説明

受信装置、及び信号選択方法

【課題】演算量の低い最尤検出が可能な受信装置を提供すること。
【解決手段】QR分解又はQL分解に基づく最尤検出により信号分離する受信装置が提供される。当該受信装置は、信号点の組み合わせに対する尤度値を算出する尤度値算出部と、値の小さい順に前記尤度値を順位付けする順位決定部と、前記尤度値の中から最小尤度値を選択する最小尤度値選択部とを備え、前記尤度値算出部は、前記尤度値の順位に基づいて前記最小尤度値の次順位となる新たな尤度値を更に算出し、前記最小尤度値選択部は、前記新たな尤度値を含む前記尤度値の中から前記最小尤度値を除いて最小となる最小尤度値を決定し、各前記最小尤度値に対応する信号点の組み合わせを各段階の送信シンボル候補として選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信装置、及び信号検出方法に関する。特に、移動体通信システムにおけるMIMO(Multiple−Input and Multiple−Output)伝送方式の受信装置、及び信号選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線装置間の通信速度を高速化する技術の一つとして、多入力・多出力伝送方式が知られている。この方式は、文字通り、複数のアンテナを用いた信号の入出力を基本としている。この方式の特徴は、異なる複数のアンテナを利用して、同じタイミング、かつ、同じ周波数で複数の送信データを一度に送信することが可能な点にある。そのため、同時に送信可能なチャネルの数が増加するにつれ、増加したチャネルの分だけ単位時間当たりに送信可能な情報量を増加させることが可能になる。また、この方式は、通信速度を向上させるに当たって、占有される周波数帯域が増加しないという利点も有する。
【0003】
しかし、同一周波数の搬送波成分を有する複数の変調信号が同時に送信されるため、受信側において混信した変調信号(多重信号)を分離する手段が必要になる。そこで、受信側において、無線伝送路の伝送特性を表すチャネル行列が推定され、そのチャネル行列に基づいて受信信号から各サブストリームに対応する送信信号が分離される。尚、チャネル行列は、パイロットシンボル等を用いて推定される。
【0004】
しかしながら、伝送路内で付加されるノイズやサブストリーム間に生じる干渉等の影響を十分に除去してサブストリーム毎の送信信号を精度良く再現するには更に特別な工夫が必要である。これに関し、近年、MIMO信号検出に関する様々な技術が開発されてきている。例えば、MMSE(Minimum Mean Squared Error)検波方式や、このMMSE検波方式よりも伝送特性を向上させることが可能なMLD(Maximum Likelihood Detection)検波方式が知られている。また、MLD検波方式よりもサブストリーム毎の信号検出に要する演算量を低減することが可能なQR分解MLD検波方式(以下、QRD−MLD方式)と呼ばれる改良方式も知られている(下記の特許文献1を参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−354678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、QRD−MLD方式は、最尤検出に用いるユークリッド距離の演算回数が依然として多く、信号検出に要する演算量が大きいという問題がある。この問題に関し、上記の特許文献1には、信号点配置図上の信号点を象限毎に区画し、最尤検出の際に参照する送信シンボル候補の数を削減する技術が開示されている。ところが、当該技術は、送信シンボル候補の選択範囲を制限するため、原始的なQRD−MLD方式に比べて送信シンボルの推定精度が低下するという問題がある。また、当該技術を適用しても、ユークリッド距離の演算回数が依然として多く、実施の態様に鑑みると、より演算量を低減させるための工夫が求められる。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、最尤検出に要する演算負荷を更に低減することが可能な、新規かつ改良された受信装置、及び信号選択方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、QR分解又はQL分解に基づく最尤検出により信号分離する受信装置が提供される。