説明

口部に中栓を装着するガラスびん

【課題】ガラスびんから、取外し具を用いて中栓を取り外す際、ガラスびん口部が割れるのを防止する。
【解決手段】口部外面上端部に中栓外筒壁の内周面が接触するリップ部11が、その下方に中栓外筒壁内周面下端部に形成された環状突条に係合する環状凹部12が形成され、リップ部側面の縦断面形状が、縦方向の直線でなる縦線部を有しない外側に凸の曲線となっているガラスびんにおいて、環状凹部に、その縦断面において、外側に凸の曲線の直下にあって内側方向に向かって下降傾斜する直線によって構成される傾斜面13を設け、傾斜面の水平面となす角度を47°〜53°とすることで前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種飲料、調味料等の容器として使用される、口部に中栓と外蓋を装着するガラスびんに関する。
【背景技術】
【0002】
中栓を装着するガラスびんの口部には、中栓が脱落するのを防止するため、リップ部と環状凹部が設けられている。リップ部は、その下方の環状凹部よりも外側に膨出しており、中栓の外筒壁内周面下端部に形成された環状突条がびん口部の環状凹部に係合する。
【0003】
中栓はびん口部に対し機械的に上方から一挙に打栓されるため、内容物である食用油、調味料、飲料等を消費した後にこれを容器から取り外すことは極めて困難であった。昨今は、びんを極力リターナブル化し、また、びんとプラスチック製の中栓とを分別回収し、資源をリサイクルする要請が高まり、下記特許文献1に示されるように、びん口部のリップ部直下に栓体を取り外すための縦溝を設け、中栓をびんから取り外しやすくしたガラスびんが提案されている。
【0004】
びんのリップ部の形状は、次の2種類がある。
その第一のタイプは、図3に示すように、リップ部側面の縦断面形状が、縦方向の直線部を有しない外側に凸の曲線となっているものである。
このタイプは、縦断面形状において、リップ部11の側面が外側に凸の曲線(円弧)となっており、その下側に外側に凹の曲線(円弧)でなる環状凹部12が形成されている。
リップ部11から環状凹部12にかけて、凸又は凹の曲線の接線が水平面となす角度が最小となるのは、凸と凹の変曲点16の部分で、その角度は25°〜30.8°程度である。中栓2の外筒壁21の下端部に形成された環状突条22がリップ部11下部ないし環状凹部12に接触して中栓の脱落を防止する。このため、凸と凹の変曲点16の部分の角度は25°〜30.8°程度が必要であるとされていた。
【0005】
リップ部形状の第二のタイプは、第4図に示すように、リップ部側面の縦断面形状において、縦線部17(縦方向の直線)を有するものである。
このタイプは、縦線部17の下方に内側に向かって下降傾斜する斜線部18が形成され斜線部18以下が環状凹部12となっている。斜線部18の水平面となす角度は、32.5°〜48.5°が一般的であるが、下記特許文献2には、斜線部が水平面となす角度を30°〜50°とすることで、中栓を容易に取り外すことができ、かつ、中栓が不用意に外れることがない旨が開示されている。
このタイプは、縦線部17と中栓2の外筒壁21の接触面積が大きいので、その摩擦力により中栓の脱落を防止できるため、斜線部18が水平面となす角度θ(リップ部11から環状凹部12にかけて、外面の接線が水平面となす最小角度)を、前記第1のタイプの変曲点の角度θより大きくすることが可能である。
【0006】
また、中栓を容易に取り外すための器具(取外し具)が、下記特許文献3、4などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭56−84912号公報
【特許文献2】特開平11−348953号公報
【特許文献3】特開2003−237892号公報
【特許文献4】特開2003−2395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、消費者又はリサイクル業者が器具(取外し具)を用いて中栓をガラスびんから取り外す際、ガラスびん口部のリップ部が割れ、ケガをする事故が起きている。
【0009】
出願人は、取外し具による中栓の取り外しにおいて、前記第一のタイプのガラスびん口部のリップ部が割れる原因を研究した結果、次のようなことが判明した。
【0010】
