説明

口腔内装着具

【課題】遺体の口腔内に容易に装着でき、遺体の容貌を保持でき、火葬後に残留物や有毒ガスの発生が無い、口腔内装着具を提供する。
【解決手段】パルプモールド製の上装着体1と下装着体2から成る口腔内装着具。上装着体1は、上歯列41及び上歯肉51の外面を覆い得る上縦板部11と、上縦板部11の下端から内方へ延設された上横板部15とを有する。下装着体2は、下歯列42及び下歯肉52の外面を覆い得る下縦板部21と、下縦板部21の上端から内方へ延設された下横板部25とを有する。上横板部15は、筋状の上凹部154aと筋状の上凸部154bを有し、下横板部25は、筋状の下凹部254bと筋状の下凸部254cを有する。上装着体1と下装着体2は、上凹部154aと非前歯上端面部位251bが当接されるとともに上凸部154bと下凹部254bが当接されることにより幅方向で位置決めされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺体の口腔内に装着して容貌を整える口腔内装着具に関する。詳しくは、火葬後に残留せず、有毒ガスも生じない口腔内装着具に関する。
【背景技術】
【0002】
人口歯と義歯床とから成る義歯が提供されている。人口歯は、例えば、陶器等で製造され、義歯床は、例えば、MMA(メチルメタクリレート)等の合成樹脂で製造される。また、部分義歯の場合、さらに、義歯床を周辺の歯に掛止するための金属製のバネ(クラスプ)が用いられる。
【0003】
義歯や部分義歯を遺体とともに火葬すると、合成樹脂製の義歯床が溶けて、骨や火葬炉への焼付きや損傷、ダイオキシン等の有毒ガスの発生、酸素不足による不完全燃焼等の問題が生じ易い。部分義歯では、さらに、クラスプが焼け残る場合がある。
【0004】
このため、火葬前に義歯や部分義歯を外すのであるが、そうすると、口が落ち窪んで頬がこけ、当人の本来の容貌からかけ離れたものとなり、その結果、弔う者に違和感を与える虞がある。
【0005】
このような問題を解決する装着具が種々提案もしくは提供されている。例えば、特開2006−149458号公報(特許文献1)には、遺体の口が開いた場合でも自然な歯と歯茎が表れるようにした口内挿入具が開示されている。なお、同公報の口内挿入具は、多品種少量生産に向けたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−149458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、一般的な大きさの遺体であれば、その口腔内に容易に装着でき、装着後から火葬までの間は口が落ち窪むことのないように遺体の容貌を保持でき、火葬後に残留物が無く、また、有毒ガスの発生も無い、口腔内装着具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成を、下記[1]〜[3]に記す。なお、この項([課題を解決するための手段])と次項([発明の効果])に於いて、符号は理解を容易にするために付したものであり、本発明を符号の構成に限定する趣旨ではない。
[1]構成1
パルプモールド製の上装着体1と下装着体2から成り、遺体の口腔内に装着して容貌を整える口腔内装着具であって、
前記上装着体1は、装着状態で上歯列41及びその根元の上歯肉51の外面を覆い得るように前部から両奥部へ向けて湾曲形成された上縦板部11と、該上縦板部11の下端から上歯列41の下端面に沿う下端面部位151を経て硬口蓋3aに沿う硬口蓋部位153に至るように曲面形状を成して内方へ延設された上横板部15とを有し、
前記下装着体2は、装着状態で下歯列42及びその根元の下歯肉52の外面を覆い得るように前部から両奥部へ向けて湾曲形成された下縦板部21と、該下縦板部21の上端から下歯列42の上端面に沿う上端面部位251を経て舌6の下面に沿う舌下面部位256に至るように曲面形状を成して内方へ延設された下横板部25とを有し、
前記上横板部15は、前記下端面部位151の中で非前歯の下端面に沿う部位である非前歯下端面部位151bと前記硬口蓋部位153との間に、上方へ窪む筋状の上凹部154aと該筋状の上凹部154aに沿って形成された下方へ突出する筋状の上凸部154bを有し、
前記下横板部25は、前記上端面部位251の中で非前歯の上端面に沿う部位である非前歯上端面部位251bと前記舌下面部位256との間に、下方へ窪む筋状の下凹部254bと該筋状の下凹部254bに沿って形成された上方へ突出する筋状の下凸部254cを有し、
