説明

可変ピッチプロペラ船の推進制御装置

【課題】プロペラ羽根の翼角を必要に応じていつでも自由に変更することができる可変ピッチプロペラ船の推進制御装置を提供すること。
【解決手段】可変ピッチプロペラ2を装備した可変ピッチプロペラ船の推進制御装置1であって、主機Eの回転数を検出する回転計18からの回転数信号と、前記可変ピッチプロペラ2の翼角を変更するのに用いられる作動油の圧力を検出する圧力計19からの圧力信号とが入力され、前記圧力計19で検出された前記作動油の圧力が閾値を超えた場合には、前記主機Eの回転数を、その時の回転数よりも減少させる制御器3を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変ピッチプロペラを装備した可変ピッチプロペラ船の推進制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示された可変ピッチプロペラ(Controllable Pitch Propeller:CPP)を装備した船舶では、プロペラ本体に対して回動可能に取り付けられた複数枚のプロペラ羽根の翼角(ピッチ角)を、変節油ポンプから供給された作動油の圧力で作動する変節装置を用いて一度に変えることにより、所望の船速が得られるようになっている。
【特許文献1】特開昭60−76499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、水中で回転するプロペラ羽根にはそれぞれ、流体力(以下、「スピンドルトルク」という。)が作用している。
しかしながら、このスピンドルトルクが増大すると、それに伴って変節装置に供給される作動油の圧力も増大し、その圧力が、変節油ポンプで作り出すことのできる圧力を超えてしまった場合には、プロペラ羽根の翼角を変えることができないといった問題点がある。
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、プロペラ羽根の翼角を必要に応じていつでも自由に変更することができる可変ピッチプロペラ船の推進制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明の第1の態様に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置は、可変ピッチプロペラを装備した可変ピッチプロペラ船の推進制御装置であって、主機の回転数を検出する回転計からの回転数信号と、前記可変ピッチプロペラの翼角を変更するのに用いられる作動油の圧力を検出する圧力計からの圧力信号とが入力され、前記圧力計で検出された前記作動油の圧力が閾値を超えた場合には、前記主機の回転数を、その時の回転数よりも減少させる制御器を備えている。
【0006】
本発明の第1の態様に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置によれば、制御器には、主機の回転数を検出する回転計からの回転数信号と、可変ピッチプロペラの翼角を変更するのに用いられる作動油の圧力(あるいは変節油ポンプから送出された作動油の圧力やバルブユニットに供給された作動油の圧力等)を検出する圧力計からの圧力信号とが入力されるようになっている。そして、圧力計で検出された作動油の圧力が閾値(例えば、変節油ポンプやバルブユニット等の最高使用圧力の90%に相当する圧力)を超えた(に達した)場合には、制御器が主機の遠隔操縦装置に回転数信号(制御信号)を出力し、主機の回転数がその時の回転数よりも、例えば、5%減少させられるようになっている。
【0007】
そして、主機が、その時の回転数N1よりも低い回転数N2(例えば、N1×0.95)で運転されることにより、例えば、図2(a)中に太い実線で示す等スピンドルトルク線は、図2(b)中に太い実線で示す等スピンドルトルク線の位置まで下がり、プロペラ羽根に作用するスピンドルトルクが減少し、それに伴って可変ピッチプロペラの翼角を変更するのに用いられる作動油の圧力が減少することとなる。
【0008】
これにより、可変ピッチプロペラの翼角を変更するのに用いられる作動油の圧力は、常に閾値以下に保たれることとなるので、プロペラ羽根の翼角を必要に応じていつでも自由に変更することができる。
【0009】
本発明の第2の態様に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置は、可変ピッチプロペラを装備した可変ピッチプロペラ船の推進制御装置であって、主機の回転数を検出する回転計からの回転数信号と、船速信号とが入力されるようになっているとともに、船速、前記主機の回転数、および前記可変ピッチプロペラの翼角を変化させたときのスピンドルトルクがデータベースとして予め保存された制御器を備えている。
