可塑性グラウト材
【課題】高い強度を発現することで重要構造物直下にも適用でき、厳格な配合を必要としないため刻々と変化する工事現場に対応可能な、可塑性グラウト材の提供。
【解決手段】セメントと、水と、凝集剤と、水和反応促進剤と、水溶性セルロースを包含しており、セメントに対する水の比率(W/C)が40%〜60%であり、セメントに対する凝集剤の比率が0.04%〜0.08%であり、セメントに対する水和反応促進剤の比率が1.0%以下であり、水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上である。
【解決手段】セメントと、水と、凝集剤と、水和反応促進剤と、水溶性セルロースを包含しており、セメントに対する水の比率(W/C)が40%〜60%であり、セメントに対する凝集剤の比率が0.04%〜0.08%であり、セメントに対する水和反応促進剤の比率が1.0%以下であり、水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、地盤や構造物の空隙、目地、ひび割れ、または地盤と構造物の間に生じた隙間等に注入する空洞充填用の注入材料に関する。より詳細には、本発明は、可塑性を有するグラウト材に関する。
【背景技術】
【0002】
「可塑性」なる文言は、剪断力が加わると流動性を発現し、剪断力が加わらなければ流動性を発現しない性質を意味している。
その様な可塑性を有するグラウト材は、例えば、図11で断面を示すような、トンネルの背面空洞注入等では大変に都合が良い。すなわち、係るグラウト材を圧送するにあたっては、その直前にポンプ等で剪断力を与えて流動性を高めれば、容易に充填予定箇所まで圧送することができる。そして、所定箇所に充填した後は、剪断力が付与されないので流動性は低下して、充填された領域に滞留し続けて硬化するからである。
【0003】
図11において、トンネル断面では、ライニングとして、トンネルの左右側壁における部分円弧状の左右側壁コンクリート1と、左右側壁コンクリート1を橋渡しするアーチコンクリート2とが存在する。
このようなライニングの背面(地山側:図11では上側)には何らかの原因により空洞3が生じる場合が存在する。そのような空洞が存在すると、地山からの応力が均等に伝わらず、トンネル本体における有害な変形を惹起する恐れがある。
【0004】
アーチコンクリート2の背面(地山側:図11では上側)に空洞3が生じて、トンネル本体における強度低下を惹起するのを防止するため、アーチコンクリート2の背面の空洞3にグラウト材を充填して空洞3を充填する工事である「背面空洞注入工事」が行われる。
図11の例では、係る工事において、トンネル内壁の天井部(図11では上方の領域)で、トンネルの中心線Lcから0.1m離れた位置から地山側に向かって注入口H2を掘削し、中心線Lcから左右に2.5m離れた位置から地山側に向かって注入口H1、H3を各々掘削している。そして、注入口H1〜H3に可塑性を有するグラウト材を注入している。
【0005】
このような可塑性を有するグラウト材を提供する技術として、例えば、セメントミルク、セメントエアミルク等のグラウト材に、水ガラス系薬液又はアルミニウム塩溶液を添加してゲル化させ、以って、グラウト材に可塑性を付与する技術が知られている。
しかし、ゲル化による可塑性はコントロールがし難い。
また、流動性が低下し過ぎると、ポンプによるグラウト材の圧送ができなくなる恐れがある。
【0006】
その他の従来技術として、ベントナイトがセメントのカルシウムイオンに凝集される効果に着目し、セメントミルクとベントナイトミルクとを撹拌混合することにより可塑性注入材を得る技術が提案されている(特許文献1)。
しかし、係る従来技術(特許文献1)におけるセメントミルクとベントナイトミルクの混合液では、高い強度を発現することができない。
また、特に重要構造物直下等では、空隙に充填されるグラウト材に対して、24N/mm2以上の強度が必要とされるが、従来技術に係る可塑性グラウト材では、その様な強度(24N/mm2以上の強度)を発現することができない。
さらに、従来の可塑性グラウト材は、厳格な配合により可塑性グラウト材としての所定の品質を確保しているが、厳格な配合が要求される従来の可塑性グラウト材では、刻々と変化する工事現場に対応することが出来ない。
【特許文献1】特開平11−310779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、施工に要求される強度を発現することが出来て、フロー値やブリージング率が施工に際して定められた基準を充足しており、しかも、所定の品質を確保するために厳格な配合を必要とせず、刻々と変化する工事現場に対応して配合を変更可能な可塑性グラウト材の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の可塑性グラウト材は、セメントと、水と、凝集剤と、水和反応促進剤と、水溶性セルロースを包含しており、セメントに対する水の比率(W/C)が40%〜60%であり、セメントに対する凝集剤の比率が0.04%〜0.08%であり、セメントに対する水和反応促進剤の比率が1.0%以下であり、水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上であることを特徴としている(請求項1)。
【0009】
そして本発明の可塑性グラウト材は、セメントと、水と、凝集剤と、水溶性セルロースを包含しており、セメントに対する水の比率(W/C)が40%〜60%であり、セメントに対する凝集剤の比率が0.04%〜0.08%であり、水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上であることを特徴としている(請求項2)。
すなわち、上述した可塑性グラウト材(請求項1の可塑性グラウト材)において、水和反応促進剤を包含しないことが可能である。
【0010】
また本発明の可塑性グラウト材は、セメントと、水と、凝集剤と、水和反応促進剤と、水溶性セルロースを包含しており、セメントに対する水の比率(W/C)が120%〜150%であり、セメントに対する凝集剤の比率が0.15%〜0.8%であり、セメントに対する水和反応促進剤の比率が1.0%〜3.0%であり、水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上であることを特徴としている(請求項3)。
【発明の効果】
【0011】
上述する構成を具備する本発明の可塑性グラウト材によれば、富配合の場合には(請求項1、請求項2)、フロー値(静置時)、ブリージング率、一軸圧縮強度の何れにおいても、必要な基準(例えば、「矢板工法トンネルの背面空洞注入工設計・施工指針:平成18年10月(東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社)」で示す基準)を上回ることが出来る。
そして、一軸圧縮強度については、係る基準を遥かに上回る高い強度を達成することが出来る。
また、エアを混入することにより、一軸圧縮強度や比重を適宜調整することも出来る。
【0012】
また、本発明の可塑性グラウト材によれば、貧配合(請求項3)にして製造コストの低減を図った場合においても、フロー値(静置時)、ブリージング率、一軸圧縮強度について、上述した必要な基準を上回ることが出来る。
【0013】
ここで、可塑性グラウト材は、可塑性と同時に、水に希釈されない性質、水中不分離性が要求される。
本発明の可塑性グラウト材によれば、水溶性セルロースが水の添加量の0.2%以上添加されているので、係る水中不分離性を発揮することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
可塑性グラウト材に要求される品質を示す評価項目毎に基準があり、「矢板工法トンネルの背面空洞注入工設計・施工指針:平成18年10月(東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社)」で示す基準が広く適用されている。そして本発明の実施形態に係る可塑性グラウト材においても、流動性、非収縮性、強度について、当該基準(東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社の基準:規格値)を充足するという要請が存在する。
【0015】
係る要請に鑑みて、本発明の実施形態に係る可塑性グラウト材においては、流動性の基準として規格値のフロー値(静置時)が80mm〜155mmとする。
