受光素子
【課題】環境負荷を増大させず、かつZnS系バッファ層にダメージを与えずに、ZnO系電極を形成した受光素子を提供する。
【解決手段】下部電極4上に、光吸収層3、ZnS系バッファ層、ZnO系電極層1が形成されている。ここで、ZnO系電極層1は、Ar成分が含まれていないことを特徴とする。また、ZnO系電極層1は、ラマン分光法によるラマン散乱強度のピークがラマンシフト400/cm−1〜500/cm−1の間に存在するように形成されている。
【解決手段】下部電極4上に、光吸収層3、ZnS系バッファ層、ZnO系電極層1が形成されている。ここで、ZnO系電極層1は、Ar成分が含まれていないことを特徴とする。また、ZnO系電極層1は、ラマン分光法によるラマン散乱強度のピークがラマンシフト400/cm−1〜500/cm−1の間に存在するように形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収層の上側に形成されたZnO系電極を用いた受光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる、カルコパイライト構造の半導体薄膜であるCuInSe2(CIS系薄膜)、或いはこれにGaを固溶したCu(In,Ga)Se2(CIGS系薄膜)を光吸収層に用いた薄膜太陽電池は、高いエネルギー変換効率を示し、光照射などによる効率の劣化が少ないという利点を有している。
【0003】
以上のように、カルコパイライト構造の半導体薄膜を光吸収層とし、この光吸収層で光電変換を行い、電気的信号として取り出す受光素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この受光素子では、下部電極上に、光吸収層を形成し、光吸収層上にn型バッファ層を積層し、n型バッファ層上に透明電極層を形成している。このように、光吸収層とn型バッファ層とでpn接合を構成し、このpn接合領域で光の検出を行っている。
【0004】
ここで、n型バッファ層には硫化物が用いられており、n型CdS、n型ZnS、n型Zn(O,OH)S、n型InS等がある。また、硫化物以外にも、ZnSe、ZnMgO等のバッファ層が実験室レベルでは使用されている。作製方法としては、蒸着法や化学析出(Chemical bath deposition:CBD)法がある。n型CdSバッファ層は、CBD法を用いて作製したCdS膜で最も効率的な太陽電池が作製されているが、Cdを用いるため、環境汚染に繋がる恐れがあり、処理費用等が高くなる。
【0005】
そこで、同じCBD法を用いてCdS膜に近い高効率な薄膜太陽電池を作製できるn型Zn(O,OH)Sバッファ層が良く用いられる。ZnS系(Eg3.4eV)は、CdS(Eg2.4eV)と比較して、バンドギャップが大きいため、短波長側の量子効率が改善するという特徴を有する。
【0006】
一方、n型ZnSバッファ層上に形成される透明電極層には、ZnO電極層やITO(酸化インジウムスズ)電極層が知られている。しかし、インジウムは高価であるというだけではなく、資源枯渇の問題を抱えており他の材料への転換が急務である。そこで、n型Zn(O,OH)Sバッファ層上に、安価な亜鉛(Zn)を用いたZnO電極層、もしくはMgを含有したZnMgO電極層という構成が注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−259872
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、n型Zn(O,OH)Sバッファ層上にZnO電極層という構成を用いた場合、次のような問題がある。バッファ層上に形成されるZnO電極を作製する場合は、RFプラズマを用いて酸化亜鉛をスパッタすることにより形成するか、MOCVD(有機金属化学気相成長法)により形成している。RFプラズマによる製造方法の場合は、プラズマ及びスパッタのダメージによるn型Zn(O,OH)Sバッファ層の損傷が発生する。また、n型Zn(O,OH)Sバッファ層の損傷は、n型CdSをバッファ層に用いたときよりも非常に大きい。
【0009】
一方、MOCVDによりZnO電極を形成する方法では、
大量の廃ガスが発生し環境負荷が大きい
という問題があった。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、環境負荷を増大させず、かつZnS系バッファ層にダメージを与えずに、ZnO系電極を形成した受光素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の受光素子は、下部電極と、前記下部電極上に配置された光吸収層と、前記光吸収層上に配置されたZnS系バッファ層と、前記ZnS系バッファ層上に配置されたZnO系電極層とを備え、前記ZnO系電極層は、Ar成分が含まれていないことを主要な特徴とする。
【0012】
また、本発明の受光素子は、下部電極と、前記下部電極上に配置された光吸収層と、前記光吸収層上に配置されたZnS系バッファ層と、前記ZnS系バッファ層上に配置されたZnO系電極層とを備え、前記ZnO系電極層は、ラマン分光法によるラマン散乱強度のピークがラマンシフト400/cm−1〜500/cm−1の間に存在するように形成されていることも主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ZnS系バッファ層上に形成されたZnO系電極層が低温MBE法で作製されているので、ZnS系バッファ層にダメージを与えない。低温MBE法による作製の結果として、ZnO系電極層は、Ar成分が含まれていないように形成されている。また、ZnO系電極層は、ラマン分光法によるラマン散乱強度のピークがラマンシフト400/cm−1〜500/cm−1の間に存在するように形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の受光素子の基本的構造例を示す断面図である。
【図2】本発明の受光素子の基本的構造例を示す断面図である。
【図3】MBE法によって作製されたZnO層のEPMA分析結果を示す図である。
【図4】スパッタ法によって作製されたZnO層のEPMA分析結果を示す図である。
【図5】MBE法により作製されたZnO層とRPD法により作製されたZnO層とをラマン分光分析で比較した図である。
