説明

収量向上したP4O6の製造方法

本質的にP46から成る反応生成物の製造方法を、反応ユニット内で、酸素とリンとを発熱反応において反応させることにより実施する。発熱反応によって生み出された熱を、反応ユニット内に本方法のP46および/または副生成物を供給することにより除去する。次いで、生成した反応生成物を、反応生成物の本質的な分解が起こらないより低い温度にクエンチし、そしてクエンチ後に得られた反応生成物から少なくとも一部のP46を分離する。使用したリンに基づいて、得られたP46の収率は改善され、そして発熱反応の熱を、経済的な方法で制御し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンと酸素の反応によって作られる、実験式P46を有する酸化リン(III)の製造方法に関し、該方法において、反応生成物は、高収率で、本質的に純粋な形態で得られる。従って、これは、工業的に重要なクラスの化学品である有機リン(III)化合物の製造における優良な「基礎材料」(本明細書中で使用される場合、この用語は、出発物質、原料および中間体としてのその使用をいつも含むものとする)となる。本明細書で使用される場合、用語「P46」は、P23(三酸化リン)のような酸化リン(III)に対して慣習的に用いられる全ての式を包含することを目的としている。
【背景技術】
【0002】
46は、これまで商業的規模で製造されたことはなく、そしてすでに提案されてはいるが、例えば、有機リン(III)化合物の製造のための基礎材料として、商業的に使用されたことはない。原料としてP46を使用する代わりに、三塩化リン(PCl3)から出発して、このような化学品は通常作られる。しかし、PCl3の応用はいくつかの不利な点を有する。それは、白リンと反応するための大量の塩素の使用を必要とする。PCl3は、22.7質量%のリンを含むのみであり、そしてさらに、PCl3から作られる中間体および最終生成物は、通常、塩化物を含まない。その結果として、塩素はかなりの量の所望でない副生成物の形態で放出され、しばしば、複雑で高価な処理工程で分離される塩酸が含まれる。地域の実情では、価値の低い副生成物として販売可能であるが、多くの場合、廃棄が必要である。
【0003】
PCl3の代わりに、亜リン酸、H3PO3を多くの製造プロセスにおける基礎材料として使用することができ、そのようにしてPCl3に関する悪影響の一部を避けることができる。しかし、H3PO3もまた、商業的にはPCl3から加水分解によって作られ、このことは、塩素の存在に関する不利な点が、生産鎖での異なる段階でのみ、未だ現れるという意味を含む。さらに、H3PO3は、PCl3と比較して著しく異なる反応性を示すという欠点を有する。
【0004】
その対応する無水物であるP46の使用は、前記の不利な点を示さず、このことは、広範囲の化学におけるそのような基礎材料としてのその使用を可能にする。さらに、そのリン含有量はPCl3またはH3PO3よりも著しく高く、それを三価のリンの最も濃縮された供給源とし、従って、それは化学合成において、より価値のあるそして適切な基礎材料となる。
【0005】
開示されたP46の製造方法は、一般に、白リンと酸素との化学量論的量での直接反応によって実施される。反応混合物は、冷却しなければ6000Kまでの温度に達し得る炎の中で生成される。P46は不安定であり、そして700Kを超える温度で分解され、不要なリンの酸化物(詳細には、P(III/V)の酸化物およびリンの亜酸化物の混合物)およびリン元素を形成することが知られている。従って、どのようにして、迅速に、そして効果的に得られた反応混合物をクエンチし、そして冷却して分解を回避し、そして商業上重要なリン(III)化合物の製造における基礎材料として適切になる高純度の生成物を高収率で得るかについて、多くの提案がなされた。
【0006】