例えば、図5に示すような取外し具3で中栓2をガラスびん1から取り外す場合、先ず図5に示すように取外し具3の先端部32を、その凹形部33が中栓を跨ぐように中栓に載せ、爪34を中栓2の外筒壁21下端に引っ掛ける。この状態では、爪34の位置は図6のようになっている。なお、図中符号19は外蓋を装着するための螺条、23は注出筒、24は内筒壁である。
【0011】
図5の状態から矢印Aの方向に柄31を持って力を入れると、中栓2と取外し具の先端部32が接触する支点において、矢印B方向の力が生じ、中栓2に対して取外し具の先端部31が矢印B方向にスリップ移動する。
その結果、図7に示すように、爪34の先端がびんの内側方向(矢印C方向)に変位してリップ部11と環状凹部12の境の変曲点(図3)付近に入り込み、この状態で爪34の先端に矢印D方向の大きな力が加わるため、リップ部が破損するのである。
【0012】
本発明は、リップ部側面の縦断面形状が外側に凸の曲線となっている前記第一のタイプのガラスびんから、取外し具を用いて中栓を取り外す際、ガラスびん口部のリップ部が割れるのを防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、口部外面上端部に中栓外筒壁の内周面が接触するリップ部が、その下方に中栓外筒壁内周面下端部に形成された環状突条に係合する環状凹部が形成され、前記リップ部側面の縦断面形状が、縦方向の直線でなる縦線部を有しない外側に凸の曲線となっているガラスびんであって、前記環状凹部が、その縦断面において、前記外側に凸の曲線の直下にあり、内側方向に向かって下降傾斜する直線によって構成される傾斜面を有し、該傾斜面の水平面となす角度が47°〜53°であることを特徴とする口部に中栓を装着するガラスびんである。(請求項1)
【0014】
本発明において、びんの縦断面は、全て、びんの中心軸を通る垂直縦断面を意味する。
本発明の特徴は、先ず、環状凹部が、その縦断面において、リップ部の外側に凸の曲線の直下にある、内側方向に向かって下降傾斜する直線によって構成される傾斜面を有することである。
従来は、リップ部の外側に凸の曲線の下方に続いて、環状凹部の凹の曲線があった。取外し具で中栓を取り外すとき、爪の先端は凸と凹の曲線の変曲点付近でびんに接触するが、凹の曲線部分で接触すると爪先端がびん表面を滑って上方に移動しにくくなり、びんに大きな応力が発生して割れやすくなる。
本発明においては、爪が直線状の傾斜面に接触し、凹の曲線で接触しないようにできるので、爪先端がびん表面を滑って上方に移動しやすくなり、びんに発生する応力が減少し、びんが割れにくくなる。
【0015】
さらに本発明の特徴は、直線状の傾斜面の傾斜角度(水平面に対する角度)を47°〜53°としたことである。
【0016】
傾斜面を設け、その傾斜角度を47°〜53°としたことで、図7の状態から爪34を上昇させたときにガラスに発生する応力が、従来(変曲点の角度30.8°の場合)に比べてほぼ半分となり、爪は完全に傾斜面13の表面を滑って上昇し、リップが欠けるおそれはほとんどなくなる。傾斜面の傾斜角度が47°に満たないと、取外し具で中栓を取り外すときにリップ部が欠けるおそれがでてくる。
【0017】
直線状の傾斜面を設け、その傾斜角度を47°〜53°とすると、従来に比べて中栓の環状突条とびんの環状凹部が接触する面積が10〜20%少なくなり、さらに接触部の角度が大きくなる(従来の40°〜45°から47°〜53°になる)ので、中栓がびんから抜けやすくなる。
消費者が使用するに際して中栓が不用意に抜けることは避けなければならない。いろいろな使用状態を勘案した結果、消費者の通常の使用に際して中栓に最も大きな抜ける力が作用するのは、中栓のプルリングを引っ張って注出筒の内側の注出口を開口するときである。
傾斜面の角度を53°以下とすれば、中栓のプルリングを引っ張って注出筒の内側の注出口を開口するときに中栓がびん口から抜けることが無く、したがって、消費者の通常の使用に際して中栓が不用意にびん口から抜けるおそれがない。
これは、傾斜面の角度を53°以下とすれば、中栓を上に引き上げる力が発生した場合、中栓の浮上を防止する力が従来(接触部の角度40°)に比べて20%程度しか減少しないためで、本発明において実用上中栓が不用意に抜けるおそれは全くない。
【発明の効果】
【0018】
本発明のガラスびんは、取外し具を用いて中栓をガラスびんから取り外す際、ガラスびん口部のリップ部が割れるのを防止することができる。
