説明

受信端から見て高いダイバーシティを提供するMIMO電気通信システムにおけるデータを伝送するための方法

本発明は、少なくとも2つの送信アンテナ(ta1、ta2…taNt)が設けられた送信機と受信機との間でデータを伝送するための方法に関する。本発明による方法は、さらに、シンボル拡散ステップを含む。このシンボル拡散ステップの過程において、所定の個数の連続シンボルZI…ZSの成分Zij(i=I〜S及びJ=I〜Nt)が、上記送信アンテナ(ta1、ta2…taNt)を介して送信される前に、時間にわたって拡散される。したがって、任意の瞬間に送信されるデータは、既知のMIMOシステムの場合のように、単一のシンボルZi(i=1〜S)を表すのではなく、S個の連続シンボルのNt個の成分間の混合を表す。したがって、この混合によって、受信端から見た、時間に関するデータダイバーシティが導入される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの送信アンテナが設けられた少なくとも1つの送信機と、少なくとも1つの受信アンテナが設けられた少なくとも1つの受信機とを含む電気通信システムにおいてデータを送信する方法であって、送信アンテナと受信アンテナとの間に確立される通信チャネルを介して送信されるシンボルを生成するシンボル符号化ステップを含む、方法に関する。
【0002】
複数のアンテナが無線リンクの受信端及び/又は送信端で使用される電気通信システムは、多入力多出力システム(Multiple Input Multiple Output system)(以下、MIMOシステムと呼ぶ)と呼ばれる。MIMOシステムは、単一アンテナシステムが提供する伝送容量と比較して、大きな伝送容量を提供するものとして紹介されてきた。特に、MIMOの容量は、所与の信号対雑音比に対して、有利な無相関のチャネル状態の下では、送信アンテナ又は受信アンテナのいずれが最小であっても、その最小の個数と共に直線的に増加する。したがって、MIMO技法は、大きなスペクトル効率を提供することを目的とするか、或いは、現在の電気通信システムで得られるスペクトル効率と同等のスペクトル効率を得るのに必要な送信電力を削減することを目的とする今後の無線システムで使用される可能性がある。このようなMIMO技法は、ほとんどの場合、今後の無線システムで同様にその使用が考慮されているOFDM(直交波周波数分割多重の略語)技法及びMC−CDMA(マルチキャリア符号分割多重接続の略語)技法のようなマルチキャリア変調技法と組み合わされることになる。
【0003】
特定のタイプのMIMOシステムは、ビットインターリーブ化符号化変調(Bit Interleaved Coded Modulation)技法を利用する。ビットインターリーブ化符号化変調は、以下、BICMと呼ぶ。このBICMによると、送信機はチャネル符号化器を含む。このチャネル符号化器は、例えば畳み込み符号又はターボ符号によって、符号化されていないデータビットに符号化を適用して、バイナリストリームをインターリーバに提供するためのものである。このインターリーバは、次に、並べ替えたビットを送出する。この並べ替えたビットは、ワードシーケンスに分割される。このワードシーケンスは、複数の成分をそれぞれ特徴とする一連の符号化シンボルに変換されるものである。同じシンボルの成分は、各送信アンテナによって同じ時間チップの期間中に送信されるものである。
【0004】
送信されたシンボルは受信端で復号される。この復号は通常、BICMタイプのMIMOシステムにおいて反復時空間復号器(iterative space-time decoder)により実行することができる。この復号器は、送信されたシンボルを構成する符号化ビットの推定値を生成するためのものである。複数の送信アンテナ及び受信アンテナの使用によって誘発される空間ダイバーシティは、単一の通信チャネルを通じて送信された単一の信号により提供される情報量よりも多くの情報量を提供するので、このダイバーシティによって、このような復号が容易になる。
【0005】
発明者は、時空間復号器に含まれるフロントエンド検出器から見た入力データのダイバーシティを増加させることによって、上記復号器が、上記データを生成する基となった符号化ビットの信頼性のある推定値に向けてより高速に収束できることを確認している。このことは、より高い品質、すなわち、よりリッチな内容を有するデータを復号器に供給することによって、より良い復号性能を得ると解釈することができる。
【0006】
受信アンテナから見た空間ダイバーシティは、複数の通信チャネルを使用することによって得られ、上述した利点を生み出すが、受信アンテナの個数によって制限を受け、これは、言い換えると、時空間復号器の性能を制限する。