当該受信装置は、信号点の組み合わせに対する尤度値を算出する尤度値算出部と、値の小さい順に前記尤度値を順位付けする順位決定部と、前記尤度値の中から最小尤度値を選択する最小尤度値選択部とを備え、前記尤度値算出部は、前記尤度値の順位に基づいて前記最小尤度値の次順位となる新たな尤度値を更に算出し、前記最小尤度値選択部は、前記新たな尤度値を含む前記尤度値の中から前記最小尤度値を除いて最小となる最小尤度値を決定し、各前記最小尤度値に対応する信号点の組み合わせを各段階の送信シンボル候補として選択することを特徴とする。
【0009】
また、前記受信装置は、信号点配置図上に設定された所定のグリッドの各々に対し、各前記信号点までのユークリッド距離の情報が記録された記憶部と、受信シンボルを前記所定のグリッドに対応付けて量子化する量子化部とをさらに備えていてもよい。さらに、前記尤度値算出部は、前記受信シンボルに対応するグリッドの情報に基づいて前記記憶部から前記ユークリッド距離の情報を読み出し、当該ユークリッド距離の情報に基づいて前記信号点の組み合わせに対する尤度値を算出してもよい。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、QR分解又はQL分解に基づく最尤検出に用いる信号選択方法が提供される。当該信号選択方法は、送信シンボル候補の組み合わせに対する尤度値が算出される尤度値算出ステップと、値の小さい順に前記尤度値が順位付けされる順位決定ステップと、前記尤度値の中から最小尤度値が選択される最小尤度値選択ステップと、前記尤度値の順位に基づいて前記最小尤度値の次順位となる新たな尤度値が算出される次順位尤度値算出ステップと、前記新たな尤度値を含む前記尤度値の中から前記最小尤度値を除いて最小となる最小尤度値が決定される次順位最小尤度値選択ステップとを含み、前記最小尤度値選択ステップと、繰り返し実行される前記次順位尤度値算出ステップ及び前記次順位尤度値選択ステップとにより得られる前記最小尤度値が送信シンボル候補の組み合わせに対応する尤度値として選択されることを特徴とする。
【0011】
上記の装置、又は方法を用いることで、最尤検出の際に用いるユークリッド距離の計算回数が低減される。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、最尤検出に要する演算負荷を更に低減することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
<第1実施形態>
まず、図1を参照しながら、本発明の第1実施形態に係るMIMOシステムのシステム構成について説明する。図1は、本実施形態に係るMIMOシステムのシステム構成を示す説明図である。本実施形態は、受信側に設けられた信号検出手段に特徴がある。
【0015】
図1に示すように、MIMOシステムは、複数のアンテナを有する送信装置100と、複数のアンテナを有する受信装置200とにより構成される。送信装置100は、主に、誤り訂正符号化部102と、変調部104とを有する。送信データは、誤り訂正符号化部102により誤り訂正符号化され、変調部104により所定の変調方式で変調マッピングされて送信される。
【0016】
受信装置200は、主に、MIMO信号検出部202と、チャネル推定部204と、誤り訂正復号部206とを有する。受信装置200は、伝送路内で空間多重された信号を複数のアンテナで受信する。この受信信号は、MIMO信号検出部202、及びチャネル推定部204に入力される。チャネル推定部204は、受信されたパイロットシンボル等に基づいて伝送路の状態を表すチャネル行列Hを推定する。このチャネル行列Hは、MIMO信号検出部202に入力される。
【0017】
MIMO信号検出部202は、複数のアンテナを介して受信した多重信号を分離する手段である。特に、MIMO信号検出部202は、チャネル推定部204により推定されたチャネル行列Hに基づき、最尤検出により多重信号を各サブストリームに分離する。MIMO信号検出部202により分離された信号は、誤り訂正復号部206に入力されて誤り訂正復号され、サブストリーム毎の再生データとして出力される。
【0018】