また非収縮性の基準は、規格値が28日硬化後収縮率2%以下(2cm/100cm)であることから、ブリージング率が1%以下とする。
さらに強度の基準としては、規格値の一軸圧縮強度(σ28)が1.5N/mm2以上とし、さらに高強度型の可塑性グラウト材については一軸圧縮強度(σ28)が24N/mm2以上であることを基準としている。
そして、本発明の実施形態に係る可塑性グラウト材においては、上記全ての条件を充足することを目標とした。
【0016】
第1実施形態は、いわゆる富配合の場合の実施形態であり、W/Cが50%前後における実施形態である。この実施形態では、上述した条件(フロー値、ブリージング率、一軸圧縮強度に係る条件)を充足した上で、さらに一軸圧縮強度を向上した可塑性グラウト材を得ることを目的としている。
第2実施形態は、いわゆる貧配合の場合の実施形態であり、W/Cが、140%前後における実施形態である。この実施形態では、貧配合とすることにより、出来る限り製造コストを低減化して、上述の条件(フロー値、ブリージング率、一軸圧縮強度に係る条件)を充足することを目的としている。
【0017】
第1実施形態及び第2実施形態に係る可塑性グラウト材は、水、セメントに加えて、凝集剤、水和反応促進剤、水溶性セルロースを配合に有している。
凝集剤には様々な種類があり、無機系の凝集剤(吸着性天然鉱物、アルミニウム系、ポリ硫酸第二鉄等)や、高分子系の凝集剤(アニオン系ポリアクリルアミド、カチオン系ポリアクリルアミド)が一般に知られている。その様な凝集剤は、例えば、粘土・シルトなどの小さな粒子を捕捉してフロック(凝集)を形成して水Wとの分離を図り、或いは土の固体化を図るために用いられる。
少量の添加で最も顕著な可塑性を発現させる材料としては、高分子系の凝集剤(ポリアクリルアミド)が特に好適である。そのため、以下の実施形態及び実験例では、凝集剤として、ポリアクリルアミドを用いた。
【0018】
水和反応促進剤として、例えば、アルミン酸ソーダ(化学名:アルミン酸ナトリウム:NaAl2O3)を用いるのが好ましい。そして、以下の実施形態及び実験例では、水和反応促進剤として、例えば、アルミン酸ソーダを選択した。
水溶性セルロースとして、例えば、セルロース系水溶性高分子材料を用いることが出来る。以下の実施形態及び実験例においても、水溶性セルロースとして、セルロース系水溶性高分子材料を用いた。
【0019】
第1実施形態及び第2実施形態に係る可塑性グラウト材では、凝集剤、水和反応促進剤、水溶性セルロースの他に、「所要のコンステンシー及び強度を得るのに必要な単位水量及び単位セメント量を減少させる薬剤」、すなわち減水剤を添加している。
そして第1実施形態及び第2実施形態では、グラウト材の搬送途中での凝結を防止するため、遅延型減水剤を用いている。ここで遅延型減水剤としては、例えばポリカルボン酸エーテル系化合物を主成分とする遅延型減水剤が、好適である。以下、本明細書では、遅延型減水剤を「減水剤」と表記する。
【0020】
第1実施形態
上述した様に、第1実施形態に係る可塑性グラウト材は、富配合の可塑性グラウト材であり、その組成は次の通りである。
セメントに対する凝集剤の比率が0.04%〜0.08%。
セメントに対する水和反応促進剤の比率が1.0%以下。
水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上。
以下、実験1〜実験7を参照して、係る組成について説明する。
【0021】
実験1
実験1は、水和反応促進剤の添加量の上限に関する実験である。
実験1では、W/C=50%のセメントミルクに、セメント質量の0.50%の減水剤と、水和反応促進剤をセメント質量の0%〜2.5%まで、0.5%刻みで変化させた試験材料を用いた。
より詳細には、実験1の試験材料の作成にあたっては、先ず、水と減水剤とセメントをホバート型ミキサーによって1分間攪拌し、グラウト材を作った。また、水と水和反応促進剤を調理用ハンドミキサーによって1分間攪拌して、可塑材を作った。
そして、グラウト材と可塑材を混合し、ホバート型ミキサーによって1分間攪拌した。
係る試験材料の組成を表1に示す。
表1
【0022】
この様にして作成された試験材料を用いて、静置時のフロー値測定試験(JHS313)を行った。
その結果が、図1における水和反応促進剤添加量と静置フロー値との特性として示されている。
図1において、W/C=50%の場合、水和反応促進剤添加量がセメント添加量の1.5%以上では、静置フロー値がきわめて小さくなり、試験材料の流動性が急激に低下している。
従って、実験1の結果、W/C=50%の場合(富配合の場合)には、水和反応促進剤の添加量をセメント質量の1.0%以下にするべきことが分かった。
【0023】
実験2
実験2も、水和反応促進剤の添加量に関する実験であり、W/C=50%である場合に、水和反応促進剤の添加量と静置フロー値との関係を、経過時間毎に計測した。
実験2における実験材料及びその製造方法は、実験1と同様である。
実験2でも、水和反応促進剤添加量と静置フロー値との特性を求めた。実験2の結果が、図2で示されている。
図2では明示されていないが、水和反応促進剤添加量がセメント添加量の1.5%以上になると、実験材料を混合している時点で流動性が悪くなり、非常に硬い材料となってしまうことが分かった。係る事実からも、W/C=50%の場合(富配合の場合)、水和反応促進剤の添加量をセメント質量の1.0%以下にするべきことが分かった。
すなわち、実験1および実験2から、W/C=50%の場合、可塑性グラウト材の圧送性等を考慮し、著しく作業性が低下しないようにするためには、水和反応促進剤の添加量をセメント質量の0%〜1.0%にするべきことが確認できた。
【0024】
ここで、実験2から、第1実施形態に係る可塑性グラウト材では、水和反応促進剤の添加量をセメント質量の0%、すなわち水和反応促進剤を包含しないことが可能であることが明らかになった(請求項2に係る可塑性グラウト材)。
また、第1実施形態に係る可塑性グラウト材において、水和反応促進剤の添加量をセメント質量の1.0%以下にする必要がある旨も明らかになった(請求項1に係る可塑性グラウト材)。
【0025】
実験3
実験3は、水溶性セルロースの添加量に関する実験である。
実験3では、W/C=50%のセメントミルクに、セメント質量の0.50%の減水剤と、水和反応促進剤をセメント質量の0%〜1.0%まで0.5%刻みで変化させ、且つ、水溶性セルロースを水添加量の0%〜0.5%まで0.1%刻みで変化させた試験材料を用いた。
実験3の試験材料の作成にあたっては、先ず、水と減水剤とセメントをホバート型ミキサーによって1分間攪拌し、グラウト材を作った。また、水と水和反応促進剤と水溶性セルロースを調理用ハンドミキサーによって1分間攪拌して、可塑材を作った。
そして、グラウト材と可塑材を混合し、ホバート型ミキサーによって1分間攪拌した。
係る試験材料の組成を表2に示す。
表2
【0026】
この様にして作成された試験材料を用いて、静置時のフロー値測定試験(JHS313)を行った。
その結果が、図3における水和反応促進剤添加量をセメント添加量の0%、0.5%、1.0%添加した場合の各々における水溶性セルロース添加量と静置フロー値との特性として示されている。
図3において、水溶性セルロース添加量を水添加量の0.2%以上添加すれば、水和反応促進剤添加量がセメント添加量の0%、0.5%、1.0%の全ての場合について、ブリージング率が1%以下に抑制できることが判明した。
そして実験3の結果、W/C=50%の場合(富配合の場合)には、水溶性セルロース添加量を水添加量の0.2%以上にするべきことが分かった。
【0027】
実験4
実験4は、凝集剤の添加量に関する実験である。
実験1〜3により、W/C=50%の場合、水和反応促進剤の添加量をセメント添加量の0%〜1.0%、水溶性セルロース添加量を水添加量の0.2%以上にするべきことが分かっている。
係る実験結果に基づいて、実験4では、W/C=50%、水溶性セルロース添加量を水添加量の0.2%にして、水和反応促進剤の添加量をセメント添加量の0〜1.0%の範囲で0.5%刻みの3通りについて、凝集剤添加量をセメント添加量の0.02%〜0.08%の範囲で変更した試験材料を作成した。
【0028】
実験4の試験材料の作成にあたっては、先ず、水と減水剤とセメントをホバート型ミキサーによって1分間攪拌し、グラウト材を作った。また、水と凝集剤と、水和反応促進剤と水溶性セルロースを調理用ハンドミキサーによって1分間攪拌して、可塑材を作った。
そして、グラウト材と可塑材を混合し、ホバート型ミキサーによって1分間攪拌した。
