説明

受信装置及び通信システム

【課題】複数チャネルのベースバンド信号を送受信する近距離無線通信システムにおいて、通信レートと通信距離を両立させると共に、良好な通信品質を得る。
【解決手段】通信システム100において、チャネル毎に1対の広帯域送信アンテナと受信アンテナによりベースバンド信号を送受信する。受信側において、チャネル毎に設けられた信号再生部は、自チャネルの受信アンテナが受信した信号と、1つ以上の他チャネルの前記受信アンテナが受信した信号とから自チャネルの信号を再生する。該信号再生部において、補正信号生成部は、上記1つ以上の他チャネルのチャネル毎に設けられ、該他チャネルの受信アンテナが受信した信号に対して強度補正をすると共に、符号制御を行って補正信号を得、加算部は、上記各補正信号生成部が生成した補正信号とを加算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近距離無線通信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近距離無線通信の分野において、チャネルを増やすことにより通信レートを向上させる技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、MIMO(Multi−Input Multi−Output)技術は、送受信装置の両方にアレーアンテナを用い、空間分割多重伝送や、固有モード伝送などにより、複数チャネルの通信を実現する。MIMOにおける空間分割多重伝送は、送信側が、アレーアンテナに含まれる複数のアンテナ素子から等電力で信号を送信し、受信側が、推定された伝送路特性に基づいて他チャネルからの混信信号を除去する方式であり、固有モード伝送は、送受信回路の双方で伝送路特性を共有し、各チャネルの送受信信号に重付けを行う方式である。MIMOでは、信号は、無線変調されて送受信される。
【0004】
特許文献1〜3には、MIMO多重化による無線通信システムが開示されている。これらのシステムにおいて、チャネル間の干渉を除去するために、自系統の信号に、他系統の信号を重み付け加算することが行われている。
【0005】
また、インダクタ同士の磁界結合(近接場)を利用してベースバンド伝送を行う「非接触インターフェース」と呼ばれる技術が知られている。この技術は、ベースバンド信号を送受信する。非特許文献1と非特許文献2には、この技術を利用して、複数のチャネル数分のインダクタを並列して配置することにより通信レートを向上させる手法が開示されている。
【0006】
非特許文献3には、チャネル当たりのデータレートを向上させる手法として、結合伝送線路により非接触ベースバンド伝送を実現すること技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2007−508721号公報
【特許文献2】特開2011−82854号公報
【特許文献3】特開2002−84260号公報
【特許文献4】特願2011−6830号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Yoichi Yoshida, Student Member, IEEE, Noriyuki Miura, Member, IEEE, and Tadahiro Kuroda, Fellow, IEEE,"A 2 Gb/s Bi-Directional Inter-Chip Data Transceiver With Differential Inductors for High Density Inductive Channel Array", IEEE JOURNAL OF SOLID-STATE CIRCUITS, VOL. 43, NO. 11, NOVEMBER 2008, pp. 2363-2369
【非特許文献2】Noriyuki Miura, Member, IEEE, Yoshinori Kohama, Yasfumi Sugimori, Hiroki Ishikuro, Member, IEEE, Takayasu Sakurai, Fellow, IEEE, and Tadahiro Kuroda, Fellow, IEEE, "A High-Speed Inductive-Coupling Link With Burst Transmission", IEEE JOURNAL OF SOLID-STATE CIRCUITS, VOL. 44, NO. 3, MARCH 2009, pp. 947-955
【非特許文献3】Tsutomu Takeya, Lan Nan, Shinya Nakano, Noriyuki Miura, Hiroki Ishikuro, Tadahiro Kuroda, "A 12Gb/s Non-Contact Interface with Coupled Transmission Lines", ISSCC 2011 / SESSION 28 / DRAM & HIGH-SPEED I/O / 28.3, 2011 IEEE International Solid-State Circuits Conference, p. 492
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
MIMOでは、送信信号を無線変調するため、送信側は、変調/符号化を行う回路が必要であり、受信側は、復調/復号を行う回路が必要である。従って、送受信装置のチップ面積が大きいと共に、消費電力が多いという問題がある。
【0010】
また、非接触インターフェース技術は、ベースバンド信号を送受信するため、変調/符号を行う回路や、復調/復号を行う回路などが不要であるため、MIMOに比べ、チップ面積が小さくできると共に、消費電力も低く抑制することができる。
【0011】
しかし、チップ面積をより小さくするためには、並列に配置するインダクタの数を減らすか、インダクタの径を小さくする必要がある。
【0012】
信号の伝送距離がインダクタの径と同程度であるため、チャネル数を増やすためにインダクタの径を小さくすると、通信距離が短くなる。一方、インダクタの数を減らすと、チャネル数も減るため、通信レートを向上させるためにはチャネル毎のデータレートを向上させる必要がある。チャネル毎のデータレートの向上は、インダクタの自己共振周波数を向上させることにより実現できるが、インダクタの共振周波数を向上させるためには、インダクタの径を小さくする必要があり、通信距離が短くなる。
【0013】
すなわち、インダクタにより多チャネル通信を実現する非接触インターフェース技術では、データレートを向上させるためには、通信距離が犠牲になり、センチメートル級の通信さえ困難になってしまうという問題がある。
【0014】
非特許文献3に開示された技術も、通信距離が1mm程度と短い。さらに、結合伝送線路を用いるため、チャネル間の干渉が大きく、通信品質が劣化してしまうという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の1つの態様は、チャネル毎に1対の広帯域の送信アンテナと受信アンテナによりベースバンド信号を送受信する近距離無線通信システムにおける受信装置である。該受信装置は、チャネル毎に設けられた前記受信アンテナと、チャネル毎に設けられており、自チャネルの前記受信アンテナが受信した信号と、1つ以上の他チャネルの前記受信アンテナが受信した信号とに基づいて自チャネルの信号を再生する信号再生部とを有する。
【0016】
前記信号再生部は、前記1つ以上の他チャネルのチャネル毎に設けられ、該他チャネルの前記受信アンテナが受信した信号から補正信号を生成する補正信号生成部と、自チャネルの前記受信アンテナが受信した信号と、各前記補正信号生成部が生成した前記補正信号とを加算する加算部とを備える。
【0017】
前記補正信号生成部は、前記他チャネルの前記受信アンテナが受信した信号に対して強度補正をする強度補正部と、前記強度補正部により強度補正された前記信号の符号を切替可能な符号切替部とを有する。
【0018】
なお、上記態様の受信装置を含む通信システムや、該受信装置または該通信システムを方法に置き換えて表現したものなども、本発明の態様としては有効である。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる技術によれば、複数チャネルのベースバンド信号を送受信する近距離無線通信システムにおいて、通信レートと通信距離を両立させると共に、良好な通信品質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の技術にかかる原理を説明するための図である(その1)。
【図2】図1に示す通信システムにおける補正信号生成部を示す図である。
【図3】図1に示す通信システムにおける各信号の例を示す図である。
【図4】本発明の技術にかかる原理を説明するための図である(その2)。
【図5】図4に示す通信システムにおける各信号の例を示す図である。
【図6】本発明の技術にかかる原理を説明するための図である(その3)。
【図7】本発明の技術にかかる原理を説明するための図である(その4)。
【図8】本発明の技術にかかる原理を説明するための図である(その5)。
【図9】本発明の技術に用いられるアンテナの構成及び配置の好適例を示す図である。
【図10】図9に示す各送受信アンテナと各受信アンテナを用いた場合の自チャネル受信信号と、他チャネルへの混信信号の例を示す図である。
【図11】アンテナの望ましくない配置例を示す図である。
【図12】本発明の第1の実施の形態にかかる通信システムの外観図を示す図である。
【図13】図12に示す通信システムの内部構成を示す図である。