特許文献1に記載されるP46の製造方法は、反応物質、エバポレートしたリンおよび酸素−不活性ガス混合物を混合ノズル内で化合させる工程を包含する。反応はリアクター内で起こり、使用する不活性ガスの量に依存して、2000〜6000Kの温度で、酸化リンの混合物を生成する。反応混合物は、0.005秒を超えない非常に短い滞留時間の後、リアクターを通過する。P46は1500〜700Kの温度範囲で不安定となるので、反応混合物は、ほんの短い時間だけ、1600〜1200Kの温度のリアクター内に保持され、次いで、700Kより低く、最終的に300Kまで迅速に冷却され、これは反応混合物の分解を回避する3つの工程を意味する。第一の冷却工程において、反応生成物はリアクター内で迅速に冷却され、適量の不活性ガスをリアクター内に添加し、さらに例えば、水でリアクターの壁を冷却することにより、1600〜1200Kの間の温度のリアクターから出る。この第一の冷却工程を、リアクター内で、0.1*106〜10*106Ks-1の速度で実施する。リアクターから出た後、反応混合物は、第一の冷却工程に続いて直ちに第二の冷却工程においてさらに迅速に冷却される。これによって、第一の冷却工程で用いられたのと同じ高い冷却速度が使われるが、好ましくは、反応混合物に大量の不活性ガスを添加することによって、約700Kの温度まで冷却される。最後に、第三の冷却工程において、反応混合物は300Kより低い温度に間接的に冷却され、そして凝縮される。場合により、最後の冷却工程の間、液状のP46または液状の反応混合物を添加し、冷却手段の内壁に液膜を形成させ、冷却手段の内表面上での副生成物の凝縮ならびにスケーリング(scaling)および障害物(obstruction)の発生(resulting)を回避する。次いで、例えば、蒸留により反応混合物を精製する。この明細書の実施例2および3に明記されるように、第三の冷却工程において、液状のP46または液状の反応混合物を反応混合物に添加することによる、使用したリンの質量に基づくP46の収率は、それぞれ、80.8%、および75.9%のみであった。つまり、この方法は、一般に、商業的利益の収率において、P46の製造に適切でない。
【0007】
特許文献2により提案されたP46の製造方法は、ガス状のリンと酸素とをリアクター内で反応させるという、特許文献1で述べられたのと同じ原理を使用しているが、改善された冷却工程を使用する。初めに、間接冷却によりガス状の反応混合物の温度を1000〜750Kに下げる。続く冷却工程において、水を用いる外部冷却により、さらに液状のP46または液状の反応混合物を冷却剤として添加することにより、反応生成物は凝縮され、そして冷却手段の内表面上に液膜を形成させ、冷却手段の内表面上への副生成物、スケーリングおよび障害物の凝縮を回避する。使用したリンに基づくP46の収率は、約85%であり、これは特許文献1の方法と比較して本質的に改善されていないことを意味する。
【0008】
同様に、特許文献3は、管状反応チャンバー内で窒素との混合物中のリンと酸素を反応させることによる、P46の製造方法を開示し、これは、この方法により得られた反応生成物は、より低い含有量の不要なリンの酸化物を有することを目的としている。このために、ガスストリームの混合を目的として特別に設計された、管状セグメントを使用する。このセグメントは、管状反応チャンバーとクエンチングユニットの間に設置される。管状セグメントの内部横断面は、管状反応チャンバーの内部横断面より小さい。反応チャンバーは水で外部冷却されており、そして2200〜1600Kの温度の反応チャンバーを出た反応生成物は、空気で外部冷却されている管状セグメント内に供給される。管状セグメントの特定の設計のために、管状セグメントの横断面全体に分配された反応生成物の温度は、それがクエンチングユニットに入る前により均一になる。反応混合物を1000〜750Kの温度まで冷却した後、続く冷却工程において、反応混合物を水でさらに外部冷却し、また、好ましくは冷却手段の内表面上に液状のP46および/または液状の反応混合物を添加することにより内部冷却し、これにより好ましくは600K未満の温度まで反応混合物を冷却する。次いで、続くクエンチ工程において、さらに冷却する。クエンチ工程は、液状のP46または液状の反応混合物を再び使用することにより、冷却およびクエンチ手段の内壁への副生成物のスケール形成を減少させるが、使用したリンに基づくP46の収率の改善には、明らかに至らなかった。収率は約85%であり、これは特許文献1および特許文献2に記載される方法で達成されるものよりも本質的に高いことを意味しない。
【0009】