以上、本実施形態に係るMIMOシステムのシステム構成について簡単に説明した。本実施形態は、受信装置200が有するMIMO信号検出部202の機能構成に特徴がある。特に、最尤検出の際に送信シンボル候補を選択する手段と、各送信シンボル候補と受信シンボルとの間のユークリッド距離を取得する手段とに特徴を有する。そこで、これらの手段について、さらに詳細な説明を加える。
【0019】
(送信シンボル候補の選択制御)
次に、図2を参照しながら、本実施形態に係るMIMO信号検出部202の機能構成について説明する。特に、最尤検出の際に送信シンボル候補を選択する選択制御手段について、より詳細に説明する。図2は、本実施形態に係るMIMO信号検出部202の機能構成を示す説明図である。
【0020】
図2に示すように、MIMO信号検出部202は、主に、ユークリッド距離計算部232と、累積尤度値算出部234と、尤度順位決定部236と、最小尤度値算出部238と、信号点候補設定部240と、次順位尤度算出部242と、次順位尤度位置検出部244とにより構成される。
【0021】
(ユークリッド距離計算部232)
ユークリッド距離計算部232は、チャネル行列Hを用いて受信信号から推定される推定送信シンボルと、所定の変調方式の信号点配置図(コンスタレーション)上の信号点に対応する送信シンボル候補との間のユークリッド距離を取得する手段である。
【0022】
ユークリッド距離計算部232は、コンスタレーション上の位置が与えられると、例えば、その位置からのユークリッド距離が近い順に送信シンボル候補を順位付け、所定順位の送信シンボル候補に対応するユークリッド距離を算出することができる。また、受信シンボルに対応する位置と順位とが与えられると、ユークリッド距離計算部232は、その位置と順位とに対応するユークリッド距離を出力することができる。
【0023】
尚、ユークリッド距離計算部232は、以下で説明するように、コンスタレーション上の位置(グリッド点)と各送信シンボル候補との間のユークリッド距離、及び、各グリッド点に対する送信シンボル候補の順位が記録されたデータベースを参照し、上記の算出処理を得ずに同等の情報を取得するように構成されていてもよい。
【0024】
ここで、図3を参照しながら、ユークリッド距離計算部232の機能構成について、より詳細に説明する。図3は、本実施形態に係るユークリッド距離計算部232の機能構成を示す説明図である。
【0025】
図3に示すように、ユークリッド距離計算部232は、QR分解部252と、信号再生部254と、量子化部256と、信号点候補選択部258と、距離情報記憶部260とにより構成される。
【0026】
QR分解部252は、チャネル推定部204から入力されたチャネル行列Hをユニタリ行列Qと上三角行列Rとの積に分解する手段である。信号再生部254は、複数のアンテナを介して受信した受信信号ベクトルyに対し、QR分解部252で算出されたユニタリ行列Qのエルミート共役Qを作用させる。また、信号再生部254は、上三角行列Rの各要素を用いて受信信号に対応するコンスタレーション上の位置xを算出する。
【0027】
尚、信号再生部254の処理は、上三角行列Rの最下行から順に行単位で順次実行される。チャネル行列Hが下記の式(1)で示される4×4MIMOの場合を例に挙げると、信号再生部254は、上三角行列Rの最下行に対し、位置x={Qy}(3)/R33の処理を実行する。但し、{Qy}(k)(k=0〜3)は、Qyの第k番目の要素を表す。他の行についても同様に、信号再生部254は、位置xを算出することができる。位置xの情報は、量子化部256に入力される。
【0028】
【数1】

【0029】
次いで、量子化部256は、信号再生部254により算出された位置xを量子化する。その様子を示したのが図4である。図4は、コンステレーション上に設定されたグリッドに対し、信号再生部254により出力された位置x(黒丸)をプロットしたものである。図4の中で、点線はグリッドを規定するための補助線であり、点線の交点がグリッドである。図4の例では、I(In−phase)軸とQ(Quadrature−phase)軸とが各々5ビットの離散値に区切られている。また、白丸は信号点(送信シンボル候補)の位置Xを表す。量子化部256は、信号再生部254から位置xが与えられると、その位置xに最も近いグリッドx’を選択する。選択されたグリッドx’は、信号点候補選択部258に入力される。