【図14】図13に示す通信システムにおけるフロントエンドを詳細に示す図である。
【図15】図13に示す通信システムの一部の機能ブロックを詳細に示す図である(その1)。
【図16】図13に示す通信システムの一部の機能ブロックを詳細に示す図である(その2)。
【図17】図13に示す通信システムの一部の機能ブロックを詳細に示す図である(その3)。
【図18】図13に示す通信システムにおける復元回路の例(ヒステリシスバッファ)を示す図である。
【図19】図18に示す復元回路により得られる復元信号の波形の例を示す図である。
【図20】本発明の第2の実施の形態にかかる通信システムの外観図を示す図である。
【図21】本発明の第3の実施の形態にかかる通信システムを示す図である。
【図22】本発明の第4の実施の形態にかかる通信システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、様々な処理を行う機能ブロックとして図面に記載される各要素は、ハードウェア的には、CPU、メモリ、その他の回路で構成することができ、ソフトウェア的には、メモリにロードされたプログラムなどによって実現される。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではない。なお、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0022】
本発明の具体的な実施の形態の前に、まず、図1に示す通信システム100を参照して、本発明にかかる技術の原理を説明する。
【0023】
図1に示す通信システム100は、複数のチャネルで並列に通信を行い、チャネル毎に1対の広帯域の送信アンテナと受信アンテナによりベースバンド信号を送受信する近距離無線通信システムである。例として、通信システム100において、これらの複数のチャネルは、チャネルAとチャネルB(以下「chA」と「chB」で夫々表記する)の2つである。
【0024】
通信システム100は、送信装置110と受信装置120を有する。
送信装置110は、チャネル数分の送信アンテナ(ここでは、chAの送信アンテナ112と、chBの送信アンテナ114)を備える。送信アンテナ112と送信アンテナ114は、送信信号SA0と送信信号SB0を並列に送信し、これらの信号は、ベースバンド信号である。
【0025】
受信装置120は、チャネル毎に、受信アンテナと信号再生部が設けられている。受信アンテナ122と信号再生部130はchAに対応し、受信アンテナ124と信号再生部140はchBに対応する。
【0026】
信号再生部130は、加算部132と補正信号生成部134を備え、信号再生部140は、加算部142と補正信号生成部144を備える。
【0027】
受信アンテナ122が受信した信号(受信信号SA01)は、自チャネル(chA)の信号再生部(信号再生部130)の加算部132と、他チャネル(chB)の信号再生部(信号再生部140)における補正信号生成部144に出力される。受信信号SA01には、自チャネルの成分以外に、他チャネルの成分である混信信号(図中混信信号SB0A)も含まれている。
【0028】
受信アンテナ124が受信した信号(受信信号SB01)は、自チャネル(chB)の信号再生部140の加算部142と、他チャネル(chA)の信号再生部130の補正信号生成部134に出力される。受信信号SB01には、自チャネルの成分以外に、他チャネルの成分である混信信号(図中混信信号SA0B)も含まれている。
【0029】
信号再生部130において、補正信号生成部134は、自チャネルの受信信号SA01から他チャネルの混信信号を除去するための補正信号HBAを生成して加算部132に出力し、加算部132は、自チャネルの受信信号SA01と、補正信号生成部134が生成した補正信号HBAとを加算して自チャネルの出力信号となる出力信号SA2を得る。
【0030】
同様に、信号再生部140において、補正信号生成部144は、自チャネルの受信信号SB01から他チャネルの混信信号を除去するための補正信号HABを生成して加算部142に出力し、加算部142は、自チャネルの受信信号SB01と、補正信号生成部144が生成した補正信号HABとを加算して自チャネルの出力信号となる出力信号SB2を得る。
【0031】
図2を参照して補正信号生成部134を説明する。図2に示すように、補正信号生成部134は、強度補正部136と符号切替部138を有する。
【0032】
強度補正部136は、他チャネルの受信信号SB01に対して強度補正をするものである。この強度補正は、他チャネルの受信信号SB01に含まれる該他チャネル(chB)の成分の強度を、自チャネルの受信信号SA01に含まれる該他チャネルの成分の強度と同程度にする処理である。
【0033】
通常、この種の通信システムにおいて、各受信アンテナは、自チャネルの送信アンテナとの距離が、いずれの他チャネルの送信アンテナとの距離よりも短いように設置されており、各受信アンテナが受信した信号に含まれる自チャネルの成分は、他チャネルの成分(混信信号)より弱い。
【0034】
従って、強度補正部136が行う強度補正は、受信信号SB01に含まれるchBの成分が、受信信号SA01に含まれるchBの成分と同程度になるように、増幅器などで受信信号SB01の強度を弱める処理である。なお、増幅率(1より小さい)は、例えば、トレーニングなどにより予め定めるようにすればよい。
【0035】
符号切替部138は、強度補正部136により強度補正が施された受信信号SB01の符号を切替可能である。夫々の送信アンテナと受信アンテナの位置関係により、自チャネルの受信信号に含まれる他チャネルの成分の極性と、他チャネルの受信信号に含まれる該他チャネルの成分の極性とは、同一である場合と、互いに反転した場合がある。すなわち、受信信号SA01に含まれるchBの成分の極性と、受信信号SB01に含まれるchBの極性とは、同一である場合と、互いに反転した場合がある。
【0036】
受信信号SA01に含まれるchBの成分の極性と、受信信号SB01に含まれるchBの極性とが同一である場合と、受信信号SB01に対して強度補正を施した信号を補正信号HBAとして加算部132に出力すると、かえって受信信号SA01に含まれるchBの成分を強くしてしまい、chBからの混信信号を除去することができない。一方、受信信号SA01に含まれるchBの成分の極性と、受信信号SB01に含まれるchBの極性とが互いに反転した関係にある場合には、受信信号SB01に対して強度補正を施した信号の符号を変えずにそのまま補正信号HBAとして加算部132に出力すると、chBからchAへの混信信号を除去することができる。
【0037】
符号切替部138は、他チャネルchBからの混信信号が除去されるように、強度補正部136により強度補正を施した受信信号SB01の符号を制御する。符号切替部138は、例えば、符号を「+」と「−」のいずれにするかの設定が可能であり、設定された通りに符号の制御を行う。
【0038】
このように、受信信号SB01は、強度補正部136による強度補正と、符号切替部138による符号の制御を経て、補正信号HBAになり、加算部132に出力される。
【0039】
補正信号生成部144の構成は、補正信号生成部134と同様であるため、ここで説明を省略する。受信信号SA01は、補正信号生成部144により強度補正と符号の制御がなされ、補正信号HABになり、加算部142に出力される。
【0040】
以下において、分かりやすいように、特別な説明がない限り、SA01の極性と、SB01に含まれるchAの成分の極性とが同一であり、SB01の極性と、SA01に含まれるchBの成分の極性とが同一であるとする。
【0041】
信号再生部130と信号再生部140が行う処理は、式(1)と式(2)により夫々表わすことができる。
【0042】
SA2=SA01−α(BA)×SB01 (1)
SB2=SB01−α(AB)×SA01 (2)
【0043】
式(1)におけるα(BA)とα(AB)は、1より小さい係数であり、以下「強度補正係数」という。
【0044】
図3は、図1に示す通信システム100における各信号の例を示す。送信信号SA0は、送信アンテナ112が送信したベースバンド信号であり、送信信号SB0は、送信アンテナ114が送信したベースバンド信号である。
【0045】
混信信号SB0Aは、chBからchAへの混信信号であり、送信信号SA0と共に受信アンテナ122により受信される。そのため、図示のように、chAの受信信号SA01には、自チャネル(chA)の成分以外に、他チャネル(chB)の成分も含まれている。
【0046】
同様に、混信信号SA0Bは、chAからchBへの混信信号であり、送信信号SB0と共に受信アンテナ124により受信される。そのため、chBの受信信号SB01には、自チャネル(chB)の成分以外に、他チャネル(chA)の成分も含まれている。
【0047】
「α(BA)×SB01」は、補正信号生成部134が受信信号SB01に対して強度補正をして得た信号であり、波形が受信信号SB01と同様であり、強度が受信信号SB01より小さい。
【0048】
「α(AB)×SA01」は、補正信号生成部144が受信信号SA01に対して強度補正をして得た信号であり、波形が受信信号SA01と同様であり、強度が受信信号SA01より小さい。
【0049】
この場合、補正信号生成部134と補正信号生成部144における符号切替部は、「α(BA)×SB01」と「α(AB)×SA01」の符号を「−」にする。そのため、補正信号HBAは、「−α(BA)×SB01」になり、補正信号HBAは、「−α(AB)×SA01」になる。
【0050】