【図6】ZnSバッファ層を用い、ZnO電極層をMBEで作製した場合と、RPDで作製した場合との比較を電流密度−バイアス特性で示す図である。
【図7】ZnSバッファ層を用い、ZnO電極層をMBEで作製した場合と、RPDで作製した場合との比較を量子効率の波長依存性で示す図である。
【図8】CdSバッファ層を用い、ZnO電極層をMBE、RPDで各々作製した場合の量子効率の波長依存性、電流密度−バイアス特性を示す図である。
【図9】ZnSバッファ層を用い、ZnO電極層をMBE、RPDで各々作製した場合の量子効率の波長依存性、電流密度−バイアス特性を示す図である。
【図10】ZnSバッファ層の替わりにCdSバッファ層を用いて、受光素子を作製したときのTEM写真を示す図である。
【図11】ZnSバッファ層を用いて、図2の受光素子を作製したときのTEM写真を示す図である
【図12】低温MBE装置の全体構成を示す図である。
【図13】低温MBE装置の成膜室を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。図面は模式的なものであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0016】
図1は、受光素子の基本的構造を示す。下部電極4上に、光吸収層3、n型ZnS系バッファ層2、上部電極1が順に積層されている。ZnO系上部電極1は、i型ZnO系層12、n型ZnO系層11の2層構造で構成されている。i型ZnO系層12は、意図的なドーピングを行なわない、いわゆるアンドープZnO系層を意味する。このように、n型ZnO系層11の下にi型ZnO系層12を設けることにより、下地の光吸収層3に生じるボイドやピンホールを半絶縁層のi型ZnO系層12で埋め込むと共に、リークを防ぐことができる。
【0017】
ただし、これに限るものではなく、図2に示すように、i型ZnO系層12とn型ZnO系層11からなるZnO系上部電極1を、n型ZnO系層11のみとすることもできる。また、ZnS系層とは、ZnS又はZnSをベースにして他の元素を含む化合物から構成されるものであり、ZnSの化合物としては、例えば、Zn(O,OH)S等がある。一方、ZnO系層とは、ZnO又はZnOをベースにして他の元素を含む化合物から構成されるものであり、ZnOの化合物としては、ZnMgO等がある。
【0018】
光吸収層3は、カルコパイライト構造の化合物半導体として、Cu(InX,Ga1−X)Se2(0≦X≦1)で形成される。
【0019】
また、下部電極層4としては、例えば、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、およびタングステン(W)などを使用することができる。
【0020】
さて、ここで、下部電極4上に、光吸収層3、n型ZnS系バッファ層2を順に積層した後、ZnO系上部電極1をMBE法で作製して見た。MBE法は、分子ビームエピタキシャル成長法(Molecular Beam Epitaxy)と呼ばれるもので、低温で成膜できるという利点があるため、熱に弱い下地層があっても、その下地層上に成膜できる。また、坩堝内から放出される分子ビーム線により蒸着を行なうため、RFスパッタ等に比べて、下地層への影響が軽微である。また、運動エネルギー的に比較してみても、RFスパッタやイオンプレーティング等と比べても最も低いエネルギーを示す。
【0021】
そこで、例えば再公表2007−020729号に示されるようなMBE法を用いて、ZnO系薄膜を形成する。MBE法による酸化亜鉛薄膜製造装置の全体構成を図12に、成膜室の拡大図を図13に再掲する。
【0022】
酸化亜鉛薄膜製造装置100は、基本的には成膜室1A、基材ホルダー10、酸素プラズマセル21、亜鉛坩堝22から構成される。酸化亜鉛薄膜の導電性をより向上させたい場合は、ドーパント(不純物)、例えばアルミニウム、ガリウム、インジウム、塩素等をドーパント用坩堝13に入れて、酸化亜鉛薄膜を成膜する際に蒸発させドープする。
【0023】
成膜室1Aは真空ポンプにより真空状態に保持する。成膜室の真空度は、理想的には超真空(10−10トール)であるが、真空度を高くするに比例して装置のコストが高くなるという問題がある。このため真空度は酸素ラジカルおよび亜鉛原子の平均自由行程と、酸素プラズマセル21および亜鉛るつぼ22と基材101との距離との関係で決定すればよい。
【0024】
酸素プラズマセル21に酸素ガスを酸素ガスボンベ20から200トール前後の圧力で流量制御器を介して送る。酸素プラズマセル21内のプラズマ空間1A内は、高周波電源から供給されるエネルギーによりグロー放電状態となる。プラズマ空間1Aでは、酸素ガスボンベ20から供給される酸素ガスが酸素プラズマ中で生成された酸素ラジカル(O*)や酸素イオン(O+)となり、噴出口に設けられた細孔を通過するときに、酸素イオン(O+)は酸素ラジカル(O*)、酸素ラジカル(O*)は酸素ラジカルのまま基材101方向に噴出する。なお、プラズマ空間1A内の真空度は、基本的にはパッシェンの法則に従い決定すれば良いが、10−2〜10−3トール程度が適当である。
【0025】
図13は、酸化亜鉛薄膜製造装置のドーパンと坩堝13がなく、酸素プラズマセル21と亜鉛坩堝22とを左右に配置した酸化亜鉛薄膜製造装置である。亜鉛坩堝22の固体亜鉛は高温(300℃〜350℃)に加熱され、蒸気亜鉛(亜鉛原子)となり基材ホルダー10に保持された基材101(例えばプラスチック基材)に向かって蒸発していく。亜鉛坩堝の材質は高温で溶融しないものであれば特に材質は限定されないが、熱伝導性がよいこと等を考慮すると、石英ガラスやセラミックスで内面を覆ったモリブデン製の円筒形のものが好ましい。
【0026】
亜鉛るつぼ22から蒸発した亜鉛原子(Zn)と酸素プラズマセル21から噴出する酸素ラジカル(O*)は基材101上において、Zn+O*→ZnOの反応を起こすが、この反応は発熱反応である。これは亜鉛原子と酸素原子から酸化亜鉛を作るときの生成エンタルピーは、−3.16eV/ZnOであるから、2Zn+O2→2Zn+6.32eVの化学反応式が成立する。酸素分子1個を酸素原子2個に分解するのに必要な解離エネルギー1.4eVであるから、O2+1.4eV→2Oとなる。
【0027】