約85%またはそれ以下の収率は、反応生成物が、分離および廃棄の難題をもたらす、リンの異なる酸化物の大量の不要な副生成物およびかなりの量のリン元素を含むことを意味する。周知の技術による生成物ストリームからの副生成物の分離は可能であるが、これらの固体の商業的価値には限界がある。物質を加水分解またはアルコール分解に供するような誘導体化学にこれらを適用することは、純粋なP(III)酸化物またはP(V)酸化物のいずれかから作られた類似誘導体と比較して、商業的に極めて不利なP(III)−およびP(V)−ベースの誘導体の混合物をもたらす。同様に、リンの亜酸化物によって作られた画分は、そのような誘導体化学の標準反応条件下では反応しないと考えられる。例えば、加水分解およびアルコール分解において、P(III/V)酸化物の混合物のみが反応すると考えられる。亜酸化物は適用される条件下で不活性であり、そして最終生成物中の懸濁物として残っている。これは分離の難題、処理問題および(リンに基づく)収率の減少をもたらす。従って、リンの20%までがあまり商品価値のないまたは商品価値のないストリームに失われるので、これらの不要な副生成物のかなりの量の発生は、公知のP46法の利益に悪影響を与えると考えられる。
【0010】
さらに、P46に溶解したその高含量のリン元素(P4)を考慮して、P46は十分な量で得られていないので、先行技術のP46の製造方法は、有機リン(III)化合物を商業的に製造するための基礎材料として適切な生成物もたらさない。P46は室温を少し上回った温度で液体であり、そして公知の方法に従って作られた場合、P46中にその最大の溶解度までのリン元素を含む。そのようなリン元素の含有量は、特許文献4および特許文献5に述べられるように、10%までになり得る。特許文献6は、1〜10%の間のリン含有量であるが、非常に低いP46の収率のP46の製造方法を開示する。特に、リンは、その沸点および蒸気圧がP46のそれらに比較的近いので、蒸留によって取り除きにくい不純物である。先行技術のP46の製造方法は、異なる酸化状態の酸化物の形成を限定した、所望の+3の酸化状態の酸化リンを得る種々の方法を提案しているのに対して、反応生成物中のリン元素の含有量を減少させる方法は、開示されていない。従って、P46が誘導体化学における基礎材料として使用される場合、リン元素はP46中に必然的に残る。これは、特に、反応が水系または他の極性媒体中で実施される場合、大きな不利益となる。P4は極性媒体に難溶であるため、リンの乳化液または懸濁液の形成をもたらす。P4は有毒であり、そして自然発火性があり、従って、その安全性ならびにしっかりとした除去および廃棄を確実にするために、大々的な投資が必要とされるので、そのような乳化液または懸濁液の出現は、重要な分離の難題をもたらす。リン元素の存在は、P46の経済的応用の可能性を著しく低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】DD 216516 A1
【特許文献2】DD 292213 A5
【特許文献3】DD 292637 A5
【特許文献4】DD 116457 A1
【特許文献5】DD 216465 A1
【特許文献6】DE 1172 241 B
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、先行技術に記載される方法のこれらの不利益を回避するP46の製造方法を見出すことであり、これは高収率でのP46の合成を可能にし、そして公知の方法で発生するような副生成物の量を減少または削減することを意味する。高純度で、かつP(III/V)酸化物、リンの亜酸化物およびリン元素の混合物のような副生成物を本質的に含まない、従って、さらなる化学反応における基礎材料として使用される場合、特に有機リン(III)化合物の製造のために使用される場合、極めて優れた特性を示す、リンと酸素との反応により得られるP46を提供すること、および高品質のP46の製造のための生産方法を作ることが本発明のさらなる目的である。
【0013】
これらの目的は、意外にも、反応ユニット内で、酸素、または酸素と不活性ガスとの混合物とガス状または液状のリンとを発熱反応において反応させ、反応ユニット内に初期反応または実行中のプロセスから得られたP46および/または副生成物を供給することにより、発熱反応によって生み出された熱を除去することにより、反応生成物を生成するのに適切な前記反応ユニット内の平均温度を維持し、次いで、1つまたはそれ以上のクエンチングユニット内の生成した反応生成物を、反応生成物の本質的な分解が起こらないより低い温度にクエンチし、そしてクエンチ後に得られた反応生成物から少なくとも一部のP46を分離することによる、本質的にP46から成る反応生成物の製造方法により達成される。
【0014】
