説明

受信装置およびそれを備えた無線システム

【課題】 出力信号を複数の給電素子から出力するアレーアンテナに適したアルゴリズムを用いて受信信号を処理可能な受信装置を提供する。
【解決手段】 アレーアンテナ10は、所定の指向性を設定してまたは複数の指向性に切換えて電波を受信し、その受信した受信信号yを1本のアンテナ素子(給電素子)7から信号変換手段30へ出力する。信号変換手段30は、受信信号yを7本のアンテナ素子1〜7から出力される受信信号xに変換して信号処理手段40へ出力する。信号処理手段40は、7本のアンテナ素子1〜7から出力される出力信号の処理に適したアルゴリズムを用いて受信信号xを処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電波を受信する受信装置に関し、特に、インピーダンス制御により指向性を切換え可能なアレーアンテナにより電波を受信する受信装置およびそれを備えた無線システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、電気的に指向性を切換可能なアレーアンテナを開示する。このアレーアンテナは、1本の給電素子と、6本の無給電素子とからなり、6本の無給電素子は、給電素子の回りに円形配列される。より具体的には、6本の無給電素子は、給電素子を中心にして正六角形に配置される。また、6本の無給電素子には、可変容量素子であるバラクタダイオードが装荷されており、バラクタダイオードのリアクタンス値(容量)を変えることによってアレーアンテナの指向性が切換えられる。
【0003】
アレーアンテナは、6本の無給電素子に装荷されるバラクタダイオードのリアクタンス値が変えられることによって指向性を変えられ、各方向から到来する電波を受信する。そして、アレーアンテナは、受信した受信信号を1本の給電素子から出力する。
【0004】
このようなアレーアンテナを備える受信装置は、アレーアンテナの1本の給電素子から出力された受信信号をアレーアンテナに適したアルゴリズムを用いて処理する。
【非特許文献1】平田 明史、タユフェールエディ、青野 智之、山田 寛喜、大平 孝、「エスパアンテナを用いたリアクタンスドメインMUSIC法によるコヒーレント2波の到来方向推定実験」,信学技報,AP2003−24,pp.59−64,May 2003.
【非特許文献2】Prentice Hall, Simon Haykin, ”Adaptive Filter Theory”, ISBN 0-13-397985-7, p341-343.
【非特許文献3】H. Krim and M. Viberg, “Two decades of array signal processing research: The parametric approach”, IEEE Signal Processing Magazine, vol. 13, pp. 67-94, July 1996.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1に記載されたアレーアンテナを用いた場合、受信装置は、受信信号を1本のアンテナ素子から出力するアレーアンテナに適したアルゴリズムを用いて受信信号を処理する必要があるため、このアレーアンテナを備えた受信装置を用いて電波の到来方向を推定するとき、各種の到来方向推定方法毎にアルゴリズムを開発する必要があり、各種の到来方向推定方法を用いて電波の到来方向を推定することが困難である。
【0006】
また、非特許文献1に記載されたアレーアンテナを備える受信装置を電波の到来方向を推定する目的以外の目的に用いる場合にも、同様な問題がある。
【0007】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、出力信号を複数の給電素子から出力するアレーアンテナに適したアルゴリズムを用いて受信信号を処理可能な受信装置を提供することである。
【0008】
また、この発明の別の目的は、出力信号を複数の給電素子から出力するアレーアンテナに適したアルゴリズムを用いて受信信号を処理可能な受信装置を備えた無線システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明によれば、受信装置は、アレーアンテナと、信号変換手段と、信号処理手段とを備える。アレーアンテナは、M(Mは、正の整数)本の無給電素子と1本の給電素子とからなるM+1本のアンテナ素子を含み、1本の給電素子から受信信号を出力する。信号変換手段は、アレーアンテナの指向性が所定の指向性に設定されまたは複数の指向性に切換えられたときにアレーアンテナによって受信され、かつ、1本の給電素子から出力される第1の受信信号をM+1本の給電素子から出力される第2の受信信号に変換する。信号処理手段は、M+1本の給電素子から出力される出力信号の処理に適した所定のアルゴリズムを用いて第2の受信信号を処理する。
【0010】
好ましくは、受信装置は、指向性切換手段をさらに備える。指向性切換手段は、M本の無給電素子に装荷されたM個の可変インピーダンス素子の少なくとも1つのインピーダンスを変化させてアレーアンテナの指向性を切換える。
【0011】
好ましくは、アレーアンテナは、各々が同じデータからなるN(NはM+1以上の整数)個の基準信号の到来方向をP(Pは、P≧2Nを満たす整数)個の到来方向に順次設定し、その設定した各到来方向において指向性をN個の指向性に順次変えてN個の基準信号を順次受信する。信号変換手段は、アレーアンテナによって受信されたN×P個の基準信号に基づいて、第1の受信信号を第2の受信信号に変換するための変換手段を決定し、その決定した変換手段を用いて第1の受信信号を第2の受信信号に変換する。
【0012】
好ましくは、信号変換手段は、N×P個の基準信号に基づいて、変換手段として第1の受信信号を第2の受信信号に変換するための変換行列を演算し、その演算した変換行列を第1の受信信号に乗算して第1の受信信号を第2の受信信号に変換する。
【0013】
好ましくは、信号変換手段は、N個の基準信号の到来方向が1つの到来方向に設定されたときにアレーアンテナによって順次受信されたN個の基準信号に基づいて1つの到来方向からアレーアンテナに到来するN個の基準信号に対する相関行列を演算し、その演算した相関行列に固有値分解を施して最大の固有値に対応する固有ベクトルを演算する固有ベクトル演算処理をP個の到来方向に対して実行し、P個の固有ベクトルからなる固有行列を演算し、さらに、P個の到来方向に基づいて到来方向行列を演算し、その演算した固有行列および到来方向行列に基づいて変換行列を演算する。
【0014】
また、この発明によれば、無線システムは、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の受信装置と、受信装置へ無線信号を送信する送信装置とを備える。
【発明の効果】
【0015】
この発明においては、受信装置は、アレーアンテナによって受信され、1本の給電素子から出力された第1の受信信号をM+1本の給電素子から出力される第2の受信信号に変換し、M+1本の給電素子から出力される出力信号の処理に適した所定のアルゴリズムを用いて第2の受信信号を処理する。
【0016】
従って、この発明によれば、出力信号を複数の給電素子から出力するアレーアンテナに適したアルゴリズムを用いて受信信号を処理できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0018】
図1は、この発明の実施の形態による受信装置の概略図である。図1を参照して、この発明の実施の形態による受信装置100は、アレーアンテナ10と、指向性切換手段20と、信号変換手段30と、信号処理手段40とを備える。
【0019】
アレーアンテナ10は、アンテナ素子1〜7と、信号受信手段8と、バラクタダイオード11〜16とを含む。アンテナ素子1〜7は、x軸、y軸およびz軸からなるxyz直交座標におけるz軸に沿ってx−y平面(所定平面)に配置される。
【0020】
図2は、図1に示すx−y平面におけるアンテナ素子1〜7の平面配置図である。図2を参照して、アンテナ素子1〜7は、アンテナ素子7を中心にして円形に配置される。そして、アンテナ素子1〜6は、アンテナ素子7から半径λ/4(λ:受信電波の波長)の位置に等間隔に配置される。
【0021】
再び、図1を参照して、アンテナ素子1〜6の各々は、無給電素子であり、アンテナ素子7は、給電素子である。信号受信手段8は、アンテナ素子7(給電素子)に接続される。そして、信号受信手段8は、アンテナ素子7からの電流を受けてアレーアンテナ10の受信信号yを信号変換手段30へ出力する。バラクタダイオード11〜16は、それぞれ、アンテナ素子1〜6と接地ノードとの間に接続される。これによって、無給電素子であるアンテナ素子1〜6には、可変容量素子であるバラクタダイオード11〜16がそれぞれ装荷される。
【0022】
このように、アレーアンテナ10は、1本の給電素子(アンテナ素子7)と、6本の無給電素子(アンテナ素子1〜6)とからなる7本のアンテナ素子が給電素子を中心にして円形に配列された構造からなり、受信信号yを1本の給電素子(アンテナ素子7)から出力する。
【0023】
指向性切換手段20は、バラクタダイオード11〜16に制御電圧セットCVL1〜CVL6を供給し、アレーアンテナ10の指向性を切換える。バラクタダイオード11〜16は、それぞれ、制御電圧CVL1〜CVL6によって容量(リアクタンス値)が変化する。指向性切換手段20は、各バラクタダイオード11〜16におけるリアクタンス値が“hi”(最大値)または“lo”(最小値)になるように各制御電圧CVL1〜CVL6の電圧値を決定し、制御電圧セットCVL1〜CVL6をバラクタダイオード11〜16へ供給する。
【0024】
この場合、指向性切換手段20は、バラクタダイオード11〜16におけるリアクタンス値xm1〜xm6のリアクタンスセットxが表1に示すように変化するように制御電圧セットCVL1〜CVL6をバラクタダイオード11〜16へ供給する。
【0025】
【表1】