【0010】
本発明の第2の態様に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置によれば、船橋で当直にあたる航海士によって船速が指示され、その船速を得るために最適な主機の回転数が仮設定される。
つぎに、仮設定された主機の回転数で、航海士によって指示された船速を得るために最適な翼角が制御器によって計算され、これら船速、回転数、および翼角に対応するスピンドルトルクを、予め制御器に保存された船速、回転数、および翼角を変化させたときのスピンドルトルクのデータと比較して、現在の船速、回転数、および翼角に対応するスピンドルトルクが適切なもの、すなわち、可変ピッチプロペラの翼角を変更するのに用いられる作動油の圧力が、閾値(例えば、変節油ポンプやバルブユニット等の最高使用圧力の90%に相当する圧力)以下である場合には、現在の船速、回転数、および翼角で運航される。
【0011】
一方、現在の船速、回転数、および翼角に対応するスピンドルトルクが不適切なもの、すなわち、可変ピッチプロペラの翼角を変更するのに用いられる作動油の圧力が、閾値(例えば、変節油ポンプやバルブユニット等の最高使用圧力の90%に相当する圧力)を超える場合には、制御器が主機の遠隔操縦装置に回転数信号(制御信号)を出力し、主機の回転数がその時の回転数よりも、例えば、5%減少させられ、主機の回転数が再度仮設定される。
【0012】
そして、再度仮設定された主機の回転数で、航海士によって指示された船速を得るために最適な翼角が制御器によって再度計算され、これら船速、回転数、および翼角に対応するスピンドルトルクを、予め制御器に保存された船速、回転数、および翼角を変化させたときのスピンドルトルクのデータと比較して、現在の船速、回転数、および翼角に対応するスピンドルトルクが適切なもの、すなわち、可変ピッチプロペラの翼角を変更するのに用いられる作動油の圧力が、閾値(例えば、変節油ポンプやバルブユニット等の最高使用圧力の90%に相当する圧力)以下である場合には、現在の船速、回転数、および翼角で運航される。
【0013】
一方、現在の船速、回転数、および翼角に対応するスピンドルトルクが不適切なもの、すなわち、可変ピッチプロペラの翼角を変更するのに用いられる作動油の圧力が、閾値(例えば、変節油ポンプやバルブユニット等の最高使用圧力の90%に相当する圧力)を超える場合には、制御器が主機の遠隔操縦装置に回転数信号(制御信号)を出力し、主機の回転数がその時の回転数よりも、例えば、5%減少させられ、主機の回転数が再度仮設定される。
以下、同じ手順が繰り返されて、回転数および翼角が決定されることになる。
【0014】
これにより、変節装置に供給される作動油の圧力は、常に閾値以下に保たれることとなるので、プロペラ羽根の翼角を必要に応じていつでも自由に変更することができる。
【0015】
本発明の第3の態様に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置は、可変ピッチプロペラを装備した可変ピッチプロペラ船の推進制御装置であって、主機の回転数を検出する回転計からの回転数信号と、前記可変ピッチプロペラの翼角を変更するのに用いられる作動油の圧力を検出する圧力計からの圧力信号と、船速信号とが入力されるようになっているとともに、前記翼角、前記可変ピッチプロペラ船の喫水、積載量がモニターされ、これらの情報が入力され、かつ、これらの情報をデータベースとして逐次保存する制御器を備えている。
【0016】
本発明の第3の態様に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置によれば、スピンドルトルクが増大し、それに伴って可変ピッチプロペラの翼角を変更するのに用いられる作動油の圧力も増大して、その圧力が、変節油ポンプで作り出すことのできる圧力を超えてしまい、プロペラ羽根の翼角を変えることができなってしまったときの情報(データ)、すなわち、その時の船速、回転数、翼角、喫水、積載量等を制御器に保存しておき、再び同じ状況が起きた場合には、制御器が主機の遠隔操縦装置に回転数信号(制御信号)を出力し、主機の回転数がその時の回転数よりも、例えば、5%減少させられるようになっている。
【0017】
これにより、変節装置に供給される作動油の圧力は、常に閾値以下に保たれることとなるので、プロペラ羽根の翼角を必要に応じていつでも自由に変更することができる。