【0007】
本発明は、MIMOシステムでデータを送信する方法を提供することによって、上記問題を解決することを目的とする。この方法は、このような電気通信システムの受信端における少なくとも1つの受信アンテナから見た、空間及び時間の双方に関する高いデータダイバーシティを提供することを可能にする符号化方式を含む。
【0008】
実際に、本発明によると、初めの段落による方法は、シンボル拡散ステップであって、当該ステップの間に、所定の個数の連続シンボルの成分が、上記通信チャネルを介して送信される前に、時間にわたって拡散される、シンボル拡散ステップをさらに含むことを特徴とする。
【0009】
本発明は、送信アンテナと受信アンテナとの間に確立される複数の通信チャネルの使用によって取得される空間ダイバーシティを、受信アンテナから見たデータの時間に関するダイバーシティと合成することを可能にする。
【0010】
本発明の可能な一実施の形態によると、シンボル拡散ステップは、上記連続シンボルを表すベクトルの成分の複数の線形結合(linear combination)を計算することによって実行され、当該線形結合は、所定の個数の連続シンボルに等しい個数の時間チップを介して送信アンテナにより送信されるものである。
【0011】
したがって、任意の瞬間に複数の通信チャネルを介して送信されるデータは、上述した既知のMIMOシステムの場合のような単一のシンボルを表さず、連続シンボルの成分間の混合したものを表す。したがって、これによって、時間に関するダイバーシティが導入される。
【0012】
本発明の特定の一実施の形態によると、シンボル拡散ステップは、一方の上記連続シンボルの各々の成分の連結によって形成されたベクトルを、他方の所定の拡散行列と乗算することによって実行される。
【0013】
本発明のこの特定の実施の形態は、実施するのが非常に簡単であり、したがって、送信端で必要とされる計算資源及び処理電力に関して比較的低コストでダイバーシティの増加を得ることが可能である。これは、送信機が、携帯電話等の、可能な限り小さくなければならず、限られたエネルギー蓄積容量を有するバッテリによって電力供給される移動端末によって構成されることがある移動通信の分野では重要な事項である。
【0014】
既定の拡散行列の性質は、送信アンテナと受信アンテナとの間に確立される通信チャネルの事前の知識に基づき、又は、当該通信チャネルに関する仮定に基づき選択することができる。
【0015】
上に説明される特定の実施の形態の第1の変形によると、拡散行列は、その行のそれぞれが、送信アンテナの個数に対応するサイズをそれぞれ有する連続チャンクによって形成されるように構築され、任意の行の全チャンクは、すべてが同じノルム(norm)を有するベクトルをそれぞれ形成する。
【0016】
この第1の変形による拡散行列によって、エルゴード的な通信チャネルを通じて送信されるシンボルにより搬送されるエネルギーを時間にわたって本質的に均一に分散することが可能になり、時間チップごとの通信状態の変化の最適な検出能が保証される。さらに、これによって、このようなエルゴード的な通信チャネルの受信端における受信アンテナから見た、データの時間及び空間に関する高いダイバーシティを提供することが可能になる。
【0017】
上に説明される特定の実施の形態の第2の変形によると、拡散行列は、その行のそれぞれが、送信アンテナの個数に対応するサイズをそれぞれ有する連続チャンクによって形成されるように構築され、任意の行の全チャンクは、すべてが同じノルムを有し、互いに直交したベクトルをそれぞれ形成する。
【0018】
チャンク間の直交性の結果、この第2の変形による拡散行列によって、所定の個数の連続シンボルのすべての成分の線形結合を送信するのに必要な時間間隔の間、本質的に不変のチャネルにエルゴード性を追加することが可能になり、さらに、上記通信チャネルを通じて送信されるシンボルによって搬送されるエネルギーの、この時間間隔にわたる本質的に均一な分散が提供される。これによって、時間チップごとの通信状態の変化の最適な検出能が保証される。さらに、これによって、このような本質的に不変の通信チャネルの受信端における受信アンテナから見たデータの時間及び空間に関する高いダイバーシティを提供することが可能になる。
【0019】
上に説明される特定の実施の形態の第3の変形によると、拡散行列は、その行のそれぞれが、すべてが同じノルムを有するベクトルをそれぞれ形成する複数のセグメントによって構成されるように構築され、各セグメントは、送信アンテナの個数に対応するサイズをそれぞれ有する連続チャンクを含み、任意のセグメントの全チャンクは、すべてが同じノルムを有し、互いに直交したベクトルをそれぞれ形成する。
