説明

可塑性油中水型乳化油脂組成物

【課題】 水分含量が高く、乳化が不安定な状況においても、乳化剤を用いなくても乳化が安定で、なおかつ乳の風味の豊かな油中水型可塑性油脂組成物を提供すること。
【解決手段】 乳化剤を含有しない可塑性油中水型乳化油脂組成物であって、可塑性油中水型乳化油脂組成物全体中、カゼイン含量0.45重量%以下で、且つ水分含量が20〜70重量%であり、さらに乳由来の原料を含有する可塑性油中水型乳化油脂組成物をもちいて、マーガリンなどを作製すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーガリンなどの可塑性油中水型乳化油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マーガリンなどの食品用の可塑性油中水型乳化油脂組成物は、一般的には乳化剤を配合し、乳化形成過程、冷却捏和工程などを経て製造される。これらの食品は油中水型の乳化形態をしており、長期保存の為には水滴が安定であることが必要である。仮に乳化が不安定で水が分離すればカビの発生など衛生面での問題が生じるだけでなく、物性面でも品質の劣化が起きる。しかし、近年、消費者の健康志向に対するニーズから乳化安定化の為の乳化剤等の添加物の健康への影響が懸念されており、乳化剤を使用しないか又は添加量を低減させることが求められている。更に、乳化剤等の添加物は、独特の異味、異臭を有する為、使用しないか、風味に影響を与えない量にまで低減させる事が望ましい。
【0003】
また、カロリーの過剰摂取を防ぐ為やコストを低減するために、可塑性油中水型乳化油脂組成物の油脂分を減らし水分を増大させた製品へのニーズが増大している。しかしながら、乳化剤を使用しなかったり、その使用量を低減したりした場合、通常呈味剤として用いられる脱脂粉乳を入れると、激しい水分離が確認されるため、風味を維持したまま水分含量を高めることは困難な状況である。
【0004】
高含水量の可塑性油中水型乳化油脂組成物を、加圧晶析して得る方法が特許文献1に記載されているが、脱脂粉乳の添加に関する記載はなく、他の呈味材の添加についても記載がない。
【0005】
脱脂乳以外の乳製品を含む可塑性油中水型乳化油脂組成物としては、酵素処理卵黄を含有することを特徴とする可塑性油中水型乳化油脂組成物に、副原料としてバターミルクを用い得る旨が特許文献2に記載されている。但し、高水分量の記載はないし、油中水型乳化油脂組成物におけるカゼイン含量と水分離の関係に係る記載はない。また、乳清蛋白を含有する、マーガリンなどに利用可能な油中水型乳化油脂組成物が特許文献3に、さらには、乳清蛋白を含む低脂肪スプレッドが特許文献4に記載されている。しかし、何れの文献にも油中水型乳化油脂組成物におけるカゼイン含量と水分離の関係に係る記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−254816号公報
【特許文献2】特開2001−112413号公報
【特許文献3】特開2001−8617号公報
【特許文献4】特表2007−509619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、水分含量が高く、乳化が不安定な状況においても、乳化剤を用いなくても乳化が安定で、なおかつ乳の風味の豊かな油中水型可塑性油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、乳タンパク質の一種であるカゼインが激しく水分離する原因であることを見出し、加えて乳風味を付与する呈味材として脱脂粉乳の変わりにカゼイン量の少ない乳原料すなわち、膜分離などを用いてカゼイン量を相対的に低減させた脱脂乳、バターミルク、乳清、乳脂などを用い、全体のカゼインの量を水分離に影響しない程度の量に制限すれば、作製可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の第一は、乳化剤を含有しない可塑性油中水型乳化油脂組成物であって、可塑性油中水型乳化油脂組成物全体中、カゼイン含量0.45重量%以下で、且つ水分含量が20〜70重量%であり、さらに乳由来の原料を含有する可塑性油中水型乳化油脂組成物に関する。好ましい実施態様は、カゼイン含量が可塑性油中水型乳化油脂組成物全体中0.25重量%以下である上記記載の可塑性油中水型乳化油脂組成物に関する。より好ましくは、乳由来の原料が、バターミルク、ホエー、乳脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である上記記載の可塑性油中水型乳化油脂組成物、更に好ましくは、乳由来の原料の含有量が、可塑性油中水型乳化油脂組成物全体中0.5〜5.0重量%である上記記載の可塑性油中水型乳化油脂組成物、特に好ましくは、圧力晶析をしてなる上記記載の可塑性油中水型乳化油脂組成物、に関する。本発明の第二は、上記記載の可塑性油中水型乳化油脂組成物を含んでなる食品に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に従えば、水分含量が高く、乳化が不安定になりやすい状況においても、乳化剤を用いなくても乳化が安定で、なおかつ乳の風味の豊かな油中水型可塑性油脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例8で用いた製造システム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明の可塑性油中水型乳化油脂組成物は、乳化剤を含有せず、水分含量が多く、カゼイン含量が特定量以下と少なく、さらに乳由来の原料を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の可塑性油中水型乳化油脂組成物は、乳化剤を実質的に含有せず、ここで乳化剤とは、食品衛生法やJAS法上、表示義務のある乳化剤のことで、一般に食品に用いられる乳化剤であり、例えばグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド、大豆レシチン、卵黄レシチン、酵素処理卵黄レシチンなどが挙げられる。なお、風味を損ねない程度の微量の乳化剤の含有は、本発明の技術範囲内である。
【0014】