【0026】
リアクタンス値xm1〜xm6の全てが“hi”であるとき(m=0)、アレーアンテナ10は、全方位に感度があるオムニパターンに近いパターンからなるビームパターンBPM0を有する。また、リアクタンス値xm1が“lo”であり、リアクタンス値xm2〜xm6が“hi”であるとき(m=1)、アレーアンテナ10は、0度の方向に指向性があるビームパターンBPM1を有する。なお、アンテナ素子7からアンテナ素子1への方向を0度の方向とする(図2参照)。
【0027】
更に、リアクタンス値xm2が“lo”であり、リアクタンス値xm1,xm3〜xm6が“hi”であるとき(m=2)、アレーアンテナ10は、60度の方向に指向性があるビームパターンBPM2を有する。
【0028】
以下、同様にして、各リアクタンス値xm3〜xm6が“lo”であり、それ以外のリアクタンス値が“hi”であるとき(m=3〜6)、アレーアンテナ10は、それぞれ、120度、180度、240度および300度の方向に指向性があるビームパターンBPM3〜BPM6を有する(図2参照)。
【0029】
このように、指向性切換手段20は、無給電素子であるアンテナ素子1〜6に装荷されたバラクタダイオード11〜16のリアクタンス値xm1〜xm6を変えることによってアレーアンテナ10の指向性を切換える。
【0030】
信号変換手段30は、アレーアンテナ10の信号受信手段8を介して給電素子であるアンテナ素子7と接続され、1本のアンテナ素子7(給電素子)からアレーアンテナ10が受信した受信信号yを受ける。そして、信号変換手段30は、後述する方法によって、1本のアンテナ素子7から出力された受信信号yを7本の給電素子から出力された受信信号xに変換するための変換手段を求め、その求めた変換手段によって受信信号yを受信信号xへ変換する。
【0031】
信号処理手段40は、信号変換手段30から出力された受信信号xを7本の給電素子から出力された受信信号xの処理に適したアルゴリズムを用いて処理する。
【0032】
受信信号yを受信信号xに変換するための変換手段を求める方法について説明する。Q(Qは正の整数)個のコヒーレント波がアレーアンテナ10に到来している環境を考える。アレーアンテナ10のリアクタンスセットx(=xm1〜xm6)をN個に変化させてQ個のコヒーレント波を受信したときの受信信号ベクトル<y>は、次式によって表わされる。
【0033】
【数1】