【0020】
この第3の変形による拡散行列は、いわゆるブロックフェージング通信チャネルに特によく適している。このブロックフェージング通信チャネルは、所定の個数Sの連続シンボルの成分の送信継続期間全体にわたるC組の連続した通信状態を特徴とすると予想される。したがって、上記ブロックフェージングチャネルの通信状態の各組は、S/C個の時間チップの期間中は本質的に不変である。
【0021】
同じセグメントの全チャンク間の直交性によって、これらS/C個の時間チップによって画定される各不変期間の間、ブロックフェージングチャネルにエルゴード性を加えることが可能になる。さらに、上記チャンクのノルムが等しいことによって、上記不変期間の間、ブロックフェージングチャネルを通じて送信されたシンボルにより搬送されるエネルギーの、各不変期間にわたる本質的に均一な分散が提供される。このようなブロックフェージングチャネル内の通信状態は、不変期間ごとに変化するので、ブロックフェージングチャネルは、不変期間のスケールではエルゴード的であるとみなすことができる。その結果、拡散行列の各行のセグメントのノルムが等しいことを追加することは、そのブロックフェージングチャネルを通じて送信されるシンボルによって搬送されるエネルギーの、すべての連続した不変期間にわたる本質的に均一な分散を保証するのに十分である。さらに、これによって、このようなブロックフェージング通信チャネルの受信端における受信アンテナから見た、データの時間及び空間に関する高いダイバーシティを提供することが可能になる。
【0022】
上述した第1の変形、第2の変形、又は第3の変形の好ましい一実施の形態によると、拡散行列は、さらに、回転行列の特性も有する。すなわち、このような拡散行列は、互いに直交して同じノルムを有する行によって構成される。
【0023】
送信端において連続シンボルの成分の複数の線形結合を計算するのに回転行列を使用することによって、受信端において上記シンボルを処理するための反復時空間復号器によって実行される最初の反復ステップの性能を高めることにより、上記復号器の全体性能を最適化することが可能になる。
【0024】
本発明のハードウェアに関連する態様によれば、本発明はまた、少なくとも2つの送信アンテナが設けられた少なくとも1つの送信機と、少なくとも1つの受信アンテナが設けられた少なくとも1つの受信機とを含む電気通信システムであって、送信機は、送信アンテナと受信アンテナとの間に確立された通信チャネルを介して送信されるシンボルを生成するシンボル符号化手段を含む、電気通信システムであって、送信機は、所定の個数の連続シンボルの成分を上記通信チャネルを介して送信する前に、当該成分を時間にわたって拡散するシンボル拡散手段をさらに含むことを特徴とする、電気通信システムに関連する。
【0025】
このハードウェア態様の考え得る1つの実施の形態によれば、シンボル拡散手段は、上記連続シンボルを表すベクトルの成分の複数の線形結合を計算するためのものであり、当該線形結合は、所定の個数の連続シンボルに等しい個数の時間チップを介して送信アンテナにより送信されるものである。
【0026】
上述のハードウェアに関連する態様の1つの特定の実施の形態によれば、シンボル拡散手段は、一方の上記連続シンボルの各々の成分の連結によって形成されたベクトルを、他方の所定の拡散行列と乗算するためのものである。
【0027】
本発明のハードウェアに関連する別の態様によれば、本発明はまた、少なくとも2つの送信アンテナが設けられ、当該送信アンテナを介して送信されるシンボルを生成するシンボル符号化手段を含む通信デバイスであって、所定の個数の連続シンボルの成分を上記送信アンテナを介して送信する前に、当該成分を時間にわたって拡散するシンボル拡散手段をさらに含むことを特徴とする、通信デバイスに関連する。
【0028】
上述した本発明の特徴に加えて、本発明の他の特徴も、添付図面に関して与えられた以下の説明を読むことによって、より一層に明確になる。
【0029】
図1は、少なくとも1つの送信機TR及び少なくとも1つの受信機RECを含む電気通信システムを図式的に示している。この電気通信システムは、Nt個の送信アンテナ(ta1、ta2…taNt)とNr個の受信アンテナ(ra1、ra2…raNr)との間でそれぞれ確立された複数の通信チャネルCHNLを通じて信号を交換するためのものである。
【0030】