亜鉛原子と酸素原子を反応させてZnOを作るには上記2式をたしあわせて、2Zn+2O→2ZnO+7.72eVとなり、この結果、Zn+O→ZnO+3.86eVの発熱反応式が成立するためである。これにより、従来、基材を400℃以上に加熱し酸化亜鉛薄膜を成膜してきたが、原理的には基材の加熱がなくても酸化亜鉛薄膜は成膜できる。プラスチックのようなフレキシブルな基材に酸化亜鉛薄膜を成膜しようとした場合には、基材の温度をその材料の軟化点温度以下に保持すればよい。
【0028】
基材の温度を所望の温度以下に保持するには次の点について考慮する必要がある。1つは、亜鉛原子を蒸発させるため、亜鉛坩堝22を350℃以上に加熱する必要があり、ここからの輻射熱による基材の温度上昇を制御することである。もう1つは、酸素プラズマセル21からの輻射熱により基材101の温度上昇を制御することである。これらを制御するには、輻射熱により基材が所望の温度以上にならないように、酸素プラズマセル21と基材との距離(X)及び亜鉛るつぼ22と基材との距離(Y)を基材上下機構15により調整すればよい。
【0029】
前述したように、光吸収層3は、例えば、カルコパイライト構造の化合物半導体であるCIGS、すなわちCu(InX,Ga1−X)Se2(0≦X≦1)で形成される。
【0030】
光吸収層3の材料としてはCIGS以外にも、以下の物質により構成することができる。第1に、常温で常温で液相または加熱により液相となる元素、化合物または合金を含む物質である。
【0031】
第2に、カルコゲン化合物(S、Se、Teを含む化合物)である。これには、II−VI化合物のZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTeなど、I−III−VI2族化合物のCuInSe2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)Se2、CuInS2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)(S,Se)2など、I−III3−VI5 族化合物のCuIn3Se5、CuGa3Se5、Cu(In,Ga)3Se5 などが含まれる。
【0032】
第3に、カルコパイライト型構造の化合物および欠陥スタナイト型構造の化合物である。これには、I−III−VI2族化合物のCuInSe2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)Se2、CuInS2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)(S,Se)2など、I−III3−VI5族化合物のCuIn3Se5, CuGa3Se5,Cu(In,Ga)3Se5 などが含まれる。
【0033】
ただし、上の記載において、(In,Ga)、(S,Se)は、それぞれ、(In1−x,Gax)、(S1−y,Sey)(ただし、x=0〜1,y=0〜1)を示す。
【0034】
光吸収層3をCIGS材料で構成する場合の形成方法について簡単に説明しておく。CIGSの製膜方法には、蒸着法、セレン化法、スパッタ法、スクリーン印刷法、MOCVD法、スプレー法などが知られている。この中でも、蒸着法の一種である多源同時蒸着法が用いられるのが、一般的である。
【0035】
多源同時蒸着法の代表的な方法としては、3段階法がある。3段階法は、例えば、J.R.Tuttle,J.S.Ward,A.Duda,T.A.Berens,M.A.Contreras,K.R.Ramanathan,A.L.Tennant,J.Keane,E.D.Cole,K.Emery and R.Noufi:Mat.Res.Soc.Symp.Proc. Vol.426(1996)p.143.に記載されている。この3段階法は、高真空中で最初にIn,Ga,Seを基板温度300℃で同時蒸着し、次に500〜560℃に昇温して、Cu,Seを同時蒸着後、In,Ga,Seをさらに同時蒸着する方法で、禁制帯幅が傾斜したグレーデッドバンドギャップCIGS膜が得られる。
【0036】
3段階法は、膜成長過程でCu過剰なCIGS膜組成とし、相分離した液相Cu2−xSe(x=0〜1)による液相焼結を利用するため、大粒径化が起こり、結晶性に優れたCIGS膜が形成されるという利点がある。
【0037】
以上のような、製造方法を用いて、下部電極4〜n型ZnS系バッファ層2までを形成した後、上記の構成によるMBE装置で、図1のように、i型ZnO系層12とn型ZnO系層11の2層によるZnO系上部電極1を形成した受光素子X1と、従来の方法、すなわち反応性プラズマ蒸着法(Reactive Plasma Deposition:RPD)により、n型ZnS系バッファ層2上に図2のようにZnO系上部電極1のn型ZnO系層を形成した受光素子X2とを比較した。
【0038】
ここで、i型ZnO系層はi型ZnO層とし、n型ZnO系層はn型ZnO層とした。また、n型ZnS系バッファ層は、n型ZnSバッファ層とした。MBE法によって作製された受光素子X1は、成長温度は50℃〜100℃の範囲で、例えば100℃で作製した。そのとき、酸素律速条件(亜鉛フラックス>酸素フラックス)で成膜した。また、n型ZnO層のドナー不純物はGaを用いた。
【0039】
図6は、受光素子X1、X2の光照射時の電流密度(mA/cm2)−バイアス(V)特性を示す。実線は受光素子X1を、破線は受光素子X2を示す。本発明の受光素子X1の方が、バイアスに対する電流密度が一定を保っており、バイアスの上限値も上がっているので、光の検出感度が良いことがわかる。
【0040】
図7は、量子効率の波長依存性を示す。縦軸が量子効率を、横軸が波長(nm)を示す。実線は受光素子X1を、破線は受光素子X2を示す。可視光の下限である400nm〜赤外光の1100nm程度に至るまで、全体的に受光素子X2の方が量子効率が落ちている。
【0041】
さらに、図8、図9は、下地層にn型ZnSバッファ層を用いた場合と、n型CdSバッファ層を用いた場合とで、特性がどのようにかわるかを調べた結果である。
【0042】
図8は、図1又は図2において、n型ZnS系バッファ層2の替わりにn型CdSバッファ層を用い、n型CdSバッファ層上に、図1のように、上部電極をi型ZnO層とn型ZnO層の2層構造にし、前記MBE法によって成長させた受光素子Y1を実線で、上部電極を図2のようにn型ZnO層の1層とし、前記MBE法によって成長させた受光素子Y2を点線で、上部電極を図2のようにn型ZnO層の1層とし、反応性プラズマ蒸着法(RPD)で成長させた受光素子Y3を一点鎖線で示す。