前記上装着体1と下装着体2は、前記上凹部154aと前記非前歯上端面部位251bが当接されるとともに前記上凸部154bと前記下凹部254bが当接されることにより幅方向で位置決めされる、
ことを特徴とする口腔内装着具。
【0009】
[2]構成2
構成1に於いて、
前記上装着体1と下装着体2は、前記下縦板部21の上端縁210が、前記下端面部位151の中で前歯の下端面に沿う部位である前歯下端面部位151aにより係止されることにより、前後方向で位置決めされる、
ことを特徴とする口腔内装着具。
【0010】
[3]構成3
構成1又は2に於いて、
前記上縦板部11の前部外面は上前歯の外面形状に沿う凹凸を有し、
前記下縦板部21の前部外面は下前歯の外面形状に沿う凹凸を有する、
ことを特徴とする口腔内装着具。
【発明の効果】
【0011】
構成1は、パルプモールド製の上装着体1と下装着体2から成り、遺体の口腔内に装着して容貌を整える口腔内装着具であって、前記上装着体1は、装着状態で上歯列41及びその根元の上歯肉51の外面を覆い得るように前部から両奥部へ向けて湾曲形成された上縦板部11と、該上縦板部11の下端から上歯列41の下端面に沿う下端面部位151を経て硬口蓋3aに沿う硬口蓋部位153に至るように曲面形状を成して内方へ延設された上横板部15とを有し、前記下装着体2は、装着状態で下歯列42及びその根元の下歯肉52の外面を覆い得るように前部から両奥部へ向けて湾曲形成された下縦板部21と、該下縦板部21の上端から下歯列42の上端面に沿う上端面部位251を経て舌6の下面に沿う舌下面部位256に至るように曲面形状を成して内方へ延設された下横板部25とを有し、前記上横板部15は、前記下端面部位151の中で非前歯の下端面に沿う部位である非前歯下端面部位151bと前記硬口蓋部位153との間に、上方へ窪む筋状の上凹部154aと該筋状の上凹部154aに沿って形成された下方へ突出する筋状の上凸部154bを有し、前記下横板部25は、前記上端面部位251の中で非前歯の上端面に沿う部位である非前歯上端面部位251bと前記舌下面部位256との間に、下方へ窪む筋状の下凹部254bと該筋状の下凹部254bに沿って形成された上方へ突出する筋状の下凸部254cを有し、前記上装着体1と下装着体2は、前記上凹部154aと前記非前歯上端面部位251bが当接されるとともに前記上凸部154bと前記下凹部254bが当接されることにより幅方向で位置決めされることを特徴とする口腔内装着具であるため、遺体への装着時の位置決めが容易であり、遺体の容貌を保つことができ、火葬後に異物を残したり有害ガスを発生したりすることのない装着具を提供することができる。
【0012】
構成2は、構成1に於いて、前記上装着体1と下装着体2は、前記下縦板部21の上端縁210が、前記下端面部位151の中で前歯の下端面に沿う部位である前歯下端面部位151aにより係止されることにより、前後方向で位置決めされることを特徴とする口腔内装着具であるため、遺体への装着時の位置決めが構成1よりも更に容易である。
構成3は、構成1又は2に於いて、前記上縦板部11の前部外面は上前歯の外面形状に沿う凹凸を有し、前記下縦板部21の前部外面は下前歯の外面形状に沿う凹凸を有することを特徴とする口腔内装着具であるため、遺体の口が若干開いた場合でも、遺体の容貌を過度に損なうことがない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】上装着体1と下装着体2を組み合わせた状態を示し、(a)は(d)内A−A線断面図、(b)は(c)内B−B線端面図、(c)は上面図、(d)は正面図、(e)は斜め上から見た斜視図、(f)は右側面図である。
【図2】上装着体1を示し、(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は上面図、(d)は(c)内D−D線端面図、(e)は(b)内E−E線断面図、(f)は斜め下から見た斜視図である。
【図3】下装着体2を示し、(a)は(d)内A−A線断面図、(b)は(c)内B−B線端面図、(c)は上面図、(d)は正面図、(e)は斜め上から見た斜視図、(f)は右側面図である。