ここに図示した例に示す送信機TRは、符号化されていないデータビットUncbに例えば畳み込み符号又はターボ符号によって符号化を適用し、送信されるバイナリストリームTbを提供するためのチャネル符号化器CHENCを含む。送信機TRは、並べ替えられたビットPbを生成するためのインターリーバINTLを含む。このようなインターリーブは、無相関のデータの取得を可能にするので、受信機側での後の処理に有益である。次に、並べ替えられたビットPbは、それぞれが少なくとも1ビットから成るNt個のワードのシーケンスに分割される。次に、これらのワードシーケンスは、マッピングおよび変調モジュールMAPMDによって一連の符号化シンボルZiにマッピング、すなわち変換され、その後、各シンボルZiはNt個の成分を特徴付ける。次に、連続シンボルZiは、本質的に時空間符号化器SPTENCによって形成されたシンボル符号化手段に供給される。この時空間符号化器SPTENCは、上記シンボルZiの送信前に当該シンボルZiの処理を実行する。
【0031】
この技術分野の既知の状況では、各シンボルZiのNt個の成分は、通常、各送信アンテナtaj(j=1〜Nt)によって同じ時間チップの期間中に送信されるものである。
【0032】
ここに図示した例に示す受信機RECは、元の符号化されていないデータビットUncbに最終的に対応すべき復号されたデータビットDecbを生成するための時空間復号器SPTDECを含む。この時空間復号器SPTDECは時空間検出器(space-time detector)DETを含む。この時空間検出器DETは、受信アンテナ(ra1、ra2…raNr)によって受信された信号により搬送されたデータを処理し、送信された並べ替えられたビットPbの推定値に関係した尤度値Ribを生成するためのものである。この尤度値は、デインターリーバDINTLによってデインターリーブされるものである。デインターリーバDINTLは、バイナリストリームTbに含まれるビットの推定値に関係した軟尤度値(soft likelihood value)Rbを出力する。受信機RECに含まれるビット復号器は、上記尤度値Rbに基づいて復号されたデータビットDecbを生成するためのものである。このビット復号器は、以下、チャネル復号器CHDECと呼ぶ。
【0033】
この技術分野で一般に使用されるループ構造によると、時空間検出器DETは、アプリオリな情報Praを利用することが好ましい。このアプリオリな情報は、前の復号ステップの最中に生成され、インターリーバINTRを通じてチャネル復号器CHDECにより外部情報Exdの形で発行されたものである。このインターリーバINTRは、送信機TRに含まれるインターリーバINTLと同一である。
【0034】
発明者は、時空間検出器DETから見たデータのダイバーシティを増加させることによって、上記符号化器が、上記データを生成する基となった符号化ビットの信頼性のある推定値に向けてより高速に収束できることを確認している。したがって、発明者は、送信アンテナ(ta1、ta2…taNt)と受信アンテナ(ra1、ra2…raNr)との間に確立された複数の通信チャネルCHNLの使用によって取得された空間ダイバーシティを、当該チャネルの受信端における受信アンテナから見た、データの時間に関するダイバーシティと合成することによって、受信アンテナ(ra1、ra2…raNr)が受信するデータのダイバーシティを増加させることを目的としている。
【0035】
図2は、このようなダイバーシティが本発明の手段によってどのように得ることができるかを図式的に示している。実際には、ここに示す例では、時空符号化器SPTENCは、直並列変換器S/Pを含む。この直並列変換器S/Pは、S個の連続シンボルZ1…ZSの成分を連続して受信して、Nt個の成分Zi1…ZiNt(i=1〜S)のS個の連続した並列の組をバッファBUFに配信するためのものである。このバッファBUFは、すべての連続シンボルZ1…ZSのS・Nt個の連結した成分の単一の組をシンボル拡散手段SPMDへ配信するためのものである。Ns=S・Nt個の成分のこの組は、連結後、上記連続シンボルZ1…ZSを表すシンボルベクトルZを形成する。次に、シンボル拡散手段SPMDは、シンボルベクトルZの成分Zij(i=1〜S及びj=1〜Nt)のNs個の線形結合を計算するためのものである。当該線形結合は、その成分が当該線形結合に含まれる所定のS個の連続シンボルZ1…ZSに等しい複数の時間チップにわたりNt個の送信アンテナ(ta1、ta2…taNt)によって送信される前に、シーケンス手段SQMによってNt個の成分のS個の連続した組に配列されることになる。
【0036】