【0018】
本発明の第4の態様に係る船舶は、第1の態様に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置から第3の態様に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置のいずれかを具備している。
【0019】
本発明の第4の態様に係る船舶によれば、変節装置に供給される作動油の圧力は、常に閾値以下に保たれ、プロペラ羽根の翼角を必要に応じていつでも自由に変更することができるので、速力の増減速を速やかに行うことができ、船舶をより安全に運航することができる。
【0020】
本発明の第5の態様に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御方法は、可変ピッチプロペラを装備した可変ピッチプロペラ船の推進制御方法であって、前記可変ピッチプロペラの翼角を変更するのに用いられる作動油の圧力が閾値を超えた場合には、前記主機の回転数を、その時の回転数よりも減少させる。
【0021】
本発明の第5の態様に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置によれば、圧力計で検出された作動油の圧力が閾値(例えば、変節油ポンプやバルブユニット等の最高使用圧力の90%に相当する圧力)を超えた(に達した)場合には、主機の遠隔操縦装置を操作して、主機の遠隔操縦装置に回転数信号(制御信号)を入力し、主機の回転数をその時の回転数よりも、例えば、5%減少させるようにしている。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置によれば、プロペラ羽根の翼角を必要に応じていつでも自由に変更することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置の第1実施形態を、図1を参照しながら説明する。図1は本実施形態に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置の概略全体構成図である。
図1に示すように、本実施形態に係る可変ピッチプロペラ船の制御装置1は、可変ピッチプロペラ2と、制御器3とを主たる要素として構成されたものである。
【0024】
可変ピッチプロペラ2は、プロペラ軸4と、プロペラ本体5と、変節装置6とを備えている。
プロペラ軸4は、中間軸等を介してメインエンジンと呼ばれる主機Eに接続されており、その内部には、プロペラ本体5を構成するプロペラボス12の内部に形成されたアヘッド(AHEAD)シリンダ室7と連通する第1の油路8、およびプロペラボス12の内部に形成されたアスターン(ASTERN)シリンダ室9と連通する第2の油路10が設けられている。
本実施形態では、第1の油路8は、第2の油路10の半径方向外側に設けられており、この第1の油路8により、変節装置6を構成するバルブユニット11からアヘッドシリンダ室7に作動油(変節油)が供給され、あるいはアヘッドシリンダ室7からバルブユニット11に作動油が戻されるようになっている。また、第2の油路10は、第1の油路8の半径方向内側に設けられており、この第2の油路10により、バルブユニット11からアスターンシリンダ室9に作動油が供給され、あるいはアスターンシリンダ室9からバルブユニット11に作動油が戻されるようになっている。
【0025】
プロペラ本体5は、プロペラボス12と、このプロペラボス12に対して回動可能に取り付けられた複数枚のプロペラ羽根13と、プロペラボス12内に収容されたクロスヘッドピストン14とを備えている。
プロペラボス12は、プロペラ軸4の後端面に取り付けられており、プロペラ軸4とともに回転するようになっている。
【0026】
クロスヘッドピストン14は、バルブユニット11から第1の油路8を介してアヘッドシリンダ室7に作動油が供給され、アスターンシリンダ室9から第2の油路10を介してバルブユニット11に作動油が戻されることにより、プロペラ軸4と反対側(図1において左側)に移動し、またはバルブユニット11から第2の油路10を介してアスターンシリンダ室9に作動油が供給され、アヘッドシリンダ室7から第1の油路8を介してバルブユニット11に作動油が戻されることにより、プロペラ軸4の側(図1において右側)に移動するようになっている。そして、クロスヘッドピストン14がプロペラ軸4と反対側またはプロペラ軸4の側に移動することにより、複数枚のプロペラ羽根13が一度に同じ方向に回動し、プロペラ羽根13の翼角が変えられるようになっている。
【0027】