【図4】口腔内を図解する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図示の口腔内装着具は、遺体の口腔内に装着することにより、火葬までの間、遺体の容貌を生前の如くに保つための器具であり、パルプモールド製の上装着体1と、同じくパルプモールド製の下装着体2から成る。即ち、古紙等を水に溶解して成るパルプ溶液を、それぞれ上装着体1や下装着体2に対応する所定の型で抄き上げ、乾燥させた後、プレスして得た上装着体1と下装着体2から成る。なお、口腔内に装着して火葬までの間、強度を保持する必要があるため、撥水剤及び紙力剤等を、適宜、パルプ溶液に添加しておいてもよい。
【0015】
前記上装着体1は、上縦板部11と、上横板部15と、から成る。
ここで、上縦板部11は、遺体への装着状態に於いて上歯列41及びその根元の上歯肉51の外面を覆い得るように、前部(前歯及びその根元の歯肉に対応する部位)から、両奥部(奥歯及びそれらの根元の歯肉に対応する部位)へ向けて、湾曲形成されている。なお、上縦板部11の高さは、装着時の容易さを考慮して、奥側ほど低くなるように設定されている。
【0016】
また、上横板部15は、上縦板部11の下端から上歯列41の下端面に沿う下端面部位151を経て硬口蓋3aに沿う硬口蓋部位153に至るように、曲面形状で、内方(湾曲する上縦板部11の内側方向)へ延設されている。なお、上横板部15の奥行きは、装着時の容易さを考慮して、軟口蓋までは至らない程度に抑えられている。
【0017】
前記下装着体2は、下縦板部21と、下横板部25と、から成る。
ここで、下縦板部21は、遺体への装着状態に於いて下歯列42及びその根元の下歯肉52の外面を覆い得るように、前部(前歯及びその根元の歯肉に対応する部位)から、両奥部(奥歯及びそれらの根元の歯肉に対応する部位)へ向けて、湾曲形成されている。なお、下縦板部21の高さもまた、上縦板部11と同様に、装着時の容易さを考慮して、奥側ほど低くなるように設定されている。
【0018】
また、下横板部25は、下縦板部21の上端から下歯列42の上端面に沿う上端面部位251を経て舌6の下面に沿う舌下面部位256に至るように、曲面形状で、内方(湾曲する下縦板部21の内側方向)へ延設されている。なお、下横板部25の奥行きは、装着を可能とするために、適宜に短縮されている。言い換えれば、下横板部25の奥行き側の先端部が、舌6の付け根に当接しない程度の長さに設定されている。
【0019】
前記上装着体1の上横板部15は、上縦板部11の下端に連なる下端面部位151の中で、非前歯(奥歯及び奥歯寄りの歯)の下端面に沿う部位である非前歯下端面部位151bと、硬口蓋3aに沿う部位である硬口蓋部位153との間に、上方(直立人体基準での上方)へ窪む筋状の上凹部154aと、該筋状の上凹部154aに沿ってその内側に形成された下方へ突出する筋状の上凸部154bとを有する。言い換えれば、上横板部15は、奥歯及び奥歯寄りの歯の下端面を覆う部位に沿う内側に上凹部154aを有し、該上凹部154aに沿う更に内側に上凸部154bを有し、その内側に硬口蓋部位153が連なる。
【0020】
一方、前記下装着体2の下横板部25は、下縦板部21の上端に連なる上端面部位251の中で、非前歯(奥歯及び奥歯寄りの歯)の上端面に沿う部位である非前歯上端面部位251bと、舌6の下面に沿う部位である舌下面部位256との間に、下方(直立人体基準での下方)へ窪む筋状の下凹部254bと、該筋状の下凹部254bに沿ってその内側に形成された上方へ突出する筋状の下凸部254cとを有する。言い換えれば、下横板部25は、奥歯及び奥歯寄りの歯の上端面を覆う部位に沿う内側に下凹部254bを有し、該下凹部254bに沿う更に内側に下凸部254cを有し、その内側に舌下面部位256が連なる。
【0021】
このように構成されている上装着体1と下装着体2は、上装着体1の上凹部154aと下装着体2の非前歯上端面部位251bが当接されるとともに、上装着体1の上凸部154bと下装着体2の下凹部254bが当接されることにより、図1(b)に示すように幅方向での変移を規制されて位置決めされる。このため、遺体への装着時に、上装着体1と下装着体2とがずれることを防止でき、装着が容易となる。
【0022】
また、前後方向では、下装着体2の下縦板部21の上端縁210が、上装着体1の上縦板部11の下端に連なる下端面部位151の中で前歯の下端面に沿う部位である前歯下端面部位151aにより係止されることにより位置決めされるため、さらに、遺体への装着が容易となる。