したがって、上記送信アンテナ(ta1、ta2…taNt)と上記受信アンテナとの間で確立された複数の通信チャネルを介して任意の瞬間に送信されるデータは、既知のMIMOシステムの場合のように、単一のシンボルZi(i=1〜S)を表すのではなく、S個の連続シンボルのNt個の成分間の混合を表す。したがって、この混合によって、受信端から見た時間に関するデータダイバーシティが導入される。前の図に示すタイプの既知のMIMOシステムで得られる最大限のダイバーシティが、Nr個の受信アンテナに等しいのに対して、本発明によって得ることができる最大限のダイバーシティは、このようにS・Nrに等しい。
【0037】
図3は、シンボルベクトルZの成分Zij(i=1〜S及びj=1〜Nt)のNs個の線形結合が、上述した拡散手段によってどのように計算できるかを示している。図3では、シンボルベクトルZは転置形Zで表されている。本発明の好ましい一実施の形態によれば、上記連続シンボルZiのそれぞれのNt個のすべての成分Zi1…ZiNt(i=1〜S)の連結によって形成されたベクトルZは、所定の拡散行列SMと乗算される。この所定の拡散行列SMは、この例では、Ns×Nsのサイズを有する。この拡散行列によって、シンボルベクトルZのすべての成分Zij(i=1〜S及びj=1〜Nt)のNs個の個別の線形結合を生成することが可能になる。これらの線形結合は、S個の連続した時間チップの間に、Nt個の送信アンテナを介して送信されることになる。
【0038】
シンボルベクトルZの成分Zij(i=1〜S及びj=1〜Nt)は、複素シンボルによって形成することができる。このような場合、拡散行列SMは、サイズNs×Nsとすることができ、複素成分によって構成することができる。代替的な手法は、サイズ(2・Ns)×(2・Ns)の拡散行列SMによって複素成分Zijの実部及び虚部を別々に処理すること、及び、実数成分のみを含めることにあるものとすることができる。この場合、このような実数の拡散行列SMによって生成された2・Ns個の実数の線形結合の半分は、Nt個の送信アンテナにおいて送信される複素シンボルの実部に対応する一方、実数の拡散行列SMによって生成された2・Ns個の実数の線形結合の他方の半分は、上記Nt個の送信アンテナにおいて送信される複素シンボルの虚部に対応する。
【0039】
上述した所定の拡散行列SMの性質は、送信アンテナと受信アンテナとの間に確立される通信チャネルの事前の知識に基づき、又は、当該通信チャネルに関する仮定に基づき選択することができる。
【0040】
図4は、通信チャネルがエルゴード的であると仮定される状況を示すチャネル行列Hを表している。すなわち、図4は、上記チャネル内の通信状態がS個の時間チップのそれぞれについて変化すると予想される状況を示すチャネル行列Hを表している。このS個の時間チップのそれぞれの期間中には、シンボルベクトルZの成分Zij(i=1〜S及びj=1〜Nt)のNt個の線形結合から成るS個の連続した組が送信される。これは、対角線上に配列されたS個の異なるブロックH1…Hsによってモデル化される。ブロックのそれぞれは、Nt×Nrのサイズを有する。
【0041】
発明者は、このようなエルゴード的な通信チャネルによって搬送されたデータの量が、時間上で本質的に均一である場合に、高いダイバーシティが得られることを発見した。これによって、大量のデータが、上記通信チャネルの出力において所与の時点に存在し、その時点の後の別の時点では、データが当該出力にほとんど存在しない状況を防止することが可能になる。これは、時間に関連した情報が上記所与の時点で容易に検出でき、その後、ほとんど検出できないことを意味する。エルゴード的な通信チャネルを通じて送信されたシンボルにより搬送されるエネルギーが時間上で本質的に均一に分散されることによって、時間チップごとの通信状態の変化の最適な検出能が保証され、したがって、このような通信チャネルの受信端における受信アンテナから見た、時間及び空間に関する高いデータダイバーシティを提供することが可能になる。
【0042】
図5は、本発明の上述した好ましい実施の形態の第1の変形による拡散行列SMを示している。この第1の変形によると、当該拡散行列SMは、エルゴード的な通信チャネルに特に適合した構造を有する。この例では、拡散行列SMは、その行RWk(k=1〜Ns)のそれぞれが、S個の連続チャンクChk1…Chksによって形成されるように構築される。各チャンクは、送信アンテナの個数Ntに対応するサイズを有する。任意の行の全チャンクはそれぞれベクトルを形成し、ベクトルはすべて同じノルムを有する。これによって、エルゴード的な通信チャネルを通じて送信されたシンボルにより搬送されるエネルギーの上述した均一な分散を得ることが可能になる。
【0043】