係る試験材料の組成を表3に示す。
表3
【0029】
表3で示す試験材料について、静置時のフロー値測定試験(JHS313)を行った。
その結果が、図4において、水和反応促進剤添加量をセメント添加量の0%、0.5%、1.0%添加した場合の各々における凝集剤添加量と静置フロー値との特性として、示されている。
図4から、凝集剤添加量をセメント添加量の0.04%〜0.08%にすれば、水和反応促進剤添加量を適宜設定することにより、目標とする「フロー値が80mm〜155mm」という物性が達成できることが分かった。
ブリージング率が1%以下という点については、表3で示すように、実験4の試験材料は全て水溶性セルロースが水添加量の0.2%となっている。そして、実験3の結果より、水溶性セルロースが水添加量の0.2%であれば、試験材料のブリージング率が1%以下になることが判明している。
【0030】
実験5
実験5は、実験3と同様に、水溶性セルロースの添加量に関する実験である。但し、実験5は、実験3の様にブリージング率を計測する実験ではなく、水中不分離性に関する実験である。
可塑性グラウト材は、可塑性と同時に、水中コンクリートで要求される「水に希釈されない」性質である水中分離抵抗性も要求される。
本発明に係るグラウト材で水溶性セルロースを添加するのは、ブリージング率を1%以下に抑制することに加えて、水中分離抵抗性を獲得するためでもある。
実験5で使用した試験材料の組成は下表4の通りである。そして、試験材料は実験1〜実験4と同様に製造された。
表4
【0031】
実験5は、図5で示すように、幅450mm、奥行き300mm、高さ300mmの水槽CAに水を充填し、シリンダ(図示せず:JHS規格:φ80mm、高さ80mm)に充填した試験材料Mを水槽CAの底面に静置し、シリンダをゆっくりと引き上げた後、水槽内の水質(pH)の変化を60分間測定する。
測定は、水槽CAの水面下10cmに設置したpH計Pm1を用いても良いし、水槽CAの水面下10cmの試料採取ポイントSP1から水槽CA内の水をスポイトにより採取し、採取した水のpHを別途設けたpH計測装置で計測しても良い。
【0032】
実験5の試験結果を図6で示す。
図6において、水溶性セルロースの添加量が水添加量の0.2%の試験材料と、0.25%の試験材料と、0.33%の試験材料においては、下表5で示すように時間が経過してもpHは変化しておらず、セメントを包含するグラウト材である試験材料が水槽CA内の水に殆ど溶解しないことが明らかである。
すなわち、可塑性グラウト材の水中分離抵抗性を向上する意味からも、水溶性セルロースは水添加量の0.2%以上添加することが好適であることが明らかになった。
表5
【0033】
実験6
実験6では、セメント添加量或いはW/Cの範囲について、実験を行なった。
実験1〜実験5では、W/Cを50%に固定して実験を行なっているが、実験6では、実験1〜実験5で確認された組成、すなわち凝集剤添加量がセメント添加量の0.04%〜0.08%、水和反応促進剤の添加量がセメント添加量の0〜1.0%、水溶性セルロース添加量が水添加量の0.2%以上にした上で、W/Cの数値を30%〜70%の範囲において、5%刻みで変更して、適不適を判断した。
実験6の結果を表6で示す。
表6
【0034】
表6で示すように、W/Cが40%を下回った場合には、上述した範囲内でその他の組成を調整しても、フロー値が80mm未満となった。
一方、W/Cが60%を越えた場合には、上述した範囲内でその他の組成を調整しても、フロー値が155mmを上回る数値となった。
実験6の結果より、40%≦W/C≦60%とするべきことが判明した。
【0035】
実験7
実験7は、実験1〜実験6で確認された組成の可塑性グラウト材が、必要な規格を充足するか否かを実験した。
実験1〜実験6で確認された組成から、試験材料として、下表7で示す様な2種類の組成の可塑性グラウト材(表7では「配合1」、「配合2」と表示)を製造した。配合2は配合1に気泡を混合した(気泡混合率40%)した実験材料である。
そして、「(株)高速道路総合技術研究所(NEXCO総研)規格JHS覆工背面空洞注入材の適用性確認試験方法(案)」に準拠した試験を行ない、フロー値、ブリージング率、一軸圧縮強度(材齢28日)、比重その他を計測した。
表7
【0036】
配合1のフロー値(静置時)は136mm、配合2のフロー値(静置時)は152mmであり、80mm〜155mmという目標値の範囲内である。
配合1、配合2のブリージング率は共に0%であり、1%以内という目標をクリアしている。
そして、配合1の一軸圧縮強度は33.7N/mm2、配合2の一軸圧縮強度は8.2N/mm2であり、何れも、目標とする一軸圧縮強度である1.5N/mm2を上回る強度を実現した。特に、配合1では、33.7N/mm2という非常に高い強度を実現している。
実験7から、第1実施形態に係る可塑性グラウト材は、要求された条件を充足することが明らかになった。
【0037】
ここで、配合1の比重は1.8であり、「矢板工法トンネルの背面空洞注入工設計・施工指針:平成18年10月(東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社)」で示す基準の比重(1.1〜1.5)よりも大きい数値となっているので、トンネルの背面すなわちトンネルの天井面における裏込め(例えば図10の空洞3における裏込め)については、配合1の可塑性グラウト材を使用するべきではない。
しかし、例えばトンネル側面における裏込めについては、配合1の可塑性グラウト材を使用することが出来る。
配合1に気泡を混合した配合2では、比重が1.1となり、当該基準(気泡を混合した場合には1.1〜1.2)を充足するので、トンネルの背面における裏込めについて使用可能である。
これ等のことから、第1実施形態に係る可塑性グラウト材は、気泡を混合することにより比重を自在に調整して、適用の範囲を広げることが可能である旨が明らかになった。
【0038】
第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態に係る可塑性グラウト材について、実験8〜実験13を参照して説明する。
第2実施形態に係る可塑性グラウト材は、貧配合の可塑性グラウト材であり、その組成は次の通りである。
セメントに対する凝集剤の比率が0.15%〜0.8%。
セメントに対する水和反応促進剤の比率が1.0%〜3.0%。
水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上。
【0039】
実験8
実験8は、水和反応促進剤の添加量の下限に関する実験である。
実験8では、W/C=140%のセメントミルク(貧配合)に、セメント質量の0.25%の減水剤と、凝集剤をセメント質量の0%〜0.90%或いは0%〜0.50%の範囲で変更し、且つ、水和反応促進剤をセメント質量の0%、1.0%、2.0%、3.0%に変更した試験材料を用いた。
試験材料の製造方法は、実験1〜実験4で説明したのと同様である。
実験8で用いられた試験材料の組成を、下表8で示す。
表8
【0040】
表8で示す試験材料について、静置フロー値を計測した(JHS313)。
実験8の結果が、図7で示されている。
図7から明らかなように、水和反応促進剤添加量がセメント添加量の0%では、凝集剤の添加量に拘らず、静置フロー値は目標値(80mm〜155mm)の範囲内とはならない。
実験8より、W/C=140%の場合(貧配合の場合)には、水和反応促進剤の添加量をセメント質量の1.0%以上にするべきことが分かった。
【0041】
実験9
実験9は、水和反応促進剤の添加量の上限に関する実験である。
実験9では、W/C=140%のセメントミルクに、セメント質量の0.25%の減水剤と、水和反応促進剤をセメント質量の1.0%、2.0%、3.0%、4.0%に変更した試験材料を用いた。
試験材料の製造方法は、実験1〜実験4で説明したのと同様である。
実験9で用いられた試験材料の組成を、下表9で示す。
表9
【0042】
この様にして作成された試験材料を用いて、静置時のフロー値測定試験(JHS313)を行った。
その結果が図8で示されている。
図8において、水和反応促進剤添加量が3.0%の特性曲線と、4.0%の特性曲線とは同様な挙動を示している。このことから、水和反応促進剤添加量が3.0%を越えた場合には、同様な特性を示すことが明らかである。
ここで、第2実施形態は製造コストを低減することを大きな目的としているので、W/C=140%の場合(貧配合の場合)には、水和反応促進剤の添加量の上限をセメント質量の3.0%とするべきである。