変節装置6は、バルブユニット11と、給油軸(図示せず)と、コントロールロッド15と、変節油ポンプ16と、変節油サンプタンク(重力タンク)17とを備えている。
バルブユニット11は、変節油ポンプ16から供給された作動油を、制御器3から送られてきた翼角信号(制御信号)に基づいて変節油ポンプ16から第1の油路8へのバルブ(図示せず)を開状態にし、第2の油路10から変節油サンプタンク17へのバルブ(図示せず)を開状態にするとともに、変節油ポンプ16から第2の油路10へのバルブ(図示せず)を閉状態にし、第1の油路8から変節油サンプタンク17へのバルブ(図示せず)を閉状態にするものである。また、バルブユニット11は、変節油ポンプ16から供給された作動油を、制御器3から送られてきた翼角信号(制御信号)に基づいて変節油ポンプ16から第2の油路10へのバルブを開状態にし、第1の油路8から変節油サンプタンク17へのバルブを開状態にするとともに、変節油ポンプ16から第1の油路8へのバルブを閉状態にし、第2の油路10から変節油サンプタンク17へのバルブを閉状態にするものである。
【0028】
給油軸は、中間軸の一種で、プロペラ軸4と主機Eとの間に接続されており、その内部には、バルブユニット11から供給された作動油を第1の油路8または第2の油路10に導き、第1の油路8または第2の油路10を介して戻された作動油をバルブユニット11に導くための穴(図示せず)が穿設されている。
コントロールロッド16は、給油軸の内部に挿入されており、制御器3から送られてきた翼角信号(制御信号)に基づいて、バルブユニット11から供給された作動油を第1の油路8または第2の油路10へ分配給油するものである。
【0029】
変節油ポンプ16は、変節油サンプタンク17から供給された作動油を所定の圧力まで昇圧して、昇圧された作動油をバルブユニット11に向けて送出するものである。
変節油サンプタンク17は、アヘッドシリンダ室7またはアスターンシリンダ室9からバルブユニット11を介して戻された作動油を貯めておくためのものである。
【0030】
制御器3には、主機Eの回転数やプロペラ軸4の回転数等を検出する回転計18からの回転数信号と、第1の油路8内および/または第2の油路10内に供給された作動油の圧力(あるいは変節油ポンプ16から送出された作動油の圧力やバルブユニット11に供給された作動油の圧力等)を検出する圧力計19からの圧力信号とが入力されるようになっている。そして、圧力計19で検出された作動油の圧力が閾値(例えば、変節油ポンプ16やバルブユニット11等の最高使用圧力の90%以上に相当する圧力)を超えた(に達した)場合には、制御器3が主機Eの遠隔操縦装置20に回転数信号(制御信号)を出力し、主機Eの回転数がその時の回転数よりも、5%〜Nmin/Nmax%(Nmin:最低回転数、Nmax:最大回転数、通常Nmin/Nmax≒20%)減少させられるようになっている。
ここで、主機Eの回転数減は、少なくとも10%以上のスピンドルトルク低減のために下限値を5%とし、上限値はその船舶が通常下げられる最低回転数まで減じることができる値で決められる。
【0031】
そして、主機Eが、その時の回転数N1よりも低い回転数N2(例えば、N1×0.95)で運転されることにより、例えば、図2(a)中に太い実線で示す等スピンドルトルク線は、図2(b)中に太い実線で示す等スピンドルトルク線の位置まで下がり、プロペラ羽根13に作用するスピンドルトルクが減少し、それに伴って変節装置に供給される作動油の圧力が減少することとなる。
なお、図2(a)および図2(b)中に太い実線で示す等スピンドルトルク線よりも下方に位置する領域は、変節装置に供給される作動油の圧力が、変節油ポンプで作り出すことのできる圧力を超えてしまい、プロペラ羽根の翼角を変えることができない領域を示している。
【0032】
本実施形態に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置1によれば、変節装置に供給される作動油の圧力は、常に閾値以下に保たれることとなるので、プロペラ羽根の翼角を必要に応じていつでも自由に変更することができる。
【0033】
本発明の第2実施形態に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置について説明する。