【0034】
ただし、ベクトル<W>は、等価ウエイト行列であり、行列<A>は、Q個のコヒーレント波の各到来方向からなるステアリング行列であり、ベクトル<u(t)>は、到来信号ベクトルであり、ベクトル<n(t)>は、熱雑音である。また、Tは、転置を表わす。なお、式(1)において、θ,・・・,θは、アンテナ素子7からアンテナ素子1への方向を0度とするQ個のコヒーレント波の到来方向であり、φ,・・・,φは、アンテナ素子7からアンテナ素子1への方向を0度とするM(Mは正の整数)本の無給電素子の方位角である。
【0035】
なお、この明細書においては、表記<X>は、行列XまたはベクトルXを意味する。したがって、表記<y>は、式(1)におけるベクトルyを表わす。
【0036】
そして、式(1)により決定される受信信号ベクトル<y>の相関行列<Ryy>を演算すると、次式のようになる。
【0037】
【数2】

【0038】
なお、式(2)におけるHは、エルミート転置を表わす。
【0039】
そして、相関行列<Ryy>に固有値分解を施すと、次式のようになる。
【0040】
【数3】

【0041】
そうすると、式(2)の右辺第1項は、式(3)の右辺第1項と等しくなるので、2つの式が得られる。
【0042】
【数4】

【0043】
【数5】

【0044】
式(4)の右辺<v>は、最大の固有値λに対応する固有ベクトルを表わす。そして、式(4)は、アレーアンテナ10に到来するQ個のコヒーレント波の1つの到来方向に対して成立する式であり、P(Pは、P≧2Nを満たす整数)個の到来方向に対しては、ステアリングベクトル<a(θ)>および固有ベクトル<v>をそれぞれP個の到来方向に対して表したステアリング行列<A>および固有行列<E>に代えた式が成立する。
【0045】
固有行列<E>は、次式によって表される。
【0046】
【数6】

【0047】
また、ステアリング行列<A>は、次式によって表される。
【0048】
【数7】

【0049】
従って、式(4)の固有ベクトル<v1>の代わりに式(6)の固有行列<E>を用い、式(4)のステアリングベクトル<a(θ)>の代わりに式(7)を用いると、P個の到来方向に対して次式が成立する。
【0050】
【数8】

【0051】
一方、M+1本の給電素子から出力される受信信号ベクトル<x>は、式(1)におけるステアリング行列<A>と、アレーアンテナ10に到来する信号u(t)との積に等しいので、式(1)を用いると次式が得られる。
【0052】
【数9】

【0053】
式(9)において、行列<T>は、N×(M+1)の要素からなる行列<W>の擬似逆行列であり、次式により表わされる。
【0054】
【数10】

【0055】
式(10)において、は、擬似逆行列を表わし、*は、複素共役を表わす。
【0056】
また、次式が成立する。
【0057】
【数11】

【0058】
なお、式(11)の右辺は、(M+1)×(M+1)の単位行列である。
【0059】
式(10)および(11)から次式が成立する。
【0060】
【数12】