【0030】
再び図3を参照する。信号点候補選択部258は、距離情報記憶部260に格納されたデータベースを参照し、量子化部256から入力されたグリッドx’に対応する所定順位の送信シンボル候補を選択する。また、信号点候補選択部258は、その送信シンボル候補に対するユークリッド距離を出力する。但し、距離情報記憶部260には、例えば、コンスタレーション上の各グリッドと各送信シンボル候補との間のユークリッド距離、及び、各グリッドに対する送信シンボル候補の順位が相互に関連付けて記録されたデータベースが格納されている。従って、信号点候補選択部258は、グリッドの情報と順位の情報とが与えられると、計算処理を経ずにに送信シンボル候補、及び、これに対応したユークリッド距離を出力することができる。
【0031】
(累積尤度値算出部234)
再び図2を参照する。累積尤度値算出部234は、ユークリッド距離計算部232により出力されたユークリッド距離の値eに基づいて累積尤度値Fを計算する手段である。累積尤度値算出部234により算出された累積尤度値Fは、尤度順位決定部236に入力される。尚、累積尤度値Fとは、下記の式(2)で定義される値である。ここで、以下の説明に用いる表現を纏めて定義しておくことにする。
【0032】
・e(n,k):k番目の順位に対応し、n番目に小さいユークリッド距離
・E(m,k):m段目の処理段階、k番目の順位に対応する候補尤度値
・F(m,n,k)=E(m−1,k)+e(n,k)…(2)
但し、m≧2である。
【0033】
尚、k番目の順位とは、累積尤度値F(m,n,k)を計算するm段目の処理段階において、(m−1)段目の処理段階でk番目に小さい累積尤度値に対応する順位である。従って、累積尤度値F(m,n,k)の引数に含まれる順位の値kは、(m−1)段目の処理段階で選択された送信シンボル候補の組み合わせに対応する。また、m段目の処理とは、上三角行列Rの最下行から順に実行される送信シンボル候補の選択処理の中で、m行目に対応する処理を意味する。従って、累積尤度値F(m,n,k)を計算するm段目の処理段階では、(m−1)個のサブストリームに対する送信シンボル候補の組み合わせが順位付けされている点に注意されたい。
【0034】
(尤度順位決定部236)
尤度順位決定部236は、累積尤度値算出部234により算出された累積尤度値Fに基づいて送信シンボル候補の組み合わせに順位付けする手段である。まず、尤度順位決定部236は、例えば、k番目の順位に対し、m段目の処理段階で算出された累積尤度値F(m,n,k)(n=1〜N;Nは信号点の数)を小さい順に順位付けして並べる。そして、尤度順位決定部236は、ユークリッド距離e(n,k)に対応するサブストリームも含め、順位付けされた累積尤度値F(m,n,k)に対応する送信シンボル候補の組み合わせに対する順位を決定する。尚、以下の説明の中で、「順位」のことを「ランキング」と呼ぶ場合がある。
【0035】
(最小尤度値算出部238)
最小尤度値算出部238は、尤度順位決定部236により順位付けされた累積尤度値Fを参照し、最も小さい累積尤度値Fを選択する手段である。尚、累積尤度値Fは、既に、尤度順位決定部236により小さい順に並べられている。そのため、最小尤度値算出部238は、その最初の順位に対応する累積尤度値Fを抽出することで最小尤度値を得ることができる。最小尤度値算出部238により選択された最小尤度値は、信号点候補設定部240、及び次順位尤度算出部242に入力される。
【0036】
(信号点候補設定部240)
信号点候補設定部240は、最小尤度値算出部238により選択された最小尤度値Fを候補尤度値Eに設定する。また、信号点候補設定部240は、その最小尤度値Fに対応する送信シンボル候補の組み合わせを候補尤度値Eに対応する送信シンボル候補の組み合わせ{x’}に設定する。例えば、信号点候補設定部240は、k番目の順位に対し、m段目の処理段階で算出された累積尤度値F(m,n,k)の最小値F(m,n1,k)を候補尤度値E(m,i)=F(m,n1,k)に設定する。候補尤度値E(m,i)は、m段目の処理段階におけるi番目の順位の候補尤度値である。このi,k等の決定方法については後段において具体例を挙げて説明する。