本実施形態に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置は、第1の油路8内および/または第2の油路10内に供給された作動油の圧力(あるいは変節油ポンプ16から送出された作動油の圧力やバルブユニット11に供給された作動油の圧力等)を検出する圧力計19から出力された圧力信号の代わりに、図示しない船橋(BRIDGE)に配置されたGPS(Global Positioning System)やログ(船速距離計)等からの船速信号が制御器3に入力されるようになっているとともに、船速、回転数(主機Eの回転数やプロペラ軸4の回転数等)、および翼角を変化させたときのスピンドルトルクがデータベースとして制御器3に保存(記憶)されているという点で上述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
【0034】
さて、本実施形態に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置は、図3に示すフローチャートに従って動作する。
まず、船橋で当直(WATCH)にあたる航海士によって船速(図3においては速力)が指示され、その船速を得るために最適な主機Eの回転数が仮設定される。
つぎに、仮設定された主機Eの回転数で、航海士によって指示された船速を得るために最適な翼角が制御器3によって計算され、これら船速、回転数、および翼角に対応するスピンドルトルクを、予め制御器3に保存された船速、回転数、および翼角を変化させたときのスピンドルトルクのデータと比較して、現在の船速、回転数、および翼角に対応するスピンドルトルクが適切なもの、すなわち、変節装置に供給される作動油の圧力が、閾値(例えば、変節油ポンプ16やバルブユニット11等の最高使用圧力の90%に相当する圧力)以下である場合には、現在の船速、回転数、および翼角で運航される。
【0035】
一方、現在の船速、回転数、および翼角に対応するスピンドルトルクが不適切なもの、すなわち、変節装置に供給される作動油の圧力が、閾値(例えば、変節油ポンプ16やバルブユニット11等の最高使用圧力の90%に相当する圧力)を超える場合には、制御器3が主機Eの遠隔操縦装置20に回転数信号(制御信号)を出力し、主機Eの回転数がその時の回転数よりも、例えば、5%減少させられ、主機Eの回転数が再度仮設定される。
【0036】
そして、再度仮設定された主機Eの回転数で、航海士によって指示された船速を得るために最適な翼角が制御器3によって再度計算され、これら船速、回転数、および翼角に対応するスピンドルトルクを、予め制御器3に保存された船速、回転数、および翼角を変化させたときのスピンドルトルクのデータと比較して、現在の船速、回転数、および翼角に対応するスピンドルトルクが適切なもの、すなわち、変節装置に供給される作動油の圧力が、閾値(例えば、変節油ポンプ16やバルブユニット11等の最高使用圧力の90%に相当する圧力)以下である場合には、現在の船速、回転数、および翼角で運航される。
【0037】
一方、現在の船速、回転数、および翼角に対応するスピンドルトルクが不適切なもの、すなわち、変節装置に供給される作動油の圧力が、閾値(例えば、変節油ポンプ16やバルブユニット11等の最高使用圧力の90%に相当する圧力)を超える場合には、制御器3が主機Eの遠隔操縦装置20に回転数信号(制御信号)を出力し、主機Eの回転数がその時の回転数よりも、例えば、5%減少させられ、主機Eの回転数が再度仮設定される。
以下、同じ手順が繰り返されて、回転数および翼角が決定されることになる。
【0038】
本実施形態に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置によれば、変節装置に供給される作動油の圧力は、常に閾値以下に保たれることとなるので、プロペラ羽根の翼角を必要に応じていつでも自由に変更することができる。
【0039】
本発明の第3実施形態に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置について説明する。
本実施形態に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置は、図示しない船橋に配置されたGPSやログ(船速距離計)からの船速信号が制御器3に入力されるようになっているとともに、プロペラ羽根13の翼角、当該可変ピッチプロペラ船の喫水(DRAFT)、積載量等がモニター(監視)され、それらの情報(データ)が制御器3に入力されてデータベースとして制御器3に逐次保存(記憶)されるという点で上述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
【0040】