上述したエルゴード的な場合とほとんど反対の状況では、通信チャネルは本質的に不変とすることができる。すなわち、上記チャネル内の通信状態は、シンボルベクトルZの成分Zij(i=1〜S及びj=1〜Nt)のNt個の線形結合から成るS個の連続した組が送信されるS個の時間チップのすべてについて同じ状態に維持されると予想される。
【0044】
このような場合、時間に関するダイバーシティは、通信チャネルによって誘発されない。これは、図4に図示したS個の異なるブロックH1…Hsの代わりに、S個の同一のブロックを対角線上に配置することによって、チャネル行列H内にモデル化することができる。
【0045】
発明者は、拡散行列の行のそれぞれが、送信アンテナの個数に対応するサイズをそれぞれ有する連続チャンクによって形成されるように当該拡散行列を構築することによって、このような本質的に不変のチャネルの受信端における受信アンテナから見た、時間に関連した高いダイバーシティを取得できることを発見した。任意の行の全チャンクはそれぞれベクトルを形成し、各ベクトルはすべてが同じノルムを有し、且つ、互いに直交する。したがって、本発明の上述した好ましい実施の形態のこのような第2の変形による拡散行列は、図5に示す行列SMに、任意の行RWkのチャンクChk1…Chksが互いに直交するという条件を追加したものとして表すことができる。このような直交性によって、エルゴード的な通信チャネルが、連続シンボルの成分の線形結合から成る送信された組に対して有する効果をシミュレーションすることが可能になり、したがって、このような直交性は、所定の個数の連続シンボルの成分のすべての線形結合を送信するのに必要な時間間隔の期間中、本質的に不変のチャネルをエルゴード的なチャネルに人為的に変換するものと解釈することができる。上記で説明したように、任意の行RWkの全チャンクChk1…Chksがすべて同じノルムを有することによって、人為的に変換された通信チャネルを通じて送信されたシンボルによって搬送されるエネルギーを時間上で均一に分散することができる。
【0046】
このような拡散行列を構築する可能な方法は、この拡散行列の各所与の行について、NtがS以上である次元Nt×Ntの所与の正方回転行列を選択すること、及び、この回転行列のS個の行を選択して、本発明のこの第2の変形による拡散行列の上記所与の行のS個の連続チャンクを構成することから成る。
【0047】
図6は、通信チャネルがいわゆるブロックフェージングチャネルであると仮定される状況を示すチャネル行列Hを表している。ブロックフェージングチャネルは、シンボルベクトルZの成分Zij(i=1〜S及びj=1〜Nt)のNt個の線形結合から成るS個の連続した組が送信されるS個の時間チップにわたるC個の連続した組の通信状態を特徴とすると予想される。一方、当該ブロックフェージングチャネルの通信状態の各組は、不変期間を形成するS/C個の連続時間チップの期間中は本質的に不変である。
【0048】
このような場合に、チャネル行列Hは、対角線上に配置されたC個の異なるブロックH1…Hcを含む。各ブロックは、対角線上に配置されたS/C個の同一のサブブロックによって構成される。これらC個のブロックは、それぞれNr×Ntのサイズを有する。
【0049】
本発明の上述した好ましい実施の形態の第3の変形によると、拡散行列SMは、その行RWk(k=1〜Ns)のそれぞれがC個のセグメントSgkn(n=1〜C)によって構成されるように構築される。C個のセグメントSgknは、それぞれベクトルを形成し、各ベクトルはすべて同じノルムを有する。各セグメントSgknは、連続したチャンクChkn,1…Chkn,s/cを含み、これらの連続したチャンクは、それぞれ、送信アンテナの個数に対応するサイズを有する。任意のセグメントの全チャンクChkn,1…Chkn,s/cはそれぞれベクトルを形成し、各ベクトルは、すべて同じノルムを有し、互いに直交する。
【0050】
同じセグメントSgknの全チャンクChkn,1…Chkn,s/c間の直交性によって、対応するS/C個の時間チップによって画定される各不変期間の間、ブロックフェージングチャネルにエルゴード性を加えることが可能になる。さらに、上記チャンクChkn,1…Chkn,s/cのノルムが等しいことによって、上記不変期間の間、ブロックフェージングチャネルを通じて送信されたシンボルにより搬送されるエネルギーの、関連する各不変期間にわたる本質的に均一な分散が提供される。ブロックフェージングチャネル内の通信状態は、不変期間ごとに変化するので、当該チャネルは、不変期間のスケールではエルゴード的であるとみなすことができる。その結果、拡散行列SMの各行RWk(k=1〜Ns)のC個のセグメントSgkn(n=1〜C)のノルムが等しいことを追加することは、シンボルベクトルZの成分Zij(i=1〜S及びj=1〜Nt)のNt個の線形結合から成るS個の連続した組が送信されるS個の時間チップにわたる本質的に均一なエネルギーの分散を保証するのに十分である。さらに、これによって、このようなブロックフェージング通信チャネルの受信端における受信アンテナから見た、データの時間及び空間に関する高いダイバーシティを提供することが可能になる。
