材シートから外れた棚の奥側になる。
【0007】
地震などの振動が加わると、収容物は、高摩擦材シートの作用によって、棚の手前側には移動しない。したがって、収容物が棚の手前側から落下するのを防止できる、というものである。
【特許文献1】特開平11−178665
【特許文献2】特開平11−276276
【特許文献3】特開平9−173170
【特許文献4】特許2826811号
【特許文献5】特開2003−79461
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献5に記載のものは、地震の揺れが小さければ、問題ないが、振動が若干大きくなると、以下に説明するように、落下防止機能がなくなってしまうという問題がある。
【0009】
地震波による変位は、阪神大震災の場合180mm程度と言われており、一般的にも100mm程度の変位を考える必要がある。また、地震波の入力加速度は300ガル程度で、この加速度で、書籍などの収容物が動くことになる。
【0010】
収容物の落下は、特許文献5には、高摩擦材シートを使用していない場合には、収容物としての書籍が降るように落ちる、と記載されている。この現象は、入力加速度が300ガル以下の場合でも生じる。しかし、特許文献5では、高摩擦材シートを設けているので、手間側には移動しないはずで、降るように落ちることはないように思える。
【0011】
ところが、特許文献5に記載された高摩擦材シートを使用した場合でも、地震の際には、以下のような作用により、収容物が飛び出すことが起こる。すなわち、高摩擦材シートの作用により、収容物は棚の手間側には移動しないが、奥側には移動できる。そして、奥側には背板があり、地震の振動で収容物が奥側に移動し、背板に接触すると、背板の振動が直接加わり、書籍などの収容物が、あたかも、カタパルトから飛び出すように、背板で押されて勢いよく飛び出す。この現象は、高摩擦材シートを使用した場合でも300ガル未満で生じる。
【0012】
また、別の問題として、地震波の特徴として、高い位置ほど地震波の入力速度が増幅されるという事実がある。たとえば、棚最下部の揺れが300ガルでも、高さ1mでは1.5倍、2mでは2倍の600ガルとなる。
【0013】
したがって、地震波を受けたとき、棚の奥側(背板の方向)に移動できるようにすることは、却って危険である。
【0014】
本発明は、斯かる問題の解決を図ったもので、より確実に収容物の落下を防止することができる構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために本発明の収容物の落下を防止することができる構造は、ほぼ水平な棚板と、該棚板の最奥部に立設された背板と、前記棚板の手前端側に敷かれて収容物が載置される滑止シートと、を有し、前記収容物の最奥端と前記背板との間に隙間が設けられ、前記滑止シートと前記収容物との重なり部分の奥行き寸法が、前記収容物の奥行き寸法の1/2を越えることを特徴としている。
【0016】
前記滑止シートが、ポリエステル繊維又はナイロン繊維からなる糸を使用した布帛に、シリコーン樹脂又はポリウレタン樹脂が塗布され、織目に対応した凹凸を有するシートである構成としたり、前記滑止シートの厚さが0.1〜1.0mmである構成としたり、前記滑止シートに塗布した樹脂が、発泡性の樹脂である構成としたりすることができる。
【0017】
本発明の滑止シートは、ポリエステル繊維又はナイロン繊維からなる糸を使用した布帛に、発泡性のシリコーン樹脂又はポリウレタン樹脂を塗布し、織目又は編目に対応した凹凸を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
棚から書籍などの収容物が落下しないようにするには、背板や背受けに収容物を接触させないことである。すなわち、地震の振動を受けたとき、前方にも移動しないが、後方にも移動しないようにする必要がある。本発明によれば、収容物と背板との間に隙間があり、かつ、収容物が滑止シート上に載っているので、収容物は、地震波の振動を受けても、前方にも後方にも移動しなくなり、背板に接触することもないので、落下を確実に防止できるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の収容物の落下を防止することができる構造の実施例としての本棚の要部を示す側面図で、図2は正面図である。本棚10は、通常の本棚と同様の構成で、ほぼ平行に立設された側板11、11間に、水平な複数の棚板12と、この棚板12の最奥部に立設された背板13とを有する。