本発明におけるカゼインとは、乳原料に含まれる乳タンパク質の内、20℃でpH4.6にした時に沈殿してくるタンパク質画分のことである。カゼインの含有量は、少ないほど水分離が起こりにくいため好ましく、可塑性油中水型乳化油脂組成物全体中、0.45重量%以下が好ましく、0.25重量%以下がより好ましい。0.45重量%より多いと、水分含量が多くなる程急激に乳化が不安定となり水分離する場合がある。
【0015】
本発明の乳由来の原料としては、カゼイン含量が可塑性油中水型乳化油脂組成物全体中、0.45重量%を超えなければ特に限定はないが、バターなどの乳脂、クリーム、バターミルク、チーズ、クリームチーズ、濃縮ホエー,ホエー蛋白濃縮物などの乳清、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、乳飲料、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、発酵乳、トータルミルクプロテイン、精製乳脂、調製乳脂等または上記載物の粉体が挙げられ、これらの中から選ばれた少なくとも1種用いることができる。また、乳由来の原料をできるだけ多く含有させるためには、カゼイン含量の少ないものが好ましく、バターミルク、乳清、乳脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0016】
本発明において、乳由来の原料の含有量に特に制限は無いが、乳脂以外を用いる場合は、可塑性油中水型乳化組成物全体中0.5〜5.0重量%が好ましい。より好ましくは0.5〜3.0重量%、さらに好ましくは0.5重量%〜2.0重量%である。0.5重量%より少ないと、良好な乳風味が得られない場合があり、また本発明の効果を享受できない場合がある。5.0重量%より多いと、コストが高くなり現実的でない場合がある。また、乳由来の原料として乳脂を用いる場合は、可塑性油中水型乳化組成物全体中5〜30重量%が好ましい。5重量%より少ないと、良好な乳風味が得られない場合があり、また本発明の効果を享受できない場合がある。30重量%より多いと、コストが高くなり現実的でない場合がある。
【0017】
本発明の可塑性油中水型乳化油脂組成物において、水相部に用いる水は水道水や天然水等を用いることができるし、牛乳や液糖等の水を含有する食品素材として配合することもできる。水相部に含有する水分量は、可塑性油中水型乳化油脂組成物全体中20〜70重量%であり、好ましくは25〜60重量%である。70重量%より多いと著しく乳化が不安定となり水分離が発生する場合がある。また20重量%未満であれば、本発明を用いなくても水分離のない安定な組成物を得ることができ、本発明の効果を充分に享受できない場合がある。
【0018】
本発明の可塑性油中水型乳化油脂組成物に使用する油脂は、食用であれば特に限定はないが、従来マーガリンやショートニングに用いられる油脂が好ましく、例えば、コーン油、亜麻仁油、桐油、サフラワー油、かや油、胡麻油、綿実油、芥子油、向日葵油、菜種油、大豆油、辛子油、カポック油、米糠油、胡桃油、落花生油、オリーブ油、椿油、茶油、ひまし油、椰子油、パーム油、パーム核油、クヘア油、葡萄油、カカオ脂、シア脂、コクム脂、ボルネオ脂等の植物油や、魚油、鯨油、牛脂、豚脂、鶏油、卵黄油、羊油等の動物油から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、また、これらの油脂をエステル交換したものや、硬化、分別したもの等、通常食用に供されるすべての油脂類を用いることもできる。
【0019】
本発明においては、必要に応じて前記していない水溶性成分を水相部に、また油溶性成分を油相部に含有させてもよく、例えば食塩、糖類、塩類、各種エキス類、香辛料等を用いてもよい。また、上記以外の成分として通常の可塑性油中水型乳化組成物に使用される香料、着色料及び酸化防止剤等を用いることができる。これら上記の成分について、水溶性、油溶性を併せ持っている場合は、水相部、油相部何れに含有させても良い。
【0020】
上記糖類としては、砂糖、果糖、ブドウ糖、水飴、還元水飴、はちみつ、異性化糖、転化糖、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチチオオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、テアンデオリゴ糖、大豆オリゴ糖等)、トレハロース、糖アルコール(マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、パラチニット、キシリトール、ラクチトール等)、砂糖結合水飴等をあげることができ、粉糖でも液糖でも構わない。更に従来公知若しくは、将来知られ得る甘味成分も糖類の代わりに用いることができる。具体的にはアスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、カンゾウ抽出物(グリチルリチン)、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア抽出物、ステビア粉末等の甘味成分を用いてもよい。
【0021】
本発明の可塑性油中水型乳化油脂組成物の製造方法を以下に例示する。
【0022】
前記のような水相部、油相部をそれぞれ調製した後、両者を混合し、油中水型乳化物を作製する。均質化した後、加熱殺菌処理し、ボテーターまたはコンビネーター、パーフェクターのような従来公知のマーガリン製造機などを用いて急冷捏和することによって本発明の可塑性油中水型乳化油脂組成物得ることができる。
【0023】
前記均質化は、常法により行うことができる。水相部と油相部の両者を乳化混合し、この乳化液の均質化をおこなってもよく、更に均質化は、二段階均質化など、均質化を数回繰り返しても良い。均質化は、市販のホモミキサーやホモジェナイザー等の強いせん断力を有する乳化機にて行うことができる。また均質化機は用いなくても良い。
【0024】
加熱殺菌処理は、タンクでのバッチ式やプレート式熱交換器やチューブラ式熱交換器により加熱殺菌する方法を挙げることができるが、いずれの方法を用いても構わない。
【0025】
また、本発明の可塑性油中水型乳化油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で窒素、空気等を含気させても、させなくても構わない。