【0043】
実験10
実験10は、水溶性セルロースの添加量に関する実験である。
実験10では、W/C=140%のセメントミルクに、セメント質量の0.25%の減水剤と、水和反応促進剤をセメント質量の0%、1.0%、2.0%と変更して、且つ、水溶性セルロースを水添加量の0%〜1.0%まで変更した試験材料を用いた。
実験10の試験材料の製造は、実験1〜実験4と同様な手順で行なわれた。
実験10の試験材料の組成を表10に示す。
表10
【0044】
表10の試験材料を用いて、静置時のフロー値測定試験(JHS313)を行った。その結果が、図9で示されている。
図9において、水和反応促進剤添加量がセメント添加量の1.0%、2.0%の場合において、水溶性セルロース添加量が水添加量の0.2%以上となれば、ブリージング率は1%以下に抑制されている。
図9において、水和反応促進剤添加量がセメント添加量の0%であれば、水溶性セルロース添加量が水添加量の0.2%でも、ブリージング率は25%程度である。しかし、実験8で、水和反応促進剤添加量はセメント添加量の1.0%以上とするべきことが分かっており、「水和反応促進剤添加量がセメント添加量の0%」は、その範囲から外れている。
従って、W/C=140%の場合(貧配合の場合)においても、水溶性セルロース添加量を水添加量の0.2%以上にするべきことが分かった。
【0045】
実験11
実験11は、凝集剤の添加量に関する実験である。
実験8〜10により、W/C=140%の場合、水和反応促進剤の添加量をセメント添加量の1.0%〜3.0%、水溶性セルロース添加量をセメント添加量の0.2%以上にするべきことが分かっている。
係る実験結果に基づいて、実験11では、W/C=140%、水溶性セルロース添加量を水添加量の0.2%にして、水和反応促進剤の添加量をセメント添加量の1.0%、2.0%、3.0%の3通りにして、凝集剤添加量をセメント添加量の0.1%〜0.8%の範囲で変更した試験材料を作成した。
実験11の試験材料の製造は、実験1〜実験4と同様の手順で行なった。そして、実験11の試験材料の組成は、下表11に示す。
表11
【0046】
実験11では、表11で示す試験材料について、静置時のフロー値測定試験(JHS313)を行った。
その結果が、図10において、水和反応促進剤添加量をセメント添加量の1.0%、2.0%、3.0%添加した場合の各々における凝集剤添加量と静置フロー値との特性として示されている。
図10において、凝集剤添加量をセメント添加量の0.15%〜0.8%にすれば、水和反応促進剤添加量を適宜設定することにより、目標とする「フロー値が80mm〜155mm」という物性が達成できることが分かった。
ブリージング率が1%以下という点については、表11で示すように、実験11の試験材料は全て水溶性セルロースが水添加量の0.2%となっている。そして、実験10の結果より、水溶性セルロースが水添加量の0.2%であれば、試験材料のブリージング率が1%以下になることが判明している。
【0047】
実験12
実験12では、セメント添加量或いはW/Cの範囲について、実験を行なった。
実験8〜実験11では、W/Cを140%に固定して実験を行なっているが、実験12では、実験8〜実験11で確認された組成、すなわち凝集剤添加量がセメント添加量の0.15%〜0.8%、水和反応促進剤の添加量がセメント添加量の1.0%〜3.0%、水溶性セルロース添加量が水添加量の0.2%以上にした上で、W/Cの数値を110%〜160%の範囲において、5%刻みで変更して、適不適を判断した。
実験12の結果を表12で示す。
表12
【0048】
表12で示すように、W/Cが120%を下回った場合には、上述した範囲内でその他の組成を調整しても、フロー値が80mm未満となった。それと共に、可塑性グラウト材の製造コストが飛躍的に高額になってしまうことが判明した。
一方、W/Cが150%を越えた場合には、上述した範囲内でその他の組成を調整しても、フロー値が155mmを上回る数値となった。
実験12の結果より、120%≦W/C≦150%とするべきことが判明した。
【0049】
実験13
実験13は、実験8〜実験12で確認された組成の可塑性グラウト材が、必要な規格を充足するか否かを実験した。
実験8〜実験12で確認された組成から、試験材料として、下表13で示す様な組成の可塑性グラウト材を製造した。なお、係る可塑性グラウト材(実験材料)では、気泡は混合していない。
そして、「(株)高速道路総合技術研究所(NEXCO総研)規格JHS覆工背面空洞注入材の適用性確認試験方法(案)」に準拠した試験を行ない、フロー値、ブリージング率、一軸圧縮強度(材齢28日)、比重その他を計測した。
表13
【0050】
実験13の実験材料のフロー値(静置時)は131mmであり、80mm〜155mmという目標値の範囲内である。
ブリージング率は0.4%であり、1%以内という目標をクリアしている。
そして、一軸圧縮強度は2.5N/mm2であり、目標とする一軸圧縮強度である1.5N/mm2を上回る強度を実現した。
ここで、一軸圧縮強度に支配的な組成はセメント含有量である。表13には示されていないが、出願人の実験では、表13の組成でW/C=150%とした可塑性グラウト材の一軸圧縮強度は2.3N/mm2であり、目標値をクリアしている。すなわち、第2実施形態における一軸圧縮強度は、1.5N/mm2を上回ることが明らかである。
実験13から、第2実施形態に係る可塑性グラウト材は、要求された条件を充足することが明らかになった。
【0051】
本発明の実施形態によれば、必要に応じて、その強度を高強度まで向上し、或いは、その比重を適宜設定することが出来る。
そして、フロー値、ブリージング率、一軸圧縮強度を、「矢板工法トンネルの背面空洞注入工設計・施工指針:平成18年10月(東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社)」で示す基準を充足する数値にすることが出来る。
さらに、貧配合とした場合には、セメント使用量を節約して、製造コストを低く抑えた状態で、フロー値、ブリージング率、一軸圧縮強度を、上記基準で要求されている範囲にすることが可能である。
【0052】
図示の実施形態や実施例、実験例はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない旨を付記する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実験1の結果を示す特性図。
【図2】実験2の結果を示す特性図。
【図3】実験3の結果を示す特性図。
【図4】実験4の結果を示す特性図。
【図5】水中分離抵抗性の計測する機構の概要を示す模式図。
【図6】実験5の結果を示す特性図。
【図7】実験8の結果を示す特性図。
【図8】実験9の結果を示す特性図。
【図9】実験10の結果を示す特性図。
【図10】実験11の結果を示す特性図。
【図11】裏込め工事を行うトンネルの断面図。
【符号の説明】
【0054】
CA・・・水槽
M・・・試験材料
pH計・・・Pm1
SP1・・・試料採取ポイント
1・・・左右側壁コンクリート
2・・・アーチコンクリート
3・・・空洞
H1〜H3・・・注入口
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、地盤や構造物の空隙、目地、ひび割れ、または地盤と構造物の間に生じた隙間等に注入する空洞充填用の注入材料に関する。より詳細には、本発明は、可塑性を有するグラウト材に関する。
【背景技術】
【0002】
「可塑性」なる文言は、剪断力が加わると流動性を発現し、剪断力が加わらなければ流動性を発現しない性質を意味している。
その様な可塑性を有するグラウト材は、例えば、図11で断面を示すような、トンネルの背面空洞注入等では大変に都合が良い。すなわち、係るグラウト材を圧送するにあたっては、その直前にポンプ等で剪断力を与えて流動性を高めれば、容易に充填予定箇所まで圧送することができる。そして、所定箇所に充填した後は、剪断力が付与されないので流動性は低下して、充填された領域に滞留し続けて硬化するからである。
【0003】
図11において、トンネル断面では、ライニングとして、トンネルの左右側壁における部分円弧状の左右側壁コンクリート1と、左右側壁コンクリート1を橋渡しするアーチコンクリート2とが存在する。
このようなライニングの背面(地山側:図11では上側)には何らかの原因により空洞3が生じる場合が存在する。そのような空洞が存在すると、地山からの応力が均等に伝わらず、トンネル本体における有害な変形を惹起する恐れがある。