【0020】
本発明では、棚板12の上に滑止シート15を敷いていることに特徴がある。そして、この滑止シート15の上に書籍などの収容物Aが載せられている。
【0021】
滑止シート15は、衝撃を和らげ、振動を減衰させるクッションとしての機能を有するもので、市販されている滑止シートや高摩擦材シート等を使用することができる。この実施例では、ポリエステル繊維からなる糸で織った織物に、シリコーン樹脂を表裏両面からコーティングしたものを使用している。シリコーン樹脂は発泡性でなくてもよいが、発泡性のものが望ましい。発泡性のものは、顕微鏡で見ると微小な気泡を有しており、この気泡がクッションとなって地震の衝撃を緩和することができるからである。また、片面に塗布するだけでもよいが、両面に塗布する方が、滑止効果が上がるので望ましい。
【0022】
なお、ポリエステル繊維に代えてナイロン繊維を使用してもよく、また、シリコーン樹脂に代えて発泡性のポリウレタン樹脂を使用することもできる。発泡性であれば、独立気泡でも連続気泡でもよい。また布帛は、製織したものに限定されず、編機で編んだ布帛でもよい。要するに、織り目や編目に対応した凹凸があればよい。
【0023】
図3は滑止シート15の斜視図で、図4は滑止シート15の断面の一部を拡大した模式図である。滑止シート15は、平織り、斜文織り等の織物にシリコーン樹脂を塗布したもので、織り目に対応した多数の凸部15aと、これら凸部15aに囲まれた多数の凹部15bとを有する。シリコーン樹脂による滑止の効果に、織物の凹凸による滑止の効果が加わって、滑止の相乗効果を得ることができた。滑止シート15の厚さは、0.1〜1mmである。1mmを越えると、書籍等を載せたとき滑止シート15の一部と棚板12との間に空気が入り易くなり、滑止シート15が動き易くなるからであり、0.1mm未満は製造が困難だからである。実施例では、特に望ましい厚さである、0.3mmとした。
【0024】
滑止シート15と収容物Aとの重なり部分の幅、すなわち、図1に示す奥行き方向の寸法Wと、収容物Aの奥行き方向の寸法Lとは、W>L/2という関係になっている。このような関係になると、収容物Aの重心は滑止シート15の上に載り、収容物Aの重さは全て滑止シート15に加わることになり、滑止シート15と棚板12との摩擦力が増加するので、滑止効果が増大する。
【0025】
さらに、本発明では、収容物Aの最奥端と背板13との間に図1に示すSの隙間を確保している。この隙間Sは、地震の振動を受けても収容物Aが背板13に接触しないようにするためのもので、3cm以上が望ましく、実施例では5cmとした。3cm未満にすると、地震の振動により収容物Aが背板13と衝突する可能性があるからである。上限値には特に制限はないが、7cmを越えると、スペース的に無駄が多くなる。
【0026】
本発明の滑止シート15は、ポリエステル繊維からなる糸で織った織物にシリコーン樹脂をコーティングしているので、黴菌の繁殖を抑える機能がある。すなわち、黴菌が滑止シート15上に付着すると、黴菌は凸部15aから隣接する凹部15bへと落下する。そして、それ以上周囲には拡散しない。凹部15bに落ち込んだ黴菌は、周囲から水分や栄養になるものを得ることができず、増殖をすることができない。したがって、収容物Aを構成する紙類に黴が発生することを防止することができる。
【0027】
地震による揺れが発生すると、その振動が本棚10から棚板12に伝達され、棚板12の振動が収容物Aに伝達される。収容物Aは、滑止シート15上に載っているので、前方にも後方にも移動しない。特に、塗布されている樹脂が発泡性の樹脂であるから、力の加わった部分が沈み込むことで衝撃力を吸収することができ、動きにくくすることができる。また、背板13との間にも隙間Sがあるので、地震で収容物Aが揺れても背板13に接触することはない。したがって、収容物Aが本棚10から飛び出したり、落下したりすることを防止することができる。
【0028】
さらに、本発明では、地震の揺れが著しく大きい場合には、収容物Aを落下させることで、本棚が倒れることを防止することができる。
【0029】