【0043】
図8(a)は、量子効率の波長依存性を示す。縦軸が量子効率を、横軸が波長(nm)を示す。実線の受光素子Y1よりも、破線の受光素子Y2、一点鎖線の受光素子Y3の方が、やや量子効率が高くなっている。図8(b)は、光照射時の電流密度(mA/cm2)−バイアス(V)特性を示す。図8(b)に示すように、受光素子Y1、Y2、Y3の電流密度−バイアス特性には、ほとんど差がなく、これにより、下地層にn型CdSバッファ層を用いた場合は、この下地層の上に形成されるZnO系上部電極の製造方法にかかわらず、n型CdSバッファ層に特にダメージは見られない。
【0044】
一方、図9は、図1又は図2において、n型ZnS系バッファ層2としてn型ZnSバッファ層を用い、n型ZnSバッファ層上に、図1のように、上部電極をi型ZnO層とn型ZnO層の2層構造にし、前記MBE法によって成長させた受光素子Z1を実線で、上部電極を図2のようにn型ZnO層の1層とし、前記MBE法によって成長させた受光素子Z2を点線で、上部電極を図2のようにn型ZnO層の1層とし、反応性プラズマ蒸着法(RPD)で成長させた受光素子Z3を一点鎖線で示す。
【0045】
図9(a)は、量子効率の波長依存性を示す。縦軸が量子効率を、横軸が波長(nm)を示す。実線の受光素子Z1及び破線の受光素子Z2よりも、一点鎖線の受光素子Z3の方が、波長域全般に渡り、量子効率が落ちている。図9(b)は、光照射時の電流密度(mA/cm2)−バイアス(V)特性を示す。図9(b)に示すように、受光素子Z1、Z2と比較して、受光素子Z3のバイアスに対する電流密度の変動が大きく、バイアスの上限値も下がっているので、受光素子として適していないことがわかる。これにより、下地層にn型ZnSバッファ層を用いた場合は、この下地層の上に形成されるZnO系上部電極の製造方法が、上記MBE法によるものだと問題ないが、反応性プラズマ蒸着法(RPD)であると、プラズマによって、n型ZnSバッファ層にダメージが発生すると考えられる。
【0046】
図10は、ZnO/CdS(バッファ層)/CIGS(光吸収層)/Mo(下部電極)の構造のTEM(透過型電子顕微鏡)による写真を示す。Moが膜厚600nm、CIGSが膜厚1.7μm、CdSが膜厚50nm、Gaドープのn型ZnO層が膜厚500nmで形成されている。これは、Gaドープのn型ZnO層を反応性プラズマ蒸着法により作製したものである。
【0047】
図11は、ZnO/ZnS(バッファ層)/CIGS(光吸収層)/Mo(下部電極)の構造のTEMによる写真を示す。Moが膜厚600nm、CIGSが膜厚1.7μm、CdSが膜厚50nm、Gaドープのn型ZnO層が膜厚500nmで形成されている。これは、Gaドープのn型ZnO層を前記MBE法により作製したものである。
【0048】
以上のように、図1、2の受光素子に、ZnO系の上部電極1を作製する場合は、前記MBE法が良いということがわかったが、MBE法で作製した場合の、ZnO系上部電極の特性を評価してみた。
【0049】
まず、シリコン基板上にGaドープn型ZnOを上記MBE法で形成した。構造は、Gaドープn型ZnO(膜厚750nm)/Si基板(膜厚750μm)となる。Gaの不純物濃度は、1×1020/cm3である。この構造のGaドープn型ZnOに対し、EPMA分析を行なった。その結果を、図3に示す。
【0050】
一方、シリコン基板上にAlドープn型ZnOをRFスパッタ法で形成した。構造は、Alドープn型ZnO(膜厚350nm)/Si基板(膜厚750μm)となる。Alの不純物濃度は、1×1020/cm3である。この構造のAlドープn型ZnOに対し、EPMA分析を行なった。その結果を、図4に示す。
【0051】
図4では、Zn、O、ドーパントAl等の元素に混じって、Ar元素成分が現れている。すなわち、通常、RFスパッタリングは、アルゴンガスにより行なわれるため、Ar元素が混じると考えられる。一方、図3のMBE法では、Ar元素成分は現れていない。
【0052】
次に、図3で説明した構造、すなわち、Gaドープn型ZnO(膜厚750nm)/Si基板(膜厚750μm)の構造で、Gaの不純物濃度を1×1020/cm3とし、Gaドープn型ZnOをMBE法で作製した場合と、RPD法で作製した場合とで比較してみたのが図5である。比較はラマン分光測定によって行なった。いずれも2回試料作製を行なって測定した。縦軸はラマン散乱光強度(cps)を、横軸はラマンシフト(cm−1)を示す。
【0053】
RPDによって作製したGaドープn型ZnOの方は、ラマン散乱光強度の先端のピーク幅は、ラマンシフト400〜600(cm−1)程度となっているが、MBEによって作製されたGaドープn型ZnOの方は、ラマン散乱光強度の先端のピーク幅は、ラマンシフト400〜500(cm−1)程度となっており、違いが見られる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の受光素子の構成は、太陽電池や、セキュリティカメラや、個人認証カメラ、イメージセンサ、幅広い波長域における光検出装置など、光センサとして広範囲に適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 ZnO系上部電極
2 n型ZnS系バッファ層
3 光吸収層
4 下部電極
11 ZnO系層
12 i型ZnO系層
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収層の上側に形成されたZnO系電極を用いた受光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる、カルコパイライト構造の半導体薄膜であるCuInSe2(CIS系薄膜)、或いはこれにGaを固溶したCu(In,Ga)Se2(CIGS系薄膜)を光吸収層に用いた薄膜太陽電池は、高いエネルギー変換効率を示し、光照射などによる効率の劣化が少ないという利点を有している。
【0003】
以上のように、カルコパイライト構造の半導体薄膜を光吸収層とし、この光吸収層で光電変換を行い、電気的信号として取り出す受光素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この受光素子では、下部電極上に、光吸収層を形成し、光吸収層上にn型バッファ層を積層し、n型バッファ層上に透明電極層を形成している。このように、光吸収層とn型バッファ層とでpn接合を構成し、このpn接合領域で光の検出を行っている。