本質的にP46から成る反応生成物の製造方法の実施は、以下のように行われる。初めに、酸素、または酸素と不活性ガス(例えば、窒素)との混合物を、本質的に化学量論量のガス状または液状のリンと反応させ、反応ユニット内でP46を形成させ、反応ユニット内で反応生成物を生成する。反応ユニット内のリンおよび酸素の発熱反応によって生み出された熱を除去し、一般に、反応生成物を生成するのに適切な2200Kより低い、1500Kを超える平均温度に反応ユニット内の反応を維持する。熱の除去は、反応生成物を製造する初期反応から得られるか、または実行中のプロセスから再利用されるようなP46または副生成物を添加することによって、そして/または反応ユニット内にP46および前記副生成物の混合物を添加することによって達成される。反応ユニット内に供給され、反応ユニット内の反応生成物の冷却を制御しなければならないP46および副生成物の適正な量は、当業者により容易に決定され得、そして、例えば、方法パラメーターおよび反応ユニットに依存し得る。前記副生成物は、一般に、P3+およびP5+、ならびに+3よりも低い酸化状態のリンの酸化物の混合物から成る。好ましくは、これらの生成物の添加、例えば、副生成物から分離されたP46および/またはP46を分離した後の副生成物から成る得られた残留物の添加は、実行中のプロセスにより、および/またはクエンチ後、初期に実施されたプロセスにおいて得られたこれらの物質を再利用することによりなされ得る。次いで、1つまたはそれ以上のクエンチングユニット内の反応生成物を、反応生成物の本質的な分解が起こらないより低い温度にクエンチする。
【0015】
反応物質のリンおよび酸素の量は、P46の理論的な化学量論量に近いか、または本質的にこれに対応するように調整され、これは、リン(P4)対酸素(O2)のモル比が、一般に、1:2.7〜1:3.3の範囲内にあるべきであることを意味する。反応ユニット内に冷却材として添加される、P46ならびに主に、より高いP(III/V)酸化物およびリンの亜酸化物の混合物から成る副生成物、またはP46と前記副生成物との混合物は、典型的に、本方法の前回の実行から、および/または実行中のプロセスから得られ(従って、副生成物を再利用する)、そして同じP4対O2のモル比を有すると考えられる。
【0016】
好ましくは、反応ユニットは、反応ユニット内の反応生成物の平均温度が1600〜2000K、特に、1650〜1850Kに維持されるように冷却される。
【0017】
次いで、反応生成物は、反応ユニットから、好ましくは1工程で、P46の本質的な分解が起こらないより低い温度に迅速に冷やす、1つまたはそれ以上のクエンチユニットに流される。一般に、そのような温度は、700Kより低い。そのようなクエンチは、冷却手段を介して反応生成物を出し、内部および/または外部冷却を生じさせることにより実施され得る。好ましくは、反応生成物に冷却材として、好ましくは同じ方法によって製造された、好ましくは既にクエンチした液状形態の反応生成物を添加することにより、そして/またはおおよそ精製された液状のP46最終生成物を添加することにより、クエンチは実施される。場合により、生成物は前記クエンチ工程において、またはクエンチに続く別の冷却工程において、凝縮された反応生成物を容易に取り出し、そして/または処理することが可能な温度にまで冷却され、この温度は、P46の沸点より低い、好ましくは350Kより低いことを意味する。
【0018】
1つの特定の実施形態において、酸素、または酸素と不活性ガスとの混合物と、ガス状のまたは液状のリンとをリン(P4)対酸素(O2)のモル比が1:2.7〜1:3.3で、発熱反応において反応ユニット内で反応させ、反応ユニット内に初期反応または実行中のプロセスから得られたP46および/または副生成物を供給することにより、発熱反応によって生み出された熱を除去することにより、反応生成物を生成するのに適切な前記反応ユニット内の平均温度を1500〜2200Kに維持し、反応ユニット内での反応生成物の滞留時間は少なくとも0.5秒であり、次いで、1つまたはそれ以上のクエンチングユニット内で生成した反応生成物を、反応生成物の本質的な分解が起こらない700Kより低い温度にまでクエンチし、そしてクエンチ後に得られた反応生成物から少なくとも一部のP46を分離することによる、本質的にP46から成る反応生成物の製造方法を提供する。
【0019】
有機リン(III)化合物を製造するため、そして反応ユニット内の副生成物の再利用を可能にするための基礎材料として反応生成物をさらに使用するために、冷却し、そして凝縮した反応生成物を、例えば、蒸留により固体およびより沸点の高い(higher boiling)副生成物からP46を分離して、精製することが望ましい。精製され、好ましくは蒸留された生成物は、少なくとも96質量%、好ましくは、少なくとも97質量%、特に99質量%またはそれ以上の質量%でP46を含んでいる。