【0061】
そして、式(8)および式(12)を行列<T>について解くと次式が得られる。
【0062】
【数13】

【0063】
アレーアンテナ10においては、近似的に<x>=<T>×<y>が成立するので、式(13)は、ステアリング行列<A>および固有行列<E>を求めることができれば、受信信号ベクトル<y>を受信信号ベクトル<x>へ変換するための変換行列<T>を演算できることを意味する。
【0064】
そこで、この発明においては、次の方法によってステアリング行列<A>および固有行列<E>を求め、その求めたステアリング行列<A>および固有行列<E>を式(13)へ代入して変換行列<T>を演算する。
【0065】
受信信号ベクトル<y>を受信信号ベクトル<x>に変換するための変換行列<T>を求める場合、送信源から到来するN個の同じ基準信号の到来方向として0〜360度の中からP個の方向が任意に選択され、その選択されたP個の到来方向の1つの到来方向にN個の基準信号の到来方向が設定される。また、指向性切換手段20は、アレーアンテナ10のリアクタンスセットx(=xm1〜xm6)をN個に順次変える。そして、アレーアンテナ10は、その設定された各到来方向において、リアクタンスセットx(=xm1〜xm6)をN個に変えてN個の基準信号を受信する。
【0066】
即ち、アレーアンテナ10の信号受信手段8は、N個の基準信号の到来方向を到来方向DIR1(到来角θ)に設定し(図2参照)、指向性切換手段20は、アレーアンテナ10のリアクタンスセットx(=xm1〜xm6)をN個に順次変え、アレーアンテナ10は、N個の基準信号を受信する。
【0067】
そして、アレーアンテナ10は、式(1)によって演算される受信信号ベクトル<y>=[y,y,・・・,yを信号変換手段30へ出力し、信号変換手段30は、アレーアンテナ10から受けた受信信号ベクトル<y>=[y,y,・・・,yを式(2)に代入して到来方向θにおける相関行列<Ryy>|θを演算する。引続いて、信号変換手段30は、相関行列<Ryy>|θに固有値分解を施して最大の固有値に対応する固有ベクトル<v>を求める。
【0068】
その後、アレーアンテナ10の信号受信手段8は、N個の基準信号の到来方向を到来方向DIR2(到来角θ)に設定し(図2参照)、指向性切換手段20は、アレーアンテナ10のリアクタンスセットx(=xm1〜xm6)をN個に順次変え、アレーアンテナ10は、N個の基準信号を受信する。
【0069】
そして、アレーアンテナ10は、式(1)によって演算される受信信号ベクトル<y>=[y,y,・・・,yを信号変換手段30へ出力し、信号変換手段30は、アレーアンテナ10から受けた受信信号ベクトル<y>=[y,y,・・・,yを式(2)に代入して到来方向θにおける相関行列<Ryy>|θを演算する。引続いて、信号変換手段30は、相関行列<Ryy>|θに固有値分解を施して最大の固有値に対応する固有ベクトル<v>を求める。
【0070】
以下、同様にして、アレーアンテナ10の信号受信手段8は、N個の基準信号の到来方向を到来方向DIRj(j=3〜P)(到来角θ)に設定し(図2参照)、指向性切換手段20は、アレーアンテナ10のリアクタンスセットx(=xm1〜xm6)をN個に順次変え、アレーアンテナ10は、N個の基準信号を受信する。
【0071】
そして、アレーアンテナ10は、式(1)によって演算される受信信号ベクトル<y>=[y,y,・・・,y(j=3〜P)を信号変換手段30へ出力し、信号変換手段30は、アレーアンテナ10から受けた受信信号ベクトル<y>=[y,y,・・・,yを式(2)に代入して到来方向θにおける相関行列<Ryy>|θを演算する。引続いて、信号変換手段30は、相関行列<Ryy>|θに固有値分解を施して最大の固有値に対応する固有ベクトル<v>を求める。
【0072】
P個の固有ベクトル<v>,<v>,・・・,<v>が求まると、信号変換手段30は、P個の固有ベクトル<v>,<v>,・・・,<v>を要素とする固有行列<E>を式(6)により演算する。また、信号変換手段30は、P個の角度θ,θ,・・・,θを式(7)に代入してステアリング行列<A>を演算する。
【0073】
そして、信号変換手段30は、演算したステアリング行列<E>およびステアリング行列<A>を式(13)に代入して受信信号ベクトル<y>を受信信号ベクトル<x>に変換するための変換行列<T>を演算する。
【0074】
図3は、図1に示す受信装置100における動作を説明するためのフローチャートである。一連の動作が開始されると、信号受信手段8は、0〜360度の範囲から任意のP個の角度θ(p=1〜P)を選択する(ステップS1)。即ち、N個の基準信号の到来方向がP個の到来方向DIR1〜DIRP(到来角度θ(p=1〜P))に設定される。
【0075】
そして、信号受信手段8は、p=1を設定する(ステップS2)。これにより、N個の基準信号の到来方向が到来方向DIR1(到来角度θ)に設定される。その後、指向性切換手段20は、n=1を設定し(ステップS3)、リアクタンスセットx(n)をバラクタダイオード11〜16へ出力する(ステップS4)。そして、アレーアンテナ10は、基準信号Sstdを受信し(ステップS5)、基準信号Sstdに対する受信信号ベクトル<y>=[y,y,・・・,yを取得する(ステップS6)。
【0076】
なお、基準信号Sstdは、例えば、K(Kは正の整数)ビットの信号[0111・・・01]からなる。
【0077】
その後、指向性切換手段20は、n=Nであるか否かを判定する(ステップS7)。n=Nでないとき、指向性切換手段20は、n=n+1を設定する(ステップS8)。
【0078】
そして、ステップS7において、n=Nであると判定されるまで、ステップS4〜ステップS8が繰返し実行される。
【0079】
即ち、ステップS4〜ステップS8の経路がN回繰返し実行される。そして、ステップS4〜ステップS8の経路をN回繰返し実行することは、アレーアンテナ10のリアクタンスセットをN個のリアクタンスセットに順次切換えて基準信号SstdをN回受信することに相当する。
【0080】
ステップS7において、n=Nであると判定されると、アレーアンテナ10は、式(1)によって演算される受信信号ベクトル<y>|θ(到来角度θにおける受信信号ベクトルを表す)を信号変換手段30へ出力し、信号変換手段30は、受信信号ベクトル<y>|θを式(2)に代入して相関行列<Ryy>|θを演算する(ステップS9)。
【0081】
そして、信号変換手段30は、相関行列<Ryy>|θに固有値分解を施し、最大の固有値に対する固有ベクトル<v>を求める(ステップS10)。その後、信号受信手段8は、p=Pであるか否かを判定し(ステップS11)、p=Pでないとき、p=p+1を設定する(ステップS12)。そして、ステップS11においてp=Pになるまで、上述したステップS3〜ステップS12が繰返し実行される。
【0082】
ステップS11において、p=Pであると判定されると、信号変換手段30は、P個の固有ベクトル<v>,<v>,・・・,<v>を取得し、式(6)により固有行列<E>を生成する(ステップS13)。また、信号変換手段30は、角度θ(p=1〜P)に基づいて、ステアリング行列<A>を式(7)により生成する(ステップS14)。
【0083】
そして、信号変換手段30は、固有行列<E>およびステアリング行列<A>を式(13)に代入して変換行列<T>を演算し(ステップS15)、その演算した変換行列<T>をメモリ(図示せず)に記憶する(ステップS16)。なお、演算した変換行列<T>をメモリに記憶するのは、それ以降の受信信号ベクトル<y>から受信信号ベクトル<x>への変換においてメモリから変換行列<T>を読み出して受信信号ベクトル<y>から受信信号ベクトル<x>への変換を行なうようにするためである。
【0084】
その後、アレーアンテナ10は、送信源から無線信号を受け、受信信号ベクトル<y>を信号変換手段30へ出力する。信号変換手段30は、アレーアンテナ10からの受信信号ベクトル<y>に変換行列<T>を乗算して受信信号ベクトル<x>を演算し(ステップS17)、その演算した受信信号ベクトル<x>を信号処理手段40へ出力する。
【0085】
信号処理手段40は、通常のアレーアンテナ用のアルゴリズム、即ち、7本の給電素子から出力される出力信号の処理に適したアルゴリズムを受信信号ベクトル<x>に適用して各種の信号処理を行なう(ステップS18)。これにより、一連の動作が終了する。
【0086】
このように、固有行列<E>およびステアリング行列<A>を求めることにより変換行列<T>を演算できるが、変換行列<T>の演算を可能とする条件として次の2つが存在する。
【0087】
条件1:Nが大きいこと
条件2:式(14)が成立すること
【0088】
【数14】