【0004】
ここで、n型バッファ層には硫化物が用いられており、n型CdS、n型ZnS、n型Zn(O,OH)S、n型InS等がある。また、硫化物以外にも、ZnSe、ZnMgO等のバッファ層が実験室レベルでは使用されている。作製方法としては、蒸着法や化学析出(Chemical bath deposition:CBD)法がある。n型CdSバッファ層は、CBD法を用いて作製したCdS膜で最も効率的な太陽電池が作製されているが、Cdを用いるため、環境汚染に繋がる恐れがあり、処理費用等が高くなる。
【0005】
そこで、同じCBD法を用いてCdS膜に近い高効率な薄膜太陽電池を作製できるn型Zn(O,OH)Sバッファ層が良く用いられる。ZnS系(Eg3.4eV)は、CdS(Eg2.4eV)と比較して、バンドギャップが大きいため、短波長側の量子効率が改善するという特徴を有する。
【0006】
一方、n型ZnSバッファ層上に形成される透明電極層には、ZnO電極層やITO(酸化インジウムスズ)電極層が知られている。しかし、インジウムは高価であるというだけではなく、資源枯渇の問題を抱えており他の材料への転換が急務である。そこで、n型Zn(O,OH)Sバッファ層上に、安価な亜鉛(Zn)を用いたZnO電極層、もしくはMgを含有したZnMgO電極層という構成が注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−259872
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、n型Zn(O,OH)Sバッファ層上にZnO電極層という構成を用いた場合、次のような問題がある。バッファ層上に形成されるZnO電極を作製する場合は、RFプラズマを用いて酸化亜鉛をスパッタすることにより形成するか、MOCVD(有機金属化学気相成長法)により形成している。RFプラズマによる製造方法の場合は、プラズマ及びスパッタのダメージによるn型Zn(O,OH)Sバッファ層の損傷が発生する。また、n型Zn(O,OH)Sバッファ層の損傷は、n型CdSをバッファ層に用いたときよりも非常に大きい。
【0009】
一方、MOCVDによりZnO電極を形成する方法では、
大量の廃ガスが発生し環境負荷が大きい
という問題があった。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、環境負荷を増大させず、かつZnS系バッファ層にダメージを与えずに、ZnO系電極を形成した受光素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の受光素子は、下部電極と、前記下部電極上に配置された光吸収層と、前記光吸収層上に配置されたZnS系バッファ層と、前記ZnS系バッファ層上に配置されたZnO系電極層とを備え、前記ZnO系電極層は、Ar成分が含まれていないことを主要な特徴とする。
【0012】
また、本発明の受光素子は、下部電極と、前記下部電極上に配置された光吸収層と、前記光吸収層上に配置されたZnS系バッファ層と、前記ZnS系バッファ層上に配置されたZnO系電極層とを備え、前記ZnO系電極層は、ラマン分光法によるラマン散乱強度のピークがラマンシフト400/cm−1〜500/cm−1の間に存在するように形成されていることも主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ZnS系バッファ層上に形成されたZnO系電極層が低温MBE法で作製されているので、ZnS系バッファ層にダメージを与えない。低温MBE法による作製の結果として、ZnO系電極層は、Ar成分が含まれていないように形成されている。また、ZnO系電極層は、ラマン分光法によるラマン散乱強度のピークがラマンシフト400/cm−1〜500/cm−1の間に存在するように形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の受光素子の基本的構造例を示す断面図である。
【図2】本発明の受光素子の基本的構造例を示す断面図である。
【図3】MBE法によって作製されたZnO層のEPMA分析結果を示す図である。
【図4】スパッタ法によって作製されたZnO層のEPMA分析結果を示す図である。
【図5】MBE法により作製されたZnO層とRPD法により作製されたZnO層とをラマン分光分析で比較した図である。
【図6】ZnSバッファ層を用い、ZnO電極層をMBEで作製した場合と、RPDで作製した場合との比較を電流密度−バイアス特性で示す図である。
【図7】ZnSバッファ層を用い、ZnO電極層をMBEで作製した場合と、RPDで作製した場合との比較を量子効率の波長依存性で示す図である。
【図8】CdSバッファ層を用い、ZnO電極層をMBE、RPDで各々作製した場合の量子効率の波長依存性、電流密度−バイアス特性を示す図である。
【図9】ZnSバッファ層を用い、ZnO電極層をMBE、RPDで各々作製した場合の量子効率の波長依存性、電流密度−バイアス特性を示す図である。
【図10】ZnSバッファ層の替わりにCdSバッファ層を用いて、受光素子を作製したときのTEM写真を示す図である。
【図11】ZnSバッファ層を用いて、図2の受光素子を作製したときのTEM写真を示す図である
【図12】低温MBE装置の全体構成を示す図である。
【図13】低温MBE装置の成膜室を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。図面は模式的なものであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0016】
図1は、受光素子の基本的構造を示す。下部電極4上に、光吸収層3、n型ZnS系バッファ層2、上部電極1が順に積層されている。ZnO系上部電極1は、i型ZnO系層12、n型ZnO系層11の2層構造で構成されている。i型ZnO系層12は、意図的なドーピングを行なわない、いわゆるアンドープZnO系層を意味する。このように、n型ZnO系層11の下にi型ZnO系層12を設けることにより、下地の光吸収層3に生じるボイドやピンホールを半絶縁層のi型ZnO系層12で埋め込むと共に、リークを防ぐことができる。
【0017】