【0020】
クエンチ後、少なくとも一部のP46は、固体生成物との混合物から液体を分離するための当該分野で公知の任意の方法により、好ましくは、蒸留により、クエンチ後に得られた反応生成物から分離される。残りの副生成物の残留物(これは、室温で部分的に固体であり、従って、前記残留物は「固体」とも呼ばれ、そして主に、前記分離工程により得られた固体P(III/V)酸化物およびリンの亜酸化物、または固体副生成物およびおおよそかなりの割合のP46をも含むそれらの画分から成る)は反応ユニットに供給され、ここで、これらは、新たに投入された(dosed)反応物の反応によって反応ユニット内で生み出された熱の影響を受けてエバポレートされ、そして分解され、そして再び反応に関与し、従って、本方法の収率が改善される。
【0021】
さらなる効果として、反応ゾーンにフィードバックされた副生成物は、リンと酸素の発熱反応によって生み出された少なくとも一部の熱を除去する。反応ユニットによって生み出された熱による副生成物のエバポレートまたは昇華、および分解は、リアクターユニットの内容物に対してかなりの冷却効果を提供する。新たに投入された酸素とリンの反応から生じる本方法の発熱特性によって、所望の作動温度にそれらを維持するために、本方法の冷却要求は考慮されるべきである。副生成物のストリームの投入(dosage)は調整され得、そして一般に、任意のさらに外部および/または内部冷却する、必要性を減少させるのに十分であり、装置をより単純で、かつ低コストなものにする。
【0022】
反応ユニットに供給される固体のストリームは、全て、本方法における最終段階でさらに得られる不要な固体副生成物、または不要な固体と若干量のP46との混合物(例えば、スラリーの形態)のいずれかから成る。前記スラリーを形成するP46は、一般に、クエンチ後、反応混合物中に含まれる固体から完全に分離されず、そして残留物は、液状生成物のP46中に分布する固体副生成物の混合物/スラリーとしてリアクターにフィードバックされる。この好ましい実施形態はまた、クエンチされた生成物から乾燥サイドストリーム(dry side stream)として固体を完全に分離する必要がない。それどころか、沈澱濃縮(thickening)は十分であり、これは当業者に公知の方法により達成され得る。
【0023】
混合物中、固体副生成物と一緒にある量のP46を使用することは、副生成物の固体の成分が再び反応により容易に利用され、固体のみの投入と比較して、リアクター内への固体のより容易な投入を可能にするというさらなる利点はあるが、好ましくは、任意のさらなる外部および/または内部冷却を用いることなく、好ましくは、所望の作動温度に反応ユニット内の温度を維持する量で、反応ユニット内の内容物に対して冷却作用を及ぼすことがより重要な目的である。しかし、必要ならば、さらなる冷却または加熱が、他の手段により実施されてもよい。
【0024】
ほぼ完全に反応ユニットの冷却要求を満たし、そして好ましくは、任意のさらなる外部および/または内部冷却を用いることなく、そこの作動温度に達し、そしてその温度を維持するために、本方法の好ましい代替の実施形態において、反応ユニットに再利用される副生成物の残留物のストリーム(例えば、前記スラリーの形態)の量は、好ましくは規定された量の純粋または不純(例えば、本方法のより沸点の高い不純物を含む)なP46を前記混合物に添加することにより、さらに調整される。あるいは、またはさらに、例えば、追加の純粋または不純なP46の別個のストリームが、さらなる冷却作用を作り出すために反応ユニット内に供給され得る。本方法の前記の好ましい代替法において、固体副生成物、またはスラリーを形成する固体副生成物とP46とを含む混合物は、液状のP46生成物のストリーム中、リアクターユニット内にフィードバックされ、ここで、ストリームは、ストリームの量、温度および組成を制御することにより反応ユニットの完全な冷却要求を提供し、従って、他の手段による任意のさらなる態動外部および/または内部冷却の必要性を完全に排除する。ストリームの量、その供給温度、ストリーム中のP46の含有量は、リアクターユニットの正確な冷却要求を満たすように調整され得る。前記ストリームに追加のP46を投入することによって、冷却作用を調整することが好ましく、これはリアクターユニット内に直接投入することにより、そして/または固体副生成物のスラリーにそれを添加することによりなされ得る。