【0089】
式(14)において、‖・‖は、フロベニウスノルムを示す。
【0090】
条件2は、有限値Nに対して適当なリアクタンスセット[x,x,・・・,x]が存在することである。そして、有限値Nに対して適当なリアクタンスセット[x,x,・・・,x]が存在するか否かは、最急勾配法(非特許文献2)を用いて決定される。
【0091】
N=∞であれば、条件2は必要ではない。しかし、N=∞は、実現不可能であるので、上記の条件1,2が必要となる。従って、条件1,2を満たす場合に変換行列<T>を演算可能である。
【0092】
そして、信号変換手段30が変換行列<T>を演算する場合、受信装置100は、各到来方向θ(p=1〜P)においてN個の同じ基準信号Sstdを受信するが(ステップS4〜ステップS8の経路がN回繰返し実行される)、これは、次の理由による。
【0093】
図3に示すステップS4〜ステップS8がN回繰返し実行された後、ステップS9において、各到来方向θ(p=1〜P)における相関行列Ryy|θが演算され、ステップS10において、相関行列Ryy|θに固有値分解を施して最大の固有値に対応する固有ベクトル<v>が演算される。この固有ベクトル<v>は、無給電素子であるアンテナ素子1〜6に装荷されたバラクタダイオード11〜16のリアクタンスセット[xm1,xm2,・・・,xm6]をN個に順次変えて受信した受信信号ベクトル<y>|θに基づいて演算され、式(4)に示す関係から明らかなように、N個の基準信号Sstdが到来角θの方向からアレーアンテナ10に到来したときの各アンテナ素子1〜7の重み(ウエイト)を示すものである。従って、アレーアンテナ10が基準信号Sstdを受信するときの各アンテナ素子1〜7の重み(ウエイト)を正確に求めるためには、N個のリアクタンスセット[xm1,xm2,・・・,xm6]の各々が設定されたときにアレーアンテナ10に到来する信号を同じにする必要があるからである。つまり、N個のリアクタンスセット[xm1,xm2,・・・,xm6]の各々が設定されたときにアレーアンテナ10に到来する信号が異なっていれば、最大の固有値が得られても、それは、信号に起因しているのか、各アンテナ素子1〜7の重み(ウエイト)に起因しているのかが明らかではないので、各アンテナ素子1〜7の重み(ウエイト)に起因していることを明確にするためにアレーアンテナ10がN個の同じ基準信号Sstdを受信することにしたのである。
【0094】
このように、この発明においては、受信装置100は、N個の同じ基準信号Sstdを受信してアレーアンテナ10が信号を受信するときの各アンテナ素子1〜7の重み(ウエイト)を正確に演算する。
【0095】
次に、式(13)によって演算される行列<T>が受信信号ベクトル<y>を受信信号ベクトル<x>に変換するときの変換行列になることを説明する。上述した固有ベクトル<v>,<v>,・・・,<v>の各々は、各到来方向において、アレーアンテナ10のリアクタンスセットをN個に変えたときの最大の固有値λに対応する固有ベクトルであるので、各到来方向θ(p=1〜P)において、アレーアンテナ10が基準信号Sstdを受信するときの各アンテナ素子1〜7の重みを示すベクトルである。最大の固有値λは、受信信号強度が最大となる直接波、即ち、基準信号Sstdに対して得られるからである。
【0096】
従って、式(13)に示す行列<E>は、P個の到来方向θ(p=1〜P)において、アレーアンテナ10が基準信号Sstdを受信するときの各アンテナ素子1〜7の重みを示す行列となる。つまり、行列<E>は、アンテナ素子1〜7の全てを給電素子とした場合に、アレーアンテナ10がP個の到来方向θ(p=1〜P)において基準信号Sstdを受信するときの各アンテナ素子1〜7の重みを示す行列となる。
【0097】
また、式(13)の右辺の<E>・(<E><E>)−1は、行列<E>の逆行列に相当する。
【0098】
その結果、式(13)によって演算される変換行列<T>は、アレーアンテナ10の受信信号ベクトル<y>をアンテナ素子1〜7の全てを給電素子とするアンテナの受信信号ベクトル<x>に変換するための行列になる。
【0099】
図4は、受信信号ベクトル<y>を受信信号ベクトル<x>へ変換する概念を示す概念図である。アンテナ素子1〜7の全てが給電素子であるアレーアンテナをアレーアンテナ10Aで示す。
【0100】
受信信号ベクトル<y>は、1本の給電素子(アンテナ素子7)を備えるアレーアンテナ10の出力信号であり(図4の(a)参照)、受信信号ベクトル<x>は、7本の給電素子(アンテナ素子1〜7)を備えるアレーアンテナ10Aの出力信号である(図4の(b)参照)。そして、上述した変換行列<T>を受信信号ベクトル<y>に乗算することにより、受信信号ベクトル<x>に変換される。即ち、受信信号ベクトル<y>に変換行列<T>を乗算することによって、1本の給電素子(アンテナ素子7)から出力される受信信号ベクトル<y>が7本の給電素子(アンテナ素子1〜7)から出力される受信信号ベクトル<x>に変換される。
【0101】
図5は、受信信号ベクトル<y>から受信信号ベクトル<x>への変換を示す模式図である。なお、図5においては、アレーアンテナ10は、1本の給電素子A0と、M本の無給電素子A1〜AMとを備えるものとして示されている。
【0102】
受信器21は、図1に示す信号受信手段8と指向性切換手段20との機能を果たす。
【0103】
ブロックBLK_1〜BLK_Nの各々は、Kビットのデータ[0111・・・01]からなり、基準信号Sstdを構成する。そして、アレーアンテナ10は、変換行列<T>を決定する場合、受信器21によって、基準信号Sstdの到来方向を到来方向DIRj(到来角θ(j=1〜P))に順次設定し、各到来方向DIRj(到来角θ(j=1〜P))において指向性をN個の指向性に変えて(即ち、リアクタンスセットx,x,・・・,xをN個に変化させて)ブロックBLK_1〜BLK_Nを順次受信する。即ち、アレーアンテナ10は、変換行列<T>を決定する場合、N×P個の基準信号Sstdを順次受信する。
【0104】
A/D変換器22は、アレーアンテナ10から出力されたN×P個の基準信号Sstdをアナログ信号からデジタル信号へ変換して変換手段23へ出力する。変換手段23は、N×P個の基準信号Sstdに基づいて、上述した方法によって変換行列<T>を演算し、A/D変換器22から受けた受信信号ベクトル<y>に変換行列<T>を乗算して受信信号ベクトル<x>を処理アルゴリズム24へ出力する。この場合、N×P個の基準信号Sstdは、変換手段23によって(M+1)×P個の基準信号Sstdへ変換され、(M+1)×P個の基準信号Sstdにそれぞれ重みw,w,・・・,wが乗算されて処理アルゴリズム24へ出力される。
【0105】
処理アルゴリズム24は、M+1本の給電素子から出力される受信信号に適したアルゴリズムを用いて電波の到来方向の推定等を行なう。
【0106】
上述した変換行列<T>を用いて受信信号ベクトル<y>を受信信号ベクトル<x>へ変換し、その変換した受信信号ベクトル<x>に7本の給電素子から出力される出力信号に適したアルゴリズムを適用して受信信号を処理した場合の結果について説明する。
【0107】
図6は、リアクタンスセット数Nによるビットエラーレートの変化を示す図である。図6において、縦軸は、ビットエラーレートを表し、横軸は、リアクタンスセット数Nを表す。また、曲線k1〜k5は、それぞれ、ノイズ対信号比SNRが0,5,10,15,20である。図6の結果からN=7以上のリアクタンスセット数において、リアクタンスセット数Nの増加に伴ってビットエラーレートが大きく低下することが解る。また、同じリアクタンスセット数Nにおいては、信号強度が大きくなるに従ってビットエラーレートが低下する。そして、ノイズ対信号比SNRが5以上においては、リアクタンスセット数Nの“7”からの増加がビットエラーレートの急激な低下に効果的である。
【0108】
図7は、アレーアンテナ10に到来する2つの信号の到来角度差によるビットエラーレートの変化を示す図である。図7において、縦軸は、ビットエラーレートを表し、横軸は、2つの信号の到来角度差を表す。また、曲線k6,k7は、それぞれ、リアクタンスセット数N=20,100の場合を示す。
【0109】
2つの信号の到来角度差Δθが小さくなると、ビットエラーレートが大きくなる。2つの信号が干渉するためである。そして、到来角度差Δθが10度以上に大きくなると、ビットエラーレートが急激に低下する。また、各到来角度差Δθにおいて、リアクタンスセット数Nの増加に伴いビットエラーレートが低下し、その低下度合は、到来角度差Δθが大きくなるに伴って大きくなる。
【0110】
次に、受信信号ベクトル<x>を用いてBlind digital beamforming法によってビームパターンを形成した結果について説明する。図8は、Blind digital beamforming法によってビームパターンを形成した結果を示す図である。図8において、縦軸は、受信信号強度を表し、横軸は、到来角度を表す。
【0111】
図8において、所望波(SOI:Signal Of Interest)は、240度の方向から到来し、干渉波は、0度、60度、120度、180度および300度の方向から到来する。
【0112】
図8から明らかなように、リアクタンスセット数Nが増加するに従って、所望波の到来方向(240度)および干渉波の到来方向(0度、60度、120度、180度および300度)に一致したビームパターンを形成できる。
【0113】
最後に、変換行列<T>によって変換された受信信号ベクトル<x>を用いて到来方向を推定した結果について説明する。
【0114】
表2は、到来方向の推定に用いたアルゴリズムと、その特徴を示す。
【0115】
【表2】