【0051】
図8及び図9は、本発明の上述した好ましい実施の形態のこの第3の変形による拡散行列SMをどのように構築できるかを示している。
【0052】
図8に示す第1段階では、NtがS/C以上である次元Nt×Ntの正方円分回転行列(square cyclotomic rotation matrix)CMを選択すること、及び、各サブ行列S(w)の対角線を形成するための長さNtのS/C個の連続した対角チャンクを構成する行列CMのS/C個の行を選択することによって、C個のサブ行列S(w)(w=1〜C)が構築される。したがって、このようなすべての対角チャンクは、同じノルムを有し、且つ、互いに直交する。
【0053】
円分行列CMの各成分CMm,lは、次のように表すことができる。
【0054】
【数1】

【0055】
ここで、Φは、オイラー関数を表す。
【0056】
図9に示す第2段階では、このようなサブ行列S(w)(w=1〜C)の対角配列によって形成された次元Ns×Nsの行列を、次元Ns×Nsの別の円分回転行列Bと乗算することによって、拡散行列SMが取得される。この円分回転行列Bの成分は以下によって与えられる。
【0057】
【数2】

【0058】
上記で説明したように構築された拡散行列SMは、さらに、回転行列の特性も有する。すなわち、このような拡散行列は、互いに直交して同じノルムを有する行によって構成される。これは、SM×SM=Iとして表すことができる。ここで、IはランクNs×Nsの単位行列であり、SMは行列SMの転置共役である。
【0059】
送信端において連続シンボルの成分の複数の線形結合を計算するのに回転行列を使用することによって、反復時空間復号器によって実行される最初の反復ステップの性能を高めることにより、受信端において当該シンボルを処理するための当該復号器の全体性能を最適化することが可能になる。
【0060】
シンボルベクトルZの成分Zij(i=1〜S及びj=1〜Nt)が複素シンボルによって形成され、拡散行列SMがサイズ(2・Ns)×(2・Ns)を有し、且つ、実数成分のみを含む状況に対応する代替的な実施の形態では、上述したチャンクは、それぞれ、送信アンテナの数Ntの2倍に対応するサイズを有することが理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】高度に簡略化したMIMO電気通信システムを示すブロック図である。
【図2】本発明によるMIMO電気通信システムに含まれる送信機に含まれた時空間符号化器を示すブロック図である。
【図3】本発明による拡散ステップをこのような時空間符号化器内でどのように実行できるかを示す図である。
【図4】エルゴード的な通信チャネルに関連したチャネル行列を示す図である。
【図5】このようなエルゴード的なチャネルに適合した拡散行列を示す図である。
【図6】ブロックフェージング通信チャネルに関連したチャネル行列を示す図である。
【図7】このようなブロックフェージングチャネルに適合した拡散行列を示す図である。
【図8】ブロックフェージング通信チャネルに適合した拡散行列をどのように構築できるかを示す図である。
【図9】ブロックフェージング通信チャネルに適合した拡散行列をどのように構築できるかを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの送信アンテナが設けられた少なくとも1つの送信機と、少なくとも1つの受信アンテナが設けられた少なくとも1つの受信機とを含む電気通信システムにおいてデータを送信する方法であって、
前記方法は、前記送信アンテナと前記受信アンテナとの間に確立される通信チャネルを介して送信されるシンボルを生成するシンボル符号化ステップを含む、電気通信システムにおいてデータを送信する方法であって、
前記方法は、シンボル拡散ステップであって、前記シンボル拡散ステップの過程において、所定の個数の連続シンボルの成分が、前記通信チャネルを介して送信される前に、時間にわたって拡散される、シンボル拡散ステップをさらに含むことを特徴とする
電気通信システムにおいてデータを送信する方法。
【請求項2】
前記シンボル拡散ステップは、前記連続シンボルを表すベクトルの成分の複数の線形結合を計算することによって実行され、