出力信号SA2は、加算部132により、受信信号SA01と補正信号HBAとを加算して得た信号であり、送信信号SA0とほぼ同様の波形を有する。すなわち、受信信号SA01から、混信信号が除去されている。
【0051】
出力信号SB2は、加算部142により、受信信号SB01と補正信号HABとを加算して得た信号であり、送信信号SB0とほぼ同様の波形を有する。すなわち、受信信号SB01から、混信信号が除去されている。
【0052】
なお、補正信号HBAにchAの成分も含まれているため、出力信号SA2は、受信信号SA01に含まれるchAの成分より弱くなっている。これについては、後段の処理において、出力信号SA2に対して、1より大きい増幅率を有する増幅器などで増幅すればよい。
【0053】
同様に、補正信号HABにchBの成分も含まれているため、出力信号SB2は、受信信号SB01に含まれるchBの成分より弱くなっているが、後段の処理において、出力信号SB2に対して、1より大きい増幅率を有する増幅器などで増幅すればよい。
【0054】
このように、図1に示す通信システム100は、インダクタの代わりに広帯域アンテナにより多チャネルの並列を実現しているため、通信レートと通信距離を両立させることができる。
【0055】
また、送信装置110において、チャネル毎に信号再生部により他チャネルからの混信信号を除去するため、良好な通信品質を得ることができる。
【0056】
勿論、送信装置と受信装置間でベースバンド信号を送受信するため、送信装置と受信装置には、変調/復調、符号化/復号などのための回路を設ける必要がなく、チップ面積と消費電力の削減ができる。
【0057】
なお、特許文献1〜特許文献3には、干渉を除去するために、他系統の信号を自系統の信号に加算する技術が開示されているが、受信装置120の各補正信号生成部における符号切替部に関する示唆がない。そのため、特許文献1〜特許文献3の技術をそのまま受信装置120に適用すると、かえって混信信号を増強してしまう恐れがある。
【0058】
通信システム100は、本発明にかかる技術を他チャネルからの混信信号の除去に適用したものである。本発明にかかる技術は、通信距離が長い場合にも多大な効果を得ることができる。これについて、図4と図5を参照して説明する。
【0059】
図4に示す通信システム150は、送信アンテナ112と送信アンテナ114が同じ信号SA0を送信する点を除き、図1に示す通信システム100と同様である。
【0060】
通信距離が長くなると、受信信号の振幅が小さくなる。通信システム150は、通信距離が長い場合にも、強度の強い受信信号を得るために本発明にかかる技術を適用している。具体的には、送信装置110の送信アンテナ112と送信アンテナ114は、同様の信号SA0を送信し、受信装置120では、信号再生部140は、他チャネルの受信信号から補正信号を生成して自チャネルの受信信号と加算する。
【0061】
図5は、図4に示す通信システム150における各信号の例を示す。送信信号SA0は、送信アンテナ112が送信したベースバンド信号であり、送信信号SB0は、送信アンテナ114が送信したベースバンド信号である。前述したように、送信信号SB0と送信信号SA0は、同様の信号である。
【0062】
混信信号SB0Aは、chBからchAへの混信信号であり、送信信号SA0と共に受信アンテナ122により受信される。同様に、混信信号SA0Bは、chAからchBへの混信信号であり、送信信号SB0と共に受信アンテナ124により受信される。
【0063】
「α(BA)×SB01」は、補正信号生成部134が受信信号SB01に対して強度補正をして得た信号であり、波形が受信信号SB01と同様であり、強度が受信信号SB01より小さい。
【0064】
「α(AB)×SA01」は、補正信号生成部144が受信信号SA01に対して強度補正をして得た信号であり、波形が受信信号SA01と同様であり、強度が受信信号SA01より小さい。
【0065】
この場合、補正信号生成部134と補正信号生成部144における符号切替部は、「α(BA)×SB01」と「α(AB)×SA01」の符号を「+」にする。そのため、補正信号HBAは、「+α(BA)×SB01」になり、補正信号HBAは、「+α(AB)×SA01」になる。
【0066】
出力信号SA2は、加算部132により、受信信号SA01と補正信号HBAとを加算して得た信号であり、受信信号SA01とほぼ同様の波形を有し、受信信号SA01より振幅が大きい。
【0067】
同様に、出力信号SB2は、加算部142により、受信信号SB01と補正信号HABとを加算して得た信号であり、受信信号SB01とほぼ同様の波形を有し、受信信号SB01より振幅が大きい。
【0068】
このように、通信距離が長くなり、受信信号が微弱な場合においても、通信システム150によれば、2つのチャネルで同様のデータを送受信するため、データレートが1/2になるが、各チャネルの受信信号を重み付け加算することにより振幅の大きい受信信号(出力信号SA2またはSB2)を得ることができる。
【0069】
以下において、本発明にかかる技術を混信信号の除去に適用した他の通信システムの例を説明するが、これらの通信システムのいずれも、通信システム150と同様に、各送信アンテナが同様の信号を送信し、受信装置が各チャネルの受信信号を重み付け加算することにより、振幅の大きい受信信号を得る通信システムとして動作できる。
【0070】
通信品質をより向上させるためには、図1に示す通信システム100において、混信信号の除去に際して、自チャネルの受信信号と、他チャネルの受信信号から生成された補正信号のタイミング合わせをすることが好ましい。
【0071】
前述したように、この種の通信システムにおいて、各受信アンテナは、自チャネルの送信アンテナとの距離が、いずれの他チャネルの送信アンテナとの距離よりも短いように設置されている。そのため、自チャネルの受信信号に含まれる他チャネルからの混信信号は、該他チャネルの受信信号に含まれる該チャネルの成分より遅延している。従って、自チャネルの受信信号に対して混信信号の除去をする際に、タイミング合わせ、すなわち、他チャネルの受信信号から得た補正信号を遅延させてから、自チャネルの受信信号と加算することにより、混信信号の除去効果をより高めることが好ましい。
【0072】
具体的には、図6に示す通信システム200を参照して説明する。なお、通信システム200は、図1に示す通信システム100と同様に、2チャネル(chA、chB)で並列にベースバンド信号を送受信する近距離無線通信システムであり、通信システム200に対して、通信システム100と異なる点についてのみ説明する。また、図3において、図1に示す通信システム100のものと同様の機能ブロックについて、同一の符号を付与すると共に、説明を省略する。
【0073】
図6に示す通信システム200は、送信装置110と受信装置220を備える。受信装置220は、受信アンテナ122と受信アンテナ124、遅延回路250と遅延回路260、信号再生部230と信号再生部240を有する。さらに、遅延回路250と遅延回路260の前に、オフセットをキャンセルするためのオフセットキャンセル回路(図中OC)270とオフセットキャンセル回路(図中OC)280が夫々設けられている。
【0074】
信号再生部230は、加算部232と補正信号生成部234を有する。信号再生部230の各機能ブロックは、入力される信号が、通信システム100における信号再生部130の相対応する機能ブロックに入力される信号と異なる点を除き、信号再生部130の相対応する機能ブロックと同様の動作をする。
【0075】
信号再生部240は、加算部242と補正信号生成部244を有する。信号再生部240の各機能ブロックは、入力される信号が、通信システム100における信号再生部140の相対応する機能ブロックに入力される信号と異なる点を除き、信号再生部140の相対応する機能ブロックと同様の動作をする。
【0076】
オフセットキャンセル回路270は、受信アンテナ122が受信した受信信号SA01に対してオフセットをキャンセルする処理を行って受信信号SA1を得て遅延回路250に出力する。オフセットキャンセル回路280は、受信アンテナ124は受信した受信信号SB01に対してオフセットをキャンセルする処理を行って受信信号SB1を得て遅延回路260に出力する。
【0077】
遅延回路250は、順次接続した複数の遅延素子(ここでは、遅延素子251〜遅延素子256の6つ)を有する。オフセットキャンセル回路270からの受信信号SA1は、1段目の遅延素子(遅延素子251)に入力される。
【0078】
遅延回路250の2段目の遅延素子(遅延素子252)の出力は、3段目の遅延素子(遅延素子253)に入力されると共に、他チャネル(chB)の信号再生部240における補正信号生成部244にも入力される。遅延素子252の出力は、受信信号SA1を2つの遅延素子の遅延量の分遅延させた信号であり、以下「遅延信号SA12」という。
【0079】
遅延素子253の出力は、4段目の遅延素子(遅延素子254)に入力されると共に、自チャネル(chA)の信号再生部230における加算部232にも入力される。遅延素子253の出力は、受信信号SA1を3つの遅延素子の遅延量の分遅延させた信号であり、以下「遅延信号SA13」という。
【0080】
遅延回路260は、順次接続した複数の遅延素子(ここでは、遅延素子261〜遅延素子266の6つ)を有する。オフセットキャンセル回路280からの受信信号SB1は、1段目の遅延素子(遅延素子261)に入力される。
【0081】
遅延回路260の2段目の遅延素子(遅延素子262)の出力は、3段目の遅延素子(遅延素子263)に入力されると共に、他チャネル(chA)の信号再生部230における補正信号生成部234にも入力される。遅延素子262の出力は、受信信号SB1を2つの遅延素子の遅延量の分遅延させた信号であり、以下「遅延信号SB12」という。