【0116】
表2に示すBeamforming法、Capon’s beamforming法、MUSIC法、Deterministic ML法、Stochastic ML法およびESPRIT法は、公知の到来方向推定方法である(非特許文献3)。
【0117】
図9は、到来角度に対する規格化到来方向スペクトラムを示す図である。図9において、縦軸は、規格化到来方向スペクトラムを表し、横軸は、到来角度を表す。また、曲線k8〜k10は、それぞれ、Beamforming法、Capon’s beamforming法および部分空間MUSIC法による到来角度の推定結果を示す。
【0118】
いずれの方法を用いて到来方向を推定しても、70度および300度の信号の到来方向を推定できることが解った。この場合、ノイズ対信号比SNRは、10[dB]であり、リアクタンスセット数Nは、“20”である。
【0119】
図10は、到来角度に対する他の規格化到来方向スペクトラムを示す図である。図10において、縦軸は、規格化到来方向スペクトラムを表し、横軸は、到来角度を表す。また、曲線k11〜k13は、それぞれ、Beamforming法、Capon’s beamforming法および部分空間MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法による到来角度の推定結果を示す。
【0120】
図10から明らかなように、MUSIC法を用いることにより6個の到来波まで、その到来方向を推定可能である(曲線k13)。この場合、ノイズ対信号比SNRは、10[dB]であり、リアクタンスセット数Nは、“20”である。
【0121】
図11は、推定エラーとリアクタンスセット数との関係図である。図11において、縦軸は、推定エラーを表し、横軸は、リアクタンスセット数Nを表す。また、曲線k14,k15は、それぞれ、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Technique)法およびMUSIC法を用いた場合を示し、曲線k16は、従来のCRB(CRAMER−RAO lowerBound)を示す。
【0122】
ESPRIT法およびMUSIC法の両方において、リアクタンスセット数Nが増加するに伴って、推定エラーが大きく低下することが解る。
【0123】
上述したように、受信信号ベクトル<y>を変換行列<T>によって変換した受信信号ベクトル<x>を用いて到来波の到来方向を推定する場合に各種のアルゴリズムを用いて到来方向を推定できることが解った。そして、好ましくは、リアクタンスセット数Nを増加させることによって、より正確に到来方向を推定できる。
【0124】
また、受信信号ベクトル<x>を用いて信号処理を行なってもビットエラーレートが低くなることも解った。
【0125】
従って、変換行列<T>により受信信号ベクトル<y>を受信信号ベクトル<x>へ変換することによって、複数のアンテナ素子の全てから出力された受信信号の処理に適したアルゴリズムを用いて受信信号を処理できる。
【0126】
なお、上記においては、リアクタンスセット数Nは、アレーアンテナ10のアンテナ素子数M+1に等しいとして説明したが、この発明においては、N≧M+1であればよい。アレーアンテナ10のオムニパターン(m=0)を含めると、リアクタンスセット数Nは、M+1=6+1=7となり、リアクタンスセットNをM+1以上に切換え可能である。
【0127】
そして、リアクタンスセット[x,x,・・・,x]をN個、即ち、M+1個に切換える場合、次のように切換えてもよい。図12は、図1に示すx−y平面におけるアンテナ素子の他の平面配置図である。
【0128】
N=M+1になるように、リアクタンスセット[x,x,・・・,x]をN個に切換える場合、上記においては、アレーアンテナ10のビームパターンがBPM0〜BPM6になるようにリアクタンスセット[x,x,・・・,x]を切換える(図2参照)と説明したが、この発明においては、これに限らず、アレーアンテナ10のビームパターンが図12に示すビームパターンBPM0,BPM7〜BPM12になるようにリアクタンスセット[x,x,・・・,x]を切換えてもよい。
【0129】
ビームパターンBPM7〜BPM12は、表3に示すリアクタンスセットxm1〜xm6に従って形成される。
【0130】
【表3】