【0004】
アーチコンクリート2の背面(地山側:図11では上側)に空洞3が生じて、トンネル本体における強度低下を惹起するのを防止するため、アーチコンクリート2の背面の空洞3にグラウト材を充填して空洞3を充填する工事である「背面空洞注入工事」が行われる。
図11の例では、係る工事において、トンネル内壁の天井部(図11では上方の領域)で、トンネルの中心線Lcから0.1m離れた位置から地山側に向かって注入口H2を掘削し、中心線Lcから左右に2.5m離れた位置から地山側に向かって注入口H1、H3を各々掘削している。そして、注入口H1〜H3に可塑性を有するグラウト材を注入している。
【0005】
このような可塑性を有するグラウト材を提供する技術として、例えば、セメントミルク、セメントエアミルク等のグラウト材に、水ガラス系薬液又はアルミニウム塩溶液を添加してゲル化させ、以って、グラウト材に可塑性を付与する技術が知られている。
しかし、ゲル化による可塑性はコントロールがし難い。
また、流動性が低下し過ぎると、ポンプによるグラウト材の圧送ができなくなる恐れがある。
【0006】
その他の従来技術として、ベントナイトがセメントのカルシウムイオンに凝集される効果に着目し、セメントミルクとベントナイトミルクとを撹拌混合することにより可塑性注入材を得る技術が提案されている(特許文献1)。
しかし、係る従来技術(特許文献1)におけるセメントミルクとベントナイトミルクの混合液では、高い強度を発現することができない。
また、特に重要構造物直下等では、空隙に充填されるグラウト材に対して、24N/mm2以上の強度が必要とされるが、従来技術に係る可塑性グラウト材では、その様な強度(24N/mm2以上の強度)を発現することができない。
さらに、従来の可塑性グラウト材は、厳格な配合により可塑性グラウト材としての所定の品質を確保しているが、厳格な配合が要求される従来の可塑性グラウト材では、刻々と変化する工事現場に対応することが出来ない。
【特許文献1】特開平11−310779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、施工に要求される強度を発現することが出来て、フロー値やブリージング率が施工に際して定められた基準を充足しており、しかも、所定の品質を確保するために厳格な配合を必要とせず、刻々と変化する工事現場に対応して配合を変更可能な可塑性グラウト材の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の可塑性グラウト材は、セメントと、水と、凝集剤と、水和反応促進剤と、水溶性セルロースを包含しており、セメントに対する水の比率(W/C)が40%〜60%であり、セメントに対する凝集剤の比率が0.04%〜0.08%であり、セメントに対する水和反応促進剤の比率が1.0%以下であり、水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上であることを特徴としている(請求項1)。
【0009】
そして本発明の可塑性グラウト材は、セメントと、水と、凝集剤と、水溶性セルロースを包含しており、セメントに対する水の比率(W/C)が40%〜60%であり、セメントに対する凝集剤の比率が0.04%〜0.08%であり、水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上であることを特徴としている(請求項2)。
すなわち、上述した可塑性グラウト材(請求項1の可塑性グラウト材)において、水和反応促進剤を包含しないことが可能である。
【0010】
また本発明の可塑性グラウト材は、セメントと、水と、凝集剤と、水和反応促進剤と、水溶性セルロースを包含しており、セメントに対する水の比率(W/C)が120%〜150%であり、セメントに対する凝集剤の比率が0.15%〜0.8%であり、セメントに対する水和反応促進剤の比率が1.0%〜3.0%であり、水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上であることを特徴としている(請求項3)。
【発明の効果】
【0011】
上述する構成を具備する本発明の可塑性グラウト材によれば、富配合の場合には(請求項1、請求項2)、フロー値(静置時)、ブリージング率、一軸圧縮強度の何れにおいても、必要な基準(例えば、「矢板工法トンネルの背面空洞注入工設計・施工指針:平成18年10月(東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社)」で示す基準)を上回ることが出来る。
そして、一軸圧縮強度については、係る基準を遥かに上回る高い強度を達成することが出来る。
また、エアを混入することにより、一軸圧縮強度や比重を適宜調整することも出来る。
【0012】
また、本発明の可塑性グラウト材によれば、貧配合(請求項3)にして製造コストの低減を図った場合においても、フロー値(静置時)、ブリージング率、一軸圧縮強度について、上述した必要な基準を上回ることが出来る。
【0013】
ここで、可塑性グラウト材は、可塑性と同時に、水に希釈されない性質、水中不分離性が要求される。
本発明の可塑性グラウト材によれば、水溶性セルロースが水の添加量の0.2%以上添加されているので、係る水中不分離性を発揮することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
可塑性グラウト材に要求される品質を示す評価項目毎に基準があり、「矢板工法トンネルの背面空洞注入工設計・施工指針:平成18年10月(東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社)」で示す基準が広く適用されている。そして本発明の実施形態に係る可塑性グラウト材においても、流動性、非収縮性、強度について、当該基準(東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社の基準:規格値)を充足するという要請が存在する。
【0015】
係る要請に鑑みて、本発明の実施形態に係る可塑性グラウト材においては、流動性の基準として規格値のフロー値(静置時)が80mm〜155mmとする。
また非収縮性の基準は、規格値が28日硬化後収縮率2%以下(2cm/100cm)であることから、ブリージング率が1%以下とする。
さらに強度の基準としては、規格値の一軸圧縮強度(σ28)が1.5N/mm2以上とし、さらに高強度型の可塑性グラウト材については一軸圧縮強度(σ28)が24N/mm2以上であることを基準としている。
そして、本発明の実施形態に係る可塑性グラウト材においては、上記全ての条件を充足することを目標とした。
【0016】
第1実施形態は、いわゆる富配合の場合の実施形態であり、W/Cが50%前後における実施形態である。この実施形態では、上述した条件(フロー値、ブリージング率、一軸圧縮強度に係る条件)を充足した上で、さらに一軸圧縮強度を向上した可塑性グラウト材を得ることを目的としている。
第2実施形態は、いわゆる貧配合の場合の実施形態であり、W/Cが、140%前後における実施形態である。この実施形態では、貧配合とすることにより、出来る限り製造コストを低減化して、上述の条件(フロー値、ブリージング率、一軸圧縮強度に係る条件)を充足することを目的としている。
【0017】
第1実施形態及び第2実施形態に係る可塑性グラウト材は、水、セメントに加えて、凝集剤、水和反応促進剤、水溶性セルロースを配合に有している。
凝集剤には様々な種類があり、無機系の凝集剤(吸着性天然鉱物、アルミニウム系、ポリ硫酸第二鉄等)や、高分子系の凝集剤(アニオン系ポリアクリルアミド、カチオン系ポリアクリルアミド)が一般に知られている。その様な凝集剤は、例えば、粘土・シルトなどの小さな粒子を捕捉してフロック(凝集)を形成して水Wとの分離を図り、或いは土の固体化を図るために用いられる。
少量の添加で最も顕著な可塑性を発現させる材料としては、高分子系の凝集剤(ポリアクリルアミド)が特に好適である。そのため、以下の実施形態及び実験例では、凝集剤として、ポリアクリルアミドを用いた。
【0018】
水和反応促進剤として、例えば、アルミン酸ソーダ(化学名:アルミン酸ナトリウム:NaAl2O3)を用いるのが好ましい。そして、以下の実施形態及び実験例では、水和反応促進剤として、例えば、アルミン酸ソーダを選択した。