【0037】
(次順位尤度算出部242)
次順位尤度算出部242は、信号点候補設定部240により候補尤度値Eに設定された累積尤度値Fの次に小さい累積尤度値の候補となる累積尤度値を算出する手段である。まず、次順位尤度算出部242は、候補尤度値Eに設定された累積尤度値Fの順位(上記例におけるk番目の順位)をユークリッド距離計算部232に通知し、候補尤度値Eに設定された累積尤度値Fが含むユークリッド距離eの次に大きなユークリッド距離を取得する。例えば、次順位尤度算出部242は、候補尤度値E(m,1)=F(m,n1,k)の次に小さい累積尤度値を算出するに際し、順位kの情報をユークリッド距離計算部232に通知し、ユークリッド距離e(n1,k)の次に小さいユークリッド距離e(n2,k)(以下、次順位のユークリッド距離)を取得する。
【0038】
次いで、次順位尤度算出部242は、次順位のユークリッド距離eを用いて累積尤度値Fを計算する。上記例の場合、次順位尤度算出部242は、(m−1)段目の候補尤度値E(m,k)を用いて、累積尤度値F(m,n2,k)=E(m,k)+e(n2,k)を算出する。次順位尤度算出部242により算出された累積尤度値Fは、次順位尤度位置検出部244に入力される。
【0039】
(次順位尤度位置検出部244)
次順位尤度位置検出部244は、次順位尤度算出部242により算出された新たな累積尤度値Fが、尤度順位決定部236により順位付けされた累積尤度値Fの中で、何番目の順位に位置するかを検出する手段である。もちろん、次順位尤度位置検出部244は、累積尤度値算出部234により算出された全ての累積尤度値Fに新たな累積尤度値Fを加え、新たに順位付けをしてもよい。しかし、尤度順位決定部236により既に、値が小さい順に累積尤度値Fが順位付けされているため、新たな累積尤度値の位置を検出するだけでよいのである。この方法により、順位付けに要する演算量が削減される。
【0040】
次順位尤度位置検出部244により検出された新たな累積尤度値Fの位置情報は、最小尤度値算出部238に入力される。そして、新たな累積尤度値Fを加え、既に候補尤度値Eとして選出された累積尤度値Fを除いた累積尤度値Fの集合の中から、最小尤度値算出部238により、新たな候補尤度値Eが算出される。上記の処理は、その都度、信号点候補設定部240により候補尤度値Eが設定されながら、所定数の候補尤度値Eが決定されるまで繰り返される。
【0041】
(送信シンボル候補の選択方法)
ここで、図5を参照しながら、本実施形態に係る送信シンボル候補の選択方法の流れについて簡単に説明する。図5は、本実施形態に係る送信シンボル候補の選択方法を示す説明図である。
【0042】
図5に示すように、MIMO信号検出部202は、最初に初期設定を行う(S100)。まず、ランキング1について累積尤度値F(m,1,1)〜F(m,N,1)(Nは信号点の数)が算出される(S102)。次いで、累積尤度値F(m,1,1)〜F(m,N,1)が小さい順に並べられて順位付けされる(S104)。次いで、値が最小の累積尤度値F(m,n,1)が選択され、候補尤度値E(m,1)に設定される(S106)。以上の処理により、初期設定が完了する。
【0043】
次に、j番目のランキングinに対する処理について述べる。まず、累積尤度値F(m,1,in)〜F(m,N,in)が算出される(S108)。次いで、累積尤度値F(m,1,1)〜F(m,N,1)が小さい順に並べられて順位付けされる(S110)。次いで、値が最小の累積尤度値F(m,n,in)が選択され、候補尤度値E(m,j)に設定される(S112)。次いで、ランキングinに1が加算され、jに1が加算されることで、次の候補尤度値の選択処理に移行する(S114)。このとき、j<Nか否かが判定され(S116)、j<Nの場合にステップS108の処理に進行し、j≧Nの場合に処理を終了する。
【0044】
(具体例:2段目の信号点候補選択について)
次に、図6を参照しながら、本実施形態に係る送信シンボル候補の選択方法に関し、より具体的な例を挙げて説明する。図6は、本実施形態に係る送信シンボル候補の選択方法の一例を示す説明図である。但し、図6の例は、2段目の信号点候補を選択する処理に関するものである。
【0045】