【0026】
本発明の用途は特には限定しないが、練りこみ、ロールイン、フィリング、サンド、トッピング、スプレッド用としての使用などが挙げられる。可塑性油中水型乳化油脂組成物を含有した食品の具体的例としては、食パン、菓子パン、サンドロール、バターロール、デニッシュ、ペーストリー、バラエティブレッド、ソフトロール、ハードロール、スイートロール、蒸しパン、蒸しケーキ、パイ等のベーカリー製品、バターケーキ、スポンジケーキ、クッキー、ビスケット、クラッカー、プレッツェルなどの焼き菓子製品などが挙げられる。なお、本発明の可塑性油中水型乳化油脂組成物の上記食品における使用量は、各用途における通常の量で良く、特に制限されない。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0028】
<乳化液の安定性評価>
油相部に水相部を徐々に添加しながら十分に攪拌混合した油中水型乳化液をスパーテルで掬い、60℃に温調した湯の中へ落としたときの液滴の分散状態を目視で評価した。その際の評価基準は、以下の通りであった。○:油滴がしっかりと水滴をホールドし、分散しない、△:最初はホールドしているが攪拌すると分散する、×:落とした直後に分散する。
【0029】
<乳風味評価>
実施例および比較例で得られた可塑性油中水型乳化油脂組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日又は1ヶ月保管した後、熟練した5人のパネラーに食べてもらい、以下の評価基準で点数化し、その平均点を評価点とした。5点:乳風味を強く感じる、4点:乳風味をやや強く感じる、3点:乳風味をやや弱く感じる、2点:乳風味を弱く感じる、1点:乳風味をほとんど感じない。
【0030】
<キメ評価>
実施例および比較例で得られた可塑性油中水型乳化油脂組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日又は1ヶ月保管した後、20℃に温調し、アルミホイルの上に製菓ナイフ(パレットナイフ)で延ばし、ナッペ表面の状態を目視で評価した。その際の評価基準は、以下の通りであった。5点:滑らかでキメ細かい、4点:ほぼ滑らかでキメが細かい、3点:若干のムラがある、2点:部分的にムラが目立ちキメ粗い、1点:全体にムラがありキメ非常に粗い。
【0031】
<水分離評価>
実施例および比較例で得られた可塑性油中水型乳化油脂組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日又は1ヶ月保管した後、20℃に温調し、アルミホイルの上に製菓ナイフ(パレットナイフ)で延ばし、水分離の有無を目視で評価した。その際の評価基準は、以下の通りであった。◎:水分離なし、○:若干表面が光るが水滴は見られない、△:水滴が所々に見られる、×:水滴が前面に見られる。
【0032】
(製造例1) エステル交換油1の作製
パームステアリン:70重量%及びパーム核オレイン:30重量%を混合し、90℃、真空下で脱水を行った。ナトリウムメチラート:0.30重量%を加え、90℃、窒素気流下で30分間ランダムエステル交換反応を行い、水を加えて反応停止後、水洗した。次に、活性白土:3.0重量%を加え、減圧下で攪拌して20分後に全量濾過してエステル交換油脂1を得た。
【0033】
(製造例2) エステル交換油2の作製
パームステアリン:70重量%及びパーム核オレイン:30重量%の代わりにパーム油:75重量%及びパーム核オレイン:25重量%を用いた以外は、製造例1と同様にしてエステル交換油脂2を得た。
【0034】
(実施例1)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物1の油相部80.00重量%に対して、40℃に加温した水19.15重量%に脱脂粉乳0.85重量%(カゼイン含量0.24重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し、その後約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離もなく、通常のマーガリンと同等のツヤとキメであり、やや弱い乳風味を示した。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
(実施例2)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物1の油相部60.00重量%に対して、水39.15重量%に脱脂粉乳0.85重量%(カゼイン含量0.24重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離もなく、通常のマーガリンと同等のツヤとキメと共にやや弱い乳風味を示した。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0038】
(実施例3)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物2の油相部40.00重量%に対して、水59.50重量%に脱脂粉乳0.50重量%(カゼイン含量0.14重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離もなく、通常のマーガリンと同等のツヤとキメと共に弱い乳風味を示した。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0039】
(実施例4)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物2の油相部40重量%に対して、水58.50重量%にWhey Protein Concentrate 80(WPC80)1.50重量%(カゼイン含量0.00重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離もなく、通常のマーガリンと同等のツヤとキメと共に弱い乳風味を示した。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0040】