【0131】
即ち、ビームパターンBPM7は、xm1=xm2=”lo”であり、かつ、xm3〜xm6=”hi”であるときに形成される。また、ビームパターンBPM8は、xm2=xm3=”lo”であり、かつ、xm1,xm4〜xm6=”hi”であるときに形成される。更に、ビームパターンBPM9は、xm3=xm4=”lo”であり、かつ、xm1,xm2,xm5,xm6=”hi”であるときに形成され、ビームパターンBPM10は、xm4=xm5=”lo”であり、かつ、xm1〜xm3,xm6=”hi”であるときに形成され、ビームパターンBPM11は、xm5=xm6=”lo”であり、かつ、xm1〜xm4=”hi”であるときに形成され、ビームパターンBPM12は、xm1=xm6=”lo”であり、かつ、xm2〜xm5=”hi”であるときに形成される。
【0132】
従って、指向性切換手段20は、ビームパターンBPM0,BPM7〜BPM12を形成するとき、表3に従ってバラクタダイオード11〜16のリアクタンスセット[x,x,・・・,x]を順次切換える。
【0133】
N>M+1になるように、リアクタンスセット[x,x,・・・,x]をN個に切換える場合、ビームパターンBPM0〜BPM12の中からN個に相当するビームパターンを選択し、その選択したビームパターンが形成されるようにリアクタンスセット[x,x,・・・,x]が切換えられる。
【0134】
更に、この発明においては、図12に示したビームパターンBPM0〜BPM12以外のビームパターンがアレーアンテナ10に形成されるようにリアクタンスセット[x,x,・・・,x]をN個に切換えてもよい。この場合、バラクタダイオード11〜16に供給される制御電圧の値をアナログ的に変化させる。例えば、バラクタダイオード11〜16に供給される制御電圧が0V〜20Vの範囲である場合、この0V〜20Vの範囲で制御電圧をアナログ的に変えてリアクタンスセット[x,x,・・・,x]をN個に切換える。
【0135】
また、上記においては、リアクタンス値を変えることによって指向性を切換え可能なアレーアンテナ10を対象としたが、この発明は、これに限られず、抵抗を変えることによって指向性を切換え可能なアレーアンテナ等、一般的には、インピーダンスを変えることによって指向性を切換え可能なアレーアンテナを対象としてもよい。
【0136】
リアクタンス値を変えることは、インピーダンスの虚部を変えることであり、抵抗を変えることは、インピーダンスの実部を変えることであるので、一般的には、インピーダンスを変えることによって指向性を切換えることが可能である。
【0137】
従って、この発明は、このようなインピーダンスを変えることによって指向性を切換え可能なアレーアンテナを用いて受信した受信信号を変換行列<T>を用いてM+1本の給電素子から出力される受信信号に変換し、その変換した受信信号に従来のアルゴリズム(=M+1本の給電素子から出力される受信信号に適したアルゴリズム)を適用して信号処理を行なう受信装置に適用される。この場合、M本の無給電素子の各々には、可変インピーダンス素子が装荷される。
【0138】
更に、上記においては、無給電素子の本数Mは、6本であるとして説明したが、この発明においては、無給電素子の本数Mは、1本以上であればよい。無給電素子の本数が1本以上であれば、アレーアンテナ10のビームパターンをオムニパターンを含めて2以上に切換え可能であり、式(2)により相関行列<Ryy>を演算し、P個の到来方向θ(p=1〜P)に対するP個の固有ベクトル<v>,<v>,・・・,<v>を求めることができるからである。なお、無給電素子が1本である場合、その1本の無給電素子に装荷されたバラクタダイオードに供給される直流電圧は、例えば、0〜20Vの範囲でアナログ的にN個に切換えられ、リアクタンス値xm1がアナログ的にN個に切換えられる。
【0139】
図13は、図1に示す受信装置100を用いた無線システムの概略図である。無線システム300は、受信装置100と、送信装置200とからなる。送信装置200は、アンテナ210を備える。無線システム300においては、受信装置100は、送信装置200から送信された電波の到来方向を推定する。
【0140】
この場合、送信装置200は、アンテナ210を介して電波を送信する。受信装置100は、アレーアンテナ10によって送信装置200からの電波を受信し、その受信した受信信号yを上述した方法によって受信信号xに変換する。そして、受信装置100は、受信信号xに表2に示す各種の到来方向推定アルゴリズムを適用して送信装置200からの電波の到来方向を推定する。
【0141】
無線システム300は、このような送信源からの電波の到来方向を推定する無線システムに限らず、それ以外の無線システムであってもよい。例えば、無線システム300は、複数の無線装置が自律的、かつ、即時的に無線ネットワークを構成するアドホックネットワークシステムであってもよい。無線システム300がアドホックネットワークシステムである場合、アドホックネットワークシステムを構成する各無線装置は、図1に示す受信装置100からなる。上記においては、受信装置100が電波を受信する場合について説明したが、受信装置100が電波を送信する場合、受信装置100は、リアクタンスセット[x,x,・・・,x]によって所定のビームパターンをアレーアンテナ10に形成して電波を他の無線装置へ送信する。従って、受信装置100は、電波を送受信する無線装置として使用でき、受信装置100からなる無線装置を用いてアドホックネットワークを構成可能である。
【0142】
アドホックネットワークシステムにおいては、各無線装置は、移動するので、受信装置100は、移動体通信を行なう無線装置としても使用可能である。例えば、受信装置100は、携帯電話機として使用可能であり、自動車等の移動体に搭載されてもよい。