まず、前提として、1段目で各送信シンボル候補に対するユークリッド距離e(1,1)〜e(1,N)が算出されており、その値が小さい順に候補尤度値E(1,1)〜E(1,N)に設定されているものとする。図6に示すように、2段目では、1段目で算出された候補尤度値E(1,1)〜E(1,N)に基づいてユークリッド距離e(2,1)〜e(2,N)が算出され、合算されて累積尤度値F(2,1,k)=E(1,k)+e(k,1)(k=1〜N)が算出される(S132)。さらに、累積尤度値F(2,1,k)(k=1〜N)が小さい順に並べられて、値が最小の累積尤度値F(2,1,k1)が候補尤度値E(2,k1)に設定される(S134)。但し、図6には、k1=2の場合を例に示した。
【0046】
次いで、候補尤度値E(2,2)に対応する累積尤度値Fの順位k1について、次順位のユークリッド距離e(2,2)が取得され、順位k1に対応する前段の候補尤度値E(1,2)と合算されて新たな累積尤度値F(2,2,2)=E(1,2)+e(2,2)が算出される(S136)。次いで、この新たな累積尤度値F(2,2,2)が上記の累積尤度値F(2,1,k’)(k’=1,3〜N)の中に挿入され、どの順位に位置するかが検出される(S138)。そして、新たな累積尤度値F(2,2,2)を含めた累積尤度値{F(2,1,k’)(k’=1,3〜N),F(2,2,2)}の中で、その値が最小になる累積尤度値Fが次順位の候補尤度値E(2,2)に選択される。但し、図6には、E(2,2)=F(2,1,3)の場合を例に示した。
【0047】
上記の処理を各段階で繰り返し実行することにより、最小尤度に対応する送信シンボル候補の組み合わせが決定される。但し、最終段における信号点候補の選択方法は次のようになる。これについて、図7に示す。図7は、本実施形態に係る送信シンボル候補の選択方法の一例を示す説明図である。特に、最終段の処理に関する。
【0048】
図7に示すように、最終段の処理においては、次段で用いる候補尤度値Eを算出する必要がないため、前段で算出された候補尤度値Eの各々に対し、各々算出されたユークリッド距離eを加算して累積尤度値Fを算出し、その値が最小のものを選択すればよい。その結果、最小尤度に対応する送信シンボル候補の組み合わせが決定される。
【0049】
以上、本実施形態に係る装置、及び方法について説明した。上記のように、送信シンボル候補の組み合わせをランキング情報に基づいて選別することで、最尤検出に要するユークリッド距離の算出回数を削減できる。その結果、最尤検出に必要な演算量を大きく低減させることが可能になる。また、本実施形態に係る方法は、送信シンボル候補として選択される信号点の数を限定しておらず、上記の特許文献1に記載された技術のような精度低下を招かない。従って、原始的なQRD−MLD方式の最尤検出方法に比べても、信号の推定精度を低下させることなく、演算負荷を大幅に低減させることに成功している。
【0050】
より具体的に述べると、次の通りである。例えば、4種類の送信信号が4本の送信アンテナから送信される場合を想定する。また、変調方式が16QAMの場合を考える。この場合、完全なMLD方式を採用すると、ユークリッド距離の計算回数は、16^4=65535回になる。また、QRD−MLD方式にMアルゴリズムを組み合わせたQRM−MLD方式では、段階が移行する際に引き継がれる信号点候補数Sm=16とすると、16+16×16×3=784回になる。本実施形態では、これと同等の精度で演算する場合、16+(16+16)×2+16=96回の演算回数で済む。つまり、演算量を約1/8程度にまで低減している。
【0051】
また、上記の特許文献1に記載の方式では、本実施形態と同等の演算精度を得るために、より多くの信号点候補の情報を各段階で保持しなければならない。そのため、本実施形態に比べてメモリ量を多く消費する。こうした点に鑑みると、本実施形態に係る技術を適用することで、演算量の削減、メモリ量の抑制、また、これらの結果として回路規模を小さくできるという効果も得られる。
【0052】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0053】