水溶性セルロースとして、例えば、セルロース系水溶性高分子材料を用いることが出来る。以下の実施形態及び実験例においても、水溶性セルロースとして、セルロース系水溶性高分子材料を用いた。
【0019】
第1実施形態及び第2実施形態に係る可塑性グラウト材では、凝集剤、水和反応促進剤、水溶性セルロースの他に、「所要のコンステンシー及び強度を得るのに必要な単位水量及び単位セメント量を減少させる薬剤」、すなわち減水剤を添加している。
そして第1実施形態及び第2実施形態では、グラウト材の搬送途中での凝結を防止するため、遅延型減水剤を用いている。ここで遅延型減水剤としては、例えばポリカルボン酸エーテル系化合物を主成分とする遅延型減水剤が、好適である。以下、本明細書では、遅延型減水剤を「減水剤」と表記する。
【0020】
第1実施形態
上述した様に、第1実施形態に係る可塑性グラウト材は、富配合の可塑性グラウト材であり、その組成は次の通りである。
セメントに対する凝集剤の比率が0.04%〜0.08%。
セメントに対する水和反応促進剤の比率が1.0%以下。
水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上。
以下、実験1〜実験7を参照して、係る組成について説明する。
【0021】
実験1
実験1は、水和反応促進剤の添加量の上限に関する実験である。
実験1では、W/C=50%のセメントミルクに、セメント質量の0.50%の減水剤と、水和反応促進剤をセメント質量の0%〜2.5%まで、0.5%刻みで変化させた試験材料を用いた。
より詳細には、実験1の試験材料の作成にあたっては、先ず、水と減水剤とセメントをホバート型ミキサーによって1分間攪拌し、グラウト材を作った。また、水と水和反応促進剤を調理用ハンドミキサーによって1分間攪拌して、可塑材を作った。
そして、グラウト材と可塑材を混合し、ホバート型ミキサーによって1分間攪拌した。
係る試験材料の組成を表1に示す。
表1
【0022】
この様にして作成された試験材料を用いて、静置時のフロー値測定試験(JHS313)を行った。
その結果が、図1における水和反応促進剤添加量と静置フロー値との特性として示されている。
図1において、W/C=50%の場合、水和反応促進剤添加量がセメント添加量の1.5%以上では、静置フロー値がきわめて小さくなり、試験材料の流動性が急激に低下している。
従って、実験1の結果、W/C=50%の場合(富配合の場合)には、水和反応促進剤の添加量をセメント質量の1.0%以下にするべきことが分かった。
【0023】
実験2
実験2も、水和反応促進剤の添加量に関する実験であり、W/C=50%である場合に、水和反応促進剤の添加量と静置フロー値との関係を、経過時間毎に計測した。
実験2における実験材料及びその製造方法は、実験1と同様である。
実験2でも、水和反応促進剤添加量と静置フロー値との特性を求めた。実験2の結果が、図2で示されている。
図2では明示されていないが、水和反応促進剤添加量がセメント添加量の1.5%以上になると、実験材料を混合している時点で流動性が悪くなり、非常に硬い材料となってしまうことが分かった。係る事実からも、W/C=50%の場合(富配合の場合)、水和反応促進剤の添加量をセメント質量の1.0%以下にするべきことが分かった。
すなわち、実験1および実験2から、W/C=50%の場合、可塑性グラウト材の圧送性等を考慮し、著しく作業性が低下しないようにするためには、水和反応促進剤の添加量をセメント質量の0%〜1.0%にするべきことが確認できた。
【0024】
ここで、実験2から、第1実施形態に係る可塑性グラウト材では、水和反応促進剤の添加量をセメント質量の0%、すなわち水和反応促進剤を包含しないことが可能であることが明らかになった(請求項2に係る可塑性グラウト材)。
また、第1実施形態に係る可塑性グラウト材において、水和反応促進剤の添加量をセメント質量の1.0%以下にする必要がある旨も明らかになった(請求項1に係る可塑性グラウト材)。
【0025】
実験3
実験3は、水溶性セルロースの添加量に関する実験である。
実験3では、W/C=50%のセメントミルクに、セメント質量の0.50%の減水剤と、水和反応促進剤をセメント質量の0%〜1.0%まで0.5%刻みで変化させ、且つ、水溶性セルロースを水添加量の0%〜0.5%まで0.1%刻みで変化させた試験材料を用いた。
実験3の試験材料の作成にあたっては、先ず、水と減水剤とセメントをホバート型ミキサーによって1分間攪拌し、グラウト材を作った。また、水と水和反応促進剤と水溶性セルロースを調理用ハンドミキサーによって1分間攪拌して、可塑材を作った。
そして、グラウト材と可塑材を混合し、ホバート型ミキサーによって1分間攪拌した。
係る試験材料の組成を表2に示す。
表2
【0026】
この様にして作成された試験材料を用いて、静置時のフロー値測定試験(JHS313)を行った。
その結果が、図3における水和反応促進剤添加量をセメント添加量の0%、0.5%、1.0%添加した場合の各々における水溶性セルロース添加量と静置フロー値との特性として示されている。
図3において、水溶性セルロース添加量を水添加量の0.2%以上添加すれば、水和反応促進剤添加量がセメント添加量の0%、0.5%、1.0%の全ての場合について、ブリージング率が1%以下に抑制できることが判明した。
そして実験3の結果、W/C=50%の場合(富配合の場合)には、水溶性セルロース添加量を水添加量の0.2%以上にするべきことが分かった。
【0027】
実験4
実験4は、凝集剤の添加量に関する実験である。
実験1〜3により、W/C=50%の場合、水和反応促進剤の添加量をセメント添加量の0%〜1.0%、水溶性セルロース添加量を水添加量の0.2%以上にするべきことが分かっている。
係る実験結果に基づいて、実験4では、W/C=50%、水溶性セルロース添加量を水添加量の0.2%にして、水和反応促進剤の添加量をセメント添加量の0〜1.0%の範囲で0.5%刻みの3通りについて、凝集剤添加量をセメント添加量の0.02%〜0.08%の範囲で変更した試験材料を作成した。
【0028】
実験4の試験材料の作成にあたっては、先ず、水と減水剤とセメントをホバート型ミキサーによって1分間攪拌し、グラウト材を作った。また、水と凝集剤と、水和反応促進剤と水溶性セルロースを調理用ハンドミキサーによって1分間攪拌して、可塑材を作った。
そして、グラウト材と可塑材を混合し、ホバート型ミキサーによって1分間攪拌した。
係る試験材料の組成を表3に示す。
表3
【0029】
表3で示す試験材料について、静置時のフロー値測定試験(JHS313)を行った。
その結果が、図4において、水和反応促進剤添加量をセメント添加量の0%、0.5%、1.0%添加した場合の各々における凝集剤添加量と静置フロー値との特性として、示されている。
図4から、凝集剤添加量をセメント添加量の0.04%〜0.08%にすれば、水和反応促進剤添加量を適宜設定することにより、目標とする「フロー値が80mm〜155mm」という物性が達成できることが分かった。
ブリージング率が1%以下という点については、表3で示すように、実験4の試験材料は全て水溶性セルロースが水添加量の0.2%となっている。そして、実験3の結果より、水溶性セルロースが水添加量の0.2%であれば、試験材料のブリージング率が1%以下になることが判明している。
【0030】
実験5
実験5は、実験3と同様に、水溶性セルロースの添加量に関する実験である。但し、実験5は、実験3の様にブリージング率を計測する実験ではなく、水中不分離性に関する実験である。
可塑性グラウト材は、可塑性と同時に、水中コンクリートで要求される「水に希釈されない」性質である水中分離抵抗性も要求される。
本発明に係るグラウト材で水溶性セルロースを添加するのは、ブリージング率を1%以下に抑制することに加えて、水中分離抵抗性を獲得するためでもある。
実験5で使用した試験材料の組成は下表4の通りである。そして、試験材料は実験1〜実験4と同様に製造された。
表4
【0031】
実験5は、図5で示すように、幅450mm、奥行き300mm、高さ300mmの水槽CAに水を充填し、シリンダ(図示せず:JHS規格:φ80mm、高さ80mm)に充填した試験材料Mを水槽CAの底面に静置し、シリンダをゆっくりと引き上げた後、水槽内の水質(pH)の変化を60分間測定する。
測定は、水槽CAの水面下10cmに設置したpH計Pm1を用いても良いし、水槽CAの水面下10cmの試料採取ポイントSP1から水槽CA内の水をスポイトにより採取し、採取した水のpHを別途設けたpH計測装置で計測しても良い。
【0032】
実験5の試験結果を図6で示す。