【0023】
また、上装着体1の上縦板部11の下部外面と、下装着体2の下縦板部21の上部外面には、それぞれ、上の前歯や下の前歯に類似した凹凸が形成されており、且つ、上装着体1と下装着体2とが白いパルプモールドで形成されているため、遺体の口が若干開いてしまった場合でも、会葬者に違和感を与えることを防止できる。
【0024】
遺体への装着を説明する。
上装着体1を、上前歯41が残っている場合は上前歯41とその根元の上の歯肉51とに嵌合し、上前歯41が残っていない場合は歯肉51に嵌合する。嵌合した後は、口腔内の水分によって上装着体1が口腔内に保持される。
同様に、下装着体2を、下前歯42が残っている場合は下前歯42とその根元の下の歯肉52とに嵌合し、下前歯42が残っていない場合は歯肉52に嵌合する。このとき、図1(b)に示すように、上装着体1の上凹部154aに下装着体2の非前歯上端面部位251bを案内させ、上装着体1の上凸部154bに下装着体2の下凸部254cを案内させることにより、位置決めが容易となる。嵌合した後は、口腔内の水分によって下装着体2が口腔内に保持される。
装着順は、上装着体1と下装着体2が逆順であってもよい。
【符号の説明】
【0025】
1 上装着体
11 上縦板部
15 上横板部
151 下端面部位
151a 前歯下端面部位
151b 非前歯下端面部位
153 硬口蓋部位
154a 上凹部
154b 上凸部
2 下装着体
21 下縦板部
25 下横板部
251 上端面部位
251b 非前歯上端面部位
256 舌下面部位
254b 下凹部
254c 下凸部
3a 硬口蓋
3b 軟口蓋
41 上歯列
42 下歯列
51 上歯肉
52 下歯肉
6 舌

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプモールド製の上装着体と下装着体から成り、遺体の口腔内に装着して容貌を整える口腔内装着具であって、
前記上装着体は、装着状態で上歯列及びその根元の上歯肉の外面を覆い得るように前部から両奥部へ向けて湾曲形成された上縦板部と、該上縦板部の下端から上歯列の下端面に沿う下端面部位を経て硬口蓋に沿う硬口蓋部位に至るように曲面形状を成して内方へ延設された上横板部とを有し、
前記下装着体は、装着状態で下歯列及びその根元の下歯肉の外面を覆い得るように前部から両奥部へ向けて湾曲形成された下縦板部と、該下縦板部の上端から下歯列の上端面に沿う上端面部位を経て舌の下面に沿う舌下面部位に至るように曲面形状を成して内方へ延設された下横板部とを有し、
前記上横板部は、前記下端面部位の中で非前歯の下端面に沿う部位である非前歯下端面部位と前記硬口蓋部位との間に、上方へ窪む筋状の上凹部と該筋状の上凹部に沿って形成された下方へ突出する筋状の上凸部を有し、
前記下横板部は、前記上端面部位の中で非前歯の上端面に沿う部位である非前歯上端面部位と前記舌下面部位との間に、下方へ窪む筋状の下凹部と該筋状の下凹部に沿って形成された上方へ突出する筋状の下凸部を有し、
前記上装着体と下装着体は、前記上凹部と前記非前歯上端面部位が当接されるとともに前記上凸部と前記下凹部が当接されることにより幅方向で位置決めされる、
ことを特徴とする口腔内装着具。
【請求項2】
請求項1に於いて、
前記上装着体と下装着体は、前記下縦板部の上端縁が、前記下端面部位の中で前歯の下端面に沿う部位である前歯下端面部位により係止されることにより、前後方向で位置決めされる、
ことを特徴とする口腔内装着具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に於いて、
前記上縦板部の前部外面は上前歯の外面形状に沿う凹凸を有し、
前記下縦板部の前部外面は下前歯の外面形状に沿う凹凸を有する、
ことを特徴とする口腔内装着具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−56109(P2011−56109A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210381(P2009−210381)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(509256229)株式会社サンコースマイル (1)
【出願人】(597047163)日本モウルド工業株式会社 (13)