【0082】
遅延素子263の出力は、4段目の遅延素子(遅延素子264)に入力されると共に、自チャネル(chB)の信号再生部240における加算部242にも入力される。遅延素子263の出力は、受信信号SB1を3つの遅延素子の遅延量の分遅延させた信号であり、以下「遅延信号SB13」という。
【0083】
補正信号生成部234は、遅延信号SB12に対して強度補正、符号制御をすることにより補正信号HBAを生成して加算部232に出力する。加算部232は、遅延信号SA13と、補正信号HBAとを加算して出力信号SA2を得る。
【0084】
補正信号生成部244は、遅延信号SA12に対して強度補正、符号制御をすることにより補正信号HABを生成して加算部242に出力する。加算部242は、遅延信号SB13と、補正信号HABとを加算して出力信号SB2を得る。
【0085】
信号再生部230と信号再生部240が行う処理は、式(3)と式(4)により夫々表わすことができる。
【0086】
SA2=SA13−α(BA)×SB12 (3)
但し,
α(BA):強度補正係数
SA13:chAの受信信号SA1を3つの遅延素子の遅延量分遅延させた信号
SB12:chBの受信信号SB1を2つの遅延素子の遅延量分遅延させた信号
【0087】
SB2=SB13−α(AB)×SA12 (4)
但し,
α(AB):強度補正係数
SB13:chBの受信信号SB1を3つの遅延素子の遅延量分遅延させた信号
SA12:chAの受信信号SA1を2つの遅延素子の遅延量分遅延させた信号
【0088】
なお、補正信号生成部234が、遅延回路260いずれの段の遅延素子の出力から補正信号HBAを生成するか、及び、補正信号生成部244が、遅延回路250のいずれの段の遅延素子の出力から補正信号HABを生成するかについては、トレーニングによって予め設定される。
【0089】
通信システム200によれば、自チャネルの受信信号から混信信号を除去する際に、上述したタイミング合わせを行うことにより、混信信号の除去効果をより高めることができ、通信品質を一層向上させることができる。
【0090】
遅延回路250と遅延回路260の各遅延素子の遅延量が小さいほど、上記タイミング合わせを精確に行うことができる。
【0091】
図6に示す通信システム200は、微弱なアナログ信号を受信し、受信側で増幅や混信除去などを行う。受信装置の素子のバラツキにより遅延回路(遅延回路250、遅延回路260)にDCオフセット電圧が発生した場合、オフセットキャンセル回路270とオフセットキャンセル回路280が無いと、遅延回路を構成する複数の遅延素子によりDCオフセット電圧が順次増幅され、結果的には受信信号の波形が正しく伝送されない問題がある。
【0092】
オフセットキャンセル回路270とオフセットキャンセル回路280は、この問題を解決するために遅延回路250と遅延回路260の前に夫々設けられたものであり、受信側の回路の構成素子にバラツキがあり、遅延回路にDCオフセットが発生する場合においても、オフセットをキャンセルして所望の波形を再生することが可能となる。
【0093】
なお、遅延素子251と遅延素子261におけるオフセットキャンセル回路のオフセット量は、トレーニングなどにより予め設定すればよい。
【0094】
ところで、遅延素子の遅延量を小さくするには限度があり、自チャネルの受信信号に含まれる他チャネルからの混信信号と、該他チャネルの受信信号に含まれる該チャネルの成分との間の遅延は、必ずしも1つの遅延素子の遅延量より小さくできるとは限らない。
【0095】
また、自チャネルの受信信号に含まれる他チャネルからの混信信号と、該他チャネルの受信信号に含まれる該チャネルの成分との間の遅延が、1つの遅延素子の遅延量より大きいものの、遅延素子の遅延量の整数倍ではない場合にも、タイミング合わせの精度が低下する。
【0096】
上記いずれの場合においても精度良くタイミング合わせ技術について、図7に示す通信システム300を参照して説明する。なお、通信システム300は、図6に示す通信システム200と同様に、2チャネル(chA、chB)で並列にベースバンド信号を送受信する近距離無線通信システムであり、通信システム300に対して、通信システム200と異なる点についてのみ説明する。また、図7において、図6に示す通信システム200のものと同様の機能ブロックについて、同一の符号を付与すると共に、説明を省略する。
【0097】
図7に示す通信システム300は、送信装置110と受信装置320を備える。受信装置320は、受信アンテナ122と受信アンテナ124、遅延回路250と遅延回路260、オフセットキャンセル回路270とオフセットキャンセル回路280、信号再生部330と信号再生部340を有する。
【0098】
信号再生部330は、加算部232と補正信号生成部334を有する。信号再生部340は、加算部242と補正信号生成部344を有する。
【0099】
遅延回路250では、遅延素子253の出力(遅延信号SA13)がchBの信号再生部340における補正信号生成部344にも入力される。遅延回路260では、遅延素子263の出力(遅延信号SB13)がchAの信号再生部330における補正信号生成部334にも入力される。
【0100】
補正信号生成部334は、遅延信号SB12と遅延信号SB13に対して重み付け平均をした上で強度補正、符号制御をすることにより補正信号HBAを生成して加算部232に出力する。
【0101】
補正信号生成部344は、遅延信号SA12と遅延信号SB13に対して重み付け平均をした上で強度補正、符号制御をすることにより補正信号HABを生成して加算部242に出力する。
【0102】
信号再生部330と信号再生部340が行う処理は、式(5)と式(6)により夫々表わすことができる。
【0103】
SA2=SA13−α(BA)×(β12×SB12+β13×SB13) (5)
但し,
α(BA):強度補正係数
β12、β13:タイミング補正係数
SA13:chAの受信信号SA1を3つの遅延素子の遅延量分遅延させた信号
SB12:chBの受信信号SB1を2つの遅延素子の遅延量分遅延させた信号
SB13:chBの受信信号SB1を3つの遅延素子の遅延量分遅延させた信号
【0104】
SB2=SB13−α(AB)×(γ12×SA12+γ13×SA13) (6)
但し,
α(AB):強度補正係数
γ12、γ13:タイミング補正係数
SB13:chBの受信信号SB1を3つの遅延素子の遅延量分遅延させた信号
SA12:chAの受信信号SA1を2つの遅延素子の遅延量分遅延させた信号
SA13:chAの受信信号SA1を3つの遅延素子の遅延量分遅延させた信号
【0105】
式(5)におけるタイミング補正係数β12とβ13は、1より小さく、かつ、総和が1になる係数である。同様に、式(6)におけるタイミング補正係数γ12とγ13も、1より小さく、かつ、総和が1になる係数である。
【0106】
すなわち、通信システム300において、補正信号生成部334と補正信号生成部344は、自チャネルの遅延回路の隣接する2つの遅延素子の出力を重み付け平均して得た平均信号に対して強度補正、符号制御をすることにより、他チャネルからの混信信号を除去するための補正信号を生成する。こうすることにより、自チャネルの受信信号に含まれる他チャネルからの混信信号と、該他チャネルの受信信号に含まれる該チャネルの成分との間の遅延が、1つの遅延素子の遅延量より小さい場合や、1つの遅延素子の遅延量より大きいものの、遅延素子の遅延量の整数倍ではない場合にも、精度良くタイミング合わせを実現することができ、ひいては通信品質を向上させることができる。
【0107】
なお、各タイミング補正係数については、トレーニングによって予め設定するようにすればよい。
【0108】
上述した各通信システムは、各送信アンテナ及び各受信アンテナの位置が固定である場合、すなわち強度補正係数や、タイミング補正係数などを固定に設定できる場合に効果を発揮することができる。受信アンテナと送信アンテナの位置関係が変動する可能性がある場合、例えば、送信装置と受信装置が別々のメーカにより開発される場合、受信装置側のメーカは、送信装置における各送信アンテナの位置を想定して開発する。そのため、開発した受信装置と実際に通信を行う送信装置における各送信アンテナの位置が想定外であるときに、タイミング合わせの精度が低下するという問題がある。
【0109】
本願発明者は、鋭意研究模索した結果、この問題を解決する手法を確立した。図8に示す通信システム400を参照して説明する。なお、通信システム400は、図7に示す通信システム300と同様に、2チャネル(chA、chB)で並列にベースバンド信号を送受信する近距離無線通信システムであり、通信システム400に対して、通信システム300と異なる点についてのみ説明する。また、図8において、図7に示す通信システム300のものと同様の機能ブロックについて、同一の符号を付与すると共に、説明を省略する。
【0110】
図8に示す通信システム400は、送信装置110と受信装置420を備える。受信装置420は、受信アンテナ122と受信アンテナ124、遅延回路250と遅延回路260、オフセットキャンセル回路270とオフセットキャンセル回路280、信号再生部430と信号再生部440を有する。
【0111】
信号再生部430は、加算部232と補正信号生成部434を有する。信号再生部440は、加算部242と補正信号生成部444を有する。
【0112】
遅延回路250では、遅延素子253の出力(遅延信号SA13)が信号再生部430における加算部232に出力される。また、1段目から5段目までの全ての遅延素子(遅延素子251〜遅延素子255)の出力(遅延信号SA11〜遅延信号SA15)は、自身の次段の遅延素子に入力されると共に、他チャネル(chB)の信号再生部440における補正信号生成部444に入力される。