ただし、これに限るものではなく、図2に示すように、i型ZnO系層12とn型ZnO系層11からなるZnO系上部電極1を、n型ZnO系層11のみとすることもできる。また、ZnS系層とは、ZnS又はZnSをベースにして他の元素を含む化合物から構成されるものであり、ZnSの化合物としては、例えば、Zn(O,OH)S等がある。一方、ZnO系層とは、ZnO又はZnOをベースにして他の元素を含む化合物から構成されるものであり、ZnOの化合物としては、ZnMgO等がある。
【0018】
光吸収層3は、カルコパイライト構造の化合物半導体として、Cu(InX,Ga1−X)Se2(0≦X≦1)で形成される。
【0019】
また、下部電極層4としては、例えば、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、およびタングステン(W)などを使用することができる。
【0020】
さて、ここで、下部電極4上に、光吸収層3、n型ZnS系バッファ層2を順に積層した後、ZnO系上部電極1をMBE法で作製して見た。MBE法は、分子ビームエピタキシャル成長法(Molecular Beam Epitaxy)と呼ばれるもので、低温で成膜できるという利点があるため、熱に弱い下地層があっても、その下地層上に成膜できる。また、坩堝内から放出される分子ビーム線により蒸着を行なうため、RFスパッタ等に比べて、下地層への影響が軽微である。また、運動エネルギー的に比較してみても、RFスパッタやイオンプレーティング等と比べても最も低いエネルギーを示す。
【0021】
そこで、例えば再公表2007−020729号に示されるようなMBE法を用いて、ZnO系薄膜を形成する。MBE法による酸化亜鉛薄膜製造装置の全体構成を図12に、成膜室の拡大図を図13に再掲する。
【0022】
酸化亜鉛薄膜製造装置100は、基本的には成膜室1A、基材ホルダー10、酸素プラズマセル21、亜鉛坩堝22から構成される。酸化亜鉛薄膜の導電性をより向上させたい場合は、ドーパント(不純物)、例えばアルミニウム、ガリウム、インジウム、塩素等をドーパント用坩堝13に入れて、酸化亜鉛薄膜を成膜する際に蒸発させドープする。
【0023】
成膜室1Aは真空ポンプにより真空状態に保持する。成膜室の真空度は、理想的には超真空(10−10トール)であるが、真空度を高くするに比例して装置のコストが高くなるという問題がある。このため真空度は酸素ラジカルおよび亜鉛原子の平均自由行程と、酸素プラズマセル21および亜鉛るつぼ22と基材101との距離との関係で決定すればよい。
【0024】
酸素プラズマセル21に酸素ガスを酸素ガスボンベ20から200トール前後の圧力で流量制御器を介して送る。酸素プラズマセル21内のプラズマ空間1A内は、高周波電源から供給されるエネルギーによりグロー放電状態となる。プラズマ空間1Aでは、酸素ガスボンベ20から供給される酸素ガスが酸素プラズマ中で生成された酸素ラジカル(O*)や酸素イオン(O+)となり、噴出口に設けられた細孔を通過するときに、酸素イオン(O+)は酸素ラジカル(O*)、酸素ラジカル(O*)は酸素ラジカルのまま基材101方向に噴出する。なお、プラズマ空間1A内の真空度は、基本的にはパッシェンの法則に従い決定すれば良いが、10−2〜10−3トール程度が適当である。
【0025】
図13は、酸化亜鉛薄膜製造装置のドーパンと坩堝13がなく、酸素プラズマセル21と亜鉛坩堝22とを左右に配置した酸化亜鉛薄膜製造装置である。亜鉛坩堝22の固体亜鉛は高温(300℃〜350℃)に加熱され、蒸気亜鉛(亜鉛原子)となり基材ホルダー10に保持された基材101(例えばプラスチック基材)に向かって蒸発していく。亜鉛坩堝の材質は高温で溶融しないものであれば特に材質は限定されないが、熱伝導性がよいこと等を考慮すると、石英ガラスやセラミックスで内面を覆ったモリブデン製の円筒形のものが好ましい。
【0026】
亜鉛るつぼ22から蒸発した亜鉛原子(Zn)と酸素プラズマセル21から噴出する酸素ラジカル(O*)は基材101上において、Zn+O*→ZnOの反応を起こすが、この反応は発熱反応である。これは亜鉛原子と酸素原子から酸化亜鉛を作るときの生成エンタルピーは、−3.16eV/ZnOであるから、2Zn+O2→2Zn+6.32eVの化学反応式が成立する。酸素分子1個を酸素原子2個に分解するのに必要な解離エネルギー1.4eVであるから、O2+1.4eV→2Oとなる。
【0027】
亜鉛原子と酸素原子を反応させてZnOを作るには上記2式をたしあわせて、2Zn+2O→2ZnO+7.72eVとなり、この結果、Zn+O→ZnO+3.86eVの発熱反応式が成立するためである。これにより、従来、基材を400℃以上に加熱し酸化亜鉛薄膜を成膜してきたが、原理的には基材の加熱がなくても酸化亜鉛薄膜は成膜できる。プラスチックのようなフレキシブルな基材に酸化亜鉛薄膜を成膜しようとした場合には、基材の温度をその材料の軟化点温度以下に保持すればよい。
【0028】
基材の温度を所望の温度以下に保持するには次の点について考慮する必要がある。1つは、亜鉛原子を蒸発させるため、亜鉛坩堝22を350℃以上に加熱する必要があり、ここからの輻射熱による基材の温度上昇を制御することである。もう1つは、酸素プラズマセル21からの輻射熱により基材101の温度上昇を制御することである。これらを制御するには、輻射熱により基材が所望の温度以上にならないように、酸素プラズマセル21と基材との距離(X)及び亜鉛るつぼ22と基材との距離(Y)を基材上下機構15により調整すればよい。
【0029】
前述したように、光吸収層3は、例えば、カルコパイライト構造の化合物半導体であるCIGS、すなわちCu(InX,Ga1−X)Se2(0≦X≦1)で形成される。
【0030】
光吸収層3の材料としてはCIGS以外にも、以下の物質により構成することができる。第1に、常温で常温で液相または加熱により液相となる元素、化合物または合金を含む物質である。
【0031】
第2に、カルコゲン化合物(S、Se、Teを含む化合物)である。これには、II−VI化合物のZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTeなど、I−III−VI2族化合物のCuInSe2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)Se2、CuInS2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)(S,Se)2など、I−III3−VI5 族化合物のCuIn3Se5、CuGa3Se5、Cu(In,Ga)3Se5 などが含まれる。