図6において、水溶性セルロースの添加量が水添加量の0.2%の試験材料と、0.25%の試験材料と、0.33%の試験材料においては、下表5で示すように時間が経過してもpHは変化しておらず、セメントを包含するグラウト材である試験材料が水槽CA内の水に殆ど溶解しないことが明らかである。
すなわち、可塑性グラウト材の水中分離抵抗性を向上する意味からも、水溶性セルロースは水添加量の0.2%以上添加することが好適であることが明らかになった。
表5
【0033】
実験6
実験6では、セメント添加量或いはW/Cの範囲について、実験を行なった。
実験1〜実験5では、W/Cを50%に固定して実験を行なっているが、実験6では、実験1〜実験5で確認された組成、すなわち凝集剤添加量がセメント添加量の0.04%〜0.08%、水和反応促進剤の添加量がセメント添加量の0〜1.0%、水溶性セルロース添加量が水添加量の0.2%以上にした上で、W/Cの数値を30%〜70%の範囲において、5%刻みで変更して、適不適を判断した。
実験6の結果を表6で示す。
表6
【0034】
表6で示すように、W/Cが40%を下回った場合には、上述した範囲内でその他の組成を調整しても、フロー値が80mm未満となった。
一方、W/Cが60%を越えた場合には、上述した範囲内でその他の組成を調整しても、フロー値が155mmを上回る数値となった。
実験6の結果より、40%≦W/C≦60%とするべきことが判明した。
【0035】
実験7
実験7は、実験1〜実験6で確認された組成の可塑性グラウト材が、必要な規格を充足するか否かを実験した。
実験1〜実験6で確認された組成から、試験材料として、下表7で示す様な2種類の組成の可塑性グラウト材(表7では「配合1」、「配合2」と表示)を製造した。配合2は配合1に気泡を混合した(気泡混合率40%)した実験材料である。
そして、「(株)高速道路総合技術研究所(NEXCO総研)規格JHS覆工背面空洞注入材の適用性確認試験方法(案)」に準拠した試験を行ない、フロー値、ブリージング率、一軸圧縮強度(材齢28日)、比重その他を計測した。
表7
【0036】
配合1のフロー値(静置時)は136mm、配合2のフロー値(静置時)は152mmであり、80mm〜155mmという目標値の範囲内である。
配合1、配合2のブリージング率は共に0%であり、1%以内という目標をクリアしている。
そして、配合1の一軸圧縮強度は33.7N/mm2、配合2の一軸圧縮強度は8.2N/mm2であり、何れも、目標とする一軸圧縮強度である1.5N/mm2を上回る強度を実現した。特に、配合1では、33.7N/mm2という非常に高い強度を実現している。
実験7から、第1実施形態に係る可塑性グラウト材は、要求された条件を充足することが明らかになった。
【0037】
ここで、配合1の比重は1.8であり、「矢板工法トンネルの背面空洞注入工設計・施工指針:平成18年10月(東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社)」で示す基準の比重(1.1〜1.5)よりも大きい数値となっているので、トンネルの背面すなわちトンネルの天井面における裏込め(例えば図10の空洞3における裏込め)については、配合1の可塑性グラウト材を使用するべきではない。
しかし、例えばトンネル側面における裏込めについては、配合1の可塑性グラウト材を使用することが出来る。
配合1に気泡を混合した配合2では、比重が1.1となり、当該基準(気泡を混合した場合には1.1〜1.2)を充足するので、トンネルの背面における裏込めについて使用可能である。
これ等のことから、第1実施形態に係る可塑性グラウト材は、気泡を混合することにより比重を自在に調整して、適用の範囲を広げることが可能である旨が明らかになった。
【0038】
第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態に係る可塑性グラウト材について、実験8〜実験13を参照して説明する。
第2実施形態に係る可塑性グラウト材は、貧配合の可塑性グラウト材であり、その組成は次の通りである。
セメントに対する凝集剤の比率が0.15%〜0.8%。
セメントに対する水和反応促進剤の比率が1.0%〜3.0%。
水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上。
【0039】
実験8
実験8は、水和反応促進剤の添加量の下限に関する実験である。
実験8では、W/C=140%のセメントミルク(貧配合)に、セメント質量の0.25%の減水剤と、凝集剤をセメント質量の0%〜0.90%或いは0%〜0.50%の範囲で変更し、且つ、水和反応促進剤をセメント質量の0%、1.0%、2.0%、3.0%に変更した試験材料を用いた。
試験材料の製造方法は、実験1〜実験4で説明したのと同様である。
実験8で用いられた試験材料の組成を、下表8で示す。
表8
【0040】
表8で示す試験材料について、静置フロー値を計測した(JHS313)。
実験8の結果が、図7で示されている。
図7から明らかなように、水和反応促進剤添加量がセメント添加量の0%では、凝集剤の添加量に拘らず、静置フロー値は目標値(80mm〜155mm)の範囲内とはならない。
実験8より、W/C=140%の場合(貧配合の場合)には、水和反応促進剤の添加量をセメント質量の1.0%以上にするべきことが分かった。
【0041】
実験9
実験9は、水和反応促進剤の添加量の上限に関する実験である。
実験9では、W/C=140%のセメントミルクに、セメント質量の0.25%の減水剤と、水和反応促進剤をセメント質量の1.0%、2.0%、3.0%、4.0%に変更した試験材料を用いた。
試験材料の製造方法は、実験1〜実験4で説明したのと同様である。
実験9で用いられた試験材料の組成を、下表9で示す。
表9
【0042】
この様にして作成された試験材料を用いて、静置時のフロー値測定試験(JHS313)を行った。
その結果が図8で示されている。
図8において、水和反応促進剤添加量が3.0%の特性曲線と、4.0%の特性曲線とは同様な挙動を示している。このことから、水和反応促進剤添加量が3.0%を越えた場合には、同様な特性を示すことが明らかである。
ここで、第2実施形態は製造コストを低減することを大きな目的としているので、W/C=140%の場合(貧配合の場合)には、水和反応促進剤の添加量の上限をセメント質量の3.0%とするべきである。
【0043】
実験10
実験10は、水溶性セルロースの添加量に関する実験である。
実験10では、W/C=140%のセメントミルクに、セメント質量の0.25%の減水剤と、水和反応促進剤をセメント質量の0%、1.0%、2.0%と変更して、且つ、水溶性セルロースを水添加量の0%〜1.0%まで変更した試験材料を用いた。
実験10の試験材料の製造は、実験1〜実験4と同様な手順で行なわれた。
実験10の試験材料の組成を表10に示す。
表10
【0044】
表10の試験材料を用いて、静置時のフロー値測定試験(JHS313)を行った。その結果が、図9で示されている。
図9において、水和反応促進剤添加量がセメント添加量の1.0%、2.0%の場合において、水溶性セルロース添加量が水添加量の0.2%以上となれば、ブリージング率は1%以下に抑制されている。
図9において、水和反応促進剤添加量がセメント添加量の0%であれば、水溶性セルロース添加量が水添加量の0.2%でも、ブリージング率は25%程度である。しかし、実験8で、水和反応促進剤添加量はセメント添加量の1.0%以上とするべきことが分かっており、「水和反応促進剤添加量がセメント添加量の0%」は、その範囲から外れている。
従って、W/C=140%の場合(貧配合の場合)においても、水溶性セルロース添加量を水添加量の0.2%以上にするべきことが分かった。
【0045】
実験11
実験11は、凝集剤の添加量に関する実験である。
実験8〜10により、W/C=140%の場合、水和反応促進剤の添加量をセメント添加量の1.0%〜3.0%、水溶性セルロース添加量をセメント添加量の0.2%以上にするべきことが分かっている。
係る実験結果に基づいて、実験11では、W/C=140%、水溶性セルロース添加量を水添加量の0.2%にして、水和反応促進剤の添加量をセメント添加量の1.0%、2.0%、3.0%の3通りにして、凝集剤添加量をセメント添加量の0.1%〜0.8%の範囲で変更した試験材料を作成した。
実験11の試験材料の製造は、実験1〜実験4と同様の手順で行なった。そして、実験11の試験材料の組成は、下表11に示す。
表11
【0046】