【0113】
遅延回路260では、遅延素子263の出力(遅延信号SB13)が信号再生部440における加算部242に出力される。また、1段目から5段目までの全ての遅延素子(遅延素子261〜遅延素子265)の出力(遅延信号SB11〜遅延信号SB15)は、自身の次段の遅延素子に入力されると共に、他チャネル(chA)の信号再生部430における補正信号生成部434に入力される。
【0114】
補正信号生成部434は、外部からタイミング補正係数β1〜β5が入力され、遅延信号SB11〜遅延信号SB15に夫々のタイミング補正係数を乗算してから加算すると共に、加算により得られた信号に対して強度補正を行うと共に、符号の制御を行って、補正信号HBAを生成する。
【0115】
補正信号生成部444は、外部からタイミング補正係数γ1〜γ5が入力され、遅延信号SA11〜遅延信号SA15に夫々のタイミング補正係数を乗算してから加算すると共に、加算により得られた信号に対して強度補正を行うと共に、符号の制御を行って、補正信号HABを生成する。
【0116】
従って、信号再生部430と信号再生部440が行う処理は、式(7)と式(8)により夫々表わすことができる。
【0117】
SA2=SA13-α(BA)×(β1×SB11+β2×SB12+β3×SB13+β4×SB14+β5×SB15) (7)
但し,
α(BA):強度補正係数
β1〜β5:タイミング補正係数
SA13:チャネルAの受信信号SA1を3つの遅延素子の遅延量分遅延させた信号
SB11〜SB15:チャネルBの受信信号SB1の遅延信号
【0118】
SB2=SB13-α(AB)×(γ1×SA11+γ2×SA12+γ3×SA13+γ4×SA14+γ5×SA15) (8)
但し,
α(AB):強度補正係数
γ1〜γ5:タイミング補正係数
SB13:チャネルBの受信信号SB1を3つの遅延素子の遅延量分遅延させた信号
SA11〜SA15:チャネルAの受信信号SA1の遅延信号
【0119】
なお、式(7)におけるタイミング補正係数β1〜β5は、遅延素子251〜255のうちの隣接する2つの遅延素子の出力に夫々乗算する2つの係数(以下「係数ペア」という)と、他の3つの遅延素子の出力に夫々乗算する3つの係数である。上記係数ペアに含まれる2つの係数は、1より小さく、かつ、総和が1であり、他の3つの係数は、共に「0」である。
【0120】
同様に、式(8)におけるタイミング補正係数γ1〜γ5は、遅延素子261〜265のうちの隣接する2つの遅延素子の出力に夫々乗算する2つの係数(係数ペア)と、他の3つの遅延素子の出力に夫々乗算する3つの係数である。上記係数ペアに含まれる2つの係数は、1より小さく、かつ、総和が1であり、他の3つの係数は、共に「0」である。
【0121】
例えば、タイミング補正係数β1〜β5を0、0、1、0、0とし、タイミング補正係数γ1〜γ5も0、0、1、0、0とした場合、すなわちchAの係数ペアがβ2(=0)とβ3(=1)であり、chBの係数ペアがγ2(=0)とγ3(=1)である場合、受信装置420は、図1に示す通信システム100における受信装置120と同様に、タイミング合わせを行わない動作をする。
【0122】
一方、タイミング補正係数β1〜β5を0、1、0、0、0とし、タイミング補正係数γ1〜γ5も0、1、0、0、0とした場合、すなわちchAの係数ペアがβ2(=1)とβ3(=0)であり、chBの係数ペアがγ2(=1)とγ3(=0)である場合、受信装置420は、図6に示す通信システム200における受信装置220と同様のタイミング合わせを行うことになる。
【0123】
さらに、タイミング補正係数β1〜β5を0、0.2、0.8、0、0とし、タイミング補正係数γ1〜γ5も0、0.2、0.8、0、0とした場合、すなわちchAの係数ペアがβ2(=0.2)とβ3(=0.8)であり、chBの係数ペアがγ2(=0.2)とγ3(=0.8)である場合、受信装置420は、図7に示す通信システム300における受信装置320が、β12とβ13が「0.2」と「0.8」に設定され、γ12とγ13が「0.2」と「0.8」に設定された場合と同様のタイミング合わせを行うことになる。
【0124】
このようにして、タイミング補正係数β1〜β5における係数ペア及び該係数ペアに含まれる2つの係数の値と、タイミング補正係数γ1〜γ5における係数ペア及び該係数ペアに含まれる2つの係数の値を調整することにより、各チャネルについて、自チャネルの受信信号に含まれる他チャネルからの混信信号と、該他チャネルの受信信号に含まれる該チャネルの成分との間の遅延が変動した場合にも対応可能である。
【0125】
なお、前述したように、通常、この種の通信システムにおいて、自チャネルの受信信号に含まれる他チャネルからの混信信号が、該他チャネルの受信信号に含まれる該チャネルの成分より遅延している。そのため、通常、chAの加算部232に出力する補正信号HBAを生成するためには、遅延信号SB14と遅延信号SB15を用いることがなく、chBの加算部242に出力する補正信号HABを生成するためには、遅延信号SA14と遅延信号SA15を用いることがない。しかし、設置環境などによって、例えば、chAの受信信号SA1に含まれるchBからの混信信号が、chBの受信信号SB1に含まれるchBの成分より進んでいる、または、chBの受信信号SB1に含まれるchAからの混信信号が、chAの受信信号SA1に含まれるchAの成分より進んでいるなどの例外的な場合もある。図8に示す通信システム400によれば、タイミング補正係数β1〜β5における係数ペアと、タイミング補正係数γ1〜γ5における係数ペアを変更することにより、上述した例外的な場合にも対応可能である。
【0126】
次いで、図9を参照して、本発明の技術に用いられる送信アンテナと受信アンテナ、及びこれらのアンテナの配置の好適例を説明する。図9に示す例において、送信装置側には、アンテナの支持体10上に送信アンテナ112と送信アンテナ114が設けられており、受信装置側には、アンテナの支持体20上に受信アンテナ122と受信アンテナ124が設けられている。送信アンテナ112と受信アンテナ122はchAに対応し、送信アンテナ114と受信アンテナ124はchBに対応する。
【0127】
送信アンテナ112は、アンテナ11と、該アンテナ11を終端する2つの抵抗素子(抵抗素子12と13)を含む。アンテナ11は、ダイポールアンテナとしてよく知られている線状のアンテナである。すなわち、送信アンテナ112は、ダイポールアンテナを抵抗素子で終端することにより広帯域化を図ったものである。
送信アンテナ114も、送信アンテナ112と同様の構成を有する。
【0128】
受信アンテナ122は、アンテナ21と、該アンテナ21を終端する2つの抵抗素子(抵抗素子22と23)を含む。アンテナ21は、ダイポールアンテナとしてよく知られている線状のアンテナである。すなわち、送信アンテナ122も、送信アンテナ112と同様に、ダイポールアンテナを抵抗素子で終端することにより広帯域化を図ったものである。受信アンテナ124も、受信アンテナ122と同様の構成を有する。
【0129】
また、図9に示す例では、受信アンテナ122と受信アンテナ124は、同一の平面(以下「第1の平面」という)に設けられており、送信アンテナ112と送信アンテナ114も、同一の平面(以下「第2の平面」という)に設けられている。第1の平面と第2の平面は、平行し、各受信アンテナは、自チャネルの送信アンテナとの距離が、いずれの他チャネルの送信アンテナとの距離よりも短いように配置されている。さらに、同チャネルの送信アンテナと受信アンテナ間の距離がなるべく短くなるように、同チャネルの送信アンテナと受信アンテナを結ぶ直線が、第1の平面と第2の平面に直交するよう、各アンテナが配置されている。
【0130】
図10は、図9に示す送信アンテナ112と送信アンテナ114間の距離、及び受信アンテナ122と受信アンテナ124間の距離が10mmであり、第1の平面と第2の平面間の距離(すなわち送信アンテナ112と受信アンテナ122間の距離、及び、送信アンテナ114と受信アンテナ124間の距離)が10mmである場合に、送信アンテナ例えばchAの送信アンテナ112が5Gbpsのベースバンド信号を送信した際に、自チャネルの受信アンテナ(ここでは受信アンテナ122)が受信した信号に含まれる自チャネル成分(図10上部)の波形と、他チャネル(ここではchB)への混信信号、すなわち受信アンテナ124が受信した信号に含まれるchAの成分の波形(混信信号SA0B)との例を示す。
【0131】
図10から分かるように、図9に示すように配置された各アンテナによれば、受信アンテナが受信した信号の中に含まれる自チャネルの成分は、他チャネルからの混信信号より強い。この強度差さえあれば、本発明にかかる技術による混信信号の除去が可能である。
【0132】
なお、本発明の技術に用いられる送信アンテナと受信アンテナ、及びこれらのアンテナの配置については、図9に示す例が好ましいが、上記強度差を得ることができれば、図9に示す例に限られることがない。
【0133】
上記強度差を得られない場合の例を図11に示す。図11に示すように、送信アンテナとから他チャネルの受信アンテナ間までの距離と、該送信アンテナからチャネルの受信アンテナ間までの距離とが同一である場合、上述した強度差を得ることができないため、自チャネルの受信信号から他チャネルからの混信信号を除去することができない。
以上の原理を踏まえて、本発明の具体的な実施の形態を説明する。
【0134】
<第1の実施の形態>