(実施例5)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物1の油相部80.00重量%に対して、水19.05重量%にバターミルクパウダー0.95重量%(カゼイン含量0.24重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離もなく、通常のマーガリンと同等のツヤとキメであり、やや強い乳風味を示した。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0041】
(実施例6)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物1の油相部60.00重量%に対して、水39.05重量%にバターミルクパウダー0.95重量%(カゼイン含量0.24重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離もなく、通常のマーガリンと同等のツヤとキメと共にやや強い乳風味を示した。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0042】
(実施例7)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物2の油相部40.00重量%に対して、水59.50重量%にバターミルクパウダー0.50重量%(カゼイン含量0.12重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離もなく、通常のマーガリンと同等のツヤとキメと共にやや弱い乳風味を示した。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0043】
(実施例8)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物1の油相部60.00重量%に対して、水39.05重量%にバターミルクパウダー0.95重量%(カゼイン含量0.24重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、図1に示すような乳化槽(1)、ピストンポンプ(2)、3台の冷却捏和装置〔A1ユニット(3)、A2ユニット(5)およびA3ユニット(6)〕及びピンマシン〔Bユニット(9)〕を備えるシステムにおいて、A2ユニット(5)およびA3ユニット(6)における圧力をギアポンプ(4)および(7)により50MPaにコントロールし、A3ユニット(6)出口での品温が10℃、流量が100Kg/hの条件で可塑性油中水型乳化組成物を作製した。
【0044】
前記A1〜A3のAユニットは、内径150mm長さ300mm程度の円筒形ジャケット付き(冷却可能な)熱交換ユニットであり、内部に挿入した掻き取り歯付きのシャフトを回転させることで円筒状内面の結晶を掻き取りながら混合攪拌する掻き取り式熱交換装置であり、本実施例では、前期シャフトが130mmであり、クリアランスといわれる、シャフトとシリンダー内面との間隙が10mmで、内容量が約1320ccのものを使用した。流量が100Kg/hの場合、各シリンダー(Aユニット)当たりの滞留時間は約45秒である。また前記Bユニットは前期Aユニットと同程度の大きさで、シャフトには掻き取り歯はなく、ピンと呼ばれる棒状の突起物が多数設けられた混練装置であり、通常内容量は前期Aユニットに比較して数倍程度大きい。これらのAユニット及びBユニットとしては、公知の構造のものを使用することができる。尚、図1中、符号8は配管である。
【0045】
得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離もなく、通常のマーガリンよりも良好なツヤとキメを示したが、乳風味はやや強い乳風味を示した。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0046】
(実施例9)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物2の油相部40.00重量%に対して、水59.50重量%にバターミルクパウダー0.50重量%(カゼイン含量0.12重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、実施例8と同様にして可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離もなく、通常のマーガリンよりも良好なツヤとキメを示した。乳風味はやや弱い乳風味を示した。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0047】
(実施例10)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物1の油相部78.45重量%に対して、水20.00重量%に脱脂粉乳1.55重量%(カゼイン含量0.44重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離もなく、通常のマーガリンと同等のツヤとキメであり、強い乳風味を感じた。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0048】
(比較例1)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物1の油相部83.50重量%に対して、水15.50重量%に脱脂粉乳1.00重量%(カゼイン含量0.28重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離は確認されず、通常のマーガリンと同等のキメとツヤを示した。やや弱い乳風味を示した。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0049】
(比較例2)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物1の油相部80.00重量%に対して、水18.30重量%に脱脂粉乳1.70重量%(カゼイン含量0.48重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離し、部分的にムラが目立ちキメが粗い物性を示した。風味に関しては水分離したために試験を行うことが出来なかった。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0050】