実験11では、表11で示す試験材料について、静置時のフロー値測定試験(JHS313)を行った。
その結果が、図10において、水和反応促進剤添加量をセメント添加量の1.0%、2.0%、3.0%添加した場合の各々における凝集剤添加量と静置フロー値との特性として示されている。
図10において、凝集剤添加量をセメント添加量の0.15%〜0.8%にすれば、水和反応促進剤添加量を適宜設定することにより、目標とする「フロー値が80mm〜155mm」という物性が達成できることが分かった。
ブリージング率が1%以下という点については、表11で示すように、実験11の試験材料は全て水溶性セルロースが水添加量の0.2%となっている。そして、実験10の結果より、水溶性セルロースが水添加量の0.2%であれば、試験材料のブリージング率が1%以下になることが判明している。
【0047】
実験12
実験12では、セメント添加量或いはW/Cの範囲について、実験を行なった。
実験8〜実験11では、W/Cを140%に固定して実験を行なっているが、実験12では、実験8〜実験11で確認された組成、すなわち凝集剤添加量がセメント添加量の0.15%〜0.8%、水和反応促進剤の添加量がセメント添加量の1.0%〜3.0%、水溶性セルロース添加量が水添加量の0.2%以上にした上で、W/Cの数値を110%〜160%の範囲において、5%刻みで変更して、適不適を判断した。
実験12の結果を表12で示す。
表12
【0048】
表12で示すように、W/Cが120%を下回った場合には、上述した範囲内でその他の組成を調整しても、フロー値が80mm未満となった。それと共に、可塑性グラウト材の製造コストが飛躍的に高額になってしまうことが判明した。
一方、W/Cが150%を越えた場合には、上述した範囲内でその他の組成を調整しても、フロー値が155mmを上回る数値となった。
実験12の結果より、120%≦W/C≦150%とするべきことが判明した。
【0049】
実験13
実験13は、実験8〜実験12で確認された組成の可塑性グラウト材が、必要な規格を充足するか否かを実験した。
実験8〜実験12で確認された組成から、試験材料として、下表13で示す様な組成の可塑性グラウト材を製造した。なお、係る可塑性グラウト材(実験材料)では、気泡は混合していない。
そして、「(株)高速道路総合技術研究所(NEXCO総研)規格JHS覆工背面空洞注入材の適用性確認試験方法(案)」に準拠した試験を行ない、フロー値、ブリージング率、一軸圧縮強度(材齢28日)、比重その他を計測した。
表13
【0050】
実験13の実験材料のフロー値(静置時)は131mmであり、80mm〜155mmという目標値の範囲内である。
ブリージング率は0.4%であり、1%以内という目標をクリアしている。
そして、一軸圧縮強度は2.5N/mm2であり、目標とする一軸圧縮強度である1.5N/mm2を上回る強度を実現した。
ここで、一軸圧縮強度に支配的な組成はセメント含有量である。表13には示されていないが、出願人の実験では、表13の組成でW/C=150%とした可塑性グラウト材の一軸圧縮強度は2.3N/mm2であり、目標値をクリアしている。すなわち、第2実施形態における一軸圧縮強度は、1.5N/mm2を上回ることが明らかである。
実験13から、第2実施形態に係る可塑性グラウト材は、要求された条件を充足することが明らかになった。
【0051】
本発明の実施形態によれば、必要に応じて、その強度を高強度まで向上し、或いは、その比重を適宜設定することが出来る。
そして、フロー値、ブリージング率、一軸圧縮強度を、「矢板工法トンネルの背面空洞注入工設計・施工指針:平成18年10月(東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社)」で示す基準を充足する数値にすることが出来る。
さらに、貧配合とした場合には、セメント使用量を節約して、製造コストを低く抑えた状態で、フロー値、ブリージング率、一軸圧縮強度を、上記基準で要求されている範囲にすることが可能である。
【0052】
図示の実施形態や実施例、実験例はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない旨を付記する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実験1の結果を示す特性図。
【図2】実験2の結果を示す特性図。
【図3】実験3の結果を示す特性図。
【図4】実験4の結果を示す特性図。
【図5】水中分離抵抗性の計測する機構の概要を示す模式図。
【図6】実験5の結果を示す特性図。
【図7】実験8の結果を示す特性図。
【図8】実験9の結果を示す特性図。
【図9】実験10の結果を示す特性図。
【図10】実験11の結果を示す特性図。
【図11】裏込め工事を行うトンネルの断面図。
【符号の説明】
【0054】
CA・・・水槽
M・・・試験材料
pH計・・・Pm1
SP1・・・試料採取ポイント
1・・・左右側壁コンクリート
2・・・アーチコンクリート
3・・・空洞
H1〜H3・・・注入口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、水と、凝集剤と、水和反応促進剤と、水溶性セルロースを包含しており、セメントに対する水の比率が40%〜60%であり、セメントに対する凝集剤の比率が0.04%〜0.08%であり、セメントに対する水和反応促進剤の比率が1.0%以下であり、水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上であることを特徴とする可塑性グラウト材。
【請求項2】
セメントと、水と、凝集剤と、水溶性セルロースを包含しており、セメントに対する水の比率が40%〜60%であり、セメントに対する凝集剤の比率が0.04%〜0.08%であり、水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上であることを特徴とする可塑性グラウト材。
【請求項3】
セメントと、水と、凝集剤と、水和反応促進剤と、水溶性セルロースを包含しており、セメントに対する水の比率が120%〜150%であり、セメントに対する凝集剤の比率が0.15%〜0.8%であり、セメントに対する水和反応促進剤の比率が1.0%〜3.0%であり、水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上であることを特徴とする可塑性グラウト材。
【請求項1】
セメントと、水と、凝集剤と、水和反応促進剤と、水溶性セルロースを包含しており、セメントに対する水の比率が40%〜60%であり、セメントに対する凝集剤の比率が0.04%〜0.08%であり、セメントに対する水和反応促進剤の比率が1.0%以下であり、水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上であることを特徴とする可塑性グラウト材。
【請求項2】
セメントと、水と、凝集剤と、水溶性セルロースを包含しており、セメントに対する水の比率が40%〜60%であり、セメントに対する凝集剤の比率が0.04%〜0.08%であり、水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上であることを特徴とする可塑性グラウト材。
【請求項3】
セメントと、水と、凝集剤と、水和反応促進剤と、水溶性セルロースを包含しており、セメントに対する水の比率が120%〜150%であり、セメントに対する凝集剤の比率が0.15%〜0.8%であり、セメントに対する水和反応促進剤の比率が1.0%〜3.0%であり、水に対する水溶性セルロースの比率が0.2%以上であることを特徴とする可塑性グラウト材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−112024(P2010−112024A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283878(P2008−283878)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(390036504)日特建設株式会社 (99)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(390036504)日特建設株式会社 (99)
【Fターム(参考)】
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