図12は、本発明の第1の実施の形態にかかる通信システム500の外観図である。該通信システム500は、図8に示す通信システム400と同様に、2チャネル(chA、chB)で並列にベースバンド信号を送受信する近距離無線通信システムである。従って、以下の説明及び図示において、通信システム500に対して、通信システム400と異なる点についてのみ説明し、図12及び通信システム500に関する以降の図面において、通信システム400のものと同様の機能ブロックについて、同一の符号を付与すると共に、説明を省略する。
【0135】
通信システム500は、送信装置510と、受信装置570を備える。
図示のように、送信装置510の筐体511には、2つの突起部(凸部514、凸部516)が設けられている。また、送信装置510には、送信アンテナ112と送信アンテナ114が内蔵されており、この2つのアンテナは、同様に内蔵された基板512上に固定されている。
【0136】
受信装置570の筐体571には、2つの凹下部(凹部574、凹部576)が設けられている。受信装置570には、受信アンテナ122と受信アンテナ124が内蔵されており、この2つのアンテナは、同様に内蔵された基板572上に固定されている。
【0137】
送信装置510の筐体511上の凸部514と凸部516、及び受信装置570の筐体571上の凹部574と凹部576は、受信装置570を送信装置510に装着する際に、または、送信装置510を受信装置570に装着する際に、各送信アンテナと各受信アンテナとの位置関係が、予め定められた位置関係(距離関係を含む)になるための装着ガイド部である。
【0138】
「予め定められた位置関係」とは、例えば図9に示すような、混信信号の除去効果が良い位置関係を意味する。
【0139】
図12に示すように、筐体511に設けられた凸部514は、凸部516より短い。対応して、筐体571上に設けられた凹部574は、凹部576より浅い。そのため、受信装置570を送信装置510に装着する際に、自然に図12に示す装着態様になり、各送信アンテナと各受信アンテナは、予め定められた位置関係になるように配置される。
【0140】
なお、装着ガイド部は、受信装置570を送信装置510に装着する際に、または、送信装置510を受信装置570に装着する際に、各送信アンテナと各受信アンテナとの位置関係が、予め定められた位置関係になるようにすることができれば、図12に示す態様に限られることがない。例えば、送信装置510の筐体511と受信装置570の筐体571の片方にハード型、十字型、T字型などの凹部を設け、他方に同様の形の凸部を設けるようにしてもよい。
【0141】
次いで、図13を参照して通信システム500の内部構成を説明する。なお、
図13に示すように、通信システム500において、送信装置510は、送信アンテナ112と送信アンテナ114が含まれ、図7に示す通信システム400における送信装置110と同様である。
【0142】
受信装置570は、フロントエンド520と、チャネル毎に設けられた復元回路(chAの復元回路582、復元回路584)が含まれる。
【0143】
フロントエンド520は、chAについて、受信アンテナ122、オフセットキャンセル回路270、遅延回路550、乗算部534、加算器532が設けられており、chBについて、受信アンテナ124、オフセットキャンセル回路280、遅延回路560、乗算部544、加算器542が設けられている。
【0144】
フロントエンド520は、chAの受信信号SA1に含まれるchBからの混信信号を除去して出力信号SA2を得て復元回路582に出力し、chBの受信信号SB1に含まれるchAからの混信信号を除去して出力信号SB2を得て復元回路584に出力する。
【0145】
通信システム500において、後述する各係数を除き、全ての信号が差動信号であるが、分かりやすいように、各図面において、差動信号も1本の線で示す。
【0146】
図14を参照してフロントエンド520を説明する。図14は、フロントエンド520をより詳細に示す図である。
【0147】
フロントエンド520において、遅延回路550は、通信システム400の受信装置420における遅延回路250と同様である。また、遅延回路560は、通信システム400の受信装置420における遅延回路260と同様である。
【0148】
乗算部534は、5つの乗算器を有する。夫々の乗算器は、遅延回路560における相対応の遅延素子の出力に対して係数を乗算して信号HBA1〜HBA5のうちの1つを得る。これらの信号HBA1〜HBA5は、加算器532に出力される。
【0149】
乗算部544も、5つの乗算器を有する。夫々の乗算器は、遅延回路550における相対応の遅延素子の出力に対して補正係数を乗算して信号HAB1〜HAB5のうちの1つを得る。これらの信号HAB1〜信号HAB5は、乗算部544に出力される。
【0150】
乗算部534と乗算部544が行う処理は、式(9)と式(10)により夫々示すことができる。
【0151】
信号HBAi=xi×SB1i (9)
但し、
i=1〜5
x:補正係数
【0152】
信号HABi=yi×SA1i (10)
但し、
i=1〜5
y:補正係数
【0153】
式(9)と式(10)における補正係数xとyは、式(11)と式(12)に夫々示されている。
【0154】
xi=α(BA)×βi (11)
但し、
x:補正係数
α(BA):強度補正係数
β:タイミング補正係数
i=1〜5
【0155】
yi=α(AB)×γi (12)
但し、
y:補正係数
α(AB):強度補正係数
γ:タイミング補正係数
i=1〜5
【0156】
加算器532は、符号制御機能を備え、ここでは、乗算部534からの信号HBA1〜信号HBA5の符号を「−」にして、遅延信号SA13と加算して出力信号SA2を得る。
【0157】
加算器542は、符号制御機能を備え、ここでは、乗算部544からの信号HAB1〜信号HAB5の符号を「−」にして、遅延信号SB13と加算して出力信号SB2を得る。
【0158】
乗算部534と加算器532の処理は、式(13)により表わすことができる。
SA2=SA13-α(BA)×(β1×SB11+β2×SB12+β3×SB13+β4×SB14+β5×SB15) (13)
但し,
α(BA):強度補正係数
β1〜β5:タイミング補正係数
SA13:チャネルAの受信信号SA1を3つの遅延素子の遅延量分遅延させた信号
SB11〜SB15:チャネルBの受信信号SB1の遅延信号
【0159】
乗算部544と加算器542の処理は、式(14)により表わすことができる。
SB2=SB13-α(AB)×(γ1×SA11+γ2×SA12+γ3×SA13+γ4×SA14+γ5×SA15) (14)
但し,
α(AB):強度補正係数
γ1〜γ5:タイミング補正係数
SB13:チャネルBの受信信号SB1を3つの遅延素子の遅延量分遅延させた信号
SA11〜SA15:チャネルAの受信信号SA1の遅延信号
【0160】
式(13)と式(7)を比較すると分かるように、乗算部534と加算器532が行う処理は、通信システム400における信号再生部430が行う処理と同様である。
【0161】
また、式(14)と式(8)を比較すると分かるように、乗算部544と加算器542が行う処理は、通信システム400における信号再生部440が行う処理と同様である。
【0162】
図15〜図17を参照して、受信装置570の一部の機能ブロックの詳細な回路構成を説明する。
【0163】
図15は、chBのオフセットキャンセル回路280と遅延回路560と、chAの信号再生部585(乗算部534と加算器532)を示す。図示のように、chBの受信信号SB01は、オフセットキャンセル回路280を経て受信信号SB1となり、遅延回路560に入力される。遅延回路560は、遅延素子261〜266を順次接続してなる。
【0164】
信号再生部585は、増幅器590と5つのブロック(ブロック591〜595)を有する。
【0165】
増幅器590は、遅延素子253の出力SA13を増幅するものであり、制御信号によりメインのゲインが調整される。
【0166】
ブロック591は、式(13)における「SA13−α(BA)×(β1×SB11)」部分の演算を実現する。ブロック592〜595は、「−α(BA)×(βi×SB11」(i=2〜5)の演算を夫々実現する。
ブロック591〜595に関しては、ブロック591を代表にして図16を参照して説明する。
【0167】
ブロック591は、入力された符号制御信号SIGNに従って、HBA1の符号を制御する。また、ブロック591には、制御信号ctr1に基づいて補正係数x1「α(BA)×β1」を決定するiDAC(Digital Analog Converter)599が含まれている。
【0168】
図17は、iDAC599の構成を詳細に示す。図示のように、iDAC599に入力される制御信号ctr1は、6ビットの信号(B[0]、B[1]、・・・、B[5])である。iDAC599は、この6ビットの制御信号ctr1に基づいて補正係数x1を決定する。
【0169】
図15〜図17を参照して受信装置570におけるchBの遅延回路560と、chAの信号再生部585を説明した。受信装置570におけるchAの遅延回路550と、chBの信号再生部(乗算部544と加算器542)も同様の構成を有するため、ここで詳細な説明を省略する。
【0170】
次いで、復元回路582と復元回路584を説明する。なお、復元回路582と復元回路584は、入出力する信号が異なる点を除き、構成などが同様であるため、復元回路582についてのみ説明する。
【0171】
ベースバンド信号を直接受信する受信回路では、送信信号が連続データ(10000・・・、或いは01111・・・)の場合、受信した信号に対して復元処理を行う際に、受信回路側で検出されたデータの立ち上がり/立ち下がりで変化した信号を、続くサンプリングタイミングにおいても保持しておく必要がある。