【0032】
第3に、カルコパイライト型構造の化合物および欠陥スタナイト型構造の化合物である。これには、I−III−VI2族化合物のCuInSe2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)Se2、CuInS2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)(S,Se)2など、I−III3−VI5族化合物のCuIn3Se5, CuGa3Se5,Cu(In,Ga)3Se5 などが含まれる。
【0033】
ただし、上の記載において、(In,Ga)、(S,Se)は、それぞれ、(In1−x,Gax)、(S1−y,Sey)(ただし、x=0〜1,y=0〜1)を示す。
【0034】
光吸収層3をCIGS材料で構成する場合の形成方法について簡単に説明しておく。CIGSの製膜方法には、蒸着法、セレン化法、スパッタ法、スクリーン印刷法、MOCVD法、スプレー法などが知られている。この中でも、蒸着法の一種である多源同時蒸着法が用いられるのが、一般的である。
【0035】
多源同時蒸着法の代表的な方法としては、3段階法がある。3段階法は、例えば、J.R.Tuttle,J.S.Ward,A.Duda,T.A.Berens,M.A.Contreras,K.R.Ramanathan,A.L.Tennant,J.Keane,E.D.Cole,K.Emery and R.Noufi:Mat.Res.Soc.Symp.Proc. Vol.426(1996)p.143.に記載されている。この3段階法は、高真空中で最初にIn,Ga,Seを基板温度300℃で同時蒸着し、次に500〜560℃に昇温して、Cu,Seを同時蒸着後、In,Ga,Seをさらに同時蒸着する方法で、禁制帯幅が傾斜したグレーデッドバンドギャップCIGS膜が得られる。
【0036】
3段階法は、膜成長過程でCu過剰なCIGS膜組成とし、相分離した液相Cu2−xSe(x=0〜1)による液相焼結を利用するため、大粒径化が起こり、結晶性に優れたCIGS膜が形成されるという利点がある。
【0037】
以上のような、製造方法を用いて、下部電極4〜n型ZnS系バッファ層2までを形成した後、上記の構成によるMBE装置で、図1のように、i型ZnO系層12とn型ZnO系層11の2層によるZnO系上部電極1を形成した受光素子X1と、従来の方法、すなわち反応性プラズマ蒸着法(Reactive Plasma Deposition:RPD)により、n型ZnS系バッファ層2上に図2のようにZnO系上部電極1のn型ZnO系層を形成した受光素子X2とを比較した。
【0038】
ここで、i型ZnO系層はi型ZnO層とし、n型ZnO系層はn型ZnO層とした。また、n型ZnS系バッファ層は、n型ZnSバッファ層とした。MBE法によって作製された受光素子X1は、成長温度は50℃〜100℃の範囲で、例えば100℃で作製した。そのとき、酸素律速条件(亜鉛フラックス>酸素フラックス)で成膜した。また、n型ZnO層のドナー不純物はGaを用いた。
【0039】
図6は、受光素子X1、X2の光照射時の電流密度(mA/cm2)−バイアス(V)特性を示す。実線は受光素子X1を、破線は受光素子X2を示す。本発明の受光素子X1の方が、バイアスに対する電流密度が一定を保っており、バイアスの上限値も上がっているので、光の検出感度が良いことがわかる。
【0040】
図7は、量子効率の波長依存性を示す。縦軸が量子効率を、横軸が波長(nm)を示す。実線は受光素子X1を、破線は受光素子X2を示す。可視光の下限である400nm〜赤外光の1100nm程度に至るまで、全体的に受光素子X2の方が量子効率が落ちている。
【0041】
さらに、図8、図9は、下地層にn型ZnSバッファ層を用いた場合と、n型CdSバッファ層を用いた場合とで、特性がどのようにかわるかを調べた結果である。
【0042】
図8は、図1又は図2において、n型ZnS系バッファ層2の替わりにn型CdSバッファ層を用い、n型CdSバッファ層上に、図1のように、上部電極をi型ZnO層とn型ZnO層の2層構造にし、前記MBE法によって成長させた受光素子Y1を実線で、上部電極を図2のようにn型ZnO層の1層とし、前記MBE法によって成長させた受光素子Y2を点線で、上部電極を図2のようにn型ZnO層の1層とし、反応性プラズマ蒸着法(RPD)で成長させた受光素子Y3を一点鎖線で示す。
【0043】
図8(a)は、量子効率の波長依存性を示す。縦軸が量子効率を、横軸が波長(nm)を示す。実線の受光素子Y1よりも、破線の受光素子Y2、一点鎖線の受光素子Y3の方が、やや量子効率が高くなっている。図8(b)は、光照射時の電流密度(mA/cm2)−バイアス(V)特性を示す。図8(b)に示すように、受光素子Y1、Y2、Y3の電流密度−バイアス特性には、ほとんど差がなく、これにより、下地層にn型CdSバッファ層を用いた場合は、この下地層の上に形成されるZnO系上部電極の製造方法にかかわらず、n型CdSバッファ層に特にダメージは見られない。
【0044】
一方、図9は、図1又は図2において、n型ZnS系バッファ層2としてn型ZnSバッファ層を用い、n型ZnSバッファ層上に、図1のように、上部電極をi型ZnO層とn型ZnO層の2層構造にし、前記MBE法によって成長させた受光素子Z1を実線で、上部電極を図2のようにn型ZnO層の1層とし、前記MBE法によって成長させた受光素子Z2を点線で、上部電極を図2のようにn型ZnO層の1層とし、反応性プラズマ蒸着法(RPD)で成長させた受光素子Z3を一点鎖線で示す。
【0045】
図9(a)は、量子効率の波長依存性を示す。縦軸が量子効率を、横軸が波長(nm)を示す。実線の受光素子Z1及び破線の受光素子Z2よりも、一点鎖線の受光素子Z3の方が、波長域全般に渡り、量子効率が落ちている。図9(b)は、光照射時の電流密度(mA/cm2)−バイアス(V)特性を示す。図9(b)に示すように、受光素子Z1、Z2と比較して、受光素子Z3のバイアスに対する電流密度の変動が大きく、バイアスの上限値も下がっているので、受光素子として適していないことがわかる。これにより、下地層にn型ZnSバッファ層を用いた場合は、この下地層の上に形成されるZnO系上部電極の製造方法が、上記MBE法によるものだと問題ないが、反応性プラズマ蒸着法(RPD)であると、プラズマによって、n型ZnSバッファ層にダメージが発生すると考えられる。