また、消費者の通常の使用に際して中栓が不用意にびん口から抜けるおそれもない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例のガラスびんの口部断面形状の説明図である。
【図2】実施例のガラスびんに取り外し治具による力Fが作用した状態の説明図である。
【図3】第一のタイプのリップ形状の説明図である。
【図4】第二のタイプのリップ形状の説明図である。
【図5】びん口部に取外し具を当てた状態の説明図である。
【図6】図5の爪付近の拡大図である。
【図7】爪が内側方向に移動した状態の説明図である。
【図8】従来のガラスびんに取り外し治具による力Fが作用した状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0020】
図1に実施例のガラスびん1の口部断面形状(中心軸を通る縦方向断面)を示す。
天面15に続いて外側に凸の曲線でなるリップ部11(の外側面)が形成されている。リップ部11には、中栓2の外筒壁21の内周面が接触する。
リップ部11の下方には、中栓2の外筒壁21内周面下端部に形成された環状突条22に係合する環状凹部12が形成されている。
環状凹部12は、リップ部11の凸の曲線に続いて、内側に向かって下降傾斜した(下方ほど外径が減少する)傾斜面13を有する。縦断面において、傾斜面13は直線である。本実施例の場合、傾斜面13の傾斜角度θは50°である。
傾斜面13の下方は、外側に凹の曲線となっている。
【0021】
図2は実施例のガラスびん(傾斜面のθ=50°)に取外し具による力Fが作用した状態の説明図、図8は従来例のガラスびん(変曲点のθ=30.8°)の変曲点に取外し具による力Fが作用した状態の説明図である。
傾斜面13に取り外し治具による力Fが作用した場合、力Fは、傾斜面13に平行なスリップ力Sと、傾斜面13に垂直な負荷力Eに分解できる。
本実施例の場合、取外し具により作用する力Fの多くはスリップ力Sとなり、爪33は傾斜面13に沿ってスリップしやすくなる。
一方、リップ部欠けの原因となるガラスへの負荷力Eは、従来例に比べて約25%減少する。
【0022】
上記の実施例及び従来例について、傾斜面ないしは変曲点に直角に1kgfの負荷力Eが作用した場合のガラス外表面に生じる応力分布をコンピュータ解析により求めた結果、びんに発生する最大応力が、実施例は50.0MPa、従来例は35.5MPaとなり、同じ負荷力が作用した場合に実施例は従来例に比べて最大応力が約30%減少することがわかった。
【0023】
実施例は従来例に比べて、負荷力が約25%減少し、負荷力が同じであっても発生応力が約30%減少することから、傾斜面に取外し具による力Fが作用した場合、ガラスに発生する応力は半分程度(52.5%)になる。
以上のことから、傾斜面の角度を50°とした実施例は、取外し具を用いて中栓をガラスびんから取り外す際、ガラスびん口部のリップ部が割れるのをほぼ完全に防止することができる。
【0024】
なお、各図において、便宜上、中栓を、取り外すに際の変形を無視して表示しているが、中栓はポリエチレンなどの軟質プラスチック製であるので、取外しに際して大きく変形する。
【符号の説明】
【0025】
1 ガラスびん
11 リップ部
12 環状凹部
13 傾斜面
14 凹曲面部
15 天面
16 変曲点
17 縦線部
18 斜線部
19 螺条
2 中栓
21 外筒壁
22 環状突条
23 注出筒
24 内筒壁
3 取外し具
31 柄
32 先端部
33 凹形部
34 爪


【特許請求の範囲】
【請求項1】
口部外面上端部に中栓外筒壁の内周面が接触するリップ部が、
その下方に中栓外筒壁内周面下端部に形成された環状突条に係合する環状凹部が形成され、
前記リップ部側面の縦断面形状が、縦方向の直線でなる縦線部を有しない外側に凸の曲線となっているガラスびんであって、
前記環状凹部が、その縦断面において、前記外側に凸の曲線の直下にあり、内側方向に向かって下降傾斜する直線によって構成される傾斜面を有し、
該傾斜面の水平面となす角度が47°〜53°であることを特徴とする口部に中栓を装着するガラスびん。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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