【0172】
本実施の形態において、復元回路582は、フロントエンド520により他チャネルからの混信信号を除去した自チャネルの信号(出力信号SA2)を送信信号SA0に復元する回路であり、例えば、図18に示すヒステリシスバッファにより実現することができる。
【0173】
図19は、図18に示すヒステリシスバッファにより構成された復元回路582に入力された信号(出力信号SA2)と、復元回路582が得た復元信号(復元信号SA3)の波形の例を示す。図示のように、フロントエンド520からの出力信号SA2の波形は、復元回路582により該チャネルの送信信号の波形に復元されている。
【0174】
また、ヒステリシスバッファの代わりに、例えば、波形等化処理を行う判定帰還型イコライズ回路により復元回路582を実現してもよい。この場合、判定帰還型イコライズ回路は、データレートに応じたサンプリング周期で自チャネルの信号(出力信号SA2)をサンプリングすると共に、サンプリングした受信信号に応じてフィードバックをかけることにより、受信データの前ビットによる符号間干渉を除去する。
【0175】
なお、この種の判定帰還型イコライズ回路は、特許文献4に開示されており(図24〜26)、より詳細な説明は、該文献を参照されたい。
【0176】
本実施の形態の通信システム500は、通信システム400を具現化したものであり、通信システム400の全ての効果を得ることができる。
【0177】
また、図12に示すように、送信装置510と受信装置570の筐体に、各送信アンテナと各受信アンテナの位置関係が予め定められた関係になるための装着ガイド部が設けられているため、各アンテナは、自チャネルの受信信号に対して、他チャネルからの混信信号を除去する効果が得られるように配置され、ひいては、良好な通信品質を得ることができる。
【0178】
<第2の実施の形態>
送信装置及び/または受信装置に設けられる装着ガイド部は、図12に示すもの以外にも、様々なものが考えられる。図20を参照して一例を説明する。
【0179】
図20は、本発明の第2の実施の形態にかかる通信システム600の外観を示す図である。該通信システム600は、図12に示す通信システム500と同様に、2チャネル(chA、chB)で並列にベースバンド信号を送受信する近距離無線通信システムであり、送信装置610と、受信装置670を備える。
【0180】
送信装置610の筐体611には、受信装置670を装着するための凹部(装着溝614)が設けられている。
【0181】
受信装置670の筐体611には、受信装置670を送信装置610に装着するための装着ガイト部が設けられていないが、筐体611のサイズが、筐体511に設けられた装着溝614とほぼ同じである。
【0182】
そのため、受信装置670を装着溝614に挿入するだけで、各送信アンテナと各受信アンテナは、予め定められた位置関係になるように配置される。
【0183】
通信システム600の送信装置610と受信装置670の内部構成については、通信システム500の送信装置510と受信装置570と夫々同様であり、ここで説明を省略する。
【0184】
<第3の実施の形態>
図21は、本発明の第3の実施の形態にかかる通信システム800を示す。通信システム800は、送信装置510と受信装置870を備え、「通常通信モード」と「係数調整モード」の2つの動作モードを有し、受信装置870には、さらに、「係数調整モード」のときにのみ動作するエラー検出回路と係数調整回路がチャネル毎に設けられている点を除き、図13に示す通信システム500と同様である。
【0185】
受信装置870において、エラー検出回路812と係数調整回路814は、chAに対応し、エラー検出回路822と係数調整回路824は、chBに対応する。
【0186】
「係数調整モード」のときに、送信アンテナ112と送信アンテナ114は、既知の信号であるテスト信号TAとテスト信号TBを夫々送信する。すなわち、このとき、送信信号SA0はテスト信号TAであり、送信信号SB0はテスト信号TBである。
【0187】
また、復元回路582から出力される復元信号SA3は、エラー検出回路812にも出力される。エラー検出回路812は、復元信号SA3以外に、さらに参照信号RAが入力される。この参照信号RAは、既知の信号であり、他チャネルからの混信がほぼ無い場合にテスト信号TAを受信した際の受信信号であり、例えばテスト信号TAをそのまま用いることができる。テスト信号TAとしては、例えば、一般に「擬似ランダムパタン」(PRBS:Pseudo Random Binary (bit) Sequence)として知られているデータ列などを用いれば良い。
【0188】
エラー検出回路812は、復元信号SA3と参照信号RAを比較することにより復元信号SA3におけるエラーを検出し、検出結果を係数調整回路814に出力する。
【0189】
係数調整回路814は、エラー検出回路812からの検出結果に基づいて、復元信号SA3中のエラーが最も小さくなるように、乗算部534の各乗算器に夫々供する補正係数x1〜x5を調整する。
【0190】
同様に、「係数調整モード」のときに、復元回路584から出力された復元信号SB3は、エラー検出回路822にも出力される。エラー検出回路822は、遅延信号SB13以外に、さらにテスト信号TBに対応する参照信号RBが入力される。エラー検出回路822は、エラーの検出結果を係数調整回路824に出力し、係数調整回路824は、エラー検出回路822からの検出結果に基づいて、復元信号SB3中のエラーが最も少なくなるように、乗算部544の各乗算器に供する補正係数y1〜y2を調整する。
【0191】
前述したように、補正係数x1〜補正係数x5は、強度補正係数α(BA)に、タイミング補正係数β1〜β5を夫々乗算して得た係数である。補正係数x1〜補正係数x5の調整は、強度補正の程度の調整と、タイミング合わせの調整になる。補正係数y1〜補正係数y5についても、同様である。
【0192】
図8に示す信システム400では、補正信号生成部434に供する強度補正係数α(BA)とタイミング補正係数β1〜β5、及び補正信号生成部444に供する強度補正係数α(AB)とタイミング補正係数γ1〜γ5は、予め行ったトレーニングによって定められて設定されるようになっている。
【0193】
本実施の形態にかかる通信システム800では、受信装置870に、チャネル毎に、強度補正とタイミング合わせに用いられる補正係数を調整するためのエラー検出回路と係数調整回路が設けられたことにより、通信環境の変化や、アンテナ位置のずれなどがあった場合に、通信システム800の動作モードを「通常通信モード」から「係数調整モード」に切り替えるだけで、混信信号の除去効果が最大になるように補正係数の調整ができる。
【0194】
なお、「係数調整モード」への切替えは、ユーザにより手動で行うようにしてもよく、例えば、所定のトリガに応じて(例えば定期的になど)、「係数調整モード」への切替えが自動的に行われるようにしてもよい。
【0195】
勿論、通信システム800に用いられた係数調整の手法そのものは、図8に示す通信システム400における補正信号生成部434と補正信号生成部444に対して補正係数を設定するためのトレーニング時にも適用することができる。
【0196】
<第4の実施の形態>
以上に説明した全ての通信システムは、例として、2チャネルの通信システムである。本発明にかかる技術は、2以上の任意のチャネル数の通信システムにも適用できる。
【0197】
図22は、本発明の第4の実施の形態にかかる通信システム900を示す。該通信システム900は、送信装置910と受信装置970を備え、3チャネル(chA、chB、chC)の並列通信を行う近距離無線通信システムである。
【0198】
図示のように、受信装置970において、チャネル毎に、自チャネルの受信アンテナが受信した受信信号に、各他チャネルの受信アンテナが受信した受信信号に対して強度補正とタイミング合わせ処理及び符号制御を施して得た補正信号を加算することによりこれらの他チャネルからの混信信号を除去している。
【0199】
なお、図22に示す通信システム900では、自チャネルの受信アンテナが受信した受信信号に対して全ての他チャネルからの混信信号を除去するようにしているが、例えば、各送信アンテナと各受信アンテナの設置位置により、chAの受信アンテナが受信した受信信号の中に、chCの成分がほとんど含まれない場合には、chAのアンテナが受信した受信信号に対して、chBの受信アンテナが受信した受信信号から得た補正信号のみを生成して加算するようにすればよい。
【0200】
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。実施の形態は例示であり、本発明の主旨から逸脱しない限り、上述した各実施の形態に対してさまざまな変更、増減、組合せを行ってもよい。これらの変更、増減、組合せが行われた変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0201】
10 支持体 11 ダイポールアンテナ
12 抵抗素子 13 抵抗素子
20 支持体 21 ダイポールアンテナ
22 抵抗素子 23 抵抗素子
100 通信システム 110 送信装置
112 送信アンテナ 114 送信アンテナ
120 受信装置 122 受信アンテナ
124 受信アンテナ 130 信号再生部
132 加算部 134 補正信号生成部
136 強度補正部 138 符号切替部
140 信号再生部 142 加算部
144 補正信号生成部 150 通信システム
200 通信システム 220 受信装置