【0046】
図10は、ZnO/CdS(バッファ層)/CIGS(光吸収層)/Mo(下部電極)の構造のTEM(透過型電子顕微鏡)による写真を示す。Moが膜厚600nm、CIGSが膜厚1.7μm、CdSが膜厚50nm、Gaドープのn型ZnO層が膜厚500nmで形成されている。これは、Gaドープのn型ZnO層を反応性プラズマ蒸着法により作製したものである。
【0047】
図11は、ZnO/ZnS(バッファ層)/CIGS(光吸収層)/Mo(下部電極)の構造のTEMによる写真を示す。Moが膜厚600nm、CIGSが膜厚1.7μm、CdSが膜厚50nm、Gaドープのn型ZnO層が膜厚500nmで形成されている。これは、Gaドープのn型ZnO層を前記MBE法により作製したものである。
【0048】
以上のように、図1、2の受光素子に、ZnO系の上部電極1を作製する場合は、前記MBE法が良いということがわかったが、MBE法で作製した場合の、ZnO系上部電極の特性を評価してみた。
【0049】
まず、シリコン基板上にGaドープn型ZnOを上記MBE法で形成した。構造は、Gaドープn型ZnO(膜厚750nm)/Si基板(膜厚750μm)となる。Gaの不純物濃度は、1×1020/cm3である。この構造のGaドープn型ZnOに対し、EPMA分析を行なった。その結果を、図3に示す。
【0050】
一方、シリコン基板上にAlドープn型ZnOをRFスパッタ法で形成した。構造は、Alドープn型ZnO(膜厚350nm)/Si基板(膜厚750μm)となる。Alの不純物濃度は、1×1020/cm3である。この構造のAlドープn型ZnOに対し、EPMA分析を行なった。その結果を、図4に示す。
【0051】
図4では、Zn、O、ドーパントAl等の元素に混じって、Ar元素成分が現れている。すなわち、通常、RFスパッタリングは、アルゴンガスにより行なわれるため、Ar元素が混じると考えられる。一方、図3のMBE法では、Ar元素成分は現れていない。
【0052】
次に、図3で説明した構造、すなわち、Gaドープn型ZnO(膜厚750nm)/Si基板(膜厚750μm)の構造で、Gaの不純物濃度を1×1020/cm3とし、Gaドープn型ZnOをMBE法で作製した場合と、RPD法で作製した場合とで比較してみたのが図5である。比較はラマン分光測定によって行なった。いずれも2回試料作製を行なって測定した。縦軸はラマン散乱光強度(cps)を、横軸はラマンシフト(cm−1)を示す。
【0053】
RPDによって作製したGaドープn型ZnOの方は、ラマン散乱光強度の先端のピーク幅は、ラマンシフト400〜600(cm−1)程度となっているが、MBEによって作製されたGaドープn型ZnOの方は、ラマン散乱光強度の先端のピーク幅は、ラマンシフト400〜500(cm−1)程度となっており、違いが見られる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の受光素子の構成は、太陽電池や、セキュリティカメラや、個人認証カメラ、イメージセンサ、幅広い波長域における光検出装置など、光センサとして広範囲に適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 ZnO系上部電極
2 n型ZnS系バッファ層
3 光吸収層
4 下部電極
11 ZnO系層
12 i型ZnO系層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極と、
前記下部電極上に配置された光吸収層と、
前記光吸収層上に配置されたZnS系バッファ層と、
前記ZnS系バッファ層上に配置されたZnO系電極層とを備え、
前記ZnO系電極層は、Ar成分が含まれていないことを特徴とする受光素子。
【請求項2】
下部電極と、
前記下部電極上に配置された光吸収層と、
前記光吸収層上に配置されたZnS系バッファ層と、
前記ZnS系バッファ層上に配置されたZnO系電極層とを備え、
前記ZnO系電極層は、ラマン分光法によるラマン散乱強度のピークがラマンシフト400/cm−1〜500/cm−1の間に存在するように形成されていることを特徴とする受光素子。
【請求項3】
前記ZnO系電極層は、n型ZnO系層で構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の受光素子。
【請求項4】
前記ZnO系電極層は、アンドープZnO系層上にn型ZnO系層が積層された多層構造となっていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の受光素子。
【請求項1】
下部電極と、
前記下部電極上に配置された光吸収層と、
前記光吸収層上に配置されたZnS系バッファ層と、
前記ZnS系バッファ層上に配置されたZnO系電極層とを備え、
前記ZnO系電極層は、Ar成分が含まれていないことを特徴とする受光素子。
【請求項2】
下部電極と、
前記下部電極上に配置された光吸収層と、
前記光吸収層上に配置されたZnS系バッファ層と、
前記ZnS系バッファ層上に配置されたZnO系電極層とを備え、
前記ZnO系電極層は、ラマン分光法によるラマン散乱強度のピークがラマンシフト400/cm−1〜500/cm−1の間に存在するように形成されていることを特徴とする受光素子。
【請求項3】
前記ZnO系電極層は、n型ZnO系層で構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の受光素子。
【請求項4】
前記ZnO系電極層は、アンドープZnO系層上にn型ZnO系層が積層された多層構造となっていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の受光素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−204477(P2012−204477A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65967(P2011−65967)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】
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