【0025】
場合により、追加の純粋なまたは不純なP46と一緒に、副生成物の残留物(特に、前記スラリーの形態)を、新たに投入される反応物のリンおよび酸素のストリームと一緒に、場合により不活性ガスと共に反応ユニットに添加することが好ましいが、前記残留物もまた、別の注入口を通して反応ユニットに供給され得る。酸素、または酸素と不活性ガス(例えば、窒素)との混合物、ガス状または液状のリン、ならびに本方法の副生成物の前記残留物および場合により追加のP46を含むストリームが、反応ユニットに入り、ここでこれらは混合され、そしてリンおよび酸素は、反応生成物を生成する強い発熱反応において、互いに直ちに反応する。
【0026】
クエンチ後の反応生成物から分離されて得られたP46は、使用したリンの量に基づいて高収率で得られ、そして極めて高い純度を示し、有機リン(III)化合物の形成における基礎材料として価値のあるものとなる。
【0027】
意外にも、クエンチ後の反応生成物の液状成分から分離された副生成物の残留物は、異なる化合物の混合物から成るが、その混合物の化学量論の総量は、P46の製造に必要なO:P比であるか、またはそれに近似する。そのため、成分化合物、主にリンの亜酸化物およびP(III/V)酸化物の混合物は、反応ユニットに添加される場合、P46を形成するのに必要な化学量論比でリンおよび酸素(または、場合により、酸素と窒素の混合物)の供給を使用する場合にだけ得られる反応混合物と本質的に同じである混合物に、そこで分解されるということが意外にも見出された。
【0028】
リンと酸素との反応により、リン元素と不要な酸化リンを本質的に含まない高純度で得られ、従って、さらなる化学反応における基礎材料として使用される場合に、特に、有機リン(III)化合物の製造に使用される場合に、極めて優れた特性を示すP46を提供することが、本発明のなおさらなる目的である。
【0029】
このさらなる目的は、反応混合物が反応ユニット内で少なくとも0.5秒の一定の滞留時間の間維持され、そして好ましくは、反応ユニットの温度が1600〜2000Kの好ましい範囲内に維持される本方法の好ましい実施形態によって意外にも達成される。さらなる作用として、これらの好ましい条件は、リアクターユニットに戻ってくる固体−P46混合物の完全なエバポレート、昇華および分離を確実にもたらす。約1秒の滞留時間は、最終生成物内のリン元素の含有量を1質量%未満に低減することが達成されるという効果を、十分もたらすであろう。1秒またはそれ以上の、例えば、1〜8秒の間の滞留時間が使用される場合、反応混合物中のリン元素の含有量は非常に低くなり、そしてP46の収率は最適値に達する。残りのリン元素は、1〜0.5質量%またはそれ以下の量で最終生成物中に存在する。さらに、その滞留時間は、反応ユニット内に供給され、投入される再利用物質の全てが、ガス状または蒸気状の形態に転換され、そして完全に分解されるという効果を示す。8秒を超える、好ましくは、30秒までの滞留時間を選択することにより、0.5質量%またはそれ以下、好ましくは、0.25質量%未満の含有量のリン元素が最終生成物中に存在し、そして、P46の収率もまた非常に高い。約40秒を超える、特に60秒を超える滞留時間は、リアクター内容物の組成に関して、いかなる本質的なさらなる改善ももたらさず、これは最終生成物中のリン元素の収率および含有量に影響する。本方法において、本明細書中に開示される滞留時間は、1600〜2000Kの特定の平均温度と組み合わせて、同時に使用される。
【0030】
滞留時間は、どれくらいの早さで反応生成物がリアクターユニットの容積を移動するかを示し、そしてリアクターユニット内に反応生成物が滞在する平均時間を示す。一般に周知されるように、滞留時間は、リアクター容積を容積流量で割った商として定義される。これは、使用される反応ユニットの容積に関して、反応生成物の容積流量をチューニングすることにより、滞留時間が調整され得ることを意味する。容積流量は、単位時間あたりにリアクターユニットを通過する反応生成物の容積として定義される。
【0031】
上記の滞留時間ならびにリアクターに戻る副生成物を含む不要なリンの分離および再利用と組み合わせて、1650K〜1850Kの範囲内の平均温度を使用する場合、得られる反応生成物は、特に高収率、かつ高純度で得られる。
【0032】