230 信号再生部 232 加算部
234 補正信号生成部 240 信号再生部
242 加算部 244 補正信号生成部
250 遅延回路 251〜256 遅延素子
260 遅延回路 261〜266 遅延素子
270 オフセットキャンセル回路 280 オフセットキャンセル回路
300 通信システム 320 受信装置
330 信号再生部 334 補正信号生成部
340 信号再生部 344 補正信号生成部
400 通信システム 420 受信装置
430 信号再生部 434 補正信号生成部
440 信号再生部 444 補正信号生成部
500 通信システム 510 送信装置
511 筐体 512 基板
514 凸部 516 凸部
570 受信装置 571 筐体
572 基板 574 凹部
576 凹部 520 フロントエンド
532 加算器 534 乗算部
550 遅延回路 542 加算器
544 乗算部 560 遅延回路
582 復元回路 584 復元回路
585 信号再生部 590 増幅器
591〜595 ブロック 599 iDAC
600 通信システム 610 送信装置
611 筐体 614 装着溝
670 受信装置 671 筐体
800 通信システム 870 受信装置
812 エラー検出回路 814 係数調整回路
822 エラー検出回路 824 係数調整回路
900 通信システム 910 送信装置
970 受信装置 ctr1〜ctr5 制御信号
HAB 補正信号 HBA 補正信号
SA0B 混信信号 SB0A 混信信号
SA0 送信信号 SB0 送信信号
SA01 受信信号 SB01 受信信号
SA1 受信信号 SB1 受信信号
SA2 出力信号 SB2 出力信号
SA3 復元信号 SB3 復元信号
SA11〜SA15 遅延信号 SIGN 符号制御信号
SB11〜SB15 遅延信号 RA 参照信号
RB 参照信号 TA テスト信号
TB テスト信号 x1〜x5 補正係数
y1〜y5 補正係数 α(BA) 強度補正係数
α(AB) 強度補正係数 β1〜β5 タイミング補正係数
γ1〜γ5 タイミング補正係数 β12〜β13 タイミング補正係数
γ12〜γ13 タイミング補正係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャネル毎に1対の広帯域の送信アンテナと受信アンテナによりベースバンド信号を送受信する近距離無線通信システムにおける受信装置であって、
チャネル毎に設けられた前記受信アンテナと、
チャネル毎に設けられており、自チャネルの前記受信アンテナが受信した信号と、1つ以上の他チャネルの前記受信アンテナが受信した信号とに基づいて自チャネルの信号を再生する信号再生部とを有し、
前記信号再生部は、
前記1つ以上の他チャネルのチャネル毎に設けられ、該他チャネルの前記受信アンテナが受信した信号から補正信号を生成する補正信号生成部と、
自チャネルの前記受信アンテナが受信した信号と、各前記補正信号生成部が生成した前記補正信号とを加算する加算部とを備え、
前記補正信号生成部は、
前記他チャネルの前記受信アンテナが受信した信号に対して強度補正をする強度補正部と、
前記強度補正部により強度補正された前記信号の符号を切替可能な符号切替部とを有することを特徴とする受信装置。
【請求項2】
チャネル毎に設けられており、順次接続した複数の遅延素子を有し、自チャネルの前記受信アンテナが受信した信号を順次遅延させる遅延回路をさらに備え、
前記信号再生部において、
前記補正信号生成部は、対応する他チャネルの前記遅延回路の複数の遅延素子のうちの所定段の遅延素子の出力から前記補正信号を生成し、
前記加算部は、自チャネルの前記遅延回路の複数の遅延素子のうちの所定段の遅延素子の出力と、夫々の前記補正信号生成部が生成した前記補正信号とを加算することを特徴とする請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
前記遅延回路の前に、オフセットをキャンセルするオフセットキャンセル回路がさらに設けられていることを特徴とする請求項2に記載の受信装置。
【請求項4】
前記補正信号生成部は、対応する他チャネルの前記遅延回路の複数の遅延素子のうちの隣接する所定段の第1の遅延素子と第2の遅延素子の出力を重み付け平均して得た平均信号から前記補正信号を生成することを特徴とする請求項2または3に記載の受信装置。
【請求項5】
各前記受信アンテナは、自チャネルの前記送信アンテナとの距離が、いずれの他チャネルの前記送信アンテナとの距離よりも短いように設置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の受信装置。
【請求項6】
各前記受信アンテナは、第1の平面に配置されており、
前記第1の平面は、各前記送信アンテナが配置された第2の平面と平行することを特徴とする請求項5に記載の受信装置。
【請求項7】
各前記受信アンテナが固定される受信アンテナ支持体と、
前記受信アンテナ支持体が固定される受信装置筐体とをさらに有し、
前記受信装置筐体には、該受信装置を、各前記送信アンテナが設置された送信装置に装着する際に、または、前記送信装置を該受信装置に装着する際に、各前記送信アンテナと各前記受信アンテナとの位置関係が、予め定められた位置関係になるための装着ガイド部が設けられていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の受信装置。
【請求項8】
各前記受信アンテナと各前記送信アンテナは、抵抗素子により終端したダイポールアンテナであることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の受信装置。
【請求項9】
チャネル毎に1対の広帯域の送信アンテナと受信アンテナによりベースバンド信号を送受信する近距離無線通信システムであって、
送信装置と受信装置を有し、
前記送信装置は、チャネル毎に設けられた前記送信アンテナを備え、
前記受信装置は、
チャネル毎に設けられた前記受信アンテナと、
チャネル毎に設けられており、自チャネルの前記受信アンテナが受信した信号と、1つ以上の他チャネルの前記受信アンテナが受信した信号とに基づいて自チャネルの信号を再生する信号再生部とを有し、
前記信号再生部は、
前記1つ以上の他チャネルのチャネル毎に設けられ、該他チャネルの前記受信アンテナが受信した信号から補正信号を生成する補正信号生成部と、
自チャネルの前記受信アンテナが受信した信号と、各前記補正信号生成部が生成した前記補正信号とを加算する加算部とを備え、
前記補正信号生成部は、
前記他チャネルの前記受信アンテナが受信した信号に対して強度補正をする強度補正部と、
前記強度補正部により強度補正された前記信号の符号を切替可能な符号切替部とを有することを特徴とする通信システム。
【請求項10】
前記受信装置は、
チャネル毎に設けられており、順次接続した複数の遅延素子を有し、自チャネルの前記受信アンテナが受信した信号を順次遅延させる遅延回路をさらに備え、
前記信号再生部において、
前記補正信号生成部は、対応する他チャネルの前記遅延回路の複数の遅延素子のうちの所定段の遅延素子の出力から前記補正信号を生成し、
前記加算部は、自チャネルの前記遅延回路の複数の遅延素子のうちの所定段の遅延素子の出力と、夫々の前記補正信号生成部が生成した前記補正信号とを加算することを特徴とする請求項9に記載の通信システム。
【請求項11】
前記遅延回路の前に、オフセットをキャンセルするオフセットキャンセル回路がさらに設けられていることを特徴とする請求項10に記載の通信システム。
【請求項12】
前記補正信号生成部は、対応する他チャネルの前記遅延回路の複数の遅延素子のうちの隣接する所定段の第1の遅延素子と第2の遅延素子の出力を重み付け平均して得た平均信号から前記補正信号を生成することを特徴とする請求項10または11に記載の通信システム。
【請求項13】
各前記受信アンテナは、自チャネルの前記送信アンテナとの距離が、いずれの他チャネルの前記送信アンテナとの距離よりも短いように設置されていることを特徴とする請求項9から12のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項14】
各前記受信アンテナは、第1の平面に配置されており、
各前記受信アンテナは、前記第1の平面と平行する第2の平面に配置されていることを特徴とする請求項13に記載の通信システム。
【請求項15】
前記受信装置は、
各前記受信アンテナが固定される受信アンテナ支持体と、
前記受信アンテナ支持体が固定される受信装置筐体とをさらに有し、
前記送信装置は、
各前記送信アンテナが固定される送信アンテナ支持体と、
前記送信アンテナ支持体が固定される送信装置筐体とをさらに有し、
前記受信装置筐体及びまたは前記装置装置筐体には、前記受信装置を前記送信装置に装着する際に、または、前記送信装置を前記受信装置に装着する際に、各前記送信アンテナと各前記受信アンテナとの位置関係が、予め定められた位置関係になるための装着ガイド部が設けられていることを特徴とする請求項9から14のいずれか1項に記載の通信システム。
【請求項16】
各前記受信アンテナと各前記送信アンテナは、抵抗素子により終端したダイポールアンテナであることを特徴とする請求項9から15のいずれか1項に記載の通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−59012(P2013−59012A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197694(P2011−197694)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】