本実施形態に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置によれば、スピンドルトルクが増大し、それに伴って変節装置に供給される作動油の圧力も増大して、その圧力が、変節油ポンプで作り出すことのできる圧力を超えてしまい、プロペラ羽根の翼角を変えることができなってしまったときの情報(データ)、すなわち、その時の船速、回転数、翼角、喫水、積載量等を制御器3に保存しておき、再び同じ状況が起きた場合には、制御器3が主機Eの遠隔操縦装置20に回転数信号(制御信号)を出力し、主機Eの回転数がその時の回転数よりも、例えば、5%減少させられるようになっている。
これにより、変節装置に供給される作動油の圧力は、常に閾値以下に保たれることとなるので、プロペラ羽根の翼角を必要に応じていつでも自由に変更することができる。
【0041】
また、上述した実施形態に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置を装備した船舶(すなわち、可変ピッチプロペラ船)によれば、変節装置に供給される作動油の圧力は、常に閾値以下に保たれ、プロペラ羽根の翼角を必要に応じていつでも自由に変更することができるので、速力の増減速を速やかに行うことができ、船舶をより安全に運航することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1実施形態に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置の概略全体構成図である。
【図2】スピンドルトルク、翼角、および船速との関係を示すグラフであって、(a)は主機の回転数がN1のとき、(b)は主機の回転数がN2(例えば、N1×0.95)のときのグラフである。
【図3】本発明の第2実施形態に係る可変ピッチプロペラ船の推進制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0043】
1 可変ピッチプロペラ船の推進制御装置
2 可変ピッチプロペラ
3 制御器
18 回転計
19 圧力計
E 主機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変ピッチプロペラを装備した可変ピッチプロペラ船の推進制御装置であって、
主機の回転数を検出する回転計からの回転数信号と、前記可変ピッチプロペラの翼角を変更するのに用いられる作動油の圧力を検出する圧力計からの圧力信号とが入力され、前記圧力計で検出された前記作動油の圧力が閾値を超えた場合には、前記主機の回転数を、その時の回転数よりも減少させる制御器を備えていることを特徴とする可変ピッチプロペラ船の推進制御装置。
【請求項2】
可変ピッチプロペラを装備した可変ピッチプロペラ船の推進制御装置であって、
主機の回転数を検出する回転計からの回転数信号と、船速信号とが入力されるようになっているとともに、船速、前記主機の回転数、および前記可変ピッチプロペラの翼角を変化させたときのスピンドルトルクがデータベースとして予め保存された制御器を備えていることを特徴とする可変ピッチプロペラ船の推進制御装置。
【請求項3】
可変ピッチプロペラを装備した可変ピッチプロペラ船の推進制御装置であって、
主機の回転数を検出する回転計からの回転数信号と、前記可変ピッチプロペラの翼角を変更するのに用いられる作動油の圧力を検出する圧力計からの圧力信号と、船速信号とが入力されるようになっているとともに、前記翼角、前記可変ピッチプロペラ船の喫水、積載量がモニターされ、これらの情報が入力され、かつ、これらの情報をデータベースとして逐次保存する制御器を備えていることを特徴とする可変ピッチプロペラ船の推進制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の可変ピッチプロペラ船の推進制御装置を具備してなることを特徴とする船舶。
【請求項5】
可変ピッチプロペラを装備した可変ピッチプロペラ船の推進制御方法であって、
前記可変ピッチプロペラの翼角を変更するのに用いられる作動油の圧力が閾値を超えた場合には、前記主機の回転数を、その時の回転数よりも減少させることを特徴とする可変ピッチプロペラ船の推進制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−105437(P2010−105437A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277125(P2008−277125)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)