〔加振実験〕
図5に示す条件で、加振実験を行った。実験は、木製書架3段を中央で仕切り、左側(A区)の各棚には、本発明の滑止シート15を敷いた。右側(B区)は滑止シートの無い通常の棚板とした。図5において、積載荷重は、A区、B区ともに各棚20Kg重とした。棚の高さは、最下段が床上15cm、最上段が床上65cmであった。
【0030】
入力加速度は、床に加えられた振動の加速度である。応答加速度は、棚板の上で測定された加速度で、一方側をプラス、他方側をマイナスで表示した。ただし、平均値は絶対値で求めている。加速度の単位はガルである。
増減率は、次式により求められる。
〔(応答加速度の絶対値)/(入力加速度)〕×100%
【0031】
図5には、実験2〜4のデータを記載したが、実験1は、以下の条件で行った。
〔実験1〕
入力加速度185ガル 想定震度 3〜4 応答加速度(最上段)301ガル
A区、B区ともに書籍の落下は無かったが、B区の書籍がずれ始めた。300ガル前後で書籍の移動が起こることが分かった。
【0032】
〔実験2〕
入力加速度518ガル 想定震度 4〜5 応答加速度(最上段)918.5ガル
B区から書籍が落下した。A区の書籍は殆ど動かず、全く落下しなかった。
【0033】
〔実験3〕
入力加速度816ガル 想定震度 6弱〜6強 応答加速度(最上段)1437ガル
B区から書籍が落下した。A区の書籍は30冊中、1,2冊が落下する程度に止まった。
【0034】
〔実験4〕
入力加速度1203ガル 想定震度 7 応答加速度(最上段)1861ガル
A区の書籍は落下したが、本棚が倒れるのは防止できた。
【0035】
以上の試験の結果から、本発明では、震度6強程度の揺れでも、殆ど書籍が落下しない本棚を得ることができることが分かった。また、震度7程度になると、書籍を落下させることで、本棚の倒壊を防止することができることも確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の収容物の落下を防止することができる構造の実施例としての本棚の要部を示す側面図である。
【図2】図1の本棚の正面図である。
【図3】滑止シートの斜視図である。
【図4】滑止シートの断面の一部を拡大した模式図である。
【図5】加振実験の条件を示す表である。
【符号の説明】
【0037】
10 本棚
11 側板
12 棚板
13 背板
15 滑止シート
15a 凸部
15b 凹部
L 収容物の奥行き寸法
W 滑止シートと収容物との重なり部分の奥行き寸法


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほぼ水平な棚板と、該棚板の最奥部に立設された背板と、前記棚板の手前端側に敷かれて収容物が載置される滑止シートと、を有し、前記収容物の最奥端と前記背板との間に隙間が設けられ、前記滑止シートと前記収容物との重なり部分の奥行き寸法が、前記収容物の奥行き寸法の1/2を越えることを特徴とする収容物の落下防止構造。
【請求項2】
前記滑止シートが、ポリエステル繊維又はナイロン繊維からなる糸を使用した布帛に、シリコーン樹脂又はポリウレタン樹脂が塗布され、織目に対応した凹凸を有するシートであることを特徴とする請求項1に記載の収容物の落下防止構造。
【請求項3】
前記滑止シートの厚さが0.1〜1.0mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の収容物の落下防止構造。
【請求項4】
前記滑止シートに塗布した樹脂が、発泡性の樹脂であることを特徴とする請求項1から3に記載の収容物の落下防止構造。
【請求項5】
ポリエステル繊維又はナイロン繊維からなる糸を使用した布帛に、発泡性のシリコーン樹脂又はポリウレタン樹脂を塗布し、織目又は編目に対応した凹凸を有することを特徴とする滑止シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−301980(P2008−301980A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151157(P2007−151157)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(595019555)株式会社ハウステック (7)