【0143】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0144】
この発明は、出力信号を複数の給電素子から出力するアレーアンテナに適したアルゴリズムを用いて受信信号を処理可能な受信装置に適用される。また、この発明は、出力信号を複数の給電素子から出力するアレーアンテナに適したアルゴリズムを用いて受信信号を処理可能な受信装置を備えた無線システムに適用される。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】この発明の実施の形態による受信装置の概略図である。
【図2】図1に示すx−y平面におけるアンテナ素子の平面配置図である。
【図3】図1に示す受信装置における動作を説明するためのフローチャートである。
【図4】受信信号ベクトル<y>を受信信号ベクトル<x>へ変換する概念を示す概念図である。
【図5】受信信号ベクトル<y>から受信信号ベクトル<x>への変換を示す模式図である。
【図6】リアクタンスセットの数によるビットエラーレートの変化を示す図である。
【図7】アレーアンテナに到来する2つの信号の到来角度差によるビットエラーレートの変化を示す図である。
【図8】Blind digital beamforming法によってビームパターンを形成した結果を示す図である。
【図9】到来角度に対する規格化到来方向スペクトラムを示す図である。
【図10】到来角度に対する他の規格化到来方向スペクトラムを示す図である。
【図11】推定エラーとリアクタンスセット数との関係図である。
【図12】図1に示すx−y平面におけるアンテナ素子の他の平面配置図である。
【図13】図1に示す受信装置を用いた無線システムの概略図である。
【符号の説明】
【0146】
1〜7 アンテナ素子、8 信号受信手段、10,10A アレーアンテナ、11〜16 バラクタダイオード、20 指向性切換手段、21 受信器、22 A/D変換器、23 変換手段、24 処理アルゴリズム、30 信号変換手段、40 信号処理手段、100 受信装置、200 送信装置、210 アンテナ、300 無線システム、BPM0〜BPM12 ビームパターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
M(Mは、正の整数)本の無給電素子と1本の給電素子とからなるM+1本のアンテナ素子を含み、前記1本の給電素子から受信信号を出力するアレーアンテナと、
前記アレーアンテナの指向性が所定の指向性に設定されまたは複数の指向性に切換えられたときに前記アレーアンテナによって受信され、かつ、前記1本の給電素子から出力される第1の受信信号をM+1本の給電素子から出力される第2の受信信号に変換する信号変換手段と、
前記M+1本の給電素子から出力される出力信号の処理に適した所定のアルゴリズムを用いて前記第2の受信信号を処理する信号処理手段とを備える受信装置。
【請求項2】
前記M本の無給電素子に装荷されたM個の可変インピーダンス素子の少なくとも1つのインピーダンスを変化させて前記アレーアンテナの指向性を切換える指向性切換手段をさらに備える、請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
前記アレーアンテナは、各々が同じデータからなるN(NはM+1以上の整数)個の基準信号の到来方向をP(Pは、P≧2Nを満たす整数)個の到来方向に順次設定し、その設定した各到来方向において前記指向性をN個の指向性に順次変えて前記N個の基準信号を順次受信し、
前記信号変換手段は、前記アレーアンテナによって受信されたN×P個の基準信号に基づいて、前記第1の受信信号を前記第2の受信信号に変換するための変換手段を決定し、その決定した変換手段を用いて前記第1の受信信号を前記第2の受信信号に変換する、請求項1または請求項2に記載の受信装置。
【請求項4】
前記信号変換手段は、前記N×P個の基準信号に基づいて、前記変換手段として前記第1の受信信号を前記第2の受信信号に変換するための変換行列を演算し、その演算した変換行列を前記第1の受信信号に乗算して前記第1の受信信号を前記第2の受信信号に変換する、請求項3に記載の受信装置。
【請求項5】
前記信号変換手段は、前記N個の基準信号の到来方向が1つの到来方向に設定されたときに前記アレーアンテナによって順次受信されたN個の基準信号に基づいて前記1つの到来方向から前記アレーアンテナに到来する前記N個の基準信号に対する相関行列を演算し、その演算した相関行列に固有値分解を施して最大の固有値に対応する固有ベクトルを演算する固有ベクトル演算処理を前記P個の到来方向に対して実行し、P個の固有ベクトルからなる固有行列を演算し、さらに、前記P個の到来方向に基づいて到来方向行列を演算し、前記演算した固有行列および到来方向行列に基づいて前記変換行列を演算する、請求項4に記載の受信装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の受信装置と、
前記受信装置へ無線信号を送信する送信装置とを備える無線システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−121499(P2006−121499A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308243(P2004−308243)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「自律分散型無線ネットワークの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】