そのような精製工程の後、反応生成物は、全質量に基づいて、好ましくは、97質量%を超える、好ましくは、99質量%を超える、特に少なくとも99.5質量%のP46を含み、そして一般に、3.0質量%未満の、好ましくは、1.0質量%未満の、特に、0.5質量%またはそれ以下のリン元素の最大含有量を示す。本明細書に記載されるように、本方法の最適条件下では、リン元素の含有量は、約0.25質量%またはそれ以下でさえある。リン元素の含有量は、31PNMRにより測定される。最終生成物は、極めて高い純度を示し、有機リン(III)化合物の合成における極めて優れた基礎材料として価値あるものとなる。
【0033】
リンと酸素との反応によりP46を製造する本発明の方法を実施するために適切な配置は、反応ゾーンにおいて反応物質と再循環ストリームとが混合され、そして互いに反応する反応ユニットを含む。これは、前記反応ユニットの1つまたはそれ以上の出口に接続したクエンチングユニット、固体副生成物の残留物から純粋な形態のP46の少なくとも一部を分離するための手段、および反応ユニットに残留物および/またはP46を供給するための手段をさらに含む。反応生成物の冷却を完全にするために、1つまたはそれ以上のさらなる冷却ユニットを下流に配置し得る。本発明の好ましい実施形態において、反応ユニットの容積は、目的とする反応生成物の容積流量に関して、適切な滞留時間を確保するように設計される。一般に必須というわけではないが、反応ユニットは、反応プロセスにより生み出されるエネルギーを除去し、そして要求温度を維持するために、反応ユニットを外部および/または内部冷却する手段をさらに含み得る。反応ユニットは、円筒状のチャンバーもしくは容器または他の任意の適切な形態のような、いかなる適切な形状をも有し得る。反応ユニットはさらに、本方法に関与する反応物質および副生成物の再循環ストリームを、反応ユニット内の反応ゾーンへ、別々にまたは一緒に流すための手段を含み、これらの手段は、それぞれに配置された出口を通って反応物質および/または副生成物のストリームを直接的、または間接的に投入することができる管状または筒状の形態を有し得る。反応物質のリンおよび酸素が反応ゾーンにおいて混合され、互いに接触した場合、それらは自然発生的に互いに反応する。例えば、ノズルの孔において両反応物質の流れを混合することにより、反応は実施され得る。再循環ストリーム、および精製または未精製のP46の任意の温度制御ストリームの投入を、新たな反応物質と一緒に、または別々に実施し得る。反応ユニットは、蒸気状の反応生成物がクエンチングユニットへ移動する少なくとも1つの出口をさらに含む。全てのエレメントおよびユニットは、本方法を達成するために適切な物質で作られている。
【0034】
以下の実施例は、特許請求された本発明の範囲を限定することなく、本方法の好ましい実施形態を説明する。
【実施例】
【0035】
時間あたり3.99モルの白リン(P4)のストリームをエバポレータ内に連続的に供給し、大気圧下、770Kでエバポレートさせた。次のストリームを、7800mlの容積のリアクターのチャンバー内に供給した。12.0モル/h(O2として)の酸素ガスの連続的なストリームを、同じリアクターに導入した。リアクターの上部にある別個の開口部から、過去に行われた実験で得られた1105 g/hのスラリーのストリームをリアクター内に投入した。スラリーは、24質量%の固体Pの高級酸化物(higher solid P oxide)および亜酸化物、1%のP4および75%のP46から成った。投入前に、スラリーを303Kに維持した。これらの反応パラメーターは、リアクターにおける11秒の滞留時間に対応した。外部冷却を用いずに、リアクターチャンバーは1780Kの温度に達したと考えられた。次いで、リアクターチャンバーの出口を出た反応生成物を、同一のパラメーターにて実施された過去に行われた実験から得られ、317Kで循環している、50l/hの前に凝縮した液状の反応生成物のストリームと接触させた。反応生成物は凝縮され、そして再循環している液体(これは外部冷却により、本質的に一定温度に維持されていた)の温度に冷却された。実験を60分後に停止した。