前記線形結合は、前記所定の個数の連続シンボルに等しい個数の時間チップを介して前記送信アンテナにより送信されるものであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シンボル拡散ステップは、一方の前記連続シンボルの各々の成分の連結によって形成されたベクトルを、他方の所定の拡散行列と乗算することによって実行されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記拡散行列は、その行のそれぞれが、送信アンテナの個数に対応するサイズをそれぞれ有する連続チャンクによって形成されるように構築され、
任意の行の全チャンクは、すべてが同じノルムを有するベクトルをそれぞれ形成することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記拡散行列は、その行のそれぞれが、送信アンテナの個数に対応するサイズをそれぞれ有する連続チャンクによって形成されるように構築され、
任意の行の全チャンクは、すべてが同じノルムを有し、互いに直交したベクトルをそれぞれ形成することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記拡散行列は、その行のそれぞれが、すべてが同じノルムを有するベクトルを形成する、複数のセグメントによって構成されるように構築され、
各セグメントは、送信アンテナの個数に対応するサイズをそれぞれ有する連続チャンクを含み、
任意のセグメントの全チャンクは、すべてが同じノルムを有し、互いに直交したベクトルをそれぞれ形成することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記拡散行列は回転行列であることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも2つの送信アンテナが設けられた少なくとも1つの送信機と、少なくとも1つの受信アンテナが設けられた少なくとも1つの受信機とを含む電気通信システムであって、
前記送信機は、前記送信アンテナと前記受信アンテナとの間に確立される通信チャネルを介して送信されるシンボルを生成するシンボル符号化手段を含む
電気通信システムであって、
前記送信機は、所定の個数の連続シンボルの成分を前記通信チャネルを介して送信する前に、前記成分を時間にわたって拡散するシンボル拡散手段をさらに含む
ことを特徴とする、電気通信システム。
【請求項9】
前記シンボル拡散手段は、前記連続シンボルを表すベクトルの成分の複数の線形結合を計算するためのものであり、
前記線形結合は、前記所定の個数の連続シンボルに等しい個数の時間チップを介して前記送信アンテナにより送信されるものであることを特徴とする、請求項8に記載の電気通信システム。
【請求項10】
前記シンボル拡散手段は、一方の前記連続シンボルの各々の成分の連結によって形成されたベクトルを、他方の所定の拡散行列と乗算するためのものであることを特徴とする、請求項9に記載の電気通信システム。
【請求項11】
少なくとも2つの送信アンテナが設けられ、前記送信アンテナを介して送信されるシンボルを生成するシンボル符号化手段を含む通信デバイスであって、
所定の個数の連続シンボルの成分を前記送信アンテナを介して送信する前に、前記成分を時間にわたって拡散するシンボル拡散手段をさらに含むことを特徴とする、通信デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−504686(P2007−504686A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524236(P2006−524236)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007701
【国際公開番号】WO2005/022816
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(503163527)ミツビシ・エレクトリック・インフォメイション・テクノロジー・センター・ヨーロッパ・ビーヴィ (175)
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI ELECTRIC INFORMATION TECHNOLOGY CENTRE EUROPE B.V.
【住所又は居所原語表記】Capronilaan 46, 1119 NS Schiphol Rijk, The Netherlands
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】