例えば、上記の実施形態の説明を通じて、QR分解を前提としていたが、チャネル行列Hをユニタリ行列Qと下三角行列Lとの積に分解するQL分解を用いてもよい。これらの処理は、実質的に同一であり、当然に、本発明の技術的範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】MIMO伝送方式に係る通信システムの構成を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る信号分離手段の構成を示す説明図である。
【図3】同実施形態に係るユークリッド距離取得手段の構成を示す説明図である。
【図4】受信シンボルの量子化方法、及びランキング方法を示す説明図である。
【図5】同実施形態に係る信号検出処理の流れを示す説明図である。
【図6】同実施形態に係る信号点候補の選択方法を示す説明図である。
【図7】同実施形態に係る信号点候補の選択方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0055】
100 送信装置
102 誤り訂正符号化部
104 変調部
200 受信装置
202 MIMO信号検出部
204 チャネル推定部
206 誤り訂正復号部
232 ユークリッド距離計算部
234 累積尤度値算出部
236 尤度順位決定部
238 最小尤度値算出部
240 信号点候補設定部
242 次順位尤度算出部
244 次順位尤度位置検出部
252 QR分解部
254 信号再生部
256 量子化部
258 信号点候補選択部
260 距離情報記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
QR分解又はQL分解に基づく最尤検出により信号分離する受信装置であって、
信号点の組み合わせに対する尤度値を算出する尤度値算出部と、
値の小さい順に前記尤度値を順位付けする順位決定部と、
前記尤度値の中から最小尤度値を選択する最小尤度値選択部と、
を備え、
前記尤度値算出部は、前記尤度値の順位に基づいて前記最小尤度値の次順位となる新たな尤度値を更に算出し、
前記最小尤度値選択部は、前記新たな尤度値を含む前記尤度値の中から前記最小尤度値を除いて最小となる最小尤度値を決定し、
各前記最小尤度値に対応する信号点の組み合わせを各段階の送信シンボル候補として選択することを特徴とする、受信装置。
【請求項2】
信号点配置図上に設定された所定のグリッドの各々に対し、各前記信号点までのユークリッド距離の情報が記録された記憶部と、
受信シンボルを前記所定のグリッドに対応付けて量子化する量子化部と、
をさらに備え、
前記尤度値算出部は、前記受信シンボルに対応するグリッドの情報に基づいて前記記憶部から前記ユークリッド距離の情報を読み出し、当該ユークリッド距離の情報に基づいて前記信号点の組み合わせに対する尤度値を算出することを特徴とする、請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
QR分解又はQL分解に基づく最尤検出に用いる信号選択方法であって、
送信シンボル候補の組み合わせに対する尤度値が算出される尤度値算出ステップと、
値の小さい順に前記尤度値が順位付けされる順位決定ステップと、
前記尤度値の中から最小尤度値が選択される最小尤度値選択ステップと、
前記尤度値の順位に基づいて前記最小尤度値の次順位となる新たな尤度値が算出される次順位尤度値算出ステップと、
前記新たな尤度値を含む前記尤度値の中から前記最小尤度値を除いて最小となる最小尤度値が決定される次順位最小尤度値選択ステップと、
を含み、
前記最小尤度値選択ステップと、繰り返し実行される前記次順位尤度値算出ステップ及び前記次順位尤度値選択ステップとにより得られる前記最小尤度値が送信シンボル候補の組み合わせに対応する尤度値として選択されることを特徴とする、信号選択方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−141768(P2009−141768A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317255(P2007−317255)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do 442−742(KR)
【Fターム(参考)】