反応生成物を単蒸留に供し、高沸点の不純物からそれを分離した。凝縮後、形成したての反応生成物(875g)が得られ、この量はリアクターまたはクエンチングにおいて冷却剤として添加した物質を含まないことを示していた。31P NMRは、この物質が、99.6質量%のP46、0.1質量%のP4、および0.3質量%のP47,8,9ならびにP410の高級酸化物の混合物から成るということを示した。P46の収率は、使用したP4の量に基づいて99.2%であり、これは優れた値であり、そしてリン元素の含有量は極端に低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素、または酸素と不活性ガスとの混合物を、ガス状のまたは液状のリンとを発熱反応において反応ユニット内で反応させ、該反応ユニット内に初期反応または実行中のプロセスから得られたP46および/または副生成物を供給することにより、発熱反応によって生み出された熱を除去することにより、反応生成物を生成するのに適切な該反応ユニット内の平均温度を維持し、次いで、1つまたはそれ以上のクエンチングユニット内の生成した該反応生成物を、反応生成物の本質的な分解が起こらないより低い温度にクエンチし、そしてクエンチ後に得られた該反応生成物から少なくとも一部のP46を分離することによる、本質的にP46から成る反応生成物の製造方法。
【請求項2】
クエンチ後の反応生成物から一部のP46を分離することにより得られた残りの残留物から成る副生成物のストリーム、またはその画分が反応ユニット内に供給され、それにより、発熱反応によって生み出された熱を除去する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応ユニット内の反応生成物の冷却が、副生成物のストリームへのP46のストリームの供給を制御し、そして該反応ユニット内に得られたストリームを供給することにより達成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
反応ユニット内の反応生成物の冷却が、反応ユニットへのP46のストリームの供給を制御することにより、単独にまたは追加的に達成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
反応ユニット内の反応生成物の温度が、1500〜2200Kの範囲内の平均温度に維持される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
反応ユニット内の反応生成物の温度が、1600〜2000Kの範囲内の平均温度に維持される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
反応生成物が、少なくとも0.5秒の滞留時間の間、反応ユニット内に維持される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
滞留時間が、1〜60秒である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
リン(P4)対酸素(O2)のモル比が、1:2.7〜1:3.3の範囲内である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
反応生成物が、700Kより低い温度にクエンチされる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
反応生成物が該反応生成物を容易に取り扱い、そして/または処理することが可能な温度にクエンチされるか、またはクエンチ後に冷却される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
容易に取り扱い、そして/または処理することが可能な温度が、P46の沸点より低い、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
液状の反応生成物および/または液状のP46が、冷却剤として反応生成物に添加され、クエンチされる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−508158(P2012−508158A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536001(P2011−536001)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064988
【国際公開番号】WO2010/055056
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(510011787)ストレイトマーク・ホールディング・アーゲー (10)