(比較例3)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物1の油相部60.00重量%に対して、水38.30重量%に脱脂粉乳1.70重量%(カゼイン含量0.48重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離し、部分的にムラが目立ちキメ粗い物性を示した。風味に関しては水分離したために試験を行うことが出来なかった。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0051】
(比較例4)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物2の油相部40.00重量%に対して、水58.30重量%に脱脂粉乳1.70重量%(カゼイン含量0.48重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離し、全体的にムラがあり、キメが非常に粗い物性を示した。風味に関しては水分離したために試験を行うことが出来なかった。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0052】
(比較例5)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物1の油相部80.00重量%に対して、水18.10重量%にバターミルクパウダー1.90重量%(カゼイン含量0.48重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離し、部分的にムラが目立ちキメ粗い物性を示した。風味に関しては水分離したために試験を行うことが出来なかった。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0053】
(比較例6)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物1の油相部60.00重量%に対して、水38.10重量%にバターミルクパウダー1.90重量%(カゼイン含量0.48重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離し、部分的にムラが目立ちキメ粗い物性を示した。風味に関しては水分離したために試験を行うことが出来なかった。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0054】
(比較例7)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物2の油相部40.00重量%に対して、水58.10重量%にバターミルクパウダー1.90重量%(カゼイン含量0.48重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和することで可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離し、部分的にムラが目立ちキメ粗い物性を示した。風味に関しては水分離したために試験を行うことが出来なかった。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0055】
(比較例8)
表1の全配合を混合して得た油脂組成物2の油相部40.00重量%に対して、水58.10重量%にバターミルクパウダー1.90重量%(カゼイン含量0.48重量%)を溶解させた水相部を徐々に添加し約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、実施例8と同様にして可塑性油中水型乳化組成物を作製した。得られた可塑性油中水型乳化組成物を冷蔵庫(約5℃)で1日した後評価したところ、水分離し、若干のムラがありキメが少し粗い物性を示した。風味に関しては水分離したために試験を行うことが出来なかった。それらの評価結果は、表2にまとめた。
【0056】
前記で得られた実施例及び比較例の各種可塑性油中水型乳化組成物は、冷蔵庫(約5℃)で1ヶ月保管した後にも乳風味、キメ、水分離を評価したが、1日後の評価結果と変わらなかった。但し、比較例2〜8については1日保管した後でも水分離していたので、1ヶ月の評価は行わなかった。
【符号の説明】
【0057】
1 乳化槽
2 ピストンポンプ
3 冷却捏和装置(A1ユニット)
4 ギアポンプ
5 冷却捏和装置(A2ユニット)
6 冷却捏和装置(A3ユニット)
7 ギアポンプ
8 配管
9 均質化装置(ピンマシン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤を含有しない可塑性油中水型乳化油脂組成物であって、可塑性油中水型乳化油脂組成物全体中、カゼイン含量0.45重量%以下で、且つ水分含量が20〜70重量%であり、さらに乳由来の原料を含有する可塑性油中水型乳化油脂組成物。
【請求項2】
カゼイン含量が可塑性油中水型乳化油脂組成物全体中0.25重量%以下である請求項1に記載の可塑性油中水型乳化油脂組成物。
【請求項3】
乳由来の原料が、バターミルク、ホエー、乳脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の可塑性油中水型乳化油脂組成物。
【請求項4】
乳由来の原料の含有量が、可塑性油中水型乳化油脂組成物全体中0.5〜5.0重量%である請求項1〜3何れかに記載の可塑性油中水型乳化油脂組成物。
【請求項5】
圧力晶析をしてなる請求項1〜4何れかに記載の可塑性油中水型乳化油脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5記載の可塑性油中水型乳化油脂組成物を含んでなる食品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−220579(P2010−220579A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74035(P2009−74035)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】